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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story114 雪合戦


雪見祭最終日、雪合戦。


一時はどうなることやらと思っていたが、ビットウィックスの強行手段で無事といっていいのかわからないが開催された。


思った以上にエージェントたちのやる気は漲っており、
みな、優勝したチームに与えられる豪華景品とやらを手にするために本気で雪合戦に参加している。


とはいっても、やはり所詮はゲーム。


勝ったチームも負けたチームも最後には笑ってお互いを励ましあっている。


すべてビットウィックスの思惑通りだ。


確実に、エージェントたちの仲は深まってきている。


特にリオナに関しては、
妙な人気を集めていた。


『リオナぁ〜!頑張れぇぇ!』
『あいつ最近なんか可愛くない?色気がでたっつーか』
『リオナは強いな。チームに誘えばよかった。』
『ちょっと話しかけづらいけどな。』
『そうか?話すと結構気さくだぞ。ただクールなだけだよ。』
『えー、じゃああとで話しかけよ。』
『俺も!』


周りからは様々な声が聞こえてくる。


当のリオナは聞こえないふりをして試合に集中していた。


それでも自分の名前が聞こえてきて、恥ずかしいような嬉しいような複雑な気持ちになる。


試合形式はトーナメント戦で、
リオナたちはあっという間に準決勝まで登りつめた。


準決勝までいくと、
なかなか手強い者が多い。


10人対10人で戦い、
雪玉に2回当たるとアウトというルール。


最後までメンバーが残ったチームの優勝だ。


そういえば、マーシャはどこにいるのかと一番最初の試合でリオナは探そうとしたが、
ナツがどうしても[あの変態は探すな]というから我慢して探さなかった。


ナツがここまでして止めるということは、
きっととてつもなく恥ずかしい応援をしているに違いない。


まぁ、歓声の中からハッキリと誰よりも大きな声で応援してくれているマーシャの声が聞こえるから、たぶんいるのだろうそこらへんに。


なんとか準決勝も勝利を収めたが、
最後まで残ったのがシュナだけだった。


ギリギリの勝利だ。


[お前やるじゃん]


ナツに褒められたシュナは少し照れ臭そうに笑ってみせる。


「必死になっちゃったよ」


[まぁよかったじゃん。これで豪華景品まであと一歩か。]


ナツは何が欲しいのだろうか。


彼がこんなに燃えるとは思わなかった。


「・・・ナツって熱い男だったんだ。」


リオナがボソッと呟く。


[熱い男?なんだそれ。お前が冷めすぎなんだよ。]


「・・・そんなに冷めてるかな、俺」


[さぁな。まぁ、お前が熱かったら俺嫌だけど。]


グニーッとナツに両頬をつかまれ、弄ばれる。


引っ張ったりムギューとしたりして勝手に笑っている。


「・・・やめれよー」


[ククッ、やーだ。おら]


「・・・ひゃっ」


[そんな声だしやがって。誘ってんのか?]


「・・・ナァ〜ヒュ〜」


ナツを睨み付け、
彼の手から逃れようともがいていると、
ドスンドスンと足音を立てて誰かが近づいてきた。


「離れてよナッツン!!」


ヤキモチを妬いたのか顔を真っ赤にさせたクラッピーがいた。


ナツは何かを思い出したかのように[あー、そういやそうだった。]と呟くと、嫌な笑みを浮かべてリオナから離れた。


[お前、諦めてなかったんだ。]


「うるさいッチョ!」


一体何の話をしているのかわからないが、
あえて触れないことにしよう。


それに、
クラッピーとは次の試合だ。


そう、決勝戦。


クラッピーのチームも決勝まできたのだ。


もう後戻りはできない。


「リオナ!覚悟するッチョ!」


すごいやる気満々だ。


なんだか気負けしそう。


「・・・でも、お前のチーム1人足りないじゃん。」


クラッピーのチームは、
先ほどの戦いで興奮しすぎたエージェント1人が倒れてしまって人数が足りないのだ。


出場はできるが人数不足は不利だ。


しかしクラッピーはどこか余裕そうに笑っている。


「へっへっへ!コッチには最強の助っ人がいるッチョ!」


[ぁあ?助っ人だと?誰だよ。]


「私だよ。」


するとクラッピーの後ろからビットウィックスがやってきた。


いつもはきちんとした正装か研究用白衣を着用しているのだが、
今日は珍しくジャージ姿で長い髪も綺麗にまとめている。


「私がクラッピーのチームに参加するよ。」


聞き間違いか?


今、参加するって。


[はぁぁ!?なんでテメェが参加するんだよ!反則だろ!]


「ナツ、君は本当に口が悪いね。それに反則だなんて酷いな。それとも、負けそうで怖いのかな?」


爽やかな笑顔でサラッと嫌味を言うビットウィックスが本当に恐ろしい。


ナツの言わんことはわかる。


ビットウィックスはマスターだ。


最近では天上界の長、サタンの跡継ぎに決まったとまで噂されている。


これでもダーク・ホーム最強なのだ。


そんな彼が本気で雪合戦なんてしたらコッチはあっという間に全滅だ。


そしたら俺はクラッピーに・・・


あまり考えないようにしよう。


[クソ!見てろよ!俺たちの団結力!]


「まさかナツの口から団結力なんて言葉が出てくるなんてね。ビックリだよ。」


[うるせぇ。]


仲がいいのか悪いのか、
さっぱりわからない。


とにかく、
負けられない。






『決勝戦をはじめます』


会場にアナウンスが流れ、
リオナたちはそれぞれの持ち場についた。


作戦なんてない。


とにかく雪玉を投げるのみ。


パンッという乾いた音と共に、
試合が始まった。


手袋をしていたが、
水分が染み込んできて霜焼けになりはじめた手が痛む。


リオナは、はぁっと息を吹きかけ、なんとか雪玉を丸めていた。


昔、よく雪で遊んだな。


こんな時に、思い出が頭をよぎる。


同時に、ウィキのことも頭をよぎってしまった。


ウィキは雪が好きだった・・・


毎日遊んで・・・・風邪ひいて・・


懐かしくて、頬が緩む。


俺たちは、仲がよかった。


そうだろ・・・?


なのになんで・・・俺は思い出せないんだ。


ウィキの"最期"を


そしてなぜ、
ウィキはアイツの・・・
アシュールのヤツなんかに



胸が締め付けられる。


苦しい・・・


昔、よく過去を思い出そうとした時に起きてた発作みたいだ。


リオナはガクッと地面に座り込んでしまう。


息が切れ、
苦しさのあまり胸を押さえた。


「リ、リオナ!?」


一番最初に気がついたのはシュナだった。


シュナは慌ててリオナの体を抱きかかえた。


「リオナ!しっかり!苦しいの!?」


「・・ごめ、大丈夫・・・だから」


「大丈夫じゃないでしょ!!」


大丈夫じゃない。


でも、負けられない試合なんだ。


絶対に。


「・・・バカだな俺。大事な試合で、自分追い込むなんて」


「リオナ?」


「・・・ありがとうシュナ。もう大丈夫。」


このことは、今は忘れよう。


後で、
マーシャに話さなきゃ。


ウィキのことを。


その時に、一緒に考えればいい。


1人じゃないんだから。


リオナはふと応援席に目を向けた。


「リオナァァァァァ!!頑張れぇぇぇぇ!!!」


全力で応援してくれているマーシャの姿が目に入った。


その場所に掲げられた横断幕も。


「・・・愛してるって・・・ははっ、バカだなぁマーシャ。恥ずかしいじゃん・・」


なんだか、元気が出てきた。


リオナは気を取り直し、
雪玉を投げる。


次々と相手チームの人員を減らし、
残ったのはクラッピーとビットウィックスとなった。


こちらも半分やられているが、
勝利は目前。


「クラッピー、なんだか負けそうだねぇ。」


あまり危機感を感じていないようなビットウィックスの口ぶりに、
クラッピーはプンスカと怒っている。


「なに言ってるッチョか!優勝しないとリオナがもらえないッチョ!」


いつから景品になったのか・・・


リオナは肩を落とす。


「クラッピーはリオナが欲しいのかい?」


「そうだッチョ!リオナはボクちんの彼女になるッチョ!」


「彼女?リオナは男だけど。」


「彼氏でもなんでもいいッチョ!」


「君って見た目通り随分自分勝手なんだ。」


おそらくビットウィックスに悪気があったわけではないのだろう。


だがしかし、
ビットウィックスのこのさり気ない一言で、
クラッピーの荒ぶる恋愛感情に一気に終止符を打ったのだ。


「じ、自分勝手ッチョか!?ボクちん、自分勝手ッチョかぁぁ!?」


気づいてなかったのか、と誰もが同じことを思う。


「うーん、そうだね、君はどちらかというと自分勝手な方だと思う。」


[ビットウィックスもなかなか自分勝手だろ。]と、ナツがさり気なく呟いている。


そう言われてみると、
なんだかクラッピーとビットウィックスは似ている気がする。


行動や性格はあまり似ていないが、
なんだろう、
根本が似ているのか?


よくわからないけど似ている。


「自分勝手って・・よくないッチョか!?」


クラッピーは半泣き状態でビットウィックスに食いつく。


「いいとは言えないよ。リオナはモノじゃないんだ。欲しいからって貰えるものじゃない。いくら君が完璧にこなしたってリオナの心が動かなきゃそれは君の自己満足さ。」


なんだか初めてビットウィックスが素晴らしい人間に見えてきた。


「まぁ、クラッピーがそれでいいならいいよ。君の気持ち、わからなくもないからね。」


「そういうことだッチョかぁぁ・・・」


クラッピーのヤル気が無くなっていくのが見てわかる。


なんだか、
可哀想に思えてしまう。


「・・・おいクラッピー」


思わず呼んでしまった。


ナツは呆れたようにため息をついている。


このまま放っておけばこちらが勝っていたのは間違いない。


ごめんねナツ。


でも、
それじゃダメなんだ。


そんな勝利なんて、俺はいらない。


「・・・諦めるのかよクラッピー。昨日のあのヤル気はどうした。」


「だって・・・ボクちん自分勝手で最悪だッチョ・・・」


今にも泣きそうな顔をしている。


そんな顔・・・反則だ。


「・・・お前の身勝手さなんてとっくに知ってる。でも俺は、そんなお前が好きだから、お前の能天気さが好きだから、お前と約束したんだ。」


「リオナぁぁ・・・」


「・・・男だろ?そんな声だすな。約束を守れ。お前の本気を見せろよ。」


少し厳しく言うくらいがちょうどいい。


って誰かが言っていたような。


するとクラッピーは涙を拭い、
いつもの明るい表情に戻った。


すごくホッとする。


「ボクちん、負けないッチョ!ボクちんの勇姿、ちゃんとみといてッチョ!」


そう言って、
クラッピーは再び雪玉を作りはじめる。


リオナの横では、
ナツが盛大なため息をついていた。


[・・・ったくお前は。アイツ、さっきよりヤル気じゃねぇかよ。]


「・・・そうだね。」


[まぁ、お前のそういうとこは嫌いじゃねぇよ。]


そう言って、ナツが小さく笑う。


決着の時を迎えるため、
全員が雪玉を握った。





























雲の隙間から太陽が出てきた時には試合が終わっていた。


まるで勝利を祝うかのように。


[まさか負けるなんて・・・]


ナツはガクッと肩を落とす。


おそらく絶対に何がなんでも勝つ気だったのだろう。


結果はクラッピーの逆転勝ちだったのだが。


「ナツもそんなに落ち込まないでよ。ほらっ参加賞だよ!」


シュナがナツに手渡したのは、
参加賞のマフラー。


どうやら使用人のスバルのお手製らしい。
全部で15種類もあるとか。


[こんなもんいらねぇよ。クソッ]


「もう、ナツはなにが欲しかったのさ。」


[そりゃあ休暇だよ!他になにがあるってんだ!]


「そうなんだ。そんなことシキさんに普通に頼めば貰えるはずだよ?」


[普通に頼めば、だろ?この俺が頼めると思ってんのかよ!]


ナツの悪態は本人も了承済みらしい。


だったら直せばいいのに。
と、シュナとリオナは思った。


けれど、負けてしまったものは仕方が無い。


でも、得られたものは沢山あった。


色んなエージェントと、
話ができたこと。


『リオナ!後でこっちこいよ!』
『今日は大宴会だぜ!?リオナも今夜飲もうぜ!』


声をかけてくれて、
本当に嬉しい。


リオナは返事をしながらクラッピーの元に向かった。


クラッピーは優勝したチームの真ん中で嬉しそうに笑っている。


目があって、
軽く手を振ると
すぐに駆け寄ってきた。


「・・・おめでとうクラッピー。」


「リオナ!ありがとうッチョ!!」


「・・・すごく、かっこよかった。」


そう言うと、
クラッピーの顔がみるみる赤くなっていく。


可笑しくってついつい笑ってしまいそうになった。


「リオナ!あ、あのねっ!」


そうだ、約束の告白・・・


真剣なクラッピーをまっすぐ見つめる。


「あのねっ!ボクちんリオナのことが、やっぱり好きだッチョ!ワガママだってわかってるッチョ!でもね、リオナがいい!!ボクちんを連れ出してくれたのはリオナだから・・・!」


あの長く深い穴の中で、
奇跡的に出会ったクラッピー。


今でも、よく覚えてる。


誰よりも一途で、
強くて、
それでもやっぱり涙もろい。


自分を強く見せたくて、
弱い部分を隠したくて必死になって。


でも、そんな彼の先にはクロードがいたから。


クロードを安心させたかったから、
クラッピーは全てを封じてた。


自分の欲を。


「ボクちん、リオナが好き。幸せにするッチョ。」


これが初めての恋。


だから、大事にしてあげたかった。


でも・・・ごめんね。


「・・・クラッピーが俺をそんなに想ってくれて、本当に嬉しい。お前はいつでも、真っ直ぐなんだな。」


そのまっすぐな瞳が、
すごく胸を締め付けるんだ。


どうして、俺なんかを好きになったの・・・
俺じゃなきゃ、クラッピーは傷つかなかったのに。って何度も思った。


「・・・俺もクラッピーのこと、好きだ。大好きだ。でも、出会った時から、今までもこれからも、俺はお前を恋愛対象としては見れない。」


ああ、こんなに苦しいなんて・・・


「・・・お前は、俺の中で、大事な、本当に大切な、"弟"なんだよ。クロードも、クラッピーも、大切な仲間であって、家族で、兄弟だ。お前には、いつまでも俺に甘えてて欲しいんだ。頼って欲しいんだよ。勝手な言い分かもしれないけど、これが俺の答えなんだ・・・それに、」


クラッピーは、もっと苦しいのかな・・・


「・・・俺には、心に決めた人がいるんだ。知ってるかもしれないけど・・・大切に想ってる。」


クラッピーはただ黙って聞いていた。


正直、泣くかと思っていた。


けれど、
クラッピーは涙を流すことなく、
むしろ穏やかな笑みを浮かべていた。


まるでしがらみから開放されたような、
スッキリとした顔で。


「わかったッチョ。それが、リオナの答えッチョね。」


「・・・ああ。ごめんな。でも、嬉しかったよ。」


「ボクちんも、言えてよかったッチョ!!あ、でもちょっと待つッチョ!」


クラッピーはリオナにグイッと近づくと、
リオナの目をジッと見つめ、問いかけた。


「マーシャなんかの、どこがいいッチョ?教えてくれたら諦めるッチョ。」


まさかの予想外の質問に、
少し動揺をしてしまう。


「・・・マーシャのいいところ?」


「そう!あんなののどこがいいッチョか!?ダラ〜ってして変態だし!いつからあんなヤツを好きになったッチョかぁ!」


そう言われると反論できない。


きっと他の者にマーシャの良いところは?と聞いても、
ただのやる気のない変態と答えるだろう。


決して良いところではない。


「・・・そうだなぁ、なんだろうな。」


マーシャと出会って初めの方、
正直、マーシャは俺の事が嫌いだと思っていた。


俺自身もこういうタイプは初めてだったし、
少し苦手だったのかもしれない。


それにマーシャは子供が嫌いと言っていた。


シュナみたいにもっと可愛げがあったらと何回言われた事か。


「・・・きっと、長い間一緒にいすぎて、いつからかなんてわからなかったんだろうな。」


「何年ッチョ?」


「・・・かれこれ十数年。」


「うーん・・・長いッチョね。」


「・・・あ、マーシャの良いところは沢山あるよ。料理が上手いだろ。頭もいいし。」


「ええー!?頭イイッチョかぁぁ!?」


「・・・歴史とか詳しいよ。よく本読んでるし。」


エロ本じゃなきゃいいが・・・


「・・・あと強い。強くて頼もしくて、変態だけど許せちゃうんだよなぁ。それに、一途なんだ。何事にも真っすぐだ。へそ曲がりな俺に、真っすぐ向き合ってくれたのがマーシャだよ。ほら、いっぱいある。」


リオナが笑って答えると、
クラッピーは少しムスッとした。


「なんか、マーシャの話してる時のリオナ、楽しそうッチョ。」


そうなのか?


全然意識していなかった。


だとしたら相当恥ずかしい。


「もうわかったッチョ。リオナの幸せは、マーシャに託すッチョ。だけど・・・」


クラッピーは涙を浮かべていた。


唇を噛み締めて、
静かにボロボロ涙をこぼし出す。


ビックリして、思わずクラッピーの頬を両手で包んだ。


「な、泣くなよ・・・」


俺まで泣きたくなるじゃないか。


「だ・・・だっでぇぇ〜」


「・・・別に一生話せなくなるわけじゃないだろ。お前が一緒にいたいって時は一緒にいてやる。それじゃだめ?」


ううん、とクラッピーは首を横に振る。


涙を拭ってやると、
ギューッと抱きついてきた。


やっぱり、弟みたいだ。


「ボクちん、もう大丈夫ッチョ!ありがとう、リオナ。」


クラッピーの笑った顔が見えた。


やっぱりクラッピーには笑っていて欲しい。


リオナもギュッと抱き返した。


「・・・そういえば、優勝景品はなんだったの?」


「ふっふ〜ん♪なんだと思うッチョか?」


「・・・豪華って言うくらいだから、なんだろ、お金?」


「違うッチョ!お菓子の詰め合わせッチョ♪すごーいでしょ!」


嬉しそうに後ろから大きな袋を引っ張ってきた。


中には大量の菓子が入っている。


クラッピーはすごく嬉しそうだが、
きっと他のエージェントは肩を落としている事だろう。


「・・・そうか、よかったな。」


「うんっ!これはぜーんぶクロノスにあげるッチョ!きっと喜ぶッチョ〜!」


じゃあねっ!と言って
クラッピーは颯爽とクロードを探しに行った。


その後ろ姿を、見えなくなるまでずっと見つめていた。


どうかこれから先、
クラッピーが笑顔でいられるように、
想いをこめて。





そういえば、
マーシャはどこに行ったのだろうか。


応援席にはもう誰もいない。


あたりを見渡すが、
マーシャらしき姿はない。


すると近くにシキが見えた。


シュナとナツも一緒だ。


リオナは3人の元へ向かう。


シキはリオナに気がつくと、
含み笑いで近づいてきた、


「で、クラッピーとはくっついたのか?」


「・・・はぁ?」


「マーシャから聞いた。クラッピーが勝ったら付き合うって。」


「・・・聞かなくてもわかるでしょ。」


まぁな、とクスクス笑って
リオナの肩を叩いた。


「・・・ねぇ、マーシャってどこ行った?」


「マーシャなら先に部屋に戻った。というか体調が悪そうだったから無理矢理返した。」


「・・・体調そんなにヒドイのか!?」


「いや、軽い頭痛だって。でも顔色が悪かったからな。ああ、心配するな。今Dr.デヴィスが診察してる。リオナはこれから飲み会だろう?ゆっくりしてこいってマーシャが言ってたぞ。」


ゆっくりしてこいだって?


本当にマーシャは大丈夫なのか。


「・・・俺、やっぱり心配だから一回部屋に」
[おいリオナ!飲み行くぞ!]


すると後ろからグイッとナツに引っ張られ、
体が後ろに傾く。


[どうした?何かあったのか?]


かなり深刻そうな顔をしていたのだろう。


ナツが訝しげに顔を覗き込んでくる。


「・・・いや、マーシャの体調が悪いって聞いて」


[なんだよ、それならシキが看てくれるだろ、なぁ。]


ナツがシキに問いかけると、
シキは不愉快そうに小さく頷いていた。


「お前に指図されるのは嫌だけどな。」
と小さく呟いて、
リオナには満面の笑みを見せた。


「気にしないで行っておいでリオナ。たぶんマーシャのやつ睡眠薬打たれて朝まで起きないだろうし。」


「・・・そう、かな。」


なんだか心配だけど、
シキが言うなら・・・


リオナはとりあえずマーシャのことをシキに任せ、
ナツとシュナと共に大宴会へ向かった。


この時、
早く帰ってマーシャに会って、
ちゃんと色々な話を、自分の想いを告げていればと、
後になって後悔するなんて。

思いもしなかった。



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