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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story92 別れと始まり





11月24日


最高の天候を願っていたが
あいにくの土砂降りの雨。


今日はリオナの退院日だ。
けれどそれ以前に今日は・・・


「はっぴーばーすでーリオナ」


クラッカーを指先で振り回しながら
マーシャはゆるーくリオナにお祝いの言葉を述べる。


そう、今日はリオナが生まれてからの19回目の誕生日。


実際は16歳のままだが。


「・・・そんな気分じゃない。」


しかしリオナは膨れっ面をして
ベッドから起き上がった。


確かに今日はリオナの誕生日だ。


だが
今日はムジカとベンの葬儀がある。


リオナの退院に合わせたのだ。


マーシャは苦笑しながら
クラッカーを病室のゴミ箱に投げ捨てた。


「まぁ、そんな暗い顔しなさんな。」


「だって・・・ムジカの葬儀は晴れた日にやりたかった・・・。」


青空が広がる中
ムジカをあたたかく見送りたかった。


なのにこの大雨。


リオナはさらに不機嫌そうな顔をして再び布団に潜り込んだ。


「あ、こらリオナ。起きろッ。」


「イヤだ。晴れるまで退院しない。」


「まーたそんなこと言って。もう今日やるって決めたんだ。しかも皆はリオナの退院を待っててくれたんだぜ?さすがにも〜待てねぇよ。お前がいなくても勝手に葬儀は進行しちまうんだからな。」


そう言ってマーシャはリオナを無理やり起こす。


リオナも渋々体を起こし
小さくため息をこぼした。


「マーシャ、着替え。」


病室をかたしていたマーシャに
たらーんとした目を向ける。


だが
マーシャは動じることなく
さっさとシーツやらなにやらを片付けていた。


「甘えんな。もう病人じゃないだろ?それともなんだ?俺に着替えさせてほしいのか?だったら喜んで」
「いい。自分でやるよ・・」


リオナは立ち上がり
マーシャが持ってきたカバンの中を漁る。


黒のスーツを取出し
ゆっくり着替えだす。


「あーリオナぁ?」


ベッドをキレイにし終えたマーシャが
思い出したかのように話しだす。


「お前、これからどうするか決めてるか?」


そう言えば、全然考えていなかった。


当たり前のようにダーク・ホームにお世話になっていたが。


「・・マーシャは?マーシャはどうする?」


「俺はぁ〜もちろんリオナについてく。好きなようにしろよ相棒。」


「・・相棒なら一緒に考えてくれよ。俺1人の判断じゃなんとも言えない。」


キュッとネクタイを締めながらマーシャに不満の目を向ける。


・・大体いつもマーシャは俺についてくとか言うけどさ・・・


本心はどうなんだよ・・・


全然わかんない・・。


さらに不満そうな顔をすると
マーシャはやれやれと肩を上げた。


「しゃーない。じゃあ2択にしてやる。」


「どんな。」


「ダーク・ホームに残るか残らないか。どっちかだ。」


「なんだよそれ。2択にした意味ないし・・。」


問題はそこなのだ。


このままダーク・ホームに残り
以前のように働くか。
それとも自由に動き回るか。


「・・・でもさ、俺たちと今のダーク・ホームは目的も目標も一緒なんだよな。」


「そう、残念ながらな。」


だからと言ってやすやすと信用もしたくないが。


でも
クロードとクラッピーはダーク・ホームに保護されることは決まっているのだ。


リオナは悩むように額に手を当てる。


「まぁ今日の夜までに決めりゃいいさ。」


「・・今日の夜!?」


マーシャの突然の期限設定にさすがのリオナも目を丸くする。


「そんな早くに・・決めなきゃダメなのか?」


「ジークが今夜にでもフラワー・カウンティーに帰るんだってさ。だからもしダーク・ホームに残る気がないならジークと出た方がいいんじゃないかって。」


「・・・ジークが!?」


そんな話聞いてない。


「俺その話知らない・・・」


「だって口止めされてたから。」


「・・・。」


リオナは再び頬を膨らまし
ベッドに腰を下ろした。


「そんな顔すんなってぇ。ジークだってわざと隠してたわけじゃないって。お前に負担かけたくなかったんだよ。」


「・・・でもそういうことはちゃんと言ってほしかった。」


「悪かったって。」


リオナは深いため息をつき
窓の外を見つめた。


ジーク・・・行っちゃうのか・・・


「雨・・・やまないかな」


なんだか
胸の真ん中に空いた穴が
また広がった気がした。









「ほらよ。退院許可証だ。」


「ありがとう。」


デヴィスから許可証を受け取り
リオナとマーシャは医務室を出た。


あの戦い以来の久々のダーク・ホームに
リオナは少し緊張する。


辺りは戦いの残骸は1つもなく
きれいさっぱり無くなっていて。


時が過ぎたのを感じずにはいられない。


「リオナ、泣いちゃいそう?」


からかうようにマーシャがニヤリと笑う。


「バカか・・。別に感傷的じゃな・・・」


マーシャを払い除けようとした時だった。


リオナの視界にある光景が飛び込んできて
思わず動きを止めた。


数人のエージェント達が集まり
中心にいる者に向かって声を張り上げている。


『テメェがこの前暴れたせいで重傷なんだぞ!?』
『裏切り者のくせにのこのこ帰って来やがって!!!』
『お前の主を呼んでこいよ!ぁあ!?!?それもできねぇ臆病ウサギが!!!!!!』


リオナの耳に
色々な暴言が聞こえてくる。


そのエージェント達を見れば
ほとんどの者が怪我を負っていた。


恐らく先日の戦いのケガだろう。


なんだか嫌な予感がする。


そんな彼らを見たマーシャは鼻で笑い
バカにしたような目を向けた。


「ココも治安が悪いねぇ。弱いヤツほどよく吠えるったぁまさにこの事だな。」


それだけならまだいい。
まれに見る光景だからだ。


だが
その輪の中心には
見覚えのあるウサギが・・・

というかダーク・ホームにウサギは一匹しかいない。


「・・・あいつら!」


「え?ちょっとリオナ?何しに行くんだよ。葬儀まで時間が・・・って待てよリオナ!?」


リオナは険しい表情でエージェントの輪に突っ込んでいく。


そして2人ほどなぎ倒すと
中心でどやされていたウサギを掴み
輪の外に飛び出した。


ウサギとは、もちろんB.B.のこと。


B.B.は目を丸くしてリオナを凝視している。


《リオナ!?!?》


「・・・何されてんだよ。」


《いや・・オイラは別に・・》


そう言いながらもB.B.の体はボロボロになってしまっている。


怒りがこみあげてくる。


そんなB.B.を抱きかかえ
リオナはエージェント達と向き合った。


少しばかり睨み上げる。


「・・・コイツの主に会いたかったんだろ?俺だけどなにか。」


リオナは無意識にものすごい殺気を放っていた。


そのせいか
エージェント達は怯んだように一歩後退る。


けれど彼らの瞳からも怒りの念があふれ出ていた。


『お前のせいだからなリオナ=ヴァンズマン・・・!!!』


『テメェら裏切り者が・・!!さっさとでてけ!!!』


エージェント達はリオナに暴言をぶつけ
不貞腐れたようにそれぞれに散っていった。


リオナはただ無表情で立ち尽くす。


「・・・・・・」


あー・・・
すっかりわすれてた・・今の自分の立場を。


今まで眠っていたから気付かなかったが
よく考えればここにいるエージェント達のほとんどが俺たちを敵と思い、嫌っている。


恨まれて当然の身だ。


別に気にしてる訳ではない。


でも人から嫌われるのはいい気分がしない。


「仕方ねぇよ、リオナ。」


するとリオナの気持ちを読んだのか
マーシャが後ろからリオナの肩に手をおいた。


「俺たちは俺たちなりに信念を貫き通した。だろ?」


「・・・ああ」


「だったらこれからもそうするだけだ。自分の道を進むだけ。」


そう言われて
少しだけ安心してしまう自分に嫌気がさす。


リオナは手をキュッと握り締めた。


《ギャッ!!!》


するとリオナが手を握り締めた瞬間
リオナの手に抱えられていたB.B.が悲鳴に似た奇声をあげた。


「・・あ、B.B.。悪い。」


軽くB.B.を締め付けてしまったようだ。


リオナはハッとして両手を離すと
B.B.は勢いよくリオナから離れた。


《ぜ・・全然平気だもん!》


だが一切リオナを見ようとはしない。


「・・・B.B.?・・・あ」


そこでようやく大切なことを思い出した。


そう言えば
あの日以来B.B.に会うのは初めてだ。


ずっと"あのこと"を話したくて・・・
B.B.に会いたいと思っていて。


それが今、
目の前にいるじゃないか。


「なぁ・・・B.B.。俺、話したいことが・・・・」


そう言って
気まずそうに顔を上げた瞬間


「・・・あ!ちょ!!!逃げんな!!!」


B.B.は信じられないスピードでその場から離れていく。


リオナも地面を強く蹴って走りだす。


「あ、おいリオナ!B.B.!おまえら葬儀が始まるっての!」


マーシャの声が後ろから追ってくる。


リオナは軽く振り返って
"すぐ行く"
と目で訴えた。


「ったく。さっさとこいよ?じゃなきゃ俺がシキに怒られんだかんな。」


呆れたマーシャのため息もよそに
リオナは全力でB.B.を追い掛ける。


久々の全力疾走はさすがに息があがる。


「・・・待てよ、B.B.!!」


あと一歩のところで逃げられる。


《イヤだもん!!おっかけてくんじゃねー!!!》


そして少し開けた場所に出た瞬間、
B.B.は高く高く飛んでいってしまった。


リオナは眉をよせ
不満そうに声をもらす。


「あ・・!!ずるいぞ・・・!!」


B.B.は2、3階の高さからぶら下がるシャンデリアにしがみついていた。


リオナはムッとして
下からB.B.を睨む。


俺にも翼があれば・・・・


背中を見てみるが
どうやら悪魔になっても翼は与えられなかったようだ。


「だったら・・・」


リオナは一枚トランプを取出し魔力をこめる。


そしてそのままB.B.目がけて飛ばした。


「"落ちろ!"」


《ギャッ!!!!》


デヴィスには禁じられていたが、
これくらいの魔術は許されるだろう。


見事に魔法を食らったB.B.は
喚きながらゆらゆらと下に降ってくる。


《ひどいのだひどいのだぁぁ!!!魔法なんてずるいのだぁぁぁ!!!》


「それはお互い様。」


リオナはB.B.をキャッチすると
今度は逃げないようにギュッと握り締めた。


《はぁぁなぁぁせぇぇぇ!!!!!》
「B.B.聞いて・・」
《い・や・だ!!いやだ!!!!》
「あのな・・俺は別に・・」
《ヤダヤダヤダヤダヤーダ!!!!》


話そうとすれば大声で遮ろうとするB.B.。


しかしさすがのリオナもいい加減にイライラがつのり・・


「俺の話も聞けよッ!!!!」


思わず声を張り上げてしまった。


《・・・!!!》


B.B.は目を丸くし
口を閉じた。


少し目に涙が見える。


少し怒鳴りすぎたかと、
リオナは先ほどとは打って変わって優しい口調で話し掛けた。


「頼むから・・・聞いてB.B.・・・」


《・・・・・・・》


B.B.の耳がゆさゆさと揺れる。


「俺はB.B.と・・・ずっと一緒にいたいと思ってる。俺が死ぬまで、一緒に戦って欲しいと思う。それが俺とお前の契約だ。忘れたのか・・・?」


《わ・・忘れるもんかぁ!!でもリオナは悪魔になっちゃった!!!だから契約だって無いのと同じじゃんか!!自分の左腕見てみろよ!!!!》


B.B.に言われ
リオナは左腕を見る。


そこには何も刻まれていない
ただの"腕"があった。


確かに以前までは悪魔との契約の印が2つ刻まれていた。


1つはB.B.、もう1つはムジカ。


だが自分が悪魔となってしまった今、
契約など無いに等しいのだろう。


《わかった!?もうリオナとオイラは赤の他人なの!!もう一緒に戦えないの!!》


でもさ・・・B.B.・・


「お前の気持ちは・・どうなんだよ・・」


《・・気持ち・・・?》


B.B.はどう思ってるの・・・?


俺はお前がいなきゃダメなんだよ・・


《オイラの・・・気持ち・・・》


いくら喧嘩したって・・・


どんなに迷惑かけられたって・・・


《オイラ・・・オイラ・・》


それ以上にお前が大好きだから・・・


《い・・・いっじょにいだいにぎまっでるのだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!》


B.B.の目から涙があふれ出る。


涙だけじゃない。
気持ちも、想いも。


《オイラ・・・ッリオナがいなぎゃイヤなのだァァァ!!離れだぐないのだぁぁ!!!!!》


しがみつくB.B.の背中を
リオナはゆっくり撫でてやる。


「早く言えよ・・・バカ。」


《だっでぇ・・だっでぇぇ!!!リオナと契約なくなっちゃったんだもん!!!!!》


「契約なんて関係ないだろ?俺とお前の気持ちが一緒なら・・それでいいじゃん。」


《うわぁぁぁぁんぁぁぁぁ!!!》


「泣き方・・・キモいから。」


リオナは苦笑しながらB.B.を頭に乗せる。


「ほら、お前の特等席。」


《違うのだ!"オイラだ・け・の"!!なのだッ!!!》


「・・はいはい。」


でも・・それでいい。
お前だけのでいい。


今までもこれからも、
お前以外に譲る気はない。















PM3:00


葬儀はうるさい雨音の中
しめやかに行われた。


葬儀に参道したのはダーク・ホームのわずか3分の1。


それでも、こうやって来てくれただけでもうれしい。


リオナはぼんやりと前を見る。


前で聖書を読み上げる牧師のような者の声が耳に入ってくる。


正面には多くの白い花が飾られていて
中央にはムジカとベンの写真があった。


ムジカの写真は
UWで住んでいた家の前で撮った時の写真。


とても楽しそうに微笑んでいる。


「ムジカ・・・」


君は、幸せだった?


ちゃんと
この世界を愛せた?


俺は最期の最後まで、君を愛していたよ。


もちろんこれからも・・・




「・・ぅっ・・・・ヒック・・・・・」


隣から
クロードの泣き声が聞こえる。


なぜだか急に体が冷たくなった気がする。


体から何かが抜けていくような。


・・・ムジカ


まだ行かないで・・
なんて俺には言えない。


君の幸せが一番だから。


だけど
俺はまだ君の温もりを探してる。


どこに行けば・・・


君に・・・




「・・・ナ・・・リオ・・・・リオナ?」
《リオナ!!》


「・・・!!」


どうやら名前を呼ばれていたらしい。


ビックリして顔を上げれば
心配そうなマーシャとB.B.の顔があった。


辺りを見渡せば葬儀場にはもう誰もいない。


いつの間にか葬儀は終わっていたようだ。


「大丈夫か、リオナ?」


「大丈夫。ちょっとボーッとしてたみたい。」


リオナはゆっくりと立ち上がる。


「みんなは・・?」


《皆はお墓に行ってるよ。早く行こー》


リオナはB.B.に引っ張られながら
墓がある裏庭に向かう。


行きたくない・・・


だって行けば
これで本当に最後な気がするから・・・


リオナはただただゆっくりと歩く。


外に出ると
まだ雨が降り続いていた。


やっぱり雨は嫌いだ。


「・・・泣いてるのか・・ムジカ?」


小さくつぶやけば
雨がまた強くなった気がして。


マーシャのさした傘に
俯きながら入った。


墓に到着すると
多くの美しい花を残し
皆いなくなっていた。


3人で墓の前にたたずむ。


「懐かしいなぁ。」


沈黙を破るように
マーシャが口を開く。


「ここ掃除してる時にさ、ムジカが来たんだよな。しかも今日と同じ日。」


「ああ・・・そうだったな」


「でも、これって運命だったよなぁ。」


「・・・・?」


マーシャは雨も気にせず
墓の前であぐらをかいて座った。


まるでムジカに話し掛けるように
墓に笑顔を向けた。


「リオナと会ったから、ムジカの世界が変わったんだ。俺でもなくシキでもシュナでもない、リオナに出会ったから、ムジカは笑っていられた。」


「そんなことない・・・。現に俺さえしっかりしてればこんなことには・・・」


ムジカは死なずにすんだ。


あのアシュールとかいうフェイターをきちんと捕まえていれば・・・ムジカは・・・


「バカ言ってんじゃねぇよ。」


マーシャは立ち上がり
下にうつむいていたリオナの顔を両手でしっかり上げさせた。


「ムジカだって分かってたさ。この世界が今、戦乱の世だってことくらい。死の覚悟だってあった。だからムジカは最後にお前に言ったんだろうが。」


"笑って"


ムジカの声が頭に響く。


「お前がくよくよしてっとな、ムジカだって安心して天国に行けねぇよ。」


リオナはマーシャの顔を見つめる。


そこにはいつになく優しい笑顔があって。
すべてを包み込むような温かさがあって。


「リオナ、お前の気持ち、伝えろよ。」


俺の・・気持ちを・・


ムジカに・・・


リオナは傘をそっと地面におき
空を見上げる。


想いが・・・
ため込んできた気持ちが・・・
あふれだす。


雨なんてもう気にしない。


そして
大声で呼び掛けた。


「ムジカ・・・!!!」


視界が曇る。


「君は・・・幸せだった!?」


雨なのか涙なのか


「俺は、最高に、幸せだった・・・!!!!!!」


わからないけど


「遠く離れても・・・俺はムジカを愛してるから!!!」


君にこの想いを


「また会えるって・・・信じてるから!!!だから・・・」


大切な大切な気持ちを


「一緒に・・・笑って・・・ムジカ・・・」


伝えたい。












《あ!!雨やんだのだ!!!》


しばらくすると
あれだけ降っていた雨が嘘のようにやんだ。


空は赤く染まり
星が見え隠れしている。


リオナも空を見上げる。


その表情は
昔のような穏やかな笑み。


「よかった・・。ムジカが、笑ったみたい。」


「よかったなリオナ。これで安心してムジカも天使になれるって。」


「天使?そんなムジカも見たかったな・・」


「あはは。リオナくんも変態だねぇ。」


《マーシャが一番変態じゃん。》


なんだか清々しい気持ち・・


心も体も・・・あったかい。


「なぁ・・・マーシャ」


「なーに?」


「俺・・・・笑えてる?」


ちゃんと、
ムジカといたあの頃のように・・・・


リオナは夕焼け空を見つめたまま呟いた。


「ああ。スゲー可愛く笑ってるぜ?」


そう囁くマーシャに
リオナは軽くパンチを入れた。


しばらくその場で夕空を眺めていると
背後から人の気配がした。


リオナたちはゆっくりと振り返る。


「―――!」


一瞬
驚いた。


ムジカが立っているのかと思って・・・


リオナは口をポカンと開けたままただその人物を見つめていた。


そんなリオナを見て
その人物も察しがついたのか、苦笑を浮かべる。


「よく・・勘違いされるんだ。驚かせたなら謝るよ。申し訳ない。」


もちろんリオナたちの目の前にいるのはムジカではない。


ムジカの兄、ビットウィックスだ。


肩の下まで伸びる白金色の髪、
スッとした顔立ちに妖しく輝く真っ赤な瞳。


遠くから見れば女性と見間違っても仕方がないくらい美男子だ。


だからリオナでさえ見とれてしまう。


そういえば
こんなにまじまじと彼の事を見たのは初めて。


以前までは敵も同然だったから。


「いや・・・アンタが謝ることじゃない。」


リオナは少し目を逸らしながら言う。


するとビットウィックスは安心した表情を見せたが
一瞬にして悲しげな目をした。


「リオナくん・・・君に謝りたいことがある。」


突然何を言いだすのかと
リオナは思わずマーシャを振り返る。


だがマーシャは関心すらなさそうに
わざと顔を背けた。


仕方なく
リオナは訝しげな表情をビットウィックスに向ける。


「・・・なんで?」


何かされたと言えば色々された気もするが
それは今更仕方がないことで。


それに"リオナくん"呼ばわりではたまったもんじゃない。


「とにかく、俺はアンタに謝られるようなことをされた覚えは・・・・」


「ムジカのことだ。」


「・・・え?」


ビットウィックスはリオナに近寄り
リオナの手をつかんだ。


「ムジカが死んだのは・・すべて私の責任だ・・・。ムジカから聞いたよ・・・君は私の妹を誰よりも想っていたと・・・。なのに・・・その大切な命を・・・私が奪ってしまった・・・」


ビットウィックスの声が震える。


今まであれだけ敵対視していたのに・・・


初めて戦った時や
過去のムジカに対する虐待を聞いたとき
同じ人間とは思えないと怒りを覚えた。


だが今は・・
自分と何も変わらない、
まったく同じなんだと感じる。


「・・・それは違うビットウィックス。」


リオナはビットウィックスから手を離す。


「ムジカが死んだのはアンタのせいじゃない。誰のせいでもない。しいて言うならアシュールとかいうフェイターだ。」


あの男の名前を出すだけで吐き気がする。


リオナは気を落ち着かせ
顔を上げる。


「それに、俺こそ謝んなきゃ・・・ごめん、ムジカをつれ回して・・」


「その話はもう終わりにしよう。ムジカはそれで幸せだったんだ。だからそれでいいじゃないか。」


そう言って優しく微笑まれる。


リオナも小さく笑いながら頷いた。


「ところでリオナくん。」


「リオナでいいよ。」


「じゃあ・・リオナ。君にお願いがあるんだ。もちろんマーシャも。」


ビットウィックスがリオナの後ろで大あくびをしているマーシャにも呼び掛ける。


だがマーシャは明らかに嫌そうな顔をしながら彼を見る。


「マーシャ様って呼べよ。」


「・・・・。」


マーシャの中ではまだビットウィックスは仲間としては見れないようだ。


そんな彼にリオナでさえ呆れてため息をこぼした。


「・・それで?お願いっていうのは?」


「ああ、君たちに・・・ダーク・ホームに残ってもらいたいんだ。」


まさかビットウィックスから言われるとは思わず
リオナは驚きで目を見開く。


「強制はしない。ただ、リオナ。君はもう人間じゃない。私同様、悪魔なんだ。B.B.、君もね。」


背中からマーシャの舌打ちが聞こえてくる。


「最近は実力のある悪魔が減ってきている。そんな悪魔と契約しているエージェントも結果的に実力不足だ・・・。だからこれ以上、大切な戦力を失いたくないんだ・・」


どこか申し訳なさそうに話すビットウィックスに
少し同感してしまう。


実際
先日のフェイターが襲来してきた時
ほとんどのエージェントたちたかが数人のフェイターに気負けしていた。


もちろん自分も。


おそらく今ダーク・ホームは
今までにないくらい最弱となっている。


けれどまだ立て直すことは可能だ。


ダーク・ホームには
まだキャロル3兄弟がいる。


長男のハルと妹のアキは悪魔を強化するために天上界に行き、次男のナツがダーク・ホームに残っている。


そしてマスターにビットウィックス、第一使用人にシキがついたのならすぐにダーク・ホームは軌道に乗れるはず。


そこにダーク・ホーム最強と言われたマーシャが入れば・・・・


ダーク・ホームは力を取り戻すどころかより力を増すに違いない。


リオナはゆっくり振り返り
マーシャの顔色をうかがう。


そんなリオナを見て
マーシャは額を押さえながら苦笑をうかべた。


「好きにしろよ、リオナ。残念だけど、俺とお前はきっと考えてることが一緒だ。」


きっとマーシャは
ダーク・ホームに縛られず、ジークと一緒に行きたかったと思う。


それでルナを探しに行きたいんじゃないかと。


リオナが頭であれこれ模索していると
マーシャがリオナの頭を一発、バシッと殴った。


「イッタ・・・!!何すんだよ・・」


「だからさぁ〜、何考えてんだか知らねぇけど、俺はリオナと一緒にいれればそれでいーの。」


「マーシャ・・」


「ダーク・ホームに残りたいんだろ?」


やっぱりわかってたのか・・・


リオナはマーシャを見上げ
小さく頷いた。


「・・うん。」


ダーク・ホームで
シュナやシキやラードやユリスと・・・また一緒に戦いたい。


それに・・・ムジカが好きだったこのダーク・ホームを


守りたい。


「だったらそれでいいじゃん。その方が色々と動きやすいし。」


マーシャは満面の笑みでリオナの頭に手をおく。


「・・ルナ探しとか?」


「う、うるせぇなッ・・それとこれとは別。」


だがすぐにマーシャは顔をそらし
不満そうな顔をした。


そんなマーシャに微笑み
リオナは意を決してビットウィックスに向き直る。


「ということだ・・・ビットウィックス。いや、マスターか。」


リオナの言葉にビットウィックスは嬉しそうに笑う。


「ありがとう。とても安心したよ。リオナとはもっと色々話もしたかったし。」


「話?」


「ああ。ムジカの・・・私の知らないムジカの話を聞かせてほしいんだ。」


少し恥ずかしそうに下を見る。


そんなビットウィックスがなんだか信じられず
リオナも思わず笑みをこぼした。


「いつでも話すよ。」



リオナたちは空を見上げる。


彼女が大好きだった空を。


もうすぐ日が暮れる

けれどまた
朝はくる。













ジークはダーク・ホームの巨大な扉の前にいた。


コートに身を包み
必要最低限の物を詰めたカバンを持っている。


「ハハハ・・・おかしなもんだな。」


ジークは笑いながら扉を見上げる。


リオナたちと共に過ごした一年半。


はじめは敵同士だったのに
今ではこんなところまで付いてくるような仲になってしまった。


たかが一年半で・・・


ジークはクスクス笑いながら扉に近づき手をおく。


マーシャには
"俺が部屋に帰るまで行くなよ?"
と念を押されてはいたが、
悪いが勝手に行かせてもらう。


別れというものは昔から苦手だ・・。


気持ちが砕けそうになるから。


ジークは力強く扉を押す。


「またな・・・良き友たち」


扉がゆっくり開いていく。


だがその時。


「待つッチョ〜!!!!!!」


聞き慣れた声が耳に入ってきた。


ジークは振り返り
声の主を確かめる。


すると遠くから
ピンク頭のクラッピーがかけてきていた。


いつもは派手な服を着ているのに
今日は葬儀だったため
珍しくモノクロだ。


そしてそのクラッピーの後ろからは
クロード、マーシャ、リオナ、B.B.が走ってきている。


ジークは苦笑をうかべ
頭を掻く。


「見送りなどいらないのにな・・・」


そう言いながらも
内心喜んでいる自分がなんだか恥ずかしい。


全員がジークの前で止まると
息をぜぇぜぇ言わせてなぜか怒鳴り付けてきた。


「ジーク・・・!!なんで勝手に行こうとすんだよ!!!」


リオナは胸を押さえながら
寂しそうな目を向けてくる。


それでもその目は真っすぐで・・・

だからイヤだったんだ。


別れが辛くなるから。


「悪かったよ少年・・・。」


すると今度は明らかに不機嫌なマーシャが勢いよく掴み掛かってきた。


「てめぇ俺の言うこと聞けねぇってか。ぇえ?待ってろって言ったよなぁこの野郎。」


「だから悪かったと言ってるだろうが。」


相変わらず勝手な奴だ・・・


まぁ、そんなとこが好きなんだが。


《もういっちゃうのか!?はやいよー!!》


「時は待ってくれないからな」


厄介なウサギだと思ってたが
なかなか良い奴だったな・・


「仕方ないッチョ。ジークはバイバイが嫌いだッチョ。バイバイすると泣いちゃうんだッチョね!!!」


「・・・・・。」


バカなくせに鋭かったり。


その鋭さでクロードを守ってくれるといいが。


というか
思わず物思いにふけてしまった。


ジークは一発自分の頬を叩き
シャキっとし直す。


だがもう1人、いるのを忘れていた。


リオナの後ろに隠れてしまっている、クロードだ。


姿は見えないが
啜り泣く声が聞こえてくる。


リオナも困ったように後ろを振り返るが
どうやら足にしがみついて離れないようで。


ジークはそおっとリオナの後ろにまわり、しゃがんだ。


そしてクロードを後ろから抱き締めた。


「・・うぅッ・・・・・ジィ、ク!!」


「そう言えば、お前が一番長い付き合いになるな・・」


悪魔狩りをしていた頃
クロードを利用して悪魔を狩っていた。


「そんなに泣くな・・またいつか会える。」


「本・・当にッ・・・?」


クロードは真っ赤な目を向けてくる。


そんな顔が可愛らしく
ジークは笑いながらギュッと抱き寄せた。


「ああ。約束する。」


また絶対
会えるから・・・


ジークは立ち上がり
扉の前に立つ。


「じゃあ、私は行く。」


「元気でな、変態。また遊びにこいよ。」
「・・・絶対、来て。待ってるから。」
《次くるときはお菓子持ってきて!!》
「バイバイ・・!!ジーク!!」
「バイバイッチョ♪寂しくなったらボクちんを呼ぶッチョよ!」


やっぱり
別れは嫌いだ・・・


どんなに強がったって、
弱い自分は見え見えだ・・・


ジークは笑い
扉を押し開けた。


「行ってくる。」


そう呟き
闇に身をだした。


冷たい夜風が肌にしみる。


それでも
心はあの温かさのままで。


「さぁて・・・帰ってサラにどやされるか」



わすれない。


君たちと過ごしたわずかな時を。


そして誓おう。


また
この不朽の世界で会えることを。



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