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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story110 幸せの時




化神が侵入してきた翌日。


マスターの指示通り、雪見祭が再開された。


昨日の戦闘があったにもかかわらず、ダーク・ホームには楽しげな声が響いている。


メンバーは城下町に住む子どもたちを喜ばせていたり、自身もどんちゃん騒ぎで楽しんでいるようだ。


そんな中、
昨日化神が侵入してきた結界の"穴"を辿り、
その先にあった化神のファクトリーに侵入していた先鋭部隊が帰還した。


この先鋭部隊はダークホーム所属ではなく、
天上界の大魔王サタン直属の優秀な戦闘部隊であり、
リーダーにはナツの兄妹であるハルとアキがいる。


その2人がマスターであるビットウィックスの元に早朝やってきたのだ。


そのため、
第一使用人であるシキは、
マーシャと飲み明かして二日酔いにもかかわらず、
朝イチでマスタールームに呼びだされた。


シキは小走りでマスタールームに駆け込む。


「遅れました、すみません。」


マスタールームにはすでにハルとアキの姿があり、
徹夜で任務をしていた2人に申し訳ない気分になる。


椅子に座っていたビットウィックスの横に立つと、
ビットウィックスが小声で「お仕置きかなぁ」とにこやかに呟いていたことに身体を震わせた。


「さて、じゃあ報告を聞こうか。ああその前に、久しぶりだね。」


ビットウィックスの言葉にハルとアキは軽く頭を下げた。


[あなたのお陰で、またサタンの護衛につけて俺もアキも光栄に思ってる。ありがとう。]


「いえいえ。私もずいぶん君たちには助けられたから。それで、どうだった?あの"穴"の先は。やっぱり化神が造られてた?」


[はい。内部にはまだ眠っている化神もいれば実験に失敗したと見られる死体もありました。お気づきだとは思いますが、使用されている死体はすべて大魔帝国民と時天大帝国民のものでした。恐らくフェイターはローズ・ソウルと、回収した死体を利用して、人工的に化神を生み出したようです。しかしローズ・ソウルは見つからなかったので、最初から我々に見つかる可能性を視野にいれていたのでしょう。]


「なるほどね。シキ、他にもそういったファクトリーがある可能性って考えられる?」


突然話をふられ、一瞬眠っていたとも言えるはずもなく、
頭をフル回転させて答える。


「・・・ええ、はい。フェイターによって、ローズ・ソウルと関係なく壊滅させられた国はいくつかあります。その国々の人民の死体も同じように見当たらなかったのは、実験のために回収されたに違いありません。現時点で、大魔帝国と時天大帝国の国民の死体しか見つかっていない、そしてフェイターが我々に見つかる可能性を考えていたなら、もう1つ存在すると考えていいでしょう。」


火事場の馬鹿力って言っていいのか。


こういう時ほど饒舌になる。


「完璧な見解だ。今日の遅刻は免除しよう。」


満足気に笑うビットウィックスに、シキは安堵のため息をついた。


[ちなみに、あのファクトリーは危険と判断し、全て抹消してきました。なのであとはこの調査書をご覧になっていただければ。]


ハルは綺麗にまとめられた調査書をビットウィックスとシキに手渡す。


何から何まで本当に几帳面だ。


「ありがとう。助かるよ。では後はもうゆっくり休みなさい。ああ、今日はダーク・ホームに泊まるのだろう?」


[いえ、すぐに天上界に帰還します。任務がありますので。]


ハルの言葉にあわせて、
全く反応を見せていなかったアキが、ようやくコクッと頷く動作をみせた。


「まったく君たちは休暇すら貰えないのかい?せっかく祭もやってるのに遊んでいったらどうだい。」


[いえ。俺はともかくアキはどうも賑やかなのは苦手なので。]


それはアキ本人を見ていればわかる。


対人恐怖症ではないのだろうが、他人の干渉を一切断ち切っているように見える。


[なので、弟にだけ会って帰ろうと思います。]


ハルの言葉に心底残念そうな顔をするビットウィックス。


そんなに祭を見て欲しかったのか。


「そっか。じゃあこれ以上は引き留めないよ。でもよかった、ナツには会ってくれるんだね。彼、すごい淋しがってたよ。1人は嫌だよぉって泣くところだったんだから。」


また大袈裟に言って・・・


ナツが聞いたら何というか。


シキは何も言わず、
我関せずと顔を背けたのだった。



















[あっ!アニキ!!]


ナツはシキにマスタールームにこいと言われ、しぶしぶ階段を降りていると、マスタールーム前に久々に見る兄と妹がいて目を丸くした。


思わず叫んでしまったのが恥ずかしい。


[ナツ、元気そうで何よりだ。]


ハルは目を細めて笑い、
ナツの頭を撫でた。


恥ずかしいったらありゃしない。


[や、やめろよ!俺はガキじゃない!!]


[そうか。もうお前も大人か。]


[うるせぇ!]


ギャーギャー騒いでいると、
普段無口のアキが、突然ナツの服を掴んだ。


なんだよ、と
ナツが顔を向けると、
アキがナツに抱きついてきて、内心驚いた。


[なっ、おい、どうしたんだよっ。はなれろ。]


ぎこちなく言うと、
アキは素直に離れていく。


しかし顔を見れば今にも泣き出しそうだ。


[ったく・・・どうしたんだ、アキ?]


[ごめんね・・・ナッちゃん]


アキの声を久々に聞いた気がする。


それにしても、未だに"ナッちゃん"と呼ばれていたなんて・・・
本当に恥ずかしい。


[なんで謝んだよ。別に何も悪いこと・・・]
[私たち、ナッちゃんを1人にした・・・だから、ちゃんと今度は連れて帰る。ナッちゃんも、一緒に天上界帰ろう。]


アキの無駄のない言葉はなかなか理解しづらい。


ナツはわけがわからないという風に、
ハルに通訳を求めた。


[アキはだな、お前を1人ダーク・ホームに残したことを詫びてるんだ。俺もお前を1人にして悪かったと思ってる。]


[んなこと・・・気にしてねぇっての。]


まぁはじめは何で俺だけ下界の人間どもと生活しなきゃなんねぇんだよ、と何度もビットウィックスに訴えた覚えがある。


しかし今となってはもうどうでもいい。


[ナツ、サタンから直々に許可をいただいた。ナツも天上界で俺たちと一緒に暮らせることになった。]


[えっ]


[しかもナツに先鋭部隊の1チームを任せることになった。]


突然のことで、ナツは固まった。


一瞬で答えが出せない。


[何を迷う必要がある。嬉しいだろう?]


ああ、嬉しかっただろう。
ひと月前の俺が聞いていたら。


喉から手が出るほど欲しかった地位と名誉と兄弟三人で暮らせる平穏。


だけど、今の俺にはどれも輝いて見えない。


[ナツ?何か煩わしいことでもあるのか。]


[・・・ああ、そうだな。煩わしい、ホント煩わしくて仕方ねぇんだ。]


そう言いながらもクスクスと笑うナツを、
ハルとアキは怪訝な表情で見つめる。


[アニキ、俺、悪いけどココに残るわ。]


[なぜ?]


[さぁ、なんでだろ。アニキの言うように、迷うことなんて無いんだ。迷わず天上界に行っちまいたいよ。でも、きっと天上界には俺が求めてるものが無い。]


実際、自分が何を求めてるかなんて、サッパリ分からないけど。


でもなんとなく、ココじゃなきゃダメな気がするんだ。


[なぁ、"仲間"とか"友情"っていうのはよ、案外めんどくさくて、くだらないもんなんだ。2人とも、わからないだろ?]


[ああ。わかりたくもないがな・・・]


だけど、それがとても輝いて見えて、なかなか手放せない事も知っている。


ああ、本当に煩わしい。


[俺は今の生活を・・・もうちょっと続けてみたいんだ。だから悪い。折角だけど、俺は行かない。]


今までも散々ワガママを言って2人を困らせてきた。


だから、これが最後のワガママ。


俺は・・・もう大丈夫。


[ナツ・・・本当に大きくなったな。]


ハルが優しく笑いかけてくる。


横でアキも小さく笑っていて。


これでよかったんだと、心の底から思う。


[ナツが決めたならそれでいい。とにかく、お前が元気でいられるなら俺とアキは何も言わないよ。]


[ありがとな。]


[じゃあ、俺たちは帰る。また顔を出すから。]


そう言って、ハルはもう一度ナツの頭を撫でた。


最後はナツも、反発しなかった。


俺たちは、同じ目的でも、違う道を歩もうとしている。


このご時世だ、もう二度と会えなくなる可能性もある。


だから、一回一回の別れを、
大切にしたいんだ。


[アニキとアキも、元気でな。また、絶対に会いにこいよ!]


[約束だ。]


そう言って拳と拳をぶつけた。


その時ふとリオナの顔が浮かんだ。


アイツと出会わなければ、
きっとここには残らなかった。


いや、アイツが居なければ、迷わず天上界へ行っていた。


俺を変えたのは、リオナだ。


[あ、アニキちょっと待って。そういえば聞きたい事がある。]


リオナで思い出した。


アイツの相方のB.B. がいなくなった事を。


もしかしたら、アニキが何か知っているかもしれない。


[なぁ、俺たちと同じ"アルティメイトプロジェクト"の黒ウサギ、覚えてるか?]


"アルティメイトプロジェクト"とは対神用最終兵器計画のことで、
人間を人工的に悪魔に変えるという実験だ。


この実験の初めての成功例がナツたちキャロル3兄弟であり、人類初の
対神用悪魔最終兵器とされている。


リオナは自然に悪魔となったため、
どちらかというと、人間と悪魔のハーフのビットウィックスに近いが。


[ああ、覚えてる。確か実験に失敗した黒髪の子どもだろう?最後はチカラを抑えられずに黒ウサギに閉じ込められたっていう・・・名は"ラビン"だったか?]


[そう、ただ今は"ラビン"じゃなくて"B.B."って呼ばれてるみたいだけど、そいつさ、つい最近天上界に連れてかれたろ?あのモリン=クィーガっていう政府のイヌに。]


その時、
ハルが一瞬眉をひそめた。


[モリン=クィーガは知ってるが・・・ラビン・・いやB.B.と言ったか?そいつは天上界に来ていないぞ。]


[はぁ!?]


話が違う。


モリン=クィーガはあの黒ウサギを天上界に送り返したと言っていた。


その後ビットウィックスから黒ウサギが天上界から逃げ出したと聞いた。


辻褄が合わない。


でもビットウィックスが嘘をつくはずがない。


何かがおかしい・・・


[おかしいよ・・・・・・]


するとアキの小さな声が聞こえ、
ナツは耳を傾ける。


[天上界に・・・モリンは行けないはずだよ。だって・・・・・・人間だもん。]


アキのごもっともな意見に、
ナツとハルはああ確かに、と大きく頷いた。


[恐らくビットウィックスが聞かされた"黒ウサギの逃亡"は、モリンが赤の屋敷の悪魔に流したデマだろう。基本、ダーク・ホームのマスターは、赤の屋敷の悪魔たちから天上界の情報を手に入れるからな。]


[チッ・・・それをモリンに逆手に取られてデマ流されたってことか。]


あの役立たず!
とナツは心でビットウィックスを罵る。


[ってことはよ、黒ウサギは鼻っから天上界に連れてかれてないんだ。モリンがどこかに連れ去ったかあるいは・・・]


それ以上は言えず、
ナツは言葉を濁した。


でもまだ、希望はある。


あの黒ウサギは強い。


本気を出せば俺たち3人だって簡単にやられるだろう。


とにかく、このことをリオナに知らせなくては。


[ナツ]


[なに?]


[お前、今いい顔してる。]


[・・・!?]


いい顔って・・・


ナツは恥ずかしくて2人に背を向けた。


きっとこれも、リオナのせいだ。


クソ・・・あいつめ。


ナツは強制的に終わらせるように、
ハルとアキに向けて乱暴に手を振った。


[あ、ありがとよ・・・!!また顔だせよ絶対!じゃあな!]


そんなナツに、
ハルとアキは顔を合わせ、クスクス笑ながら、
その場を後にした。


やっぱりそれでも最後に兄弟の姿くらい見ておきたいと、
ナツは勢いよくバッと振り返ったが、すでにそこに2人の姿はなかった。


[あーあ・・・]


自分のバカ。


なんて意地っ張りだ。


わかっていても、治せない。


それが"俺"なんだ。


でもきっと、
2人はそれを分かってるから・・・


[絶対・・・なにがなんでも生きろよ]


小さく呟き、
ナツも引き返していった。




















朝、
目が覚めると何故か横にマーシャが眠っていた。


おかしいな・・・昨日はシュナの部屋で寝ていたのに。


隣にいるのはシュナのはず。


俺、寝ぼけて間違えた?


いや、間違っていない。


ここはシュナの部屋だ。


ベッドの端にはちゃんとシュナもいる。


どうやらこの赤髪の酒臭い男は俺とシュナの間に割って入って眠ったようだ。


なんて迷惑な・・・


リオナは眠気まなこでマーシャを見つめる。


夜中、
ずーっとシュナにマーシャとのことを質問攻めされ、
あまり寝た気がしない。


二度寝したいところだが、
隣にマーシャがいてはシュナにまた色々と勘違いとか質問をされそうで気が気じゃない。


まったく・・・この男はなんて能天気なんだ。


飽きれて溜め息が漏れるも、
リオナの表情は無意識に笑っていた。


まるで愛しいものを見つめるかのように。


「んぁ・・・あれ、リオナ?」


すると、マーシャが目を覚ましたようで、
目をこすりながらベッドから起き上がった。


「リオナおはよー」


「・・・おはようじゃなくて、なんでここにいるのかなぁマーシャ。」


軽く咎めるように言ってみるが、
通じるわけもない。


マーシャは満面の笑みでサラリと答えた。


「そりゃ、リオナの可愛い寝顔が見たかったからさ。」


「・・・可愛いゆーな。」


「またまた照れちゃってぇ。だって本当のことじゃねぇか。なぁそれより、アレしてよ。あーれ」


マーシャはニヤリといやらしい笑みを浮かべると、
リオナに顔を近づける。


逆にリオナは反射的に顔を引いたが。


「・・・な、なに?」


「しらばっくれんなよ。昨日も散々ヤっただろぉ?」


ペロッとマーシャが唇を舐めるのを見て、
カァッと一気に熱が上昇するのがわかる。


朝からなんて奴だ。


「・・・い、イヤだ!アレは、その・・・簡単にするものじゃないんだ!」


「そんなこと言うなよ。簡単がイヤならちゃんとじっくり愛してやるから、な?」


「な・・・ちょ、イヤ!やだやだ!やめっ」


マーシャがリオナの体を押し倒し、両手を押さえつけると、
顔をグイッと近づけた。


「それじゃあ、いっただっきま〜・・・て、シュナ。ちょっとそんなに見られてちゃヤリ辛いから。」


ハッとしてシュナの寝ていた方を見ると、いつの間に起きたのかシュナがニヤニヤとこちらを見ていた。


すごく恥ずかしくて、
リオナは手足をばたつかせる。


「・・はぁなぁせぇぇ!」


「イヤだよ。なぁシュナ?」


「あ、俺のことは気にしないでやっちゃってください!」


「・・・シュナのバカ、マーシャのアホ、変態、スケベおやじ!!」


「ぐあ!!」


リオナの肘鉄を腹にモロにくらったマーシャは、
ベッドから転げ落ちる。


リオナはその隙に立ち上がり、
部屋から出ていった。


「・・・はぁ、あんなこと、しなきゃよかった。」


昨日のことを後悔するなんて。


だってマーシャが・・・マーシャが悪いんだ!


シュナの前であんなことしようとするから!


リオナが頬をふくらませて自分の部屋に戻ろうとした時、
後ろから手をつかまれた。


振り返ればマーシャがいて、
苦笑しながらリオナの腕をしっかり掴み直していた。


「怒らないでよリオナ。ごめん、悪かったよ。」


「・・・別に。怒ってないし。」


「ウソ。そーゆーの怒ってるって言うんだよ。」


「・・・ふーん。じゃあ、怒ってるのかもね。」


本当はそんなに怒ってない。


マーシャの反応が見たくて。


なんて、言ったら怒るかな。


「リオナくんはご立腹かぁ〜。じゃあ、めいいっぱいご機嫌取りしなきゃだな。」


そう言ってマーシャはリオナをグイッと引き寄せ、
思いっきり抱きしめた。


「ちょっ・・、マーシャ?」


「ん?」


「・・・何してるの」


「何って、ハグ?」


本当、何考えてるかわからない。


いや、何も考えてないのかもしれない。


でも少しだけ、
心があったかくて、穏やかになった気がする。


リオナも無意識にマーシャの背中に手を延ばした。


「リオナ、大好き。」


「・・・知ってる」


「可愛い。」


「・・・可愛くない。男なんだこれでも。」


「知ってる。でも、俺の中じゃ何もかもが1番なんだよ。」


そう言って、マーシャはリオナの肩に顔をうずめる。


くすぐったくて、
思わず笑いがこぼれた。


「ハハッ!・・・マーシャくすぐったい。わかった、降参するからっ」


「じゃあ、許してくれる?」


「・・うん。」


マーシャは体を離し、
リオナの手を握った。


「よし、ならデートね。」


「・・・は?」


「祭り。昨日見れなかったじゃん。」


祭りか。


リオナは一瞬眉をひそめた。


"人殺し"


あの言葉が頭にこだまする。


今、他のエージェントたちの中には行きたくない。


まだ、勇気がない。


「ごめん・・マーシャ。俺まだ・・・」


「そうだよな、いいよ、気にすんな。その代わり、部屋でラブラブしよーねぇ。」


ラブラブ....まぁ、仕方ないか。


マーシャは優しいから。


2人は自室へ戻ることにした。


部屋につくとリビングにゆき、
ソファにドカッと腰を下ろした。


マーシャが近くにいると、
やっぱり落ち着く。


無意識にリオナは目をつむり、
マーシャに寄りかかった。


マーシャもそっとリオナの肩を抱く。


部屋は静けさに包まれていて、
こんなに静かなのは初めてダーク・ホームにきた日からたった数日間だった気がする。


数日後には、
あのうるさくてワガママな悪魔がやってきたからだ。


「・・・B.B.」


声に出して呼べば、
どっかから出てくる気がして。


いつものようにマーシャの髪をグシャグシャにしてケンカして俺の頭にしがみついたり。


いつもならうんざりするやりとりも、
今は恋しくてたまらない。


「やっぱり心配か?」


マーシャの腕に少し力がこもり、
リオナを優しい熱で包み込む。


「・・・心配だよ。アイツ、さみしがりじゃん。」


「オマケに泣き虫ときた。」


呆れたように呟くマーシャに、
リオナは眉根を寄せて見上げた。


「・・・マーシャは心配じゃないのか?」


「ああ。心配じゃないね。あんなウサギに気を配れるほど俺も暇じゃない。」


少しショックだ。


マーシャも多少なりとも心配していると思ったから。


でも、マーシャは昔からB.B.とケンカしてばかりだから・・・


「だけどよ」


リオナがため息をつこうとした時、
ふとマーシャが小さく呟いた。


「うるさい奴がいなくなると張り合いがなくなってつまんねぇ。」


リオナは一気に嬉しさがこみ上げ、
マーシャの肩に額を強く押し付けた。


「・・・でしょ?だから、早く迎えにいかなきゃ。」


「まぁ、リオナがそう言うならな。」


マーシャの手がリオナの顎をつかむ。


クイッと持ち上げられればマーシャと目が合った。


思わずそらしたくなるが、
やっぱりマーシャの瞳からは逃れられない。


2人はだんだんと顔を近づけていく。


息がかかる距離になり、
リオナはゆっくりと目を閉じた。


だがその時だった。


「こらぁぁぁぁ!!なにやってるッチョかぁぁぁ!!」


けたたましい声と共にドスンドスンと力強い足音が近づいてきた。


リオナがハッとして目を開けた時にはすでにマーシャの姿はみえず、
代わりにクラッピーの姿があった。


どうやらマーシャを押しのけたらしい。


「リオナぁぁ!大丈夫だッチョかぁ!?この変態に襲われたッチョね!?」


クラッピーは顔を真っ赤にして怒っている。


「マーシャ!今すぐ出てくッチョ!」


あたかもリオナは自分のものだとでも言わんばかりにクラッピーは言葉を吐き出す。


すると半分クラッピーの下敷きとなっていたマーシャが飛び起き、
クラッピーの髪を掴み上げた。


「てぇ〜めぇ〜いいとこ邪魔しやがって。しかも襲ってねぇし。同意の上だ。」


「なぁにが同意の上だッチョ!リオナ顔真っ赤だったッチョ!」


「お前は本当にバカだな。なんでリオナの顔が真っ赤だったか教えてやろうか?理由は3つ。1,リオナは俺が好きだから。2,リオナは俺とチューしたかったから。3,リオナは興奮してたからだ。」


リオナは驚きと恥ずかしさで両手で顔を覆った。


なんて奴らだ。


人の気持ちも知らないで勝手に・・・


「デタラメだッチョ!!」


「っるせぇなぁ〜!」


2人はソファーの上でケンカを始めてしまった。


これが始まると1時間は収まらない。


リオナは無言で立ち上がり、
リビングを出た。


すると、廊下で1人うずくまっている者がいて。


そっと近づいてみると、
クロードだった。


クロードはリオナに気づくと、
頬を赤く染め、
首と手を必死に横に振っていた。


「ぼ・・・ぼく、なーんにも見てないよっ!!」


「・・・・・・


きっと、いや、絶対見てたな。


目があちこちに動いてる。


可愛いやつ。


リオナはわざとニヤッと笑った。


「・・・恥ずかしかった?」


「そ、そんなんじゃないよ!?ただ、マー兄とお兄ちゃんが・・・その」


リオナの意地の悪い問い掛けに、
クロードはさらに顔を赤めた。


ちょっとイタズラしすぎたかもしれない。


「・・・ごめんごめん。」


リオナはクロードを抱きかかえ、額と額を合わせる。


するとクロードは嬉しそうに笑い、リオナもつられて笑った。


「お兄ちゃん、おかえりなさい」


「・・・ただいま。寂しかっただろ、クラッピーもいなくて。」


「うん。でも、みんな帰ってきてよかった・・」


ギュッとリオナの首に抱きついてきて、
急に、リオナは寂しい気持ちになる。


まるでクロードの寂しさがなだれ込んできたように。


クロードとリオナは生い立ちは違えど、一度家族や大切な者を失ったもの同士。


だから、1人になる怖さもよく知っているのだ。


「・・・大丈夫。俺はここにいるよ。」


「うんっ・・」


リオナはもう一度笑うと、
クロードの手を握った。


思った以上に小さい手だ。


柔らかくて、温かい。


「・・・俺がいない間、何してた?」


「えっとね・・ビットウィックスと遊んでたの。」


「・・・え、ビットウィックスと?」


「うんっ。あのね、絵本いっぱい読んでくれた。追いかけっことかくれんぼも!あと、寝る前に歌を歌ってくれたり、一緒にお風呂入ってくれたんだ。」


あのビットウィックスが・・・?


子供嫌いだと思っていた。


おそらく誰もが思っていたであろう。


まぁ、確かに子育て上手な感じはする。


でも、あの次期魔王候補でありダーク・ホームのマスターであるビットウィックスが追いかけっことかくれんぼだと?


しかも子守唄まで・・・


想像し難い。


「お兄ちゃん?」


「あっ・・・いやゴメン。ちょっと、意外だったから。」


リオナはビットウィックスのはしゃぐ姿を頭から打ち消す。


「・・クロードはこれから何するつもりだったんだ?」


「クラッピーがね、勉強教えてくれるって言ってたんだけど・・・」


クラッピーが勉強ねぇ・・・


なんだか間違ったことを教えそうだ。


昔はリオナもダーク・ホームの城下町の子供達に混ざって、シュナと一緒に週3回、勉強会に参加していた。


任務中だったりわからないことはすべてマーシャが教えてくれた。


マーシャもあの頃はこんな変態じゃなかったのに。


「・・・クロード、俺が教えてやろうか?当分あの2人はケンカしてるだろうし。」


「い、いいの!?」


「・・ああ。ちゃんと教えられるかわからないけど。」


「うれしいっ!ありがとぉ!」


クロードはリオナの腰に抱きついた。


そこまで喜んでくれるとは思ってなかった。


なんだか照れる。


「・・じゃあ、たくさん覚えられたらマーシャからご褒美貰おうね。」


「ねー」


今日はとびっきり美味しい夕食にしてもらおう。


久々に、皆で食べれるといいな....


リオナは心で思った。





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あきゅろす。
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