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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story99 3人の赤頭巾



昔、聞いたことがあった。


遠い国のどこかの童話らしく
「赤ずきん」という話を。


赤い頭巾をかぶった少女が祖母のお見舞いに行き、その途中でお腹をすかせた狼に出会う。
その狼は赤ずきんの祖母に成り済ますために先回りをして祖母を食べてしまった。
何も知らない赤ずきんは祖母の家にたどり着いてしまう。
そして狼にパクりと食べられてしまうのだ。
けれどたまたま訪れた猟師に狼の腹から助けられる。

という話だ。


信じてもらえないかもしれないが、
今、
目の前に


赤ずきんがいる。








「お兄ちゃん・・だいじょーぶ?」


「・・・・・。」


リオナは口をポカーンとあける。


目の前に
赤い頭巾をかぶった少女がいる。


大きな瞳をらんらんと輝かせている。


そう、言うならば"好奇心"。


好奇心の塊が、今、新しいオモチャを見るような目で俺を見ていた。


しかも・・・


「お兄ちゃん?お兄ちゃん言葉通じないの?」


しかも顔が・・・


「・・・いや・・・・大丈夫。言葉は・・・わかるけど・・・」


"ムジカ"にそっくりだ。


この異様な状況、どうしてくれようか。


体を起こし
辺りを見渡せば
周りは何とも可愛らしい森。


"可愛らしい"と表現するのは、
まるでクレヨンで描いたような森だから。


いや、"ような"じゃない。
あれは完全に手書きだ。


巨大な紙にクレヨンで描いている。


よく見れば地面の草も全部紙でできていて。


やっぱりここは・・・本の世界


そしてこの赤い頭巾をかぶった少女は・・・


「・・・ムジカ?」


「え?ムジカ?それってわたしのこと?わたしは赤ずきんだよー?」


口調は違うが顔、身長、体格、
完全にムジカだ。


「・・・・ごめん。知り合いに似てたから。」


そうだよな・・・


ムジカはもう
いないんだ・・・


・・・・会いたくても会えない。


「そっかぁ!わたしムジカって人にそっくりなんだね!あはは!」


顔はムジカなのに口調が違うせいか、
リオナは一瞬ムッとした。


「でも今日はいい日だなぁ〜!狼さんにも会えたしキレイなお兄ちゃんにもあえたもんね!」


キレイって・・・というか狼に会ったって・・・


もしかしてこれは物語通り?


それならこの赤ずきんは今から・・・


リオナは赤ずきんが持つバスケットを見た。


「ムジ・・・・じゃなくてキミ、もしかして今からお祖母さんのお見舞いに?」


「ぇえ!?なんでなんで!?お兄ちゃんホントにすごーい!!」


なんてこった・・・


本当に赤ずきんの世界に入ってしまったとは・・・


それに


「・・・傷がない。」


先ほどから気になっていた。
なぜかナツにえぐられた腹の傷が無くなっているのだ。


喜ぶべきことなのだろうが、
本から出たらまた傷が戻るのでは?


そう考えると少し怖い。


けれどまぁとりあえず今は


「・・・キミさ、今日はお祖母さんの家には行かない方がいい。」


「なんでぇ?」


「なんでって・・・」


"食べられるから。それにムジカにそっくりだから。"
なんて言えるはずもない。


リオナは何かないかと辺りを見渡した。


ふと目に入ったのは花畑。


これは使えるとリオナはにぃっと笑う。


「・・お祖母さんは、お花が好きだろう?」


「うん!」


「じゃあお兄ちゃんとお花を摘んでいこう!!」


最近よく使う"さわやか笑顔"を振りまく。


「うんっ♪」


ホント子供って単純。


でもこういう所が無性にムジカそっくりで。


リオナは赤ずきんと花畑に腰を下ろす。


楽しそうに花を摘む赤ずきんを
リオナはじぃっと見つめていた。


・・・もうムジカのことを考えるのはやめよう。


とりあえず今はクラッピーを探さなければ。


「・・・なぁ赤ずきん。ピンク色の髪を右で一本に結んでる男の子見てない?身長は赤ずきんと同じくらいなんだけど。」


「うーん。どうだったかなぁ?」


赤ずきんは手を止めて考え込む。


すると何か思い出したのかバッと顔を上げて口を開いた。


「あ、!!髪は結んでなかったけどピンク色の長い髪した派手な人なら見たよ!でもね、私のこと見たらすごーく慌てて逃げちゃった。」


「・・逃げた?」


話を聞いていると赤ずきんが見かけたのはクラッピーだろう。


けれどどうして逃げたのだろうか。


でもまぁこの世界にいることは間違いないということだ。


できれば今すぐにでもクラッピーを探しに行きたいところだが、
このまま帰れば赤ずきんはお祖母さんの家に行って食われてしまう。


どうすればいいか。


「あっ、そうだお兄ちゃん!」


「・・・?」


ボーっと考えていると
赤ずきんは再び目を輝かせてリオナを見上げていた。


「オオカミさんがね、銀色の髪で赤い目をした人を見たら一緒におばあちゃんのお見舞いに行きなさいって!」


「・・ぇえ?」


本編と違うではないか。
というかオオカミはなんで俺のこと知ってるんだよ。
まさか俺まで食う気かよ・・・。


いや・・・まさか罠?


これはフリットの罠なのか?


オオカミまでグルとか?


リオナはハァっとため息をつく。


とりあえずこのムジカに激似の赤ずきんは連れて行くわけには行かない。


「・・わかった。じゃあ今日は赤ずきんの代わりに俺がお祖母さんのお見舞いに行ってあげるから今日は帰りな。」


「えー・・でも」


「いいからいいから。お兄ちゃんにまかせてよ。お兄ちゃんどうせお友達探しに向こうに行くからさ。」


最後にニコッと笑って見せれば
少女は簡単に頷いてしまった。


「わかった!!よろしくねお兄ちゃん!」


最近の子供は罪悪感ってものがないのだろうか。


はいっと赤ずきんからお見舞いのバスケットを渡され
お祖母さんの家までの道のりを聞いた。


そして赤ずきんに別れを告げて歩きだす。


何度か振り返り
"ムジカ"を思い浮べながら。













時はさかのぼり
リオナが"本"に入る前のこと。


「ここ・・どこだッチョかぁ!?!?」


花畑の真ん中、
クラッピーはキョロキョロと辺りを見渡した。


先ほどまでいた森と似ているような似ていないような。


決定的な違いは
リオナがいない点。


「リオナぁぁぁぁぁ!?どこッチョぉぉぉ!?!?」


寂しさのあまり泣きそうになる。


「はぁ・・・・ボクちんのバカ!」


結局自分は足手まといになっているだけ。


今回リオナに連れてきてもらったのは自分を強くするためだったのに・・・。


クロノスを守れるくらい・・・・


ふとクロノスの顔が頭に浮かぶ。


いまだに幼いままの彼の笑顔が見える。



するとクラッピーは一瞬顔を歪めた。


右手で胸を押さえ
今までに見たことのないくらい冷たい目をしている。


「ボクちんは・・・・最悪なヤツだッチョ。」


クロノスのこと・・本当に守ろうなんて思っていないのに。


まだリオナと出会う前、
地下の穴に暮らしていた時までは、
確かにクロノスを捜し出して命をかけても守り通すと心に決めていた。


でも次第に考えるようになった。


"どうして自分だけこんな目にあわなきゃいけないんだ?"


自分はクロノスの双子の兄として生まれ
自分だけが命を落とした。


本当は自分が"クロノス・ロード"という名なのに。


なんで弟ばかり・・クロノスばっかり・・


気が付けば自分の中の何かが音を立てて崩れていて、
新しい何かが芽生えていた。


"嫉妬"


こんな感情はいけないってわかってた。


もちろんクロノスが悪いわけじゃないことも。


"寂しかった。"


嫉妬の気持ちを偽りの感情で押さえ込んだ。


それはリオナと出会い
クロノスと再会してからも。


何も考えないフリをして、
"人形"は"人形"らしく笑って騒いで。


けれど自分の中で眠りについていた"嫉妬"が
再び目を覚ましたのだ。


それはダーク・ホームでフェイターと戦った時のこと。


クロノスと自分が1つとなり、
本物の"時の神"となった時。


膨大に溢れだす"力"が快感だった。


けれど決してこの力は自分のものではない。


あくまでこの力はクロノスのもの。


自分は嫉妬に溺れた。


どうにかして"時の力"を自分のものにできないか。


自分一人の力に。


そうだ。


強くなればいいんじゃないか。


自分の中に潜む"時の力"を解き放てば・・・。


そう考えてリオナについてきた。


"クロノスを守りたい"なんてイイ子のフリをして・・・


「結局・・・ダメじゃん自分。」


近くの水溜まりに自分の顔が映る。


「・・・・汚いッチョ。」


醜い汚い穢れている。


こんな顔・・・見たくない。


リオナだって・・・本当の"クラッピー"を見たら・・・離れて行くかもしれない・・・。


汚いって言って
見捨てられるかも・・・


「はは・・・ホント最悪だッチョ・・・・いつもボクちんは自分のことばっかり・・・」


気が付けば瞳から大きな涙がボロボロこぼれてきて、
水溜まりに落ちていく。


「・・こわい・・・ッチョぉぉ・・・・・・!!!」


歪んでいく心が、
弱くなっていく自分が、

怖い。


いつか自分が自分じゃなくなって、
クロノスに何かするんじゃないか。


怖い


「あれぇ?泣いてるのぉ?」


「・・・・!?」


突然聞こえてきた声に
クラッピーはハッと顔を上げる。


目の前には赤い頭巾をかぶった少女がいた。


一瞬"リオナじゃなくてよかった"と思ってしまった自分が本当に情けなく思う。


でも今は・・・こんな醜い自分をリオナに見られたくない。


けれどそんなクラッピーの悩みは
一瞬にして消し去られてしまう。


クラッピーは目を丸くして赤ずきんの顔を見た。


「な・・・・ななななんで!!!!」


"驚き"ではない、
クラッピーは"焦り"で赤ずきんから身を離す。


「な・・んで・・・クロノスがッ!?・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


「あれ?どうしたのー?」


クラッピーは全力で走りだす。
いや、逃げた。


確かに少女の顔はクロノスだった。


あの少女の無邪気な笑顔が
クラッピーを恐怖で縛り付ける。


「く・・クロノスが・・・・・ボクちんを・・・・殺しにきたッチョ!!」


"裏切り者は殺される"
どこかの誰かが呟いた言葉。


クラッピーはつまづきながらも走り続ける。


自分の"罪"と"恐怖"から逃れるように
ただただ走り続けた。

















「・・・クラッピー、おーいクラッピー。」


遠慮がちに呼び掛けながら
赤ずきんの祖母の家を目指すリオナ。


「・・・アイツどこ行ったんだよ。」


というかなんで赤ずきんを見て逃げたんだ・・?


あ、もしかしてアイツも赤ずきんがムジカに見えて幽霊だと思って逃げたんじゃないか?


あーそうだ絶対そうだ。


リオナは一人納得しながら歩みをすすめる。


初めは違和感を感じていたお絵描きみたいなまわりの風景も
すでに当たり前のように視界に入ってくる。


すると突然道が開け
思わず足を止めた。


「・・・これか?」


目の前に現れたのは一件の可愛らしい家。


いかにも童話に出てきそうな家だ。


「はぁ・・・着いちゃったし。」


リオナは一旦しゃがみこみ
じぃっと見つめて考える。


もしもコレがフリットの罠なら
捕まってしまえばそこでアウト。


そんなことになればクラッピーだって生きて還れるかどうか。


俺も下手したらダーク・ホームに一生帰れないかもしれない。


だからと言ってここで引くのもイヤだ。


なんだかこんなマイナスなことを冷静に考えてしまっている自分ってどうなのだろうか。
というのは置いておいて。


「・・・なるべく行きたくないんだけど。」


結局好奇心?に負け
そおっと家に近づいていく。


ドアの前で足を止め
トランプで長剣を作り出す。


いざとなれば斬り掛かればいい。


そんな安易な考えを抱きながら
リオナは扉のノブに手を掛けた。


そして勢い良く扉を開き
一旦扉の脇に隠れる。


「・・・・?」


しかし反撃はない。


むしろ静けさを感じる。


「・・もしかして俺の考えすぎ?」


リオナはそおっと家の中を覗いた。


家の中はやけに閑散としていて
テーブルと軽い調理場とベッドだけだ。


・・・なんだよ。
フリットもおばあさんも狼も誰もいないじゃないか。


心配して損し・・・


ホッと胸を撫で下ろした時だった。


ふとあることに気が付く。


「・・・・。」


ベッドが盛り上がっている。


あれはおばあさんか?


いや、あんな長身じゃおばあさんはない。


フリットか・・オオカミか・・・


リオナは再び長剣を構えなおす。


ベッドに近づき
一気に布団をはがした。


「・・・・ッ!!!!」


咄嗟に刀を突き出した。


キィィィン!と刀同士がぶつかった音が響き渡る。


リオナは間合いをとり
入り口までさがった。


けれどそこで唖然としてしまう。


ベッドから出てきたものに目を丸くした。


「な・・なんでお前が・・?」


なぜならそこからでてきたのは
フリットでもオオカミでもおばあさんでもなく、
ナツだったから。


ナツはいかにも不機嫌そうにベッドからでてきた。


[おい、なんで赤ずきんがいねぇんだよ!ったく危うく敵かと思ってお前を斬るとこだった!!]


そんな愚痴をこぼしながら
どこからもってきたのか歯切れの悪そうなナイフを投げ捨てた。


一方リオナはどうして文句を言われなきゃいけないのかと真剣に考えていた。


「・・・てかオオカミってナツだったのか?」


[ぁあ?誰がオオカミだって?]


若干キレ気味にリオナを睨む。


「・・・いやだからさ、赤ずきんに俺を見つけたら一緒におばあさんの家にこいって言ったのってナツだろ?」


[ああ俺だよ。俺がお前ら探すより赤ずきんの方が早いと思ってよ。だからここの婆さん追い出して寝て待ってたわけ。それでなんで俺がオオカミなんだよ!]


「・・赤ずきんがオオカミが言ってたって。」


[んだと!?人をオオカミ扱いしやがって!!!]


赤ずきんの判断はあながち間違っていない。


というかお祖母さんを追い出すなんてオオカミ同様だ。


リオナは呆れて深いため息をつき
哀れな目をナツに向ける。


するとナツはその目から逃れるように顔をそらした。


[な・・なんだよ!っつーかお前らはナニ呑気に本に呑まれてんだよ!!]


「・・・はぁ。それコッチの台詞なんだけど。」


リオナの冷たい眼差しに
ナツの動揺が滲み出る。


「・・それで?ナツは何しに来たわけ。本が欲しかったんだろ?だったらこんなところに来ないでさっさと本を持ちかえればよかったじゃないか。」


[だ・・・だからさ・・・]


ナツは頭をかき
何をしたいのかそわそわしだした。


言わなきゃいけない言葉はある。
だからここまで追っ手はきたが、いざ本人を目の前にするとどうしても言いだせず。


ナツは都合が悪そうに眉を寄せる。


[だからさ・・俺・・・・・]


「・・・あ。もしかして裏切り者を殺しに来たとか?そこまでして俺を始末したい?」


[だから聞けよ!!!]


ナツは声を張り上げてリオナに掴み掛かった。


勢いよく床に押し倒す。


けれどリオナはただ無表情にナツを見つめていた。


むしろどこか楽しそうに。


「・・・もしかして助けに来てくれたの?」


[悪いかよ・・・!!!]


「・・嘘だな。」


[嘘じゃないっつってんだろ・・!!]


沈黙が流れる。


リオナの疑う目がナツの心に突き刺さる。


「・・・悪いけど信じられない。」


[んでだよ・・・。]


「・・・お前は俺とクラッピーを仲間だと思ってない。」


[た・・・確かにさっきは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪かった。でも今は・・・・・・・・・・・・・・仲間だと思って]


「・・・今も思ってないよ。」


[んでそーゆー風に知ったような口聞くんだよ・・!!!]


「・・だから。お前の目。」


リオナは起き上がり
両手をナツの顔にそえて親指で目元をなぞる。


リオナの冷たい手にナツの体が少し震えた。


「・・お前の目、俺たちを怖がってる。」


[・・・・!!!]


「・・人を信じることを怖がってる。」


[はなせよ・・・!!!!]


パシンとリオナの手が払われた。


けれどリオナは目をそらさない。


獲物が逃げないように
じっと見つめていた。


[じゃあどうすればいいんだよ・・・!!!どうすればお前らを信じられる!?だってお前は一回ダーク・ホームを捨てた奴だぞ!?今までお前を・・リオナ・ヴァンズマンを殺せって言われてきたのに今更どうすりゃいいんだよ!!!!]


せきを切ったように溢れだす言葉にナツ自身がびっくりする。


けれどそれ以上に
リオナが笑っていたことに呆気にとられた。


「・・ははッ。やっぱそうだったんだ。」


[やっぱってお前・・・]


「・・俺も最初は同じこと思ってた。今まで自分を殺そうとしてた奴と一緒にやっていけるわけないって。でもさ、任務に行く日にナツが一緒に行くって言ってくれただろ?たとえそれがビットウィックスの命令だとしてもすごく嬉しかった。」


本当に嬉しそうに笑うリオナを見て
ナツの表情が一瞬歪む。


・・・なんなんだよコイツは。


どうして何でもかんでもわかるんだよ・・・


「ナツ」


[・・・んだよ]


「泣くなよ」


[泣いてねぇ・・。]


「・・あっそ。」


顔をそらしながら立ち上がるナツに
リオナは苦笑を浮かべた。


「・・・人を信じるってさ。案外難しいんだよなぁ。」


[ぁあ・・・?お前が言うかよ・・・]


「・・言うよ。俺も昔、マーシャを信じられなかったから。」


意外な言葉に目を丸くするナツ。


あんなに仲がよさそうなのに。


[嘘だろ・・・?]


「・・ホント。でもマーシャは俺を信じてくれてた。だから俺もマーシャを信じていられる。」


リオナは床に座ったままナツに手を伸ばした。


「・・・信じるも信じないもナツの勝手だけど、俺は今なら・・ナツを信じるよ。」


[なッ・・・]


思わぬ言葉にナツの顔が真っ赤に染まる。


何も言い返せない。


だって
今までで
一番
欲しかった
言葉だったから。


[クソ・・・やられた。]


ナツは小さく舌打ちをした。


頬を赤く染めたまま。


「・・・ねぇ、助けに来てくれたんでしょ。」


[は?]


リオナはナツに手を伸ばしたまま、
立ち上がろうとしない。


「・・・だから。助けに来てくれたんでしょ。だったらまずは俺を引き起こしてよ。押し倒したのはナツなんだから。ほら。」


そう言ってさらに手を伸ばす。


[自分で立てるだろ!?]


「へぇ。・・そっか。うん。わかったよ。」


残念そうに手を引っ込めていくリオナ。


けれど、それを見てナツはハッとした。


この手を逃したら
すべてを逃してしまう気がして。


とっさにリオナの手を握ってしまった。


「・・あ。」


[ほ・・ホントに弱っちぃ奴だな!こんな奴と毎回任務してたら疲れるわ・・!]


頬を赤らめて呟くナツの手を
リオナは笑って握り返した。


「・・うん。」


[ほら。早くクラッピーを探しに行くぞ。]


「おう。」


リオナは勢い良く立ち上がり
体中にまとわりついた埃を払う。

[あ・・・そう言えばよ]


家から出かけたナツは少し焦ったように振り返ってきた。


リオナを見たあとに目が下の方に動き
わき腹にたどり着いた瞬間に目を見開いた。


[え・・・お前腹の傷は?]


あれだけ手に血がこびり付いていたのだから傷が深くてもおかしくない。


けれど血すら見えないリオナにナツは訝しげな表情を向けた。


[おい服脱げよ。]


「・・え。ヤダよなんで、ってちょっと!」


容赦なくナツはリオナの服をめくりあげた。


リオナは恥ずかしいのか少しだけ顔を赤めた。


[傷がないだと・・!?・・・・っつーか男なんだから恥ずかしがるな。気持ち悪い。]


「き・・・気持ち悪いって失礼だな。いきなり服めくられたら誰だってビックリするだろ。」


[ビックリって顔じゃなかったし。というかホントに腹の傷どうしたんだよ!]


「・・いやぁ、わからないんだよね。確かに魔法で止血はしたけど本に入ったら傷すらなくなってたよ。」


[なくなってたよじゃねぇよ。謝れるもんも謝れなくなる!ったくどーなってんだこの世界は!]


・・・謝るつもりだったんだ。


リオナはニヤつきながらナツの頭をぽんぽんとなでた。


「・・・著しい成長をとげましたねぇ。」


[は?バカにしてんのか?]


「・・いやいや。」


リオナもナツに続いて家を出る。


目の前にはやはり紙の森が広がっていて
クラッピーを探すには苦労しそうだと肩を落とした。


「・・それにしてもあの赤頭巾、ムジカにそっくりだったなぁ。」


再び浮かんできた赤頭巾の顔を懐かしんでいると
ナツが心配そうな、いや若干バカにしたような表情を向けてきた。


[お前、大丈夫か?]


「・・・ホントさっきから失礼なやつ。というかナツも見ただろ?赤頭巾の顔。なぁムジカそっくりじゃなかった?」


[ムジカ?オレあんまりそいつと関わったことなかったから知らねぇけど・・・・・・・・・・オレには・・・]


少し口籠もりながら言葉を放つ。


[オレには・・ディズに見えた。]


「・・・ディズ」


ディズとはムジカとビットウィックスの母親のこと。


B.B.をはじめナツやその兄妹達を<アルティメイト・プロジェクト>対神用の最終兵器に仕立てあげた張本人。


けれどどういうことか。


確かに親子でも見た目も性格も違うはずなのに。


赤頭巾の顔が見る人によって違うということか?


そしたらクラッピーはムジカじゃない誰かを赤頭巾に見たのかもしれない。


でも見て逃げ出すなんて・・・


[たぶん、・・・・未練だろうな。]


「・・え?」


静かに呟くナツにリオナは疑問符を投げつける。


[俺たちの心に残る、未練っつーか後悔というか、それが赤頭巾として具現化したんじゃねぇのかな。]


心に残る後悔・・・


ムジカへの・・・未練。


「・・・確かに・・・そうかもしれないな。」


最後の最後に
守り切れなかったこと・・・

いくらムジカがゆるしたって、忘れようとしたって、
忘れられない。


きっと
これは死ぬまでつきまとう闇。


「・・・振り切れってことかな。」


[さぁな。俺はとっくに振り切ってんのによ。]


「・・・でもこうやって出てきたってことは、まだディズのこと・・・好きなんだろ。」


[は!?ちげぇよバカ!もう好きなんかじゃないあんな奴!!これは恨みつらみだ!!]


ふんっと鼻息を荒くしてナツは歩いて行ってしまった。


リオナもそのあとを追う。


なるべくこれ以上怒らせないように話題を変えた。

「・・なぁナツ。この本から出るにはどうすればいいかな。」


[出口ねぇのかよ。]


「・・あったら苦労しない。」


でもやっぱり、リオナの中で渦巻くのは
あの赤頭巾の存在。


「・・・赤頭巾なら何か知ってるかな。」


[あの単純なガキが知ってると思うか?]


「・・・わからないよ?"ガキ"じゃないかもしれないし。」


[何が言いたいんだよ・・]


ナツがリオナに掴み掛かろうとした時だった。


突然あたり全体にものすごい地鳴りが響き渡る。


「・・・なに?」


[わからねぇ。って空見てみろ!]


言われた通りリオナは空を見上げる。


すると空がまるで早送りのように暗くなったり明るくなったりを繰り返していた。


この現象・・・前にもどこかで・・・


ふと頭に浮かんだ人物に
リオナは瞳を震わせた。


「・・・クラッピー!?」


時の力が暴走しているのか・・・?


[おいどうしたリオナ?]


「・・・クラッピーを探さなきゃ。」


何があったのかはわからない。


でも・・もしクラッピーの身になにかあったのなら・・・・


「・・・・・!!」


[あ・・・待てよリオナ!!!!]


リオナは力強く走りだす。


不安が渦巻く"小さな世界"の中で。





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あきゅろす。
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