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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story106 同志



苦しそうにランダーが名前を呼ぶと、
ビンスがすぐにランダーを抱えて木の上に飛び乗った。


『クソ・・・傷が開いた!お前がボケッとしてるからだばか!』


『ヒドイ言いようッスね。まだ完治してないんだから無理しないように言ったじゃないッスか。』


『うるせぇな!さっさとずらかるぞ。』


『了解ッス。』


するとビンスが左指を口にくわえ、
指笛を吹いた。


まるで犬を呼ぶかのように。


その瞬間、目の前を黒い影が走った。


それは1つや2つではない。


ざっと100はある。


リオナは突然気持ちが悪くなり、口を押さえた。


体内の血がドクンドクンと波打っている。


これが悪魔として初めて感じる化神反応。


先ほどから感じてはいたが、
近くにくるとここまで反応するとは思わなかった。


「は・・・ぁ、」


呼吸を整え、目の前の事に集中する。


「リオナ、いけるか?」


マーシャの呼びかけに、一瞬ドキッとした。


まともにマーシャを見れない。


怖いとかそういうのじゃなくて・・・


「・・・わからない」


「リオナ・・・。」


まるで壁がある様な、
いや、あるんじゃなくて、自分で造ったんだ。


高くて厚い壁を・・・


マーシャの悲しげな声が耳を貫く。


「アイツが言ったこと、気にしてるのか?お前に俺の過去を話してない事・・・」


何も言えずにリオナは俯いてしまう。


気にしてないっていったら嘘になる。


ただ俺は・・・
マーシャの本心が知りたいけど、
その勇気が足りないんだ。


2人の間に沈黙が訪れ、
重たい空気が漂う。


「とにかく・・・よ、今は化神を倒さねぇと。なんだかダーク・ホーム中にいる化神たちが俺らの周りに集まり出したみたいだ。」


「・・・ああ」


異臭を放ちながら、
化神たちが近づいてくる。


リオナもトランプを取り出し、
長剣を作り出す。


「いくぞ」


マーシャとリオナはお互いに反対方向に走り出した。


しかし、すぐに違和感に気がついた。


化神達はみなリオナを避けるように走り抜けていく。


「・・・なっ」


足を止め、振り返れば、
化神はマーシャに向かっていた。


「・・・マーシャ!」


こいつらの目当ては俺じゃない!
マーシャだ!


リオナは急いでマーシャを追う。


しかし、すでに大量の化神たちがマーシャを取り囲んでいた。


「マーシャ・・・!!マーシャ!!」


必死に掻き分けるが、まだマーシャの姿は見えない。


いやだ。
イヤダイヤダイヤダ!


マーシャ・・・!


「どけよ・・・!!なんでマーシャなんだよ!!どけってば!!」


ようやく中心に近づいたと思えば、
マーシャが頭をおさえてうずくまっていた。


心臓が跳ね上がった。


「マーシャ・・・!」


リオナはマーシャに駆け寄り、
体を抱き寄せた。


「マーシャ?!なぁ起きてマーシャ!!」


「ぐっ・・・リオ、ナ・・・わりぃ・・・頭痛が・・・」


マーシャの口が動いて
思わず安堵の溜息をついた。


やっぱり、
まだ体調が良くないんだ。


なんで・・・こんなことを・・・


リオナは顔を上げ木の上のフェイターを睨みつけた。


高みの見物のように余裕の笑みを浮かべているのが白々しい。


『ありゃ。これは想定外。カイさんからはマーシャも殺すなって言われてたんだけど。どうやらアシュールさんが先手を打ってたとはなぁ。』


『よほど嫌なんッスね。リオナくんを一人占めできないことが。』


『だからって化神に集中攻撃させるとはねぇ。はは!』


ドクン・・・ドクン・・・


リオナの中で、何かがうごめいた。


再び脈が波打ち、
身体中が熱くなっていく。


"狂気"が、俺を飲み込んでいく。


イヤなのに
怖いのに・・・


"狂気"は容赦なく俺を蝕んでいく。


ああ、アイツらが憎い。
マーシャを傷つけたアイツらが。


憎い・・・
恨めしい・・・


関係ないマーシャを傷つけるなんて・・・許さない。


例え"狂気"に溺れようとも。


リオナは何かを呟き始める。


左手ではマーシャを抱え、右手では地面に小さな魔方陣を描いていた。


しかし異変に気づいたマーシャは、すぐにリオナの右手をつかんだ。


「リオナ?!お前、まさか」
「はなせ」


いつになく冷たいリオナの口調に、思わず手を離してしまう。


口元は笑っているのに、
目は悲しみに満ち溢れていた。


「リオナ・・・」


みるみる魔方陣は巨大化し、
真っ白な地面を覆いつくす。


禍々しい紫色の光が魔方陣を駆け巡る。


そんな魔方陣が発動しかけた時だった。


一瞬、リオナの動きが止まった。


それに合わせ、
魔方陣も不安定に歪み、光が消えかかる。


リオナの中で、気持ちがせめぎ合っていた。


ーーー嫌だ・・・こんなの・・・自分じゃない!!


でも、アイツらはマーシャを傷つけたんだ。当然の報いだ。


だからって・・・こんなことしてもマーシャは喜ばない


どうせ始末しなきゃならないんだ。どんな手段でも同じこと。それでも本当に、マーシャを大切に思ってるのか?


思ってるさ・・・


だったら、答えは1つだーーー


消えかかった魔方陣が再び現れる。


さっきよりもハッキリと、そして禍々しく。


リオナはマーシャをギュッと抱きしめ、魔方陣を発動させた。


ダーク・ホーム中に化神の悲鳴が響き渡る。


化神はみるみる消えてゆき、
ほんの数秒で跡形もなくなった。


その光景をマーシャは目の当たりにし、リオナの腕の中で呆然としていた。


「な・・・んだ、これ」


マーシャの声が震える。


巨大な魔方陣だけが傷跡として残っていて、さらに恐怖をかきたてる。


そんな奇妙なくらい静まり返った空間に、
ランダーの乾いた笑い声が響いた。


『ギャハハ!っへぇ!!面白いもん見ちまったぜ!リオナ!』


その瞬間、リオナがビクッとからだを跳ねさせ、マーシャから離れた。


リオナは木の上にいたランダーとビンスを見上げ、そのままあたりを見渡す。


まるで惨劇でも見ているかのように、瞳を震わせながら。


「うそ・・・俺・・・・・・また」


両手で顔を覆う。


また、やってしまった。


同じ過ちを犯してしまった。


なんで・・・なんで俺は・・・


『おーいリオナ!』


呼びかけられても、顔が上がらない。


『お前のその狂気、このまま放置すっとえらいことになるぞ。』


狂気に侵食される恐怖が今になって込み上げてくる。


『狂気を消したいか?だったらお前はここにいるべきじゃない。なぁ、俺たちのとこ来・・』


ランダーが言葉を言いかけたその時だった。


『うぁぁぁ!アイツ!仲間を殺しやがったぁぁぁぁ!!』


第三者の声に、マーシャもリオナもフェイターも、全員顔を向けた。


2ndエージェントのバッチを付けた青年が、リオナを指差し後ずさっている。


『アイツが!リオナ=ヴァンズマンが!仲間を殺したんだ!!化神と一緒に!この魔方陣で!』


まさか・・・


最悪の事態がリオナの頭によぎる。


それはマーシャも同じで、マーシャはリオナを呆然と見つめる。


その目線が、リオナを苦しめているとも気づかずに。


『さっきまでいたんだ!!なのに魔方陣に入った途端消えちまった!』


いつのまにか集まり出したエージェントたちで、辺りは騒然とし始めた。


『ビンス、そろそろヤバイ。帰るぞ。』


フェイターの2人はその隙に姿を消してしまった。


しかし今エージェントたちはそれどころでは無いかのように全員リオナを見ている。


まるで敵を見るような鋭い目で。


『やっぱりヴァンズマンは裏切り者だったんだ!!』


その言葉が切り札となり、
周りからは様々な言葉が溢れ出す。


リオナは目を開いたまま、
耳に入る蔑みの言葉にゆっくり頭を横に振った。


"裏切り者"


違うんだ・・・


"仲間を殺すなんて"


・・・聞いて、そんなつもりじゃなかったんだ


"人殺し"


違う・・・違う俺は・・・!


"人殺し!"


俺は・・・!


"人殺し!!"


俺は・・・ただ・・・


マーシャを


守りたかった・・・だけなのに


でも結局は、仲間を巻き添えにした。


人を、殺した。


俺は、"人殺し"だ・・


リオナは拳を握りしめ、
黒の屋敷に向かって駆け出した。


すべてから逃げるように。


現実を、捨てるように。

















遡ること数十分前。


化神によるダーク・ホーム襲撃に、各エージェントたちが動き出していた。


『全員ならえ!』


赤の屋敷前に集まるエージェントを取り締まるのは
1st2nd3rdエージェントの総リーダーのバンガン。


31歳のベテランエージェントだ。


ハンガンはエージェントが揃ったのを確認すると、
前方で戦闘体制を整えていたシュナに声をかけた。


『シュナ!3rdエージェント、2ndエージェント、1stエージェント、全員揃ったぞ!』


「揃いましたか。じゃあそろそろ始めましょうか。」


シュナはいつもと変わらない屈託の無い笑みを見せた。


バンガンは内心、心配していた。


マスターの命令だからといって、2ndと3rdエージェントの指揮をシュナにとらせて大丈夫なのかと。


シュナもはじめはエージェントだったが、今は使用人見習いのため戦場から離れてしまっている。


そんな彼が指揮をとることに不安を覚えている者も多々いるようだ。


「みなさん、今から化神討伐に向かいます。1stエージェントはバンガンさんが、2nd3rdエージェントは指揮は俺がとります。」


その言葉に、エージェントたちが一斉にざわめきだす。


信用ならないといった目がシュナに向けられている。


しかしシュナは気にもとめずに、むしろ笑顔で切り替えした。


「俺じゃ不安ですよね?わかってます。」


シュナの意外な言動に一斉に静かになる。


「だけど俺は、弱くないですよ。やろうと思えばあなたたちだって、倒せる。」


挑発的な発言に普通なら思わず反論したくなるが、
シュナの自信に満ちた鋭い目は、
反発することも忘れさせ、誰もを萎縮させた。


伊達にシキの下で勉強していたわけじゃないんだ。


バンガンは先ほどまでの心配を拭い捨て、シュナに向かって力強く頷いた。


『さすがだ、シュナ。』


「いえ。」


『よし、じゃあ始めるぞ。俺たち1stエージェントは城下町付近から攻める。』


「2nd3rdは黒の屋敷周辺から攻めていってください。絶対に黒の屋敷には侵入を許しては・・・」
[ちょっと待った。]


ようやくまとまったかと思うと、今度はナツがやってきた。


一応これでもスペシャルマスターのレベルであるナツを見て、エージェントたちは軽く頭を下げていた。


[シュナっていうのはお前か?]


指をさされ、シュナはコクッと頷く。


[俺が1stエージェントを指揮することになった。よろしくたのむ。]


右手を差し出してきたナツに、シュナは驚きと緊張で立ち尽くしていた。


以前までは暴力的で誰に対してもケンカ腰だったのに、だ。


何が彼を変えたのかと悶々と頭を悩ませる。


[おい、聞いてんのか。金魚の糞]


「き・・・金魚の糞!?」


前言撤回、大して変わっていなかった。


「な、なんで!?ヒドイよ!その呼び方!」


[なんでって、本当の事だろ?リオナの後ろにくっついてんじゃねぇの?あ、リオナの糞か。]


悪びれもなく言い放つナツには、失礼という言葉なんて存在しないのだろう。


恐らく、嫌みとかそういうものではなくて、
ただ純粋に、正直なのだろう。


人を怒らせる事には変わりはないが。


[とりあえずお前が2nd3rdの指揮するんだろ?]


「え、うん。そっか、じゃあバンガンさんはエージェントの先導をお願いしてもいいですか?」


『わかった。』


バンガンは素直にナツに指揮権をゆずり、一歩下がった。


[リオナの糞・・・じゃなくて、シュナだっけ?お前たちは黒の屋敷を固めろ。俺たちは外か攻めてく。]


そんなこと言われなくたってわかっている。
 と、内心毒づきながらも頷いた。


合図とともにそれぞれに散らばって行く。


シュナは黒の屋敷の正面に向かった。


すでに何体かの化神が向かってきている。


シュナは先頭をゆき、
両手に黒と白の光の球を出すと、化神の胸や頭部に容赦なく打ち込んでいった。


しかし出身が光妖大帝国のため、フェイターと同じ様な力を持っている上に、王位後継者であったシュナにとって、フェイターと戦闘をするたびに罪悪感も共に込み上げてくる。


フェイターは元を辿れば神聖大帝国の者たち。


それを支配し、迫害したのは紛れもなく光妖大帝国の自分たち王族そして国民たちだ。


せめて自分が父上に反論できたら、父上を止めることができたら、少しは変わっていたかもしれない。


今更こんなことを思っても、もう遅いのだが。


だからせめて、1人でも多くの人を救いたい。


こんな形でしか償えないけれど、そのためなら命も惜しまないと決めた。


そしてシキに助けられた恩を
仇では返さないと。



「怪我人はすぐに下がって!」


2nd3rdは昇級を目指し、無理に戦おうとする傾向がある。


それがかえって命の危機に繋がるとも気づかずに。


シュナはエージェントを気にしながら、自分も気を緩めないように戦闘に集中する。


しかし、そこで違和感に気が付いた。


普通、化神を倒すと、砂の様に跡形もなく消えて行くはず。


だがここに来た化神たちは、消えず、元の人間の形に戻っていた。


シュナは倒れている化神だった人間に近付き、顔を見る。


脈はもちろん止まっている。


本来ならこんなことしたくはないが、
死体のまぶたに手を当て、まぶたを押し上げた。


目を細め、そっと見ると、
瞳の色が黄色かった。


他の死体も確認すると、
緑色の瞳と黄色の瞳が多かった。


「そういうことだったのか・・・」


シュナは再び死体のまぶたを閉じると、立ち上がってエージェントに指示を出す。


「倒した化神・・・亡骸は回収してください。丁寧に扱ってくださいね。」


死体の回収を促し、
辺りを見渡す。


恐らくナツたちが奮戦しているのだろう。


化神たちの姿は今はまだ見えない。


「シュナ、こっちは大丈夫そうだな。」


すると後ろからシキがやってきて、シュナはハイッと返事を返した。


「それよりシキさん、聞いてください!」


「どうした?」


シキを人間の姿に戻った化神の死体の元へ連れていく。


「この人、化神だったんです。」


「どういうことだ」


「化神は死骸を残しません。けれど、ここにいる化神はすべて人間の姿を残してるんです。つまり、この化神たちは自然と化神になったわけではなく、フェイターたちの人体実験によって生み出されたものなんです。その証拠に・・・」


シュナは再び死体の瞼をあげ、
シキに瞳を見せた。


「緑色の瞳や黄色い瞳の者ばかりなんです。今この世界に緑色と黄色の瞳を持った者はほとんどいないはず。なぜなら緑色は時天大帝国、黄色は大魔帝国の人種であって、しかも2国ともフェイターによって壊滅、そして絶滅の一途を辿っているから。」


「なるほどな。これで辻褄が合う。」


シキは死体を隅々まで確認しながら、つぶやく。


「帝国や小国がフェイターによって壊滅すると、絶対に死体が残っていなかったんだ。まさか死体を人体実験に使用していたとは・・・」


その時ふとシュナの頭をよぎったのは、リオナやマーシャやクロードだった。


3人とも故郷がフェイターによって壊滅している。


もしかしたらこの化神の中にリオナたちの家族も・・・


考えただけで胸が締め付けられる。


「そういえば・・・」


死体から手を離したシキは、
不思議そうに死体の瞳を見つめていた。


「どうしたんですか?」


「いや・・・魔族の瞳は黄色だろ?マーシャも黄色だ。だけど、リオナは違うよな。」


「はい。リオナは黒い瞳ですね、しかも漆黒!すごく綺麗でした・・・」


悪魔になってしまい、もう二度と見ることはできないのだが。


「リオナも混血なんじゃないですかね?今はむしろ混血ばかりですからね。」


「ああ、でも、あそこまで黒い瞳をもつ人種は知らないな。こげ茶ならサムライカウンティーにいるが・・・」


「確かにそうですよね。それにリオナの魔術の能力は混血ではあり得ないですよね。」


「まぁ・・・とりあえず化神についてはあとでマスターに報告しておくように。」


「はい!」


「俺はリオナとマーシャのところに向かう。マーシャにはドクターストップがでてるからな。」


シキは悪魔の力を使い、リオナたちの位置を確認する。


「屋敷からはそんなに離れてはいないか・・・。いや、ちょっと待て。」


なにかを感じとったのか、シキの表情が険しくなっていく。


[おいお前]


するとシキが何かを言おうとしたとき、
またもやナツがやってきた。


いつもタイミングが悪いというか・・・


シュナは少し呆れながら振り返った。


「だから、お前じゃないって!シュナだよ!・・・で、どうしたの。」


[別に糞とは言ってないだろ・・・それにどうしたもこうしたも、化神の動きが変わった。急いでリオナのとこに行くぞ。]


化神の動きが変わった、という言葉よりも、
リオナのことを"リオナ"とよぶナツに、少しムッとした。


いつの間に名前で呼ぶほど仲良くなったのか。


「リオナのこと、"リオナ"って呼ぶんだ。」


[だって、アイツの名前、リオナじゃん。]


その通りだ。


我ながらなんとも子供っぽいことを言ってしまったと、すぐに恥ずかしさでいっぱいになる。


[そんなことより、早く向かうぞ。シキ、アンタなーにボサッとしてんだよ!リオナを早く黒の屋敷に戻せ!]


「ちょっと!シキさんになんて失礼な」
「いいからシュナ。2人も急いでリオナの元に行きなさい。どうやら、化神はコントロールされてるみたいだ。標的がリオナたちに変わったらしい。」


リオナに!?


シュナの表情が一気に堅くなる。


もし、リオナに何かあったら・・・


[だから早くって・・・]
「行こう!」
[っておい!?]


シュナはナツを引っ張って走り出す。


急がなければリオナが・・・


[ホントお前なんなんだよ。リオナの奴も突然走り出すし、お前らそっくりだな。なに、陸上部なの?]


「違うよ。思いたったらすぐ行動なの!!」


[そんな偉そうに言われてもな・・・]


後ろからはシキもきているようで、エージェントたちも数名ついてきていた。


目の前には、同じ方向に走って行く化神がいる。


どうやら本当にリオナたちに向かって走っているようだ。


シュナは容赦なく化神の背後から攻撃をする。


できればしたくはないが、仕方がない。


するとナツは横でクスリと笑っていて。


思わず突っかかってしまう。


「な・・・なんだよぉ〜!」


[いや、お前、案外強いなって思ってさ。]


意外な言葉にビックリした。


「そ、そうかな・・・」


[ああ。そこらへんのヘタなエージェントより全然な。]


なんだか少し、ナツの良さがわかった気がする。


[まぁ、リオナの糞には変わりないけど。]


やっぱ前言撤回。


いいとこなんてわからない!


「もーいいよ!」


ほおを膨らますシュナを見て
ナツは満足げに笑っていた。


次第に化神の気配が強くなってきた。


化神の放つ異様な空気は人の弱い心を蝕む。


そのせいか、エージェントの中でも気を保てない者たちがちらほらでてきている。


すると、前を走っていた若い青年のエージェントが突然立ち止まった。


シュナはすぐに駆け寄り、顔を覗き込もうとした。


「無理しないでここから離れたほうが・・・」


しかし、青年の様子は尋常じゃなかった。


シュナの腕をがっしり掴み、
まるで獲物に飢えた獣の様な息遣いをしていた。


「・・・!」


よく見れば青年の体がみるみる黒くなっていく。


彼の周囲の空気も、淀み始めていた。


[離れろシュナ!]


ナツに体を引かれ、化神と化したエージェントから離された。


危うく自分ものまれる所だった。


「あ、ありがとう・・・」


初めて、人が化神になる姿を目の当たりにした。


驚きで立ち尽くしてしまう。


[ッチ・・・気負けするなんて情けねぇ]


ナツは鋭い爪をとがらせ、切りかかろうとした。


だが、思わずシュナがその行動を阻んでしまった。


「ダメ・・・!ナツだめだよ!」


[な、ってめぇどけ!!化神だぞわかってんのか!?]



「わかってるよ!!でも、仲間だ!!!彼はエージェントだよ!?」


[お前はバカか!?仲間だろうがなんだろうが化神は化神だ!!心に隙なんかつくるからいけねぇんだよ!どけ!!]


「ちょ・・っあ!」


強引にナツに押し切られる。


[・・・俺だってこんなことやりたくねぇさ!]


過ぎざまにそう呟いたナツに、
シュナはまるで冷水を浴びせられたような気分になった。


なにを寝ぼけたことを言っているんだ自分は。


これが戦場から抜けてしまった、代償。


[あ!!]


「・・・!?」


少し落ち込みかけてた時、
ナツの声で我にかえった。


ナツが仕留めようとした化神が逃げたのだ。


[あんのやろぉ!]


化神を追って、ナツが駆け出した。


シュナもすぐに後を追う。


そう、落ち込んでいる場合じゃない。


「ナツ!」


[なんだよ!]


「ゴメン!」


ナツは振り向かない。


けれど、ナツは右手を上げてヒラヒラさせた。


[・・・後でなんかおごれバカ!]


バカと言われても、なんだか気持ちが軽くなった気がする。


自分ももう一度、エージェントとしての心構えを取り戻さなければ。


使用人になるなら、当たり前のこと。


シュナは覚悟を決めた様に、しっかり化神を見据えた。


どうやらエージェントであった化神も、リオナの方へ集まっているようだ。


遠くに人だかりならぬ化神たちの集団が見えはじめた。


[リオナのやつ・・・囲まれてんな。]


「急がなきゃ!」


化神と化したエージェントは、まだ完全には化神になっていないようで、見た目だけは未だに人間そのものである。


そんな彼の仲間であったエージェントたちは、化神になっていることに気付かず、いつもの彼と何かが違うといった程度で、訝しげな表情をしているだけだった。


あまりにも切なくて、
シュナは思わず顔を下に向ける。


その時、ふと目にあるものが映りこんだ。


ナツも気が付いたのか、ゆっくり足を止める。


「なに、これ・・・」


[・・・・・・]


地面が紫色に光っていて、
何語だかよくわからない文字が細かく刻まれている。


それは巨大な円のようで、
中心には・・・


[リオナだ・・・!]


「えっ?どういうこと?」


[これはリオナの魔方陣だ。]
「早く出なさい!」


2人は後ろから来ていたシキに引かれ、魔方陣から抜け出した。


確かに円陣の中心には化神がむらがっており、リオナがいるようだ。


シキは周りのエージェントたちにも注意を呼びかけていた。


「・・・あの、この魔方陣って・・・」


シキとナツの表情は複雑で。


何か知っているに違いない。


「リオナは大丈夫なんですか!?」


「大丈夫、といえば大丈夫だ。けれどこの呪文は、禁忌の魔法なんだ。あまり使い過ぎるとリオナ自身も力尽きてしまう可能性がある。」


「そんな!!なんでリオナは・・・」


[本能だよ。]


「ほ、本能だって?!」


[アイツの本能がそうさせてんのさ。]


ナツもシキも、心配そうに見つめている。


禁忌の魔法って・・・


リオナ・・・


その瞬間、魔方陣から強烈な光が発せられた。


化神たちの悲痛な悲鳴にシュナは耳を塞いだ。


恐ろしい、そして、悲しい。


・・・リオナ、君も、同じなんだろう?


リオナの声が、聞こえたきがした。


「リオナが・・・泣いてる」


[・・・・・・]


シュナの目から一筋の涙が流れおちる。


化神になってしまった者や、リオナを思い・・・






























できれば二度と見たくなかった惨劇が、こんなに早く訪れるなど誰が予想しようか。


シキは眼鏡をあげ、
跡形もなく消え去った化神達がいた場所を見つめていた。


残酷な魔方陣が刻まれている中央には、リオナと、リオナに抱えられたマーシャの姿が見えた。


・・・マーシャの奴、大分動揺してるみたいだな


無理もない。


あのリオナが、化神をまるごと消し去ったのだから。


『ギャハハ!っへぇ!!面白いもん見ちまったぜ!リオナ!』


笑い声が聞こえ、顔を上げると木の上に2人のフェイターがいた。


・・・あいつらがリオナをけしかけたのか。


怒りが込み上げてくる。


今すぐ始末してやろうか。


そう思い、攻撃をしかけようとしたその時だった。


隣から悲痛な叫びが聞こえてきた。


『うぁぁぁ!アイツ!仲間を殺しやがったぁぁぁぁ!!』


最悪な事態が起きた。


『アイツが!リオナ=ヴァンズマンが!仲間を殺したんだ!!化神と一緒に!この魔方陣で!』


けれど魔方陣には化神しかいなかったはずだ。


ちゃんと注意も呼びかけた。


それでも中にエージェントがいたなら、それは事故になる。


『やっぱりヴァンズマンは裏切り者だったんだ!!』


この一言で、一気に険悪なムードが広がってしまう。


気がつけばフェイターの姿もすでになく、
シキは小さく舌打ちをした。


「あ・・・リオナ!」


マーシャの声がしたかと思えば、リオナもその場からいなくなる始末。


さて・・・どうしたものか。


周りから聞こえてくるのはリオナに対する暴言ばかり。


今回ばかりは何と言えば・・・


「っっっるせぇぇぇぇよ!!」


すると突然大声が響き渡って、一瞬にして辺りが静まり返った。


皆の目が、マーシャに向く。


マーシャは全員を敵の様に睨みつけていた。


「これ以上リオナのこと悪く言ってみろ・・・てめぇら全員二度と口きけねぇように喉かき切ってやんよ!」


今まで見たことがないくらいに怒りを現すマーシャに、誰もが恐れおののく。


「リオナが人殺しだって?ははっ・・・よく言えたもんだな。じゃあテメェらはなんなんだよ!!化神は人じゃないってか!?人以外なら殺していいのか!?残念だったな・・・化神だってなぁ1人の人間だったんだよ!!テメェらだって同じ人殺しなんだ!!」


マーシャの殺気がこれ以上ないくらいに溢れかえる。


それに耐えられなかった者たちが次々に倒れはじめた。


「だからって化神は生かせておけねぇ。だから人サマの代わりに俺たちが始末してんだろーが!!忘れんな!俺たちは悪魔と契約を交わした人殺しだ!!天国なんかにゃいけねぇんだよ!」


しかしマーシャの怒りと同時に、
悲しみも、伝わってくる。


・・・バカだな、マーシャは


そんな今にも泣きそうな顔して怒るやつがあるか・・・


「神になんて・・・!なれると思うなよ!」


まるで自分に言い聞かせる様に叫ぶマーシャに、涙をこぼす者もいる。


マーシャの言う通りだ。


いつのまにか、自分たちは、
人間より強いと、
おごり高ぶっていたのかもしれない。


神にでもなったつもりでいたのかもしれない。


一連の騒動でバラバラになりかけていたエージェントたちも、今のマーシャの言葉に少しでも心が突き動かされたに違いない。


「そうだよ・・・リオナだけじゃないよ。俺たちだって一緒さ!」


すると横からシュナの声が聞こえてきた。


震える声で、リオナを罵倒したエージェントに向かって話かける。


「君が言ってた魔方陣に巻き込まれてしまったエージェント・・・すでに化神になってしまっていたよ」


真実を述べるシュナに、エージェントは目を逸らす。


「確かにリオナはちょっとやりすぎたかもしれない。でも、俺たちは仲間でしょ!?仲間は信じてあげなきゃ!俺たちはみんな同じなん・・だ、から・・・」


みるみる目に涙をためるシュナ。


突然泣き出すシュナに、横ではナツが驚いてあたふたしていた。


[なっ!おいなんで泣くんだよお前が!]


「だ・・・だっでぇぇぇ〜!」


[男なら泣くな!!・・・お前らも人の悪口言ってる暇があったらさっさと片付け始めろ馬鹿ども!!効率よく動けってんだ!ほらそこいつまで転がってんだよ!!死にてぇのか?!え?]


意外なことに、ナツの一言で幕が降りた。


エージェントたちもあたふたと片付けをしだした。


まさかの結末に、シキもあっけらかんとしていた。


[おいそこのクソ変態!]


それはマーシャも同じだった様で、
ポカンと口を開けていた。


[なんでお前はボサッとしてんだよ!さっさと追いかけな!!]


「え・・・」


[えじゃねぇよ今追いかけなかったらな、テメェもう二度とリオナに会えねぇ触れねぇと思えこのポンコツが!!]


普段なら怒るであろうマーシャ
も、今はもうそれどころじゃなかった。


今気がついたかの様に急いで走り出していた。


[ったく・・・どいつもこいつも鈍感馬鹿面倒な奴ばっかだな。]


「ナツは素直でいいよね・・・うぅぅぁぁぁぁんっ!」


[まだ泣いてんのかよ!いっぺん死ねよ。]


「なっ・・・ヒドイ!」


シキはシュナとナツのやりとりに苦笑しながら、
地面に刻まれた巨大な魔方陣を見た。


今回は自分もすぐに駆けつけられなかったのが悪かった。


リオナも帰ってきたばかりでただでさえ不安定だったのに、再び力を使わせてしまった。


できれば今すぐにリオナとマーシャの元に行ってやりたいが・・・


「今は2人にしてやらなきゃな・・・」


リオナにはマーシャを、マーシャにはリオナを。


そう仕向けたのも、結局は自分なのだから。























































『ったく・・・結局このザマかよ!!お前に抱えられて帰還だなんてダッサくて俺やだ。』


『なにワガママ言ってるんッスか。それどころじゃないでしょうが。』


『うるせぇよ。』


ランダーとビンスはダーク・ホーム内にある、島のはずれの湖にきた。


モリン=クィーガが開いた外界と繋がる穴がここにあるからだ。


まさかフェイターとして、光妖大帝国に戻れるとは思ってもいなかった。


これもすべてカイのおかげ。


カイは戻ってくる条件として、
リオナとマーシャの仲を切り離せと言っていたが、これもアシュールへの土産とさせるつもりだろう。


何から何まで、もう感謝しきれないと、2人は頭が下がるばかり。


『でもなぁ、カイさんにこんな姿晒したくねぇなぁ。せっかくチャンスもらったのによ。』


『気にしすぎッス。それに・・・』


すると突然、
ビンスはランダーを地面に押し倒した。


ランダーはうつ伏せの状態でもがく。


『お前いきなりなにしやが・・・んん!!』


口を塞がれ、声も出せない。


『シーッ。静かに聞いてください。このままランダーは穴に向かうッス。ただ、絶対立っちゃダメッスからね。』


何を言い出すのかと、ランダーは訝しげにビンスを見上げる。


『とにかく、急いで!』


ビンスに押され、ランダーは無理やり穴の方へと向かっていく。


ランダーが穴に入るのを確認すると、
ビンスはゆっくりその場から立ち上がった。


すると、視線の先には両手に剣を持った男が立っていた。


背中からは、真っ黒な巨大な翼が生えていた。


そう、悪魔の翼が。


『まさかダーク・ホームのマスターが直々にお越しくださるとは。恐縮ッス。』


そこにいたのはビットウィックスであった。


ニコリと笑う目から、赤い瞳が見える。


「やぁ。まさか君があの赤の屋敷から脱出するとは思わなかったよ。きっと優秀な誰かの手助けがあったんだろうねぇ。」


ビットウィックスは2本の剣をこすり合わせ、
一度腰の鞘に戻した。


「まぁ、どっちにしても、君は死ぬ運命なんだけどね。君が逃がしたあの仲間も。」


笑っているのに殺気に満ち溢れているビットウィックス。


さすがのビンスも立っているのが精一杯だった。


『悪魔の貴公子、か。なるほど。僕たちの上司にソックリだ。』


「上司ってアシュールとかいうクズのことかな?」


『失言は控えるッスよ。じゃないと、痛い目に遭いますよ?』


「はは。それは失礼した。じゃあ、君たちにも謝ってもらおうかな。」


一瞬にして空気感が変わった。


ビンスはまるで1000人の敵に囲まれたかの様な威圧を全身に受ける。


それもこれも、すべてビットウィックスの殺気。


『っ・・・謝る?それは・・・無理ッスよ。』


「無理、ね。そうか。まぁ、はじめから許す気なんかこれっぽっちも無いけどね。」


『だったら・・・』


「死んでもらうしか無いかな。」


瞬時に、戦いの火蓋がきられた。


2人の手からでる黒と白の光線がせめぎあう。


さすがは大魔王サタンの息子である。


圧倒的に強い。


『・・・っく』


「時間稼ぎのつもりかな?ははっ・・・くだらない。」


ビットウィックスの力が増していくのがわかった。


なんとかして、せめてランダーだけでも逃がさなければ。


すでに闇にのまれているにも関わらず、それでも立ち向かってくるビンスに、ビットウィックスは薄ら笑いを浮かべた。


「ほう。フェイターにも仲間を庇うという心があるのかい?仲間という概念すら無いと思っていたが。」


『仲間・・・なんて、思っ・・・て、ないッスよ・・・』


ただ、これが最善であるから。


両方がやられるよりも、力の強いランダーが生き残った方が今後のフェイターの機動力となるだろうから。


少なくとも、仲間とは思わない。


思いたくても、きっとランダーは嫌がるだろうし。


『言っておきますけど・・・死ぬの・・・怖くないッスから』


とうの昔に捨てた命。


最期くらい誰かの役に立てて良かっ・・・


『勝手に人に貸し作ってんじゃねぇぇぞ馬鹿!』


突然腕を引かれ、
後ろに倒れた。


ビットウィックスと張り合っていた光線がお互いに弾け飛ぶ。


後ろを振り返れば、ランダーがビンスの身体を支えていた。


『な、ランダー!なんで行かなかったッスか?!イテッ!!』


『お前が俺を助けるなんて一億光年早ぇんだよ。っとあぶねぇ。』


その隙も見逃さず、ビットウィックスの攻撃が飛んでくる。


ビンスを抱えて攻撃をよけながら、ランダーは囁いた。


『後輩はな、先輩の背中だけ見てりゃいいんだよ』


そう言うとランダーは外界に繋がる穴に向かってビンスを投げた。


『ちょっ・・・ランダー!!!』


穴に落ちていくビンスは精一杯腕を伸ばす。


しかし、穴はみるみる塞がっていく。


『なんてことを・・・ランダー!!!』


穴が塞がる中、最後に見えたのはランダーの笑顔だった。


『後輩を守れねぇで先輩って言えるかよ!なぁ!ビンス!』


その瞬間に完全に穴が塞がってかしまった。


光が閉ざされ、穴に一気に吸い込まれていく。


『反則ッスよ・・・反則ッス!!!』


何が先輩だ・・・たった数日、違っただけじゃないか・・・!


なのに!





"お前、新入りか?"


"はい、ビンスっていいます。よろしくッス。"


"へぇ、じゃあ、今日から俺が先輩ってわけか!"


"あなたもしかして、ランダーさんッスか?"


"おうよ。"


"さっき、カイさんに、ランダーさんも先週きたばっかだって"


"だからなんだよ。先輩でわるいかよ!"


"悪いッスね。たった数日違いで後輩になるのはいただけないッス。痛!"


"馬鹿野郎!後輩がイヤならしっかり働け!後輩!"


"殴らなくても・・・はぁ、なんだかどうでもよくなってきたッス・・・"


仲間じゃない。


ただの同志。


なのに、


なんで、


涙が溢れてくるのだろうか。


『ランダー・・・ランダァァ!!』


こんな思いをするなら
仲間なんて・・・いらない


ただの同志で・・・いたかった・・・










「とんだ友情劇だったね。いやぁお見事。」


乾いた拍手をしながら、ビットウィックスは冷たい笑みを浮かべていた。


ビンスを逃がしてしまった事に、小さな怒りを感じる。


彼の代わりに残ったランダーというフェイターは、すでに怪我を負っているのに一体なにを考えているのだろうか。


『友情なんてねぇよ。ただ借りを作りたくなかっただけだ。』


死ぬとわかっているはずなのに、笑って立っているランダー。


なぜ笑っていられるのか。


わけがわからない。


「フェイターの分際で・・・。本当、君たちが憎いよ。」


『はは!あーそっか!お前、妹のムジカちゃんを殺されたんだっけ!アシュールさんにな!』


「わかってるじゃないか。大切な妹だったんだ。もちろんリオナにとってもね。」


『リオナ、ね。アイツはだいぶ立ち直ってるみたいじゃん。それとも、忘れちゃったのかね。』


「リオナは立ち直ったよ。彼は強い。忘れたとかそういうことじゃない。ケジメをつけたんだよ。」


『そーゆーのを忘れたっていうんだよお兄さんよぉ。少しは見習ったらどうよ?』


「はは・・・減らない口だね。もうおしまいにしよう。こんなくだらない戯言も」


ビットウィックスは2本の剣を取り出し、剣先を向けた。


「君の・・・人生もね。」


一瞬の事だった。


ビットウィックスの動きは光のように早かった。


ランダーはスローモーションのようにゆっくりと倒れこみ、空中に真っ赤な血のアーチを作る。


「・・・避けないとは。それ程までに弱っていたのか。まったく、無様なことだ。」


ビットウィックスの冷たい視線が降り注ぐ。


ランダーは今にも息絶えてしまいそうなのに、
口元は怪しく笑い続けていた。


『ははっ・・・人・・を、呪わ・・・ば、穴ふ・・・・・たつっ・・・て、知ってるか?』


「さぁ?」


『おま・・・えの恨み・・・必・・ず、返って、くる、ってな。今に・・お前も・・・あの世行きだ・・・』


小さな笑いをこぼすランダーに、最期のトドメを容赦なくさした。


ようやく笑いがなくなり、
静けさが訪れた。


しばらくすると、
ランダーの死体はみるみる無くなっていく。


そんな光景を見ながら、
ビットウィックスは腰に剣を戻した。


「ムジカ・・・すまない。」


君を忘れようとしても、
私には無理そうだ。


私は、弱い。


私は・・・・・・


いまでも・・・


「・・・愛しているよ、ムジカ」


歪んだ愛情だということは分かっている。


君が許してくれるとも思っていない。


ただ、全てが終った暁には


君の元にゆきたい・・・



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あきゅろす。
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