[携帯モード] [URL送信]

【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story93 似た者同士



12月15日


冬は寒さを増し
雪がちらついている。


そんな朝方
ベッドで寝ていたリオナは違和感を感じ
目を覚ました。


背中が妙に暖かい。


それになぜか重さを感じる。


嫌な予感がし
リオナは勢いよく起き上がり
布団をめくりあげた。


「さ、さ、さ、さ寒いッチョォォォ!!!」


「・・・・・。」


なぜかベッドの上にクラッピーがいた。


クラッピーとクロードはダーク・ホームに保護され、
リオナとマーシャの部屋で共に生活しているが、2人で1つの個室を与えたはず。


なのになぜクラッピーだけここにいるのか・・・


リオナは冷たい眼差しを向けながら
布団を完全にクラッピーから剥がした。


「んがぁぁ!!ヒドイッチョ!!!なにするッチョ!!」


「それはこっちのセリフだ・・。なんでここにいんだよ。」


クラッピーは体をガタガタ震わせながら
枕を抱き締めた。


「だって、寒かったッチョ。」


「はぁ?」


「だーかーら、寒かったッチョ!」


寒かったら俺のところに来るのか?
理解できない。


リオナは呆れて何も言う気にもなれず
もう一度布団に入った。


すると再び背中が重くなり、
リオナは顔を後ろに回した。


「こーすると暖かいッチョ〜♪」


クラッピーがリオナの背中に抱きついていて。


「離れろ。」


「イヤッチョ。」


「クロードがいるだろ?そっちに抱きつけ。」


「そ・・・そんなことできないッチョ!!クロノスは高貴なお方だッチョ・・・。」


一瞬クラッピーの表情が曇るが気にしない。


「知らないし。だからって俺のとこ来るなよ・・・」


「だって、マーシャは絶対蹴り飛ばすッチョ。」


「それは・・・」


確かに・・否定はできない。


なんだかこういう時だけ頼られる自分が嫌になる。


リオナはため息をこぼし
頭を戻した。


「・・もーいいよ。勝手にしろ。」


「さすがリオナッチョ♪大好きだッチョ♪」


そう言ってさらにきつく抱きついてくる。


まったく・・・
コイツはトラブルメーカーというかなんというか。


まぁ拾ってきたのは紛れもない俺なんだが・・


「チョッチョッチョ〜♪チョチョチョッチョ〜♪」


「うるさい。黙って寝ろ。」


「えー!ボクちん寝る前に歌わないと寝れないッチョ。」


「あーもー・・・」


リオナは耳を押さえたまま
ギュッと目を閉じた。






しばらくして
今度は誰かの悲鳴で目を覚ました。


目を開けると
背中に引っ付いていたはずのクラッピーがなぜか真っ正面から抱きついている。


グッスリ眠っていて中々離れてくれない。


というか
今の悲鳴はなんだ?


クラッピーは寝てるしB.B.はこんな声出さないし・・・


リオナは今日二回目の嫌な予感に顔を青くした。


ゆっくりゆっくりと顔を上げる。


「・・・やぁ、シュナ」


いつからいたのか
ベッド脇には腰を抜かしたシュナがいた。


明らかに軽蔑の眼差しを感じる。


「リオナ・・・何してるの」


「あ、いや・・・これは・・・コイツが勝手に俺のベッドに・・・」


シュナがゆらゆらと立ち上がり
リオナとクラッピーを無理やり引き剥がす。


そして大きく息を吸った。


「リオナのバカァァァァァ!!!!」


「な・・!?」


叫ぶだけ叫んで
シュナは部屋を飛び出していってしまった。


リオナは茫然として
口が開きっぱなしだ。


「何事だッチョ?」


隣ではさっきの激動でクラッピーがようやく目を覚ましたようだ。


「・・なにが"何事だッチョ?"だよ。お前のせいで変な誤解受けただろ。」


「変な誤解?どんな誤解ッチョ?」


「そ、それは・・・・自分で考えろ!!!」


リオナはベッドから起き上がり
シュナを追うように部屋を出た。


気のせいか
なんだかリビングの方からシュナの声が聞こえて
急いでリビングをのぞく。


「お、リオナ早いな。」


まず目に入ったのは
だらしなくトレーナーを着てソファーに座っているマーシャ。


次に見えたのは
テーブルでコーヒーを飲んでいるシキ。


そしてその横に不機嫌そうに座っているシュナだった。


リオナはシュナの前に座り
下から覗き込む。


「・・あれは誤解だからな!アイツが勝手に俺のベッドに潜り込んできたんだ!けしてやましいことは・・・」


ひたすら弁解するリオナに
シュナは頬を膨らました。


「別に俺はリオナを疑ってないもん!!」


「・・・は?え、じゃあなんで怒ってるんだよ。」


理由がいまいちわからない。


するとシュナはまるで女のようにもじもじしだした。


「だってさ、リオナさ、俺が一緒に寝ようとすると、怒るじゃん。なのにクラッピーとはさ、寝れるんだって。」


「・・・・。」


まさかこの年になってまでそんなことを言われるとは・・・


リオナは頭を抱えてガクッとした。


「・・・あ、あのな。俺たちもう19だぞ?クラッピーはまだ15歳のガキだ。・・・それに一応アイツにも怒ったよ。でもあのワガママピエロが言うこと聞くと思うか?」


早口でまくし立てるように言う。


するとシュナは眉を寄せ
小さく首を横に振った。


「聞かないと思う・・・。」


「・・だろ?だからあれは事故。それでこの話はもう終わり。」


リオナは面倒くさくなり
無理やり話を打ち切った。


「・・・ところでさ、なんで2人いるの?」


リオナはシキとシュナをさす。


この使用人2人の仕事は
マスターの指示に従い、
俺たちエージェントに仕事を与えること。


大体は伝書コウモリがその仕事内容を知らせてくるのだが
こうやって直接くると言うことは
絶対雑用。


シキはコーヒーカップをテーブルに置いた。


しかし、その表情はなぜか暗くて。


「もうマーシャには言ったんだが、12月25日のクリスマスにマスターがね、"雪合戦大会"を開催するって言うんだ。」


「・・・え?」


予想外の言葉に耳を疑う。


「・・・雪合戦大会って、なに?」


するとシュナもシキのように参ったと言わんばかりのため息をはいた。


最近本当にシキに似てきている。


「雪合戦大会、その名の通りだよリオナ。やだなぁ・・」


シュナはこういった運動系が苦手だ。


シュナの顔色が次第に悪くなっていくのがはっきりわかる。


だが逆に
リオナの顔は明るくなっていって。


「・・へぇ。おもしろそうじゃん。」


その言葉に
ソファーにいたマーシャが読んでいた新聞を投げ捨て
勢いよくリオナに近づいてきた。


「だよなぁ?楽しそうじゃんね。それに優勝チームには豪華景品だぜ?なのにこの2人ときたらはなっから嫌な顔しやがってよぉ。これだからもやしっ子はいけねぇよ。」


おそらく悪気があって言ったわけではないのだろうが、
シキとシュナが鋭く睨みをきかせる。


「もやしっ子とは失礼な・・。俺だってやれるものならやりたいさ。」


「あれ?シキにしては珍しいじゃん。でもなんかあんの?」


するとシキはスーツの内ポケットから一枚の紙を取り出した。


そこには一枚の顔写真が貼られ、
その写真の者の名前やら経歴やらが書かれているようだ。


リオナはジッとその写真を見る。

見た目は20代後半の男性。
切れ長の目にキチッと七三に分けられた黒髪。
極め付けがふちなし眼鏡だ。


シキの百倍真面目そうなイメージを抱く。


「・・・この人誰?」


「この方は世界政府国家公安委員会会長、モリン=クィーガ様だ。明日から、ダーク・ホーム監視役にはいるんだ・・。」


「・・世界政府?なんでまた・・・」


「最近のダーク・ホームの荒れように世界政府から警告がだされた。警告がでるとはつまり・・・"壊滅の恐れあり"ということだ。そこでモリン=クィーガ様が派遣されることになったんだが・・・彼は見ての通り・・・」


すかさずマーシャが口を挟む。


「頭かたそー。」


「その通り・・。話がなかなか通用しない。ましてや普通の人間だ。悪魔に関して多少知識があっても理解がないと言っていい。そんな彼が警告をだされたばかりのダーク・ホームに雪合戦大会なんて許すと思うか・・?」


リオナとマーシャは同時に首を横に振る。


許すどころか
怒り狂いだしそうだ。


「・・それでもビットウィックスは雪合戦大会をやるって言ってるのか?」


「ああ・・。エージェント達の団結力を高めるのに絶好の機会だって。何度モリンの話を出しても、"たかが人間ごとき、一匹くらいキミがなんとかできるでしょう?"って笑顔で返されるんだ・・・。」


シキは頭を抱えて机に突っ伏した。


こんなにシキを悩ませるとは
"悪魔のプリンス"ビットウィックスもかなりの強者だ。


「でもよぉ、そのモリンって奴にばれなきゃいいんじゃねーの?当日まで隠しときゃいいじゃねぇか。」


マーシャはサラッと言う。


だがそれができたら苦労しない。


誰もが心で思う。


「・・・雪合戦やるんだったら雪を前もって集めとかないといけないもんな。ばれないようにやるのは難しいよ。」


「そうか?案外簡単だと思うな。押し通しちゃえばいいんだ。」


「・・どうやって?」


マーシャの口元がいやらしく釣り上がる。


「まぁ〜俺に任せとけって。」


嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか。













「・・・で、なんでこうなるんだよ。」


リオナは黒の屋敷の前でため息をつく。


マーシャの作戦とは
明日までに雪を集めてしまうというもの。


確かに雪は積もっているが
量が足りないだろう。


しかも雪かきに集まった人数はわずか8人。


リオナ、マーシャ、B.B.、クラッピー、クロード、ラード、ユリス、そしてなぜかナツ=キャロルだ。


かつての敵だったナツを
マーシャが無理やり連れてきたのだ。


少しばかり気まずい空気が流れる。


「ほーら野郎ども手ぇ動かせ。豪華景品がかかってんだぜ。」


マーシャは完全に豪華景品に目が眩んでいる。


じゃなきゃこんなに張り切るような男じゃない。


「よーし!!!!マーシャにつづけぇ!!!」
「おー!!!」
「いくッチョ〜!!!」
《どんどん行くのだぁぁ!!》


ラードが声を上げると
クロードやクラッピーやB.B.が楽しそうに走りだした。


「お子ちゃまたちはいいわよねぇ。私早く部屋に戻りたい。」


リオナの横でユリスが不満をぶちまける。


「・・俺も。1日じゃ無謀だろ。大体マーシャはいつも何か貰えるとなるとすぐコレだからな。」


「あーゆー単純男って大嫌い。リッチャン手分けしましょ。」


「それいいね・・。」


リオナはスコップを持ち上げ
ユリスと一緒に雪を積み上げていく。


頭に浮かぶのはフカフカの暖かい布団。


早く夜にならないだろうか。


「ねーリッチャン。」


そんなことを考えていると
何だかんだ言いながら必死に雪かきをしているユリスが声をかけてきた。


「なに?」


「ちょっと話し掛けてみれば?」


「・・え?誰に?」


ユリスはニコニコ顔で右の方に目線を送る。


リオナも顔を向けると
少し離れたところにナツ=キャロルがいた。


不貞腐れた表情で1人で雪掻きをしている。


「・・・俺ぇ?」


リオナは明らかに嫌そうに呟く。


それもそのはず。


少し前まで彼ら3兄弟に命を狙われていたのだから。


「・・絶対やだ。ユリスが行けよ。あーゆーのがタイプだろ?」


「まぁね♪でも私がいきなり話し掛けてもただのうるさいオバサン扱いされるだけよ。だから年齢が近いリッチャンがまずはお友達になってくれないかしら。」


勝手すぎる・・。


「・・・とにかく俺は嫌だから。それにユリスにはラードがいるからいいじゃん。」


「な!!!リッチャンまでそんなこと言うの!?私はラードのことなんて好きでもなんでもないからね?!!」


ユリスは焦ったように手をブンブン振り回す。


ますます怪しい。


リオナは口元をニヤつかせる。


するとその時
遠くからマーシャの声が聞こえてきた。


「おーナツ。しっかりやってるかぁ?」


リオナは顔をあげ
マーシャの姿をとらえる。


マーシャはナツに近づき
肩に手を回した。


[うるせぇ・・。気が散るからあっち行けよ。]


ナツはマーシャの手を払い除けるが
再び捕らえられてしまう。


「そんなこと言うなってぇ。何だかんだ言いながら来てくれちゃったもんね、ナッツン。」


[ナッツン言うなッ!!!]


マーシャに牙をむくナツだが
顔は真っ赤だ。


そんな光景をリオナは不思議そうに見る。


「・・なんでマーシャの奴あんなに仲良くなってんだ?」


「あら、リッチャンヤキモチ?」


「・・違うし。」


前から思っていたが
皆は俺とマーシャをどういう目で見ているんだ・・・


リオナは深いため息を吐く。


そんなリオナにユリスは苦笑を浮かべ
リオナの肩に手をおいた。


「ごめんごめん。からかうつもり無かったのよ。あのね、この前の戦いの時にマーシャとあの子が戦ってたのね。それでマーシャがうまく丸め込んだのよ。」


「・・え?どうやって?」


「私もよく知らないんだけど、気が付いたらナツの方がマーシャに抱きついてたわよ?」


「だ・・・抱き!!!はぁ!?」


リオナは思わずナツを見る。


するとナツとばっちり目が合ってしまって。


真っ白い雪のような髪に燃え盛る炎のような真っ赤な瞳。


綺麗で思わず見入ってしまう。


しばらく沈黙が続いた。


気まずい空気が流れる。


だがそれもすぐに打ち消された。


ナツが思い切りリオナを睨んで
顔をそらしたのだ。


「・・・・な」


どうして俺が睨まれた!?


リオナは口をパクパクさせながらユリスに訴える。


「まぁキャロル3兄弟がリッチャンたちを追ってたから仕方ないわよ。特にリッチャンなんて暗殺リストの一番上にいたんだから。」


そうだったのか・・?


予想はしていた事だが
実際に聞くと寒気がする。


まぁ終わったことなのだが。


とりあえずわかったことは
俺はナツに嫌われている。


それだけ。


「・・やだなぁ」


「関わらなきゃいいじゃない。触らぬ神に祟りなしってね。ほら落ち込まない♪」


はじめは無理矢理仲良くさせようとしたくせに・・


そんなことを思いながら
再び雪かきをはじめる。


だいぶ長い時間雪かきをしているが
なかなか集まるものではなく。


クロードとクラッピーはずいぶん前から飽きて遊んでしまっている。


「リオナー」


すると誰かに呼ばれた気がして
後ろを振り返る。


けれど後ろには誰の姿もない。


「上だよ上、リオナ」


「?」


リオナは首を回し
黒の屋敷を見上げる。


すると二階の窓からシキが顔を出していた。


「・・なんだシキか。」


「なんだとはなんだ。失礼だな・・・。というか、ホントに雪かきなんてしてたのか?」


シキは呆れたような眼差しを向けてくる。


「ところで、リオナ。マスターが呼んでる。急いでいけ。」


「・・ビットウィックスが?まさか任務?」


リオナは嬉しそうな表情を惜しみなくさらけだす。


なぜなら
ダーク・ホームに戻ってから一度も任務を与えられなかったからだ。


「・・やった!マーシャ!」


はやくマーシャにも伝えようと振り返ると
すでに横には目を輝かせたマーシャがいた。


「なになに?やっと任務?よっしゃぁこれでニート人生からおさらばだぁ〜」


マーシャは雪かきのスコップを投げ出す。


彼にとって
豪華景品よりも任務の方が価値が高いのだろう。


なんてヤツだ。


「なぁシキ。今回はどんな任務だ?」


嬉々とした様子のマーシャとは逆に
シキはなぜか眉をひそめ、厳しい表情を浮かべていた。


「マーシャ・・・お前は留守番だ。」


だがシキから発っせられた言葉に
マーシャはもちろんリオナも驚き目を丸くした。


だって今まで任務にはマーシャが必ずいたから。


マーシャが喜びから一転、
一気に不機嫌になったのは明らか。


「どういうことだよ。任務は最低2人以上で行くのが決まりだろ?リオナが行くなら俺も行く。他は認めねぇ。」


まるでリオナと一心同体とでも言いたげに
マーシャはリオナに引っ付く。


そんな子供じみたマーシャに呆れたのか
シキもなぜか機嫌が悪そうに声を少しばかり張り上げた。


「お前はまだ体調が悪いだろう!普段からバタバタ倒れる奴に任務など無理に決まってる!お前は明日から検査入院だからな!」


シキの発言に
リオナの頭からクエスチョンマークが浮かび上がった。


普段からバタバタ倒れる奴っていうのは・・・


マーシャのことか?


話の流れからすればそうなる。


だがマーシャが倒れるところなんて全然見ない。


きっと何かの間違いだ。


リオナはそう決め込む。


しかし事態は思った以上に深刻そうだ。


いつもだったらすぐに反発をするマーシャが、何か言いたくても何も言えずに口をあんぐり開けてしまっているのだ。


こんなマーシャは初めて見た。


「・・マーシャ?」


心配そうな表情を向けるリオナに
マーシャはまたビックリしたように体を跳ねさせる。


「あ、いや大丈夫だからリオナ!ちょーっとお前が入院してる時に、ね。体調悪くてさ。あいつら大袈裟なんだよ。別に大したことないのによぉ。」


「・・・大したことじゃないって、本当に大丈夫なのかよ?」


「大丈夫ダイジョーブ!まぁ今回は大人しく検査受けるよ。あははー」


そう言ってマーシャは笑いながら雪かきに戻って行った。


あの無駄な笑顔・・・嘘くさい。


俺の知らないところで体調が悪くなったりしていたのだろうか。


じゃなきゃシキだってこんな無理矢理な形でマーシャを入院させたりしない。


今はただ結果を待つしかないのだが。


「というわけだリオナ。お前には今回違う者と行ってもらうことになる。いいな?」


「・・うん。わかった。」


トーンが下がり気味のリオナを見て
シキは小さく笑った。


「そんなに気負うな。きっとマーシャなら大丈夫だから。」


なんだかシキに言われると安心してしまう。


説得力があるというかなんというか。


リオナは小さく頷く。


「じゃあリオナ、今すぐマスタールームに行ってくれ。マスターから今回の任務の話がある。あと・・・・」


するとシキは窓から少し身を乗り出して
大きく息を吸い、声を発した。


「ナツ!!お前もリオナと一緒にマスタールームに行け!」


「・・は!?」


その言葉にリオナはバッと顔を上げてシキを見た。


まさか今回の任務のペアって・・・・


嫌な汗が背を流れていく。


「じゃあ、そういう事だから。後はよろしく。」


それだけ言ってシキは姿を消した。


何がそういう事だからだッ・・・!!!


なんでよりにもよってアイツなんだよ・・!!


リオナは恐る恐るゆっくり振り返る。


だがナツの姿はなく、
すでにマスタールームに向かったようだ。


ホッとしたというか何というか、複雑な気持ちになる。


「シキは"一緒に"って言ってたじゃんか・・・。そんなに俺が嫌かよ。・・・B.B.行くぞ!!!」


半ば八つ当りのようにB.B.を呼ぶ。


《えー!?どこに?》


「・・マスタールームだよ。任務だと。」


《やぁったぁぁ!任務なのだ〜!!》


B.B.がリオナの頭にしがみつくと
リオナはドスドスと足をならしながらマスタールームに向かった。








《ねぇ、何怒ってるのさ。顔怖いよ。》


マスタールームに向かう途中
B.B.が沈黙を破って口を開いた。


「・・別に怒ってない。嫌なだけ。」


《何でイヤなんだよぉ!!久々の任務じゃんッ!》


「・・・マーシャの代わりにナツ=キャロルと一緒なんだって。最悪だよ・・・」


《えー!マーシャこないの!?ナツ=キャロルってさっきのヤツでしょー!?ヤダヤダヤダ!!》


「・・アイツ絶対単独行動するタイプだよ。協調性ゼロって感じ。」


《なんか"俺1人で十分だぜ"的なことになりそー!!》


「・・確かに。」


2人は色々妄想を繰り広げながら
マスタールームに辿り着いた。


軽くノックをすると扉が開き
シュナが顔を出してきた。


使用人見習いになってから
1日をほとんど忙しくマスタールームで過ごしているようだ。


「リオナ!待ってたよ!入って入って!」


なぜか嬉しそうなシュナに手を引かれながらマスタールームに足を踏み入れる。


やはりナツは先に来ていたようで
ちゃっかりソファーに座っていた。


しかも偉そうに。


リオナは一切目を合わせないようにして前を過ぎ
デスクで仕事をしていたビットウィックスの前に立った。


「・・遅れた。ごめん。」


ビットウィックスは顔を上げ
リオナを見るなり柔らかい笑みを向けた。


「ああ、悪かったね急に呼び出して。シキから話は?」


「・・任務があるってことだけ。」


「そうか。じゃあ今から詳しく説明するから・・・ナツ、キミもこっちへ来てくれるかい?」


そう言うとナツはゆっくり立ち上がり
リオナの横まできた。


するとチラッとリオナを見て
すぐに顔を前に向けた。


リオナは全く顔を動かさず
眉間にしわを寄せながら早く終われと心で祈る。


「さて、今回は2人にここに向かってもらう。」


ビットウィックスは広げた地図に指差した。


そこはノースアイランドの最北。


しかしそこに国は無く、何もないただの平野だ。


[どーゆーことだよ。]


真っ先に反応したのはナツだった。


[ここになにかあるのか。]


「そうだよ。ここには小さい村があるんだ。その村にフリットさんというご高齢の方が住まわれていてね、その人からある物を頂いてきて欲しいんだ。」


一瞬にしてナツの顔が不満でいっぱいになる。


[ただのお使いならコイツ1人にやらせろよ。]


ナツが隣のリオナを指差す。


ここで怒ってはいけない。


こんなヤツ相手にしたって仕方がない。


そう言い聞かせて
リオナは目をつむって聞かないふりをする。


「そう言わないでくれ。これはただのお使いじゃないんだよ・・・。今回の任務はね、実は世界政府からの依頼なんだ。世界政府がわざわざ私たちに依頼するってことは・・・どういうことかわかるかい?」


「・・・力ずくでも、奪えってことか。」


「その通りだリオナ。その所有者のフリットさんが中々の強者でね・・話しても通じる相手じゃないらしい。だからキミたち2人にお願いしたいんだ。傷つけろとは言いたくない。軽く・・脅す程度で・・・ね。」


ビットウィックスは困ったように笑う。


この笑顔に騙される女が何人いることだろうとふと思ってしまう。


なんだかつまらなさそうな任務だが
頼まれたなら仕方がない。


「・・わかった。俺行くよ。それで・・ターゲットは?」


「助かるよ。今回取ってきてもらうのは、"本"だ。」


味気ない任務だと思っていたが、これは本格的に"ただのお使い"になりそうだ。


「・・・本って、ただの本?」


「見た目はね。問題は中身だ。どうやらフリットさんは森羅大帝国の役人でね、森羅大帝国が所持していたローズ・ソウルを私たちダーク・ホームやフェイターから隠すためにこんな小さな村に隠居しているらしい。だがそのローズ・ソウルは今フリットさんの手元にはない。またどこかに隠したみたいだ。注意深いね・・・。でもそのローズ・ソウルの在処が、政府が欲しがっているその"本"に書かれているらしいんだ。」


「・・へぇ。世界政府も大分焦ってるんだ。」


「それはそうだよ。フェイターにこれ以上ローズ・ソウルを奪われる訳にはいかないからね。とにかく、その本を取ってきて欲しい。題名は"名もない物語"だ。」


「名もない物語・・・」


なんだか気になる題名だ。


なぜそんなタイトルにしたのだろうか。


「出発は明日の朝。質問はあるかい?」


「・・大丈夫。なんとかやってみるよ。」


「助かるよ。健闘を祈ってる。」


リオナは頷き部屋を出ようと後ろを振り向く。


だが何かを思い出したかのように
ナツをもう一度だけ振り返った。


ナツは"なんだよ"という目で睨んでくる。


しかし逆にリオナは満面の笑みで返した。


「・・"ただのお使い"もできないなら、アンタこなくていいよ。時間とらせて悪かったな。」


嫌味たっぷりで言ってやる。


[なッ・・・!!]


ナツは顔を真っ赤にさせて怒りをあらわにする。


だが言い返せないのか口をわなわな震わせていた。


笑顔のままリオナはなんだか清々しい気分でマスタールームをあとにした。


扉を閉め
寄りかかる。


「・・どうだった?B.B.?」


笑いを堪えながらB.B.が顔をのぞかせた。


《最後のひと言サイコー!!!スッキリしちゃった!!》


「・・でもこれでアイツと行かなくて済むよ。よかった。」


《そんなに嫌だったの?》


「まーね・・」


自分を殺そうとしてた人間が
そう簡単に仲良くなんてなるはずない・・


リオナは安心からか、または弱い自分に対して小さなため息を吐き出した。

















夜になり
マーシャは自室のベッドに腰掛けていた。


今日は大分動いた気がする。


体の間接が痛む。


それにまた・・・頭痛が始まった。


マーシャは苦しげに頭を抑える。


「こりゃ・・・年かもしれないな・・ッ・・・」


そんなことを一人で呟く時点で大分重症かもしれない。


どうにか痛みを忘れようと
違うことを考えてみる。


そういえばリオナは帰ってきたのだろうか。


マスタールームに行ってから一度も見かけない。


任務の話とか聞きたいのに。


「・・いーなー、俺も・・ッ・・・行きてぇな・・」


痛みは納まりそうにない。


明日から検査入院か。


いつもなら受ける気など全く起きないが、なぜだか今回は素直に受ける気になれた。


こんなこと思いたくないけど、たぶん、体が限界を迎えてる気がする。


頭痛を我慢すればするほどひどくなっていく。


このままじゃ本当に任務すら出来なくなりそうだ。


とにかく早く治して
またリオナと任務に出たい。


そんなことを考えていると
部屋の扉がゆっくり開いた。


マーシャは頭から手を離し
いつもの表情に戻る。


そこから顔を出したのは
待ちに待ったリオナ。


思わず抱き締めてやりたくなる。


「・・マーシャ起きてる?」


「もち。おいでリオナ。」


手招きすれば
少し遠慮がちに入ってくる。


そんなところがいいんだよ。


リオナはマーシャの横に腰を下ろす。


「今回の任務は?」


「・・お使い。」


「あ?」


思わず聞き返してしまう。


リオナくらいの実力者がなぜお使いに?


やっぱりビットウィックスを殴りにいこうか。


「・・・あるおじいさんから本を貰うというか奪うというか・・。その本に、森羅大帝国のローズ・ソウルの在処が書かれてるんだって。しかもこれ世界政府からの依頼らしいよ。」


足をぶらぶら動かしながらリオナは呟いた。


なんとも微妙な任務だ。


一見簡単そうな任務だが
うまくいけばローズ・ソウルを手に入れる手がかりになる。


大功績を残せるじゃないか。


「やるしかない、うん、リオナ、チャンスだ。」


「・・は?」


リオナはまた始まったと言わんばかりの目を向けてくる。


「ところで場所は?」


「・・ノースアイランドの小さい村。たぶん1週間もあれば行って帰ってこれるとは思うけど・・・」


そう言うと
リオナは急に黙りこくってマーシャを見る。


その目はなんだか悲しげな気がして
マーシャ自身ドキッとする。


「どうしたよ?」


「・・マーシャ、本当に大丈夫なのか?」


嫌な空気になってきた。


マーシャはいつものように笑いかける。


「大丈夫だから。ほら、元気元気。あはは」


「・・・」


リオナはますます表情を曇らせる。


けれど最後には諦めたようにため息をついた。


「・・無理するなよ。」


「しないしない。リオナのためにね。」


そう言うと枕が飛んできて
マーシャはさっとよける。


気が付けばリオナはいつの間にか扉の前にいて自分の部屋に戻る気満々だ。


あーあ。明日から会えないからもうちょい一緒にいたかったのに。


「待てよリオナ。」


「?」


なんとか話をつなげる。


「明日の任務、ナツと一緒なんだろ?」


"ナツ"という名前を出した瞬間
あからさまに嫌な顔をした。


「・・アイツは行かないよ。」


「は?なんでだよ。」


「・・ただのお使いなら俺1人にやらせろよ、ってさ。」


「あー。言いそう。」


あのひねくれ者め。


でもリオナも相当な頑固野郎だ。


まったく・・


「2人はそっくりだな。」


「・・どこが!?」


珍しくリオナは勢いよく振り返ってきた。


「どこがって、性格。」


「・・はぁ?俺は任務にケチつけたりしない!」


「そういう事言ってるんじゃなくて。まぁ、さ。一回話してみろよ。リオナなら絶対気が合うから。」


ニッと笑えばリオナは耳を赤くさせ
睨み付けてきた。


「・・気が合ってたまるかッ!もう寝る!」


そう言って乱暴に扉を開けて出ていってしまった。


なんだか無性に笑いが止まらなくなる。


「あはは。照れ屋なんだから。まぁ、頑張って行ってこいよ。」


俺はいつでも
お前の味方だからさ。












「・・マーシャのバカヤロー!」


マーシャの部屋を出て
扉に寄りかかる。


・・なにがそっくりだ!


あんなやつと一緒にされてたまるか!


気が合うだって?


そうならこんなにいがみ合わないわっ!


リオナは1人頬を膨らませながら部屋に戻った。


部屋に入ると
窓際でB.B.が眠っていた。


今日は疲れたのだろう。
ぐっすり眠っている。


だがこのままでは風邪をひくと思い
B.B.のベッドから布団を持ってきてかけてやる。


リオナもなんだか眠くなってきて
大きなあくびをしながらベッドに向かう。


ベッドに腰を下ろし
布団に足を入れた。
だがその時。


「お帰りッチョ〜♪」


「・・・な!?」


なぜかベッドに潜り込んでいたクラッピーにリオナは真面目に驚く。


「・・なんでお前がいるんだよ!」


「ん?リオナのベッドをあっためてたッチョ♪」


「余計なお世話だ・・!部屋に戻れ!!」


ちょっとイライラしてたから強くあたりすぎたのかもしれない。


ニコニコ顔のクラッピーが一瞬にして固まる。


仕舞には泣きだしそうな顔になって。


「嫌ッチョ!一緒に寝たいッチョ!」


「・・なんなんだよ朝といい夜といい!お前はもう子供じゃないだろ!?」


「うう・・。そ・・そうだけどぉぉ・・・・」


クラッピーの目にみるみる涙がたまっていく。


「泣き落としか・・!?そんなことしたってなぁ・・」


「違うッチョ!!ボクちん・・寂しいッチョ・・・」


リオナは一瞬ドキリとする。


突然どうしたのか。


今の今までそんなこと無かったのに。


「・・なんで寂しいんだよ。クロードがいるだろ。」


リオナはため息混じりにベッドに寝転がり
半泣きのクラッピーの頭を撫でてやる。


思いの外
サラサラした髪だ。


するとクラッピーは鼻をズルズルすすりながら
いじけた子供のように応えた。


「ボクちんね、今日気が付いたッチョ・・・。ボクちんには友達がいないッチョ・・。リオナみたいにシュナみたいな友達がいないッチョ・・・・。クロノスはボクちんの主だし、ウサピョンとマーシャには嫌われてるし・・・リオナは・・・リオナもボクちんを嫌ってるッチョ・・・」


何を気にしているかと思えば・・・


でもなんでいきなりそんなことを思ったのか。


今日の雪かきでか?


これが思春期ってやつか。


そう言えば前にマーシャが言っていた。


"クラッピーは親の愛情ってのを知らねぇんだろうな。B.B.と同じだよ。それにアイツは生まれた時からクロードを守ることしか教えられてないんだろ。だから甘え方とかがイマイチわからないんだろうなきっと。可哀想な奴。"


その言葉が
今初めて胸に深く突き刺さる。


しばらく黙りこくっていたリオナだが
クラッピーはそんなリオナを見て嫌われたと思ったのか、ウワッと涙をあふれさせた。


「やっぱり・・帰るッチョ。」


ますます目を真っ赤にさせ
ベッドから起き上がり枕を抱えて布団から出ようとした。


「ごめんッチョリオナ」
「ちょ・・まてよ。」


とっさにクラッピーの手を取る。


その手は汗ばんでいて
きっと誰かに言いたくて
ずっと悩んでいたのだろう。


気付いてやれなかったのがなんだか悔しい。


「・・大丈夫だから。考えずぎだよ。」


リオナは優しく笑い
クラッピーをベッドに寝かせる


「マーシャがお前にすぐ蹴り入れたり殴ったりするのは愛情の裏返しなんだよ。」


「・・裏返しッチョか?」


「そう。クラッピーの事が好きだからそうするんだ。B.B.がクラッピーに悪態つくのもおんなじ。あいつは照れ屋だから。それに俺だって・・・」


なんだか自分で言うのは恥ずかしいけど
仕方ない・・


「・・お前が嫌いだったら一緒に寝たりしないし。」


「り・・リオナぁぁ!」


クラッピーは目を潤ませ
ギュッとリオナに抱きついた。


リオナは結構小柄な体にもびっくりした。


「ボ・・・ボクちんね、クロノスのお側にいることしかできないからッ・・・あんまり人になにかするとかできないッチョ・・・」


「・・クラッピーはそれでいいんだよ。お前は素直だから羨ましいよ。」


クラッピーはリオナの胸に顔を押しつける。


可愛いところもあるんだなと思ってしまう。


「一緒に寝ても・・・いいッチョか?」


「・・今日だけ。」


「ボクちんのこと、嫌いだッチョか?」


「・・・。・・・じゃあたまに。」


「リオナ大好きだッチョ♪」


それにしても
なぜ自分はコイツに甘いのだろう・・・


リオナは今日何度目か分からないため息を
ゆっくりはきだした。


「チョッチョッチョッ♪チョチョチョッチョ〜♪」


「・・うるせぇ!!寝るときは黙って寝ろ!!」


明日からクロードはいいとして
コイツをおいていって大丈夫だろうか・・・。


マーシャに迷惑でもかけたら・・・


リオナはゾッとしてクラッピーを見る。


「なぁ・・・クラッピー。」


「なんだッチョか?ねむれないッチョか?」


「違う。あのさ・・・明日から俺と任務に行かない?」


どうせ任務は2人以上で行かなければいけないし
ちょうどいい。


今回はそんなに難しい任務ではないし
足手まといにはならないだろう。


「いいッチョか?!いくッチョ!」


「じゃあ早く寝よう・・明日早いからな。」


「おやすみッチョー!!!」


すぐに寝息をたてはじめたクラッピーに
リオナはクスクスと笑う。


まったく・・飽きないな。


なんだか一気に温かくなった気がする。


「・・おやすみ」


リオナはゆっくり目を閉じた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!