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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story104 聞いてほしいことがある



冬の冷たい風が、ピリピリと頬を撫でる。


海に囲まれた"神の島"にたたずむダーク・ホームも、いくら四方を巨大な壁で囲まれていても海風の冷たさは防ぎきれないようだ。


しかし今日は雰囲気だけは暖かい。


なぜなら雪見祭が始まったからだ。


ダーク・ホーム内の人々は寒さを忘れて祭を楽しんでいた。


そんな中、祭が行われているとも知らずに、ダーク・ホームに帰還したもの達がいる。


ちょうど15時を迎えた頃、
四方を取り囲む巨大な壁の上にある、ノース・アイランドに繋がる扉が、光を放ちながら開かれた。


「着いたッチョー!あー疲れた♪」


[おいお前・・・誰がお前の荷物を持ってやってたと思ってんだ?]


「ナッツンだッチョ。ありがとうッチョ!」


[う・・・わ、わかってるならそれでいい。]


扉から出てきたのは任務から帰還したクラッピーとナツ。


その二人に続き、シキとリオナも出てきた。


「・・・シキ、荷物ありがとう。もう大丈夫。」


「無理するな。まだ完治してないんだから。」


「・・・いつもより優しいな。ありがとう。」


「失礼だな、俺はいつも優しい。」


ちょっとムッとするシキを笑いながら、久々のダーク・ホームを上から見渡す。


雪のおかげかいつもよりダーク・ホームが綺麗に見える。


それになんだか黒の屋敷周辺が賑やかな気がした。


「あー!なにかやってるッチョ!」


クラッピーは身を乗り出して遠くを見つめる。


[おいバカ。あぶねぇからもっとさがれ。]


「うわぁ!ナッツン!なにするッチョか!」


危なっかしいクラッピーをナツが片手で持ち上げた。


この任務を通して分かったが、
ナツは案外面倒見がいい。


なんだかんだいいながらクラッピーの面倒をみてくれている。


「むー。シキ!あれはなんだッチョか!」


「あれは雪見祭だよ。マスター・・・結局やっちゃったのか。」


はぁ。っと深いため息がシキの口から漏れる。


果たしてモリン=クィーガがなんと言うか。


いや、すでにカンカンになっているかもしれない。


そんなことを思っていた矢先だった・・・


『どうやら任務は失敗したようですね。』


突然背後から声がし、振り向けばそこには渦中のモリン=クィーガが立っていた。


彼はまるで勝ち誇ったような顔をしている。


『まぁ、あの本はそこまで重要な記録が残されていたわけではなかったみたいですから、よかったですね。』


[うるせぇ奴だな。わざわざそんなこと言うために来たのか?]


『まさか。私はそこまで暇じゃありませんよ。ただ、忠告にきただけです。』


そう言ってモリンはシキを睨む。


『あなたのマスターはとんだおバカさんだ。こんな時に祭なんて・・・敵につけ込まれたいのなら話は別ですが。』


「何が言いたい・・・」


シキも負けじと睨みをきかす。


『だから、忠告ですよ。あなた方が呑気にしてる間にも世界は滅亡に向かって行く。これからどうなるんでしょうね。』


そう呟き、モリンはノースアイランドに続く扉に手をかけた。


その様子をナツが訝しげに見つめる。


[おい、どこに行くんだよ。]



『どこって、本部ですよ。私は他にも仕事がありますからあなた達の面倒ばかり見てはいられないですよ。』


どうにもこうにも、モリンはトゲのある言い方以外は出来ないらしい。


『まぁ、私が帰ってくるまでにこの間抜けな祭が終わっていればいいんですが。そうでしょう?リオナ=ヴァンズマン。』


唐突に話をふられたリオナは、無表情のままモリンをみた。


モリンはニヒルな笑みを浮かべ、目を光らせている。


ホント嫌なヤツだ。


『リオナ、君はこんなことをしている場合じゃないでしょう?君にはタイムリミットがあるのだから。』


一瞬、何を言われたのかわからなかった。


タイムリミット?


だけど、頭とは反対に心臓だけが高鳴っていく。


『君が信じているものはなんだい?神なんて信じてはいないだろう?じゃあなんだい?仲間?友人?恋人?それともー』


モリンの口元が音を出さずに動いた。


けれどリオナにはハッキリとわかった。


"ウィキ"


リオナは体を震わせる。


なんで・・・コイツが・・・


『君の目で見た物がすべてだよ。この世はすでに常識という言葉が通用しない。』


コイツは、
全部知っているーーー


『君は君の見たままを信じればいい。』


俺があの本の中で"ウィキ"と会ったことを、知っている。


『君は"彼"を信じてあげればいい。』


俺が、
"ウィキ"に言われたこともーーー


"今日から3回目の満月の日に・・・"月の谷"で待ってる。"


『たとえそれが、非現実的であっても。』


「・・・・・・っ」


リオナは強張った表情を隠す様に下を向く。


・・・タイムリミットは3回目の満月の日


時間がないことくらい ・・・わかってる。


そのままリオナは何も言わずに背中を向けて行ってしまった。


「あ!リオナ待ってッチョ!!」


慌てて追いかけるクラッピーを横目に、ナツはモリンを睨みつける。


[お前、アイツに何言ったんだ?余計なことほざいてんじゃねぇよ。]


ナツは殺気を惜しみなく出すが、
モリンはひるむ事なく、むしろ今の状況を楽しむかの様に笑った。


『余計なこと?それは君が決める事じゃない、決めるのはリオナ=ヴァンズマンです。それに私は助言をしてあげただけですよ。』


[てめぇ]
「やめろナツ。」


飛びかかる寸前でシキがとり抑える。


モリンはメガネの奥で冷笑し、
口元を引き攣らせた。


『それでは、私は仕事に行きますから。また3日後にお会いしましょう。』


そう言って、モリンは扉の奥に消えて行った。


ナツはシキに押さえられていた腕を無理矢理ほどき、明らかに不機嫌そうに歩いて行った。





「まったく・・・モリンといいナツといい。口が悪いのはお互い様だな。」


シキは深いため息をつく。


それにしても、気になるのはモリンがリオナに言っていたあの意味不明の言葉。


だが、リオナの表情からして、
リオナは何かを理解していた様にも見えた。


モリンが言っていた"彼"とは・・・


それにリオナも少し、動揺していた。


やはりマーシャが言うように、
リオナは何かを隠している。


「お前が悩むのもわかるよ、マーシャ・・・」


今俺ができることは・・・


















"今日から3回目の満月の日に・・・"月の谷"で待ってる。"


頭の中で、何度も何度もウィキの言葉がこだまする。


確かに、あれはウィキだった。


漆黒の瞳、銀色の髪、話口調も、すべてウィキにソックリだった。


でも、彼は、死んだはずーーー


なのに、目の前にいたんだ。


確かにこの目で見て、この手で触れたんだ。


わからない・・・わからないよウィキ・・・


お前は、
俺を
どうしたいんだ・・・?


なんで・・・なんでフェイターなんかの仲間になったんだよ・・・


"月の谷"で待ってるって・・・



ウィキは、俺にフェイターの仲間になれって言いたいのか?


ムジカや沢山の人を殺してきたフェイターに・・・



俺はフェイターなんかにはならない、なりたくない。


そう、答えなんか簡単に出ているのに・・・


でも、それでも、俺はウィキを求めてしまう。


ウィキに・・・会いたい。


「リオナぁぁぁぁぁ!待ってッチョ〜!」


ふと後ろからクラッピーの声が聞こえて、
リオナは足を止めた。


気がつけばすでに城下町にきていたようだ。


色々考えていたせいで気が付かなかった。


「もぉーおいてくなんてヒドイッチョ!!」


「・・・ごめん。」


クラッピーはプンスカとほおを膨らませていたが、
リオナのいつも以上に暗い返答に、一気に心配そうな表情になった。


「どうしたッチョか・・・?なんだかあの村でてからリオナ・・・変だッチョ。」


クラッピーは素直だから仕方がないことなんだが、触れられたくない部分もあるわけで・・・


「・・・これは俺の問題だから。お前が気にすることじゃないんだよ。」


「気になるッチョ。」


「だから・・・関係ないって言ってるだろ。」


「なんでだッチョ!ボクちん知りたいッチョ!」


「・・・だから話したくないんだってば!」


つい口調が荒くなってしまった。


最低だ。


自分にイラついているのに、クラッピーに当たるなんて。


「・・・悪いクラッピー。1人にさせて。」


今は何も考えられない。


関係ないクラッピーを傷つけたくない。


リオナは背中を向けて歩き出そうとした。


しかし


「・・・?」


クラッピーに腕をつかまれ、阻まれた。


グイグイ引っ張っても、はなしてくれそうにない。


ちょっとしつこ過ぎる、とリオナは飽きれてため息をこぼした。


当の本人は俯いたまま、両手で抱きつく様にリオナの腕をはなさない。


「・・・おい、はなせよ。」


グイッと強くひくが、クラッピーはただ頭を横に振って拒むだけ。


一体なんなんだ・・・


「・・・あのな、しつこい奴は嫌われるって知ってるか?」


そう言ってやれば、バッと顔を上げたのだが、まるで今にも泣き出しそうな表情をしていて。


「・・・な、なんなんだよ」


調子が狂う。


「・・・言いたい事があるならハッキリ言え。」


「・・・。怖いッチョ。」


「・・・は?」


また何かあったのかと、リオナは面倒ごとはごめんだといわんばかりのため息をついた。


「・・・あのさ、言っとくけど俺はお前の不安ばっかり聞いてられな」
「そうじゃないッチョ!!ちゃんと聞いてッチョ〜!!」


今度はダダを捏ねられ、まるで小さい子供を相手にしているような気分になる。


「はぁ・・・何なのいったい。」


「だから、リオナがいなくなっちゃいそうで、怖いッチョ・・・」


「・・・俺?なんで俺がいなくならなきゃならないのさ。」


「わ、わからないッチョ・・・!!でも・・・!」


クラッピーの握る手に力がこもる。


その手は温かく、本当に子供みたいだ。


「リオナが・・・なんだかリオナじゃないみたいだッチョ・・・」


「・・・・・・」


その言葉がどれほど深く突き刺さったか、クラッピーは知らないだろう。


自分が自分じゃなくなってる事くらい、わかってた。


人間から完全なる悪魔になってからか、はたまたそれ以前の問題なのかはわからない。


けれど着実に、俺は"狂気"に呑まれつつある。


無意識に、時には自らの意思で使ってしまう"死の呪文"。


加えて、俺の心をくすぶる"ウィキ"の存在と、"アシュール"という憎き影。


信じていたものが、虚像であり、信じたくないものが真実であるこの現実に、紛れもなく不安を抱えているのは嘘じゃない。


だって・・・今の俺は、平気で人を殺せてしまうのだから・・・


おそらくクラッピーから見た俺は相当不安定な存在に見えるのだろう。


コイツに心配されるとは・・・
なぜか笑が込み上げてくる。


「り・・・リオナ?」


少し怯えたような目を向けてくるクラッピーに、リオナは柔かく笑かける。


「・・・クラッピー、俺が怖い?」


唐突な質問に戸惑いを見せているクラッピー。


そんな彼の困惑に、リオナは少し悲しげに目を細めた。


やっぱり・・・俺が"狂気"を抑えられないから・・・


「こ、怖くないッチョ!」


「・・・え?」


突然、少し強張った声でクラッピーが答えた。


「全然!リオナは怖くないッチョ!怖いのは・・・怖いのは、ボクちんがリオナにおいていかれることだッチョ。」


「クラッピー・・・」


純粋に、その言葉が、嬉しかったんだ。


たとえそれが無理して言っている事だとしても、今はその言葉だけを信じたかった。


「・・・ありがとう。クラッピー。この前さ・・・俺、ヒドイ姿見せたから・・・ヘタしたらお前やナツも巻き込んだかもしれないから、てっきり嫌われたかと思っ」
「嫌うわけないッチョ!!だってボクちん、リオナのことがす・・・」


すると、何かを言いかけて、クラッピーは固まってしまった。


何があったのかとリオナは顔をのぞきこんだ。


「・・・どうかしたか?"す"で止まってるけど。」


しばらくすればクラッピーの顔がリンゴのように真っ赤っかに染まっていって。


そしてなぜかもじもじしながら、上目遣いでリオナを見つめていた。


「ぼ・・・ボクちん、ね・・・・」


「・・・うん、なに」


「り、リオナのことがね・・・す、す、す、」


「す?」


「す、す、す、ああああああもおおおおお!」


もじもじしていると思いきや、
今度は頭を抱えて悶えだした。


一体こいつはなんなんだと、
リオナは本気で深刻な顔をする。


するとすぐにクラッピーの動きは止まり、その代わり、彼の両手がリオナの両肩を捉えた。


しかも息が上がっていて、
なんだか熱っぽい。


「な、おい、どうし・・・」
「どうしたもこうしたも!ボクちんは病気なんだッチョ!」
「は?」
「リオナを見ると胸の中心がギュゥゥゥゥッ!って締め付けられるッチョ!!」
「・・・ぇえ?」
「リオナに触れると体中がアッツアツになるッチョ!!」
「・・・そんなバカな」
「それに!!」


クラッピーは呆然とするリオナなんかお構いなしに、
顔をグイッと近づけて、盛大に声を張り上げた。


「"スキ"って言葉が簡単に言えないッチョ・・・!!」


「・・・!?」


ぜぇぜぇと息を荒げるクラッピーに、リオナはただ目を見開いて立ち尽くしていた。


「お前・・・それって・・・」


「そうだッチョ・・・ボクちん、こんな気持ち初めてだったから気が付かなかったけど、この気持ち、間違いなく、こ」
「・・・お前風邪ひいたな!?」
「そう!ボクちんは風邪をひいて・・・え?は?」


気がつけばリオナは口を押さえてだいぶ遠くに離れていた。


「ち、違うッチョ!?!?えっちょっリオナ違うッチョ!!!」


「うつすなよ・・・絶対風邪うつすなよ。」


「ちょ・・・ヒドイッチョ!!リオナヒドイッチョ!!」


「・・・ああああこっちくるな。さっきからどうも様子がおかしいと思えば。お前、最初からおれにうつす気だっただろ。」


「だから!違うって言ってるッチョォォォォォ!!」


2人は微妙な距離を保ちながら、追いかけ、追いかけられるを繰り返す。


だがそんな追いかけっこも、シキの一言ですぐに終止符が打たれた。


「さっきから何やってるんだ。」


シキはまるで異生物を見るような目を向けてくる。


けれどリオナはむしろちょうどよかったと言わんばかりの安堵を見せた。


「・・・クラッピーが風邪気味みたいでさ。」
「違うッチョぉぉぉ!」


横で騒ぎ散らすクラッピーをシキは呆れた目でみる。


「とりあえずクラッピーは先に戻ってDr.デヴィスに見てもらいなさい。ナツ、付き添い、できるだろ?」


シキの疑問系は"やれ"という意味が込められていることをナツも理解しているようだが、
明らかに嫌そうな顔をしている。


[お前ら俺をベビーシッターか何かと勘違いしてるだろ・・・]


「まさか。ただ面倒見がいいから、リオナに比べてね。」


そう言ってシキは意味ありげに笑ながらリオナを見た。


リオナ自身、少し気まずそうに目を逸らした。


「で、リオナはちょっと俺の用事に付き合ってもらうよ。」


「・・・用事?」


「たいしたことじゃない。ただの"おつかい"だよ。」


「・・・。"おつかい"なんて二度とゴメンだ・・・」


「ははっ。嘘だよ。ほらナツ達も早く行きなさい。」


シキが追い払うように手を振れば、ナツもクラッピーも不機嫌そうに先に戻っていった。


残されたリオナは、何をするのかとシキを見る。


面倒ごとはまっぴらゴメンだ。


できればおつかいも嫌なんだが。


その嫌な感情が顔にでたのか、
シキはクスクス笑いながらリオナの肩に手を置いた。


「そんな嫌そうな顔するなよ。せっかくクラッピーからはなしてやったのに。」


その発言に、リオナはバッと顔を上げる。


「・・・え、おつかいは?用事じゃないのかよ?」


「そんなものない。全部嘘。だって、リオナがクラッピーから逃げたそうだったから。」


そう言ってシキは再びニヤっと笑った。


その瞬間、リオナの心臓も音を立てて跳ね上がった。


「・・・な、まさか、知って」


「やっぱりな。お前がクラッピーは熱だ風邪だって言うから、最初は本当にリオナは鈍感なんだなぁって思ったけど、本当は気づいてたんだろ?クラッピーがリオナを好きだってことにさ。もちろん恋愛感情の方で。」


考えない様にしていたことをハッキリと言われて、
恥ずかしさにリオナは耳まで真っ赤にさせ顔を隠す様にしゃがみこむ。


このままどこかに走り去りたい気分だ。


そんなリオナの姿に、シキは笑をこらえながら、リオナの隣に腰を下ろした。


しばらく沈黙が続いた。


リオナ自身、ああ言ってクラッピーをはぐらかしたものの、内心驚きと混乱と罪悪感でいっぱいいっぱいだ。


「・・・アイツ、いつから俺のこと・・そんな目で見てたんだろ・・・」


そんなことを呟けば、
シキの落ち着いた返答がすんなり耳に入ってくる。


「なんとなく、俺は薄々感付いてはいたぞ?」


「えっ・・・どこらへんで?」


「どこらへんって言われても・・・まぁ、アレかな、クラッピーがリオナのベッドに潜り込んでたあたりから、かな。」


そのことならまだ鮮明に覚えている。


確かにあの時からヤケに絡みが多いなとは思っていた。


けれどまさか、そこから恋愛感情に発展するとは信じがたい話である。


「・・・そもそも、俺は、男だ。」


「万人受けする顔立ちなんだよ。」


「・・・嬉しくない。」


「確かに・・・男同士の愛っていうのは俺にはよくわからないが、ただ・・・」


言葉を止めるシキをリオナは見上げる。


「・・・ただ?」


「恋に基準やルールなんてない。そいつが恋だと思えば恋なんだよ。例えそれが男同士でも。」


「・・・シキは俺とクラッピーをくっつけたいのか?」



「ははっ。そんなわけないだろ?そんなことしたらマーシャに殺される。まぁそれはそれで見ものだとは思うけど。」


時々思う。
シキは悪魔以上に悪魔だと。


「・・・はぁ。嫌になるな」


何もかも。面倒くさくて仕方がない。


愛だの恋だの・・・今の俺には、重たすぎるんだ・・・


今背負っているものだけで、潰れてしまいそうなのに・・・


「リオナ・・・あまり背負いこむなよ。」


まるで心を読んだかのようなシキの言葉に、心が震える。


「クラッピーの件は・・・あまり考えなくていい。いつも通りに接してやればいいさ。」


「・・・そうかな。」


「俺が偉そうに言うことじゃないが、リオナが今やるべきことは、他人の拠り所になることじゃない・・・リオナが拠り所を探すことだと思う。」


拠り所・・・


その言葉に強く惹かれるのはなぜだろう。


「不安なら不安、怖いなら怖い、助けて欲しいなら助けてと言える相手が、今、リオナには必要だ・・・」


真剣なシキの表情に、
リオナは目をそらす。


シキに見透かされるのが怖いからじゃない。


自分の気持ちが不安定であることを認めてしまうのが嫌だったから。


「・・・どうしてそう思う?」


「ハッキリ言って・・・今のリオナは、脆い。」


「・・・そんなことない。」


「感情すらコントロールできてないくせにそう言い切れるか?現に今回だって感情に任せて魔方陣を発動させただろう。」


「・・・あの時はちょっと取り乱しただけだ。」


「ちょっとじゃない。下手したらクラッピーもナツも巻き込まれて死んでいた。」


「・・・だからって俺は」


言い返すにも、言い返せなかった。


シキの言う通りだから。


認めざるを得ないことも。


わかってる。


黙りこくって俯くリオナに
シキは優しく語りかける。


「大丈夫だ、リオナ・・・拠り所って言うのはな、甘えることじゃないんだ。気持ちの支えなんだ。」


「・・・支え」


「そう。全部話せとは言わない。ただ、1人で抱え込むより、2人で分け合った方が楽だってことだ。お前なら、探さなくても、すぐ近くにいるだろう?」


その言葉で、一瞬で頭に浮かんだのは・・・


「・・・マーシャ」


いつだって、俺を信じてくれていたのは、彼だった。


でも・・・


「マーシャは・・・ダメだ」


「どうして?」


大切だから、すごく、大事な人だから・・・


「本当の俺を知って・・・幻滅、されるのが、怖い」


マーシャに見捨てられたら、俺は・・・


すると思考を遮る様に、
シキの手がリオナの頬に伸び、
ビリッとした痛みが頬全体に広がった。


「・・・痛い」


「お前もマーシャも、本当にバカだな。」


「なっ・・・」


バカとはなんだとリオナは自分の頬をつねるシキの手を強くつかむ。


けれどビクともしない。


「お前もマーシャも、お互いを大事にしすぎなんだよ。ガラス細工じゃあるまいし。」



「・・・どういうことだよ。」


「だから、お前がマーシャに曝け出すのを怖がってるように、マーシャもお前に本当の自分を曝け出すのを怖がってる。」


本当の、マーシャ。


正直、少し、ショックだった。


マーシャが本当の自分を隠していることに。


俺は、誰よりもマーシャを知っているつもりだったのに。


「・・・・・・」


「ショックか?ショックだろう?」


シキは本当によく人の感情を読み解いてしまう。


しかも惜しみなく口にしてしまう。


けれど、


「その今の気持ちが、マーシャの気持ちだ。」


「え・・・?」


それは、誰よりも人の心に敏感だってこと。


「信じてくれリオナ、あいつは・・・マーシャは、間違いなく、お前の一番の理解者だ。ちょっと溺愛しすぎなんだがな・・・」


「・・・どうだろう」


確かに1番長い付き合いだし、
今回の任務だって、いないマーシャの穴を何かで埋めたくて必死だった。


けれど・・・俺は確実に、この任務で覚醒させてしまった。


奥底に眠っていた"狂気"を。


「まぁ・・・あとは、リオナ、お前次第だ。もっと自分を・・・大事にしてやれ。」


自分を大事にしてやれ、か。


マーシャなら・・・


マーシャになら・・・


話してもいいかもしれない。


あるはずのない"ウィキ"の存在を。


自分の中で広がりつつある狂気のことを。


不安をすべて・・・



















「もぉぉぉぉ!!リオナはバカだッチョ!」


プンスカプンスカと鼻息荒く
クラッピーは道をゆく。


その後ろから、ナツは面倒くさそうについてきていた。


「なんでリオナはあんなに鈍感ッチョか!ふんッ!」


[鈍感?アイツが気づいてないはずないだろ。]


あれだけ興奮したクラッピーを目前にして、気づかないはずがない。


「だってリオナ、ボクちんのこと"熱だ"って勘違いしてたッチョ!」


[そりゃお前・・・勘違いじゃなくて]


ナツは一瞬言葉を切る。


"誤魔化されたんだよ"
なんて言えなかった。


これだけ熱狂的に恋する乙女(?)を傷つけるのはさすがのナツにもできないようだ。


[ま・・・リオナのヤツも罪な男ってことだな。]


あの変態野郎(マーシャ)といいこのピエロといい・・・


男ウケがいいとは本当に同情する。


「とにかぁぁあく!ボクちんは諦めないッチョ!リオナが気付くまでずぅぅぅっと追い回してやるッチョ!」


[ああ・・・かわいそうなヤツ。]


「でしょー!?ボクちんかわいそうッチョ!」


[お前じゃねぇよ。リオナがだよ。]


「な、ナッツンひどいッチョ!!」


ヒドイもなにも、
本当のことを言ったまで・・・


と言おうとしたその時だった。


遠くの方から、小さい影がかけてきていた。


確か・・・"時の神様"だとかいうガキ・・・


ああ、そういえば、このピエロはあのガキの付き人みたいな感じだっけな。


丁度いい、とナツはクラッピーの背中を押した。


「何するッチョ!ナッツン!」


[お前の恋バナなんて聞いてられっかよ。ほら、お前の大事な王子さまにでも聞いてもらえ。]


「へ?」


ワケがわからなさそうにしているクラッピーをさらにグイグイ押していく。


するとようやくクロードに気がついたのか、
クラッピーはピタリと動きを止めて目を見開いた。


「く・・・クロノス」


クロノス、クロノス、と名前を連呼して、今にも泣きそうな顔をする。


そしてようやく、クロードにむかって駆け出した。


「クラッピー!」


クロードの明るい声が響く。


「クロノスぅぅぅぅ!」


2人はギュッと抱きしめ合うと、
クルクル回り出す。


「1人にしてゴメンッチョぉぉぉ!!」


「いいよクラッピー!また会えたんだから!」


しばらくするとクラッピーは遠心力で持ち上がっていたクロードの身体をゆっくり下ろし、クロードよりも低くなるようにかがんだ。


「クロノスに・・・話さなきゃならないことがあるッチョ・・・」


いつになく落ち着いた声音。


そういえば、こいつはこいつで色々悩んでたんだっけな・・・


さぁ・・・こいつは言えるのかな。


本当の"自分"ってやつを。


ナツはほくそ笑み、遠くから見つめる。


「あのね、ボクちん・・・その・・・」


静かな森の空気が容赦なくクラッピーの緊張を高める。


「ボクちん・・・えっと・・・」


やっぱり、アイツは言えない。


言うことなんてできない。


今までの自分のイメージを壊すのが怖いから。


お前も、俺も・・・


「ぼ、ボクちんね、クロノスみたいに、なりたかったッチョ・・・!!」


ナツの予想は一気に砕け散った。


少し驚きながらも、
クラッピーの震える声に耳を傾けた。


「ボクちん、クロノスの力が欲しかったッチョ・・・。クロノスの力があれば、愛されるって思ってた。」


「クラッピー・・・」


クロードの声も震えている。


恐らく、気づいていなかったのだろう。


クラッピーの思いに。


「でもね!気付いたッチョ!ボクちんはボクちんのままがいいって!クロノスはクロノスだからボクちんはボクちんだッチョ!だから」
「クラッピー・・・!!」


言葉を遮るように、クロードがクラッピーに抱きついた。


柔らかい髪がクラッピーの頬をくすぐる。


「ごめんね、気づいてあげられなくて・・・」


クロードの暖かい涙を肩に感じる。


まるで氷った心を溶かすように。


「ぼくはクラッピーのこと、大好きだよ?愛ってよくわからないけど・・・たぶんぼくのこの気持ちは愛と同じだと思う。だから大丈夫。1人にはならないよ。何があっても、ずっとぼくはクラッピーのそばにいるから・・・」


その瞬間、クラッピーの泣き声が森中に響き渡った。


子供とは思えない発言に、
ナツはあっけに取られながらも、深く自分の心にも入り込んでくるのがわかった。


自分には、そんな言葉をかけてくれる人間なんていない。


今までも、これからも。


[お前が羨ましいよ、クラッピー・・・]


自重気味に笑い、ナツはクラッピーの泣き声を聞きながらその場を離れた。


そのままナツは黒の屋敷に向かう。


さっさとビットウィックスに報告して、休みたい。


賑やかな祭を避けるようにわざわざ森を抜け、黒の屋敷の裏口にたどり着いた。


ナツは扉に手をかけ、扉を開けると、ある存在に気が付く。


「ナツ、おかえり。」


まるでここから入ってくるとわかっていたかのように、
目の前にはビットウィックスがいた。


わざわざ椅子まで用意して、
優雅にお茶まで飲んでいる。


[よくこんなところで茶なんか飲めるな。]


「そうだね、私は少し変わり者だから。まぁ、祭を避けてわざわざ裏口から入ってくる君も相当な変わり者だけどね。」


恐らく悪気はないのだろう。


笑顔でサラッと言われるとただの腹黒野郎にしか思えないのだが。


「今回の任務は、本当に申し訳ないことをしたよ。まさか世界政府が敵の手に落ちていたとはね・・・」


君も飲むかい?
と、お茶を勧めてくるビットウィックスの手を押しのける。


[今回の件はもういい・・・終わったことだろ]


「よくないよナツ。ほら、リオナのこととか・・・」


[ああ、アイツが裏切るような動きを見せたら殺せってやつね。そのことはリオナに謝った。危うく殺しそうになったから。]


サラッと言うナツに、ビットウィックスは目を丸くした。


「きみ、まさかリオナを半殺しに・・・」


[まぁ・・・だから謝ったって。]


しかしビットウィックスは深いため息と共に椅子にもたれかかった。


飽きれたのだろうか。
すぐに手が出る俺に・・・


ますます気分が下がってきて、
ナツはその場から離れようとした。


「あぁ驚いた・・・きみにも謝るという気持ちがあったなんて・・・」


しかしビットウィックスの口から出てきた言葉は予想とは全く違うもので。


ナツは足を止めて振り向いた。


[し、失礼なヤツだな。俺だって一応人間だったんだ。それくらいの心はある。]


ふんっと顔を背けると、ビットウィックスのクスクス笑う声が聞こえてくる。


なんだか恥ずかしさで一杯になり、誤魔化すように小さく舌打ちをした。


「とにかく、ナツは悪くないから、気にしたらダメだよ?リオナにはもう一度私から謝っておくからね。」


[勝手にしろ・・・ただ、もうリオナの見張りだけは御免だからな。]


「大丈夫だよ。もうリオナを疑うことはしないから。」


ナツも優しくなったね、と呟くビットウィックスにナツは思いきりキバをむいた。


確かにコイツとは長い付き合いだが、今までお互い利益の為だけに関わってきた。


だからこんなことを・・・まるで"親"みたいなことを言われると、どうもむず痒い。


嬉しい?いや、そんなはずない。


そんな、はず、ない。


「どうかしたかい?ナツ?」


[・・・・・・、茶]


「え?」


するとナツは空いている椅子にドカッと腰をかけ、真っ赤な顔で強く言い放った。


[茶を出せ、茶を!]


「まったく・・・君は素直じゃないね。人生損だよ?」


[っるせぇなぁ。アンタが素直すぎるんだよ。]


少しずつ、少しずつ。


足りなかった何かが、
また、満たされてゆく。


それは温かくて、
心を
蝕むように


俺のすべてを
変えていく。







































「さて、戻ろうか。リオナ」


あれからしばらく森をうろつき、
リオナは色々考えこんでいた。


決心がついた気もするが
そうでない気もする。


そんなリオナをみかねてか、
シキは無理矢理リオナの手を引いて歩きだした。


「ちょ・・・」


「いつまでも考えてたって答えは出ないぞ。直接会って、そのままの気持ちを伝えればいい。」


「・・・シキ強引」


「強引な男は嫌いか?」


「・・・ほら、また俺をからかう。シキにネタにされると敗北感が通常の三倍にも跳ね上がるんだから。」


「口は元気そうで何よりだ。その調子でほら、頑張れ!」


シキにグイッと前に押し出される。


いつのまにか黒の屋敷の前まできていて、
祭りの騒音の中心にいた。


周りからの視線が一気に突き刺さる。


"おかえりなさい"という声もあれば、
"裏切り者が帰ってきた"という声も聞こえてくる。


最近は自分を裏切り者と罵る者達が増えてきていたが、気にはしていない。


仕方のないことだと割り切っている。


「ほら、グズグズしないで歩きなさい。」


後ろからシキの急かす声が聞こえ、
リオナは足早に祭りの喧騒から抜け出した。


黒の屋敷の玄関に繋がる階段までくると、
聞き慣れた声が耳に入ってきた。


「シキさーん!リオナ!おかえりなさーい!」


リオナは顔を上げて階段を見上げる。


すると階段をシュナが素早く駆け下りてきて、
リオナに飛びついた。


「おかえりなさいリオナ!」


「な・・・ちょっと、重い」


「ただいま、だろ?」


「・・・ただいま」


「おかえり!」


シュナの満面の笑みに、
リオナもつられて笑ってしまう。


シュナが離れたと思うと、
今度は別の者が抱きついてきた。


リオナはさっきよりもびっくりして、倒れそうになった体の体制を必死に整える。


「リオナくん!おかえりなさい!」


「・・・コロナか?ビックリさせるなよ。」


「だってぇ、ずーっと待ってたんだよ?」


「・・・ありがとう」


「うん!こちらこそ、ありがとう!」


「・・・?」


いつになくあっさり離れていくコロナを不思議に思いながらも、
リオナの意識は最後の1人に囚われていた。


階段の途中で佇む、赤毛の男に。


リオナは拳を握りしめ、階段を登ってゆく。


彼を一目見ただけで、今まで抱えていた不安が、一気に吹き飛んでしまった気がした。


「・・・マーシャ」


「おかえり、リオナ。」


マーシャはいつになく優しく笑ってくれて、
目頭が熱くなる。


言いたいこと、話したいことが、一気に溢れ出てしまいそうで。


「おいで」


ふいにマーシャに手を引かれ、
体がマーシャの両腕にすっぽり収まった。


ギュッと抱きしめられ、
マーシャの温かさに心地よさを覚える。


「無事に帰ってきてよかった」


「うん・・・心配かけてごめん」


「怪我は?してない?」


「・・・大丈夫。治ったから。」


「ほんと?ナツに虐められなかった?あのバカピエロ何もしなかったか?」


まるで母親のように心配してくるマーシャをクスクス笑いながら、リオナもマーシャの背中に手をまわした。


「・・・大丈夫だから。俺はここにいる。」


そう、俺は、ここにいる。


マーシャに全てを知ってもらうために、ここにいるんだ。


リオナはそっとマーシャから離れ、彼の表情をよく見る。


マーシャも少しだけ、いつもより元気がないように見える。


いつもの、あの陽気さが全く感じられない。


「リオナ」


マーシャの呼びかけに顔をあげる。


いつになく笑顔が少ないマーシャに、少しだけ不安を感じた。


「疲れてなきゃさ、ちょっとだけ、祭にいかねぇか?」


いつもなら、もっと笑顔で、
無理矢理にでも連れて行くはずなのに。


「・・・ああ、いいよ。」


「そんな時間くわねぇからさ。」


まるで祭が目的ではないような言い方に、ますます不安と緊張が高まっていく。


いつもならべったりくっついて歩くのに、今日は微妙に間が空いている。


しかもなんだか空気も重くて、
リオナは何か話題はないかと思考を巡らす。


「あ・・・マーシャ・・・」


「ん?」


「B.B.がね・・・モリンに天上界に連れてかれたんだ・・・」


「ああ、聞いたよ。確かビットウィックスのヤツが連れ戻そうとしてたんだが・・・」


「そうなのか・・・!?」


「でもあのバカウサギ、勝手に天上界抜け出したんだとよ。」


勝手に抜け出した?


それは一体どういうことなのか。


「だけどダーク・ホームには戻ってないんだ。どこに行ったかは不明。悪魔反応もないらいし。」


「まさか・・・死んでたり」
「それはねぇよ。」


最悪の結末を言いかけたが、
すぐにマーシャが遮った。


「心配すんな。アイツは悪魔最強なんだろ?そう簡単には死なねぇよ。ほら、そんなしけた顔するなって。」


しけてるのはどっちだよ・・・
と心で毒づく。


というかさらに空気重くしてしまった。


なにか明るくなる話題はないかと顔をあげると、
ふとマーシャの髪が視界に入った。


あのボサボサで長かった髪が、
スッキリして短くなっていた。


「・・・あ」


リオナは思わず手を伸ばして
マーシャの髪に触れた。


クロードと似ていて、柔らかい猫っ毛である。


「ああ、髪ね。どう?短くしちゃった。というか、デヴィスが勝手に切ったんだけどね。」


「すごい似合ってる・・・ああ、マーシャがモテる理由がちょっとわかったかも。」


身なりが雑だったから気づかなかった、顔が意外と整っているという事に。


「それって、愛の告白と捉えていい?」


「・・・違うから。そういえば、検査はどうだったの?」


実はこのことが一番気になっていたことで。


マーシャの反応を伺う様に、
リオナはジッとマーシャを見つめる。


しかしマーシャはリオナの期待に反し、
黙りこくって、気まずげに目線を落とした。


まさか、よくない結果だったのだろうか。


「リオナ、実は・・・そのことについて話があるんだ。」


改まった言い方に、
リオナの緊張が最高潮に達した。


「・・・それ、あんまりいい話じゃない?」


不安がまた増えて、
心がパンクしそうになる。


「リオナ、そんな顔しないで、聞いて」


マーシャがリオナの頬に手を伸ばしたその時だった。


ダァァァァァァン・・・!


突然何かが倒壊する音が耳に入った。


その音は連鎖し、
徐々に近づいてきていた。


何が起きているのかリオナは音のする方に目をやれば、
祭の屋台が端から順に吹き飛んでいっていた。


黒の屋敷にぶつかった屋台は粉々に粉砕している。


「あぶない!リオナしゃがめ!」



マーシャに頭を掴まれ、
そのまま地面に倒れこむと、
真上を屋台がものすごい勢いで吹き飛んでいった。


一体何が起きているのか、
と頭を上げた時、


『出てこいよリオナぁぁ!!』


突然聞こえた怒鳴り声に似た呼びかけに、
リオナは辺りを見渡した。


砂ぼこりが立ち込める中、
そこから2人の男が歩み寄ってくる。


リオナとマーシャはすぐに体制を整えたが、
その2人の男を見て、驚きで言葉を失なった。


「な・・・お前・・・どうやって」


そこに現れたのは、
ダーク・ホームでのあの戦いで、ベンと共に死んだはずのフェイターのランダーと、
捕虜で赤の屋敷に閉じ込められていたビンスだった。


その瞬間、頭をよぎったのがモリン=クィーガ。


アイツが手を回したということは考えなくてもわかる。


『呑気に祭なんかやっちゃってねぇ。死にてぇならそういやぁいいのに。なぁビンス?』


『マーシャさん、なんだか申し訳ないッス。やっぱり本当の恩人は裏切れないッス。』


ビンスの言葉に、マーシャは舌打ちをして睨みをきかす。


「じゃあ俺は本当の恩人じゃねぇってこと?少しでもお前を信じた俺がバカだったってか。」


『あの時あなたに話したことは全て真実です。どうかお許しを。』


本当に申し訳なさそうに頭を下げるビンスに、
ランダーは情けねぇなと頭を抱えた。


『まぁ、俺たちが用があるのはリオナ坊ちゃんだけなんだが、ちょっくらストレッチ代わりに遊ばせてもらうかなぁ〜』


首の骨をパキパキならしながら、
ランダーは両腕を広げる。


『さぁて、ゲームの始まりだぜ』










大切なものは必ずしも永遠じゃない。


いつかは消えゆく儚い夢。


愛も
希望も
現実も。


きっと、永い永い夢のように、
思い出となって消えてゆく。


寂しい気持ちも辛い思いも、
きっと消えてしまうのだけれど、


それでも俺は、
俺たちは、


あの広く蒼い空を見上げるたびに、失なってしまったモノを想い、涙を流すのだろう。


そして全てを失くした暁に、迷宮に迷い込む。


"狂気"という名の
出口のない迷宮に。





第十章 蒼天の永い夢

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あきゅろす。
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