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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story100 愛の末路



時が戻っているのか進んでいるのか


それすらわからないくらいに時はものすごいスピードで変わっていく。


空は荒れ、不安定さが滲み出ている。


まるでクラッピーの心を表すかのように。


「・・・何があったんだろう。」


リオナは焦燥の中
1人森を駆け抜ける。


今ほどこの周りの風景を遺憾に思うことはない。
こんな時でも
我関せずと景色一つかえないのだから。


そういえばナツを置いてきてしまった。


でもきっとナツのことだから追い掛けてくるだろう。


「・・・クラッピー!!どこだクラッピー!!」


呼び掛けながら走っても
クラッピーの気配を感じない。


一体何があったのか。


リオナはふと本に入る前を思い出した。


"これ・・ボクちんの本当の名前だッチョ"


とても悲しそうな顔をしていた・・


もしかして何か思い詰めていたのだろうか。


全然気が付かなかった。


だっていつもあんなに明るく楽しそうだったから。


「・・・俺のバカ!」


なんで気付いてやれなかった・・


リオナは唇を噛み締め
走る足をますます速めた。






『リオナ』


ふと
声が聞こえた気がした。


『リオナ』


気のせいじゃない。


背中から聞こえる。


『リオナ』


リオナは脚を止め
ゆっくりと振り返った。


まず目に飛び込んできたものに驚くが
すぐに見慣れた顔だとホッとした。


そこにいたのはムジカにそっくりな赤頭巾だった。


「・・・なんだ赤頭巾か。驚かすなよ。どうした?道に迷ったか?」


リオナは赤頭巾に近寄り
頭を撫でる。


『リオナ』


「・・どうした?・・・・・・・・・って」


ふとリオナの手が赤頭巾から離れた。


・・・なんで、・・・なんで


少し手が震え
一歩離れて赤頭巾を見る。


「なんで・・俺の名前を?」


教えた覚えはない。


でも確かに、
赤頭巾は微笑んだまま名前を呼んだ。


やっぱり、キミは・・


「・・・ムジカなのか?」


問い掛けても
赤頭巾は優しく微笑んでいるだけ。


でも、わかる。
この子は、
"ムジカ"だ。


その瞬間
体の中を色々なもの込み上げてきた。


熱くて、止まることのない何か。


「・・・ムジカ、俺・・」


言葉を言い掛けたとき
ムジカの左手がゆっくり上がった。


人差し指をたて、森の奥を指差した。


「・・・・・?」


リオナは彼女が指差す方に顔を向ける。


「・・・もしかして、クラッピーがいる場所、教えに来てくれたのか?」


赤頭巾の表情が少しかわった。
それはムジカがよく照れた時の顔だ。


「・・・ムジカ」


嬉しくて、悲しくて、懐かしくて、淋しくて


リオナは彼女をギュッと抱き寄せる。


「・・・未練、か。」


ナツの言う通りだ。


こうやってムジカを目の前にすれば、恋しくて愛しくて仕方なくなる。


だけどもう
戻ることはできない。


もう・・・振り返ってはいけない。


「・・・ムジカ、俺、ずっと後悔してるんだ。」


なぜあの時、あの瞬間、
キミを助けられなかったかを。


「・・たぶんこれからも後悔し続けると思う。」


"ムジカ"の表情が悲しげにゆがむ。


「・・・でもね、俺は先に進むよ。後悔と一緒に・・・もう二度と大切な者を失わないように、後悔を戒めとして。」


同じ過ちは絶対に繰り返さない。


誓うよ。


「・・・俺は先に進む。いつまでも同じ場所にはいられない。だから・・・俺はキミを・・・」


心で唱えるのさえ怖かった言葉・・・
でも、今なら言える気がする・・・


「キミを・・・ムジカを・・・ここに置いていくよ。」


小さく笑いかければ
ムジカもいつもみたいな優しい笑みを見せて。


そしてムジカの声は
耳ではなく心に届いた。


『大丈夫だよ』


『リオナ』


『たとえあなたが私を忘れても』


『あの日・・あの時・・あの場所に、確かに私たちの愛は存在していたから』


"愛は存在していた"


そう・・
俺が求めてたのは
楽しかった思い出でも
笑いあった記憶でもない。


俺が欲しかったのは"愛の証"


だけどそれは
とっくのとうに手に入れていたんだ・・・


「・・・はは、かなわないな・・・ムジカには」


下を向いたまま
眉を寄せて笑う。


苦しいのに、嬉しい。


なんだか変な気持ちだ。


「・・・ムジカ」


顔をあげ
目を見る。


「・・・大好きだったよ」


美しい真っ赤な瞳は
優しく微笑んでいる。


「・・・さようなら」


別れの言葉と同時に
"ムジカ"の姿が消えた。


風が吹くように体を擦り抜けていく。


『ばいばい、リオナ』


最期にムジカは微笑んで。


空に抜けていった風を見上げ
リオナも微笑んだ。


その表情にはもう
いってんの曇りもなかった。





























どうしてこうアイツは1人で突っ走るのか。


仲間仲間とうたいながら、
なんだかんだいつも単独行動じゃねぇか。


そう心でリオナの愚痴を呪文のように唱えながら
ナツはリオナのあとを追っていた。


それにしても何度見てもこの薄っぺらな光景が嫌で仕方がない。


こんな性格だからまわりに言えば気持ちが悪いと思われるかもしれないが、
自分は風景が好きだ。


任務で行く場所はほぼ全部覚えている。


写真に残したいとは思うが、恥ずかしさが上回っていて、ホームに帰ってから部屋でこっそりと絵を描いているのだ。


よくよく考えると絵を描く事のほうが恥ずかしい気もするが
描き始めたらなんだかやめられなくて。


こんな自分にも趣味があるのかと驚いたものだ。


まぁ話を戻すと、
俺にはこだわりがある。


こんな紙に描いたような薄い風景、今まで見てきた風景の中でもワースト3に入るだろう。


1位はもちろん悪魔たちが住む天上界だ。


あそこは至る所に得体の知れないものが転がっていて、気味が悪い。


2位は・・・思い出したくもないが
人生の半分を"人間"として過ごしてきたあの場所。


綺麗な風景があの女のせいで汚された・・・


ああ、考えただけで嫌になる。


『ナツ、どうして?』


すると突然声がして
ナツは我に返り
前を見た。


[はぁ・・・またお前かよ。・・・ディズ]


ナツの目の前には赤頭巾が立っていた。


けれどナツは決して赤頭巾とは呼ばない。


見た目が完全に"ディズ"なのだから。


『ねぇ、どうして私を殺したの?あんなに愛してくれたでしょう?』


不気味な笑みを浮かべて近づいてくる"ディズ"に
ナツも間合いをとるように下がっていく。


[は??意味わかんない。というかお前誰だよ。幻覚か?それとも幽霊とか?]


ナツは蔑むような笑みを浮かべるが
"ディズ"は変わらず近づいてくる。


『愛してるんでしょう?ナツ。あなたが私を忘れられるはずないもの。』


[・・うるせぇな。そりゃ忘れられないさ。愛した女が自分たちを裏切ったんだからな!]


強く言い捨てると"ディズ"の足がピタリと止まった。


動き回るのは空の色だけ。


『違うでしょ・・・・・ナツ。』


さっきの声音とは比べものにならないくらい低い声が耳に届く。


ナツの体は一瞬にして強ばった。


『あなたは後悔してる・・・・愛しい私を殺したことを』
[うるせぇ・・!!!後悔なんかしてねぇ・・!!!]


ナツは両手に力を溜め
"ディズ"に向けて解き放った。


けれど黒々しい悪魔の力は"ディズ"の体を通り抜けていく。


[な・・・!!]


『ねぇ、ナツ?』


すると再び"ディズ"の足が動き出した。


[来るな・・・!!!]


体が震える。


久々に感じる恐怖。


逃れられない気がして。


『大丈夫よナツ』


[や・・め・・!]


『もう一度、私が愛してあげる。』


[・・・・!]


"ディズ"の腕に抱き込まれた。


温かさが伝わる。


出会った頃の
あの"ぬくもり"だ・・・


『ナツを愛してあげる。だからナツも私を愛しなさい。私だけを・・・』


ずっと求めてたのは彼女の愛。


一度も与えられなかった愛が俺の手に・・・


『なにを戸惑っているの?あなたを信じてくれる人は私だけでしょう?』


[信じてくれる・・・・]


"・・・信じるも信じないもナツの勝手だけど、俺は今なら・・ナツを信じるよ。"


ふとリオナが告げたあの言葉を思い出し
一瞬にして我を取り戻した。


・・・バカだな俺は。


[こんなところであぶらうってる場合じゃなかった・・。]


自嘲気味に呟き
ナツは目の前のディズを突き放した。


『ナツ・・・?』


[悪いけど、お前と話してる場合じゃないんだ。]


『待ちなさいナツ・・・あなたには私しか』


[勘違いすんじゃねぇよ。俺には信じてくれる奴がいる。]


ナツは小さく微笑む。


[もう、1人じゃないんだ。]


そう告げると
"ディズ"の姿がみるみる歪んでいって。


目の前から姿を消した。


[・・・・さよならだ。ディズ・・・]


未練も恨みも悲しみも


初めて出会った時の
あの穏やかな笑みも


すべて・・・・・











































時は巡るーーー


巡り廻り循る。


すべてが狂いだした空の下
愉快に笑う一体の人形ーーー


笑い声は空を一層かき回す。


「キャハハハハハッ!!ボクのチカラ・・これがボクのチカラ!!!」


ああ、カラダが満たされる。


力が溢れだす。


そう、これがボクが欲しかったチカラなんだ。


ようやく・・・


「アハ!ようやく手に入った!」


あれ、でもなんでかな。


なにか違う。


チカラは満ちた。
でも何かが足りない。


「ナニかな?ナニが足りないのかナ?」


壊れた人形は足りない何かを捜し始める。


服の中
口の中
頭の中
草の中
空気の中


ふと目についたものがあった。


ポツンと目の前に立つ赤い頭巾を被った少年。


どこか懐かしい顔立ちの少年。


確か自分の弟のクロノスロードにそっくり。


自分の名前だったのに、横から奪い取っていった嫌な奴。


そうかーーー
なんだ簡単じゃないか!


足りないのは"名前"なんだ!


アイツから名前を奪えばーーー


「キャハハハハハ!ボクの存在は完全になる!!」


狂った人形はナイフを取出し
赤頭巾に向かって走りだす。


すべてを取り戻すためにーーーーーー






「・・・・やめろクラッピー!!!!」


しかしその瞬間、
赤頭巾の前に1人の青年が飛び出してきた。


息を切らしながら
赤頭巾を庇うように立ちはだかっている。


「・・・なにしてんだクラッピー。」


青年の声には少し怒りが含まれていて
それに脅えたように人形の手からナイフがすべり落ちた。


ーーーヤメテ、ヤメテ、ミナイデヨ。


心が裂けるくらい痛い。


ーーーコッチニクルナ、コッチニクルナ、


怯えた人形は落ちたナイフを拾い上げ
青年に向けた。


「来るな、くるな、クルナ、クルナ、クルナ、クルナ!!!」


人形は叫び散らす。


けれど青年の足はゆっくり近づいてくる。


「・・・目を覚ますんだクラッピー。」


「違う!!ボクの名前はクロノスロードだ!!!ボクこそがッ・・・・」


堕ちた人形は再びナイフを手に取った。


そして今度は青年に向かってナイフを投げつけた。


風を切るようにものすごい速さで真っ直ぐに飛ぶナイフ。


けれどそんなナイフより動きの速い青年はいともたやすくナイフをとってしまった。


震える人形はドサッと地面にしりもちをつく。


その瞳は輝きを失い、
絶望と悲しみに溢れかえっていた。








足りない、足リナイ、タリナイ。


「まだ・・・まだ満ちないんだ・・・」


「・・クラッピー」


リオナはクラッピーが飛ばしてきたナイフを投げ捨てクラッピーに駆け寄る。


しかしクラッピーはそんなリオナを思い切り突き飛ばした。


「・・・な」
「くるなっ!!」


顔も目もそらし
小さく震えている。


リオナには見られたくなかった。


こんな醜い自分の姿を。


「・・・見な・・ぃで・・・・」


涙がボロボロと溢れだす。


"冷たい涙"が頬を滑り堕ちる。


けれどその時、
濡れた頬にひんやりとした指が触れた。


クラッピーはゆっくりと目を向ける。


「・・なんで見ちゃいけないんだ?」


リオナはいつもの表情で不思議そうに首を傾げていた。


「な・・・なんでって・・・・・それはボクは・・・・・」


真っ直ぐなリオナの目に見つめられ
言うべき言葉が喉の奥に戻っていく。


嫌われたくない・・・。


残る思いはそれだけ。


「・・・もったいないなぁ。」


するとリオナはクラッピーの肩をつかみ
無理やり顔を向かせた。


「リ・・リオ・・」
「すごくきれいな目をしてるのに、もったいない。」


その言葉に
体が一瞬震え上がる。


きれいな目・・・?


こんなに心はすさんでるのに?


クラッピーは睨むようにリオナを見上げた。


「はっ・・・どこが!?リオナは何も知らないくせに!!」


「・・知ってるよ。お前はバカだけど優しくて人一倍寂しがりやだ。」


再び言葉を失う。


でもやっぱりリオナはわかってないじゃないか。


ボクは・・・ボクは・・・


「違う・・!!!!ボクは本当はクロノスロードのチカラがほしかったんだ!!!守りたいんじゃない!!奪いたかったんだ!!!ほら!!ボクはこんなにも醜い!!!!!」


強く言葉を吐き捨てる。


もういい・・・一人でいい。


・・・これ以上苦しい思いをするのはたくさんだ。


クラッピーは塞ぎ込むようにうずくまる。


けれどリオナは表情を変えず
むしろ柔らかい笑みをクラッピーに向けた。


「・・やっぱりな。お前は優しいし寂しがりやだ。」


「だから違うって・・・」


「・・すさんだ奴は絶対に涙なんか流さない。」


「・・・!」


リオナの腕が伸びてきた。


優しく頬の涙を拭ってくれる。


だけど涙は止まることを知らない。


「な・・みだがッ・・とまらな・・・」


「・・お前が欲しいのは本当にクロードの力か?」


「・・・?」


「・・お前が欲しがっているのは力なんかじゃない。クラッピー、お前は愛を求めているんだ・・・だからいくらお前が力を手に入れたって、満たされることはないんだよ。」


愛・・・・・


愛・・・・


"今日からお前の名前はクラッピーだ。"


"お前は私の息子ではない。クロノスロードを弟と思ってはいけない。お前は1人だ。クロノスロードの半身として、命をかけろ。そして・・・"


"私はお前を愛さない。"


人形として生まれ変わった時、
お父様に言われた言葉。


そう、人形は愛される資格などない。


クロノスロードさえ人々に愛されれば。


彼さえ愛されればボクは・・・・


「羨ましかった・・・」


クロノスロードが誰からも愛されていることが


「一緒に生まれたのに・・・ボクだけ死んで・・・ボクだけ愛を知らない・・・」


ボクもクロノスロードみたいに力を手に入れたら・・愛してもらえる。そう思ってた。


「リオ、ナ・・・」


クラッピーは涙でぐちゃぐちゃの顔をあげる。


そしてすがるようにリオナに抱きついた。


「ボク・・も、愛されたい・・・・・」


彼のように
誰でもいい。
誰でもいいから
ボクを
アイシテ。
チカラなんていらないから


「ボクを愛してよぉ・・・!!!!!!」


堰を切ったように再び涙が溢れだす。


悲しみや苦しみが
涙と一緒に流れおちる。


「・・・ほら、やっぱりバカだ。」


リオナの呆れたような声が降り注いできた。


クラッピーは怯えたようにさらにリオナにしがみつく。


突き放されると思った。


けれどリオナの両腕は
強く強く
クラッピーを抱き締めた。


「・・・バカ、お前はどうしてわかんないんだよ。」


リオナはさらに腕に力を入れ
きつく抱き締めてきた。


息ができなくなるかと思うくらい
鼓動が早くなる。


「・・・愛してなきゃ、抱き締めたりしないだろ・・・。」


「リ・・・・リオナぁぁぁ」


リオナは恥ずかしそうにクラッピーの肩に顔を押しあてる。


「・・・チカラなんか無くたって、そのままのお前でいれば愛は手に入るんだ。それにな、お前を誰よりも愛しているのは・・・クロードなんだぞ。」


「・・・ッ・・・」


気付いてた・・・・クロノスが誰よりも自分を求めてくれていた事に・・・


でも怖かったんだ。


恨みが勝ってしまいそうで・・・


クラッピーの瞳から大粒の涙が流れ落ちる。


「・・・この間も言っただろ?お前は1人じゃないんだ。だから悩んでないで俺に話してよ。それに俺はクラッピーを嫌いにはなれないんだから。」


クラッピーはリオナの顔をゆっくり見上げた。


リオナの真っ赤な瞳と視線を交わせば
ますます涙がこぼれ堕ちる。


「・・グスッ・・なん・・・でぇッ・・・」


「なんでってそりゃあ・・・・」


照れたように顔をしたに向けてしまう。


催促するようにリオナの服を引っ張れば
しばらくして少しだけ顔を上げた。


「もう・・・・・家族みたいなもんだろ。」


家族・・・・


自分は家族と言うものがわからない。


けれどなんとなく感じるのは・・・


「・・・・あったかいッチョ。」


「あ、ようやくいつものクラッピーに戻った。」


「・・!」


リオナの笑顔に
クラッピーは顔を真っ赤にさせる。


恥ずかしくって
手足をじたばたさせた。


「ご・・・ごごごごめんッチョ!!!」


「なんで謝るのさ。俺はいつものお前が好きだよ。」


その言葉にピタッと動きを止めた。


「ほ・・・・ホントッチョか?」


「・・うそついてどうする。」


体中から沸き起こる何か。


おそらくそれは
喜び。


「ありがとうッチョ・・・」


「・・あー、もう泣くなって。」


「リオナ・・・・大好きッチョ!!!!」


「・・こら、抱きつくんじゃない。」


嬉しくって嬉しくって


涙をこぼしながらリオナに抱きつく。


するとふと肩ごしに
遠くからこっちを見つめる赤頭巾・・・クロノスロードが見えた。


彼は優しく笑っていて。


リオナと同じ
温かかさを感じた。


だからクラッピーも微笑み
小さく呟く。


「ごめんッチョ・・・・すぐにあなたのもとへ帰るッチョ・・・クロノス。」


すると赤頭巾は姿を消し
空はまたクレヨンで塗ったような青空に戻った。


何もかもが取り払われたかのように
体が軽くなった気がする。


もう、立ち止まらないよ・・・。


クラッピーは立ち上がって
元気に声を上げた。


「さぁ帰るッチョよ!!!」


「・・・お前立ち直り早いな。」


クラッピーはリオナの腕に絡み付く。


その度に心臓がバクバクする。


けれどクラッピーはその変化にまだ気づいてはいない――――













[リィィオォォナァァァァァ]


クラッピーも無事に元に戻り
一息ついた時だった。


ふと後ろから物凄い地鳴りのような声が聞こえてきた。


振り返れば鬼の形相をしたナツがいて、
リオナは思い出したかのように「あっ」と声を上げた。


「・・先に来ちゃってごめん。」


しかしナツは鼻息を荒くし、リオナの胸ぐらをつかみあげた。


[ごめん、だと?お前はどうして1人で突っ走るんだバカヤロウ!!]
「・・・いや、だからさ。ごめん。」
[謝って済ます気か?おーおーいい度胸してんなぁ。]
「・・・謝って済まさないでどう済ますのさ。」
[それは・・・。今から考えるんだよ。]
「・・・理不尽。」
[んだとヘッポコ。]
「・・・鬼。」
[臆病者。]
「・・・ちょっとまて。俺は臆病者なんかじゃない」
[違うね。臆病者だから心配ですぐに1人で突っ走るんだろ。]
「・・・。じゃあナツは寂しがりやだな。」
[はっ?俺は寂しくなんか]
「・・・1人にされて寂しかったから必死に俺を追い掛けてきたんだろ?そんなに息切らせちゃって。」
[んだとぉぉぉ!]


「ちょっとやめるッチョォォォォ!!!!!」


ナツが頭突きをリオナにかまそうとした時
クラッピーが2人の間に割って入った。


リオナとナツはキョトンとした表情でクラッピーを見る。


「ケンカはダメッチョ!!ほらお互い謝るッチョ!!」


そう言ってクラッピーは2人の手をつかみ
互いの手を握らせた。


手を繋がされたリオナとナツ。


一瞬空気が固まる。


けれど次には2人は大きな口を開けて笑っていた。


「・・・可笑しいな!」


[ああ。ホンットお前は面白い。]


なぜ2人に笑われているのかがクラッピーにはわからず
頬を大きく膨らませる。


「なんで笑うッチョかぁぁ!!というかナッツンはなんでここにいるんだッチョ!!」


[理由なんてねぇよ。まぁ・・・・・・・・仲間だからな。]


ナツの口から違和感なく"仲間"という言葉が出てきた。


そのことにリオナとクラッピーは瞳を潤ませ
ナツに抱きついた。


「・・・ナツ!お前好きッ・・・!」
「大好きだッチョナッツン!!!!」
[は・・離れろお前らぁぁぁぁ!!!]


森に賑やかな声が響き渡る。


その声に同調するように周りの景色も華やかになっていく。


まるで今まで縛っていたすべての鎖が朽ち堕ちたかのように。


[あーもーお前らいい加減はなれろ!!じゃないと一発殴・・・っておいあれ見ろあれ!!!]


ナツの抵抗が突然止まり
リオナとクラッピーは何事かと振り返った。


しかし2人もソレを見た瞬間に目を丸くした。


「あ・・・!」
「あれ!!ボクちん達を食べた本ッチョ!!!!」


この世界に入り込む原因となった例の本が
ピョンピョン跳ねながらこちらに向かってきているのだ。


しかもとてつもなく速い。


大きな口を開けていて
デジャヴのような光景に3人は息を呑む。


「・・・やばい。」
「ま、ま、ま、ま、また、だッチョかぁぁぁ!!?」
[食われるぞ!!]


3人は目を瞑る。


まるで眩しい白い光に自分も溶けるような感覚が襲ってきた。


ああ、食われた。


このままどこに・・・

















「・・・イッ!!!たぁぁぁぁぁ」


堅い地面に落下したようで
リオナは頭を抑えた。


復活してきた視界を頼りに自分の周囲を見渡せば
同じようにナツとクラッピーも頭を抑えて悶えていた。


よかった・・・


とりあえず3人一緒の場所に出れたようだ。


けれどここは一体・・・・


場所を確認すべく
リオナは顔を上げようとした。


けれどそこでようやく異変に気が付く。


どうやらここは家の中、
そしてどこか見覚えがある。


驚くべきは自分たちを取り囲むように並ぶ
大量の足。


[嘘だろ・・・]


隣からナツの苛立ちが混ざった声が聞こえる。


「気絶したいッチョ・・・・。」


そう言いたくなるのもわかる。


なぜなら


『よぉ仲良し3人組さんよ。』


ここは


『おかえりぃ。本の旅は快適だったか?』


フリットの家で


『お疲れのところ残念だが、ここからは』


そして俺たちの周りには


『地獄の観光ツアーの始まりだ。』


フリット率いる武装集団が笑いながら俺たちを見下ろしていたのだから。




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あきゅろす。
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