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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story90 キミの空



長い



長い



とても幸せな



夢を見ていたのかもしれない。














"――――。―――!"


声が


聞こえてくる。


"――――がね!!それ―――――ったんだよ〜"


なんだか


楽しそうな


弾んだ声。


"俺――――になっ――――!――リオ――一緒―――こう――!!!!"


懐かしい
あたたかい声・・・


俺に・・話し掛けてるのかな・・


"リオナ!早く元気になってね!!!"


ああ、俺はまだ寝ていたのか・・・


"それじゃあね!またくるから!!"


待って、


行かないで


もうちょっとだけ・・・・・




「・・・シュ・・ナ・・・・・」


リオナはゆっくり目を開ける。


眩しい日の光が目に入り
瞬時に目を細めた。


「・・・・・」


ここは・・・病室?


壁全体が白い。


それに体中によくわからないコードが繋がれている。


視界の端には
白いきれいな花が見えた。


きらきらと太陽の光で花が光る。


まだ水の雫が付いているから
きっと誰かが水をあげたばかりなのだろう。


そして顔を横に向ければ
口をあんぐりあけているシュナがいて。


気が付けば
手が勝手にシュナの服を掴んでいた。


「・・・シュナ・・・」


存在を確かめるように
もう一度
ゆっくりと名前を呼ぶ。


「・・・シュナ」


「・・ッ・・!!!」


するとシュナの目にみるみる涙がたまっていき、
挙げ句ボロボロと涙をこぼしはじめた。


「リ・・・リオナぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」


勢い良く抱きつかれ
驚いて思わず目を見開く。


「リオナぁぁぁぁぁぁ!!生きてたぁぁぁぁぁ!!!うぁぁぁぁぁぁん!!!」


シュナの泣き具合に、リオナはしばらく呆然としていた。


まさか起きざまに号泣されるなんて思いもしなかったから。


そして何よりも驚いたのが


「俺・・・・死んでないから」


死んだと思われるくらい長い間眠っていたのか。


そんな自分にも呆れてしまう。


でも


「おはよ・・・。もう泣くなよ・・・」


「うぅ・・・・!!!リオナぁぁぁぁぁぁ・・!!!!」


それでも


また目覚められて


よかった。


ちゃんとそう思えるから。


リオナは小さく笑いながら
シュナの背中に手を回し
ギュッと抱き締めた。


「心配した・・・?」


「し・・したに決まってるだろ!!!!もぉ・・!!!!!バカバカバカバカ!!!!」


「ごめん・・・」


シュナの体が・・あったかい。


ちゃんと・・・生きてる。


リオナは抱き締めていた腕にさらに力を入れる。


どうしてだろう・・・


こうするだけで


安心する・・・


「リ・・リオナ?」


だがシュナ自身は
突然のリオナの行動に戸惑いをみせた。


今までのリオナなら絶対にとらない行動に驚きを隠せない。


「あ・・・ごめん。」


リオナもハッとして腕をはずす。


それから話をそらすかのように口を開いた。


「俺・・・どれくらい寝てた?」


「えーと・・今日で35日目!!」


「さ・・35日・・・」


我ながらよく寝たものだ。


呆れて言葉もでない。


「あっ!!落ち込まないでリオナ!!あれから色々ダーク・ホームも変わったんだ!」


沈むリオナにシュナはいつもみたいに明るく話し掛ける。


それでようやくリオナも顔を上げた。


「へぇ・・・どんな風に?」


「まずね!マスターが・・・えーと・・・」


いきなり言葉を濁すシュナに
リオナは首をかしげる。


しかしすぐに気が付いた。


シュナのいいたいことに。


「マスターがビットウィックス・・・だろ?」


代わりに言葉を発すれば
シュナは真っ青な顔でオモチャのように必死に首を縦に振った。


そんなシュナを見て
リオナは苦笑を浮かべ、優しく言う。


「別に気にしないから。むしろ・・ムジカの兄貴がマスターになってくれてよかったよ。」


シュナは"ムジカ"という言葉がまるで禁句ワードかのような反応をする。


恐らく、リオナが"ムジカの死"を受けとめられていないと思っているのだろう。


「で、でもリオナ・・・ムジカの・・お兄さんだよ?」


「・・だからこそ、だよ。ムジカが死んで、俺が悲しむように・・ビットウィックスだって同じくらい悲しんでると思う。それでもビットウィックスはダーク・ホームのマスターになるって決めたんだろ?ムジカの死をちゃんと受けとめて、ダーク・ホームのことを一番に考えてる・・・それこそ、マスターにふさわしい人材なんじゃないか?それに・・・」


リオナは小さく微笑んで
シュナの目を見つめた。


「ビットウィックスも、このダーク・ホームの皆にも・・・ムジカの分まで生きてほしいんだ。もちろん俺も・・・ちゃんと生きてみせる。」


これが・・ムジカの願いだったから・・・


「リオナ・・・」


少し悲しげな顔をしていたシュナだったが
次第に笑顔が戻っていく。


仕舞にはクスクスと笑いだした。


目には涙を浮かべて。


「なッ・・・笑うなよ。」


「笑ってないよ・・?うれしいんだ・・」


そう言って
シュナはリオナの手を握り
手の甲に涙の雫を落とした。


「嬉しいんだよリオナ・・・リオナがそう思ってくれて・・・すごく、すごくすごく・・・嬉しい・・・」


「・・・そっか」


静かに泣くシュナの頬に手を当てる。


温かい・・・


心が穏やかになっていく・・・


リオナはシュナの涙を拭い
頬を思い切り引っ張った。


「い、痛いよぉ!!」


「うそつけ。で?シュナはどう変わったの?」


「え?俺?」


いきなり話をふられ戸惑いをみせる。


するとだんだんと頬を赤く染め
照れたように目を逸らした。


「えーとね・・・シキさんの下で・・使用人の勉強をすることになったんだ・・」


「へぇ!すごいじゃん。シュナの夢だったもんなぁ・・」


「うん・・!!」


嬉しそうにうなずくシュナの頭を撫でてやる。


「あ!!そうだ!!」


すると突然
シュナは勢い良く立ち上がり病室の扉に向かった。


その表情はどこか楽しげで。


「リオナ!今マーシャさん呼んでくるね!!!」


突然のことにリオナは少し驚く。


「べ・・・別にいいよ・・・」


会いたいけど・・・


わざわざ呼ばなくてもいい。


なんか、恥ずかしいし・・。


「照れないの!リオナ!」


「照れてない・・・!」


「リオナは知らないんだ。マーシャさん、毎日毎日リオナに会いにきてたんだよ?」


「え・・・」


リオナはふと横に置いてあった植木鉢を見る。


「この花・・・」


白く美しい花



マーシャが故郷からもってきてダーク・ホームの庭に植えたっていってた・・・


「マーシャさんが毎日水をやってたんだよ?」


あのマーシャが・・


「・・・・」


胸が


熱くなる。


少しうつむくリオナにシュナは小さく微笑んで
病室を出た。


「今、呼んでくるからね。」















シュナは全力疾走でマーシャの部屋に向かう。


「おーい!廊下は走るなー!」


すれ違いざまにデヴィスに言われ
そこで重要なことを思い出した。


シュナは走りながら声を張り上げる。


「ドクター!リオナが目を覚ましましたぁ!!」


そう言ってまた全力疾走。


「なんだと!!?」


というデヴィスのあわてた声を背に。


「早くマーシャさんに知らせてあげなきゃ!!」


だってずっと待っていたから。


きっと
すごい喜ぶだろうな。


そんなことを思ってニヤニヤしながら走っていると、


「おい!シキJr.!!!」


「うわぁ!!」


突然首元を捕まれ
急に止まったことに喉を締め付けられ
ケホケホとむせる。


チラッと目を上げれば、
相変わらず元気なラードと色っぽいユリスがいた。


「何するんですかラードさん!!!痛いじゃないですか!!」


喉を押さえながらシュナはラードを睨み上げる。


「ぁあ!?てめぇが変態みたいに笑ってっから俺様が止めてやったんだろうが!!」


「へ、変態とは失礼じゃないですか!!言い掛かりはよしてください!」


「んだと!?」


ラードとシュナは気が合わないのかなんなのか、
会えば毎回のように喧嘩になる。


もちろん今回も火花を散らしていたのだが、
今日はいち早くシュナがハッとしてラードから離れた。


「こんなことしてる場合じゃない!!マーシャさんに知らせないと!!」


シュナの慌てっぷりに
いつもは関心を持つことのないユリスが首を傾げた。


「何をそんなに急いでるのよ??」


ユリスがあまりにも自然に聞いてくるものだから


「それはリオナが起き・・・あ!!」


思わず口が滑ってしまった。


今更ながらに口を押さえるがもう遅い。


ユリスとラードの表情がみるみる変わっていく。


その表情はまさに"開いた口が塞がらない"だ。


「なッ・・・リオナが起きたのかァァァァァァァ!!!!!!!????」
「リッチャンが!?!?!?!」


2人は勢い良くシュナに掴み掛かる。


そのせいでまた首を締め付けられる。


「ぐ!!ぐ!!る!!じ!!い!!で!!ず!!」


シュナのうめきを聞いてか聞かずか
ユリスとラードはシュナを投げ捨て泣きながら抱き合った。


「リオナが起きたぞぉぉぉ!!!!!!!!」
「うぁぁリッチャァァァン!!!!!」


いい年をした大人がロビーを跳ね回っているのを誰もが不思議そうに見つめている。


「よしラード!!私たちもリッチャンの病室に突撃よッ!!!」


「おう!!待ってろよリオナぁ!俺様が熱い抱擁をしてやっからな!!!」


そう騒いで
2人は嵐のように去っていった。


「ちょ・・!!待ってくださ・・・!!ってもういないし・・・」


シュナはガクッと肩を落とす。


「マーシャさんに・・・先に会わせてあげたかったのに。」


まぁ・・一番に会ってしまった自分が言うのもあれだけど。


シュナは深いため息をつき
再びマーシャの部屋に向かう。






マーシャの部屋の前に着くと
ノックしようと腕を上げる。


が、しかし


部屋の中がなんだか騒がしい。


「ん・・?何やって・・・」


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


シュナが耳をつけようとした次の瞬間


マーシャの部屋の扉が吹き飛び、何かが勢い良く転がり出てきた。

そしてそれは扉の下敷きになってしまって。


シュナは間一髪で逃れたが
巻き込まれたらと考えたら震えが止まらなかった。


「痛いッチョー!!!!!」


扉の下から出てきたのはリオナが連れてきたというクラッピーだった。


相変わらず派手な格好をしている。


「いつもいつも暴力ばっかッチョー!!!!!暴力はんたーい!!!グヘッ!!!」


すると今度は部屋の中からスリッパが飛んできて
クラッピーの顔面に見事命中した。


一体誰がこんなことしているのかと
シュナは顔を部屋の中に向ける。


まぁ大体予想は付いていたが。


「てめぇは頭悪ぃんだから体にたたき込んでやってるだけだろうが。」


部屋の主、マーシャ=ロゼッティだ。


マーシャは振り上げていた足を下ろし
クラッピーに近寄る。


そして乱暴に引き寄せた。


「いいか、よーく聞いてそのポンコツ脳みそに刻み込めよ?今度、俺の部屋に、勝手に入ったら、たたじゃおかねぇ。てめぇの体切り刻んでやっから。嘘じゃねぇぞ?なぁB.B.?」


後ろでB.B.が必死にうなずいている。


恐らく


昔・・切り刻まれたのだろう。


「わかったか?」


「わ・・・わかったッチョ!!!!」


よし、と言ってマーシャが手を離すと
クラッピーはへなへなとその場に座り込んだ。


あー・・・


何度見ても恐ろしい光景だ・・・。


こんな人たちとリオナは・・・


そう考えるだけで寒気がする。


「あらら?シュナじゃん。いつからいたのさ。」


するとようやくシュナの存在に気が付いたマーシャが
いつものヘラヘラした表情で近寄ってくる。


それがまた怖い。


シュナは無意識に一歩後退り
引きつった笑いをした。


「あ、その・・・えっと・・・今、お取り込み中・・・ですよね?」


「いや?たった今終わった。」


なー?とクラッピーにニヒルな笑みを向ける。


そういうマーシャだが、
実際まだ終わってはいなかった。


「あ!!!また貴様は物を壊したな!!!!」


今度は部屋からジークが現れた。


料理途中だったのか
エプロン姿をしている。


ジークは部屋の扉の惨劇を見て
一発マーシャに拳骨を食らわせた。


「痛!!」


「扉を直すのがどれだけ大変だか貴様わかっているのか!?」


「わーってるよ。でも怒るんならこのバカピエロにしろよ。俺悪くない。」


そういいながら
マーシャは扉を持ち上げる。


ジークも反対側を持ちながら扉を元に戻していく。


「まったく・・!最近の貴様はそうやってすぐ怒る。リオナがいなくて寂しいのはわかるがそれをクラッピーに当たるっていうのはいけないだろ。」


「別に俺はそんなつもりは・・」


ただ呆然と彼らのいざこざを見ていたシュナだが
"リオナ"という言葉でようやく大事な事を思い出した。


「そうだ!マーシャさん!!!」


シュナは勢い良くマーシャに掴み掛かる。


構えていなかったマーシャは訝しげな表情を浮かべながら少しよろけた。


「おわっ。ちょ・・あぶねぇだろ」
「リオナが起きたんですよ!!」


思わず大きな声を出してしまった。


だって早く伝えたかったから。


はじめは訳のわからない顔をしていたマーシャも
次第に目を見開きだした。


「ほ、本当か?」


「はい!!元気に話もできます!!!ラードさんとユリスさんも行ってますよ!!」


なぜかシュナ自身もまた嬉しくなって、
ぴょんぴょんはねる。


きっとマーシャも喜んですっとんで行くだろう。


と思いきや。


「そっか。」


「・・へ?」


その一言だけ。


まるで走る素振りさえ見せない。


「ちょ・・マーシャさん?リオナが起きたんですよ?会いに行かないんですか?」


あんなに毎日会いに行っていたのに・・・


今日だって・・・


だが何度言っても
マーシャは困ったように眉をよせるだけ。


「んー、後で行くからさ。」


それだけ言ってマーシャは部屋に戻ってしまった。


「マーシャさん・・・」


なんだか煮え切らない。


せっかくリオナを喜ばせてあげたかったのに・・。


シュナがガクッと肩を落とすと
床に座っていたクラッピーがバッと立ち上がった。


「マーシャが会いに行かないならボクちんが会いに行くッチョ〜♪はやくリオナに帰ってきてもらわないと味方がいなくて困るッチョ。」


そう言ってクラッピーはスキップしながらリオナのいる病室に向かおうとした。


だが
それをジークが阻んだ。


右腕で羽交い締めにする。


「やめんか。」


「何するッチョ!!!」


クラッピーはジタバタと暴れ回る。


「ちょっとはマーシャの気持ちをくんでやれ。」


「え?だからーボクちんマーシャの代わりに行ってあげようって」


「バカ者。・・本当はマーシャだってすっとんで行きたいだろうに。皆が一斉に病室に行ったらリオナが疲れるだろう?それを気遣ったのに貴様が行ってどうする。」


そうだったのか・・。


そんなことにも気付けなかったなんて・・・


シュナは小さくため息を吐いた。


でも・・


「マーシャさん・・・後で行きますよね?」


「言うまでもない。」


ジークの言葉に安心する。


シュナは微笑しながら
頭を下げた。


「ありがとうございます!!後でジークさんも行ってあげてくださいね!!あと、マーシャさんに伝えてもらってもいいですか?」


「なんだ?」


「リオナを抱きしめてあげてください、と。」


一瞬、ジークの眉がよった。


きっと何を言い出すのかと思っただろう。


けれどそこには変な意味ではなく、
ちゃんとした意味が込められているから。


ジークはそれを読み取ったのか
少し笑って頷いた。


「了解だ。伝えておく。」


そう言うと
クラッピーの襟元をもち
ズルズル引きずりながら部屋に入っていった。


「・・よし!」


一仕事終えたシュナは
思わずガッツポーズをとった。


「リオナ、喜んでくれるといいな!!」


リオナが笑った顔が頭に浮かぶ。


あくまで想像だが。


「あはは!!帰ってシキさんに教えよー!」


鼻歌を歌いながら
軽い足取りで部屋に戻って行った。
















「それでよぉ!!俺様が一発言ってやったわけよ!!」


これで・・何時間何分何秒たった?


「違うわよ!それ私が言ったのよ!」


彼らがここに来てから・・


「ぁあ!?どう考えても俺様が言った言葉だろ!?ユリスが言ったのはその後!!!」


そしていつ・・


「何いってんのよ!!ラードが言ったのは最後の部分だけ!!最初は私が言ったの!!」


この話が終わるのだろうか・・。


「んだとぉ!?なぁどう思うよリオナ!?」


「・・・え。」


突然話をふられ
ほとんど聞いていなかったリオナは目を泳がせる。


この2人がきてからすでに三時間がたった。


はじめは泣きながらひたすら抱き締められ
次第に話はリオナが眠っていた間のダーク・ホームに移った。


そこから延々とラードの武勇伝やユリスが彼氏にふられたという
どうでもいい話を聞かされ、今にいたる。


確かに元気にはなったが
若干辛いものがある。


途中何度もナースコールを押そうかと悩んだ。


けれどせっかく来てくれたのだから
そう簡単には追い出せない。


今はこの話が終わるのをただただ祈るだけ。


「リッチャン?大丈夫?なんだかまだ体調悪そうよ?」


するとようやくユリスが気付いてくれた。まぁ体調は悪くないけど

と、リオナは喜びを感じずにはいられなかった。


「あー・・ちょっと頭が重いみたい。少し寝ようかな。」


これを仮病というのだろうか。


とにかく今はそうするしかない。


「んだと!?そりゃ大変だ!!ユリス!帰っぞ!!」


「本当に大丈夫リッチャン?何か欲しいものある??」


「何でも言えリオナ!!ラード様が今なら何でも買ってやる。」


ありがたい申し出だが
今はとにかく帰って頂きたい。


切実に思いながら
リオナは静かに笑う。


「・・大丈夫。本当にありがとう。」


「そうか?じゃあまた明日来てやっから!そん時はおいしいもんいーっぱい持ってきてやっから!!」


「やった。楽しみにしてる。」


そうして
ラードとユリスは満足げな顔をして病室をでて行った。


「・・・・・はぁ」


ようやく静寂が訪れた。


リオナは体をゆっくりベッドに倒す。


空はすっかり暗くなり、
窓から入ってくる冬の夜風が肌にしみる。


「なんだか・・・な・・」


1人になりたかったはずなのに
実際になってみると淋しくて。


常に人の温もりを感じていたい。
そんなことを思ってしまう自分もまた情けなくて。


リオナは小さくため息を吐いた。


だがその時、
病室の外からラード達の声が聞こえてきた。


微かに聞こえる会話に
リオナは耳をそばだてる。


『よーマーシャ!!お前今来たのか!?』


マーシャ・・!!


リオナは思わず起き上がる。


『ああ。お前らこそまだいたのかよ。リオナが疲れるだろうが。』


『うるさいわねぇ。リッチャンなら今寝てるわよ?残念だったわね。』


『ほらな、お前らの話に付き合ってるから疲れちまったんだ。』


『マーシャに言われたくねぇ!!!ほらほら帰っぞ!!マーシャもな!』


『んー、そうだな。また明日にでも会いにくるか。』


高鳴っていた鼓動が一気に沈んだ。


リオナはしゅんとして
ベッドに潜り込む。


「なんでだよ・・・・。」


もうちょっと粘ってれば・・・


仮病なんて使わなきゃよかった・・


今更ながらに後悔をしてしまう。


けど・・・マーシャが悪いんだ。


もっと早くに来てくれれば良かったのに。


そうすれば・・・会えたのに。


「マーシャのばかやろー・・・・」


布団の中で
ボソッとつぶやく。


しかし次の瞬間


「誰がバカだって?」


リオナしかいないはずの病室から
声がする。


自分ではない。


この声は・・


リオナはバッと起き上がる。


そしてベッド脇の椅子に座る人物に目を見開いた。


「マーシャ・・!!」


そこにいたのは紛れもなくマーシャ。


「おはよーさん。よく寝たなぁ。」


マーシャはニッと笑って
リオナの寝癖を撫でる。


驚きと共に
喜びを隠せないリオナは
頬を少し赤くしてマーシャを指差した。


「な・・・なんで?帰ったんじゃなかったのか?」


「帰ろうと思ったんだけど、リオナくんにおやすみのキスしてないと思って。」


「・・・・・帰れ。」


嘘だよー、と言いながらマーシャはリオナの頭をぐしゃぐしゃっと撫でる。


「本当はリオナが起きたって聞いたから、せめて寝てる姿だけでもって思って。」


「・・そっか、ありがとう。」


やっぱり
マーシャといると
安心する。


素直になれる自分がいる。


しばらく沈黙が続いた。


けれど
すぐにリオナが口を開く。


「マーシャ・・」


「どした?」


「俺・・・寝てる間、ずっと夢見てた・・・」


リオナは目をつむり長い夢を思い出す。


「へぇ。どんな夢?」


「ムジカとの夢・・・」


ムジカと雪をみたあの日の夢


ムジカとケンカしたあの日の夢


ムジカと笑いあったあの日の夢


ムジカと夢をみたあの日の夢


「どれも・・あったかい夢だった・・・」


ムジカが嬉しそうに笑っていて・・


思い出すだけで自然と顔に笑みが浮かぶ。


忘れていた
ささいな出来事


それがどんなに大切な思い出か。


「本当に・・楽しかったなぁ・・・」


でも・・・


「・・・」


リオナは言葉につまる。


「・・・・」


目を開けば視界が曇って見える。


あれ?


どうしたんだろ・・。


「ははっ・・・・なんか変・・・」


もう


吹っ切れたはずなのに


「・・・止まんない・・・」


涙が


止まらない。


「・・ごめ・・・マー、シャ・・・・はは、なん・・・で・・・おれ・・・」


リオナは何度も目を擦る。


必死に


涙を止める。


「・・・やだなぁ・・もー・・」


だがその時


ふわっと何か暖かいものに全身を包まれた気がした。


「・・・・・・・・ッ?」


びっくりして顔を上げると
マーシャの頭が顔のすぐ右にあった。


マーシャはベッドに乗り上げ
真っ正面からリオナを抱き締めていた。


力強く
ギュッと抱き締められる。


「マ、マーシャ・・・」
「いいから。泣けよ。」


そう言って
さらに力がこもる。


体全体があったかくて・・・


生きてるって
思える・・・


「こーゆー時は泣くのが一番。泣きたいだけ泣けよ。ただし」


マーシャはリオナの耳に唇を近づけ
ボソッと小さな声でいう。


「今日だけだからな。俺が甘やかすのも、お前が甘えられるのも、今日だけ。」


今日だけ。


そうだよ・・・ずっとずっと


甘えられるわけない。


俺たちは・・・前に進まなくちゃならないんだ・・・


変えなきゃいけない未来がある。


終わらせなきゃいけない過去がある。


そして
果たさなければならない大切な約束がある。




"リオナ・・・笑っていて"





ふと涙が止まった。


何事も無かったかのように
ピタリと。


「そっか・・・・」


リオナはわざとがっかりしたような顔つきをしてマーシャから離れた。


「・・・今日だけかぁ。じゃあ、今日の分は今度にとっとくよ。」


そう言ってマーシャに笑いかける。


だがマーシャは驚いたのか何なのか
口をポカーンとあけていた。


「な、おい。泣かねぇのかよッ?」


「・・うん。さっきのマーシャの言葉で元気出た。」


「さっきの言葉!?嘘だよ。さっきの嘘だから。大体リオナくんがいつも甘えてくれないから言ったのにっ。ねー甘えてよー。俺今てっきり熱々のハグをしてくれるかと思ったのに。」


「遠慮しとくよ。」


「え。マジ泣きしちゃうぜ?あーあ。リオナのお見舞いに毎日来てたのに。いいもんいいもん。」


「・・・・。」


そう言われると
困る。


マーシャはわざと口を尖らせ
リオナとは逆向きにベッドの上に大の字に寝だした。


まったく・・・
いい年した大人が・・・


「あーもー・・・」


リオナは小さくため息をつきながら
目の前で寝転がるマーシャの足の上にのる。


そしてそのままマーシャの上に倒れこみ
胸に耳をあてた。


「・・今日だけ。」


「寂しいこというなよ。毎日抱き締めてやる。」


マーシャは声に笑いを含めながら
ギュッとリオナを抱き締めた。


マーシャの心臓の鼓動がよく聞こえる。


リオナは目を瞑り
小さく呟いた。


「マーシャ・・・俺よりも生きて。」


もう・・あんな思いはしたくないから・・


「俺も生きるから・・・マーシャも生きて・・・」


「ばーか。リオナが死んだら俺も死ぬし。それに約束なんてできねぇよ。俺は常に全力だから。」


「俺より先に死んだら許さない・・。・・絶交だからな。」


「それは困るな。」


あははっと笑うマーシャの胸をたたく。


ばかやろー・・・


本気で言ってもうまくそらされる。


まぁ、それがマーシャだが。


「・・・なぁマーシャ。」


「なぁに。」


リオナは起き上がり
窓の外を見る。


「俺・・・この空を守るよ。」


今は真っ黒だけど
必ず夜は明け
朝がくる。


真っ青な青空と
一日の終わりを告げる夕焼け空。


どれも
ムジカが守りたいって言った空。


だから今度は


「・・俺が守る。」


誰にも壊させない。


神にも
フェイターにも


絶対に。


「・・・だから、マーシャも一緒に守ってよ。死ぬならそのあと。」


リオナはやさしく笑い
マーシャにむけて拳を突きだす。


するとマーシャは
迷わずリオナの拳に自分のこぶしをコツンとぶつけた。


「わぁかったよ。しゃーねーな。どこまでもついていくぜ、相棒。」


「よろしく。」


もう一度拳と拳をぶつける。


そして2人とも窓の外の空を見つめた。


きっと
空を見るたびに思いだすのだろう。


大切な
思い出たちを。


「リオナ、ムジカの葬儀なんだけど、お前が退院してからやることにしたから。」


「あ・・、まだやってなかったのか?」


「そう。ビットウィックスが、ね。リオナがいなきゃムジカが喜ばないだろうって。あとベンの葬儀も一緒にしてくれるってさ。」


まさかビットウィックスがそんなことを言うなんて。


リオナは驚きで目を見開く。


「ベン・・も?マーシャが頼んだのか?」


「いーや、さすがに恐れ多くて言えねぇよ。これはビットウィックスの意志だよ。」


ビットウィックスの・・・



リオナは口をポカンと開けていたが
すぐに小さく笑った。


なんだか嬉しかったから。


「そっか・・・あとでお礼、言わなきゃな。」


「いいよ言わなくてぇ。あんな奴に。」


「・・そうゆーなよ。ムジカの兄貴だし。」


苦笑を浮かべ
マーシャの肩をバシッと叩いた。


あ・・・そう言えば・・・


「B.B.は・・?来てないのか?」


「あー、B.B.?」


するとマーシャの表情が一瞬陰った気がした。


どうしたのだろうか。


「・・・何かあった?」


「いや。なんもねぇよ。今日はクロードともう寝てんじゃねぇかな。」


そう言ってニッと笑うマーシャ。


・・・ほら嘘だ。


何かあったんだ・・。


リオナは小さくため息をつき窓を見る。


その時、
ドキッとした。


窓ガラスに映る自分の姿に。


真っ赤に染まった瞳に。


リオナはおそるおそる両手を見る。


「・・・・っ・・・」


指先は
やっぱり
鋭く尖っていた。


ああ・・俺、悪魔になったんだ・・・。


もしかしてB.B.は・・・


リオナはハッとし、
顔を上げる。


「B.B.ちゃんといるのか!?」


「え?」


「B.B.いなくなったりしてないよな・・!?」


思わずマーシャに掴み掛かってしまう。


「B.B.のやつ・・・・変なこと気にしてるんじゃないよな・・・。あのバカ・・変なとこで頭使うから・・・!!」


リオナはベッドから出ようと体を動かす。


だが
すぐにマーシャに止められてしまった。


「あ、おいちょっと何してんだリオナ!!」


「B.B.どこ!?会いに行ってくる・・!」


「落ち着けって!わかったから!ちゃんと言うからおとなしく寝ろ!」


マーシャは力ずくでリオナを押し倒す。


「たぶんお前が考えたとーり、B.B.の奴、気にしてんだよ。その・・えー・・っとだな、お前と・・一緒にいられないんじゃないかって。」


いつになく言いにくそうに話すマーシャに
リオナは眉を寄せて顔を近付ける。


「・・・俺そんなことしない!!B.B.とずっと一緒にいたい!」


「わかってる。だから俺もそう言ったんだ。だけどアイツ気ぃちっさいからお前に会うのが怖いんだよ。だから今日も部屋にいるって言い張ってよぉ。」


「そうだったんだ・・。」


リオナはベッドに背中をつけ寝転がる。


「・・・ホント、寝てる場合じゃなかった。」


つくづくそう思う。


「まぁそう言うなよ。仕方ないことだ。」


仕方ないこと・・・か。


リオナは小さくため息をついた。


「・・・そうだよな。あとで、ちゃんと話すよ・・・」


「ああ。とにかくさ、まだ全快じゃないんだ。今はゆっくり寝てな。」


そう言ってマーシャはリオナの額をゆっくり撫でる。


それがなんだか心地よくて、
だんだん眠気が襲ってきた。


「マーシャ・・・」


「ん?」


「もうちょっとここにいて・・・俺が寝るまで・・・」


「もちろん。おやすみ、リオナ。」


「おやすみ・・」





・・・そして





俺は最後の夢を見る・・・








キミと俺の








最後の夢を・・・・







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