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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story03 サンダーカウンティー







鳥がさえずり、
朝日は白く柔らかい光を放っている。






リオナとマーシャは目を覚ますと森の出口にいた。


あの後二人は、わき目もふらずに走りつづけ、
気がついたら眠ってしまっていたらしい。



二人の目の前には急な上り坂が続いていて、
その先には巨大な壁が見えている。



リオナとマーシャは大きなあくびをした。


「ふぁ〜・・・・・・・・っと。リオナ、あれがサンダーカウンティーだ。てか俺たちすげぇ走ったらしいな。」


「・・・・うん。だって足痛いもん。」

リオナは痛む足をさすりながら、背後に広がる森を振り返る。



二人は立ち上がると、
さっさと坂を上り始めた。

「つぅか昨日のアレなんだったんだぁ?すげー声してたよなぁ。」

「あれは絶対化け物だよ。あの雄叫びと地鳴りヤバかったもん。」

マーシャは再び大きなあくびをしながら
伸びを繰り返している。

「俺けっこう物知りな方かと思ってたけどさぁ、世の中ってわかんないことだらけだよなぁ。」


確かに世の中にはまだまだわからないことが多い。

自分は世界のほんの一握りのことしか知らないのかもしれない。

とリオナは思った。


「ねぇ、昨日の化け物とかそーゆーのはダークホームで退治しないの?」

「うーん、まぁ依頼とかきたらやるけど、ホーム自らは動かねぇな。めんどくせぇし。」

「・・・・・ふーん。」

「・・・・何その軽蔑した目ぇ。お前も入れば分かるけどなぁ、俺たちには山ほど仕事があるんだぜ!?」

「そんなに?」

「ああ見ろよこれ。」

そう言ってマーシャは胸ポケットから任務手帳を見せつける。

中には日付とその横に
任務場所と任務内容が書かれている。

「6月5日、ドリームカウンティーにて化神退治。7日、サウンディーカウンティーで化神退治。10日、剣舞国にて行われる五カ国協議会のガード。11日、剣舞国にて化神退治・・・・・」

「なぁ?イッパイあるだろ?」

マーシャは誇らしげに手帳を胸ポケットにしまう。

確かにびっしり入っているが・・・・

「・・・・なんかショボくない?化神退治ばっかじゃん。」

図星を突かれ、マーシャは目を泳がす。

「いや・・・・だからさ・・・・そのさ・・・・・オ・・・オレは強いから、下の奴らにばっか仕事が回っちまうんだよぉ〜」

嘘か真か

リオナの疑いの目はいつもより冷たい。

「ふぅん。強いんだぁ〜。」

不敵な笑みを浮かべながら
リオナはマーシャを置いてさっさと歩いて行ってしまう。

「っておい。本当なんだぞぉ?・・・ったく・・・・これだからガキはイヤだぜ。」








二人は坂を上りきると、
目の前には高く、どこまでも続く壁が立ちはだかっていた。

そう言えば、
前の国を出た時も、国全体が壁で囲まれていた。

マーシャいわく、
敵からの攻撃を防ぐための造りらしい。

もちろん、入り口は至る所に設置されている。


二人はすぐ目の前にある巨大な門に向かう。

そこには二人の門番がたっていた。

門番は体が人並み以上に大きく、固そうな鎧を着ている。


マーシャとリオナが門を潜ろうとすると、
二人の門番がさっと道を遮った。

しかも入り口には電流が走っており、勝手に通れば感電する仕組みになっていた。

国の特色が生かされている。


『通行証を見せろ』

「あぁそうだったそうだった。忘れてたっと・・・・」

マーシャはさっと袖をめくり、腕に刻まれたダークホームの紋章を見せる。

すると二人の門番はすぐに門に張られた電流を解除し、道をあけた。

「これは失礼した!」

門番は曲がっていた背筋を真っ直ぐ伸ばし、マーシャに向けて敬礼した。

「どーもどーも。・・・あぁこのチビ俺の連れだから。」

「はっ!お気をつけて!」

門番はリオナにも敬礼をむける。

「ど・・・どうも。」

リオナは門番からの扱いにどうすればよいかわからず、
マーシャに隠れるように門を通る。

「・・・その紋章で通れちゃうんだ。」

「ん?あぁまーな。でもたまに通してくれねぇこともある。けどよ、ダークホームを嫌う国も多いが、結局化神を倒せるのはダークホームだけだからな。仕方なく通す国が多いよ。」

最近のローズ・ソウルの一件でますます通行許可が出にくくなったんだがな。とボソッと呟きながら、マーシャはどんどん歩いて行く。


リオナはさっさと歩いていくマーシャに小さな歩幅で必死についていく。

「なぁどこ行くの?」

「どこだと思う?」

「わかんない。」

「少しは考えろよ。」

「考えたよ。」

「ったく。考えねぇと脳みそ腐っちまうからな。いいかぁ?これから言うことは化神退治の仕事のポイントだからよぉく覚えておけよ?まずこんな広い国から化神を探すには、はじめに事件を探すんだ。化神はだいたい人を襲うからニュースになる。わかるか?」

「うん。そのニュースを調べるのにまずは情報屋に行くってことでしょ?」

「おっ、賢いじゃん。ピンポンピンポーン。んで、化神が起こしたっぽい事件の現場に行って、オレのなかの悪魔が化神反応をキャッチするのを待つって話。」


「なるほど。でも化神反応ってどれくらい遠くまでキャッチできるの?」

「うーん・・・その悪魔たちによって違うけど、俺の悪魔は半径10qくらいかな。俺の同僚では100qわかるヤツがいるぜ。」

「100qって・・・・なんか遠くまでわかっても絶対追いつけないし。」

「そうなんだよ。あいつそのことでいっつも悩んでやんの。今度会ったら慰めてやれ。」

「うん。」











サンダーカウンティーに入ってから二つの街を越え、中央の街に向かう。

どの街もレンガのキレイな造りだが、
全体的にひっそりとしていて、人々や子供の遊ぶ姿も一切見えない。

西の方を見ると、大きなドームがいくつか見える。

きっと工場か何かだろう。





日も暮れ始め、
やっと二人は中央の街にでると、店が並ぶ大通りにでた。

先ほどよりは人が増えたが、いても数人。
前の国と比べると明らかにおかしい。


洋服屋、時計屋、靴屋、酒屋・・・・・・・

どれもやっているのかやっていないのかわからない。



マーシャは郵便局の前で立ち止まると、建物の二階を見る。

「あれぇ。おかしーな。ここの上が情報屋の筈なんだけど。」

二階の窓は木の板でふさがっている。

そういえば、
ほとんどの店の入り口や窓が木の板でふさがれていた。


「やってなさそうだけど・・・・」

「そうだな・・。それにしてもこの短期間で何があったんだ?」

「前はこんなに荒れてなかったの?」

「一年前なんてたくさんの人であふれかえっててよぉ。そりゃにぎやかだったぜ。てかそれにしてもどうすっかなぁ。これじゃあ情報がはいんねぇな。」

マーシャは短く舌打ちをすると、何を思いついたのか、崩れかけた二階への階段を登り始めた。

リオナもとりあえず後ろに続く。




二階のドアはすでに壊されていて、部屋の中にガラスの破片が飛び散っていた。


「足元、気をつけろよ。」

「うん。」


中へ入ると、電気を付けた。

しかし、つかない。

電気が自慢な国が電気がつかないとはどういう事かと二人は首を傾げる。

仕方なく、木の板を張り付けられた窓の小さな隙間から差し込む夕日の光を頼りに部屋を詮索した。


部屋はデスクが数個並べられ、
天井まで届く引き出しがずらりと立ち並んでいる。

が、中身は全部飛び出し、床には新聞やらなにやらが散らばっていた。


リオナはほこりをかぶったデスクの上に置かれていた写真を見つける。

そこにはここの従業員だと思われる男と若い女が写っていた。


―・・・新婚だったのかな。


確実に何かが起こったと思われる現場に置かれる写真は、
何か悲痛なものを感じさせる。




マーシャはとりあえず、
"最新"と書かれた引き出しを調べていた。


一番手前におかれた記事を引っ張り出し、日付を確認する。



「11月2日・・・・・」


今から約二ヶ月前。


マーシャは今度は記事の内容に目をやる。

"先の電力総合開発所の爆発事故から一週間、会長のパーク・ラインが自殺、そして従業員の30名が謎の死。パークの呪いと人々は言うが、実際は何者かによる他殺。死因は鋭いもので引っかかれ、大量出血によるものと見られている。これからも被害者は増えるだろう。"


―・・・事故?

マーシャは11月2日から一週間前、10月26日の記事を探す。


10月26日の記事はあまりにも厚い冊子をしていることから、事故の重みを感じられた。


"電力の開発・実験を行ってきた電力総合開発所の第3ドームで11:43頃に大爆発発生。第3ドームの従業員は全員死亡。他のドームにも被害が及び、運行不可能に。たまたま電気をつけようとした民間人136名が感電死。会長からの謝罪会見は翌日行われる模様。"

冊子はそれから一週間のことも記されていた。

"会長は未だに顔を出さない。街では電気が使えなくなり、民衆がクーデターを起こし始めた。被害は深刻。死者は増える一方だ。電力が働かない今、人々はただ工場が動くのを待つしかない。"


このあとすぐにここもクーデターに巻き込まれたのだろう。

マーシャはため息をついて冊子を閉じた。


「・・・・まだ開発所が動いてないのか。ったくどーすんだよ。この国の王は何やってんだ。」

「・・・・・・・これって化神が関係してるの?」

「いや・・・。普通は同じような人間を殺していくような化神はいない。そもそも化神には意志というものがないからな。しかも2ヶ月も前の事だ。もし化神だったらとっくにダークホームが動いているはずだ。」

「だよね。」


マーシャとリオナは記事の山の上に腰を下ろす。


「・・・・ねぇこーゆー時ダークホームはこの国を救うとかカッコイイことしないの?」

リオナの一言にマーシャはすこし苦笑いをする。


「・・・・してやりてぇけどさ、俺らの仕事はあくまで監視。国同士の反乱とか殺戮なら手出しできるけど、国内となるとそこまで手が回らないのが現実だ。」

「そっか・・・」

部屋の空気はどんどん重くなるばかり。

二人はいつまでもここにいるわけにもいかなず、
とりあえず外に戻る。


空はすっかり暗くなっていた。

するとふとマーシャが立ち止まった。

「あっ、今日泊まるとこねぇじゃんか。しかも俺たち昨日から何も食ってなくね!?」


歩くのに夢中すぎてほったらかしにしておいた腹が、今になって音を立て始めた。


ホテルもレストランもやってる様子はない。
なんてったって大停電中だからだ。

「どうする?」

「しょうがねぇ。今日はとりあえず情報屋に泊まるぞ。」

二人は仕方なく、情報屋に泊まることにし、再び向かおうとした。


そのとき、マーシャが何かと衝突した。


ビックリして足元を見ると、
リオナと同じ年くらいの少年がしりもちをついていた。


「おい、大丈夫か?」


マーシャは少年に手を差し伸べる。


しかし少年はマーシャの手をピシャリと払いのけた。


そしてキッとマーシャを睨みつけてる。


「おまえ等も僕たちを殺しにきたのか!?」


「はぁ?ぶつかってきていきなり何言うんだよ。」


しかし少年は聞く耳を持たない。

「あっ・・・・・!さてはお前、叔父さんの使いだな!?何度も言うけど僕は母様と暮らして行くんだぁぁ!!!」

そう言って少年はマーシャに向かっていき、拳を振るう。


が、マーシャに簡単に腕を捕まれ、体ごと持ち上げられてしまった。


「暴れるなって!!俺たちはお前の事なんて一切知らねぇし、とって食おうとも思ってない。」

「・・・・・!」

マーシャは少年をそっとおろしてやる。


「ただこんな遅くにガキンチョが街を歩いているのはいただけねぇなぁ。」

すると少年はリオナをにらんで指をさした。

「あいつだってガキのクセに歩いてんじゃん!」

「・・・・・・・。」

リオナは相手にするのもバカバカしく感じ、
何も言わずに近くの段差に腰を下ろしていた。

「コイツは俺の連れだからいーの。けどお前は1人だろ?あぶねぇよ。」

「・・・・・・・。」

少年は急に静かになり、少ししょんぼりした顔つきになった。

「・・・・・・・。少年。家はどこだ?送ってやるよ。」

「・・・いいよ別に。一人で帰れるし。」

「ダメ。最近はここらで変な化け物が出るみたいだから送ってやる。リオナ、行くぞ。」

「うん。」

マーシャはリオナを呼ぶと、少年を無理やりかつぐ。

「や・・・・やめろ!はぁなぁせぇ〜!!」

「照れんなって。家どっち?」

「言うからおろせ!!」


「え〜?おっかしいなぁ〜。本にはかつぐと喜ぶって書いてあるのに。」

マーシャの意味深な発言にリオナは首を傾げる。


「本って何?」

「いや・・・こっちの話。」

「・・・・?」


少年はマーシャから解放されると、数歩前を歩き出す。


「・・・・なぁ少年。お前オヤジいないのか?」

マーシャは突然尋ねる。

「・・・・・・・・なんで?」

「いや、さっき母さんと暮らすとか何とか言ってたから。」

「・・・・・・父様は死んだよ。」

なんとなく想像はしていたが、
少年の口から聞くと何か重みを帯びているように感じた。


「・・・そうか。なら母さんを大事にしてやんなきゃな。こんな遅くまで遊んでたら心配かけんだろ。」

「・・・。母様は心配しないよ。」

少年はたんたんと歩き続ける。

「・・・??んでだよ。」

「・・・・だって・・・最近よくふらっと出かけちゃうし、夜だって突然いなくなるし・・・。」



―・・・夜のお仕事ってヤツか?



マーシャは少年になんと言うべきかわからず、
とりあえず少年の頭をなでてやる。



「まぁ、なんか事情があんだよ。あんまり詮索してやんなよ。」

「・・・・。」








通りの角を曲がると、
昼間に見えた無数の巨大なドームが目に入る。

どうやら少年はドームの近くにすんでいるようだ。

するとリオナはハッとして、
マーシャに小声で呟いた。

「ねぇ・・・・ここって・・・・。」

「ああ・・・・。爆破事件が起こった場」
「ねぇ何コソコソ話してんの。」

少年の呼びかけにビクッとして、二人は少年にヒキツった笑みをむける。

「いや・・・・すごい街だなぁ〜なぁんて・・・ねぇマーシャ!?」

「おうよ!」

「・・・・ふぅん。」

少年は疑いの目をタップリと向けると、再び歩みを進める。







三人はドームの前を通り過ぎる。

ドームの門は堅く閉ざされ、
「立ち入り禁止」とかかれていた。


さらに歩いて行くと、民家の続く住宅街へ入っていく。

おそらく開発所の従業員たちの自宅だろう。

しかし、今は一人も住んでいる様子は全くない。


住宅街の奥の方には、少し大きめの家が見えた。

他の家に比べて、高級感が漂っている。


するとその家の前で、
女性が辺りを見回しながら、
寒空の下で1人立っていた。

「母様・・・!!」

少年はその女性に向かって駆け出す。

「あれが母様!?」

リオナとマーシャは呆然とその場で立ち尽くす。

まさか少年がおぼっちゃまだったなんて・・・・


人は見た目で決めてはいけない。

二人はそう心に刻んだ。


「母様!!」

「!?セス!?どこに行っていたの?心配したのよ?」

「・・・・ごめんなさい。」


するとセスの母親がリオナとマーシャに目を向けた。

「あの・・・・・もしかして送って下さったのですか?」


マーシャは目をそらしながら頭をかく。


「い・・・・いやまぁ・・・、そんな感じですけど・・・はい。」

「・・・?何キョドってんだよ。」

リオナの呟きもマーシャの耳には入らないほどに、マーシャは動揺しているようで。

「・・・あの・・・もしよろしければ夕食をご一緒してもらえないでしょうか?お礼と言っては何ですが・・・。」

「い・・・いやいや俺たちはこれ」
「はい喜んで。」

リオナの即答にマーシャは目を丸くする。

「ダメだっておい!!何言ってやがる!」

マーシャとリオナは小声で言い合う。

「だってもしかしたら泊めてくれるかもよ?しかも夕食付き。ラッキーじゃん。しかもマーシャ言ったよね。"考えないと脳みそ腐っちまうからな"ってね。」

イタズラっぽく笑うリオナを見て、マーシャはがくんと肩を落とす。

「ハァ・・・・・・・・・。」

「??ねぇさっきからどうしたのさ。」

様子が少しおかしいマーシャにリオナが顔を覗き込んだ。

すると突然マーシャはリオナの肩をつかむと、
半泣き状態でリオナに訴えかけてきた。

「お・・・・俺は女と子供が一番ニガテなんだっての〜」

「・・・・なんだそれだけ?」

リオナはさっさと家の中に入っていってしまう。

「お・・・おい待ってくれよぉ!リオナぁ!お前にわかるか!?ピーマンとなすに囲まれてるようなもんだぞ!?っておい!」


するとリオナはすこし振り返り、ニヤッと笑った。

「俺ピーマンもナスも愛してるから。」

「・・・・・。」


リオナへの訴えも虚しく、
マーシャも続いて家に入っていった。


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