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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story98 裏切りと裏切り




あれだけ賑やかで明るい村が
こうも簡単に軍事基地に変わるとは。


冗談でも笑えない。


クラッピーがフリットに捕まってからますます空気が張り詰めた。


しかもリオナ達の周りには村人に見せかけた戦闘集団が武器を構え取り囲んでいる。


変な真似をすればすぐにでも殺されそうだ。


何か策は無いだろうか・・・。


「リオナぁぁ・・・」


今にも泣きだしそうな声でクラッピーが呼び掛けてくる。


羽交い締めにされ
身動きをとれていない。


[あんの間抜けが!!なんで捕まってんだよ!!]


後ろからナツの罵声が聞こえてくる。


でもクラッピーが捕まったのは俺のせいでもある。


だからクラッピーを攻めないでほしい。


きっとそう言っても分かってもらえないだろうが。


『くぅ〜!!いいねぇいいねぇ!!その恐がった顔!!よく見りゃ可愛い顔してんじゃねぇか。名前クラピーだっけ?』


静まりかえった空気の中、どこか変態風なフリットがクラッピーの顔に自身の顔をぐんと近付けてきた。


行動のひとつひとつがいちいち気持ちが悪い。


さすがのクラッピーも泣きそうな表情をし四肢をじたばたさせる。


「クラピーじゃないッチョ〜!!クラッピーだッチョ〜!!」


『どっちでもいいよカワいこチャン♪』


ペロッ


クラッピーの頬にフリットのざらついた舌が這った。


「ひぃぃ・・・!!!!気持ち悪いッチョぉぉぉぉ!!リオナァァァ!!!」


さらに暴れだす始末。


・・ああくそ!
何か・・・何かいい策は・・!!!


「・・あ。」


ふとその瞬間
リオナはあることを思い出した。


どうして忘れていたのだろうか。


クラッピーが"人形"だってことを。


人形になった彼の姿はかなり小さい。


それならすんなりフリットの腕から抜け出せるはず。


「・・クラッピー、元の姿に」
『あー言い忘れてたけど、このカワいこチャンが逃げた瞬間お前ら射殺。逆にお前ら逃げたらカワいこチャン刺殺。』


リオナの意図を呼んだのか
フリットは不気味な笑みを浮かべたままたんたんと告げる。


『ってこーとーは、だ。お前らは大人しくその"本"と"リオナ"を渡さなきゃ生きては帰れないってことだ。』


やっぱりな・・・
本を渡さなきゃクラッピーは・・・


「・・・・・は?」
[・・・・・は?]


リオナとナツは同時に訝しげな表情をする。


なぜなら最後に聞き覚えのある言葉が入っていたから。


[なぁ、今お前の名前・・・なかったか?]


「・・・あった気がするけど、聞き間違いじゃないかな。うん、絶対聞き間違い・・・。」


[やめようぜ現実逃避。]


・・・なんで俺が?


リオナは相手に動揺を見せないよう
鋭い目付きでフリットを見据える。


「・・・本が欲しいんだろ?だったらくれてやるよ。」


『だぁかぁら。本だけじゃないっつってんの。"リオナ"も欲しいんだよ。』


聞き間違えじゃなかった・・・


『あ、言っとくけど俺がリオナを欲しいわけじゃねぇから。お前無愛想だし俺好みじゃない。俺的には本がかえってくりゃあいいんだけどよ。上の命令でねぇ。』


いやらしい笑いを浮かべるフリットの手は
未だにナイフをくるくると振り回している。


同じ動きを繰り返すナイフはまるで催眠術のよう。


だがそんなものを怖がるほどやわじゃない。


「リオナぁぁ・・!!ボクちんはいいッチョ!!早く逃げ・・・うわぁぁ!!痛い痛い!!!」


涙目のクラッピーの眼球を
フリットが舐めあげた。


『うっさいガキだな!!目ん玉食ってやらぁ。』


変態なのか変人なのか。


いや、そんなこと考えている場合じゃない。


「・・・わかった。俺が本持ってお前の所に行けばいいんだろ?」


『そゆこと♪でも武器は捨てろよー?トランプとか。』


フリットの口端が不気味に釣り上がる。


・・・こいつどこまで知ってるんだ。


リオナは小さく舌打ちをして
身体中に隠し持っていたトランプを捨てた。


地面は一気にトランプの白で染まり、
村人達は「こんなものが武器なのか」という疑いの目を向けてきていた。


そして同時にリオナの後ろからは
疑いの視線ではなく殺気が感じられた。


それは紛れもなくナツのもの。


[おい待てよリオナ・・・]


今までになく低く、なにかを堪えるかのような小さな声に
一瞬リオナの肩が跳ねる。


[バカな考えは捨てろ。]


「・・・バカな考え?」


何を言っているのかわからず
リオナはフリットを見据えたまま問い掛ける。


「・・クラッピーを助けるためだろ?こうする以外方法は」


[だからあのバカピエロを助けるってのがバカな考えだっつってんだよ・・!!]


気が付けばナツはリオナの背に密着するほど近くにいて、
耳元で小さく怒鳴り散らす。


[あんな足手まといは置いていけ!任務に集中しろ!あんな"お荷物"代わりはいくらでもいる!!]


カチン。


その瞬間、リオナの中で何かが無機質な音をたてて割れた気がした。


「・・クラッピーが、お荷物だって?」


リオナの声音が変わったのを感じたのか
ナツは一回ゴクリと唾を飲み込む。


[ああ。冷たいこと言うかもしんねぇけど!任務ってのは私情やましてや感情なんかに流されちゃいけねぇんだよ!!]


するとナツは
勢い良く爪が鋭く尖った両手でリオナの脇腹をつかんだ。


腹に爪が食い込み、鈍い痛みがリオナを襲う。


[もしお前がこの"本"と"お前のカラダ"をフリットに渡すなら、俺はお前を裏切り者と見なしてこの場で腸抉って殺してやる。]


ああ、なんてヤツだ。


こんな所で本性をあらわすとは。


けれど所詮・・・
ビットウィックスの捨て駒にすぎない。


「・・・そうだなナツ。お前の言う通りだ。」


[だったら今すぐこの輪から飛び・・・]


「・・仲間を見捨てて自分だけ逃げるお前みたいな最低最悪なくそっタレは代わりが沢山いていいよなぁ?まぁ・・そんなヤツの変わりなんてコッチから願い下げだけど。」


さっきと明らかに違う笑いをこめたリオナの声に
ナツの手に力がこもる。


[んだとてめぇ・・]


「・・・言っておくけど、もしクラッピーを助けることを裏切りって言うなら、お前は間違いなく人類失格だ。」


そう言った瞬間
リオナは勢い良く地面を蹴った。


[なッ・・・・!!]


一瞬いなくなったかと思えば
すでにリオナはフリットの後ろにいて。


「・・・甘いんだよ、お前。」


にぃっと笑って手の平から一枚のトランプを現した。


フリットは舌打ちをして勢い良くナイフを振るう。


けれどあたるはずもなくかわされた。


そしてリオナは小さく呪文を口ずさみ
一枚のトランプをフリットに投げつけた。


『ふざけ・・・やが・・・』


フリットはみるみる体を固めていく。


これは一種の石化魔法。
魔力を存分に使ってしまうため普段はあまり利用しないのだが。


リオナはそのスキにクラッピーを奪い取り、
抱き抱えながら森に消えた。


村人たちは皆一瞬の出来事に目を丸くする。


けれどそんな光景も一瞬で暗闇と化す。


[俺を忘れてんじゃねぇよてめぇらぁぁぁ!!!]


なぜならナツが
誰彼構わず村人たちを薙ぎ倒していくから。


[そう簡単に逃がすかよリオナ・・!!]


次々と意識を飛ばしていく村人たちなど気にも止めず
リオナの後を追うように森に入っていった。











リオナはできるだけ奥へ行こうと
ただひたすら走り続ける。


当のクラッピーは未だにリオナに真っ正面からきつく抱きついていて。


耳元で啜り泣く声が体を震わせる。


「・・・泣くなクラッピー。もう怖いことなんてないよ?」


「ぅッ・・・ヒック・・・・だっ・・だっでぇぇぇ・・・!!」


今までリオナの肩に押しつけていた顔を上げ、
真っ赤な目からボロボロと涙を流す。


そんな表情に思わずリオナも足が止まってしまった。


さっきの変態フリットではないが、一瞬だけ可愛いと思ってしまったことが一生の不覚。


リオナは仕方なく一旦近くの大木に腰を下ろした。


「・・・俺が悪かったんだよ。クラッピー。俺がもっとしっかりしてれば」
「違うッチョ・・!!!ボクちんが弱いからッチョぉぉぉ!!!ンン・・!」


あまりに大声で泣き叫ぶものだから
リオナは慌ててクラッピーの口を手で塞ぐ。


「・・頼むから泣くな。お前が泣くとなんだかこっちまで辛くなる。だから・・」


言葉を言いかけたが
一瞬、身体中を痛みが駆け抜け顔を歪める。


痛みに意識を向けてみれば
どうやら腹からきてるようで。


チラッと腹に目をやれば
両脇腹が真っ赤に染まっているではないか。


リオナはふと思い出す。


ナツの鋭い爪が腹に食い込んでいたことを。


「・・・アイツ本気で俺を殺すつもりだったのかよ。」


見た感じは悲惨な光景だが、
痛みはほとんどなく、
けれど放っておけば死ぬかもという微妙な感じだ。


「・・ゥッ・・・・グス・・・・リオナどうしたッチョか・・・?」


ようやく泣き止んだクラッピーが
目を下に下ろしていく。


・・・やばい。
コレ見たらきっとコイツまた泣くぞ・・・


「・・ああああクラッピー!そうだクラッピー!ちょっとちょっと!」


「?」


とりあえずリオナは見られる前に両手でクラッピーの顔をぐんと上げ、
適当な言葉で彼の気を引く。


「あー・・えーと・・・そ、そうだクラッピー・・!ちょっと目瞑って!おまじないかけてやるから!」


「え!おまじないッチョか!?なんのおまじないッチョか!?」


一瞬にして目を輝かせるクラッピーにリオナはホッとする。


単純という言葉がよく似合う。


「・・・いいか?俺がいいって言うまで絶対に目を開けるなよ?」


「わかったッチョ!!」


しっかりと目を閉じたのを確認し
リオナは急いで服からトランプを取り出す。


なるべく魔力は使いたくない。


血を止めるには大分魔力を消費してしまう。


贅沢しても服にこびりついた血を落とすぐらい。


・・・仕方ないか。


リオナは極力小さい魔力で服の汚れを落とした。


「いいよクラッピー。」


クラッピーには一切魔法を使ってはいないのだが
当の本人は嬉しそうにニコニコしていた。


まぁいっか。


「・・じゃあ行くか。こんなとこ早く出よう。」


「うん!でも・・・ナッツンはどうするッチョか・・・?」


"あんな奴放っておけ。お前を見捨てようとしたヤツだぞ?"
なんて暴言をクラッピーに言えるはずもなく、
リオナは言葉を飲み込んで
「さぁ。先に帰ったんじゃない?」
と曖昧な返事をした。


さすがのクラッピーも首をかしげて考え込んでしまう。


「う〜ん・・・そうッチョね!!ボクちんたちも行くッチョ♪」


しかしすぐに満面の笑みを浮かべ
先頭をきって歩きだした。


「チョッチョッチョ〜♪」


「・・・」


とても楽しそうに歩く彼の後ろ姿が
なぜだかリオナにはとても寂しく見えた。















くそ・・・・クソクソクソ・・!!!


なんでだよ!!なんでこうなるんだよ!!


リオナのヤツ・・・あー・・考えるだけで胸クソ悪ぃ。


日の落ちかけた夕焼けの森に乱暴な足音が鳴り響く。


ナツは数十回目の舌打ちをしながら怒りを振りまいていた。


何にイラついているのか。


自分の予想外の行動をとったリオナか、
足を引っ張ったクラッピーか、
あるいはすべての元凶であるフリットか。


[全員ムカつくんだよ・・!!]


どこに怒りをぶつけていいか分からず、
ナツは舌打ちを繰り返す。


それだけじゃもの足りず
近くの木を殴ろうと握りこぶしをつくった。


その時、
目に映った自分の両手にナツはハッと息をもらす。


今まで村人たちをまくので必死だったから気が付かなかった、両手が真っ赤に染まっていることに。


[・・・血だ]


しかも結構な量だ。


ナツは記憶をさかのぼる。


[ッ・・・まさか!!!]


自分は本当にリオナの腹を抉ったのだろうか。


本気じゃなかった。


でもこの血は確かな証拠だ。


[ッだよ・・!!あのバカリオナが!!]


ナツは森の中を走りだす。


なぜ自分が走っているのか、何のために走っているのか、そしてこの怒りは何なのか、
さっぱりわからないまま。


















「・・・クラッピー。」


「なんだッチョ。」


「いや・・ちゃんと付いてきてるかなって。やけに静かだからさ。」


「こんな敵だらけのとこで呑気に歌うほどバカじゃないッチョ。」


「・・・へぇ。脳ミソあったんだ。」


「えっ・・バカにしてるッチョかぁ!?ひどいッチョぉ!!」


「嘘だよ。・・バカにしてないって。」


大分暗くなった森を歩き続けて
一体今どれくらい歩いて自分達がどこにいるのかが今一番欲しい情報だ。


村人たちもさすがに夜の森には近づかないようで、逃げ出すなら夜しかない。


けれどフリットは夜でもかまわずに追ってくるだろう。


もうそろそろ石化も解ける頃だろうし。


なるべく早くこの村から脱出したいが、
わき腹の傷の痛みが激しさを増している。


「・・クラッピー、小声で歌って。」


少しでも痛みから気を紛らわせたくて
普段なら許しもしないクラッピーのやかましい歌をあえて強要する。


「エッ、でもいいッチョか?」


「・・いいから歌って。」


リオナはクラッピーの手を引き
自分の横に並ばせる。


クラッピーは照れたようにリオナを見ながら
本当に小声で歌いだす。


あー・・・やっぱダメだ・・・
耳障り。


リオナは慌ててクラッピーの口を押さえる。


「・・・ごめん・・・ちょっと・・・休もうか」


意識が遠退きそうで
でもクラッピーをおいていくわけには・・・


「り・・リオナ顔色が悪いッチョよ!?」


「・・・ちょっと疲れただけ。座ろ・・?」


ドサッと木の影に腰を下ろす。


クラッピーの不安げな表情が見え隠れする。


なんだか・・・調子狂う。


いつもなら迷惑ばっかかけるバカピエロが・・・


リオナはクラッピーの頭をグシャグシャっと撫でながら小さく呟く。


「・・・お前も大人になったってことか。」


「え?」


「・・・なんでもない。」


嬉しいような悲しいような。


そをなことを考えながら
リオナはクラッピーに例の本を手渡した。


「ちょっと休むから・・・その間にこの本の読み方考えといて・・・」


何も書かれていない真っ白な本。


きっと謎が隠されているはず。


クラッピーはリオナから本を受け取ると
目を輝かせて本を開いた。


・・・やっぱまだ子供だった。


少し安心して目を閉じる。


決して意識を飛ばさぬように。


「ん〜・・・難しいッチョねぇ。油かけたら文字か浮き出るとかッチョかね!」


「・・それはやめてくれ。」


無意識にリオナの口が開く。


「ん〜ん〜・・・やっぱわかんないッチョよぉ。飽きた。」


クラッピーは辺りを見渡し
新しい遊びを捜し出す。


けれどすぐに見つかるワケもなく。


目を閉じているリオナに近づく。


リオナの寝顔をジーッと見つめ、なぜかクラッピーが頬を赤く染めた。


耳を近付けると小さな寝息が聞こえ
完全に寝たと思い込む。


そして辺りを見渡し、
誰もいないことを確認して


「ぶっちゅ〜♪」


唇を思い切り尖らせリオナ目がけて近付けた。


予定では柔らかい感触がくるはずだったが、
きたのは堅くて冷たいもの。


よく見ればトランプがクラッピーのキスをさえぎっていた。


気が付けばリオナもパッチリ目を開けていて。


「・・・ほぉ、お前もマーシャと同じ変態だったとはな。」


リオナの冷笑に含まれる怒りが電気のようにビリビリと体を駆け巡る。


「ま、ま、魔がさしたッチョ。」


てへッ☆っと笑って誤魔化せば
勢いよくリオナの拳が飛んできた。


「いッッッたぁぁぁいッチョォォォ!!!!!ひどいッチョ!!」


「・・・寝込みを襲うヤツに言われたくない。」


これじゃあおちおちと寝てられない、とリオナはため息交じりで立ち上がった。


「あれ?リオナ体調は大丈夫ッチョか?」


「・・お前のおかげで体が逃げろって信号だしまくりだよ。」


「誉められると照れるッチョ!」


「・・・誉めてないから。」


容赦なく本を奪い取り
リオナはパラパラ中を見る。


「・・あー、お前イタズラがきしたろ。」


途中のページに殴り書きのような文字があった。


字体からしてクラッピーのもの。


「だってつまんなかったッチョ。」


「バカ・・・なんて書いたんだよ。」


リオナは汚い字で書かれた文字を読み上げた。


「・・・クロノス、ロード・・アプラナピアマ?なんだよクロードの名前かよ。」


それにしても長い名前だ。


けれどクラッピーは首を横に振る。


しかもその表情は今までに見たことがないくらい暗く、リオナは一瞬肩をビクつかせた。


「違うッチョ・・。クロノス・ロード・ア・プラナ・ピアナ。ボクちんの名前だッチョ。」


「・・・え?」


クロノス・ロードはクラッピーの弟であるクロードの名前のはず。


「・・・またまたぁ。」


冗談だろっとリオナは軽く受け流すが
クラッピーは何も言わずに下をうつむいていた。


・・・まさか


リオナがクラッピーの肩をつかもうとしたその瞬間。


「・・・!?」


リオナの手にあった本がカタカタカタカタ震えだした。


「なななんだッチョか!?」


「・・・わからない。」


本の震えがますます激しくなり
仕舞には手から飛び出すしまつ。


「あ・・!!」


まるで生きているような動きを見せる本。


大きく飛び上がると
クラッピー目がけて飛び付いてきた。


そして思いがけないことが起きる。


「うぁぁ離れてッチョ離れ・・・」


ボンッ!!


巨大な音と共に煙が立ち込め、
リオナは口を手で押さえる。


だがすぐに口をあんぐりあけた。


「えッ・・・ちょ・・・・クラッピー!?!?」


さっきまでクラッピーがいた所には動きを止めた本だけ。


まさか。
いやまさかまさか。


「本に・・・食われた!?」


急いで本を持ち上げ、
名前が入ったページを探す。


「・・・なんだよこれ。」


クラッピーが書いた(自分の)名前の横に"IN"と書き足されていた。


どういうことだ・・?


名前を書けば飲み込まれるのか?


ってことはあの名前は本当にクラッピーの名前で・・・って今はそれどころじゃない。


なんでクラッピーはこうすぐトラブルに・・・


「あぁもーばかぁ・・・」


はぁーっと盛大にため息をつくと
リオナは魔術でペンを取り出す。


そしてクラッピーの名前の下に"リオナ=ヴァンズマン"と書き足した。


予想通り
本はカタカタと震えだす。


「・・・どうしてこうなるかな。」


リオナは傷口をさすりながら
なすがままに本に飲み込まれた。














[り・・リオナ!?]


ナツは荒い息を整えようともせず
今目の前で消えたリオナを必死に捜し回る。


血の後を辿ってきたが
見つけたとたんコレだ。


なぜ消えた?


しかもあの血の量・・・下手したら・・・


「クソクソクソ・・・!!!」


わかってる。


この怒りがリオナやクラッピーやフリットにたいしてのものではないことくらい。


リオナを信じなかった、そしてクラッピーを見捨てようとした、自分に対しての怒りだ。


裏切ったのは俺の方か・・・


やや自嘲気味に笑いながら
ナツはリオナの血がこびりついた手を握り締めた。


[さてと、どうすればいいんだ?]


原因はこの本だろう。


ナツは開かれていたページに目をやる。


そこに書かれた文字を読み、
ナツはニヤリと笑みをこぼした。


[なるほどな。でもペンがないし。]


仕方なくナツは自分の指を噛み
血を出す。


その指を本の上に走らせた。


[ナツ・キャロル・・・っと。]


そう書いて本を地面に落とし
ナツ自身も腰をドシンと落とした。


鋭い目付きで本を睨む。


[さぁ、どっからでもこいよ。]


本は呼応するようにカタカタ揺れだす。


けれどナツは知らない


敵が迫っていることを。





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