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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story112 不安




それからシュナとナツはリオナと共にクロードの勉強を教えていた。


ナツに関しては教えていたというよりも、クロードと一緒になって勉強していたと言った方が正しい。


夕方になって2人が帰ると、
いつのまにかクロードがリオナのベッドで寝息を立てて眠ってしまっていた。


さすがに一日中勉強して疲れたのだろう。


今日はこのまま寝かせておこう、とリオナはブランケットをかけ、そっと部屋を出た。


さて、今日はどこで寝ようかな。


クロードはいつもクラッピーと同じベッドで寝ている。


さすがにクラッピーと一緒には寝たくない。


今日一日中ずっと喧嘩が行われていたリビングを覗いてみると、すでにマーシャとクラッピーの姿はなかった。


どこに行ったんだろう。


まさか2人一緒じゃないだろうな。


とりあえず、リオナも久々に使った頭を休めようと
リビングのソファに腰をかけた。


ふぅーっと息をつき、頭をうなだれる。


雪合戦か・・・


考えるだけで頭が痛くなる。


せっかくの祭りなのに、
俺が行ったらエージェントたちの気分を悪くする。


台無しにしてしまう。


シュナは大丈夫だって言うけど、
俺自身大丈夫とは思えない。


しばらくそのことばかりが頭を占領していて。


ゆっくり瞼を落とし、自分を暗闇の中に潜らせる。


暗闇はやっぱり好きだ。


一番落ち着く。


しかしそんな静けさもすぐに終わりを告げた。


玄関から足音が近づいてくる。


この騒がしい感じの歩き方は、
クラッピーに違いない。


「あ!リオナッチョ!」


予想的中。


わかりやすいヤツだな、と笑いながらため息をついた。


「・・・おかえり。」


「ただいまッチョ!隣・・・座っていいッチョか?」


いつもなら許可なく座ってくるくせにどうしたんだ?


クラッピーらしくない。


それにいつもより元気がない。


「・・・いいよ。」


そう言って左側を空けると、
なぜかクラッピーは今にも泣きだしそうな顔をして、リオナの横に座った。


座ったとたん、リオナの左腕にギューっと抱きつき、顔を押し付けてくる。


ホント、どうしたんだか・・・


「・・・マーシャに負けた?」


「マーシャはキライッチョ・・・」


「・・・そんなこと言うなよ。マーシャもあんなんだけど、本当はお前の事だってちゃんと心配してる。」


「違うッチョ!ボクちんはリオナを独り占めするマーシャがキライだッチョ!!ボクちんだって・・・!」


リオナは先日のクラッピーの告白のような発言を思い出す。


クラッピーは本当に俺が好きなのか。


それが果たして恋であるのか。


そもそもクラッピーは恋という概念をわかっているのか。


「クラッピー、お前・・・」


「リオナはまだわかってないッチョね。ボクちんは、本気だッチョ。」


気を緩めていた瞬間、
勢いよく体を押し倒された。


クラッピーに馬乗りにされ、
身動きが取れない。


「・・・ばかっ、子供のくせに、バカなマネするなばか」


内心、かなり動揺している。


先ほどからおかしいとは思っていたが、明らかにクラッピーらしくない。


いつも楽しそうに輝いてる瞳から光を感じられない。


以前、ナイフを向けてきた時と同じ瞳をしている。


"本気"の瞳だ。


「おいクラッ・・」
「いつもボクちんが・・・違う、ボクがバカみたいに騒いでるから相手にしてくれないの?」


知ってるよ、クラッピー。


クラッピーは本当は真面目で強いってこと。


いつもおちゃらけた口調とか馬鹿騒ぎしてるのは、
幼いクロードを楽しませるためだって事も。


「好きだよリオナ・・・本当だよ。信じてよ!マーシャばっか見ないでよ!ボクも見て!ボクだけなんて、言わないから・・!」


ポタポタと、リオナの頬にクラッピーの暖かい涙が落ちてくる。


このあいだ、クラッピーの気持ちを見て見ぬ振りをしてしまった自分が憎い。


俺は、クラッピーを傷付けていたんだ・・・


「泣かないで、クラッピー・・・」


頬に手を添え、クラッピーの涙を拭う。


けれどクラッピーはますます涙をこぼし、
リオナの手に頬を摺り寄せた。


「ほ、んとに、リオナがっ好きっ・・・リオナの笑った顔が好き、リオナが笑うと嬉しい。でもっ、いつもボクは困った顔ばっかりさせちゃう・・・」


「・・・困ってなんかいないよ。お前のこと、嫌いじゃないんだから。クラッピーのこと、俺も好きだよ。」


「違う!"好き"が違う!ボクはリオナに恋してるの・・!ボクはリオナにっ・・・!」


その瞬間、クラッピーが勢いよくリオナの唇に自分の唇を押し当ててきた。


あまりにも強引で、突然のことに、リオナはクラッピーを強く押し返す。


押し返されたクラッピーはソファーから転げ落ちてしまった。


「な・・・にすんだ!!」


唇に押し当てられた、
あの感触を忘れようと唇を拭う。


しかし、簡単に忘れられるわけじゃない。


胸が苦しくなる。


痛い。


「・・・俺の意思は、全部無視か?」


心が弱ってるせいか、
涙が、込み上げそうになる。


それくらい、ショックだった。


それと同時に、クラッピーとそういう関係を求めていないということも、ハッキリわかった。


心も体も、"恋仲"としてのクラッピーを拒絶している。


「ゴメン・・・リオナ」


クラッピーの傷ついた顔がよく見てわかる。


ああ、また、彼を傷付けた。


こんな彼に、今ハッキリと本心なんか伝えられない。


でも、言わなきゃ、ますます彼を傷つける。


どんな道を選んでも傷付けてしまうのなら、せめて浅い傷跡だけで・・・癒すことのできるキズを・・・・・


「・・・俺も、ゴメン。痛かった・・?ただ、聞いてクラッピー。俺は・・お前の事は・・・」


「言わないで・・・!!」


「逃げないで聞いて・・・」


「逃げてない!ただっ、もうちょっと、ボクを見て・・・!!努力するから!」


クラッピーは立ち上がり、
腕でゴシゴシと目をこすった。


泣いてしまったせいで、いつものピエロメイクが落ちてしまっている。


素顔の彼を見るのは久々だ。


すごく、綺麗な顔をしている。


「リオナ、だからもうちょっと待って・・・それから、マーシャかボクか、選んでよ・・・・・・」


マーシャかクラッピー、か。


マーシャはこれを聞いたら怒るかな。


「・・・俺がもう、心に決めた人がいてもか?」


「うんっ、お願い・・・」


こんなに懇願されては断りづらい。


マーシャには悪いけど、
もう少し、俺はクラッピーを見ていてあげたいというのも正直な気持ちだ。


「・・・わかったよ。」


「ほ、ホントッチョか!?」


嬉しさのあまりに口調が戻ってしまっている。


やっぱり、
いつものおどけたクラッピーがいい。


「・・・ああ。じゃあ、期限を決めよう。」


「え、期限?」


「期限を決めなきゃキリがないだろ。」


「そっか!じゃあ明日でいいッチョ!」


「え・・・あ、明日でいいの?」


あれだけ頼み込んできたからには長期に渡ると思っていたが。


というか、
明日にはクラッピーに答えを出さなければならないということだ。


たぶん、変わることはないけれど・・・


「明日はボクちんも雪合戦にでるッチョ!リオナの敵だッチョよ!だからリオナに勝って優勝したら、ボクちんの彼女になってッチョ♪」


「はぁ・・・?話が違う。そもそもなんで彼女なんだ。俺は男だ。」


「じゃあ彼氏だッチョ。」


「あー・・そういう問題じゃなくてだな、明日の勝敗で付き合うか付き合わないかを決めるのはあまりにも理不尽じゃないか?」


「理不尽ってなんだッチョ。」


「・・・だから、たとえお前が勝ったって、俺はお前と付き合うかどうかはわからないって言ってるんだ。」


「えー。うん、じゃあ、それでいいッチョ。決めるのはリオナッチョ。でも、ボクちんは負けない。絶対、リオナを笑顔にしてみせるッチョ!勝ってリオナをもらうッチョ!」


じゃあねっ、と言ってクラッピーは颯爽とリビングから出て行った。


「・・・俺を負かして俺を笑顔にするってどーゆーことだよ。おかしなヤツ。」


矛盾してる。


しかも結局俺の話を理解していない。


でも、そこがクラッピーらしい。


「そうだリオナ!」


「うぁ・・・ビックリした。」


クラッピーが再び戻ってきたことにビクッと体をはねさせた。


「クロノスはどこだッチョか!?」


「・・・ああ、クロードなら俺のベッドで寝てる。起こすなよ。」


「じゃあ今日はボクちんもリオナのベッドで寝ていいッチョか?リオナはボクちんとクロードのベッドで寝ればいいッチョ。」


「・・・うん。じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらおうかな。」


「そうすればいいッチョ!」


そう言ってまた走り去って行った。


きっとクラッピーはまだ気づいてないんだな。


本当は、俺なんかより、
もっと心奪われてる相手がいるのに。


恋とかそういうことを抜きにしてさ。


まぁ、その相手がまだすごく幼いっていうのもあるけど。


「・・・はぁ、ますます明日がイヤだよ。」


でも、もうやらないなんて言えない。


B.B.の情報も手に入れなきゃいけない。


モヤモヤする気持ちが留まる中、
足は自然とマーシャの部屋に向かっていた。


気がつけば扉をノックしようと手を上げている。


だが、手を止めて、一瞬迷った。


きっと一度不満や不安を吐き出したら、止まらなくなる。


今日は大人しく寝ようかな。


と、踵を返した時だった。


背後から手首を掴まれ、
ノックしようとした扉の中へ引き込まれる。


「マーシャ・・・!?」


真上を見ると、
部屋の主は満足気にリオナを後ろから抱きしめ見下ろしていた。


「リオナのニオイがした。な〜に帰ろうとしてるの。」


「ニオイって・・・犬じゃあるまいし。」


「ね、今日は一緒に寝よ。」


「・・・ヤダよ。また変なことするじゃん。」


「しないよ。約束する。ね。」


ニッと笑うこの笑顔に騙されてしまう。


「・・・仕方ないな」


「そーこなくっちゃ」


本当は嬉しくてたまらないくせに・・・俺のいじっぱり。
と、自分自身を罵倒する。


リオナは後ろから抱きしめられたままマーシャと共にベッドに転がった。


でもマーシャの顔をちゃんと見たくて、
グルリと体をまわして向かい合う。


マーシャは優しい目をしながら、
リオナの手を握ったり離したりして遊んでいる。


「・・・マーシャ、何か言う事ない?」


雪合戦に参加することになったのは、
元をたどればマーシャのせい。


しかしマーシャは「なにが?」としらばっくれる。


「・・・マーシャがシュナに余計なこと言ったせいで、俺が参加する事になっちゃったんだ。」


「あらら、じゃあ明日はカメラ持ってかなきゃ。」


「そうじゃなくて・・・!」


「はいはいわかった。悪かったよ。勝手に手を回して。」


「・・・・・・」


「これで満足か?」


「・・・満足じゃない。」


もうこんなこと、実際どうでもいいんだけど。


マーシャの前だと、どうやらワガママで貪欲になるらしい。


シュナが言うには俺みたいなヤツをツンデレと言うようだが。


不満そうにむくれるリオナを、
マーシャは笑いをこらえてリオナの額にキスをした。


「そっかぁ。俺のお姫サマはご機嫌ナナメなのね。」


「・・・お姫サマゆーな。」


「どうやったら笑ってくれる?」


「・・・・・・して。」


「え?」


リオナは少し恥ずかしそうに、
マーシャを見上げる。


「・・・明日、応援して。他の人はダメ。俺だけ応援してて。」


「おま・・・マジで反則だよ、その可愛さっ!」


ギュゥゥゥゥッと抱きしめられ、
恥ずかしさがマックスに達する。


でも、心の奥底では安心している自分がいる。


「ちゃーんと応援するからね!シキに徹夜でおっきい横断幕作ってもらおうね〜!」


「横断幕・・・?うん、まぁ、そうして。じゃないと俺、クラッピーの彼女になっちゃうらしいから。」


その瞬間、マーシャの顔が強張った。


この反応が、ますますリオナを喜ばせる。


「はい?」


「・・・クラッピーがね、明日の試合で俺に勝って優勝したら、俺を彼女にするんだって。」


「はぁあ!?」


今にも部屋を飛び出しそうになるマーシャを全身で止める。


「まさかリオナ・・・アイツと約束したんじゃねぇよな」


「・・・・・・。」


「イイって言ったのかよ!!何でだよ!リオナには俺がいるだろ!?」


「・・・マーシャがいるからだよ。」


「どーゆーこと!?ちゃんと説明しろ!」


両肩をガッチリ掴まれて、
逃げようにも逃げられない。


言えば怒るとは思っていた。


でも、隠しているのもなんだかイヤだ。


「・・・だから、俺にはマーシャがいる。クラッピーがもし勝っても、俺はクラッピーのものになるつもりはない。ただ、クラッピーがチャンスをくれっていったから、マーシャだけを見ないであいつ自身もちゃんと見て欲しいって言ったから、明日一日、チャンスをやったんだ。あんな真剣なクラッピーは久々に見たんだ。だから、俺も応えてあげたいんだよ。」


「それでも!それでも俺は、ちゃんとあの馬鹿ピエロにお前の口から言って欲しかった。」


「・・・なんて?」


「リオナはマーシャ様のものだってさ!」


「・・・俺が言うわけないでしょ。」


「えー、ひどい。」


マーシャは不満気に眉を寄せると、
リオナを抱き寄せて頭を胸に押し付けてきた。


「リオナ・・・俺のこと本当に好き?俺だけ突っ走ってるみたいで、なんか不安だ。」


まるで子供がオモチャを取られたようないじけようだ。


けど、憎めない。


「・・・マーシャが不安なら、俺の方がもっと不安だよ。」


「へ?なにが?」


「・・・ううん、なんでもない。」


きっとね、俺は思った以上に貪欲なんだよ。


マーシャ以上に、マーシャを想いすぎてるのに、マーシャは気づいてない。


もちろん、自分自身も。


いいよ、このまま気づかないで。


知られてしまったら、
知ってしまったら、
俺はきっと、
何もかも考えられないくらいに、
欲望に縋ってしまうから。


でも、
この時、
なんで俺はマーシャの"不安"を拭ってあげなかったんだろう。

そうしていれば、
あんな風に、
傷つくことはなかったのかな。




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