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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story102 兄弟の契



キミは変わってしまった。


それはもう分かり切ってたことなのに。


どうしても


僕はキミのすべてがほしいんだ。


これって我儘だよね。


そうでしょ?リオナ・・









世界政府がフェイター側についたのは僕、ウィキが光妖大帝国にくる前のこと。


フェイター1のナルシストであるキッド☆と冷静沈着なカイという意外なペアが政府を手中に収めた。


しかも今まで散々探してきた森羅大帝国のローズ・ソウルを政府が持っていたようで、そのまま森羅大帝国もフェイターの配下となった。


そこで今回
世界政府と森羅大帝国の協力のもと
リオナ捕獲作戦が行われた。


リオナを捕獲するために用意したのはアシュールの作り出した不思議な本。


名前を書き込めばその物語の世界に引き込まれ
精神的に人を追い込むという。


しかも最後の章は物語がない。


その章に名前を書き込めば
アシュールの生み出す夢に飲み込まれるようになっていた。


そこで僕がリオナの意識をうまくとらえ
その本をフリットとかいう男に持ってこさせようとした。


といっても
そううまく行くわけもない。


リオナにアシュールの名前を出せば、僕だろうが誰だろうが怒るのなんて当たり前。


アシュールは言った。
「リオナは必ずウィキの元にくる。今回はリオナを怒らせればいい。とにかく種をまいておいで。キミが生きているっていう証のね。」と。


そう
今回はリオナを連れてくるあくまで下準備。


リオナには自ら来てもらわないといけない。


無理矢理連れてきたってリオナも嫌だろうし僕もイヤだ。


だからリオナに時間を与えた。


3回目の満月の夜まで。


きっとリオナはやってくる。


じゃなきゃその時は無理矢理にでも・・・・・・・・












光妖大帝国――アシュールの部屋


夜月が見える窓の前で
アシュールは頬杖をついてぼぉっとしていた。


月を見るたびに思い出すのは彼の顔。


確かあの日は満月だった。


血に染めあげたクリスマス。


リオナと出会った最高の夜。


「はぁ・・・」


快楽に溺れたような甘いため息が自然ともれる。


もうリオナは手の内にある。


だからといって慌ててはいけない。


最良の、そして最高の形で手に入れなければ。


その第一歩が今日踏み出された。


アシュールは立ち上がりベッドへ近づいた。


そこにはリオナにそっくりのウィキが眠っている。


彼はただ寝ているのではない。


その"第一歩"を踏み出しているのだ。


アシュールは寝息を立てるウィキの頬に指を滑らせる。


透き通るような白い肌に光り輝く銀色の髪。


本当にリオナにそっくりだ。


でも・・


「やっぱり君じゃ、物足りないよね・・・」


リオナはもっと憎悪がある。


僕を恨むようなあの目や
強がってあまり見せないけど苦しむ顔とか。


考えるだけでぞくぞくする。


そんなことを考えていると、
ウィキがもぞもぞと動き出した。


ようやく"夢"から覚めるようだ。


「・・・・ぁ・・・れ・・?」


「やぁ、お帰りウィキ。」


キョロキョロと辺りを見渡すウィキに
アシュールは満面の笑みで迎えた。


「どうだった?リオナには会えた?」


「・・・はい。」


ウィキの表情は少し暗い。


まぁおおまか予想はつく。


きっとリオナを怒らせたのだろう。


でもそれでいい、
それでいいんだ。


「上出来だよ・・・ウィキ。」


「でもリオナは・・・」


シーツを握り締めるウィキの手を
その上からギュッと押さえ付けた。


「大丈夫。前にも言ったでしょ?リオナの"一番"はマーシャでも悪魔の女でもない・・君なんだ。」


「・・・ッ・・」


「それに落ち込んでる場合じゃないよ。次に行かなきゃ。君はとにかくリオナを思っていればいい。そして君がリオナにダーク・ホームにあるローズ・ソウルとローズ・スピリットをもってこさせれば君とリオナを解放してあげるって約束を叶えてあげるからね。好きに生きるがいいさ。」


そう言えばウィキの目もだんだんと光を取り戻していく。


こういう所は昔から変わらない・・・


「ところでウィキ・・・」


「・・?」


「リオナはどんな様子だった?」


一番楽しみにしていたリオナの様子。


さぞかし怒りに満ち溢れていたのだろう。


アシュールは笑みを浮かべながらベッドに乗り上げ
ウィキを押し倒す。


「ねぇ・・教えて?」


ウィキはまるで蛇に睨まれたカエルのようで、滑稽だった。


「リオナ・・・・?すごく・・・怒っていて・・・」


「それでそれで?」


「アシュール・・・さんを・・恨んでた。」


「最ッ高だよ・・・」


アシュールはウットリとした表情でベッドから降りる。


まるでダンスを踊るように1人で部屋をクルクルまわる。


ウィキはオドオドしながら起き上がり
どうしたものかと訝しげな表情を浮かべていた。


「あの・・・・」


するとウィキの消え入りそうな声が聞こえ、アシュールは足を止めた。


「なーに?」


「アシュール・・さんは・・・なんでリオナを欲しがるんですか?」


唐突な質問に一瞬ポカンとする。


たがすぐに笑顔を作り
優しく答えた。


「前にも言ったでしょう?俺が欲しいのはあくまでリオナのローズ・ソウル。だからウィキと協力して、君はリオナを、俺はローズ・ソウルを手に入れるってことだったでしょ?いや、取り返す、だね。」


しかしウィキの顔はみるみる暗くなっていく。


訳が分からないと言わんばかりにアシュールは首をかしげた。


「どうしたのウィキ?顔色がよくないよ。」


「・・・・だ・・・」


「ん?」


「嘘だ・・!!!!!」


怒りを滲ませたウィキはアシュールに掴み掛かる。


もちろんアシュールは一切表情を変えない。


「お前がそうやって笑うのは嘘を吐いているときだ!!本当はリオナに何かするつもりだろ!!!」


「なにいってるのかわからないよ。」


「とぼけるな!!僕との約束は嘘なんだろ!!!」


「あーもーうるさいなぁ・・・というかそんな口のきき方して、いいのかなぁ?」


アシュールの口元が妖しく歪む。


その瞬間、
ウィキは喉を押さえて床に膝を付いた。


苦しそうに震えている。


「・・ぅっ・・・・あぁあぁぁ・・・・」


「クスクス・・・苦しい?ウィキ」


問い掛ければコクコクと必死に頷いて
それに満足したように笑みを浮かべた。


「仕方ないなぁ。」


その言葉と同時に
ウィキは床にドサッっと倒れた。


ハッハッと荒い呼吸を繰り返している。


「口のきき方から教えなきゃダメなのかなぁ。まぁ、でもこれでわかったでしょ?」


アシュールはウィキの顎を持ち上げ
顔を近付ける。


唇が触れる直前で小さく呟いた。


「キミはもう俺のモノだよ・・・」


そのままアシュールは部屋の扉を開け
ウィキを廊下に投げ捨てた。


「死ぬも生きるもキミが選ぶことじゃない。俺が選ぶんだよ。」


じゃあお疲れ、と笑い掛ける。


そして扉を閉めた。


「はぁ・・・ウィキがリオナだったら・・・」


顔は一緒なのに中身が全然違う。


はじめはリオナの代わりになると思ってウィキをそそのかしたのだが、
どうもしっくりこない。


やはりリオナでなければ・・・


アシュールはベッドに腰掛けると
口元を引きつらせ、クローゼットの方に目を向けた。


「俺ってそんなにワガママかなぁ?兄さん」


そうつぶやくと
クローゼットの扉が開いた。


そこから出てきたのはカイだった。


カイは片手にティーカップをもち
どうやらお茶をしていた様だ。


「立ち聞きなんてひどいじゃない。しかもクローゼットでお茶飲まないでよね。」


「悪かったな・・出来の良すぎる弟を持つと違う意味で心配になるんだよ。」


「クスクス。でもまぁちょうど良かったよ。話は全部聞いてたんでしょ?」


カイは無表情のまま頷く。


「・・三回目の満月の夜までにリオナの心を破壊する、だろ?」


「そ。それで兄さんにやってもらいたいことがあるんだけど。」


「・・マーシャ=ロゼッティを使ってリオナとの仲に亀裂を入れればいいのだろう?」


さらりと言ってのけるカイに
アシュールは肩をあげて小さく感嘆のため息をこぼした。


「さすがだよ兄さん。本当にカイが兄さんでよかった。」


俺が言わなくてもすぐに汲み取って動いてくれる。


だから俺はこの人を、
カイを"兄に選んだんだ"。


「・・でもアシュール、大丈夫なのか?」


「何が?」


「何がって・・・ウィキにあんな嘘をついてだ。」


"あんな嘘"とは
ウィキに言った約束のことだろう。


「ああ、俺はあくまでリオナじゃなくてローズ・ソウルが目的だからリオナはウィキにあげるっていう約束のこと?」


そういうとカイの眉間にシワがより
いかにもご機嫌ななめの様子だ。


「お前の本当の目的がローズ・ソウルだけじゃなくリオナもだと知ったら・・・きっとウィキは怒り狂ってお前を殺しにくるぞ。」


「それがなに?」


「なにってお前なぁ・・・」


まるで説教が聞けない子供のようにアシュールはほおを膨らませ、足をばたつかせた。


「大丈夫だってば兄さん。あんな奴に俺は殺されない。」


そう言うがカイの表情はますます堅くなっていく。


「そうやって内でも外でも敵をつくるのはかまわんが・・・いつか身を滅ぼすぞ。」


「クスクス・・・それはこう解釈していいの?"仲間にいつか裏切られる"って。」


カイの目が鋭くアシュールを捕えた。


それを見てアシュールの口端が引きつる。


「ねぇ兄さん。そんなに仲間が大切?」


「少なくともお前よりはそう思っている。」


いつになく静かに怒りを滲ませるカイに
アシュールはクスッと笑った。


・・兄さんは何かを企てている。俺には内緒でね。


まぁ大体予想はつくよ。兄さんにとって"偽の弟"より"真の仲間"の方が大切みたいだからさ。



「そんなに怒らないでよ兄さん。」


「・・・別に怒ってるわけじゃない。俺は大切な"弟"を思って言ってるんだ。」


・・"弟"ね。


アシュールはさらに声を上げて笑う。


「アハハハハ!!!!ありがとう。肝に命じておくよ、"兄さん"。ただね・・・」


ニコリと笑みをこぼしながら
低い声で呟く。


「・・・一度死んだ"犬"を拾おうが拾わまいが兄さんの勝手だけど、死んだ"犬"のチカラなんてたかが知れてる。どうせ拾うならそこら辺に転がってる躾のなってない犬の方がましだよ。」


挑発気味に言ったものの
カイは我関せずといった無表情。


しかし空気だけが2人の間に生じた食い違いを敏感に感知していた。


「・・肝に命じておく。」


カイはアシュールの前を横切り
扉にむかう。


「だが・・・死んだ犬はそれなりに役に立つものだ。」


そう言葉を残し
部屋を出ていった。


部屋に一人ぽつんと残ったアシュールは
わざとらしいため息をつき、ベッドに寝転がった。


その顔からは笑顔は消え去り
珍しく怒りに満ちている。


「余計なことしやがって。何が"弟"だ。」


シーツをギュッと握りしめ
思い切り引き裂こうとする。


けれどすぐに力を押さえ付けた。


なぜなら視界に"リオナ"の写真が見えたから。


アシュールはベッドから飛び起き
机におかれた写真に飛び付いた。


すると表情は一転し
まるで最愛のものを愛でるように柔らかくなった。


「やっぱり俺にはリオナだけだよ・・・」


写真に唇を押しあて、
最愛のリオナを想いながら、
静かに目を瞑った。















「・・余計なことばかり夢中になって・・・何が"兄さん"だ。」


アシュールの部屋から出たカイは
珍しく愚痴をこぼした。


苛立ちが募る一方
アシュールへの心配も深まる。


別にアシュールが殺されようがのたれ死のうがそんなこと関係ない。


何が心配かって、
それは"計画の失敗"だ。


"計画の失敗"イコール"神の完全消滅"だ。


神が復活しなければ意味がない。


『神だけが自分の父であり主』
そう思っているカイにとって、計画の失敗はあってはならない。


「やるならしっかりやってもらわなければ・・・」


人間などの低俗種族に世界を渡してなるものか。


カイは歩む足を一旦止め
きびすを返した。


向かった場所はキッド☆の部屋。


ノックをすれば
すぐに扉が開いた。


そこからでてきたのはキッド☆ではなくチャキだった。


チャキはキッド☆が大好きで
いつも金魚の糞のように引っ付いている。


しかもキッド☆のことを"王子"などと呼び
カイはチャキの行く末を心配していた。


そんな心配もつゆ知らず
幼い顔に満面の笑みを浮かべながらチャキはカイに飛び付いてきた。


「カイさんだ!!どーしたのぉ?」


「キッドはいるか?」


「あ、カイさんまた間違えた!!キッドじゃなくてキッド☆だよ?」


「・・・・・。」


毎度毎度の同じくだりにカイは少しキレそうになるが
グッとこらえてチャキの頭をなでる。


「・・で。キッド☆・・はどこにいる?」


「王子はねぇ今シャワー中なの!もうあがるよ!部屋で待ってなよ!」


グイグイと手を引かれ
半ば強制的に部屋に導かれた。


キッド☆の部屋は常にゴミで溢れかえっている。


ゴミ・・・というか、オモチャだ。


チャキが遊んだまま片付けないのだろう。


ちゃんと叱ればいいものの、
結局チャキが可愛すぎてキッド☆は怒るにも怒れないのだろう。


お人好しというか、ただのショタコンというか。


カイは深いため息をもらし
代わりに自分だけでもチャキを叱ってやらねばと、チャキを呼び寄せた。


「おいチャキ・・・遊んだら片付けるのが普通なんじゃないか?」


なるべく優しく言ったつもりだが
チャキにはただのお説教にしか聞こえない。


案の定、チャキの表情がだんだん不機嫌になっていくのがよくわかる。


「だって王子が後で片してくれるって言ってたもん!!」


「だからな・・汚くしたのはチャキなのに、キッド☆が片付けるのはおかしいだろう。」


「僕だって片付けようとするもん!でも王子がやらなくていいって言うんだもん!!」


今にも泣きだしそうに
両目いっぱいに涙をためている。


こんな目をされたら罪悪感を感じずにはいられないではないか。


カイは少し慌ててチャキの頭に手をやろうとした。


けれどそれより先に違う手が伸びてきて、
その手はチャキの頭を通り越し、チャキの頬に添えられた。


「ダメじゃないですかぁ〜カイさん☆可愛いからってチャキをいじめちゃ☆」


カイはゆっくりと顔を上げると
その手の主はキッド☆だった。


キッド☆は腰にタオル一枚を巻いただけのほぼ全裸状態にもかかわらず、とても輝いて見える。


確かに美形だし体は色白く細いが、鍛え上げられて引き締まっている。


それにくわえて爽やかな笑みを浮かべながら髪から滴る水をタオルで掬っていて、まるで芸術作品のようだ。


こんなことは絶対に口が裂けても言いたくはないが、
キッド☆はまさに世間の女が夢見る王子様とやらの理想像だろう。


残念ながら実際の"王子様"は
顔はよくても性格がひどくサディスティックで、しかも女ではなく1人の男を愛し続けているのだが。


「ところでカイさん、何か御用で?」


「・・・え、あ・・・ああ。」


ついつい見とれてしまっていた自分を恥ながら、
カイは咳払いをしていつもの調子を取り戻す。


「・・2人っきりで話をしたいのだが、いいか?」


チャキに視線を送れば
予想通りチャキは不満そうに頬を膨らませた。


「やだやだ!僕だけ仲間ハズレ!?イヤダイヤダイヤダァァァァ!!!」


幼子のように駄々をコネはじめたチャキに
カイはどうしようかと頭を抱える。


しかし
すかさずキッド☆が割って入り、手慣れたようにチャキを抱き寄せた。


「よーしよし☆仲間ハズレはいやだよね。大丈夫だよチャキ☆チャキには違うお仕事を用意してあるからね。」


さすがはキッド☆。
たった数秒でチャキの表情を明るくさせた。


チャキは目を輝かせてキッド☆にしがみつく。


「なになに!?なんのお仕事!?」


「これは重要なお仕事だよ?あのね、今日の夕方6:00にウィキを"大広間"に連れてきて欲しいんだ☆今日はフェイター全員でウィキの歓迎会をやるからさ☆それだけじゃないよ、よーく聞いて。その夕方6:00まで大広間にウィキを近付けさせちゃダーメ。サプライズだからね☆わかった?」


咄嗟に思いついたのか
それとも本当に歓迎会をやるつもりなのか(それはそれで困る)。


まぁこれで上手くチャキを部屋から追い出すことができ、かつしばらくは部屋にも戻ってこないだろう。


「じゃあね王子〜♪」


「あんまりウィキに迷惑かけるなよ☆」


キッド☆は自然にチャキを送り出し、完全に見えなくなったのを確認すると、静かに扉を閉めた。


「お待たせしました、カイさん☆とりあえず場所を移動しましょう。」


せっかくチャキを追い出したのに
わざわざ移動するのか?


そんなカイの心を読んだのか、キッド☆は苦笑を浮かべて小声で言った。


「チャキはああ見えてズル賢いですからね☆それにほら、"王子サマ"の愛犬ですから・・・用心に越したことはありませんよ。」


"王子サマ"とはアシュールのこと。
チャキは完全にアシュールの言いなりになっているということだ。


「はっ・・・そしたらお前は俺の犬か?」


冗談まがいなことを呟くが
キッド☆は嫌な顔一つせず
爽やかな笑みをこぼした。


「ええ。はじめからそのつもりですよ☆私はカイさん・・・いいえカイ様に"神"となっていただきたいのだから。」


その言葉に、カイは満足げに頷いた―――――



――――そもそも、カイとアシュールは血のつながった兄弟ではなかった。


出会いは今から百何十年も昔。
神真大帝国が光妖大帝国に支配されて400年目のこと。


神真大帝国の神の血を受け継ぐ人間がいなくなりつつある中、
たった1人だけ、神の血をキレイに受け継いだ少年が生き残った。


少年の名はアシュール。
アシュールは神を自分の父と崇め
復活を望んでいた。


そのためにはまず光妖大帝国の王を殺さなくてはと考え、暗殺を企てていた。


ちょうど同じ頃、純血ではないが半分神の血を受け継ぐ青年がいた。
名はカイ。


神の血を引くからといって光妖大帝国にひどい仕打ちを受けてから、
日々恨みに捕らわれ、ただ強くなりたいと願っていた。


彼の目的は神の復活ではあるが、できれば神の力を手に入れたい。
その力で世界中の神を裏切った人間たちを消し去りたいと考えていた。


そして彼も
まずは光妖大帝国の王を殺すことから考えていた。

 
しかし2人の暗殺計画は失敗に終わった。


力及ばず
牢屋に繋がれた。


だがまさにこれが2人の出会い。


先に繋がれていたアシュールの牢屋に
カイが投げ込まれたのだ。


2人はそれから意気投合し、ある計画を企てた。


それはローズ・ソウルを集めて神を復活させること。


そして全人類に屈辱的な最期を。


2人が兄弟の誓いをかわし
"フェイター"を創設するのはその後すぐのこと。


人数はたったの13人だったが
それは世界の脅威となるほどの十分な勢力だった。


だがいつからだろう。


弟であるアシュールにカイが兄弟のような厚い信頼を向けることができなくなったのは。


恐らくそれは"リオナ"との出会い。


アシュールはリオナを"神"の完璧な器と考えている。


ひたすらリオナばかりを追って・・・・目的を見誤っているようにも思える。


その頃からフェイターは2つに割れつつあった。――――――





――――「まさか兄弟喧嘩ですかぁカイさん☆」


場所を移動中
カイは少し想い出にふけっていたが
キッド☆の一言で引き戻された。


「いや・・・喧嘩ではない。やり方の違いだ。たとえやり方が違っても行き着く目的は一緒だ。」


なんてこれっぽっちも思っていないが。


そんなカイの心情を読み取ったのか否か、
キッド☆は苦笑を浮かべ、それ以上何も聞いてこなかった。


「さぁ入ってください☆」


案内された部屋に入る。


広さは大人1人がギリギリ生活できる程度の部屋。


決して広くはない。


「・・・こんな部屋があったとはな。」


「俺の秘密基地ですよ☆ここなら絶対誰にもばれないです。」


キッド☆は部屋の奥から椅子を持ってきてカイに座るよう促した。


「相変わらず几帳面なやつだな・・・・気にせずとも床に座る」


「何言ってるんですかッ!腰を大事にしないと将来子供が欲しくなった時に苦労しま」
「余計なお世話だ。」


キッド☆の冗談を打ち消し
大人しく腰を下ろす。


そんなカイを見てキッド☆は満足そうに頷くと、先ほどまでの笑顔を消した。


声を抑えるように低く呟く。


「もしかして、ランダーの件ですか?」


「ああ・・。」


ランダーは先日のダーク・ホーム戦で、ダーク・ホームにスパイとして侵入していたベンに裏切られ、共に命を落としたフェイター。


だが、その事実が覆されようとしていた。


「・・・生きていたんだ」


「え?」


カイは喜びを押さえ込むように唇を震わせる。


「ランダーが生きていたんだ・・!」


思わず口端が釣り上がった。


まだフェイターは終わってはいない。


歪んだ歓喜が膨れ上がる。


しかしキッド☆はあまりいい顔をしなかった。


訝しげな表情を浮かべている。


「彼は・・・ランダーは今どこに?」


「ダーク・ホームだ。」


「ダーク・ホーム!?一体どうやって潜んでいるんですか!?あの鉄壁のダーク・ホームに・・!!」


「先日、ダーク・ホームに送り込んだ世界政府の犬を覚えているか?」


「ええ。たしかモリン=クィーガとかいう」


「・・そいつがランダーを見つけてうまく匿っているらしい。」


政府など所詮使い捨てだと思っていたが、案外使えるものだ。


「ではランダーは今も生きているのですね!あ〜よかった☆」


キッド☆の顔が一瞬でほころぶ。


「だが・・・・アシュールはそうは思っていない。」


「アシュールさんに言ったのですか?」


「言うわけないだろう。だが気付いている。」


勘が鋭いのか手回しが早いのか。


とにかくずる賢い。


「それはまた・・・・でも、カイさんはもう決めたのでしょう?」


キッド☆の柔らかい笑みにカイはゆっくり頷く。


「ああ。俺はランダーを助けたい。もちろん捕まっているビンスも。」


仲間は大切にしたい。
だがそれ以上に今は少しでも"味方"を手に入れなければ。


あの困った"弟"に白旗を振らせたい。


「・・・だが俺もランダーとビンスを簡単に迎え入れるわけにはいかない。奴らにはあることをやってもらう。」


「と言いますと?まさかダーク・ホームからローズ・ソウルとローズ・スピリッツの回収・・・」


「まさか。一度失敗したのに弱ってる2人では尚更無理だろう。2人にはリオナをけしかけてもらう。」


「なるほど。例のあれですか。ウィキを使ってリオナ=ヴァンズマンを自らの意志でフェイター側に招き入れようというアシュールさんの作戦ですか。」


「ああ。ちょうどアシュールに頼まれていたところだ。」


「ですがうまくいきますかね。リオナ=ヴァンズマンはウィキが生きているだけで我々フェイター側にくるでしょうか?」


「そこが問題なんだ・・・。リオナはダーク・ホームに留まらなければならないと感じている理由がある。なぜならマーシャ=ロゼッティがそこにいるからだ。命の恩人であり育ての親でもあるマーシャをそう易々と裏切れまい。だが逆に考えればそこが弱点なんだ。マーシャとリオナの関係を崩せればリオナは間違いなくこちらにやってくる。とアシュールも考えてるようだ。」


なんだかんだ言っても、
やはりアシュールの計画は決して悪いものでもない。


それにここまでやっておいて失敗など嫌に決まっている。


認めたくはないが。


「なんだかんだ弟思いなんですね☆カイさんは☆」


「うるさい・・・。とにかくそういう事だ。頭にいれておけ。あと・・・・これは知っているか?」


そう言うとカイはポケットに手を入れた。


そこから出てきたのはローズ・ソウル。


しかし今までの美しい深紅の色を失い、濁り初めている。


これはローズ・ソウルの封印が解け初めているのだ。


それは決して神の復活を表しているわけではない。


5つのローズ・ソウルと1つのローズ・スピリッツが揃わない状態で封印が解けてしまえば、世界は簡単に滅びてしまう。


そのローズ・ソウルにキッド☆は目を丸くした。


「これはまた大変なことに・・・」


「せいぜいもって1年だ。1年以内に神を復活させなければならない。」


世界の崩壊はもう目の前まで迫っている。


もうのんびりなどしていられないのだ。


「ならば賢者である更夜に再度封印を頼めば・・・」


「アイツはダメだ。アシュールと顔を合わせば戦争が起こるだろう。それに、もう手遅れだ。」


なぜならもう、抑えきれないくらい力があふれ出ているから。


「タイムリミットは1年。何としてでも神を復活させるぞ。」


「了解です☆必ずあなたの願う世界を作り出しましょう。」


2人は口元に笑みを浮かべる。


「ところで・・・キッド☆お前さっきチャキにあんな事言ったが、まさか本当にやるわけないよな?」


「へ?何言ってるんですか。やるに決まってるでしょう☆チャキのためなら何でもしますよ!」


「はぁ・・・これだからチャキは成長しないんだろ。」


いっそ俺がチャキを預かろうか、と思ったが、チャキが全力で嫌がる姿を想像してやめた。


とにかく、今だけだ。


こんな休息が許されるのは。


今に始まるだろう。


地獄のような戦いが。

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あきゅろす。
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