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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Prologue-0.3 恋の戦い

これは俺がこの家に来て一年たった頃のこと。

「トラ婆!トラ婆!大変!」

あれは雪が降る夜だった。

買い物からようやく帰ってきたモナが抱えていたのは、
今夜の夕食の材料ではなく、
1人の少年だった。

俺より少し年上くらい。

そいつは今にも死にそうなくらい青白い顔をしていて、
意識がなかった。

初めて死体を見た、と勝手に勘違いをしたくらいだ。

「こりゃ大変だ!モナ、お医者さんを呼んできておくれ!マーシャはこやつをソファに運びな!チビどもは自分たちの部屋にいなさい!」

トラ婆の指示に、
各自慌ただしく動き出した。

俺はモナから少年を受け取り、
大きなソファまで運ぶ。

「よいしょっと。」

少年の体は異常なくらい軽く、
痩せ細っていた。

ソファに横たえて顔を覗き込むと、
苦しそうな声を上げていた。

男のクセに、肩にかかるくらいの銀髪で、
顔もなかなか整っていて一瞬女かと思ったが、
案外体はゴツゴツしていたから男だと認識できた。

「これマーシャ!ぼさっとしてないで毛布持ってきな!」

「お、おう。」


少年は栄養失調と凍傷であると診断された。

薬を飲ませて安静にしていれば治るという。

数日たつと、
モナとトラ婆のおかげで、
少年の体調はみるみる回復していった。

もちろん俺のおかげでもある。

毛布を貸してやったんだから。

少年が目を覚ましたのはモナが拾ってきてから5日たってからだ。

しかも盛大に声を上げて。

『ああああああああああ!』

朝方、まだみんなが寝ていた時だった。

全員ビックリして起きてくると、
リビングのソファには起き上がった少年がいた。

「朝からうっせぇよ!」

俺が罵倒を浴びせると、
後ろからトラ婆のゲンコツが飛んできた。

「これ!病人には優しくせんかい!」

そう言ってトラ婆は少年に近寄った。

さらに後からモナもやってきて、
心配そうに少年に駆け寄っていく。

「大丈夫?」

『あ・・・すみません。あんな声出しちゃって。まさか生きてるなんて思わなくて・・・』

少年はまだ生きてるのが信じられないのか、
掌をじっと見つめている。

「でも生きててよかったぁぁ・・!」

モナは心底嬉しそうに言うと、
少年をギューっと抱きしめたのだ。

信じられない・・・この俺でも抱きしめられたことないのに!

しかも抱きつかれたことに少年は少し不快そうな顔をしていた。

なんてやつだ!

もっとありがたく思えよ!

この時から、
こいつのことが大キライだった。



コイツの名前はダン。

モナと同じで13歳。

銀髪で
瞳が俺と同じで黄色い。

背も俺より高くてムカつく。

けど筋肉は俺の方が上だな!
俺は体質的に筋肉マッチョにはなれないみたいだけど。

話を聞けば、コイツは親から逃げてきたとか。

どこの貴族だか知らないが、跡取り息子だというから驚いたものだ。

しかも、もう家に戻る気はないという。

俺と似ている・・・

『もし良ければ、俺をここに置いてくれませんか。お願いします。』

トラ婆は来るもの拒まずだから、
コイツがここに住まわせてくれと頼んだ時には迷わずOKをだした。

反対したのは俺だけ。

「ぜってぇぇヤダ!」

「えーなんで?」

モナもトラ婆と同じで、
コイツが住むことに大賛成だった。

それがますますムカつく。

「だってコイツと部屋同じになるんだろ!?」

「ワガママはよさんかいマーシャ。」

「ワガママなんかじゃない!」

別に部屋が一緒なのは構わない。

何が嫌だって、心配なんだよ。

モナを取られるんじゃないかって。

まぁ俺が騒いだところで何も変わらない。
思った以上にダンの意思は強いし。

結局、ダンもこの寄せ集め家族の一員となった。

しかも俺とダンは同じ部屋。

口なんか絶対きいてやるものか。

だから俺はアイツよりも先にベッドに入って、
狸寝入りを決め込んだんだ。

今日一日、ダンも特に話しかけてはこなかったし。

多分、俺が嫌ってるってことに気がついているからだろう。




次の日。
朝起きたらもうダンの姿はなかった。

どうやら朝ごはんを食べて早々に出かけたらしい。

何をしにいったかはわからない。

「アイツ何考えてるかわからないよな。無表情で無口だし。」

皿洗いをするモナを眺めながら、
ボソッと呟く。

「そうかな。昨日の夜とか結構話したけど、案外面白いわよ。クールだけどね。マーシャも話してみなよ。」

モナとラブラブしてたのかよ!

誰が話してやるもんか!

「でも、どこに出かけたんだろう・・・まだ病み上がりなのに。心配よね。」

ああホントにムカつく野郎だ!

こんだけモナに心配かけやがって!

「あんなの放っておけばいいさ!男だし大丈夫だろ!」

とにかくダンは癇に障るヤツだ。

でもモナは強くて頼りがいがある男が好きなんだ!

あんなひょろひょろしたヤツなんて目でもないね!

「俺、筋トレしてくる!」

「はいはーい。気をつけてね!」

「おう!」





その後一週間がたっても、
ダンはほとんど家にはいなかった。

学校に行っている様子はない。

俺たちが学校に行くより先に出て、寝る前に帰ってくる。

そんな生活が続いていた。

しかも、だ。

ここへ来た当初は女並みにやせ細っていたのに、
たった一週間で俺よりも筋肉マッチョになっていた。

細いのに力強さがある感じ。

まさに俺が目指していた体型だ。

チビどもは"カッコいい!"と騒ぎまくっていたが、
俺の機嫌は悪くなる一方だよ!

だってどういうことだ!?

なんでこんな短期間に!!

家にいない間に何か変な薬とか飲んで筋肉増進させたんじゃないのか!?

さすがにトラ婆も心配だったのか、
こっそりダンに話をしていた。

「お前さん・・・昼間何をやってるんだい。」

『まだお話はできません。』

「まさか変なことやってるんじゃないだろうね。」

『心配かけてすみません。でも大丈夫ですから。あの、あと3日たったらお話するんで。』

あと3日?

こいつは何かやってるに違いない。

「わかったよ。ただ、あんまり遅くならないようにねぇ。というかダン、あんたえらい見違えたね。こんなに男らしくなって。」

『ははっ!実は俺、元はこうだったんですよ。ここに来るまで飲まず食わずでしたので。ようやく元に戻った感じですね。助けてくださって本当にありがとうございます。』

笑った所を初めて見た。

結構かっこいいじゃん。

しかも案外礼儀正しい・・・
って感心してる場合じゃねぇ!!

こいつは何か企んでいる!



次の日、
俺は学校をサボってダンを尾行した。

頑張って早起きして。

1時間くらい歩いて、
ようやくたどり着いたのはデッカい畑だった。

ダンは荷物をおろし、
冬なのにTシャツ一枚になっている。

何考えてんだと思わずツッコミたくなる。

しばらくすると、
年寄り数人がやってきて、
ダンと共に畑仕事を始めだした。

なんだ。

畑仕事してただけか。

これならあの筋肉も納得いく。

でもなんで、
学校行かないで働いてるんだ。

やっぱり何か企んで・・・

『マーシャか?』

「うわっ!」

いつの間にか目の前にはダンがいた。

バレた・・・!

「いや、その、別にお前に興味があったわけじゃないからな!!」

自分は一体何を言ってるんだ。

走って逃げ出してしまえばよかったのに。

『ちょうどよかったマーシャ。少し話をしないか?』

予想外の言葉に俺はポカンと口を開けてしまう。

というか完全に捕まってしまった。

コイツなんかと話することなんてない!

だけど・・・悪いヤツじゃないかも、とか思ったりして。

俺が黙ってうなずくと、
ダンは小さく笑った。

『よかった。断られるかと思った。ちょっと待ってて。』

そう言ってダンは老人たちの元へ行き、何か一言二言告げるとこちらへ戻ってきた。

その時、
老人の1人が
「可愛い弟さんだねぇ」
と言ったことに、
俺は「弟じゃねぇし!!」
と反撃して笑われたのを覚えている。

少し歩いた所に段差があって、
2人でそこに腰をおろした。

しばらく無言が続いたが、
ダンが先に口を開いた。

『よくここがわかったな。』

「家からずっとついてきた。」

『学校サボったのか?』

「お前だって行ってねぇじゃん!」

『俺はもう行かなくていいんだよ。』

この国の決まりで、
7歳から12歳までは義務的に学校へ行かなければならないが、
それ以降は本人の自由となっている。

モナはちゃんと通っている。

『俺、仕事探してたんだ。』

「なんで?だってあそこにいれば大丈夫じゃん。」

『そうかな。トラ婆は寄付で生活してるけど、いつまでもつかわからない。だから少しでも力になりたいんだ。』

たった二歳差なのに、
すごく大人に感じた。

どれだけ自分が子供だったかが恥ずかしいくらい今ならよくわかる。

『昨日から畑仕事を手伝ってるんだ。うまくいけば雇ってもらえるかもしれない。それが3日後にわかる。だからちゃんと仕事が決まったら話そうと思ってた。』

「ふーん・・・」

なんだよ・・・カッコいいじゃん


すげぇムカつくけどカッコいいじゃん!!

それに、冷たそうな印象があったが、
どこか温かさを感じる。

モナが言っていたことが少しわかった気がする。

『今トラ婆に言って期待させて、もしダメだった時にガッカリさせたくないんだ。だから、このことは秘密にしておいて欲しい。』

ホントは言いふらしてやるつもりだった。

でも、そんな気分じゃなくなった。

なんでだろう、わかんねぇよ。

「わ、わかったよ・・・黙ってりゃいいんだろ!」

『ありがとう。俺、マーシャと話ができて嬉しいよ。』

「なんで?」

『なんだか弟みたいで。』

弟?!

はっ、誰がお前なんかの!!

「はぁ!?俺は弟じゃねぇ!」

『そんなこと言うなよ。あ、最近筋トレやってるんだって?』

「だからどうした!」

『筋肉つけたいならこれ使いな。』

「うわぁ!」

唐突に話をふられて
さらに無理矢理渡されたのが、
大きなスコップだった。

「重たッ!!」

あまりの重さに落としそうになる。

『毎日それ使って家の周りの地面耕してれば、あっという間に筋肉つくぞ。』

「ホントか!」

結局俺は単純なんだ。

嬉しさに思わず目を輝かせてしまう。

『ああ。ついでに耕した場所に花でも植えたらトラ婆とモナも喜ぶだろ。頑張ってな。』

ポンと背中を叩かれ、
行き場のない気持ちが溢れ出す。

ホントはすごく嬉しかったんだ。

本当の"兄貴"みたいで。

"弟"って言われて、まんざらでもなかったくせに・・・
俺ってなんて意地っ張りなんだろう。

「あ、ありがとう。」

『おう。じゃあ俺はそろそろ戻る。あと、これ持って帰りな。』

そう言って渡されたのが、
野菜がたくさん詰まった袋だった。

いたせりつくせりとはまさにコレだ。

「いいの!?」

『もちろん。"優しいお兄さんからもらった"って言えば学校サボったのも許してもらえるかもな。』

あー・・もう、
嬉しくて仕方ない。

「誰が優しいお兄さんだよ!」

『ははっ!それじゃあ、気をつけて帰るんだぞ。』

ダンは俺の頭をクシャっと撫でて、元来た道を戻り出した。

気がつけば俺は咄嗟に、
ダンを呼び止めていたんだ。

「ダン!」

『?』

「こ、今度の休みの日、筋トレ付き合え!!」

何でこんな偉そうな言い方しかできないのか。

・・・俺は照れ屋なんだよ。

『ああ!約束!』

ダンが満面の笑みを向けて来たせいで、
俺の中でのダンの位置づけが完全に変わってしまった。

俺は真っ赤になった顔を隠して、
全力で駆け出した。




それから、
ダンは無事仕事に就いた。

休みの日は他のガキたちの面倒をみて、
俺の筋トレにも付き合ってくれた。

あと、
夜寝る前になると、
皆には内緒で色んな魔法も教えてくれた。

おかげで俺の魔法の特徴とか、
相性がいいモノがナイフだということも分かったんだ。

大好きだった。

俺が求めていた"兄貴"。

モナもいてダンもいて。

俺は幸せだった。

確かに、"シアワセ"だった。



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