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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story107 キミを想う


苦しくて、苦しくて、
誰かに縋りたくて、手を伸ばして。


でも、その先には誰もいない。


望んでいたものはすべて偽り。


いっそ自分も偽りだったら、
どれだけ楽だったか。











どれくらい走ったのだろうか。


喧騒から逃げ、暗闇を探して走り続けて。


とにかく、どこか遠くへ行きたい。


誰もいない、何もない、知らない世界に。


「・・・・・・っはぁ」


リオナは大きく息を吸い込む。


呼吸を忘れるくらい、かなり遠くへきた。


恐らくここはダーク・ホームじゃない。


扉を抜けて、外にきてしまったようだ。


刺すような冷たさは、きっとノースアイランドにきたからだろう。


寒いともなんとも思わない。


きっとそれは、心が冷え切ってしまったから。


何もない真っ白い大地。


リオナは無意識に足を進める。


このまま真っ直ぐ行けば、
どこに辿り着くのだろう。


どこか知らない国に辿り着くのだろうか。


もしかしたら、
自分の故郷に行けるかもしれない。


今は無き大魔帝国。


あの日以来、一度も行っていない。


あえて避けていたのかもしれない。


行ってみようか、この道を辿って。


もしかしたら、あのクリスマスの夜に起きた真実を思い出すかもしれない。


たとえ辿り着かなくとも別にいい。


とにかく、この先にーーー


「っぁ・・・・・・」


一瞬、目の前が歪んだ。


足がもつれて、地面に膝をつく。


急に吐き気が襲って、
その場に嘔吐してしまった。


「ッケホ・・・・・・ハァ・・・」


よく見れば、吐血だった。


雪が真っ赤に染まっている。


ふと頭に浮んだのは、
自分が使った禁忌魔法。


あれは術者の命を削る。


これが"狂気"の代償なのか・・・


「はは・・・はははっ」


可笑しかった。


笑いが、止まらなかった。


自業自得無様とはまさにこのことか。


冷え切った涙が頬を伝う。


笑いと涙が溢れでる。


心が限界の悲鳴をあげている。


このまま、死ぬのも悪くない。


むしろ自分は、いない方がいいのかもしれない。


そしたら他人は俺の"狂気"に怯える必要はない。


フェイターは"神の器"とやらを失うだろう。


B.B.もちゃんと契約者を見つけられて、悪魔として立派になってくれるはず。


それに・・・


ようやくマーシャを・・・・・・自由にしてあげられる。


もっと早くに、気が付けばよかった。


遅すぎたのかもしれない・・・でも、今からでも、まだ、間に合うのなら・・・


リオナは震える右手でトランプを取り出した。


ゆっくり魔術を流し込み、
長剣に変化させる。


それを両手で握り、
左胸に向けた。


これを"逃げ"というのかもしれない。


ムジカ・・・ごめんね。


生きると約束したのに。


でも、ごめん、もう、
辛いんだ・・・


リオナは左胸めがけて剣を思い切りふるった。


しかしその時、
剣先が胸に突き刺さる前に、
ピタリと手が止まった。


自分の意思ではない。


冷え切った自分の両手に重なるように、暖かい大きな手が力強く押さえつけていた。


「・・・・・・っ」


今になって、体が震えてきた。


何がどうなっているのか、頭がパニックを起こしている。


それでも、この暖かい大きな手は、誰だかわかる。


その暖かい手が、体全体を包み込むようにリオナを強く抱きしめた。


「なにしてんだよ・・・リオナ」


後ろから抱きしめられ、声だけが耳に直接伝わってくる。


「・・・なにしてんだよ!!」


声を押し殺してマーシャが怒鳴る。


リオナは恐る恐る振り返った。


マーシャの顔は青白く、
怒り悲しみすべてが詰め込まれたような、
とにかく辛そうな表情をしている。


「クソッ・・・」


マーシャはリオナの服からトランプを奪い取り、剣も遠くに投げ捨てた。


マーシャの感情がひしひしと伝わる。


でも、それでも俺は、
見て見ぬフリを・・・したかったんだ。


「・・・放して」


身をよじり、マーシャから離れようとした。


しかし右手をガシッと掴まれてしまう。


その力は強く、いくら引いてもビクともしない。


「っ・・・はなせって言っ」
「嫌だと言ったら?」


真っ直ぐで、力強い声が耳を突き抜けた。


見なくても感じる、マーシャの怒り。


なんで・・そんなこと


「この手を離したら、お前は俺の言うことを聞くのか?」


なんでそうなるんだよ・・・


いつもそうだよ、マーシャは


「・・・1人になりたいんだ。」


「なら、尚更放せねぇよ。」


「なっ・・・ちょ、おい」


マーシャは無理矢理手を引いて歩き出した。


表情は見えないが、マーシャの怒りがひしひしと伝わってくる。


掴む手が熱い。


熱くて、痛い。


なんで怒ってるの?


俺が逃げたから?


わかんないよ。


全然。


マーシャは迷いもせずにある街に辿り着いた。


雪に埋もれた真っ白い町。


しかし人の気配は感じられない。


町には激しい戦闘の傷跡がハッキリと残っていた。


おそらく、国家間同士の戦闘に巻き込まれて廃墟と化したのだろう。


マーシャは近くの民家の家のドアを勝手にこじ開けたかと思うと、
その家の中にリオナを放り投げた。


リオナは思い切り床に転がり、体全体を打ち付けた。


「・・・っ」


バタンとドアが閉まる音がする。


「ここなら誰もこないだろ。いるのは俺たちだけ・・・」


立ち上がる気力もでない今、リオナは床に転がったまま、自分に近づいてくるマーシャの足をただ見つめついた。


リオナの前で足が止まると、
マーシャはかがんでリオナの前髪を掴みあげた。


近くに、マーシャの顔がある。


久々にみる、マーシャのリオナへの怒り。


恐怖なのか何なのか、体が硬直してしまう。


「なぁ、リオナ。」


口さえ動かない。


ただ、目だけは離せなかった。


「もっかい聞くけど、お前、なに死のうとしてんの?」


先ほどと変わらない質問なのに、威圧が違う。


まるで拷問するかのように、グイグイとココロに割り込んでくる。


「答えろよ・・・なぁ!!」


「・・・・ッ!」


力強く壁に叩きつけられ、
頭に痛みが走った。


両手もマーシャの右手で壁に縫いつけられてしまう。


「なぁ!聞いてんのかよリオナ!!」


一瞬、恐怖で目を瞑ってしまった。


自分でも、分からないんだ・・・


なぜ、あの時、死のうとしていたのか。


その時、ふと頬に何かが落ちてきた。


生暖かい、けれどすぐに冷たくなってしまう。


ぽたぽたと、優しくリオナの頬を濡らす。


リオナはそっと目を開けた。


「・・・マーシャ」


驚いた。


マーシャの目から、
いくつもの涙の粒が零れていたのだ。


瞳を伏せて、静かに泣くマーシャが、なぜだかとても美しく感じてしまう。


「・・・やだよ、泣かないで、マーシャ」


声が震える。


不安になるから・・・泣かないで


「マーシャ・・・」


「聞いて、リオナ・・・っ」


涙を見せないように、マーシャは口をリオナの耳に寄せた。


「お前を・・追い詰めたのは、間違いなく俺だ。俺は自分の過去を、リオナに隠してた。」


両手を縫い付けていたマーシャの右手がゆっくりと外れていく。


「俺な、ずっと考えてた。俺にとってのリオナは何なのか。俺はリオナをただ利用してるだけなんじゃないかって。リオナを心配してるフリをして、いつ利用してやろうか時期を見計らっていたんじゃないか。俺は恨みを晴らす力が欲しくて、ダーク・ホームに入ったんだ。もしかしたら、頭の何処かで、お前を利用しようとしてるんじゃないかって・・・思うようになったんだ。怖かった。リオナを巻き込むのが。リオナにも自分の罪を背負わせようとさせている自分が、情けなかった。だから、お前には話してなかったんだ。俺の過去を、すべてを。」


マーシャの想いが、今になって心に雪崩れ込んでくる。


なぜ、もっと早くに、気が付いてあげられなかったのだろうか・・・・


「でも、今、わかった。俺はリオナを利用しようとかそんなこと、思ってなかったんだ・・・!」


その瞬間、マーシャの両腕がリオナの全身を包み込んだ。


優しく、暖かいマーシャの熱が、じんわり伝わってくる。


「こんなにもお前を愛しているのに・・!!できるわけねぇよッ・・・!!!」


「・・・・!・・マー」
「お前が死のうとしてたの見て、本当にビックリした・・・。お前がいない世界を想像したら、頭が真っ白になったんだ。」


やめて・・やめてよマーシャ・・・


これ以上・・・そんなこと言われたら・・・


「今からでも遅くないなら・・・俺に時間をくれないか。全部、リオナに話すから、リオナにも、知って欲しいから。全部話すよ・・・だから・・・だから・・・」


小さく囁いた言葉で、すべて崩れ落ちた。


「死ぬなよ、リオナ・・・・死ぬなら、リオナを、俺にちょうだい・・・」


強く抱きしめられ、行き場のない涙がリオナの瞳から零れ落ちた。


謝らなくちゃいけないのは俺なんだ・・・なのに、俺は・・・


死んで、マーシャを罪という名の地獄に叩き落とそうとしていたんだ・・・


「ごめ・・・マ・・シャ」


震える唇から、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


でも、
マーシャ・・・マーシャは
俺の為に言ってくれてるんだ・・・


本心じゃ・・ない


「ダメだよ・・・マーシャ・・」



離れたくない・・・
この優しい熱から。


けれど離れなければ、
マーシャを自由に・・・


リオナは力強くマーシャを押し返した。


マーシャの哀しみに満ちた瞳が
心臓をきつく縛り付ける。


「・・ねぇ、マーシャの夢って何?」


「夢なんて・・・あるわけないだろ。」


「嘘だ・・・ねぇ教えてよ、俺と、出会わなかったら、何がしたかった?」


一瞬、マーシャの眉が寄った。


やはり、フェイターが言ったように、
マーシャにはちゃんとやりたかった事が・・・


「ははっ・・・そーゆーことね。リオナ」


しかし、予想とは裏腹に、
マーシャは引きつった笑みを浮かべていた。


再びその表情には怒りが溢れていて、
後退りたくなるほどだ。


「お前はあの時、助けてもらいたくなんかなかったんだろ?」


「・・・な、何言って」


「死にかけたお前を無理矢理連れ出して、挙句お前の人生を俺が決めたようなもんだからな!」


「違うよ・・・マーシャ・・・違うんだ」


「俺が嫌だったなら最初からそう言えばいいだろ!?そんなに俺から自由になりたかったらなればいい」
「違うって言ってるだろ・・・!!」


大きな声をあげてマーシャの声を遮った。


心の底からの叫び。


届け


「違うよ・・・違うったら・・!」


涙は止まる事を知らないのか。


ボロボロボロボロ
零れ落ちる。


「マーシャを嫌いなわけないじゃないかッ!!好きだよ・・どうしようも無いくらい大好きで仕方がないのに・・!」


今すぐにでも、抱きつきたいのに・・


「自由にっ・・・ならな、きゃ、いけな・・のは、マーシャ、だよ・・・」


リオナの両手がギュッとマーシャの手を握る。


マーシャの汗ばんだ手が、
冷えたリオナの手をやんわりと暖める。


「なんで・・・なんで、俺?」


マーシャは涙をこぼすリオナの両手を強く握り返す。


「・・・俺が、マーシャ、を・・縛り付けてた・・・マーシャに甘えて、マーシャに縋って、マーシャの自由を奪った・・・あの日、マーシャと出会わなければ
、マーシャを、こんなにも苦しめる事はなかった・・・!」


「リオナ・・・何言ってんだよ」


「マーシャには夢とかやりたいこととか沢山あったはずだ・・!けど、幼い俺の面倒とか・・・俺はマーシャの時間を奪った・・・だから、だから・・!」


これ以上、言葉が出ない。


苦しくて、どうにもならない。


「だ、から・・・マーシャ、俺は・・・・・ンッ」


突然、目の前が真っ暗になった。


視界を遮られたように。


ただ、わかるのは、
唇に、温かくて、柔かいものが押し当てられてることくらい。


「ふ・・・ぅんンッ・・」


マーシャの顔が、すぐ目の前にある。


唇と唇がぶつかり合っている。


一瞬離れたかと思うと、すぐにまた唇を重ねる。


マーシャの両手が頬を包み込んだ。


リオナもつられるようにマーシャの手に自分の手を重ねる。


何故だろう・・・こんなことされても、
全然嫌だと思わない。


むしろこの甘い感覚に、
ずっと浸かっていたい。


「ンッ・・・ハァ」


しばらくして、ゆっくりと唇が離れてた。


まるで惜しんでいるかのように、銀色の糸を引く。


まだ涙が止まらない目で、マーシャを見上げる。


扇情的な表情を浮かべるマーシャは、リオナの目から零れ落ちる涙を指で掬った。


「これでも、わからない・・・?リオナ」


目が離せない。


離してしまえばどれだけ楽なんだろう。


でも、そうすれば、もう二度と、
マーシャの瞳を見ることはできない。


「わかってよリオナ・・・俺の気持ち。愛してるんだ、リオナを・・・家族とか仲間とか恋人とかそんな愛じゃないんだ、それを超えた、それ以上の、愛なんだ。お前と出会えなきゃ、今の俺はいない。後悔なんてするわけないだろ!!お前を助けてなきゃ、リオナと出会わなければ、俺はきっと・・後悔してた。」


返事をしたいのに、声が出ない。


涙ばかり、溢れでる。


「リオナと出会う少し前に、ダーク・ホームで色々あったんだ。夢とか希望とか、そんな言葉は大っ嫌いだった。そんなもの持ったって、最後には裏切られる。だったら最初からそんなもん持たなきゃいい。そう思ってた・・・。本当はな、大魔帝国が壊滅するあの時、あそこをうろついてたのは、任務なんかじゃなかった。自分の進む道がわからなくなって、適当に任務やりながらダーク・ホームには帰らないで、ただ世界中を歩き回ってたんだ。そのどうしようもない旅の終着が故郷の大魔帝国だった。大魔帝国の壊滅は目に見えていた。だからこそ、最期くらいは、故郷を守りたいって、思ってた。」


「死ぬ・・・つもり、だった・・の」


「そうだな・・・それも悪くないって。フェイターが襲撃してきたクリスマスの夜、燃えさかる炎の中に、フェイターのカイを見つけた。あいつさえ殺せば、俺の恨みも晴れる。せめてあいつだけでもって思って、剣を抜いた時だった。そしたら、泣き声が聞こえてきた。子供が1人、泣いてるんだ・・・みんな死んだと思ってたのに、リオナは生き残ってた。お前を見た瞬間、恨みなんかすっかり忘れてよ、気づいたらリオナのこと抱きかかえて走ってた・・・」


「・・なん・・で・・」


「なんでかな・・・たぶんお前の親父に頼まれたからってのもある。でもそれだけだったらダーク・ホームまで連れてかない。」


マーシャは優しく笑いかけてくる。


「お前は俺にそっくりだ。頑固なとこも、意地が強いとこも・・・だから尚更、放っておけなかったのかもな。」


「マー・・シャ」


「リオナ」


すると、マーシャは似合わないくらい真面目な顔をして、
リオナの顔を再び両手でしっかりと包み込んだ。


そしてゆっくり、ゆっくりと、
言葉をはきだす。


「俺と出会ってくれて、ありがとう。生まれてきてくれて、ありがとう。俺のそばにいてくれて、本当に、ありがとう。」


1番欲しいものを、マーシャはいつもくれる。


大好きなんだ、マーシャが。


大好きだから、苦しかった。


でも、もう、苦しいなんて、思わなくても、いいのかな・・・


「リオナがいなきゃ、ダメなんだよ俺は・・・誰が俺の面倒みるんだよ、任務だって、俺の相棒はリオナだけなんだよ・・。愛してるって言葉じゃ足りない・・・リオナ、お前は俺の、命なんだ・・・」


「マーシャ・・・」


「誰がなんと言おうが、俺はお前を手放すつもりはない。性別なんて関係ない。リオナが嫌がっても、もう俺は我慢しないよ。お前が俺の愛をわかってくれるまで、お前を縛りつけてやる。」


どうしてか、この独占欲に満ちた瞳に惹かれてしまう。


昔から、この瞳に安心してきたんだ。


それは今でも変わらない。


「・・わかん・・ない・・」


リオナの手が、自分の頬に添えられたマーシャの手に重なる。


「・・・マーシャの・・・愛・・・わかんない」


「どう、わかんない?」


マーシャは笑いながら、優しく覗き込んでくる。


「俺・・マーシャ、好き・・・だよ・・だから、マーシャに、応えたい・・・でも、マーシャの、愛が、よくわからない・・・」


マーシャの言っている愛は、
家族愛でも、恋愛でも、仲間愛でも、友情愛でも、なんでもないのだ。


当てはまらない。


それらをすべて超えた"愛"だという。


それはどういうことなのか、全然、わからない。


「大丈夫だ、リオナ」


すると、コツンとマーシャの額が自分の額とくっついた。


また、近くなる。


「俺が、最初から教えてあげるから、リオナは、そのままでいて・・・」


「・・・そのまま」


「そう、そのまま。お前の中の"狂気"も、俺が全部愛してやる。だから、安心して、俺を信じてくれるだけでいい。」


「マー・・・シャ・・」


再び、涙が込み上げてくる。


結局、マーシャにはお見通しなんだ。


自分の中にあった一番の不安、
"狂気"。


"狂気"は、自分自身であって、自分は、常に"狂気"と隣り合わせ。


そんな自分を・・・"狂気"ごと愛してくれるなんて


マーシャには・・・かなわないや。


自然と、笑みがこぼれる。


そんなリオナを見て、
マーシャも安心したのか、
肩の力を抜いた。


「俺・・・マーシャを、傷つけるかもしれない」


「大丈夫。リオナは絶対俺を傷つけない。もしそうなったとしても、お前を嫌いになんてならないよ・・」


「・・・まだ、狂気がよくわからないんだ。ただ、あの呪文を使うほど・・・体も弱ってきてる・・・」


あと何度か使ってしまえば、
この身体も滅びるかもしれない・・・


「大丈夫。もう使わせない。俺がいる限り、絶対に。わからないことは、一緒に知っていこう。」


「本当に・・・それでいいの?」


「ああ。何があっても、お前を守るし、愛すよ。まぁ、できれば、俺にも愛をくれれば、超嬉し・・」


するとその瞬間、
マーシャの唇にリオナの唇が重なった。


涙を流しながら、リオナはマーシャの唇を舐める。


マーシャは呆然としながら、
リオナの表情をただじっと見つめていた。


唇が離れると、リオナは目も頬も真っ赤にさせ、
目線を反らした。


「・・・マーシャの、愛・・これと、違う・・・?」


ようやく我に返ったマーシャも、頬を赤くして、未だにリオナをジッと見つめていた。


そして次第に、いつものようないやらしい笑みを浮かべ始めた。


「いいや、違くない。ただ、さっきも言ったよな?俺の愛はそんなもんじゃないんだ。恋人を超えた愛、だよ。だからキスも、色んなことも、それ以上に、熱くて激しいんだ。」


マーシャの指が、リオナの唇をなぞる。


ピリッと、甘い電流が走る。


「・・・それも、全部・・おしえて、くれるんでしょ・・・?」


「ああ、後悔しても遅いからな。まぁ、後悔なんてさせてやんないけど、な・・・」


ゆっくりと、体が折り重なっていく。


まるで互いの壁を壊すように。


涙は止まらない。


けれど、これはもう悲しみの涙ではない。


このまま、時間が止まればいい。


いや、止まっていればよかった。


そうすれば、
今までになく辛い思いなんて、
することもなかったのに・・・

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