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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story111 わだかまり

「さぁ〜って、そろそろ動かなきゃな」


シュナはリオナとマーシャがいなくなった後、
二度寝をして昼になってようやく体を起こした。


こんなにゆっくりしたのは久々だ。


「それにしてもリオナ、幸せそうだったなぁ。」


思い出すだけでニヤニヤする。


マーシャさんからあんなに愛されて、
世の中の女子が羨ましがるだろう。


もちろんリオナを好きな女の子は逆にマーシャさんを羨ましがるのかもしれない。


そう言えばさっき、
マーシャさんはリオナを追いかけて出て行く前に、
珍しく俺に"お願い"をしてきた。


"おいシュナ。"


"どうしました?"


"明日、雪見祭最終日だよな?"


"そうですよ!雪見祭最終日はエージェントで雪合戦ですからね。優勝チームには豪華景品!マーシャさんたちが雪かきして雪をあつめて下さったおかげですよ!あ、でも残念ですね。ラードさんとユリスさんたちもせっかく手伝ってくれてたのに、長期任務で不参加なんてツイてないですよ。"


"まったくだ。なぁ、シュナは参加するのか?"


"もちろん俺は参加しますよ。じゃないとマスターに叱られます。"


"じゃあさ、リオナも一緒に参加させてくれねぇか?"


"えっ、リオナですか!?ムリですよムリムリ!リオナのやつ、もう[絶対やらない宣言]してましたもん!!"


"そこをなんとか頼めないか?俺は参加できねぇからさ。"


"えー!そうなんですか!?せっかく同じチームになって頑張ろうと思ってたのに!!"


"悪いな。ドクターストップでね。それより、頼むよ。リオナを無理矢理でいいから参加させてよ。"


"無理矢理なんて尚更イヤですよ・・・"


"リオナには、今絶対必要なんだよ。"


"え・・・雪合戦がですか?"


"そう、雪合戦がね。"


そう言って、マーシャさんは複雑な表情を浮かべていた。


きっと、
この先リオナがエージェントたちから孤立することがないように気遣っているのだ。


リオナもそのマーシャさんの気持ちには気がついてるはず。


だけど、怖いんだよね、わかるよリオナ。


「・・そうか。だから俺が支えてあげなきゃいけないんだ!」


仲間であり、親友である俺が。


「よしっ!」


シュナは意気揚々と立ち上がり、
早速リオナの部屋に向かった。


でも、どうやってリオナを説得しようか。


意外と頑固だから。


「うーん・・・困ったなぁ。」


[なにがだよ。]


「何がって・・・あれ?」


気がつけば横にナツがいた。


ナツは軽くシュナの頭を叩くと、
スタスタと先を歩き出す。


「イタッ!ちょっとナツ!ビックリしたよ!?」


[お前がボケぇっとしてっからだろ。]


「酷いね!」


たまに嫌な感じだな!と思いながら、シュナはわざとナツを追い抜き先をゆく。


しかし、しばらくたっても後ろからナツがついてくる足音がして、バッと振り返った。


「ついてこないでよ!」


[は?たまたま方向が一緒なだけだ。そんなにイヤならわざわざ俺の前を歩くな。]


すると再びナツが前をゆき、
そんなナツにシュナはムッとしながらリオナの部屋に向かった。


やっぱりナツは同じ方向に歩いている。


ナツはエレベーターに乗ると、後ろにいたシュナに目を向けてきて。


シュナは警戒するようにナツを見据えていると、
ナツが呆れたようにため息をついた。


[ったく。乗るのか?乗らないならドア閉めるぞ。]


「え、の・・・乗る!」


はっとして慌てて乗り込んだはいいが、なんだか気まずい。


しかも向かう先が同じ階だなんて。


「もしかして、ナツもリオナに用があるの!?」


そこでようやく気がついた。


ナツはきっとリオナに会いにいくんだ。


一体何をしに?


[なんだよその言い方。まるで行っちゃいけないような言い方だな。]


「べ、別にそういうわけじゃないよ!ただ・・・何しにいくのかなって。」


本当はヤキモチ妬いてるってことは自分自身わかってる。


最近リオナとナツは任務に行って仲が深まったみたいだし。


リオナは基本、人から好かれても決して自分からは寄り付かないのに。


今まで俺は自分だけがリオナの親友だと思ってたから。


そんな考え、いけないよね。


「・・・ごめんね、ナツ」


しゅんとして、顔を下げる。


そんなシュナを見て、
ナツは少し戸惑ったように目を泳がせた。


[な、んだよ、急に。調子狂うからやめろ。]


「うん・・・ごめん」


[だぁから謝るな!]


小さく舌打ちすると、イライラするように足をトントンさせている。


これ以上何か言うのは危険かもしれない。


シュナは黙ってエレベーターの隅に寄った。


早く到着しないかな。


しかし到着したところでナツも行き先が一緒なんだ。


なんだか出直したい気分。


リオナに変な気は使わせたくないし。


ああ、なんだか寂しいな。


[おい]


「は・・・はい」


[なんでお前落ち込んでんだよ。つーか着いたけど、降りないのか?]


どうやら到着していたようで、
すでにナツはエレベーターから降りていた。


「お、俺・・あ、あとで来るから!先行って!」


[ぁあ?なんでだよ。お前も用事があるんだろ。]


「いや・・・今すぐ言わなきゃいけないっていう用事なわけじゃないから!ごゆっくり!」


シュナは慌ててエレベーターの閉めるボタンを押した。


ドアがゆっくりと閉まり始めた途端。


[待てよ!]


ナツの両手がエレベーターの扉をこじ開け、
シュナの手を捉えた。


無理矢理エレベーターから降ろされ、
あっと言う間のことに茫然としてしまう。


当のナツも自分が何をしでかしたのかわからなかったようで、
一瞬ポカンとして、それからだんだんと恥ずかしさからか顔を赤く染めた。


「ナ・・・ナツ?」


[お、俺はただ・・・リオナの部屋がわからなかったんだよ!案内しろ!!]


取ってつけたような理由に思わず笑ってしまいそうになったが、
これが彼なりの優しさなんだ。


きっとナツは気を使われるのが嫌いなんだ。


繕った人間関係など、必要としない。


それは俺自身も憧れる理想の関係だ。


理想としているのに、実行できない自分が本当に情けなかった。


「ごめんね」


何度目になるかわからない謝罪を繰り返す。


[次謝ったら殺す。]


「わかった。もう謝らない。」


シュナは苦笑を浮かべ、
ナツに並んでリオナの部屋を目指す。


「俺はね、今からリオナを雪合戦に誘いに行くんだ。マーシャさんにリオナを誘ってって頼まれちゃってさ。参ったよ。」


[雪合戦なんてやるのかよ・・・まぁ、アイツは絶対やらないだろうな。]


「でしょー。あ、ナツは参加しないの?」


[するわけねぇだろ。]


「優勝すれば豪華景品が貰えるんだよ?」


[・・・あのシスコン野郎がくれるモノなんてたかがしれてる。]


確かにビットウィックスからの豪華景品はなんだか不安だ。


変な実験道具とか入ってそう。


「そっかぁ。できたらナツも同じチームになって欲しかったのにな。」


[なんでだよ。]


「何でって、友達だから?」


何も考えずに自然と口から出た言葉に、
ナツは目を見開き、口を何度かパクパクさせた。


[と、友達だと!?]


ナツの過剰な反応に首を傾げる。


「そうだよ?」


[いつ・・・いつからだよ!]


「うーん、友達って自然になるものだしなぁ〜」


[そうなのか・・!?]


「そうだよ。」


そうなのか、と頭を抱えるナツを見て、自然と笑みがこぼれた。


やっぱり、ナツはいい奴だと思う。


たまに嫌味を言ってくるが、
それも彼なりの愛情。


本当は案外寂しがり屋な気がする。


"友達"という言葉一つでここまで動揺するのだから。


見ていて本当に可愛い。


言ったら半殺しにされるに違いないが。


「ねぇ、やっぱりナツもやろうよ、雪合戦!」


[な、だから俺はやらないって・・・]


「ナツもいたら絶対楽しくなるよ!それにナツもやるって言ったらきっとリオナもやるっていう!ね!お願いだよー!」


しばらくナツは疑うような目を向けていたが、
次第に普段の鋭さを緩め、困ったように頭を掻いた。


[そ・・・そんなに言うなら。]



「やったぁ!」


[仕方なく、だッ!!ただやるからには絶対優勝するからな!しなかったらお前が何かおごれ!いいな!?]


「うんうん!おごるおごる〜!」


[あーもーくっつくな!!]


「だって嬉しいんだもん!」


[はぁ・・・で、1チーム何人なんだよ]


「えーと、10人以上。」


[はぁ!?あと7人必要なのかよ!たかが3人で喜んでんじゃねぇ!!]


「まぁまぁ。なんとかなるよ!きっと!」


[なぁにがなんとかなるだよ!!大体お前はそうやって楽観視ばっかしてるからだな・・・]


ナツの小言を聞き流しながら、
シュナは何ともいえない幸福な気持ちで胸が一杯だった。






































マーシャとクラッピーの喧嘩の騒がしさに呆れ、
リオナはリビングから離れた自室でクロードに勉強を教えていた。


「・・・クロード、この問題、わかる?」


「うん、わかる!でもね、どうしてこうなるのか、わからない。」


「そっか。この式はね・・・」


クロードは見た目は幼くても、実際はリオナと同じくらいの年月を生きてきている。


だからそれなりに知識もある。


教えることなんてそんなにないが、
こうやってわからないところを聞いてくるところが可愛い。


弟みたいだ。


そんな事を思っていると、
突然部屋の扉が開き、
2つの足音がドカドカと部屋に踏み込んできた。


少し驚いて顔をあげれば、
シュナとナツがいた。


「聞いてよリオナ!ナツのやつ俺が女みたいに優柔不断だっていうんだ!」


[本当の事を言ってるだけだ。]


「ひどーい!」


また騒がしい奴らが増えた、とリオナは深いため息をつく。


「・・・ったく。どうでもいいだろそんなこと。それより、なにか用?今クロードと勉強してるんだけど。」


クロードという名前をだすと、
ふとナツの目がクロードに向いた。


興味津々といった顔でクロードをまじまじと見ている。


[ああ、コイツが噂の"時の神クロノス"か・・・]


別に睨んでるわけではないのだろうが、
普段から人を怖がらせる要素があるナツに、クロードは完全に怯えてしまっている。


クロードは横にいるリオナにギュッとくっつき、今にも泣きそうな目をナツに向けていた。


リオナはその様子を面白がりながらも、クロードを庇った。


「・・・怖がらせるなよ。」


[なっ!別に俺は怖がらせてたわけじゃない!]


ふんっと鼻をならして顔をそらす。


で、結局何をしにきたんだか。


「そうそう!あのねっリオナ!」


心を読んだようにシュナが苦笑を浮かべながらリオナの両手を取った。


「一緒に雪合戦に出よう!」


「・・・遠慮する。」


「早いよ答えるの・・・」


そんなこったろうと思った。


雪合戦なんて・・・参加しないよ。


きっと俺がシュナと参加したら、
シュナまでエージェントたちの目の敵にされかねない。


迷惑をかけたくない。


「チーム人数が足りないんだよ。お願いリオナッ・・!」


「・・・悪いけど、今はそんな気分じゃないんだ。他を当たって。」


シュナのお願いなら聞いてあげたい。


でも、思った以上に、俺はまだ怖がっているのかもしれない。


"狂気"の存在、そしてエージェントたちの目を。


自信がないんだ。


[おい、リオナ。]


「・・・?」


ナツが今度はリオナを目で捉えた。


本当に鋭い目をしている。


[てめぇは強制参加だ。]


「・・・はぁ?なんでだよ。」


[俺が参加するのにお前が参加しないのはおかしいだろ。]


「・・・いやだからナツが参加するからってなんで俺まで・・・・・・って、え、ナツ、参加するの?」


確かにナツは"参加する"と言っていた。


ありえない。


あのナツがどうして。


「・・・頭打った?」


[打ってねぇよ。]


「・・・雪合戦だよ?」


[知ってるから!頭も正常だしちゃんとわかってる!]


じゃあ何で。


おかしすぎる。


[シュナがどぉぉぉぉしてもやってほしいってゆーから、仕方なく、だ!!わかったらもう何も聞くな!]


「そうなんだリオナ!ナツもやるんだよ!?ねっ、一緒にやろっ!」


[それに、俺がこんな行動をとるようになったのも、原因はお前にあるんだからな。]


何で俺に・・・と思った。


しかし、よく考えてみれば、
ナツが人並みになったのは確かに俺のせいかもしれない。


今回の任務で、だいぶナツは変わったはずだから。


それでも俺がやる義理はない。


リオナは頑なに首を横に振った。


「・・・だけど俺は無理だ。嫌なんだよ。それに、B.B.のことだってある。アイツをまずは探さないと。」


手がかりすらないんだ。


どこからどんな情報が引き出せるかも検討がついていない。


[なんだ、そんな事か。]


ナツの素っ気ない一言に、
一瞬ムカッとした。


ナツにとってはどうでもいいことかもしれない。


でも俺にとっては一大事。


相棒がいなくなったんだ。


リオナは睨むようにナツを見据える。


しかしナツは、そんなリオナを見て鼻で笑った。


[取引だリオナ。]


「・・・?」


突然の話の流れに
若干頭がついていかない。


[俺はラビン・・・いやB.B.の情報を知ってる。まぁ、正直な話、居場所とかじゃないけど。]


なんでナツがB.B.の情報を?


たとえ居場所じゃなくてもなんらかの手がかりになるものなら知りたい。


でも、あくまで"取引"。


雪合戦に参加するなら教えてやるってことか。


それにしても・・・


「・・・なんでそんなに俺を参加させたいんだよ。」


別にナツとシュナにメリットがあるわけじゃない。


むしろデメリットになりうる。


なのになんで。


[俺に聞くな。俺はこいつに頼まれただけだ。]


そう言ってナツはシュナを前に押し出した。


シュナは困ったように目を泳がせていたが、観念したのか小さなため息をついて口を開いた。


「マーシャさんに頼まれたんだ・・・」


「・・・マーシャに?」


「そうだよ。理由は知らないけど、とにかくリオナを雪合戦に参加させてってお願いされちゃったんだ。」


なんでマーシャが?


マーシャが1番、俺の気持ちを察してくれてたんじゃないの?


リオナは一瞬マーシャを恨みそうになる。


「でもねリオナ、俺、マーシャさんの気持ちわかる。」


「・・・俺にはわからないよ。」


「ううん、きっとわかるはずだよ。やったらわかる!ね!」


さっきまではマーシャからの嫌がらせかと思ってた。


でも、シュナがそういうなら、嫌がらせではないようだ。


シュナも、このナツでさえ、
必死に俺を引っ張り出そうとしてくれてる。


この狭くて暗い檻のような心から。


ああ、そうか、マーシャ。


マーシャの想い、少し、伝わったかも。


リオナはクスッと笑うと、
しょうがないな、と2人を見上げた。


「・・・わかった。参加する。だけどナツ、さっきの約束は忘れないで。参加するから、後でちゃんと教えて。」


[はいはい。ったく、世話の焼けるやつ。]


「・・・お前は一言多いんだよ。」


「あっ!やっぱリオナもそう思うよね!!ほらナツ言ったじゃん!」


[っるせぇなぁ!]


グダグダとくだらない会話が始まる。


嫌じゃないんだけど。


むしろ、なんか楽しい。


そんな3人のやりとりの中、
今までリオナの影に隠れていたクロードがリオナの服をグイグイと引っ張ってきた。


顔を向けると、
クロードの目がキラキラと宝石のように輝いていた。


「お兄ちゃんっがんばってね!ぼく、応援してるから!」


そんな真っ直ぐな目で応援してると言われたら、負けられないではないか。


「・・・ありがとう。頑張るよ。」


「うん!」


あまりの可愛さにクロードをギューっと抱き寄せる。


[お前もショタコンか。]
とナツの余計な一言が聞こえた気がしたが、あえて無視した。


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