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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story91 最後の名前




光妖大帝国


"光の塔"




数日ぶりに、アシュールが帰還した。


その知らせを受け、カイは急いでアシュールの部屋にむかっていた。


普段なら、こんなに急いでわざわざ会いに行ったりなどしないが、
今回は状況が状況だ。


一緒に行ったはずのビンスとランダー、そしてダーク・ホームに潜入していたヒュウも帰ってこない。


アシュールは被験体と2人きりで帰ってきたという。


一体どういうことか。


嫌な予感が頭をよぎる。


「すべて順調とはいかないものだな・・・・」


カイはため息混じりにつぶやく。


ただでさえ戦力となる人材が少ないのに、
これ以上失ってしまったら・・・


「最終手段に、でるしかないか・・・」


どんな手を使ってでもダーク・ホームをつぶし
神を復活させる。


もし、神の器となるリオナも手に入らなくても、
いざとなればこの自分の体を神に捧げよう。


そこまで考えをめぐらせてしまうほど
今の状況は好ましくない。


どうにかして以前のような活力を取り戻さなくては。


そんなことを考えているうちに
アシュールの部屋にたどり着いた。


いつもならズカズカと部屋に入っていくが
今日はなんとなく、軽くノックをしてみた。


長年の勘、とでもいうか、なんというか。


「アシュール、入るぞ。」


軽く呼び掛けてみる。


だが、返事がない。


「アシュール?いるのだろう?」


一切反応が無いことにさらに不安がつのる。


けれどそんなことを言っている場合ではない。


カイはドアノブに手をかけ
ゆっくりと扉を開いた。


「・・・・!!!!」


扉をあけた瞬間
思わず眉を寄せた。


ソファーは粉々に切り刻まれ、
本はあちこちに散乱し、
窓ガラスはすべて割れている。


しかも、それだけでは飽き足らず、アシュールの世話人のメイドたちも数人、ズタズタに殺されていた。


血やら羽やら紙屑やら。


とにかく"悲惨"の二文字がよく似合う。


そしてこの惨劇の張本人は、
ベッドの上に蹲っていた。


目は開いているのに
暴れ疲れたのか、死んだように動かない。


「まったく・・・」


カイは呆れたようにため息をもらし、
ベッドに近寄った。


「起きろ、アシュール。」


厳しい声で呼び掛ける。


するとアシュールは瞳をゆっくりと動かし
カイと目を合わせた。


そして不気味な笑顔を向けてくる。


「やぁ兄さん。ただいま。」


「ただいまじゃないだろう・・・。何なんだこの汚さは。」


カイはアシュールの頬にこびりついた返り血を手で拭ってやる。


「ごめん。ちょっと、イラついちゃってさ。」


「一体何があったんだ・・・。ランダーたちはどうした?」


「ああー、彼ら?」


するとアシュールは一気に笑顔をくずし、まるで興味のなさそうな表情をする。


「死んだよ。みーんな。」


「なッ・・・・」


カイの嫌な予感が命中した。


思わず口を開けてしまう。


「ランダーはヒュウに裏切られて2人で殺しあって死んじゃったみたいだ。ビンスはねぇ、捕虜になっちゃったみたい。クスクス・・・ホントバカだよねぇ。」


「ビンスはまだ生きているのか・・!?だったら救出に行くべきだろう!」


「足手纏いにしかならないゴミは死んだも同然。」


笑っているのに笑っていない。


むしろ感情が見えない。


昔からアシュールはそうだった。


兄であるカイにさえ感情を見せない。


だからこそ、
怒りがつのる。


「笑い事じゃないだろう!!!たかがダーク・ホームごときに一体何をしているんだ!!!あいつらがこうなったのは総司令であるお前の責任だろう!!!」


こんなに責め立てるのは初めてだ。


こんな失態が今までにはなかったからだ。


「それにシキも殺し損ねたのか!?シュナだって生きていたそうじゃないか!!!お前の力ならそんなことたやすいだろう!!なぜ力を抜いた・・!?」


さすがに言いすぎたのか、
アシュールは鋭い目付きでカイをにらみ上げた。


「兄さんはなにも知らないくせに。」


「何が言いたい・・・・」


アシュールの瞳に怒りの炎が宿る。


今までに見たことのないくらい狂暴な・・・


「リオナとマーシャがダーク・ホームにいたんだ。」


カイは眉を寄せる。


あの2人はダーク・ホームをぬけたはずだ。


なぜ?


絶対ありえないと思っていたのに。


「しかもね、リオナ、悪魔化しちゃったんだ。わかる?人間じゃなくて、低俗な悪魔になっちゃったんだ。」


「どういうことだ。」


「さぁね?俺にもわからないよ。」


アシュールは再び笑みを浮かべる。


「もーさ、俺、リオナにキレちゃったんだよねー。」


その言葉にカイは少し目を見開く。


「まさか・・・殺して、ないだろうな?」


アシュールがキレたら見境なく人を殺していく。


それはリオナでも例外ではない。


「そんなことするわけ無いじゃない。だって世界で一番愛してるのに。」


カイは思わず安堵のため息をもらす。


リオナがいなくてもなんとかなると思ってはいたが、そう易々と適材を失いたくない。


神の器にはやはりリオナが一番最適なのだ。


「だけどね、俺、リオナを連れてきたら泣きじゃくるくらい可愛がってあげようと思ってたけど、もうやめた。痛みが快感に変わるまでめためたに痛め付けることにしたんだ。もちろん、死なない程度に。」


と言って
アシュールはニコリと笑う。


何と言えばよいか分からない。


とにかく、
この先のことを考えなければ。


「アシュール、お前が落ち着いたらでかまわない。だから近いうちに会合を・・」
「今から開こう。」


まさかアシュールからそんな言葉がでるとは思わなかった。


こんなに暴れ回ったのに。


本当に珍しい。


「クスクス・・・やだなぁ兄さん。そんな目で見ないでよ。はやく次のステージに進みたいからね、俺も。」


その言葉でようやく意図が見えた。


どうやらアシュールはなにがなんでもリオナを捕らえたいらしい。


やはり・・・こいつはリオナでしか動かない。


カイは呆れながらも動かないよりはマシと考え
小さく頷いた。


「わかった。その前にお前はシャワーを浴びてこい。そんな血の匂いじゃチャキが騒ぐ。」


「そうさせてもらうよ。あー、そうだ兄さん。」


ほぼ部屋から出かけていたカイは、
軽く振りかえる。


「ダーク・ホームからつれて帰ってきた被験体、今日から正式なフェイターとして働いてもらおうとおもうんだ。さっきから姿が見えないんだけど、会合までに探しといてくれる?服も新しいのを与えてやってほしい。」


「・・初の成功例だからな。どこまで"人"として働けるか試してみるのも悪くない。」


そう返事をし
カイは口元に笑みを浮かべ
部屋から姿を消した。
















「ラ〜ララ〜ララランランランラ〜ララ〜♪」


真っ白い廊下に陽気な歌声が響き渡る。


「ラララ〜ランランラ〜ラララ♪」


楽しげにスキップをする少年、チャキは
今日も片手にスケッチブックを持ち歩いていた。


「今日はぁ〜なにを〜かこっかなぁ〜♪」


昨日はカイの頭を描き
一昨日はカイの鼻を描いた。


カイは不機嫌そうにしていたが、そんなのお構い無し。


でも今日はカイがいないようで、
チャキは仕方なく新しいモデルを探していた。


「どしよっかぁ〜どしよっかぁ〜」


すると
あっ、
と小さく声をあげ
チャキは足を止めた。


「王子がいるじゃーん!!」


嬉しそうに目を輝かせている。


王子とはフェイターの1人であるキッド☆のこと。


キッド☆はナルシストのくせに面倒見がいいせいか、
チャキから一番懐かれていた。


「そうだそうだぁぁ♪王子にしよー!!!」


チャキは勢い良く走りだす。


「ブゥゥゥゥンッ!!!」


両手を広げ
階段を駆け上がっていく。


階段を登りきり
角を曲がった
その時。


ドンッ・・!


「うわぁぁ!」


何かとぶつかり
チャキはどすんと尻餅をついた。


「イタタタタタ・・・」


腰の辺りを擦るが
ちょっとした痛みが走るだけで涙が目に滲む。


今にも泣きだしそうになる。


が、しかし


「あ・・あの・・・だ、大丈夫で・・すか?」


目の前から声が聞こえ
チャキは驚いて顔を上げた。


目の前には
黒いコートを頭からかぶった人がたっていた。


身長と声からして
おそらく17歳前後の青年だろう。


青年は少し動揺しながら腰をかがませ
チャキに手を伸ばす。


「ごめんなさい・・・!!僕の不注意で・・・・痛かったでしょ?」


チャキは大きな瞳をパチパチさせながら
青年の手をとった。


ゆっくり立ち上がりながら
青年の体を上から下までじっくり眺めてみる。


やっぱり
見たことが無い。


チャキは下から青年の顔を覗き込んでみる。


だが青年はさっとフードを深くかぶりなおしてしまった。


「お兄ちゃん、だぁれ?」


チャキは無邪気な笑顔を浮かべながら
首を傾げる。


「見たことないんだよねぇ。ねぇ、お顔みせて?」


「あ、え・・・っと・・・」


青年は困ったように一歩あとずさる。


けれど一歩さがればさがるほど
チャキが一歩前にでる。


もしも
この青年が侵入者なら
始末しなければならない。


そんなことを考えながら
チャキはニコッと笑いかける。


「どうしたの?お兄ちゃん。顔を見られちゃダメなの?」


「あの・・アシュール様が・・・・」


すると
青年の口から聞きなれた名前が飛び出してきた。


「アシュール様が・・・顔を見せてはいけないと・・・・」


「そうなの?なんだアシュールにぃのお友達かぁ〜!ビックリしちゃった!」


チャキは警戒を緩め
青年に本当の笑みで笑いかけた。


「ねぇねぇ!!僕もお兄ちゃんのお友達になりたいなぁ!!あっ!お兄ちゃんそこに座って?」


「・・え・・・」


青年をその場に座らせ
チャキ自身も目の前にペタンと座った。


そしてスケッチブックを開く。


「お兄ちゃんの絵かいてもいい?」


キラキラした目を青年に向ける。


「絵・・・・?」


「そう!僕ねぇ絵かくの好きなんだぁ!あっ、僕もアシュールにぃのお友達だからフードとっても大丈夫だよぉ?」


いい加減なことを言えば
青年はさらに困ったようにキョロキョロしだした。


「で、でも・・アシュール様は・・・」


「大丈夫だってぇ!!ねぇお願ぁい!」


目を潤ませれば誰だってイチコロ。


チャキは精一杯目を潤ませる。


「じゃ・・・じゃあ・・・キミだけ・・」


思惑通り
青年はチャキの罠にはまってしまった。


青年はゆっくりフードをずらしていく。


ゆっくりゆっくり
青年の頭が見えてくる。


「うわぁぁぁ・・」


フードが全て取り払われた青年の姿に
チャキは顔をほころばせた。


真っ白い透き通った肌に銀色の肩まで伸びた髪。


漆黒の瞳は美しく輝いている。


「お兄ちゃんキレーな人だね!!」


「そんなことは・・・・」


チャキは嬉しそうにペンを取り出し
サッサッとスケッチブックにペンを滑らせていく。


「お兄ちゃん、名前は?」


「・・・・・名前、ですか?」


するとまた
青年は困ったように眉を寄せる。


「もしかしてまたアシュールにぃに言っちゃダメぇって言われてるの?」


「い、いや・・・そうじゃなくて・・」


青年は少しもじもじしながら
下にうつむく。


「名前・・・無いんです・・」


「嘘ぉ!!ママとパパにつけてもらわなかったのぉ?」


とはいえ
チャキ自身も両親の顔すら知らない。


むしろ自分を捨てた者なんて知りたくもない。


だからこの名前はアシュールからもらったものであり、ずっと大切にしている。


「両親は・・・いたよ・・。でも・・・・僕は一度死んだ人間だから・・・・・」


どこか苦しげにつぶやく青年に
チャキは首を傾げた。


一度死んだ人間。


その意味がよくわからない。


「でもお兄ちゃん、今生きてるじゃない。」


「あ・・いや・・・えっと・・そうなんだけど・・」


青年はとうとう本気で困りだした。


ちょっと質問しすぎたかもしれない。


そう思い
チャキは黙って絵を描きだす。


だがその時だった。


「探したぞ・・被験体」


低い声にチャキは少し身を震わす。


ゆっくり振り返ってみると
カイが立っていた。


なんだか機嫌が悪そう。


「カイさん!このお兄ちゃんねー・・」
「離れなさい、チャキ。」


鋭い声に
チャキはサッと青年から離れた。


チャキが離れると
カイは青年のフードをつかみ
引きずりながら歩きだした。


「カイさん!?お兄ちゃん苦しそうだよ!?」


「コイツはこんなものでは死なない・・・」


「でも!このお兄ちゃんアシュールにぃのお友達って・・・・!」


その言葉に
カイはピタリと足を止めた。


はじめはチャキを
次に青年を睨む。


「被験体の分際で何を言っている・・・・・チャキ・・・コイツはアシュールの友人なんかじゃない。」


「そ・・・そうなの?」


視線をカイから外し
青年を見る。


青年は気まずそうにチャキから顔をそらした。


「コイツは・・今日から仲間になる男だ。ヒュウが残した被験体だ。」


「被験体・・」


ローズ・スピリットの力で死者を生き返らせ
尚且つ記憶と感情を与える実験に成功したと言われている被験者。


「だからお兄ちゃん・・・」


一度死んだ人間って・・・・


チャキは悲しそうに青年を見つめた。


「そう哀れむなチャキ。こうして生き返る事ができたんだ。」


「うん・・」


カイはため息をもらしながらチャキの頭をなでる。


「とにかく・・これから被験体は着替えろ。服を用意してある。チャキはキッドとエルミナを探してこい。会合を開く。」


それでもカイの青年に対する態度が気にくわなくて。


「キッド☆・・だよ。」


チャキは八つ当りのようにカイにほおを膨らます。


カイも少しカチンときたのか
一瞬眉を寄せる。
しかしそこは大人。
何も言わずに歩きだした。


ホント無愛想だなぁとチャキは思うが
突然、あることを思い出し
あっと声を上げた


「ねぇカイさん!!このお兄ちゃんに名前つけてあげてよ!」


いきなり何を言いだすのかと
カイは本気でため息をついた。


「なぜだ。」


「だって名前がなきゃ呼びづらいでしょ?いつまでも"おい、そこの被験体。"って呼ぶの?」


「それは俺のモノマネか・・?」


俺はそんなに眉を寄せていない。と呟きながら
カイは頭を掻く。


「でもまぁ・・・確かに一理ある。」


「でしょでしょー!つけてあげてよぉ〜」


「そうだな・・・」


カイは睨むように青年を見る。


そして蛇に睨まれたかのように固まっている青年に
小さくつぶやいた。


だが放たれた言葉は思った以上に冷たくて。


「面倒だな。アシュールに頼め。」


「・・・・!!・・は・・はい」


一瞬青年は驚いた表情を見せたが
すぐにその表情を隠すように頭を下げた。


そうしてカイと被験体は姿を消した。


「つまんないのー」


一人残ったチャキは
指をくわえながら首を傾げていた。


「じゃあ僕がつけちゃうよー?」


チャキは満面の笑みを浮かべ
楽しそうにスキップしながら去っていった。


















ずっとずっと


長い夢を見ていた。


それは絶対に覚めることのない
夢という名の永遠。
永遠という名の死。


僕が死んでから
ずっと見ていたのはリオナの夢。


大好きだったリオナのユメを。


寂しかった・・・苦しかった・・・


いつも一緒にいたリオナが傍にいないのは・・・


だから僕は
泣き続けた。


泣いて泣いて・・・
泣けばリオナが来てくれるかもしれない。
あの頃のように
心配そうな顔つきで走って来てくれるかもしれない。


そんな淡い期待を抱きながら。


でもわかってた。


リオナが来てくれないことくらい。


だってここは・・・
入口もなければ出口もない、
死んだ者しかこれない"死の牢獄"なのだから。


諦めはとっくにつけたつもりだったのに・・・
そんな時だった。


今まで誰も来なかった孤独な牢獄に
あの男がやってきたんだ。


・・僕を殺した・・・あの男が・・・・


"やぁウィキ。寂しかったかい?"


あの張りつけたような笑みに
怒りが込み上げる。
だがそれと同時に
恐怖も沸き上がる。


"な・・・何の用・・・"


"クスクス・・・君を迎えに来たんだよ。"


迎えに?


これ以上何をするつもりなんだ・・・。


"何言ってるの・・・・僕は・・・僕はあんたに殺されちゃったんだ!!!!!!"


涙が一気に溢れだす。


コイツさえいなければ・・・
今だって自分はリオナの横で
笑っていられたはずなのに・・・


"クスッ・・・そうだね、ごめんね。"


悪気が無かったかのようにヘラッと笑う。


怒りで体が震えた。


しかしすぐに脱力感が訪れる。


だって

もう何をどうしたって、
リオナには会えない・・・


"リオナには・・・会えないんだ・・・"


"そんなことないよ?"


突然何を言いだすのかと
僕は男を睨んだ。


"今日はね、君をリオナに会わせてあげるために迎えにきたんだ。"


"・・・・!?"


リオナに会える・・?


それだけで胸が高鳴った。


でもこの男は自分を殺した男。


簡単に信用してはいけない。


"ウソだ・・・・。だって僕は死んだんだよ・・・?"


死んだのに、どうやってリオナに会うっていうんだ。


"そうだね。ウィキは死んじゃったんだもんね。でも大丈夫だよ。"


男はニヤッと口元を引きつらせ
僕の耳に口を近付けた。


"俺が君を生き返らせてあげる・・"


生き返る・・・?


一度死んだ・・・この僕が?


"疑ってるね?まぁ仕方ないよね。俺が君を殺した張本人だもんね。"


そうだ・・・信じられる分けない・・・


"だからいいんだ、キミが嫌ならさ。ただ君があんまりにも寂しそうだったから。"


男は小さくため息をつき
背中を向けた。


"この話は忘れていいよ。ちょうど実験してみたかったんだけど・・まぁ他の人で実験してみるからさ。じゃあね。"


信じたく・・・ないのに・・・


"ちょ・・・・ちょっと待って・・・・!!"


気が付けば呼び止めていて・・・


そんなつもりは無かった・・・と言えばうそになる。


でも・・・でももし・・・この男が本当のことを言っているのなら・・・


リオナに会えるかもしれない・・・

また一緒に・・・笑えれかもしれない・・・


"僕・・・リオナに会いたい。"


それに失うものはなにもない。


だったらこの男に・・・


"約束・・・して?リオナに会わせるって・・・"


ついていくのも・・・・悪くない


"クスクス・・・約束するよ、ウィキ"





それから僕は、深い深い闇に落ちていった。


でも・・・時々、リオナと会話している気がした。


真っ白な部屋で・・・


気のせいかな・・・?


リオナが僕をじっと見ている気がするんだ。


でも・・・


"リオナ!"


何度呼び掛けても・・・


"君は・・・誰・・・?"


それしか・・・言わない・・・


もしかして・・・僕のこと、覚えてないのかな・・?


これは気のせいじゃない・・・
リオナ・・・忘れちゃったんだ・・・


また・・悲しみが込み上げてきた。


苦しくって・・・いっそのこと
消えてしまいたいと思うほどに・・・


それでも僕は
必死に呼び掛けた。


リオナの中にいる僕を

再び呼び起こすために・・・。


かれこれ10年かかった・・・


リオナが僕を思い出したのは・・・


それでも十分だった・・・。


リオナ中で、まだ、僕は生きている。


それからリオナは
僕に笑いかけるようになった。


怒ったり笑ったり悲しい顔をしたり・・・。


どれも僕が大好きだったリオナ・・・。


でもね、気が付いちゃったんだ。


そのリオナの表情が
すべて僕に向けられているわけではないことに・・・


リオナの隣にいつもいる・・・男と女とウサギ・・・


"マーシャ・ムジカ・B.B.・・・・"


リオナの隣は僕のものなのに・・・
リオナは僕だけのものなのに。


あんな奴らにリオナをとられたくない。


だから僕は
わざとリオナの傷をえぐった。


心の傷を・・・


"リオナは僕のおもちゃだもんね""違う・・!!俺は・・・・!!"
"おもちゃじゃないリオナなんていらない。"
"イヤ・・・だ!!!ウィ、キ・・・!!"


リオナの頭を・・・僕で一杯にするために。


でも


やっぱりダメだった・・。


リオナにとって
僕は所詮儚い夢。


虚しく散っていく甘くて苦いユメ。


だから・・・
だから絶対に
生き返ってやろうって、
そう思った。


リオナ・・・今度は僕が、会いに行くよ・・・・











「被験体・・・何をほうけている。」


「す・・・すみません・・・!!!!」


会合が始まっており
全員の目が被験体に集まっていた。


アシュールはクスクス笑いながら
被験体の肩をつかむ。


「それにしてもさぁ、ホントリオナにそっくりだよねー。まぁリオナほど可愛くないけど。」


その言葉にカイは明らかに嫌そうな顔をした。


「・・・とにかく、明日から働かせるから覚悟しておけ。」


冷たい言い草に
少しばかり体が震える。


「まぁそう言わないでよ兄さん。彼は俺が責任持って面倒見るからさ。」


ね、と笑いかけてくるアシュールに
いつまでも慣れる気がせず
被験体はごくりと唾を飲んだ。


「あ、そうだ。さっき名前が欲しいって言ってたね。」


「は、はい・・・」


「何がいいかなあ。」


するとチャキとキッド☆が勢い良く手を挙げた。


「はいはーい!!おにぃちゃんがいいと思いまーす!!」
「そんなのより☆"キラキラBOY☆"なんてのはどうでしょう☆」


そう言えば
カイの表情がさらにゆがんだ。


「バカかお前は・・・。」


すると次に静かにエルミナの手が上がった。


「その者が生きていた頃の名前のままでよろしいのでは?」


エルミナの発言にだれもが"お〜"
と感嘆の声をもらした。


「うん。そうだね。それが一番だよ。」


アシュールは満足そうにクスクス笑い、
被験体を見た。


「今日から君の名前は"ウィキ"だよ。」


「・・・ウィキ・・・」


ウィキ・・・・
僕の大切な名前が・・・帰ってきた


すべてがそろった・・・



あとは


リオナ・・・


君を取り戻すだけ・・・






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あきゅろす。
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