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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Prologue-0.1 "自由"への戦い





生まれた国は大魔帝国。
父親と母親は貴族。
あとは兄が2人いる。
2人とも俺とは大分年が離れていた。
確か1番上の兄さんとは13歳差、
真ん中の兄さんとは10歳差だった。
2人とも俺と違って大人びていた。
そりゃ、俺が学校に通い始める頃には2人とも立派に自立していたし。
2人とも大魔帝国内で1番有名な名門校を卒業している。
それから長男は名門である母校の教員となり、
次男は王宮財務室で働いている。
それに比べて俺ときたら、特筆することは何もない。
まだ8歳だからと周りの奴らは言う。
それでも、俺は兄達と比べてしまう。


"マーシャ"という名前は本名じゃない。
本名は"クレイ"
大魔帝国を立ち上げた英雄の名前だ。
こんなに恥ずかしい名前はない。
名前負けの代表例だ。

好きなことは人の上に立つこと。
未だに達成した事はない。
嫌いなことは親切。
親切なんて死んでもしてやるものか。

そして何より嫌いなモノが
"家族"だ。

父親も母親も兄さんたちも、
大嫌いだ。

父親の仕事はファッションデザイナーで、会社を立ち上げた。母親は父親が立ち上げた会社が出す雑誌の専属モデル。

色んな意味で両親は有名だった。

そんな両親の自慢は
頭脳明晰容姿端麗の兄たち。
世間の目を気にして、
わざわざ家庭教師までつけさせて名門校に入学させた。

本当はどちらかに父親の仕事を継いでもらいたかった様だが、
どちらの兄もそれを望んでいなかった。

それで生まれたのが俺。

跡継ぎとして生まれさせられた俺。

もちろん、そんな親の敷いたレールの上を走るわけもなく。

生まれた時はまだよかった。
こんな俺でも可愛いとちやほやされ、
純粋無垢に育つはずだった。

5歳までは。

5歳の誕生日に貰ったのは、
今まで父親が出版してきたファッション雑誌の山。

ここでようやくおかしいと気がついた。

"お前は立派なデザイナーになれよ"
"クレイなら大丈夫、信じてるわ。"
"兄さんたちを見返してやれ"
"私たちの喜びは、あなたが立派なデザイナーになることよ。他はいらない。"

何かが音を立てて崩れ始めた。

コイツらは俺を愛していない。

そのことに気づいてしまったんだ。

この頃から脱線が始まり、
7歳になった時にはもう後戻りができない程に、俺は全く違う道を歩んでいた。

父親が雇った美術の家庭教師が来ても逃げ回り、
朝早くから夜遅くまで外でイタズラばかりした。

イタズラをして、
親を困らせたかった。
俺を知って欲しかった。

"俺はあんたたちの人形じゃない。"と。

結果、
7歳にして、ようやく両親が諦めた。

諦めたというより、
俺を見捨てた。

まさに目の上のたんこぶだ。

"あの子を生んで失敗だったな"

何度も聞いた言葉。
別に傷付いたりはしない。
だってこれは俺が望んで、
自らやったことだから。

一方、兄たちは両親とは違い、
俺の将来を真剣に心配してくれていた。

"クレイは何になりたい?"
"お前には好きなように生きていって欲しい。"
"父さんや母さんの言うことなんて聞かなくていい。"
"別に名門校なんかに無理に行かなくていいんだよ。"
"クレイに合う学校に行きなさい。"

今思えば、本当に良き理解者だった。
でもあの頃の俺には、
そんな兄たちがただ恨めしかった。

だって所詮は他人事。
俺にこんな事が言えても、
父さんや母さんには何も言えない。

両親の前じゃ頷くことしかできない操り人形。

こんな家族が、本当に"家族"だとは思えない。
思いたくもなかった。


そんな最悪な家族とも、
すぐにお別れとなる。


それは俺が10歳の時。
悪ふざけがエスカレートしていき、
夜になると家を抜け出し、イタズラ仲間達と町で色々な悪さをしでかしていた。

といっても、
子供がやるようなかわいいイタズラだ。
犯罪は犯さないのがモットー。

そして、その夜はただの夜ではなかった。

父親の誕生日だ。
もちろん大々的にバースデーパーティーがひらかれ、
有名なアーティストたちが勢ぞろい。

仲間達は口を揃えて"羨ましい"と言うが、
参加なんて絶対してやらない。
両親もそれを望んでいる。

だからその日も、俺は仲間と遊んでいた。

今でも俺は、この時のことを思い出すたびに、正しい選択をしたと思う。

だって、もしあのバースデーパーティーに行っていたら、
俺は死んでいたのだから。

このバースデーパーティーは、
死者300人を出す大事故となった。

いや、事故じゃない。

事件だ。

いわゆる大量殺人事件。

父親の会社をよく思っていない奴らがいて、
そいつらがバースデーパーティーの会場全体に爆発の魔方陣を敷いていたらしい。

誰も気付かなかったなんて。

馬鹿ばかりだ。


この事件で、
父親と母親はもちろん、
兄たちも死んだ。

悲しくなんてない。

むしろこうなる事を、
心のどこかで望んでいたのかもしれない。

ああ、これで自由になれる。

ようやく俺は"勝利"と"自由"を手に入れた。

葬式はしめやかに行われた。

誰もが俺を憐れみ、
酷い奴じゃ、モデルだった母親に似た俺を買い取ろうとする変態ジジィもいた。

モデルの息子となれば、
そういう扱いも少なくなかった。

俺はもう縛られない。

自由に生きるんだ!

けれど、俺は知らなかった。

俺は自由を手にしたつもりでいたのに。

まさか、
この俺に"親戚"がいたなんて。


「お前かい?クレイって悪ガキは。」

葬式の後、
知らないババアに話しかけられた。

ババアと言ったが、
これはババアにババアを足したバァさんだ。

白髪のパンチパーマにイカつい顔。

いかにもガミガミバァさんといった感じだ。

「誰だよ、てめぇ。」

「ホント失礼な奴だね。今わたしゃアンタに質問してんだ。余計な事はいいんだよ。クレイかそうじゃないか、どうなんだい?」

なんだこのバァさん。
うぜぇ。

「そうだけど、なに?」

「そうかい。じゃあ行くよ。」

「はぁ!?」

いきなり腕をつかまれ、
無理矢理連れて行かれる。

「はぁなぁせぇぇぇ!!」

「元気そうでなにより。」

「クソババァァァァ!!」

半ば強引に引きずられながら式場から連れ出された。

さっきまで哀れんでいた周りの目も、
一気に軽蔑の目に変わっている。

「はぁ。いい子だっていうから引き取りに来たのにねぇ。とんだ暴れ馬だよ。」

「だったら今すぐ俺を置いてけ!!つーか引き取るってどーゆーことだ!!」

かなり引きずられて身体中泥だらけになっている。

都心からだいぶ離れた所で、
ようやくバァさんは手を離した。

「わたしゃお前のばあちゃんだよ。」

「俺のってどーゆーことだよ。俺はこんなウゼェバァさんなんて拾った覚えないぞ!?」

「アンタ・・・見た目以上に馬鹿なんだね。」

「んだとぉぉ!」

「わたしゃアンタの母親の母親なんだよ。わかるかい?アンタはワタシの孫なんだよ。」

孫、と言われてもよくわからなかった。

そもそも、
俺の中に"孫"という概念が無かったからだ。

「よくわかんねぇけど・・・アンタ、俺をどうするつもりだ。」

「どうするもこうするも、連れて帰るよ。お前はこれからワタシらと一緒に暮らすんだ。」

「なんでそうなるんだよ!」

「なんでって、アンタ1人じゃないかい。放っといたらのたれ死ぬか人身売買されるか変態ジジィのオモチャになるかの三択だ。アンタ、それでもいいんかい。」

考えもしなかった。

自由にはリスクがあるなんて。

俺は無力だ。
生きてゆくすべをしらない。
初めて実感した。

「自由に・・・なりたかったんだ。」

どうすれば、自由になれるのか。
どうすれば、淋しくないか。
どうすれば、愛されるのか。

サッパリわからない。

「あーあー泣くんじゃないよ。」

「泣いてないやい!!」

目が真っ赤になるまでゴシゴシ擦る。

キッとバァさんを睨みつけると、
バァさんはゲラゲラと笑だしたのだ。

思わずポカンとしてしまう。

「アンタ、そっくりだねぇ。」

「は?」

「娘に、アンタの母ちゃんにだよ。」

「はぁぁ?一緒にすんな!あんな奴と!」

「仕方ないだろ。血がつながってるんだから。アンタ本当にキライなんだねぇ。」

「そりゃそうだ!アイツらは自分たちの名誉と財産の為だけに俺を産んだんだ!愛なんてない!存在したことなんてない!てめぇに何がわかるってんだッ・・・!!」

どうせ、
このバァさんだって仕方なく俺を引き取るんだ。

世間体を気にして。

いざとなれば俺を売れば金になる。

所詮、
人間なんて見返りがなきゃ動かない。

本当の"親切"なんて存在しないんだ。

"親切"、"同情"、"善意"。

くだらない ・・・!!

「俺は別に1人でいい。死のうが売られようがてめぇには関係ない。だから」

俺が背中を向けた瞬間、
後ろから腕が回って来た。

そのまま、
ギュッと抱きしめられたのだ。

びっくりして、
声がでない。

だって、
人生で初めて
抱きしめられたから。

「アンタ・・・寂しかったんだねぇ・・・辛かったんだねぇ」

バァさんのすすり泣く声が聞こえる。

バァさんの腕の中はあったかくて、
不思議な気分になる。

「ごめんよぉクレイ・・・幼いアンタにこんな思いさせて」

「なんで・・・なんでてめぇが謝るんだよ・・・・・・」

「そりゃあ、ワタシがあんたの"ばぁちゃん"だからさ」

バァさんは俺から離れると、
俺を真っ直ぐに見据えた。

「アンタ、そんなに自由になりたいなら、3年でいいからワタシの家にきな。3年で、アンタに1人でも生きていける術を教えてやる。ただし、条件がある。」

「条件?」

「そう。ワタシとアンタは今日から"家族"だ。ワタシの言うことは聞いてもらう。その代わり、アンタの言うことも聞いてやる。それが"家族"ってもんだ。」

"家族"

今まで、
散々毛嫌いしてきたものだ。

でも、このバァさんなら、
教えてくれるかもしれない。

本当の"家族"ってものを。

本当の"愛"を。

俺はただ知りたかったんだ。

「わかった・・・でも約束だからな!3年たったら俺は出てくからな!!」

「ああいいよ。アンタには出ていきたくないって思わせてやるくらい家族の良さを教えてやる!」

「上等じゃねぇか!」

こうして俺は、
このうるさいバァさんと一緒に生活することになった。

「ああそうだ。今日からアンタの名前は"マーシャ"だよ。」

突然何を言い出すのかと思った。

「"マーシャ"?それ、なんかの英雄の名前じゃないよな。」

「まさか。なんのために名前変えると思ってんだい。アンタのその"クレイ"って名前、なんていうかねぇ・・・重い!そう重いねぇ!だから、今日から"マーシャ"だよ。マーシャっていうのは特に意味はない。造語ってやつだ。」

「バァさんが作ったのか?」

「そうさ。いい名前だろ?この名前はお前が初めてなんだ。だからお前は何にも気にしないで自由に生きればいいさ。」

少し、肩の荷が下りた気がした。

"クレイ"という名の使命感から
ようやく解放されたのだ。

「"マーシャ"か・・・」

「気に入ったかい?」

「うん・・・あり、ありがとう・・」

恥ずかしかったが、
どうしても伝えたかった。

「アンタからお礼を言われると気持ちが悪いねぇ。」

「んだとクソババァァァ!」

こうして、俺の"自由を手にするための戦い"の火蓋が切って落とされた。

俺の人生は、確実に明るい方に向かっていた。

そのハズだった。




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