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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story89 ユメでキミは。








"うわぁ!綺麗っ!!"


"ムジカ早いよ。"


"空、青いのに!雪が降ってくる!リオナほら!はやくはやく!!"


"はいはい。今行くって。"


"すごい・・すごいよ!なんでかな!"


"ホントだ。キレイだなぁ・・・。なんでだろうね。"


"ねー"


"あ、やんじゃった。"


"えー・・・もっと見たかった・・"


"また、見れるよ。"


"ホント?"


"ホント。今度は虹つけてやる。"


"ホント!?"


"約束する。"


"じゃあ私は守る!!"


"え?何を?"


"そら!"












ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・



機械音が規則正しくリズムを刻んでいる。



ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・



なんの音・・・


うるさい・・・



ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・


どんどん


どんどんどんどん


大きく・・・




「・・・・ッ・・・・・・」


光が、入ってきた。


眩しい。


真っ白い、光が見える。


俺・・・死んだの?



『ドクター!目を覚ましました!!』



突然
声が聞こえて。


体は動かないみたいだから
目だけ動かす。


ぼんやりだけど
人影が見えた。


2つ。


「意識ははっきりしているか?」


1人の男が
俺の顔を覗きこんできた。


黒髪に髭面。


よく見れば
デヴィスだ・・。


「リオナ?俺の声、聞こえるか?」


聞こえる。


っていいたいけど

声がうまく出せない。


デヴィスは眉を寄せ
隣にいる助手に何か言っている。


なんて言っているのかな・・・


顔を向けたいけど・・・


「リオナ・・・!!!!!」


その時
違う声が聞こえた。


遠くから。かすかに。


何かに遮られてるような声。


「リオナ!!リオナぁ!!!」


同時に窓ガラスを叩くようなドンドンとした音が聞こえてくる。


一体、誰が何をしているか分からない。


次に聞こえてきたのは
Dr.デヴィスの深いため息。


「はぁ・・まーたマーシャか。追い出せ。」


マーシャ・・?


体が
反応した。


「あっ!!おい放せよ!!!!リオナに会わせろぉ!!!!リオナぁ!!」


マーシャ


マーシャだ


「・・・マー・・・・」


喉に痛みが走る。


だけど


必死に声をだす。


「・・マ・・・シャ・・・・」


そしたら体も自然に動いて


顔を横に向けられた。


まず
目に映ったのは
Dr.デヴィスの驚いた顔。


次に見えたのは

ガラス張りの壁の向こうで
必死に俺の名前を呼んでいるマーシャ。


「リオナ!?リオナが起きた!!!リオナ!リオナ!!」


今にも泣きだしそうな顔で
マーシャが優しく笑った。


俺は


ゆっくり


手を伸ばす。


届かないんだけど・・・
伸ばす。


「・・・・・マー・・・シャ・・・・・」


そんな顔、しないで・・


俺はちゃんと


生きてるから・・・


でもまだ、
眠いみたい・・・


もうちょっとだけ・・・夢の続きを・・・・













ここはダーク・ホームの救護塔・集中治療室。


ここに来るのは今日で24回目。


「リオナぁ!!!!」


マーシャはいつものように
ガラスの向こう側に眠るリオナに呼び掛ける。
いや、喚く。


「リオナ!!!あッ!!!リオナ!?!?」


24回目にして
初の奇跡。


「今リオナこっち向いたよな!?」


俺の顔見てたよな!?!?


マーシャは目に涙をため
ガラスをたたく。


「リオナ!!!今そっちに行ってやるからなぁ!!って痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


マーシャがガラスを突き破ろうと足をあげる。


だが


突然
頭に痛みが走った。


誰が叩いたかは大体わかる。


だって
これで24回目だから。


「なにすんだデヴィス!」


痛む頭を抱えながら後ろを振り返る。


「いい加減にしないか。リオナの体に障るだろう?」


「中に入れてくりゃ静かにするさ!!現に俺の声に反応したじゃねぇか!」


マーシャのどうしようもない言い分に
デヴィスは呆れて頭を掻く。


「あのなぁ・・・おまえも怪我人なんだ。大人しく部屋に籠もってろ!」


「うわッ!」


思い切り部屋から追い出されてしまった。


でも
これも今日で24回目。


「チクショー・・・」


マーシャは口を尖らせたまま
その場に座り込んだ。




ダーク・ホームに乗り込み、
予想外にフェイターが侵入し、激闘を繰り広げたあの日から、
すでに25日がたった。


マーシャが目覚めたのはその翌日。


何もかもが
終わってしまった後・・・。


ムジカが・・・消えた後。


「・・・・クソ。」


マーシャは拳を握りしめ
地面を叩いた。



リオナはあの日から眠ったまま。


毎日のようにリオナが眠る集中治療室に出向いたが、そのたびに追い出される始末。


でも
確かにさっき、目を覚ましていた。


何か言っていた。


その時の光景が閉じた目蓋の裏に広がる。


「・・・・・やっぱり。」


リオナの瞳は赤かった。


シキから
リオナが悪魔になったと聞いてはいたが、まさか本当だったとは。


できれば
悪い冗談であって欲しかった。


「まったく・・・俺は何をのんびり寝てたんだか。」


自嘲するように笑い
もう一度、床を力強く叩いた。


しばらく床に座ったまま
ぼおっとしていると、
遠くから足音が聞こえてきた。


こちらに向かってきている。


ゆっくりと、それでもどこか忙しげな足音は、
マーシャの前で止まった。


「こんな所にいたのか。」


「こんな所とは失礼だな。お前こそなんでこんな所に来てんだよ。え?マスターさんよ?」


皮肉をたっぷりこめ
目の前に立つビットウィックスを睨みあげた。


ビットウィックスもデヴィスのようにため息をつき
腕を組む。


「マーシャ・・会議には参加しなかったな。」


「当たり前だ。俺はもうダーク・ホームの人間じゃねぇ。」


これはつい三日前の話。


ダーク・ホームを早急に立て直すために、
役職会議が開かれたのだ。


マーシャも呼ばれたのだが、
シキに説得されても決して首を縦にふらなかった。


あとから聞いた話では、
ビットウィックスがマスター、
スペシャル・マスターにキャロル3兄弟の次男坊ナツとラードとユリス。
第一使用人にシキ。
その見習い生として、シュナとスバルが任命されたらしい。


キャロル3兄弟の長男のハルと末っ子のアキは、天上界で新しく悪魔部隊を作るため、指揮官として一旦ダーク・ホームを離れた。


そして
リオナたちと共に旅をしてきたジーク、クロード、クラッピーだが、

ジークは
ビットウィックスにダーク・ホームの研究室を勧められたが

「悪魔は許したが、そこまでやってやる義理はない。」
と、
彼らしくスパッと言い切ったらしい。


でも、リオナが目を覚ますまでは残っているようだ。


クロードとクラッピーは
貴重な時天大帝国の生き残りであるため
ダーク・ホームで保護という形となった。


「お前がマスターなんだろ?よかったじゃねぇか。」


マーシャはゆっくリ立ち上がり
ビットウィックスと向き合う。


顔をよく見れば、
本当にムジカに似ている。


「なんだ・・・?」


ジッと見つめてくるマーシャに
ビットウィックスは訝しげな表情を浮かべた。


「いや、なんでもねぇよ。」


もう、ムジカはいない。


そんなこと分かってる。


それは
ビットウィックスだって同じなんだ。


「で?俺を探してたんだろ?何の用だよ。」


「頼みがあるんだ・・。」


突然表情を変えたビットウィックスに
マーシャはあまりいい話ではないと思った。


「マーシャ、ダーク・ホームに戻ってきてくれ。」


ほらな。
絶対言うと思った。


「君たちはダーク・ホームと利害が一致しなかったから出ていった。けれど今は違う。我々は皆同じ考えだろう?だから私に力をか・・」
「確かにそうかもしんねぇけど。」

マーシャは言葉を遮り
手のひらを前に突き出す。


「もうちょい、待ってくれよ。俺はリオナに付いていく。だから、リオナが起きるまで、待て。」


ゆっくり
強く言い切った。


別にダーク・ホームが嫌なわけじゃない。


ただ


リオナの意志を尊重したいだけ。


それはビットウィックスもわかってくれたようで。


「なるほどな・・。だが、一つ言わせてもらうと」


言葉を濁すビットウィックスに
マーシャは催促するように一歩近づく。


「はっきり言えよ。」


「・・・。リオナは・・もう人間じゃないんだ。悪魔になったんだ。私やキャロルたちのように。」


「だから?」


「悪いがリオナにはダーク・ホームに残ってもらう・・。たとえ本人が抵抗しても・・・」


その言葉に
思わず眉を寄せる。


それじゃあ
あまりにも理不尽だ。


「悪魔になってもリオナはリオナだ。もしリオナの邪魔しようってなら俺がてめぇをぶっ倒す。」


「私は・・・ただこの先のことを思ってだな・・・はぁ、言ったところで君には理解されないかな。」


哀しげにつぶやくビットウィックス。


少し
反発しすぎただろうか・・。


でも、譲れないものは譲れない。


マーシャは罰の悪そうな顔をして、
ビットウィックスから視線を外した。


「話はそれだけか?俺部屋に戻る。」


「あ・・・待ちなさい。」


横を通り過ぎようとすると、
腕をガシッと捕まれた。


まだ話があんのかと
少しイラつきながら振り返る。


しかし
ビットウィックスからでた言葉に
マーシャは一瞬固まった。


「ルナ=ローズが・・見つかった。」


「・・・・」


ゆっくりと
マーシャは顔を上げる。


「サムライ・カウンティーにいるそうだ。」


やっぱり・・・。


クラッピーの言うとおりだった。


鼓動が速まる。


しかしマーシャは高鳴る鼓動を押さえ込み、
いつものように不敵な笑みを見せた。


「へぇ、いたんだ。もしかして、更夜とかいう賢者サマが一緒だったり?」


「そこまではわからない。報告では山の奥に住んでいるとだけ。それを伝えたかっただけだ。」


そう言うと
ビットウィックスは背中を向け
元の道を戻っていく。


なんで・・・


「おい。ビットウィックス。」


ビットウィックスは振り向かず
そのまま止まって耳を貸す。


「なんで、俺に伝えた?」


ダーク・ホームは
神の子供であるルナを捕らえたいと思っているはず。


だったらマーシャに言わずに行って捕まえればいいだろうに。


「俺にその情報言って何の得がある?俺が先回りしてルナを逃がすかもしんねぇぜ?」


「かまわない。」


「は?」


「我々ダーク・ホームはルナ=ローズから手を引いた。」


「なんだってまた?」


「彼女には罪がないからだ。」


たんたんと応えるビットウィックス。


少し振り向いて
小さく笑った。


「彼女は神の復活とは全く関係のない者だ。だからマーシャ、あとはお前の好きにしろ。」


「なっ・・・」


マーシャは少し焦りの表情を浮かべる。


「なんで俺が・・!」


「連れて帰ってくるなり殺すなり、君の本心のままにしなさい。」


そう言って
ビットウィックスはその場をあとにした。


マーシャは彼の背中を
目を丸くして見つめていた。


そして見えなくなった瞬間に
頭を抱えて座り込む。


「あいつ!!知ってんのか!?」


俺の過去のこと・・・!!!!


なんで!?!?


マーシャは頭を掻き毟る。


絶対に知られたくない過去。


自分でも
まだ気持ちに整理がつかないのに。


「いい加減、断ち切れってことか?」


このままこの問題から目を背けられると思っていたのに。


「はぁ、ありがた迷惑だっつーの。」
《ありがた迷惑どーん!!!!》
「おわ!」


突然背中に衝撃があった。


思わず床にうつ伏せになる。


「てぇ〜めぇ〜」


《そんなに怒るなよぉ!!》


犯人はB.B.。


マーシャはB.B.の顔面目がけてパンチするが
あっさりかわされてしまった。


それを楽しむかのようにB.B.はぐるぐる飛び回っている。


「やめやめ。もう降参。」


いつもならパンチが当たるまで攻撃してくるマーシャが
やけにあっさりと引いてしまったことに、
B.B.は不満そうに頬を膨らます。


《なんでなのだぁ!!!!!もっとやろー!!!!!》


「うるさい。俺は今考え事してるの。」


《嘘だぁ!マーシャは脳みそないって言ってたもーん!!》


「ぁあ?誰だそんなこと言った奴は。」


《ジーク。》


あンの変態め。
今に見てろよ。


マーシャは最後に一度
深いため息をついてから勢い良く立ち上がる。


膝をパンパンと払い、
汚れを落としていく。


「で?おバカなウサギさんは何しに来たわけ?」


《おバカじゃない!!》


「あー、リオナの見舞いか?まだ無理だぜ?まぁ手荒に追い出されたいなら行ってきな。」


B.B.の反発を無視し、
一方的に話す。


B.B.は図星だったのか
何か言おうと口をパクパクさせている。


結局何も言えないのだが。


しかも
さっきまでピンと伸びていた耳は
だらんと落ちてしまっている。


「まー、落ち込むなって。俺も元気出すし。」


《べ、別に落ち込んでないし・・・!!それにリオナのお見舞いに来たわけじゃないもーん!!》


そう言ってバタバタ飛び回る。


「ったく、お前は素直じゃないねぇ。」


まぁ、今に始まったことじゃないのだが。


マーシャは腕を組んだまま
B.B.を目で追い掛ける。


やがてB.B.は一思いに飛び回ると
へなへなと地面に落ちた。


これも毎度のこと。


不安を紛らわすために飛び回り
疲れて最後は静かになる。


マーシャは
まだまだガキだな、と小さくつぶやきながら、床の上に座り込むB.B.の耳をつかみ上げた。


「満足か?」


《・・・うん。》


「じゃあ帰っぞ。」


すっかり落ち込んでしまったB.B.を頭に乗せ
マーシャは歩きだした。


B.B.が落ち込んでいるのはリオナに会えないことだけではない。


ずっと
悩んでいることがあるのだ。


それはリオナが悪魔になったこと。


悪魔になってしまったら、
もう悪魔のB.B.との契約は必要ない。
つまり、リオナに捨てられるとB.B.は思っているのだ。


本人は言わないが
マーシャには見ればわかる。


「まったく。お前は落ち込めば落ち込むほど空元気になるな。」


《・・・なんなのだ。》


「大丈夫。お前は捨てられないからよ。」


さりげなく呟くと、
B.B.の体がビクッと跳ねた。


表情は見えないが
きっと、驚いてる。


「気付かないとでも思ったか?バカウサギ。俺様にはなんでもお見通しなんだよ。」


《・・ッ・・!》


B.B.は何も言わず
しばらく沈黙が続いた。


けれど
マーシャがエレベーターに乗り込むと
ようやく口を開いた。


《イヤなのだ・・・》


その声は少し震えていて。


マーシャの頭に
生暖かい雫がこぼれ落ちるのがわかる。


《リオナ・・からッ・・・離れるの・・イヤなのだぁぁ・・・》


それはずっと押さえ込んできた不安。


強がりだから
言えなかった弱音。


《もぉ・・・ひとりぼっちはイヤなのだぁぁ・・・・》


「大丈夫だから。リオナは絶対にお前を見捨てたりしない。」


《うそだぁぁぁぁ・・・!!!》


「嘘じゃねぇよ。お前がリオナを好きなようにリオナだってお前が好きなんだ。いらねぇ心配ばっかすんじゃねぇよ。それに」


マーシャは泣きじゃくるB.B.を掴み
顔の前に持ってくる。


そして強い声で言いはなった。


「俺もいるだろっ。」


十数年も一緒にいるんだ。


簡単に捨てるわけない。


《マァァァジャァァァ!!!!うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!》


目と鼻から色んなものを垂れ流しながら
マーシャの首に抱きついてくる。


「まったく。世話が焼けるぜ。」


いつもならぶん投げてやるところだが、今日は特別。


マーシャは苦笑を浮かべながら
しばらくB.B.の背中を撫でてやった。











マーシャが今使っている部屋は、かつて使っていたスペシャルマスターの部屋。


部屋の中は出ていった時と全く変わっていなかった。


もう2年もたつのに
つい昨日の事のように思い出す。


「俺も年とったなぁ。」


《今更なのだ。》


「うるせぇ。」


今、部屋ではクロードとクラッピーも一緒に暮らしている。


ジークには部屋が用意されたのだが、
なぜか彼も居座っていて。


おかげで狭いことこの上ない。


そんなことを思いながら
マーシャは部屋の扉を開ける。


「帰ったぞー。ただい・・・」


だが部屋に入ったその瞬間。


異様な臭いに鼻をおさえた。


「くせぇ!!」
《何の匂い!?》


何か焦げ臭いような・・・


まさか火事!?


マーシャは走ってリビングに駆け込む。


リビングには黒い煙が蔓延していた。


前が見えない中
煙を掻き分けていくと、テーブルにクロードがいた。


ケホケホむせながら涙をうかべた目でマーシャを見た。


「マーにぃ!!!」


「なぁにやってんだ!!なんなんだこの煙はッ!!」


「クラッピーがご飯作るって言って・・・!!」


そう言ってクロードはキッチンを指差す。


まさかこの煙の中で料理でもしてると言うのか。


気絶でもしてるんじゃないか、
と嫌な予感が頭をよぎる。


しかしその時、キッチンから何か聞こえてきた。


「チョッチョッチョ〜♪チョチョチョッチョ〜♪」


マーシャの拳が震える。


どうやら生きてはいるらしい。


「クソピエロめ!」


ドスドスとした足取りでキッチンに侵入する。


そして楽しそうにフライパンを握るクラッピーの頭を思い切り叩いた。


「イッッッッッッッッッッタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァいッッッッッッッッッッチョォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!」


悲鳴が響き渡る。


そんなのお構いなしに
マーシャは元凶のフライパンの火を止めた。


一体何をどうすればこんな煙がでるのか。


教えて欲しいくらいだ。


「このバカピエロ!!てめぇはクロードを殺す気かぁ!!!!」


クラッピーは頭を押さえながら
いただけないといった表情をしている。


「何言ってるッチョ!!ボクちんはクロノスがお腹すいたーって言ったからクロノスのお腹を救ってたッチョ!!言い掛かりはよしてほしいッチョ!!!」


「言い掛かりじゃねぇよ!勝手に火ぃ使うなって何度も言っただろ!!!!」


「何度も言ってないッチョ!!マーシャは一回だけしか言ってないチョッ!!」


「ぁあ!?てめぇあげ足とんのか!?普通のヤツは一回で言うこと聞くんだよ!!!火はな!危ねぇんだよ!!!!!なんでわかんないんだ!!!出来ないことしようとすんじゃねぇ!!!!


「なッ!!ひどいッチョ!!!ボクちんにだって料理できるッチョ!!バカにすんなッチョ!!!」


そう言ってクラッピーは再びフライパンを握り
火を付けようとする。


「あ!おい!!」


マーシャも止めようとクラッピーの腕をつかもうとする。


「はなすッチョ!」
「いい加減にしろっつってんの!!!」
「イヤだッチョ!!!」
「マジでいい加減にしねぇと・・・」


嫌がるクラッピーの腕を引っ張ろうとした瞬間。


「ぅッ・・・・・・・!!!」


頭にするどい痛みが走った。


まるで脳を締め付けられたような感覚に
マーシャは思わず膝をついた。


「・・・・っ・・・」


痛ぇ・・・


頭痛にしては酷い痛みだ。


体に力が入らない。


「マ・・・マーシャ?」


いきなり座り込んだマーシャに
クラッピーはおどおどする。


「わ、悪かったッチョ・・!!!ボクちんが悪かったッチョ・・!!!ごめんッチョ!!!」


何度も謝るクラッピーの声が聞こえる。


しかし
マーシャ自身それどころじゃない。


痛みに耐えながら
ゆっくり立ち上がる。


「・・もういいから。ちょっと・・部屋で寝てくる・・。」


「だ・・・大丈夫ッチョか!?」


「ダイジョーブだから・・・大人しくしててくれ・・・」


それだけ言って
マーシャはリビングを出た。


壁を伝い
なんとか自室へたどり着くと
ドサッとベッドに倒れこむ。


「・・・いっ・・た・・」


意識が遠退いていく。


まるで睡魔に吸い込まれるような感覚。


マーシャはゆっくりと目を閉じた。












次にマーシャが目を覚ました時、
目の前にシキがいた。


外はすっかり暗くなっていたが
時間的にはあまり寝ていないようだ。


シキはマーシャの机で仕事をしていた。


マーシャが起きたのに気が付くと
少し笑って立ち上がる。


「あ、起きたかマーシャ。」


シキはベッドに近づき
マーシャの額に手を当てる。


「なんでシキがいんだ?」


マーシャはゆっくり起き上がろうとする。


しかし体にあまり力が入らない。


「無理するな。さっき薬打ったばかりだから動けないはずだ。」


そう言ってシキはベッドの近くにあった椅子に座った。


「・・いきなりクロードとクラッピーが俺の部屋に飛び込んできたんだ。マーシャが死んだーって叫びながら。まったく・・俺も心配して走って来たんだぞ?」


「死んでねぇーし。」


「とにかく。お前もまだ無理するな・・。悪化したらリオナに会えないぞ?」


「それは困る。」


即答したマーシャに
シキは苦笑する。


「それにしても痛かった。何だったんだ?あの頭痛は。」


「デヴィスは忙しくて助手が診察にきたんだが・・・脳に特に異常はないらしい。」


「あっそうなの?ならいいんだけど。きっと疲れてたんだ。あはは。」


マーシャはいつものように笑う。


しかし
シキの表情は一向に晴れない。


むしろさっきより険しくなっている。


「・・本当に大丈夫か?」


「あ?大丈夫大丈夫。今もう全然痛くねぇし。」


「だけど・・・あとでもう一度デヴィスにみてもらった方が・・・」


「心配性だなぁ。大丈夫だっつってんの。」


シキはお袋かッ
と冗談を言っても、いつもの反応が帰ってこない。


そこまで心配されると
逆に怖くなる。


「はぁ。わかったよ。行きゃあいいんだろ?そんなに死んでほしくないみたいだから。」


これも冗談で言ったのに
シキは本気で怒ってくる。


苦しそうな表情で
マーシャの胸ぐらをつかんだ。


「バカヤロウ・・!!当たり前だ!!お前がよくても残される奴の・・・リオナの気持ちを考えてやれ!!!」


まさかシキからそんな言葉がでると思わなかった。


でも
今までで一番心に突き刺さったかもしれない。


「悪かった。ちゃんとみてもらう。俺、リオナ大好きだし。リオナを1人にしたくないし。」


シキをまっすぐ見つめて答える。


するとシキの表情が自然と緩んで
マーシャから手を離した。


「・・・知ってるよ。お前がリオナを大切に思ってることくらい。」


そう言ってシキは机の上に置いてあった書類を片付けだす。


「俺は部屋に戻る。クロードとクラッピーには厳しく言っておいたから今日はゆっくり休め。」


「悪いな。」


シキが厳しく・・・


きっとクラッピーの奴、泣いてるだろうな。


その光景を思い浮かべ
思わず同情してしまった。


「ああ、それと・・・」


シキは書類を全部手に持ち
部屋から出ようと扉に向かうが
ふと足を止めた。


「マーシャに朗報だ。」


「?」


「気になるか?」


満面の笑みで話すシキがなんだか不気味だったが、
でもなんだか気になる。


マーシャは首を縦に振った。


「じゃあ・・・当分は静かにしてるって約束するな?」


「それは話による。」


一瞬シキの顔が引きつるが
仕方ない、と最後には口を開いた。


「デヴィスがな、毎日毎日リオナに会いに救護塔で暴れられたら迷惑だって・・・だから明日から一時間だけ面会の許可がおりた。」


「マジか!!!!」


朗報中の朗報に
マーシャは飛び上がった。


この日をどれだけ待ちわびたか・・・・


マーシャは喜びのあまりベッドから飛び出しシキに抱きついた。


「ありがとよぉシキ!!!俺静かにしてっから!!約束すっから!!」


久々に見るマーシャのはしゃぎように
シキも笑顔を向ける。


「礼なら俺じゃなくデヴィスに言えよ・・・あと」


シキはマーシャから離れ
部屋を出る。


そして最後に
聞きたくない名前を言って。


「・・ビットウィックスにもな。」


「・・・。」


バタンと扉が閉まる。


マーシャは固まったまま動かない。


「な・ん・だ・と・・・・」


ぎこちない動きをしながらベッドに潜り込む。


そして


「くそぉぉぉぉ!!!!!!!」


悔しそうに頭を抱えながら絶叫する。


頭には
ビットウィックスの腹黒い笑みを勝手に想像して。


「借りができちまったじゃねぇかッ!!!!」


奴の狙いは貸しをつくって俺たちをここに残させる気だ!!!


マーシャは勝手にそう思いながら
1人ジタバタする。


作戦負けなのか不戦敗なのか。


マーシャは喜びと共に
大きく肩を落としたのだった。




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あきゅろす。
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