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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story108 それぞれの愛の形






























ダーク・ホーム
ーマスタールーム


「ふぅ、とりあえず一段落かな。」


ビットウィックスは椅子にどかっと座り、
天を仰ぎながら腕で目を覆った。


蘇るのは穴に逃げて行ったフェイター。


フェイターを1人取り逃がしてしまった・・・


「くそ・・・あんな雑魚を取り逃がすとは」


腰にさしてにいた二本の剣をテーブルに投げ捨てる。


鞘は血に塗れ、黒々としている。


恐らく鞘の中はもっとひどいことになっているだろう。


テーブルの上に置かれた笑顔のムジカの写真に反射して、
血まみれの自分が映っていた。


こんな姿を見て、ムジカが喜ぶはずが無い。


「・・・汚らわしい」


憎きフェイターの血。


けれど今は血を拭う気力がわかない。


しばらく、この血濡れた感覚に浸っていたい。


すると、
部屋の扉を叩く音がした。


恐らくシキだろう。


「入りなさい。」


そう言えば、
扉が開き、シキが部屋に入ってきた。


続いてシュナも頭を下げて入ってきた。


シキは血に塗れたビットウィックスの姿を見て、
少し眉を寄せている。


「やぁ、お疲れ様。外の方はもう大丈夫かい?」


「はい、侵入した化神は全て殲滅いたしました。被害の報告をシュナが。よろしいですか。」


そう言うと、シキの後ろからカチンコチンに固まったシュナがぎこちない動きで前に出てきた。


使用人見習いになってから最近はようやく使用人らしい仕事ができる様になったが、ビットウィックスを前にするとやはり緊張するようで。


その姿が面白く、ビットウィックスは笑いをこらえていた。


「うん、いいよ。シュナ、そんなかしこまらなくていい。たかが私に報告するだけだ。」


シキの弟子なのに全然違う。


シキは大体無表情なのにシュナは百面相のようにコロコロと表情が変わる。


見ていて飽きない。


「え、えと・・・エージェントの被害報告から。死者6名、怪我人47名、中でも重傷者8名です。ダーク・ホーム内の被害報告に移ります。城下町に大きい被害はありません。ただ、町に住むノルディン家、ジョナス家の窓ガラスと玄関扉が壊されたようです。黒の屋敷は玄関周辺の壁が倒壊、内部には異常ありません。赤の屋敷から先は大丈夫ですが、悪魔達が騒ぎ始めたのでスバルさんが鎮めに今赤の屋敷に向かっています。以上です。」


「よろしい。ダーク・ホームの結界で破られた場所は先程すべて結界を掛け直してきた。ただ、仮の結界だから、一度全体をかけ直さなきゃね。明日中にはやっておこう。城下町のノルディンさんとジョナスさんの家には私が行って謝罪をする。シュナ、修理道具を持ってついてきなさい。」


「は、はい!!」


シュナは嬉しそうに目を輝かせ、一歩下がった。


変わるように、シキが再び口を開く。


「マスター、お言葉ですが、全身血まみれですよ。」


「ああ、知ってる」


「シャワーを浴びた方がよろしいかと。」


「それより、リオナは戻ったかい?」


話をそらしたせいで、シキは明らかに不機嫌そうな表情をする。


シキを怒らせるのは本当に面白い。


けれどシキはどうしても血が気になったようで、
目の前に投げ出された血まみれの剣を手に取り、ハンカチで拭き始めた。


それを見て、シュナも慌てて残りの一本を手にとって剣を拭く。


「さっきリオナが扉をくぐっただろう?その後マーシャが追いかけたようだけど、大丈夫かな。」


「心配なら追いかけてみては?」


「いや、いいよ。彼らはきっと戻ってくる。ただ気になるのは、リオナの使った呪文だね。黒の屋敷に戻る途中に見かけたけれど、なんとも奇怪な魔方陣だ・・・」


シキも小さくため息をつき、頷いた。


「実は、今回の任務でもあの呪文を使いました。あれは魔族に伝わる禁忌魔法"死の呪文"だそうです。」


「禁忌魔法・・・聞いたことないな。」


「ええ。禁忌魔法は大魔帝国ですでに禁止されていたもので、知っているのはごく一部の有力魔法使いです。」


「ではなぜリオナはそんな魔法を?」


「あくまでマーシャの予測ですが、リオナは禁忌魔法を自ら編み出したのでは、と。」


自ら?


自分が持っている知識で呪文を作り出したと?


もしそれが本当なら、
大変なことである。


「リオナの頭の中は一体どれだけの魔術があるっていうんだ・・・」


「リオナは幼い頃から魔術の勉強をしていたようで、師匠にバルド=ガーディンがいたそうです。」


「あのバルド=ガーディンが?確か大魔帝国一の魔術師で、王族に仕えていただろう。」


「ええ、あのマーシャでさえ羨ましがってますから。もし大魔帝国が壊滅してなければ・・・」


「間違いなくリオナは魔族の上位にいただろうな」


なんとも末恐ろしい少年だ。


こちら側にいるからこんな呑気な話ができるが、
もし敵側にいたらと考えただけで身の毛がよだつ。


「禁忌というからには、なにかリスクが?」


「それが・・・」


シキは言葉を濁し、
チラリとシュナを見た。


シュナも知らないのだろう、
食い入るようにシキを見つめている。


もしかしたら、シュナには知られたくないのかもしれない。


けれどシキは、
ためらった末に口を開いた。


「禁忌魔法は・・・命を削る魔法なんです。」


その言葉に1番に反応したのはもちろんシュナだった。


目を見開き、瞳を揺らしている。


「シキさん・・・本当に?」


「ああ。リオナはすでに3回以上は使っている。調べた所、禁忌魔法の特にリオナが使った"死の呪文"は3回が限度と言われてるんだ。」


「じゃ、じゃあリオナは!!」


シュナの目に涙が溜まる。


ビットウィックスも眉をひそめた。


「まだわからない。あくまで個人差があるから。」


シキも複雑な表情を浮かべながら
シュナを落ち着かせる様に背中をさすった。


「けれどマスター、気を付けなければなりませんね。今はまだリオナの体に異常はなくとも、次の発動で状況は急展開するかもしれません。」


「そうだね・・・リオナ自身はそのことに気が付いているのかい?」


「ええ、恐らく。しかし彼は自分が死ぬことより他人を巻き込むことを何よりも恐れております。」


「リオナ自ら切り札に呪文を使う可能性があるのか。」


リオナならやりかねない。


彼はどこまでも自分を犠牲にしてしまうだろう。


「はぁ・・・辛いな」


ぽろっと本音が漏れてしまう。


辛いのは彼なのだ。


けれど、考えただけで胸が苦しくなる。


「とにかく、リオナにあの呪文を使わせるべきではないということだな。シキもシュナも用心して万が一の時はリオナのためにも全力で止めなさい。」


「もちろんです。」


「は、はい!!」


シュナは涙を拭って大きく頷く。


「では、私はシャワーを浴びて城下町へ向かうよ。ああ、確か化神の死体が残ったんだっけ?」


「はい。今回来た化神は皆、大魔帝国と時天大帝国の人々の死体を利用して人工的に作られた化神のようです。恐らく先鋭部隊が侵入しておりますファクトリーにまだ化神が眠っている可能性があります。」


「死体は回収次第、研究棟にまわしなさい。分析するよう指示をまわしてくれ。先鋭部隊から新しい連絡が入り次第、随時報告するように。」


「はっ。」


「それじゃあよろしくね。シュナ、先ほどの件、一緒にこれるかい?」


さっきリオナの話をしてから、
彼はだいぶ動揺しているようで、
ビットウィックスは小動物を愛でるように優しい笑みを浮かべた。


「無理をしなくてもいい。また機会があるから」
「い、行きます!!」


すると食いつくようにシュナは顔を上げ、真っ直ぐな目を向けてきた。


「行かせてください!俺、リオナをしっかり支えたいから・・!立派な使用人になります!なので、教えてください!使用人の心得を、教えてください!」


そういってシュナは深く頭を下げた。


まだ不安定だけれど、
芯はしっかりしている。


さすがは光妖大帝国の王子なだけある。


そんな彼を見て
ビットウィックスとシキは微笑んだ。


「よろしい。では、すぐに戻ってくるからここで待ってなさい。ああ、遠慮しないでソファーでくつろいでね。あとシキ。元気が有り余ってるエージェントに祭りの続きを始めるように伝えておくれ。」


「はぁ、本当にマイペースなんですから。敵が襲撃してきたばかりだっていうのに。」


「だからだよ。先の戦闘で、エージェントたちの団結力が上がりつつあるし、このチャンスを逃すわけにはいかないよ。」


「はいはい。」


ビットウィックスは満面の笑みを浮かべた。


我々は決して兵器ではない。


人間であり悪魔であり、
2つは1つになるのだ。


その時こそ、最大の力を発揮する。





























外はすっかり日が落ち、
満点の星空が広がっていた。


熱い身体を冷やすように、
冷たい風が穏やかに流れていく。


リオナはマーシャに手を引かれ、空を見上げながらダーク・ホームに戻っていた。


「・・・マーシャ」


「ん、なぁに?」


同じく空を見上げながら返事をするマーシャ。


少しばかり、手を強く握ってみる。


するとマーシャも同じくらいの力で握り返し、後ろを振り返ってきた。


「放さないから大丈夫。ちゃんと聞いてるよ。どうした?」


隣にやってきたマーシャを見上げ、
口を開く。


「・・・話したいことが、たくさんあるんだ。でも、何から話せばいいか、わからない。」


「それは俺もだ。無理して一気に話さなくてもいいさ。ゆっくりでいい。」


そう言って頭を撫でられれば、
嬉しくて思わず下を向いてしまう。


「俺ね」


するとマーシャが
足を止め、リオナもつられて足を止めた。


両手を掴まれ、向かい合わせに立つ。


「これだけは、今言わなきゃいけないことだと思うから、今言いたい。」


「・・・?」


突然、不安が込み上げてくる。


マーシャと再会した時にも感じた、あの不安だ。


「ただ約束して。今から話すこと聞いても、絶対に悲しまないで、悩まないで、俺から離れないで。」


真剣なマーシャの口調に、
リオナはただコクッと頷いた。


約束、
できれば、守りたい。


でも、不安なんだ。


怖い。


もう大体予想はついてるから。


リオナは唇をギュッとしめ、
しっかりマーシャの目を見た。


「俺の頭ン中に・・・腫瘍があるんだって。」


心臓がどくんどくんとはねる。


この音がマーシャに聞こえなければいい。


「・・・腫瘍、治らないのか?」


祈りが込められた声がリオナの口から震えながら漏れる。


「治す方法は・・・ある。」


「なら・・・!!」


「でもな、リオナ、治療を受けたら、ダーク・ホームには戻れなくなる・・。」


「・・どうして」


「腫瘍ができた場所が悪かったんだ。腫瘍をとったら、記憶も無くなるんだって。だから、戦い方も、リオナのことも、思い出せなくなっちゃうんだ。」


マーシャが自分を忘れる・・・


今までの思い出も、全部


「もし・・・治療、しなきゃ・・」


「もって・・・一年かな」


信じられない・・・


頭を硬い鈍器で叩かれた様に、
何も考えれない。


「いやだ・・・やだよ・・」


生きてって、言ったじゃないか・・


「なんでマーシャがッ・・!」


なんで、自分じゃないんだ・・・!


自分に苛立ち、
リオナは唇をきつく噛み締める。


「こらリオナ、噛むんじゃない。傷になる。」


「・・・だって」


「聞いてリオナ。俺はね、リオナ、お前を忘れるくらいなら、死んだ方がいいと思ってる。」


「そんな・・・バカなこと!」


「バカなことじゃない。本当だよ。さっきも言ったよな、俺はお前が居るから生きていける。お前が記憶から消えたら・・・生きてる意味もわからなくなる。」


握る手が、強くなる。


「リオナのいない世界を長く生きるより、短くてもリオナと一緒にいた方が、俺は幸せだ。」


「マーシャ・・・」


じわりと涙が目に溜まってきた。


泣いてはダメ。


マーシャには、生きててもらいたい、長く、永く。


でも・・・


「・・・俺・・ワガママ、だ」


リオナは涙を見せないよう、下を向く。


「・・・マーシャに、ホントは、俺のこと、忘れてもいいから、治療してって言わなきゃいけないのにッ・・・・・ココロの底じゃ・・そばにいてって叫んでる・・!忘れないでって・・・」


「リオナ・・」


マーシャはリオナを引き寄せ、抱き締めた。


そしてリオナの髪を撫で、
頭にキスをする。


「嬉しいよ。そう思ってくれて、すっげぇ嬉しい・・」


胸が、引き裂かれたように痛む。


辛くて、悲しくて、それでも、うれしくて。


顔をあげようとしたら、マーシャの左手で頭を抑えられて、胸に顔を押し付けられた。


ふと、リオナの頬に、ポタポタと、暖かいものが降り注いできた。


「・・・マーシャ」


泣いてる・・・マーシャが、泣いてる。


そう、辛いのはマーシャだ。


俺じゃない、マーシャなんだ。


リオナはマーシャの背に手を回し、ゆっくりと撫でた。


「・・・1人は、怖い」


「知ってる。だから、俺は生きる。リオナを1人にはしないよ・・」


「約束・・・して」


「ははっ、だから、それは約束できないって。だけどね、もし、俺とリオナが別れる時がきても・・・」


マーシャは自分の手首にはめられたブレスレットを外し、リオナに付けた。


真っ赤な珠が連なったブレスレットを。


「俺が必ずリオナを見つけ出す。リオナも俺を探して。リオナの隣は俺のものだってこと、忘れないで。」


「そんな話・・・やだ・・」


顔をマーシャの胸に押し当てる。


止まらない涙。


やっぱり悲しくて、どうしようもない。


時間がないのはお互い様なのに、
マーシャがいない世界が、
とても地獄のように感じてしまう。


「泣くなよ〜リオナぁ〜。お前が泣くから俺も泣いちゃうぞ。」


「・・ばか・・・・バカッ・・!!」


「はいはい。ほら、泣かないの。」


ぽんぽんと子供をあやすような優しい手つきに、
少しだけ落ち着いた気がする。


昔、寝れない時、
父さんがよくやってくれた。


マーシャも、背中をよくなでてくれた。


それだけで、嬉しかったんだ。


「・・・これ、もらっていいの?」


「もちろん。もし、リオナに危険がふりかかったら、このブレスレットが助けてくれる。俺の分身だよ。だから、絶対に外さないでね。」


リオナは目を輝かせ、自分の腕にあるブレスレットを見つめた。


真っ赤に輝く珠は、本当にマーシャみたいだ。


「・・ありがとう。絶対、大切にするから。」


「おう。じゃあ帰るか。リオナ。みんな待ってる。」


帰る、という言葉に、ビクッと反応した。


リオナはマーシャの服を掴み、
首を横に振る。


「・・・帰りたくない」


「コラ、まだいじけてんのかぁ?」


「ちが・・・だって、俺・・・仲間を・・・」


殺してしまったんだ・・・


今更どんな顔してかえればいいんだ。


「安心しな。お前は仲間を殺してない。」


「え・・・」


顔をあげれば、マーシャがニッと笑顔を見せた。


いつものマーシャの笑顔。


思わずじっと見つめてしまう。



「リオナが殺したっていうエージェントな、そいつもう、化神になってたんだってよ。」


「・・そうなのか?でも・・・もしかしたら、仲間を殺してたかもしれないんだ」


「そうだよ・・・だから俺がいるんだよ。俺が絶対にその呪文を使わせない。リオナが・・リオナが先に死ぬ姿なんて見たくないもん俺。」


「・・・ありがとうマーシャ。」


「あ、ちなみにな、この事はシュナが馬鹿なエージェント共に言ってた事だ。泣きながらな、お前の為に言ってくれてた。」


「・・・シュナ」


「あとナツも。」


「・・・ウソだ。」


「ホント。」


「え・・泣きながら?」


「あはは!ナツが泣くわけないじゃん!泣かなくともちゃんとエージェントに喝いれてたよ。」


シュナもナツも・・・
まだ俺には信じてくれる仲間がいるんだ。


また目頭が熱くなる。


「・・・ごめ・・また涙が・・・俺、泣いてばっかで女みたい・・・」


「今日のリオナホント可愛い。いや、いつも可愛いけどね。」


「・・・嬉しくない。俺男だもん・・」


「俺の中じゃお姫様だよー、あ、ほら耳まで真っ赤!照れちゃってぇ〜かーいーなぁ」


リオナは咄嗟に耳を隠すように手を当てた。


その姿を見て、
マーシャはクスクス笑いをこらえていた。


「リオナを信じてる仲間は沢山いる。それはリオナがね、皆に優しくて、それでいて皆を信じてるからだよ。あと、リオナは誰よりも気持ちに敏感だから、誰よりも早くに皆の気持ちに気づいてあげられる。」


優しくなんかない、
だけど、
俺は皆を信じたい。


それでもし、
皆も信じてくれたらいいと思っていた。


「だから、帰ろう?みんな待ってる。心配してるよ。」


マーシャの左手が差し出された。


少し戸惑いもあったけれど、
マーシャとなら、大丈夫・・


リオナもそっと手を差し出し、
ギュッと握った。


2人は空を見上げて歩き出す。


満点の星空に、曇りはほとんどない。


「・・・そういえばね」


「うん」


「・・クラッピーに告白されたみたい」


「え、ちょ、ぇえ?誰が?」


「・・たぶん、俺?」


「はぁ!?あのクソピエロ何考え・・ってリオナ!なんて答えたんだよ!?」


「うーん・・・ナイショ。」


「ぇえ!?ちょっと待ちなさいリオナくん!?!よーしまずその話からしなさい!!リオナくーん!!」


重い足も軽くなる。


マーシャと一緒なら。


だから終わりなんて考えないよ。


リオナは微笑みながら、
マーシャから貰ったブレスレットを強く握った。











ダーク・ホームに到着し、
黒の屋敷にむけて歩いていた。


夜にダーク・ホームを歩き回っていると、
夜の見回りにこっぴどく叱られるから、
あまり音を出さずにそっと歩く。


すると、城下町に入ると、
一件の家の扉が開いた。


住人がこの時間に出歩くのは珍しい。


しかし、扉からでてきた人物に、
2人は目を丸くした。


「今日は本当にすみませんでした。またご迷惑をおかけするかもしれないですが、どうぞよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします!」


そこから出てきたのはビットウィックスとシュナだった。


2人は住人に頭を下げている。


当の住人は、顔を真っ青にし、顔をあげてくださいと慌てていた。


町に被害があったのか。


まさかマスター自ら謝罪に出向くとは思ってもいなかったのだろう。


面倒ごとはごめんだと言わんばかりにリオナとマーシャは目を合わせ、
気づかれないようにそーっと後ろを通過しようとした。


しかしうまくいくはずもなく。


「おや、夜に出歩くイケナイ悪魔が二匹いるようだ。」


そう言ってビットウィックスが振り返ってきた。


シュナもバッとこちらを振り返る。


はじめはパァッと満面の笑みを浮かべたかと思えば、
みるみる目に涙をため、顔をゆがませた。


「リオナぁぁぁぁ!!」


いきなり抱きついてきたシュナに耐えきれず、
後ろに倒れそうになるが、ギリギリでマーシャが背中を支えた。


「し、心配したんだからなぁぁぁぁ!!」


子供のように泣くシュナの姿に、リオナは小さく笑いながらも、目頭が熱くなるのを感じた。


マーシャの言う通りだ。


俺にはまだ・・・信じて待ってくれる仲間がいるんだ。


「・・・ごめんシュナ。泣かないで。お前が泣くと・・俺まで泣きたくなるから」


「リオナも泣くの?」


「・・・ああ、泣くよ。」


「ちょっと・・見たいかも。」


シュナは涙をピタリと止め、
今度は目を輝かせてリオナを見上げた。


リオナは困り果ててシュナを半ば強引に引き剥がした。


シュナから目を離すと、
今度はビットウィックスと目が合った。


相変わらずキレイな顔で、ムジカにそっくりだ。


「おかえりなさい、リオナ。」


そう言って、ビットウィックスも優しくリオナを抱きしめた。


少し恥ずかしくて、
リオナは耳を真っ赤にさせる。


「・・・た、ただいま」


「待ってたよ、キミの帰りを」


しばらく抱きしめられ、
どうすればいいかと目を泳がせれば、
後ろからマーシャが唸りながら無理矢理ビットウィックスを引き剥がしていた。


しかしビットウィックスもなかなかひかず、
リオナは板挟みにされてしまう。


「てめぇいい加減リオナなら離れろ!」
「私はリオナに感謝と謝罪の念を送っていたんだ。邪魔をしないでくれ。」
「念なんて送ってもらわなくて結構!謝るなら言葉にしろ!」
「キミに送る訳じゃない。リオナにだ。それに悪魔は言葉みたいな軽い道具は使わないんだよ。あ、キミはリオナや私と違って人間だからわからないか。」
「俺も半分は悪魔だっつーの!あ!おい今リオナの胸に触ったな!?そこ触っていーのは俺だけなんだよ!」
「キミは何を気色の悪い事を・・・それに私は故意に触った訳ではなくむしろキミが暴れるから事故で触ってしまったんだ。」
「んだよその言い方!まるでリオナに触るのが嫌みたいな言い方しやがって!リオナが傷つくだろ!」
「なんなんだキミは一体・・・じゃあ触りたくて触ったと言えば満足い・・」


「ちょっと!いい加減にしてください!!」


ようやく2人の言い合いを止めたのはシュナだった。


シュナは2人の間に完全に挟まったリオナを引きずり出す。


「いいですか!?ここは城下町で小さい子供はもう寝てるんですよ!?2人は小さい子供の眠りを妨げるつもりですか!それにリオナは今疲れてるんです!言い合いなら2人っきりで森の奥ででもやってください!」


強く言い放ったシュナに、マーシャは分が悪そうに頭をかいていた。


シュナらしいな。


リオナも少し驚いたが、
面白くてクスッと笑が漏れる。


それに気がついたシュナは「もぉー」と言って頬を膨らませた。


一方ビットウィックスは、珍しいものを見る様に目を丸まると見開き、かと思えばリオナと同様、クスクスと笑い出した。


「マスターまでぇー・・・」


「いや、キミは本当に良い子だ。リオナだけではなくてちゃんと周りのこともしっかり考えているね。私はマスター失格だ。」


「そ、それは言い過ぎですマスター!マスターはあなたでなくちゃ・・・」


「もちろん、誰にも譲る気はないけどね。でも、どうやらシュナには心得なんて教える必要は無いみたいだ。」


そう言われ、シュナは嬉しそうに瞬いた。


「あ、ありがとうございます!でも、またぜひ、お付き合いさせて下さい!」


深々と頭を下げるシュナに、
ビットウィックスは満面の笑みで頷く。


「よろしい。では、今日はもう戻ろうか。リオナもマーシャも帰ろう。」


素直に頷くリオナに対し、
マーシャは未だに不機嫌で。


本当にビットウィックスとは気が合わないんだなと改めて感じた。


「ねぇリオナ」


すると横を歩いていたシュナがリオナの腕をグイグイ引っ張り、
少し遠慮がちに声をかけてきた。


「なに?」


「えと、あのさ、俺、明日休みなんだ。もしリオナがよければ、今日は俺の部屋に泊りにおいでよ。久々にゲームとかしよー?」


シュナにお願いされたら断れない。


だってシュナは最高の親友だから。


それに、シュナの話もたくさん聞いてあげたい。
ゲームもしたい。


楽しいこと、たくさんやりたい。


「・・そうだな。今日はシュナの部屋に泊まらせてもらうよ。ただしやるゲームは俺が決める。」


「やったー!あ、でもゲームはジャンケンで決めるんだからね!」


「・・えー。どーしよーかな。ああ、シキは大丈夫なの?うるさくしたら怒られそう。」


シキはリオナが泊りにくると絶対部屋を覗きに来る。


シュナに変な入れ知恵をしていないか心配なのだろう。


「大丈夫!シキさん今夜は研究棟で徹夜で書類整理らしいから。」


なんとも休まない男だ。


いつか過労死してしまうのではと少し心配になる。





黒の屋敷に着くと、ビットウィックスは早々にマスタールームへと戻って行った。


するとマーシャも研究棟入口前で足を止め、リオナを呼んだ。


「リオナ、俺シキに会ってくるから。」


「・・わかった。俺はシュナの部屋に泊まるけど、いい?」


「ああわかった。じゃあまた明日な。」


マーシャはニッと笑うと、
リオナの額にキスをした。


リオナは照れを隠す様に下に俯き、すぐに背を向け歩きながら片手を上げてヒラヒラふる。


「あはは。可愛い奴め。」


そう呟いてマーシャも研究棟へ姿を消した。


そんな2人のやりとりに、
なぜかシュナが耳を真っ赤にしてリオナの後を追った。


「ちょ、リオナ!いつもあんなことしてたっけ!?」


興奮したシュナが目を輝かせて顔を覗き込んで来る。


「・・なんでもないよぉ」


「かくすなよー」


「・・・隠してなんかない。いつものことだ。」


「もしかして・・・!リオナとマーシャさんついに恋び・・」
「・・恋人とか、そーゆーのじゃないからな!違うんだよ・・・」


リオナはシュナの言葉を全否定した。


だが、シュナはニヤニヤしながらリオナの横に並ぶ。


「ふぅん。まぁリオナはウソつかないからね。でも、マーシャさんと何かあったに違いない。さぁ夜は長いぞー!」


ふふんと鼻歌を歌いながら先にゆくシュナ。


その後ろをリオナは真っ赤な顔でついて行った。

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あきゅろす。
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