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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story87 笑顔



ずっと昔から


思っていた。


私には2人の"お兄様"がいるって。


1人は、とっても優しいお兄様。
いつも頭を撫でてくれる大好きなお兄様。


もう1人は
とっても怖いお兄様。
いつも身体中を痛め付けるお兄様。


どちらも私の大事なお兄様。


けれど
優しいお兄様はもういない。


いなくなってしまった。


過ぎ去った時間と共に。


私にはもう
1人のお兄様しかいない。


だから・・・怖かった

苦しかった。


次はいつやってくるのだろう。


どれくらいお仕置きされるのだろう。


いつからか
私はお兄様を"お兄様"として見れなくなっていた。


それはただ
恐怖の対象でしかなくなってしまった。


昔はお兄様をずっと待っていたのに・・・


今じゃただひたすら逃げ回っている自分がいる。


痛みから、恐怖から、
そしてお兄様から。


自由になりたかった。


だけどね
気が付いたの。


逃げてるだけじゃダメだって。


ちゃんと向き合わなきゃ
何もかわらないってことに。


お兄様も私も・・・


すべてを
変えるために。










「お久しぶりです・・・お兄様」


ムジカは目の前にいる兄、ビットウィックスに頭を下げる。


チラッとビットウィックスを見てみれば
驚いたのか目を見開いている。


彼がこんな表情をするのは珍しい。


「ムジカ・・・・・」


存在を確かめるように呼び掛けるビットウィックスに、
ムジカは顔を上げる。


「ああムジカ・・・・ムジカなのか・・・会いたかった・・・!」


ビットウィックスは動揺からか
おぼつかない足取りでムジカに近づく。


そして手を伸ばし
ぎゅっとムジカを抱き締めた。


「ようやく戻ってきてくれたのか・・・心配したんだぞ?でも、これでずっと一緒だ・・・ムジカ」


そう言って抱き締める腕に力がこもる。


ムジカの表情が曇る。


彼にこんなに優しく抱き締められたのはどれくらい前になるだろうか。


いつもこの腕に安心してきた。


「お兄様・・・」


ムジカの手がゆっくりとあがり
ビットウィックスの背中に伸びる。


だが
触れるか触れないかの寸前でピタリと止めた。


・・騙されちゃ・・・ダメよ


そう心で唱え
手を引っ込める。


「ムジカ?」


「・・やめて。こんなこと」


ムジカはビットウィックスの肩に手をおき
体を引き剥がす。


距離をとり
睨みをきかす。


「もう、あの頃のわたしじゃないの。」


誰かに支配されつづける、そんな"ムジカ"はもう、いないの・・。


ビットウィックスは眉を寄せる。


すると突然
ハッとしたような表情をした。


「ムジカ・・!背中の翼はどうした!?なぜないのだ!」


ムジカは背中に目をやる。


すっかり忘れていた。


悪魔狩りに捕まった時に切り落とされたことを。


「これは・・・」
「はっ・・・まるで人間だな。」


鼻にかけたような言い草に
ムジカは鋭く睨みあげる。


「人間になりたがってたもんな。ムジカは。」


口元に笑みを浮かべながら
ビットウィックスは少し伸びた髪を指でとく。


その瞬間
ムジカの全身を悪寒が襲った。


忘れさりたい"過去の記憶"が鮮明に蘇る。


"お仕置きだよ・・・・ムジカ・・・"


あの時も
こんな表情をしていた・・・。


髪をいじりながら・・・笑っていた。


それは怒りの前兆。


「別に私は・・・・」
「それは誰がやったんだい?」


少し逃げるように後退ろうとするムジカを
ビットウィックスが阻むようにムジカの腕を掴んだ。


鋭い爪が
ムジカの腕に食い込む。


「・・・・・!」


痛みに顔をそらそうとするが
ビットウィックスに顔を無理矢理あげさせられる。


「正直に言ってごらん?リオナなんだろう?リオナがムジカの翼を奪ってしまったんだろう?」


「違うよ!!!!!」


ビットウィックスから逃れようと腕を振るが
びくともしない。


「リオナはそんなことしない!!!リオナのこと悪く言わないで!!!!」

「そんなにリオナが大事か!?リオナが何をしたというんだ!!ただお前を父上の手から助けただけだろう!!」


声を張り上げるビットウィックスに
思わず目を閉じる。


しかしその瞬間
ムジカの腕からビットウィックスの手が離れた。


殴られる・・・


そう思い
さらに目蓋に力を入れた。


だがしばらくたっても痛みが訪れない。


違和感を感じ
ゆっくり目を明ける。


「・・・・!!」


だが
目の前にいたのは
ビットウィックスではなかった。


目の前に2つの影、
ビットウィックスは遠くで膝を地面についている。


「シキ・・!!!・・シュナ!!!」


その影の正体はシキとシュナだった。


2人がビットウィックスを突き飛ばしたようだ。


シュナは血相を変えて怒鳴っている。


「リオナがやったことは大したことなんかじゃない!!バカにするな!」


「シュナ・・・」


「・・そうだ。リオナはお前ができなかったことをやったんだ。ビットウィックス・・・。リオナだから、できたんだ。」


「シキ・・」


2人がムジカに笑いかける。


そうだよお兄様・・・
リオナはね、
私たちをたすけてくれたんだよ。


だから・・・


「ふざけるな・・・」


すると地面に足をついていたビットウィックスが
ゆっくりと立ち上がった。


今までに聞いたことのないくらいの低い声が耳に届く。


「ムジカ・・・」


「・・・・」


「ムジカ!」


怒鳴られ
ムジカの体が一瞬震えた。


ビットウィックスは低く笑いながら
ゆらゆらと近づいてくる。


「やはりリオナはあの時に殺しておくべきだった。それにムジカ・・・」


ビットウィックスの身体中にマントのような黒い煙が巻き付きだした。


悪魔の力が増幅してきている。


その証拠に
背中から大きな黒い翼が現れた。


今までに見たことのないくらい巨大な悪魔の翼。


見ているだけで
恐怖に駆りたてられる。


「そんなに人間になりたいのなら・・今この手で私が"人間"にしてやろう。」


そう言うと
ビットウィックスはものすごいスピードでムジカに近づいていく。


長い爪をむき出しにし
鋭い殺気が押し寄せてくる。


「ムジカは下がってなさい・・!!」


シキの声が反芻する。


ムジカはごくりと唾を飲む。



イヤよ・・





もう・・・・逃げない。





そう・・・





私は・・・・





「逃げないんだから・・・!!」


ムジカはシキとシュナに庇われていたが
2人を押し退け前へ出る。


「あ!!」
「待ちなさいムジカ・・・!!!!」


2人の声を聞かず
ムジカはビットウィックスに向かっていく。


鋭い爪を尖らせ
黒黒しい悪魔の力を取り巻きながら。



ガッ・・・・!!!!!


2人の手と手がぶつかり合う。


お互いの爪が擦れ
ギリギリと音が鳴り響く。


「どうしたムジカ?私に刃向かうとは。愚かだと思わないか?」


「思わないわ!私はもう・・・お兄様の知ってる"私"じゃないの!!」


「ほう・・ならば私も手は抜かない。お前を殺して永遠の束縛を与えよう!」


ビットウィックスはムジカを大きく突飛ばし
力を増幅させる。


翼がいっそう大きくなり
瞳が赤みを増す。


これがサタンの力を色濃く引き継ぐ者・・・ビットウィックスの真の力。


辺りの木々が悲鳴を上げる。


「お兄様・・・」


初めて見る兄の姿にムジカの表情が強ばる。


そして次の瞬間

ムジカの頬を漆黒の塊がかすめた。


白い頬は一気に赤い血に染まる。


「次は外さない。ククク・・・・ハハハハ!!!」


不気味に引きつる口元。


笑い声がこだまする。


「ムジカ!早く逃げなさい!!!」


その時
シキに思い切り腕をひかれた。


ムジカはよろめきながらも一歩後ろに下がる。


「あの状態になったビットウィックスは止められない!!彼は本気でムジカを殺す気だ!!」


「わかってるよ・・・。」


「わかってない!!!君はここで・・こんなところで死ぬべきじゃないんだ!!!リオナが待ってるだろう!?リオナは君のことを・・!!!」


「わかってる!!」


ムジカはシキの腕から逃れ
力強く叫ぶ。


「リオナがそれを望まないくらい・・・わかってるよ!!でも!これは・・・お兄様を救えるのは私だけなの!!」


「・・救う?」


「そう、救うの・・。きっとリオナもわかってくれる。これは私にしかできないことだから・・・だから・・・」


ごめんねリオナ・・・


私・・・



ムジカは胸に両手をおく。


目をつむり
祈るように何かを呟く。


「何をしている・・・ムジカ?」


ビットウィックスも動きを止める。


だが次の瞬間


ムジカの胸の中心が
まばゆい光を放ちはじめた。


何かが体から飛び出そうとしている。


「あれは・・・まさか」


ビットウィックスの表情が強ばる。


そう
ムジカから出てきたのはローズ・ソウル。


ムジカの中に眠るアルティメイト・プロジェクトの発動を封印していたもの。


それが体から抜け出たのだ。


ムジカは両手でローズ・ソウルを握りしめる。


「私も本気よ・・・お兄様。」


「やめるんだムジカ・・・一度発動したら二度と止められないのがアルティメイト・プロジェクトの欠点だ・・・!!お前はすでに一度発動させている!!そのローズ・ソウルを抜いてしまえばもう止められないのだぞ・・・!!!!」


「お兄様に対抗するにはこれしかないの。」


「何を言う・・・!!!そんなことをすればダーク・ホームが・・!!この島ごと吹き飛ぶのだぞ!!!」


焦りがビットウィックスに広がる。


「お兄様がわかってくれないのなら・・・仕方がないよ・・・」


ムジカは体全体に力をこめる。


内なる力を解き放つように。


身体中が熱くなっていく。


「やめろ!!!ムジカ!!!!」


背中から巨大な翼が現れる。


黒い邪気が一面に広がる。


「ぁぁぁぁ・・・・・」


小さなうめき声。


"ムジカ"という殻を破っていく。


「やめろっ!!!!!!やめてくれッ!!!!!!!!」


ムジカの体が吹き飛ぼうとしたその瞬間。


ビットウィックスがムジカの体を抱き締めるように地面に倒した。


ムジカの中にローズ・ソウルを戻していく。


「頼むから・・・やめてくれ・・!!!!」


身体中の熱が
一気に冷めていく。


「ムジカ・・・ムジカ・・・」


「おにい・・・・さま」


ムジカは元の姿へ戻り
ビットウィックスも力を収めた。


「もう・・やめてくれ・・・!!!」


ムジカの頬に透明な雫が落ちてくる。


驚き
顔を上げてみれば
ビットウィックスの歪んだ顔があった。


涙を流す姿に
思わず見とれてしまう。


「お兄様・・・」


「いかな・・い・・・・っでくれ・・・!!」

「・・・・・」


「私には・・・ムジカだけなんだ・・・!愛してるんだ・・お前を・・・!!!愛してるんだ・・・・・・」


ビットウィックスは涙をこぼしながら
体を起こす。


ムジカの手を取り
自分の頬にあてがった。


「愚かなのは私だ・・・お前を死のふちに追いやるなど・・・なんて・・・馬鹿なんだ・・・!!!!」


拳を握りしめるビットウィックス。


・・・・わかってた。


お兄様が・・・私を助けてくれること。


だってお兄様にはまだ・・・・


・・・"こころ"があるから。


「泣かないでお兄様・・・」


ムジカも体を起こし
ビットウィックスの顔を覗き込む。


涙で濡れる顔は
どこか懐かしさにあふれていた。


"どうしたの?お兄様?"
"ちょっと・・・ね。父上に叱られてしまったんだ・・・"
"泣かないで・・お兄様。"
"大丈夫だよ。もう大丈夫。ごめんねムジカ・・・心配かけたね・・"
"ううん。"
"ムジカはちゃんと僕が・・・いや、私が守るから・・・"



あの時のこと・・・・今でも覚えてる。


初めてみたお兄様の涙。


あの時の言葉・・・
今でも信じてるんだよ・・・?


「私は・・・ムジカを愛してるんだ・・・・」


「うん・・知ってるよ・・・でもね、聞いてお兄様・・・」


ずっと・・・


ずっと伝えたかったこと・・・


「私もね・・・お兄様が大好きだった・・・だって・・私を守ってくれたのはお兄様だけだから・・」


世界でたった1人の・・・味方だったから・・・


「でもね・・・私・・・お兄様以上に大切な人ができたの・・・。」


初めて・・・恋をしたの・・・


彼も私を・・・好きだって言ってくれた・・・


「リオナか・・・」


「うん・・・」


小さく呟く声から
怒りは感じられなかった。


むしろ
悲しみに満ちあふれている気がして・・・


「リオナと出会った時ね・・・とにかく私は自由になりたかった・・・お父様と・・・お兄様から・・・。怖かったの・・・私もいつか・・お母様みたいに殺されてしまうんじゃないかって・・・」


「・・・知っていたのか?私が・・母上を殺したことを・・・」


「知ってたよ・・リオナには知らないふりしてたけど・・・そうでもしないと私が私でいられない気がして・・・」


ごめんねリオナ・・・


でも・・・お母様に会いたかったのは・・・本当なんだよ・・・


「リオナは私に自由をくれた・・何も聞かずに・・自由をくれたの・・・。お兄様は気に入らないかもしれない・・・でも・・・これだけはわかって・・・。リオナは悪くないから・・」


リオナを悪く言ってほしくない・・・。


リオナは世界で一番大切な人だから。


すると
ムジカの手を握っていたビットウィックスの手が
力なく落ちた。


小さなため息が聞こえた気がした。


「私が憎いだろう・・・ムジカ・・・」


眉を寄せ
苦しげに笑うビットウィックス。


「お前の人生を縛り付け・・大切な者を奪い傷つけた私が・・・怨めしいだろう・・・?」


自虐的に笑う姿に
ムジカは咄嗟にビットウィックスの腕をつかんだ。


そして首をゆっくり横に振る。


「ううん。そんなこと思うわけないよ・・・だって、すべてはお兄様の"愛"だったんでしょう?私知ってるよ・・・お兄様が、私のために・・・私が人間になれるために・・研究してくれてたこと。」


たとえ歪んだ愛情だとしても、
ちゃんと想いは届いてたから・・・


「それにお兄様の人生を縛り付けたのは私も同じ・・・。だから・・・またはじめから、やり直したいよ・・・昔の"お兄様"と"私"みたいに・・・」


「ムジカ・・・・・」


「そして今度は私じゃなくて・・このダーク・ホームを・・私を救ってくれたリオナの故郷を・・守って・・・マスターとして・・」


そう言うと
ビットウィックスは驚いたようにキョトンとした表情をした。


「なぜ・・・私が?私はダーク・ホームを利用して・・・」


「そう思ってるのは・・・お兄様だけかも。」


クスクス笑うムジカ。


訳が分からず
ただその姿を見ていると、
背後から気配を感じた。


驚き
振り返ってみれば
そこにはキャロル3兄弟と
使用人であるスバルの姿があった。


「な・・・・!!お前たち・・なぜここに・・・」


ビットウィックスの戸惑いなど気にも止めず
スバルとキャロル3兄弟は跪いた。


「我々はどこまででもあなた様に付いていきます。」


[ビットウィックス様、ダーク・ホームをここまで復活させたのはあなたの力でございます。]


[そーゆことだ。アンタが今いなくなったらコッチが迷惑なんだよ。]


[・・・・お願いします。]


4人の言葉に
体が震える。


「お前たち・・・」


涙がこみあげる。


悲しいからじゃない。


これは喜びから。


こんな感情も
ムジカがくれたのだ・・・。


ビットウィックスは涙を堪え
再びムジカに向き直る。


そして
ムジカの手をとり
小さくキスを落とした。


「今度こそ・・・約束する。ムジカを救ったこのダーク・ホームを・・・必ず守ってみせる。」


そう言って
ビットウィックスは優しく笑った。


この笑顔だ・・・


私がずっと見たかったのは・・・


この暖かい笑顔なんだよ・・・


やっと、
やっと本当の青空が
見えた気がした。




「はぁ・・まったくこの兄妹にはハラハラさせられっぱなしだ。」


するとムジカの後ろから
腕をくんだシキが呆れながらやってきた。


そのままビットウィックスに近づき
目を合わせる。


「もちろん、俺の死刑は取り止めだろう?」


「ああ・・。悪かったとおもっている。」


「ならビットウィックス、君が今やるべきことは一つしかないだろう?」


「・・・・?」


強い口調で問い掛けるシキに対し
ビットウィックスは訝しげな表情をした。


そんな彼を見て
シキはますます呆れたような顔をする。


「まだわからないのか?」


そう言うと
シキはビットウィックスの横を通りすぎ
未だに跪くスバルとキャロル3兄弟の横に立った。


そして同じように跪き
頭を下げた。


「ビットウィックス、君は俺たちのマスターだ。命令を。」


「シキ・・・・!」


「ほら。早くしないと気が変わってしまうぞ。」


シキの思わぬ行動に
一番驚いていたのがシュナだった。


シュナは口をパクパクさせ
シキに何か言おうとしていたが、
何も思いつかなかったのか
黙ってビットウィックスに頭を下げた。


そんな彼らの行動に
ビットウィックスも驚きを隠せなかった。


しかしそれと共に
嬉しさを感じられずにはいられなかった。


「人に信頼されるのも・・・悪くないな。」


そう呟き
ビットウィックスは全員に頭を上げるよう命令した。


「今、ダーク・ホームに侵入したフェイターはどうなっている?」


その問いにスバルが素早く立ち上がった。


「エージェントによると、侵入フェイターは3人。そのうち1人はリオナ=ヴァンズマンの仲間が捕らえているようです。残りの2人は未だ不明。しかし一部の情報によると、ベンが1人のフェイターとやり合っていたとの話があります。」


「仲間割れか・・?」


「何があったかはわかりませんが・・・」


「なるほど。ではキャロルたちはベンとそのフェイターの消息の確認。スバルはエージェント達に終戦の号令を。そしてシキとシュナは残りのフェイターの確保に回れ。」


はっ。
と全員が返事をする。


スバルとキャロル3兄弟は素早く姿を消した。


「シュナ、俺たちも急ごう。」


「はい!」


2人も動きだそうとした


だがその時だった。


「あーあ。なんだか変な展開になっちゃってるね。」


「・・・・!?!?」


聞きなれない声が響き渡る。


ここにいるのはムジカとビットウィックスとシキとシュナだけ。


全員が身構える。


「一体誰だ・・・姿を見せろ。」


ビットウィックスが低くうなる。


「クスクス・・・・そんなに怒らないでよ・・・今行くからさ」


そう言うと
声の主の気配が消えた。


一瞬の出来事で
焦りを感じる。


だが次の瞬間


「いや・・・!!!」


聞こえたのは
さっきまでの笑い声でもなんでもない
悲鳴だった。


「離して・・・!!!!」


「ムジカ!!」


ムジカの声がする方へ顔を向ければ
木の上に
ムジカを羽交い締めする1人の青年がいた。


黒い髪に紫の瞳・・・


そして真っ白い装束


「アシュール・・・・」


その姿が見えると同時に
シュナの目が大きく見開かれた。


まるで恐怖に怯える子供のように
シキの後ろに隠れてしまう。


そんなシュナを見て
アシュールは面白そうにクスクス笑った。


「久しぶりだね、シュナ。まさか殺し損ねてたなんて知らなかったよ。」


陽気な口調に殺意を感じる。


まるで呪文のように耳に張りつく。


「それにシキ、死刑にならないなんて残念だよ、まったく。」


悪怯れもなく笑うアシュールと
シキとシュナをビットウィックスは交互に見る。


「・・・妹をはなせ!」


捕らえられたムジカを放させるために
ビットウィックスは翼を広げ
飛び上がる。


だがアシュールは素早く身をかわし
別の木に移動していた。


「キミがサタンの息子か。会いたかったよ。でも今日は違う用事で来たんだ。シキの死刑を見てベンと被験体を持ってかえるプランだったんだけど、なんだか大幅に変更されちゃったみたい。シキは死刑取り止めみたいだしベンは裏切って命捨ててまで仲間殺しちゃったみたいだし。もう1人は捕まったらしいじゃん?」


「ベンが・・・!!」


シキが悔しそうに唇を噛む。


「残ったのどうやら俺とこの被験体みたいだからさ。まぁやれることだけやって帰ろうと思うんだ。」


アシュールは、木の影に隠れていた黒いコートを羽織る被験体を抱き寄せる。


そして口元を不気味に引きつらせた。


その表情に嫌気がさし
ビットウィックスは声を荒げる。


「何を企んでいる・・!!!」


「だから、できるだけのことをやるまでだよ?例えば・・・」


するとアシュールはムジカの体をよじり
ムジカの胸の中心に手を当てた。


口元をさらに引きつらせ
ムジカの恐怖に満ちた顔を見つめている。


「ローズ・ソウルを奪うとか?」


恐怖が体の力を奪う。


ムジカは目を見開き
アシュールの笑みを見つめる。


いや、目が離れない。


ああ、のまれる。


すべてを・・・・














リオナ・・・・・











ごめんね・・・リオナ・・・











やっぱり











あなたの元には・・・・












戻れそうにないみたい



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