[携帯モード] [URL送信]

【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story115 マーシャの心


あーあ。


俺としたことが。


こんな時に体調崩すなんて。


リオナの試合、最後まで見れなかったじゃないか。


リオナ、早く帰ってこないかな。


まぁ俺がゆっくりしてこいってシキに伝えてもらったんだけど!


それでも、
走って帰ってきて欲しかったかもぉとか思っちゃったりして。


そんな事を思いながら、
マーシャはベッドに横になっていた。


シキに無理矢理帰らされた挙句、今はDr.デヴィスの手厚い看護が施されている最中。



不貞腐れたようにベッドに横になっていると、
Dr.デヴィスが思い切り注射針を腕に突き立ててきた。


「イッッタァァァァァ!!」


「男なら我慢だ。」


「本当に医者かよ!ヘッタクソ!」


「口縫ってやろうかコラ。」


上等じゃねぇかとマーシャは起き上がろうとするが、
デヴィスの片手で静止されてしまう。


なんだかイライラする。


ココロにもやもやが溜まったような。


きっと薬の副作用だ。


それより、こんな医者に片手で押さえつけられるなんて。


いや、
こんなに力が入らないなんて。


「ショックだろう?こんなオヤジ1人押しのけられないなんてな。」


図星を突かれて言葉もでない。


それでも、数パーセントの可能性を信じたい。


「ははっ、どうせ今打った薬のせいだろ?」


だって、それが人間だろ。


「5時間後覚えとけよヤブ医者。薬きれたら仕返ししてやるから。」


べーっと舌を見せると、
デヴィスは呆れたようにため息をついた。


それと同時に、
表情が歪んだのを見逃さなかった。


「マーシャ・・・もうわかってるだろ。」


「なにが。」


「お前のチカラが弱まってんのは、薬のせいじゃねぇーってことくらい、わかってるだろ。」


クソ・・・なんなんだこのムカつきは。


俺にはチカラがないってことか?


リオナを守れるだけの力がないってか?


「はぁ?わかんねぇ。」


「お前はもうガキじゃないだろ・・・。いい加減ちゃんと病気と向き合」
「わかんねぇよ・・・!!」


ガシャンッと無機質な音が鳴り響いた。


近くにあったマグカップが粉々に砕け散る。


自分でも、なんでこんなにイラついてるのかがサッパリわからない。


「マーシャ、何を焦ってる。何が不満だ。」


「そんなもん・・・わかんねぇよ」


「違うだろ。お前は自分で自分の首を締め付けてんだ。」


落ち着いたデヴィスの声音に、
なぜこんなに苛立っているのか、
自分自身呆れる。


そんなマーシャをみて、
デヴィスは苦笑しながらも、
タバコを2本取り出し1本をマーシャに手渡した。


「ほれ、吸いたいんだろ?」


「医者のくせに・・・」


「たまには良い薬になる。」


マーシャは少しためらいながらも、
気分を落ち着かせたい一心でタバコに火をつけた。


煙を吸い込み吐き出すと、
なんだか気分が晴れていく気がする。


「今日のおかげでリオナはモテモテだな。」


「ふん・・・知るか。」


「さっきむさ苦しい男どもにベタベタ触られてたな。」


「うっせぇ!」


この医者は俺をイラつかせたいのか!?


マーシャは一気にタバコを1本吸い込み、
デヴィスからもう1本奪い取った。


「そんなに嫌なら、なんでリオナを雪合戦なんかに参加させたんだ。」


突然何を言い出すのかと、
マーシャは訝しげにデヴィスを見る。


「なんでって、それがリオナの為だからだ。俺が死んでも、リオナが1人にならないようにだな・・・」


言いかけて、途中で気がついた。


ああ、
俺は、
悔しかったんだ。


リオナは俺のモノなのに。


俺だけのリオナなのに。


どいつもこいつもリオナリオナって・・・


でも、そう仕向けたのは"自分"なんだ。


"俺"なんだ・・・


自分で仕向けといて、
こんなに後悔するなんて。


誰にも譲りたくない、
リオナには俺だけをみていて欲しい。


でも、俺にはその"チカラ"がない。


悔しい。


こんな腫瘍さえなければ、
リオナを守れるのに。


他の奴らなんかに指一本触れさせないのに。


「仕方ないだろマーシャ。でも、お前は正しいことをしたんだ。偉いじゃないか、ちゃんとリオナを想って。だから後悔なんてするもんじゃない。」


「わかってる・・・わかってるけど」


どうしようもないんだ。


頭ではいつかはくるであろうリオナとの"別れ"を覚悟している。


だからリオナが1人にならないように、
今回参加させたんだ。


けれど、
"心"が伴わなかった。


"心"は、
リオナを独り占めすることを望んでる。


そんなの、
ただのワガママなのに。


「リオナは・・・本当に、俺のこと好きなのかな。」


「俺はしらねぇよ。」

「今日のリオナはすごい輝いてた。別に俺がいなくても、案外平気なんだな。なんだか・・・」


思わず深いため息をついてしまう。


「・・・はぁ」


「・・・・・・少し、寝た方がいいかもしれない。」


するとDr.デヴィスは鞄の中から再び注射器を取り出した。


今度はそっと、腕に押し付けてくる。


「マーシャ、ヤキモチなんて子供が妬くものだ。大好きな子の為なら自分の体調くらい自分で管理して、自分の弱い所ちゃんと認めろ。堂々と元気な姿を見せてやるのが大人の男ってもんだ。違うか?」


全くその通りだ。


自分の悲運を嘆いて、
挙句ヤキモチ妬いて体調崩して。


「・・・情けねぇよな。」


タバコの火を消し、
灰皿に投げ入れる。


だんだんと眠気が襲ってくるのがわかる。


最後に打った薬が効きはじめたのだろう。


「これはマーシャが選んだ道だ。俺は何も言わない。だけどな、俺はお前の後悔する顔なんて見たくないんだ。医者として、仲間としてな。」


「ああ・・・」


「病気を受け入れろ。受け入れて、認めろ。お前は病人なんだ。こんな寒空の中、あんなデカイ声出してたらそりゃ体調悪くなるわな。お前は弱くなんかないんだから。強いんだろ?ダークホーム最強なんだろ?だったら変に捻くれた考えなんて捨てちまえ。特にリオナにとっては、お前は誰よりも最強で大切なんだからな。」


「それ・・・ホント?」


「お前の目は節穴か?リオナがお前を見る目は、他の奴らを見る時の目と全く違う。まぁ、これ以上はいわねぇ。癪だし自分で確認しな。」


デヴィスの人差し指がマーシャの額を突く。


その反動で、ボスッとベッドに倒れた。


瞼がゆっくり落ちてくる。


「ゆっくり寝ろ。そんで、次からは無茶するなよ。」


デヴィスが笑った顔が見えた。


でも最後に、
少しだけ悲しそうな顔もした。



たぶん"ダッド"と俺を重ねてるんだ。


俺の師匠であり、
デヴィスの大親友だった"ダッド"。


しかし彼は精神病で亡くなった。


デヴィスはダッドの病を治す為にエージェントを辞めて病気の勉強をして医者になったんだ。


必ず治すと言っていて、
結局無理だった。


きっと、
またダッドみたいにって俺を重ねてるんだ。


マーシャは僅かな意識で立ち去ろうとするデヴィスの腕をつかんだ。


デヴィスの顔が振り返る。


「・・・・・・心配すんなよ」


すでに瞼は閉じてしまったが、
最後の気力で言葉だけ続ける。


「俺は、死なない・・・だって、俺はデヴィスの世界一の看護を受けてるからな。だから、安心しろよ・・・今度からは、ちゃんと安静にしてるから。」


目をつむっていて見えないけれど、
デヴィスが笑った気がした。


そのまま、
俺は眠りに落ちる。


まだ胸にわだかまりが残るけど、
さっきよりは楽になれたかな。


リオナに言ったじゃないか。


俺を信じろと。


でも結局、
俺自身がリオナをちゃんと信用していなかったんだ。


リオナの中で、
俺は本当に一番なのかと。


それでも、不安なんだ。


安心できる"何か"が欲しい。


クラッピーの方がよくて、
目を覚ましたときに
"マーシャなんていらない"って言われたら・・・


そんなこと、
リオナは言わないってわかってるのに、
最悪だな・・・


ダメだ、
眠ろう。


だからデヴィスも薬を打ったんだ。


これ以上余計なことを考えるな。


だんだんと深い眠りに落ちていく。


"マーシャ"


この声は・・・


"風邪ひいちゃうよ?早く帰っておいでよ"


ああ、そうだ、懐かしい。


この声は、"彼女"の声。


"ふふっ!ねぇ、明日は何しよっか?"


なんでこんな夢・・・


見たくないのに。


思い出したくないのに。


少し、感傷的になったせいか。


"私ね・・・マーシャ"


もう"彼女"の声なんて聞きたくない。


聞きたくないのに、
求めてしまう。


もっと呼んで、
もっと俺を求めて。
俺しかいらないって言ってくれよ。


・・・愛してるって言えよ。


すると暗闇から手が伸びてきた。


すぐに分かった。


これは"彼女"の手だ。


俺は迷わず手を取ってしまった。


その瞬間、
暗闇の中に勢いよく引きずりこまれる。


この時、
頭のどこにも
"リオナ"という大切な存在が


なくなっていたんだ。

































大宴会は
ビットウィックスの音頭で始まった。


エージェントたちは酒をどんどん飲み干してゆき、
代わりにメイドたちが酒を持って走り回っている。


「もう!なんでこんなに飲むのよぉ!!」


メイドのコロナが不満そうにリオナたちの所に酒を持ってきた。


リオナはあまり飲んでいなかったが、
なんだか申し訳ない気分になる。


「・・・ごめんなコロナ。手伝おうか?」


「え、ちょ、いいのいいの!!気にしないでリオナくん!ゆっくりしてて!」


リオナのことは諦めると言っていたくせに、
不意をつかれて顔を真っ赤にさせている。


やはりまだ諦めきれないのか。


リオナ自身はコロナがどうしたのかさっぱりわかっていないが。


こういうことには鈍感だから。


「あ、俺が手伝うよ!」


するとリオナの向かい側に座っていたシュナが勢いよく立ち上がった。


「はぁ?アンタ酔っ払ってるのに?足でまといなんていらないわ。」


ハッキリと言い切るコロナに、
シュナはショックを隠しきれないようで。


しかしシュナも頑固だ。


コロナが持っている酒を半分奪い、
コロナの手を握った。


「酔ってない。手伝うよ。ね?」


頑ななシュナに呆れたのか、
ようやくコロナの許可が降りた。


しかしどうしたものか、
2人とも顔が真っ赤だ。


2人がいなくなると、
リオナは隣にいたナツに
「シュナのやつ、やっぱ酔っ払ってるのかな?」
と呟いた。


するとナツがまるで珍獣でも見るような異様な目を向けてくるものだから、
リオナは首をかしげた。


[お前、本当にわかんないのか?]


「・・・は?なにが?」


[いや、なんでもない。]


ナツは心底飽きれたとでも言いたげなため息をついた。


なんだか不満だ。


[そういえば、まだ黒ウサギの話してなかったよな。]


突然話が変わり、リオナは少しむせそうになった。


そうだ、今回参加した目的は
ナツからB.B.の情報を聞くためである。


[B.B.だっけ?あいつ、天上界に連れてかれて逃亡したって聞いたろ。あれ嘘だ。]


「・・・え?」


どういうことだ。


ビットウィックスが嘘をついたのか?


[言っとくけど、ビットウィックスは関係ない。あのヘッポコマスターは天上界の情報を赤の屋敷の悪魔たちから手に入れている。まぁ、直接天上界に行くのは面倒だからな。]


「・・・じゃあ、悪魔たちが嘘をついたのか?」


[そうじゃない。嘘をついたのはモリン=クィーガだ。お前にB.B.を天上界に連れてったって言って悪魔たちにはB.B.が勝手に逃げ出したとデマを流した。そもそもモリン=クィーガみたいな生身の人間が天上界に行けるはずがない。]


「・・・ということは、B.B.は」


リオナの顔色がどんどん悪くなっていく。


嫌な結末ばかりが頭をよぎる。


まさか、殺されて・・・


[しっかりしねぇか。余計なことは考えるな。きっとB.B.は生きてるはずだ。わざわざモリン=クィーガが嘘をついてまでアイツを殺すとは思えない。]


だとしたら、
一体どこに連れて行かれたんだ。


まだ嘘が現実であった方が状況がよかった・・・


「・・・そうだな。ありがとう、教えてくれて。」


[あんまり気負うなよ。お前も体調全快じゃねぇんだから。]


「・・・ああ。俺、先に部屋に戻る。」


リオナは早めに宴会をあとにした。


マーシャに知らせなきゃ。


ああ、体調は大丈夫だろうか。


心配だ。


自然と足が早まる。


色々話したいことがあるんだ。


今日のこと、B.B.のこと、
ウィキのこと。


マーシャ、どんな顔するかな。


「・・・ただいま」


玄関に入ると、廊下は静まり返っていた。


なんだか寂しい気分になる。


クラッピーとクロードの部屋を覗くと、
2人ともグッスリ眠っていた。


そっとドアを閉め、
マーシャの部屋に向かう。


もちろん
マーシャの部屋も静まり返っていた。


月明かりがマーシャの眠るベッドを照らし出している。


しかし、ベッドから嫌なうめき声が聞こえてきて。


ビックリして、
ベッドに近づいた。


「・・・マーシャ?」


ベッドの上で眠っているマーシャの顔色がひどく青白い。


嫌な夢をみているのだろうか。


大分うなされている。


「・・・・・・。」


リオナは思わず手を延ばした。


マーシャの額に左手を置く。


するとその瞬間、
マーシャからもらった真っ赤なブレスレットが光りだした。


熱を持ちはじめ、
手首が焼け落ちそうに痛む。


「・・・っ!!ぁ・・!」


手を引こうとしても、
動かすことすらできない。


ドクンドクンと血が脈打つ。


まるでマーシャから流れ込んでくるように。


そして次の瞬間、
頭が燃えるように熱くなり、
様々な"映像"が一気に流れ込んできた。


これは・・・"記憶"?

 
でも、
俺の記憶じゃない。


走馬灯のようにあっという間なのに、
全て鮮明でハッキリと理解できる。


大魔帝国・・・
知らない人たち・・・


・・・いや、知っている。


知っている、だってこの"女性"は・・・


まさか・・・これは


マーシャの"記憶"・・・?


だとしたら・・・なんで・・・
"あの人"たちが








たぶん時間にしたらほんの一瞬。


でも、
まるで何年も見ていたような気がするほど長かった。


これは間違いなく、
マーシャの"記憶"


俺に隠し続けていた
マーシャの"過去"


「・・・・・っ!」


ようやく現実に引き戻された時、
マーシャの上に倒れこんでいた。


何が起きたのかわからない。


ただ、鮮明に覚えている。


これが・・・マーシャの・・


ゆっくりと体を起こそうとした時だった。


今まで眠っていたマーシャがガバッと勢いよく起き上がったのだ。


頭を抱え、
少し苦しそうだ。


「・・・マーシャ?大丈夫か?」


声をかけても、
反応が返ってこない。


代わりにマーシャの虚ろな目と視線が合った。


俺を見るマーシャの目が、
みるみる見開いていく。


何をそんなに驚いているのか
わからなかったが、
たいして気に留めていなかった。


そのまま、マーシャはぎゅっと抱きついてきて。


とても力強くて、
ずっとこの腕の中にいたい。


そう思わせた。


「・・・マーシャ」


"愛おしい"


そう思うのはおかしいのかな。


それでも、
マーシャを抱きしめたい。


リオナもそっとマーシャの背中に手を伸ばそうとした。


しかし、
マーシャの口から出てきた言葉に、
一気に体を硬直させた。


「・・・モナ」


一瞬、聞き間違いかと思った。


「モナ・・・モナ!」


聞き間違いなら、
よかったのに。


「愛してる・・・モナ、愛してるんだ」


崖から突き落とされた気分だ。


苦しくて、
どうしようもなかった。


「どこにも行くな・・・もう、手放さない」


何度も何度も
マーシャは言う。


"モナ、愛してる"と。


突き放す事もできず、
ただ、抱かれていた。


愛の言葉を囁かれる度に、
心臓がズキズキと痛む。


俺は、
自惚れていたのかもしれない。


マーシャは俺を愛している。
俺だけを愛していると・・・


「リオナ?」


その時、
背後から誰かの声がした。


顔を向けると、
シキがいた。


「よかったリオナか。あれ、マーシャ起き・・・」


近づいてきて、ようやく様子が違う事に気がついたらしい。


「どうしたリオナ・・・なんで泣いて・・」


泣いていたのか、自分でも気付かなかった。


シキがリオナの涙を拭おうとした時、
再びマーシャの口からあの言葉が飛び出した。


「俺がお前を幸せにする・・愛してるんだ、モナ」


ああ・・・痛い。


ボロボロと、果てしなく涙が零れ落ちる。


自分ではどうすればいいか判断できないほどに、弱っていた。


「シキ・・・助けてよ・・・・・・ねぇ」


苦しいんだ。


俺には、どうしようもできない。


どうしようも・・・・・・


その瞬間、
鈍い音がした。


骨と骨がぶつかる音。


何時の間にか、
俺はかばわれる様にシキの後ろにいた。


マーシャの表情は見えないが、黙って頬を抑えている。


呆然とする頭の中で、
シキがマーシャを殴ったのがわかった。


シキの拳が、怒りに震えている。


「いい加減にしろ!!マーシャ!!」


シキの拳が再びマーシャの頬を打とうとする。


「・・・やめてシキ」


咄嗟にシキの手を掴むが、
すぐに振り落とされてしまう。


「リオナ・・!!コイツは最悪な男だ!!殴らないと気が済まん!!」


「・・・ダメだやめて!」


「じゃあなんでお前は泣いてるんだ!!なんで助けてなんて言う!!」


シキの剣幕に驚き、
言い返せない。


「コイツはお前を傷つけたんだぞ・・・!!!」


そしてシキはもう一発、
マーシャの頬を殴った。


マーシャに近づきたい。


でも、
怖い。


俺は
"モナ"じゃない・・・


マーシャが求めるものじゃないんだ。


それが本当に、ツライ。


小さなうめき声が上がり、
マーシャがようやく顔をあげた。


何が起きたのか、
マーシャは恐らくわかっていない。そんな顔をしてる。


「あれ・・・なんで、殴られてんの、俺」


少し、ホッとした。


いつものマーシャだ。


でもこれはもしかしたら、
"本当のマーシャ"じゃないのかもしれない。


フェイターが言っていたように、
俺は本当に、何も知らないんだな。


「シキ・・・リオナ?」


シキの後ろに隠れていたリオナに、視線が向いた。


その視線が、痛い。


見ないで。


俺を見ないで。


リオナは後退る。


手を後ろに伸ばし、
逃げ道を探す。


咄嗟に
部屋のドアノブを掴んでいた。


「・・・ごめ・・なさい・・・」


震える声で発したのは謝罪の言葉。


なぜ自分は謝ったのか。


マーシャが求める"モナ"じゃないから?


マーシャを信じてあげられなかったから?


わからない。


ああ、俺はまた逃げるのか。


逃げて逃げて、
一体何をしたいんだ。


「リオナ・・・!」


部屋を飛び出した時にシキの呼び声がしたが、
マーシャの声は聞こえなかった。


それがさらに俺の心を切り裂く。


嘘だったの・・・?


俺を愛してるって。


言ったじゃないか。


偽りの愛なんていらない。


結局
俺はマーシャを縛りつけるだけなのか。


なんで気がつかなかったんだ。


マーシャの本当の気持ちに。


今も昔も・・・


マーシャの心には
"彼女"しか


"モナ"しか


俺の
"母さん"しか


存在していなかったのに。



第十一章 狂い咲く赤い薔薇

[*前へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!