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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story96 真夜中の密事



正直焦った。


マーシャが倒れるなんて。


頑丈だけが取り得だと思っていたのに・・・


シキはマーシャの体を抱えて赤の屋敷を離れ、
急いで黒の屋敷に向かった。


ようやく黒の屋敷にたどり着いたシキは真っ先に医務室に向かう。


医務室に行けば
自分と同じように徹夜で仕事をしているデヴィスがいた。


「デヴィス・・!!よかった起きていて・・!!」


「うわ!びびらせんなよ!」


いきなり話し掛けたせいかデヴィスは驚いて体を跳ねさせた。


「悪いがデヴィス・・・マーシャを見てくれ!!!」


シキは背負っていたマーシャをベッドにおろす。


マーシャの顔色が真っ青になっている。


「まさか死んでないよな・・・!?」


1人焦るシキをよそに
デヴィスは落ち着いてマーシャの体を確認する。


「安心しろ。気を失ってるだけだからよ。」


「よ・・・よかった!」


安心して思わず腰を下ろす。


「でも体温がだいぶ下がってきてるな。何があった?」


「ちょっと・・・外に走ってたら・・突然頭押さえながら倒れて・・」


だいぶ話を飛ばしたが
正直に話せば確実にデヴィスに殺されるだろう。


「走ってただと!?明日から検査入院だって言っただろうが!!何やってんだバカ!!」


結局怒られたが。


「・・・でもよかった生きてて。死んだかと思ったんだ・・・。」


本気で心配した。


だって・・アイツが涙なんか流すから・・・


シキはゆっくり立ち上がり
マーシャに近づく。


「デヴィス・・、マーシャを頼んだ。こいつきっと目が覚めたら逃げるだろうからベッドに括り付けといてくれ。」


「ああ、わかった。お前もちゃんと睡眠とれよ。」


「ははっ、デヴィスに言われたくないな。」


シキは手を軽く振りながら医務室をあとにした。


扉を閉め
しばらく寄りかかる。


「・・・・マーシャ・・・リオナ」


・・思っていた以上に最悪の状況だ。


しかもモリン=クィーガは鼻っからリオナとB.B.を離すつもりだったんだ。


そしてリオナを・・・確実に捕らえるために。


シキの肩が震える。


怒りと恨みが溢れだす。


シキは下がっていた顔を上げ
スタスタと歩きだし、あるところへ向かいだした。


そこは真夜中のマスタールーム。


シキは軽くノックをし
部屋に入る。


絶対にビットウィックスは寝ていると思った。


けれど寝室に行ってみれば
彼はベッドの上で上半身だけ起こしていた。


月明かりがビットウィックスの肌をさらに青白く照らしている。


ビットウィックスはゆっくり振り返り
シキを見るなり優しく笑いかけてきた。


「やぁ、シキ。こんな時間に誰かと思ったよ。」


「マスター、気付いていたのですか・・・。」


「まぁね。君とマーシャが赤の屋敷を訪れたあたりからかな。悪魔たちが騒いで眠れないったらありゃしない。」


すでにバレていたとは・・・


シキは面目なさそうに頭を下げた。


「本当に申し訳ありません・・・。」


「いいんだよ。顔をお上げ。ところで、その様子からすると何か収穫があったようだね。ビンスは何か情報をくれたのかい?」


「はい。重要機密を・・・。」


シキは紙とペンを取出し
ビンスから聞いた情報をすべて書き出していく。


言葉にすれば聞かれる恐れがあるからだ。


書き終えた紙をビットウィックスにサッと渡すと、
ビットウィックスは黙って読みはじめる。


けれど読んでいくうちにだんだんと顔色が変わっていき、
眉が寄っていく。


「なんと言うことだ・・・・まさか世界政府がッ・・」


ビットウィックスは黒い炎で完全に紙を燃やしつくす。


「すべては罠ということか!!」


するとビットウィックスはベッドから立ち上がり、
クローゼットの方へ向かいだす。


「マスター・・?一体何を・・・」


「リオナを迎えに行って来る。」


「な・・!?」


そう言ってクローゼットからコートを取り出した。


まさか寝巻きにコートで行くつもりだろうか。


「マスター、少し落ち着いてくだ・・」
「こうなったのは私の責任だ。しかも私はリオナを疑ってナツをついて行かせてしまった・・!マスター失格だ・・・」


涙声で話すビットウィックスに
シキは呆れたようにため息をついた。


「こんなことで怯んでどうするのです・・・マスター。」


シキはビットウィックスの腕を掴み
手を止めさせる。


「確かにリオナを疑ってナツをつけたのはあなたを信じたリオナに対しての裏切り行為だ。けれどこれでわかったでしょう?世界政府に・・・仲間だと思ってた者に裏切られた気持ちが。リオナの気持ちが。」


「ああ・・。身に染みるほどね・・・」


「だったら、あなたのやるべきことはたった1つだ。ダーク・ホームに残り、モリン=クィーガからこのダーク・ホームを守り、リオナの帰りを待つことです。それがマスターとしてのあなたの仕事です。」


「けど・・・」


「けどじゃありません。王は玉座を離れるものじゃありません。それはマスターであるあなたも同じでしょう?」


シキの真っ直ぐな視線に
ビットウィックスは何も言い返せない。


「わかったよシキ・・・・。」


ビットウィックスの肩が力なく落ちる。


思っていた以上にダメージが大きかったようだ。


「世界政府は・・・これからも我々を欺いてこのダーク・ホームを壊滅させようとしていくのたろうな。」


「・・・そうでしょうね。けれど今のダーク・ホームの状態で世界政府を敵に回すのはあまりにも危険すぎます。」


「黙って世界政府の言いなりになれと?そんなことをすればどちらにせよフェイターにやられてお仕舞いだ。」


「そんなことはさせません。いいですかマスター、今の状況をうまく利用すればいいのです。世界政府は我々を壊滅させるためにあらゆる命令を出してきます。それを鵜呑みにするのではなく、情報として受け入れ、政府には黙って命令に従っているフリをして、適当に受け流せばよいのです。」


「つまり、裏をかいて私たちが先に世界政府を下す、と。」


「そういうことです。けれどこれにはタイムリミットがあります。モリンに気付かれたら終わりです。恐らく政府との全面戦争が起こるでしょう。でもそれまでにダーク・ホームの力を強めておけば、負ける相手ではありません。フェイターも世界政府ごときに力を貸すほど暇ではないでしょう。」


シキの雄弁のおかげか
ビットウィックスの表情がようやく明るさを取り戻してきた。


「シキ、キミが居てくれて本当によかった・・。ありがとう。」


優しく微笑まれ、
ついさっきまでのビットウィックスに対する怒りが完全に吹き飛んでしまった。


シキは頬を赤くして少し顔をそらす。


「褒めても何も出ませんからね・・・。」


「はは。残念だ。ところで話がもどるが・・・誰かをリオナたちを迎えに行かせねばならない。マーシャは明日から検査だろう?ラードとユリスは今ダーク・ホームにいるかい?」


「2人は今別件でいません。」


「そうか・・・。では誰を」


「俺が行きます。」


シキはさらりと言う。


あまりにも自然すぎて
ビットウィックスはしばらく固まる。


「キミが、行くのかい?」


「はい、お任せください。」


「でもキミがいなければ私は・・」


「大丈夫ですよ。マスターなら絶対に。それにこのような事態は第一使用人である俺の仕事ですから。」


シキはニッコリ笑いかける。


もう何を言っても無駄だろう、とビットウィックスは諦めて肩をすくめた。


「わかったよ、行っておいで。君には後でボーナスをあげなきゃね。」


「本当ですか?」


シキは思わず目を輝かせる。


ボーナスなんて何年ぶりかと心が踊る。


「ああ、もちろん。いくらがいい?」


・・・でも、今は金は欲しくない。


欲しいのは・・・


「じゃあ、俺がリオナを連れて帰ってくるまでに、B.B.を天上界から連れ戻してきてくれませんか。」


まさかの提案にビットウィックスは少し目を見開く。


しかしすぐに笑みを浮かべ
髪をかきあげながらベッドに腰をついた。


「それでいいのかい?そんなこと朝飯前だよ。」


そんなことを呟きながら
ビットウィックスはベッドに入る。


「さぁ行っておいで。モリンに気付かれる前に。君は昨日からそこにおいてある私のコートを着て任務に行った。私は今日の朝まで誰とも会わずに熟睡していた。マスタールームにいたのは私だけ。赤の屋敷に行った者はいない。そうだろう?」


寝言のような囁きに
シキは笑みをこぼす。


「その通りです、マスター。」


シキは目の前にあるコートを羽織る。


ビットウィックスの甘い香りがして
なんだか変な感じだ。


「・・今回はリオナにナツを付けて正解だったかもしれませんね。ナツならリオナを守れるかもしれない。」


あくまで独り言。
でもわざと聞こえるように話す。


「そう言われると、すごく救われるよ。」


ベッドの中のビットウィックスの"寝言"を聞きながら
シキは静かに部屋をでた。


「泣くなよマーシャ・・・・・俺がちゃんとリオナをつれて帰るから。」


もうすぐ夜明け。


久々の"任務"が始まる。




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