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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Prologue Starting リオナ×ウィキ
<大キライで大スキな弟。>



生まれた時から
おれの横には"弟"がいた。


顔がそっくりなもう1人の分身。


名前は"ウィキ"。


ご飯を食べる時
トイレに行く時
遊ぶ時
寝る時
起きる時
大体いつも一緒。


もちろん着る服も一緒。


なんでもかんでも一緒。


違う・・・一緒なんかじゃない。


アイツが勝手に真似をしてくるんだ。


近所のおばさんはみんな口をそろえてこう言う。


「まぁ、仲良しね。」って。


仲良くなんかない。


ただウィキが付いてくるんだ。


そんな弟がおれは嫌だった。
大嫌いだった。










「リオナあそぼー!!」


「・・・・。」


「ねぇねぇ!リオナあーそーぼー!!」


「・・・・。」


ベッドに横になって絵本を読んでいたら
いつものようにウィキが体を揺すってきた。


遊びたいなら1人で遊べばいいじゃないか。


おれは今、絵本がよみたいんだよ。


「ねぇ〜リオナぁ」


「うるさい。あっち行って。」


そう言えばウィキは黙る。


でも黙る代わりに
盛大に泣きだすんだ。


「うぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」


なんですぐ泣くんだよ。


同じ生き物と思えない。


うるさくて
布団をかぶる。


そしたらウィキが体を堅い何かでバンバン叩いてきて、
痛くないけど
何で叩いてるのかと思って顔をだした。


見てみればおれの絵本で叩いてるし。


大切な絵本なのに。


なんだかムカついて
思わずウィキの頭をパシッと叩いてしまった。


けどその瞬間。


「こらリオナ!!!ダメでしょー!?」


お母さんの声が聞こえた。


お母さんは洗濯物を干しに行く途中だったのか
片手に籠を抱えている。


「おかぁぁぁさぁぁぁん!!!!!うぁぁん!!!」


一目散にお母さんに抱きつくウィキを見て
もう面倒臭いことこの上なかった。


予想通り、お母さんはおれのところまでやってくる。


「リオナ起きなさい!!こら布団に隠れない!!!なんでいつもウィキをいじめるのッ!!」


「いじめてないよ。先に叩いてきたのはウィキだよ?」


「叩いたら叩き返していいわけじゃないでしょ!?リオナはお兄ちゃんなんだから!!」


・・でた。


"リオナはお兄ちゃんなんだから"


この言葉・・・キライ。


「ほら!ウィキに謝りなさい!!」


「・・・ごめん。」


「声が小さい!」


「ごめんね!」


半ば強引に謝り
再び布団にもぐる。


反発する気力もない。


言ったって聞いてくれない。


お母さんはいつもそうだ。


ウィキが泣けばすぐに問答無用に俺を怒る。


それで最後には必ず
"リオナはお兄ちゃんなんだから"。


はぁ・・・疲れた。


ウィキの泣き声がだんだん遠退いていく。


恐らくお母さんと一緒に一階に行ったんだ。


なんでだろう。


やっと1人になれたのに
体の中心が一気に冷たくなった気がする。


なんでだろ・・・


「リオナー?」


ふとした瞬間
今度はお父さんの声が聞こえた。


・・・また怒られる。


そう思って
さらに布団を深くかぶる。


「あーまた布団に隠れやがって。お父さんにハンサムリオナの顔を見せておーくれ!」


そう言って
お父さんはおれの布団を剥がしてきた。


「・・・・。」


ムスッとしている俺を見て
お父さんは笑みを浮かべた。


「そんな顔すんな。ハンサムが台無しだ!」


大きな両手の平で頭をワシャワシャされる。


「またモナに怒られたのか?」


「・・そう。」


「なんだなんだ?今日は何やらかしたんだ?」


そんないつも怒られてるような言い方されたくない・・・


「別に・・・ウィキとケンカしただけ。おれが悪いんだって。お兄ちゃんだから。」


自分でいうと何だか寂しくなってきて、
顔を下げる。


「おれ・・・お兄ちゃんなんかになりたくない。なりたくてなったんじゃない・・・」


するとお父さんは苦笑を浮かべてベッドの俺の横に腰掛けてきた。


「そうだよな・・選べるもんじゃないからな。」


お父さんが俺を持ち上げて向かい合わせに膝に乗せる。


そしてギュッと抱き締められた。


「だけどな、ウィキも悪気はないんだ。ウィキはお前が好きで好きで仕方ないんだ。」


「・・・知ってる。」


「だからさ、たまにでいい。ホントたまにでいいから、ウィキと遊んでやってくれないか?兄貴だからとかじゃない。ウィキの親友として遊んで欲しいんだ。」


「・・"しんゆう"って?」


「一番仲がいい友達のこと。その方がお前も気が楽だろ?モナもあんな言い方してるけど、お前ならウィキを面倒見てくれるって期待してんだ。羨ましいなぁ!!」


友達か・・・


おれはお父さんの胸に顔を埋める。


「・・・わかんない。」


「はは!!そりゃわかんないよなぁ〜!!まぁさ!あんまり溜め込むな!!お父ちゃんはリオナが笑ってくれてりゃ満足だッ!!ってことで笑え!!はははは!!」


「・・・・。」


たまに自分の父が父でない気がしてしまう。


それは自分が冷めているせいか、
はたまたこのオヤジの精神年齢が低いせいか。


それでも・・・・・嫌いじゃない。


目が熱い。
喉が痛い。
瞳から何かが込み上げてきて
こぼれないようにもっとお父さんに顔を押しつける。


「リオナ?あー・・・まったくお前は可愛いなぁ〜!!わが息子よ!!!」


「・・・・うるさい!!!」


なんで涙が出たのかわからない。


ただ胸の奥が痛くて、なんかの病気なんじゃないかと思った。










雪が降り積もる2月


今日は朝から体が重くて起きられない。


最近いつもこんな感じだ。


日に日に頭がズキズキしてきて。


これが痛いのか痛くないのかがよくわからない。


「リオナ?ちょっと大丈夫?」


朝ごはんも食べずにベッドで寝ていた俺に
お母さんが心配そうに近づいてきた。


「顔色悪い・・どこか痛い?」


「・・・だいじょうぶだよ。きっと寝れば治る。」


そう言うと
お母さんはますます心配そうにして頭を撫でてくれて。


「今日は寝てなさいね?お母さんとお父さん、お仕事行ってくるからね?なにかあったらトラ婆に電話するのよ?」


「・・・ん、わかった。」


風邪を引くのも悪くない。


なんだか皆が優しくなる気がする。


こう思う自分ってなんか・・変なの。


お母さんもいいって言ってるし
しばらく寝ようと思った。


目を閉じた瞬間、
一気に眠りに落ちた気がする。


でも、これまたすぐに
アイツの声で目を覚ましたんだ。


「リオナぁ・・・」


部屋の入り口に顔を向ければ
ウィキがジッとこっちを見ている。


はぁ・・・


「・・なに」


「え、ぇっと・・あのね・・お外で遊びたいんだけど・・1人で行くのダメでしょ・・・?」

うちの決まりは
1人で外で遊ばない、だ。


この町は少し物騒だから。


「・・ごめん今日無理・・」


「そうだよね・・・雪ふってるしね」


雪降ってるから・・遊びに行きたいんだろ?


リオナは窓の外に目をやる。


盛大に降り積もる雪は
ウィキの心を掴んで放さないのだろう。


気が付けばウィキは自分のベッドにいて
おもちゃの車を寂しそうに動かしていた。


その時
ふとあの言葉が頭によぎった。


"リオナはお兄ちゃんなんだから"


"ウィキの親友として遊んで欲しい"


ウィキの親友・・・


そんなの無理・・・


だって・・・嫌い・・・嫌いだもん・・・・


でも・・・


リオナはベッドから起き上がり
ウィキの場所まで行く。


「・・・拗ねないでよ。行くの行かないの?」


そう言えば
ウィキの顔がたちまちほころんで。


「行く!!!」


思い切り腕に抱きつかれた。


泣かれるよりはマシだ。


あれほどやっかいなことはない。


おれは痛む頭を少し撫で
ウィキを連れて外に出た。





扉を開けた瞬間
真っ白な世界が広がっていた。


いつものゴミだらけの道がこんなにキレイになるなんて。


コレだったら悪くないかも。


それでも肌にしみ込む冷気が刺さるように痛い。


「ゆきー!!ゆきー!!!」


ボケッと立ちすくんでいるおれの横をウィキは楽しそうに通り過ぎていく。


ホントに雪・・・好きなんだ・・・


少し驚いたような目で見ていると、
ウィキがおれのところまで駈けてきた。


「リオナあそぼ!!」


突然の満面の笑みにびっくりして
思わず三回頷いてしまう。


「・・・なにするの?」


「んーとね、ゆきだま作るっ!!!」


「ゆきだま?雪だるまじゃなくて?」


「それー!!!」


ウィキは嬉しそうにぴょんぴょん跳ね回る。


まったく・・・


ホントに同じ生きものだと思えない。


いや・・・きっとウィキもおれのことそう思ってるのかも・・・


そう思ったら
なんだか笑いが出てきた。


「リオナーたのしぃねっ!」


「うん・・まぁ。」


はじめはよかった。


それなりに楽しいし
雪の感触が何よりも新鮮だった。


けれど、さっきから熱い。


こんな寒い外にいるのに
雪を溶かすのではと思うくらい、頭から指先まで熱い。


頭もぽーっていうか、なんというか。


「あともうちょっとだねぇ!」


「あー・・」


「リオナそっちもって?」


「あー・・・」


「せーのでね?せーのっ!!」


・・・・ドサッ


何かが倒れる音がした。


それと同時に体の力が抜けて
目の前の世界が反転した。


そうか・・・"何か"は"おれ"だ。


雪が体全体にしみ込んで
気持ちいい。


このまま眠ってしまいたい。


「リオナ・・!?リオナぁぁ!?」


あ・・・ウィキが見える。


体を揺さ振ってくる。


また泣きそうな顔して・・・


泣かれたら困る・・・やっかいだよ。


早く起きなきゃ


あれ・・?
力・・・入んないよ・・・


「リオナぁぁぁぁ・・・!!!リオナぁぁぁぁぁぁ・・・・!!!!!!!うぁぁぁぁぁん!!!」


ウィキの涙が落ちてくる。


ホント・・・よく泣くなぁ・・・


あ・・・おれが泣かせてるのか・・・


これじゃあお兄ちゃん失格だ・・・


だから嫌なんだ・・・お兄ちゃんなんて・・・荷が重い


「うぁぁぁぁぁん・・・・!!!」


だんだん視界が薄れていく。


何でかわからないけど
最後に
ふと口ずさんだのは
"ごめん"
の一言だった。














「ダン・・・どうしよう!!」


「落ち着けよ。何があった?」


「暖炉の前で・・!!!リオナが!!!倒れて・・!!!」


「!?おいリオナ!?」


あれ・・・お父さん・・・?


おれ・・・なんでここに・・・?


体を起こそうにも力がはいらない。


ウィキが運んだのかな・・・


「モナ泣くな!リオナが不安になるだろ・・!」


「ご、ごめんなさい・・・!!」


「それにしてもひどい熱だ・・・・」


「お・・・・お医者さん!!!」


「あ!!まてモナ!!!・・・・金が・・・」


お父さんの
小さいつぶやきが聞こえる。


おれの家は貧乏だから・・・


いいよお医者さんなんて・・・


「ダンのバカ!!!そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?リオナが死んじゃったら・・・あたし・・・!!!!!うぁぁぁん!!!」


ウィキはきっと・・・お母さんに似たんだ・・・


泣き方がそっくり・・・


「おい泣くなって・・・悪かったよ。おいウィキは?」


「いないよぉぉぉ・・・!!!」


「おいおい・・・まさか外か!?こんなに吹雪いてるのにか!?」


・・・ウィキがいない!?


なんで・・?


目を窓に向ければ
外はすっかり日が暮れていて
朝から一変してものすごい吹雪だ・・・・


あのバカ・・・どこ行ったんだよ・・・


・・・・!!!


・・・もしかして・・・・


嫌な汗が背中を伝う。


おれは力を振り絞って起き上がった。


そんなおれを見て、お父さんとお母さんが
ビックリした顔をしている。


「リオナ!?おま・・・大丈夫か?!」


「・・・ウィキ・・・が・・・」


うまく声がでない。


もう何も考えられない。


それでもとにかくおれは
フラフラしながら立ち上がった。


双子の勘、とでも言うのかな。


ウィキの居場所が・・・わかる。


だから気が付いた時には
外を走っていた。


後ろからお父さんの止める声が聞こえてくる。


おれだって
出来ればこんな吹雪の中、走りたくなんかない。


それでも・・・体が止まらない。


なんで?


あんな泣き虫なウィキなんて
放っておけばいい。


嫌いなんだから
知らない顔すればいい。


でも・・・それでも・・・・


おれはふと走っていた足を止める。


前方に
小さな人影が見えた。


誰かの家の扉を
必死に叩いている。


「ウィキ・・・」


ウィキは泣きじゃくりながら
ひたすら声をあげている。


「おいしゃざん・・・!!!リオナをたずげてぇぇぇ!!!おかね・・・おかねないけどボクのたからものあげるからぁぁぁ!!!おねがい・・!!うぅ・・・!!」


宝物の木のくまの人形を手に
何度も扉を叩いていた。


なんでだよ・・・・


なんでおれなんかのために・・・


「おいしゃ・・・おいしゃざんッ・・・!!おねがッ・・・・しま・・!!リオナ・・!!ボグのだいせつな・・・お兄ぢゃんなんだぁぁ・・・!!!!うぁぁぁぁぁん!!!」


ああ・・・そうか


お父さん・・・やっとわかったよ・・・


おれはふらつく足取りでウィキに近づく。


そしてゆっくり
後ろからウィキを抱き締めた。


「・・・!?リ・・・リオナ!?!?」


「もう大丈夫だから・・・・帰ろ?」


「ぅッ・・・・うぁぁぁぁぁん・・・!!!リィオォナァァァァ!!ゴメンナザァァァイ・・・!!!」


「なんであやまるんだよ・・・・おれがね、ゴメンねする方だよ・・・」


ウィキに心配かけた・・・


ウィキはいつだっておれに気を遣ってたんだ・・・


・・・おれがあんまり笑わないから・・・
少しでも楽しませようといつも話し掛けてきて・・・


気付くの・・・遅すぎか・・・


「・・リオ・・ナぁ・・・」


すると抱きしめていたウィキの体から力が抜けて
おれも支えられずにそのまま地面に倒れた。


また
意識が遠退いていく・・・


それでも・・・ウィキだけは絶対にまもらなくちゃ・・・・・













次に目を覚ましたのは
知らない家だった。


でも同じベッドにウィキが寝ていて、
ベッドの横には目を真っ赤に腫らしたお母さんとお父さんがいた。


2人はおれが起きるなり
ガバッと抱きついてきた。


「リオナぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
「こンのバカ息子がぁぁぁぁ!!!!」


わんわん泣き喚く2人に
少し呆れながらも
素直に嬉しいと思えた。


どうやらあれからウィキの努力があって
お医者さんが家に入れてくれたらしい。


本当にウィキはすごい。


「偉いぞリオナ。」


するとお父さんがおれの頭を撫でてきて。


「お前、ウィキをずっと抱き締めたままだったらしいぞ?身を挺して弟を守ったんだ!これで立派なお兄ちゃんだッ!!」


そうか・・・おれ・・・ちゃんと守れたんだ・・・


すやすやと横で眠るウィキを見て
思わず笑みがこぼれる。


「どうだ?立派なお兄ちゃんになった気分は。」


「うーん・・悪くないかもね。」


「なぁにが"悪くないかもねぇ〜"だ!!ホントはウィキが大好きなくせしてよぉ!」


「う、うるさい・・・!べつにいーじゃん!」


そうだよ


無駄に泣き虫で
頑固で
少しわがままで


それでも一番におれを想ってくれてる。


ウィキが大好きだよ


だから絶対


おれが守る。


ウィキのお兄ちゃんとして
親友として
これからもずっと・・・・





END



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