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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Prologue-0.2 夢見る少年の戦い
バァさんの名前は"トラ婆"。

俺の母親の母親。
バァちゃんってやつ。

今まで絶縁状態だったらしいが、
俺が生きていると聞き、
わざわざ引き取りにやってきたらしい。

トラ婆は都心からは離れた
少し錆びれた町に住んでいた。

「トラ婆は金持ちじゃねぇの?」

「金持ちじゃないけどね、家はデカイよ?たくさんの"子持ち"だしねぇ。」

「はぁ?」

「まぁ行けばわかるさ。」

なんだか嫌な予感はしていたんだ。

この歳でたくさんの子持ちだぞ?

家はデカくて、しかもこの町は、大魔帝国で1番汚くて貧しい町、ラグのすぐ横だ。

ってことは、
考えられるのは1つしかない。



「ほらなやっぱり・・・」

そう、トラ婆は孤児院をやっていたんだ。

隣町のラグには孤児がたくさんいる。

そんな奴らを預かってきているのだろう。

俺もその1人ってやつか。

家の中には俺より小さい奴らがたくさんいる。

ギャーギャーピーピー騒ぎ出して、
一気に頭が痛くなる。

「ほれ、新しい兄ちゃんのマーシャだよ。」

「兄ちゃんじゃねぇぇ!」

俺はただのマーシャだ!
と叫べば、
機械のように子供たちも
マーシャだ!と連呼しだした。

あーイライラする。

ガキなんて大嫌いだ!


「おかえりなさい。トラ婆。」

その時、
背後から女の声が聞こえてきた。

うざったいガキの声なんかとは大違い。

落ち着いていて、
透き通った綺麗な声。

思わず振り返ってしまうほどに。

目が合った。

彼女は俺より少し背が高くて、
肌が透き通る様に白い。

少し長い髪を綺麗に上で結わえている。

何よりも惹かれたのが
彼女の瞳。

魔族で数少ない、漆黒の瞳だ。

ああ、なんて美しいんだろうと、
見入ってしまうくらい、
俺は一瞬で虜になった。

「あれ?この子がトラ婆の孫っていう子?」

「うむ。仲ようしてやっとくれ。ほれ、マーシャ挨拶せんかい。」

力強く前に押し出され、
さらに距離が縮まる。

「ま・・・マーシャだ。よろしく・・・」

「私はモナ!よろしくね、マーシャ!」

手を握られ、
顔が焼け落ちるんじゃないかってくらい熱くなった。

今思えば、それくらい美人だったんだよ。

「部屋に案内するからついてきてっ。」

「あ、うん。」

手を引かれるままに
マーシャはモナの後ろをついていく。

「マーシャは何歳?」

「10歳。モナは?」

「私は12歳よ。じゃあ私の方がお姉ちゃんだね!」

お姉ちゃんか、
悪くない。

今まで育った環境では男ばかりだったからなんだか新鮮だ。

ここの生活も、案外イイかもな。とか思ったりして。

俺もなかなか単純である。

案内されたのは2人部屋。

ベッドが2つに長机が1つといたって何もない。

「もしかして相部屋!?」

「ううん、今はマーシャ1人よ。寂しい?」

「さ、寂しくなんかない!!むしろ1人で清々する!」

これは本音。

いきなり知らないやつと同室なんて俺は嫌だね。

でもモナは"今は"と言っていた。

ということはいつかは誰かがくるってことだ。

「それまでに絶対自立してやる!」

「ふふっ!マーシャは早く一人立ちがしたいのね。」

「なんだよ、おかしいかよ。」

「ううん、ただ・・・寂しくなるなって。」

その時の彼女の表情は今でも覚えている。

この時、
初めて思ったんだ。

"彼女を守ってやりたい"と。

これが俺の、
最初で最後の恋だったのかもしれない。










ここでの生活は悪いものじゃなかった。

ガキたちも何だかんだ言うこと聞くし。

トラ婆もちゃんと俺を見てくれてる。

1人の"人間"として。

それに、
なんと言ってもモナだ。

気はきくし優しいし
笑顔が最高だ。

モナは俺のことをよくわかってくれてる。

心配だってしてくれる。

こんなに安心できる相手は初めてだ。

半年が過ぎた頃には、
俺は完全に惚れていた。

「モナ、何してんの。」

「今晩の夕食の下ごしらえ。」

「俺もやる。」

「ホントに?今日は出かけないんだ。イタズラしに。」

「俺最近ちゃんとしてるじゃん!」

イタズラをする回数は徐々に減りつつある。

だって、そんな暇があるならモナの近くにいたい。

半年前の俺が見たら顎が外れるくらい驚くだろうな。

「そうだね。ふふっ!」

「何がおかしいんだよ。」

「違うの、マーシャ。嬉しくって。私ね、今のマーシャが好きよ。」

「なっ・・・!!」

"好き"の意味が違うことくらいわかってる。

それでも浮かれるだろ、そんなこと言われたらよ。

「そ、そんなこと軽々しく言うな!」

「へ?なにが。」

「な・・・んでもねぇよ。」

俺は単純だ。

だから、
この日をさかいに俺はイタズラをやめたんだ。

そんな俺が好きだって言うから。

やめないわけないだろ。



そういえば、モナはなぜこの家に居るのだろう。

他の子供たちは大体捨てられたか、
俺みたいに両親が亡くなったかのどちらかだ。

きっとモナもその類いだろう。

あえて聞くのは野暮ってもんだよな!

俺は常にモナの前ではイイ男でいたいんだ。

「どうしたのマーシャ。」

「なんでもねぇ!」

「ふふっ、変なの。」

この空気が好きだった。

温かくて、
心地いい。

ずっとこのままでいい。

そう思わせるくらい、
この新しい"家族"というものを気に入ってしまった。

そして何よりも、
彼女が好きだった。

モナには"家族"という関係を求めていない。

それ以上の関係を望んでいる。

今まで考えもしなかった"幸せな家庭"。

今じゃ夢見ている。

子供はなぁ....いらないかな。

あんま好きじゃないし。

モナさえいればいい。

モナと一緒に時間共有して年取って。

最後は幸せだったねって笑い合いたい。

気持ち悪いって思われるかもしれないけど、
俺は本気なんだ。

「なぁ、モナはどんな男が好き?」

「うーん、そうだなぁ。強くて頼りがいがある人かなぁ。」

強くて頼りがいがある・・・

ダメだこのままじゃ。

強くならなければ。

強く!

それから俺は筋トレをはじめた。

あと背を伸ばすために色々やった。

できれば180cmは欲しい。

今は155cmなんだけど。

「最近マーシャ頑張ってるね。どうしたの?」

モナに褒められればヤル気も倍増するってもんだ。

「男を極めてるんだ!邪魔すんなよー」

「ふふっ!はいはい!」

一ヶ月くらいで結構筋肉ついたんじゃないかな。
ってトラ婆に言ったら、
元が細いからわからないと言われたから、今度は飯も多く取るようにした。

大好物は、モナが作るオムライス。

これがまた美味いんだ。

「おいしー!おかわり!」

「マーシャはオムライスが好きね。飽きないの?」

「全ッ然。」

「じゃあ今度マーシャにも教えてあげるわ。」

幸せだった。

この空間が。

空気が。

このままいけば、
俺の夢見る幸せな家庭も現実になるかも。

なぁんて甘い考えを持ったのが悪かった。

嵐は突然やってくるってもんなんだ・・・




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あきゅろす。
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