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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story95 遠い姿



君は覚えてるかな。


君にもこういう時代があったってこと。









マーシャは一冊の絵本を閉じた。


横のベッドにはスヤスヤと眠るクロードがいる。


さっきまで眠れないと少し駄々をこねていたのに、
絵本を読んでやればあっさりだ。


やっぱりクラッピーがいないと寂しいんだろうな。


「まぁ俺はいなくて清々してるけど。」


マーシャはそんなことを口ずさみ、笑みを浮かべながら眠るクロードの額を撫でる。


リオナは覚えてるかな。


昔、俺がこうやって絵本を読んでやったことを。


あの頃は可愛いかった。
いや、もちろん今でも可愛いけどさ。


でもあの頃は・・よかった


俺もリオナも。


ただただ前を見て突き進んでいた。


いや・・・
前しか見てなかったのは
俺だけなのかな。


リオナは昔から・・・
今でも
ずっと同じ闇を抱えてる。


他の誰にも言わない
深い闇を。


マーシャは絵本を抱え
クロードの部屋からでる。


「俺だってさみしいぞ、リオナ」


いつだって
俺はリオナの味方なのに。


でもリオナはそう思っていないのかも。


俺にも言わないリオナの闇・・・


"ウィキ"という名のでかい闇を。



マーシャは部屋を出てあるところに向かう。


真夜中だろうが関係ない。


ある部屋の前まで行くと
ノックもせずに勝手にお邪魔する。


こんな真夜中だが
奥の部屋の灯りがついていた。


マーシャは予想通りといわんばかりに口端を釣り上げる。


灯りのともる部屋を覗けば
部屋の主人はこんな時間でも書類の山に埋もれながら働いているではないか。


酒を片手にしてるのは見なかったことにして。


「邪魔するぜぇ〜シキ。」


突然声をかけたせいか
部屋の主人、シキは目を丸くしてマーシャを見た。


「なッ・・・!!お前こんな時間に何の用だ!大体人の部屋に勝手に入ってくるな!!ノックしろノック・・!!!」


「だってシュナ、寝てるだろ?起こすの悪いし。」


「俺はいいのか・・!?」


「え、だって起きてるじゃん。」


「寝てるかもしれないだろ!!・・・ったく何時だと思ってるんだ・・・・」


目の下に巨大なクマをつくりあげたシキも
マーシャのせいでついに集中力を切らせたようだ。


自棄クソのように酒瓶をゴクゴクと飲んでいる。


「おーいおいおい、飲み過ぎだってーの。俺にも分けて。」


「おまえに分けてやる酒なんてない・・・用が無いなら帰れ!!」


どうやら今日のシキはなんだかご立腹のようだ。


「なに怒ってんだよ?お前らしくない」


「うるさい・・・ほっとけ」


こうなったら手の付けようがない。


マーシャは苦笑を浮かべながら
シキのデスクに軽く座る。


そっと手を伸ばし
シキの顎に触れる。


「怒った顔も最高だぜ?シキ。」


「な・・・!!!お前はまたバカなこと言って!!!」


「ほらほらその顔。そそる」


まぁ本気じゃないが、こうすればシキは絶対・・・


「・・・このバカが。・・・・・・・・で、マーシャは何のようだ」


ほらきた。


シキは絶対俺が喜ぶようなことはしない。
そして怒りを通り越して呆れるのだ。


「よくぞ聞いてくれた。実は頼みことがあって。」


そう言うと
シキの眉が一瞬寄る。


「やっぱりな・・・。おまえはそういう時にしかこない。」


「まぁそう言うなって。これ、真面目な頼みなんだ。」


珍しくマーシャの表情が引き締まっている。


シキは呆れたようにため息を吐き出した。


「どうせ・・リオナがらみだろ?」


「あたり。会わせてほしい奴がいるんだ。」


「会わせてほしい・・?誰だよ」


「この前ダーク・ホームに侵入してきて捕虜になったフェイター。ビンスって言ったっけ?」


クラッピーとクロードが・・まぁあの時は"時の神クロノス"とか言う奴になって捕まえたフェイター。


「あいつらフェイターはリオナを狙ってる。でも何でリオナなんだ?それにアシュールとかいうクソ野郎とリオナがどういう関係なのかが知りたい。」


「あのフェイターのトップとリオナが関係してるのか?」


「ああ。なんか前に会ったことがあるらしいぜ。おれの知らないところでな。」


それがまた腹立たしい。


アシュールは俺の知らないリオナを知っている。


リオナの抱えている闇を知っている。


そして何よりも
その闇をリオナから取り払う方法を知っている。


「俺は知りたいんだよ・・誰よりもリオナのことを知っていたいんだ」


思わず本音が口からもれる。


"独占欲"


そう言うのかもしれない。


でも違う・・
そういうのじゃなくて・・・


マーシャは困ったような笑みを浮かべる。


「だぁめだ。何にも思い浮かばねぇ。別にリオナを独り占めしたいわけじゃねぇんだけどな〜」


「・・・。まぁ、お前らしくていいんじゃないか?」


シキは素っ気ない返事をし
椅子から立ち上がった。


机の上の書類を整理しはじめている。


やっぱり会わせてくんないか。


リオナがいないうちにできるだけ知っておきたかったんだけどな。


だってリオナの奴、詮索されるの嫌がるし。


マーシャは諦めのため息をついた。


「・・・ため息ついてる時間があるなら、頭をフル稼働させとけよ。」


シキの意味深な言葉に
ふと顔を上げる。


するとシキは机の中から何百もの鍵のついた束を取り出していた。


マーシャの目が一気に輝きだす。


「シキ!!!」


「・・・なんだよ。行くのか行かないのか?」


「行かせてください!!!」


「・・たく。そのかわり、明日からは大人しく検査受けろよ。早く行くぞ。」


見た目は冷たそうなシキでも
なんだかんだ中身は熱い男だ。


「愛してるよ、シキたん。」


「・・・・触るなアホが移るボケ変態!」


口は悪いけど。












「いいかマーシャ、このことは誰にも言うなよ・・。じゃないと俺の首がとぶからな・・・」


「だいじょーぶ。万が一の時はシキを首にした奴の首をこの俺がバッサリぶったぎってやる。」


「・・・おまえの首をきるは血生臭い意味だろ。」


シキとマーシャは黒の屋敷をでて
外を歩いていた。


どうやらビンスは普通の監獄ではなく
悪魔の長サタンの監視下である赤の屋敷に幽閉されているらしい。


「まったくよぉ〜手がこんでるな。」


「そりゃそうさ。なんてったってフェイターだぞ?あいつらの力は未知数だ。これくらいしないと逃げられかねないからな。」


「でもよ、ビットウィックスはどうするつもりなんだ?ずっと生かしておくつもりか?」


「・・まさか。アイツが生かしておくわけない。情報を搾り取ったらあっさり殺すだろう。」


「へぇ、シキがビットウィックスのこと"アイツ"呼ばわりするなんてめずらしいな。喧嘩した?」


「・・・意見の相違だ。気にするな。」


だからさっき怒ってたのか。


喧嘩なんてシキらしくない。


「・・・何ニヤニヤしてんだ変態。」


シキに思い切り叩かれる。


「いってぇな。あーあ!リオナ早く帰ってこねぇかなぁ。」


「・・・・。・・・・今日行ったばっかだろ。ほら着いた」


真夜中のせいだろうか。


赤の屋敷はいっそう不気味さを増している。


シキは大量の鍵の中から素早く1つの鍵を選び出し、
扉の鍵穴に差し込んだ。


「というか・・・お前どうやって聞き出すんだ?ビンスは中々口を開かないぞ。」


「あ、全然考えてなかった。」


「ったく・・・・」


扉が開き
2人は中に入る。


中は契約者待ちの悪魔たちの住みかであり、
ビットウィックスたちのような人型悪魔とは違って悪魔たちの姿を見ることはできない。


けれど視線くらいはわかる。


多くの悪魔たちの、
まるで獲物を見つけたような興奮の目が一気に集まった。


けれどすでに2人は悪魔と契約しているため
すぐに悪魔たちの視線も無くなったが。


「てかよ、ビットウィックスはどうやってビンスから情報やらなんやらを聞き出してるんだ?やっぱり脅しか?」


「聞き出せてたら今ごろビンスはこの世にいない・・。」


「え、じゃあまだ1つも情報という情報は掴んでないわけか。情けないねぇ。」


「ビンスは中々口を割らないから・・だから情報を吐き出すまでビットウィックスはビンスに食事を与えるのをやめたんだ。どうやらビンスは大食いらしいから彼にとっては地獄だろう。」


「へぇ。ちなみに今日で断食生活何日目?」


「まぁ・・・ざっと数えて43日目か。」


43日目って・・・よく生きてるな。


マーシャは感心やら呆れやら、訳のわからない感情に苛まれる。


「まぁでも、おかげでいい事思いついたぜ。」


ニヤリと笑えば
あからさまにシキが嫌な顔をする。


「・・・あまり下手なことはしてくれるなよ」


「わーってるって。安心せい。」


その言葉に何度騙されたことか。


シキは嫌な予感は募るばかり。


だいぶ奥までやってくると2人は足を止めた。


「ここだ。」


「ここ?なんもねぇじゃん。」


「あるんだな、それが。」


するとシキは自身の悪魔を引き出し
瞳を赤く染める。


今度は違う鍵を取り出して床に突き刺した。


「この鍵は悪魔の力無くしては使えないようになってるんだ。」


「なるほどね。だからフェイターも侵入できないって訳だ。っておわ!!!」


突然地面が激しく揺れだした。


ものすごい揺れの強さに思わず膝を着こうとした瞬間。


「じ、地面が!!消えたぞ!?!?」


地面が消え、
体が闇に落ちていく。


マーシャは体をジタバタさせるが
横には平然と立っているシキがいる。


「落ち着けマーシャ。これは幻覚だ。」


「幻覚だと!?んで早く言わないんだよッ」


マーシャは目を瞑り
気持ちを落ち着かせる。


こういう時に役に立つのは"心の目"


目に見えるものがすべてじゃない。


マーシャはゆっくりと目を開く。


すると辺りには闇が広がっていて、
目の前には1つの扉があった。


シキは真っ赤な鍵を差し込み
扉を開く。


「マーシャ、これだけは約束してくれ。」


シキは真剣な眼差しをマーシャに向ける。


「どんなことがあっても・・・殺すなよ」


「考えとく。」
「マーシャ・・!!」
「はいはい。わかりましたよ。武器置いてきゃいいんだろ?」


マーシャは身体中に隠し持っていたナイフを全て床に落とす。


全部で68本。


「おまえ・・・そんな数どこに隠してたんだ?」


「ナイショ。」


「ったく・・・まぁいい。入れ。」


マーシャはコクッと頷く。


鼓動が高まっていく。


興奮に似た感情を抑えつけ
足を踏み入れた。


『おー、大物のご登場ってやつッスね。』


入った瞬間、聞きなれない声が聞こえた。


声をたどり左をむけば、
そこには足を大の字に開いて床に座り込んでいる1人の青年がいた。


手は上で縛られていて
すでに血の気を失っている。


体はかなり細く
今にも飢え死にしそうだ。


マーシャはニヤリと笑い
その青年の前にドスンと腰を下ろす。


「お前がビンスか?」


『はじめまして、マーシャさん。』


思った以上に丁寧な奴。
しかも落ち着いている。
そのせいかあまりフェイターには見えない。


マーシャは物珍しそうにビンスを見つめる。


『よくカイさんからマーシャさんの話を聞いてたッス。』


カイと言う名に思わずマーシャの眉がピクッと反応する。


・・・やっぱりコイツはフェイターだ。


マーシャはゴクリと唾を飲み込む。


「このあいだはよくも暴れ回ってくれたなぁ。コッチはお前らのせいで色んなもんをなくしちまった。」


そう言うとビンスは困ったようにマーシャを見て。


『それはお互いサマッスよ。』


こう小さく呟いた。


『オレは居場所を奪われたッス。大切な居場所を・・・。その分マーシャさんはいいじゃないッスか。ダーク・ホームにも戻れたしローズ・ソウルとローズ・スピリットも死守した。何よりあなたが愛するリオナくんがちゃんと生きてるじゃないッスか。』


この言葉に
一瞬にしてカチンときた。


マーシャはビンスの胸ぐらをつかみあげ
顔を近付けた。


「俺が何も失ってないってか。ぇえ?ふざけるな!俺だってなぁ大切な仲間の命を奪われたんだ!!!お前らフェイターがムジカの未来を奪ったんだ!!ムジカの夢も希望も何もかも!!!わかってんのか!?人1人の命の重さをよぉ!!てめぇはわから」
「マーシャ!」


今にも殴りかかろうとした時
後ろからシキにとり押さえられてしまった。


「放せシキ!」


「忘れたのか・・?!お前の目的はコイツに仕返しすることじゃないだろ!」


「!!」


シキの腕を振り払おうとしていた手を静かに下ろす。


俺としたことが・・・
ついついカッとなってしまった。


情けねぇ。


マーシャは唇を噛みしめ
再び地面に座り込む。


『マーシャさんの気に障ったなら謝るッス。ただ、これだけは言わせてください。失う悲しみはみんな同じなんスよ。』


まさか敵のコイツに宥められるとは・・。


「お前、ホントにフェイターか?」


『さぁ、どうッスかね。オレ的にはフェイターでありたいけど、きっとそれも叶わないッス。』


敵らしからぬ発言に少し驚く。


本当に変わってる奴だ・・・


「まだわかんねぇだろ。お前の仲間が迎えにくるかもしれねぇじゃん。まぁそうはさせねぇけどよ。」


慰めたつもりだが
ビンスはますます哀しげな顔をしていた。


『あのアシュールさんが助けにくると思うッスか?あの方は役たたずを一番嫌ってるのに。心配せずとも誰も迎えになんて来ませんよ。』


「仲間意識がないのか?フェイターもよくわかんねぇな。」


『わからないほうがいいと思いますよ。ところで・・・こんな所に何のようッスか。』


マーシャはそうだったと手を打つ。


『もしかして、オレ殺されるッスか。』


「殺されたいのか?」


『まさか。でもほっといてくれれば勝手に死ぬッスよ。もう空腹でもたないッス。』


口振りはそうでもないが
見た目は尋常じゃないくらい痩せ細っている。


「俺がここに来たのはお前に聞きたいことがあるからだ。」


『なるほど。でもそう簡単には話しませんよ。それなりの対価がないと。』


今にも死にそうなのにチャッカリしてやがる。


まぁ死にそうだからこそ、か。


「対価、ね。ビットウィックスはお前に何をやったんだ?」


『彼はケチッスね。オレ食べることが命より大切なんスよ。だから何か食べるものが欲しいって言ったら、コレですよ。口を開くまで飯はやらんってね。』


ビットウィックスらしいといえばらしいが。


「バカだねヤツは。」
「・・・言いすぎだマーシャ。」


だって本当のことじゃないか。


「よし、わかった。俺がお前にたらふく飯を食わせてやる。」


『ほんとッスか!?』


よっぽど空腹だったのだろう。


目を輝かせ
無表情だった顔に満面の笑みを見せた。


だがそれとは逆に
シキの顔が一気に真っ青になっていた。


「バカヤロ・・!!お前そんなことしたら今までビットウィックスがやってきたことが水の泡だぞ!?何のために食事を抜いてきたと思ってるんだ!!」


「んなこたぁ知らねぇよ。俺はダーク・ホームの人間だがビットウィックスの味方とは一言も言ってない。」


「・・・お前言ってることメチャクチャだな。」


ったく、とシキは最大級のため息をつく。


でもそのため息は許しのため息。


いや、"あきらめ"か。


「でも食糧なんてここにはないぞ・・・?」


「俺を誰だと思ってる。」


マーシャの顔がニヤリとする。


「偉大な魔法使いサマなんだぜ?」


そう言ってマーシャはビンスの足元に手のひらを向ける。


その瞬間
ボンッと音を立てて現われたのは・・


『うまそーッス!!!』


ビンスの目の前に大量の豪華な料理が現れた。


ビンスは今にも泣きだしそうなくらい瞳に涙を浮かべている。


「シキ、手枷外してやれ。」


「・・・仕方ないな。」


シキが手枷を外してやると
ビンスはまるで子犬のように料理に飛び付いた。


「おいマーシャ・・・。お前こんなに魔法使えたのか?」


コソッと言ってくるシキを一発叩く。


「失礼なやつだな。これくらい朝飯前よ。」


とかいいながら魔力を全部使いきったんだが。


苦笑を浮かべながらマーシャはビンスを見る。


「ほぉほぉ。いい食べっぷりだこと。」


『オレ、ほんと、飯好きなんスよ。死んでもいいから食いたいッス。』


「あはは、言ってる意味わかんない。」


しばらくすると
五人前はあった料理がキレイサッバリなくなり
ビンスもかなり顔色が良くなった気がする。


ビンスは感嘆の息をもらすと
マーシャの前で膝を着き、頭を下げた。


予想外の行動にマーシャはシキと顔を見合わせる。


『マーシャさん、あなたは命の恩人ッス。本当に本当に感謝してます。』


「それ本気?」


『本気ッス。オレ食べ物のご恩は絶対忘れないッス。そもそもオレ、フェイターになったのは飢え死にしそうだったところをアシュールさんに助けられたからなんッスよ。』


そんな理由で・・・・


じゃあ悪魔に助けられてたらダーク・ホームにいたってことだろ。


簡単なヤツ・・・


『今まで十分フェイターとしてご恩を尽くせたッス。だから今度はマーシャさん、あなたに尽くすッス。』


予想以上の結果にマーシャの口元が今までにないくらいいやらしく吊り上がる。


そしてそのままシキを見る。


「ほら見たかシキ。これが俺様の実力だぜ。」


「アホ・・・。俺は知らん。」


シキは鼻をならし顔をそらしてしまった。


『そういえばマーシャさん、何か聞きたいことがあるって。』


「ああそうだそうだ。そうなんだよビンスくん。」


すっかり忘れるところだった。


いや、俺は忘れはしないさ!!
大好きなリオナくんのためなんだから!!!


「愛してるぜリオナ!!」


『あの、大丈夫ッスか?』


「え?あっゴメン。つい口に出しちゃった。」


『ホント突然ッスねぇ。』


いつもこんな感じなんスか?とビンスがシキに尋ねると
シキは迷惑しているといわんばかりに大きくうなずいた。


ホントに失礼な奴。


「俺が聞きたいのは、リオナのことだ。」


『リオナくんスか・・・・なんとなくそうじゃないかとは思ってたんですが。でもあなたのほうがリオナくんをよくご存知なんじゃないッスかね。』


ビンスは座り直しながら首をかしげる。


「残念ながらそうでもない。ホント残念だけどね。」


『でも俺が知ってることっていうと・・・・・・・・・なんでスかね。』


「なんでもいいよ。例えばアシュールとリオナの関係とか。」


例えばと言ったが
聞きたいことは主にそれだ。


あの2人が一体いつ出会ったのか。


『ああーなるほど。マーシャさん、リオナくんが話してくれないからちょっと落ち込んでるんでしょう。』


「え、ああ、まぁ、ちょっと。」


ホントはちょっとどころじゃない。


『なら安心するッス。たぶんリオナくん自身、アシュールさんのこと覚えてないと思うッス。だってリオナくん、あの日のことを思い出せていないでしょう。大魔帝国壊滅のあの日を。』


「じゃあ、リオナがアシュールに会ったのはその日か?」


『おそらく。オレもカイさんから聞いたんで正しい情報かはわかりませんが、聞いた話ではアシュールさんがリオナくんの弟さんを目の前で殺したとか。』


「んだと!?」
「・・・ひどい話だ」


逆上するマーシャとは反対に
シキは眉間に指をあて
下を向いてしまう。


『まぁその出会いが始まりで、アシュールさん、リオナくんを気に入ってしまったみたいッスね。大切なものを奪われてしまった彼の苦痛に歪む顔とか、ってカイさんは言ってました。』


「悪趣味め・・!」


マーシャの拳が震える。


『でも恐らく、アシュールさんはリオナくんの中身に惹かれたんだと思うッス。マーシャさんは"神"を復活させるために"器"が必要って知ってますか。』


「聞いたことはある。」


『神の"器"にふさわしいと言われているのが、"心"を無くし、"強欲"を無くし、"自愛"を無くした者と言われてるッス。なんでそう言われてるかっていうと、外から"神"を操れないからッス。』


「つまりアシュールはリオナを"神"にして操りたいって思ってるのか!?」


『まぁ簡単に言うとそんな感じッス。もちろんリオナくんにはちゃんと"心"も"強欲"も"自愛"もあるはずッス。人間ですからね。でも他の人に比べたら、明らかに少ないッス。気を付けたほうがイイですよ。アシュールさんはどんな手を使ってでもリオナくんを神に仕立てあげる気ですから。』


まさかリオナがそれほどまでにアシュールという変態に気に入られていたとは・・・・


マーシャは深いため息をつく。


「なぁ、アシュールの能力ってどんななんだ?フェイターのトップならすんげぇチカラ持ってたりしないのか?」


『オレもよく知らないッスね。アシュールさんってあんまり外に出ないんスよ。戦闘能力は誰よりも長けてるけど・・・・・』


フェイター同士あまり話さないのだろうか。


人数が少ない割に信頼性がない。


これでいいのかと敵ながら心配してしまう。


『ああ―そうだ前に誰かが言ってたッス。アシュールさんは人に"夢"を見せることができるって。』


「夢?どんだけファンシーなんだアシュールは。」


『油断しない方がいいッス。考え方を変えれば、"夢"を操っているってことッス。"夢"は人の心を簡単に壊すことができる。』


夢・・・


そういえば、
昔リオナがよく
夢の中の"白い部屋"の話をよくしていた。


顔は見えないけど
いつも同じ少年がいるという。


今考えればその少年の発言に、リオナは多々悩んでいたように思える。
あくまで夢だが。


でもこれがすべてアシュールの能力による策略なら・・・


「まんまとハマッちまったってわけか・・!」


マーシャは拳を床に叩きつける。


『心当たりがあるなら気をつけた方がいいッスね。一度ハマったら現実が分からなくなりますから。それと・・・・』


ビンスは言葉を発しようとしたが途中でやめ、急に辺りをキョロキョロと見回しだした。


何かあったのかとマーシャとシキも辺りを見渡すが
特に変わったことはない。


「どうかしたか?」


『悪魔たちが騒ぎはじめたッス・・・・・・誰かがこっちに向かって来ていると言ってます。』


ビンスの発言に
シキが目を丸くして驚いた。


「お前・・・悪魔と話せるのか?」


普通は悪魔と契約した者だけが、しかも契約した悪魔とだけしか意志疎通ができないのに。


なぜ悪魔でもなんでもないむしろ敵であるビンスにわかるのだろうか。


『こんなところに何ヵ月もいれば悪魔たちの言葉くらいわかるッス。それより、大丈夫ッスかね。確実にこっちに向かってきてますよ。』


「あー、長居はできそうにないな。誰だかわからないか?」


『わからなくないですよ。恐らくですが、悪魔じゃない、ただの人間ッスね。』


ただの人間・・・


もちろんダーク・ホームにいるのは悪魔だけじゃない。


エージェント以外はほとんど人間。


けれどこんな時間にこんな森の奥にくる奴なんて
アイツしかいない。


「モリン=クィーガか。」


「まずいな・・・。」


マーシャとシキの表情が一気に暗くなるのを見て
ビンスは首を傾げた。


『モリン=クィーガって誰ッスか?』


「世界政府の犬だ。今日来たんだよ。」


『世界政府・・・ッスか』


するとビンスが少し考えるように小さくうなる。


しばらくすると
何かを思い出したかのようにバッと顔をあげた。


『今リオナくんは?』


「リオナなら任務に行ってるけど。」


『どこにッスか?なんの任務に?』


「どこにって、どこだっけ?」


マーシャは笑いながらシキに尋ねる。


「ったく・・・ノースアイランドの最北にある小さな村だ。政府に頼まれて森羅大帝国のローズ・ソウルの手がかりを探しに」
『罠ッスね。』


話を遮るように言ったビンスの言葉に、
一瞬止まる。


「え、いま、何て言った?」


マーシャの顔色が悪くなっていく。


『だから、罠ッスよそれ。』


聞き間違えじゃなかったのか。


「わ、わ、わ、わ、罠だと!?」


頭がクラクラする。


後ろに倒れそうになるが
シキに支えられた。


「しっかりしろマーシャ。というか・・・罠ってどういうことだ?」


『これ・・・話しちゃっていいんスかね。オレ、完全にアシュールさんを裏切ることになっちゃうんッスけど。』


「これだけたっても迎えにこない奴を・・・仲間だっていうか?」


『そう言われちゃお仕舞いッスけどね。』


「お願いだから話してくれないか・・・。」


時間がないとばかりにシキは後ろを振り返る。


『そこまで言われたら仕方ないッスね。時間がないですから早口で話しますよ?』


マーシャとシキがうなずくと
ビンスは大きく息を吸い込んだ。


『世界政府はすでに光妖大帝国つまりフェイターの配下です。死を恐れ、アシュールさんにあっさり降伏したッス。その世界政府を利用して森羅大帝国もフェイター側につけたッス。もちろんローズ・ソウルも回収させてもらいました。』


「ってことは、世界政府もダーク・ホームの敵ってか!?」


『ええ。だから今回ダーク・ホームのマスターさんが世界政府から受けた任務は罠です。きっとマスターさんもこの真実はしらないでしょう。ノースアイランドの最北には確かに小さな村がある。でもそこは森羅大帝国の領地の最強戦闘集団が身を置いている村ッス。リオナくんをその村に招き寄せて捕獲するつもりでしょうね。』


なんてことだ・・・


「なんてこった!!」


リオナが捕まえられちまう・・!


リオナが!!


マーシャは拳を握り締める。


頭によぎるのは任務に行かせたことの後悔。


ついて行かなかった自分への怒り。


「なんで俺・・!!」


すると後ろにいたシキが
マーシャの横を通り過ぎてビンスに近づいた。


「ビンス・・・君には悪いがもう一回縛らせてもらう。君には本当に感謝するよ。マスターにも食事を出すように言っておく。」


『助かるッス。でも急いだ方がいいッスよ。もうモリンって人がこの屋敷の入り口にいるッス。』


「わかった・・。」


そう言ってビンスの手を再び縛り上げた。


そしてマーシャの手を取り
引っ張り上げる。


「ボサッとするなマーシャ・・・!!!逃げるぞ!」


「あ、ああ」


マーシャは手をひかれながらビンスの牢獄からでる。


「あ、やべぇビンスに礼言うの忘れてた」


でも
それどころじゃない。


リオナ・・・


2人はなんとか赤の屋敷の外にでた。


一歩遅かったら鉢合わせていたかもしれない。


でも一体なぜモリン=クィーガが・・・


感付かれたか。


「シキ・・・悪い俺、リオナ追っかけるわ。」


マーシャがそう言えば
予想通り
シキは目を丸くしてマーシャを振り返った。


「おま・・・約束と違うだろ!」


「でもリオナが危ないんだぞ!?なにがなんでも行く!!!」


マーシャはイラつきながら言い捨てる。


けれどシキも負けじと食いかかる。


「なんでわからないんだ・・・!!お前は万全じゃない!!死んだらどうするんだ!!!」


「俺は死なねぇ!死んでもリオナを守れればそれでいい!!」


「お前おかしいぞ・・・!?なんでそこまでリオナに執着する!?他のヤツに任せればいいだろ!!今は自分の事を一番に・・・」
「他の奴なんかに任せられるか!!!!わかってないのはシキだろ!!!!!!俺はリオナを・・」


声を張り上げたその瞬間。


「ッぅ・・・・イッテェ」


「マーシャ・・!?」


突然頭痛が襲ってきた。


「マーシャ!?どうした・・!?」


しかも、今までになくひどい痛みだ。


こんな時に・・・


マーシャは下唇を噛み締めながら地面に膝を着く。


「マーシャ・・・!?おいしっかりしろマーシャ!!!」


シキの顔がぼやけていく。


なんで。なんでこんなところで・・


自分の役たたずめ・・・


「・・リ・・・・オ・・ナ・・・・・」


やっぱり俺が弱いから


リオナは話してくれないのか?


手を伸ばしても


リオナには届かないのか?


俺はこんなにも・・・・



お前を・・・


愛しているのに・・・


マーシャは薄れゆく視界の中
シキの手を強く握り締める。


「・・・くや・・・しい・・・」


瞳から
何かが流れ落ちた気がする・・・


「・・く・・・そ・・」


意識が一気に遠退く。


自分の弱さを恨みながら。






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あきゅろす。
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