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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story86 歪んだ愛








ある日、私に突然妹ができた。


年の離れた妹は、それはそれは愛らしかった。


笑顔が、輝いていて


そして何よりも
自分と同じ
人間のナリをした悪魔であることが

うれしかったんだ。


“ムジカ、こっちにおいで。一緒に遊ぼう。”


“にーさま!”


いつも無邪気に笑う
ムジカが好きだった。


私の太陽だった。


普段からあまり笑わない私も
自然に笑っていた。


けれどその眩しいムジカの笑顔は
簡単に奪われてしまった。


あの女に。


母であるディズ=モーレに。


母上は実の娘を実験体にした。


<アルティメイト・プロジェクト>


万が一、神が復活してしまったときに備えての
最終兵器悪魔計画。


だがその計画は失敗に終わったと言われた。


最強の力が宿るどころかムジカから悪魔としての才能が失われてしまったのだ。


実際は成功していたことが後々わかったが・・。


とにかく必要のなくなったムジカはそれから誰からもないがしろに扱われ、
孤独な毎日を送っていた。


父上はそんなムジカを恥と思い
外には決して出さなかった。



許せない。


ムジカをこんな体にした父上と母上が許せなかった。


だから私は決めたんだ。どんな手を使っても
ムジカを天上界から解放してやると。


そして父上と母上にこれ以上ない戒めを。


それから私は毎日勤勉に励んだ。


それはダーク・ホームのマスターになるため。


人間界での唯一の悪魔の居場所であるダーク・ホーム。


そこの長であるマスターになれば、
ムジカが安心して暮らせる場所を作れるかもしれない。


また、彼女の笑顔が見れるかもしれない。


それから私は着実に力を手に入れていった。


優秀な頭脳、強大な力


その才能は父上にも認められ、
今まで許されていなかったことが許されたのだ。


それは妹であるムジカの解放。


うれしかった。


ようやく、一歩進んだと。


私はムジカが幽閉されている塔へ走った。


重い扉を押し開けて、
部屋に飛び込んだ。


“ムジカ、迎えに来たよ。”


その時のムジカにはやっぱり笑顔がなくて。


でも、
私を見るなり、きれいな瞳から大きな涙をこぼした。


“・・おに・・・さま・・・・お兄様!!!!”


抱きついてきたムジカを持ち上げ、
私はムジカを自分の部屋に連れて行った。


その体はひどくやせ細っていて、
悲しみが込み上げてきた。






それからしばらくは部屋でムジカの様子を見た。


“ムジカ、今日は何が食べたい?”


“お兄様と一緒なら何でもいいの。”


“そっか。じゃあ何かおいしいものを作ってあげるから、私が仕事の間、大人しく部屋で待っているんだよ?”


“はい!”


だんだんと笑顔が、昔みたいにやさしい笑顔が戻ってきた。


どんなにつらい仕事でも、
部屋に帰ればムジカが待っていてくれる。


だから頑張れた。


そんな日々が一生続けばいい。


そんなことをおもっていた矢先だった。


ある日
ムジカがこんなことを言いだしたのだ。


“お兄様・・・お外へ行きたい。”


外・・・


それは一番不安に思っていたこと。


いつか言うとは思っていた。


だが、実際に言われてみて
少しショックを受けている自分がいた。


“私だけではやはり不足か・・・”


“お兄様・・・?あ・・・やっぱり駄目なら・・・”


“いいよムジカ。行っておいで。”


それでも私は許すことにした。


ムジカを縛りつけたくない。


もしかしたら、外の世界に嫌気がさして、
すぐに戻ってくるかもしれない。


淡い期待を抱きながら、私は彼女を部屋から出した。


もちろん父上には内緒で。


でも、

それが

私とムジカの歯車を狂わせていったんだ。








それからというもの
私自身も仕事が忙しくなり
ムジカといられる時間が少なくなっていった。


ムジカは寂しさを紛らわすかのように
毎日のように外へでていった。


外の世界に出てみて
ムジカは一体何を思っただろうか。


怖くないか。

怯えていないか。

泣かされていないか。


それだけが頭をよぎる。


だが、そんな私の心配も裏腹に、
ムジカはますます笑うようになってきた。


“お兄様!!この前ね、私と同じ悪魔さんがいたの!”


“同じ悪魔・・・?”


いったいどういうことなのか。


ムジカと同じ悪魔は私しかいないはず。


“あのね!見た目は黒いウサギさんなのに中身は悪魔なんだって!”


ああ、最近天上界にやってきた悪魔のことか。


あの黒ウサギは確かにムジカのように母上に実験体にされた悪魔だ。


強大な力を持つがゆえに
力を抑えるといわれる黒ウサギに閉じ込められた哀れな悪魔。


トップ成績で人間界に降りて行ったが、
何を思ったのか仲間の悪魔を食ってしまったという。


その罰として天上界に戻ってきたと聞いてはいたが。


まさかムジカと出会ってしまうなんて。


最近楽しそうに外に出て行くのは<友達>ができたからだったのか。


ムジカは
その<友達>にも笑顔を振りまいているのだろうか。


“あのね、ウサギさんB.B.って名前なの。B.B.っていたずら大好きでね、今日もいっぱいいたずらしちゃったの。”


“そうだったのか。いけない子だ。”


“お兄様・・・怒った?”


“まさか。怒らないよ。ただほどほどにしないと、父上に見つかってしまうからね。”


“はぁい!お兄様、大好き!”


“ああ。私も大好きだよ。ムジカ。”


だけどねムジカ。


君の笑顔は


私だけのものなんだよ?


私だけに
向けていればいいんだよ?


ムジカの気を引いてしまうものは
全部私が取り除いてあげよう。


ずっと


ずっと


私だけを見ていてられるように。







しばらくして、
ムジカは突然外には出なくなった。


一日中
部屋で泣いていた。


“どうしたんだい?いつもみたいに外へいかないのかい?”


“・・・・ぅっ・・・ひっく・・・・・・・・・・B・・Bが・・・ぃなくなっ・・・・ちゃっ・・た・・・・・・・・・・・・・・・・・・・”


“ちゃんと探した?”


“ぅん・・・・・でも・・・いなかったの・・・”


“おいでムジカ・・・今日は一緒にいよう。”


もちろん
こうなることくらいわかっていた。


だって
私が
黒ウサギを
人間界に帰してしまったんだから。


笑いがこみあげてくる。


ムジカが泣く顔も
傷ついた表情も
すべてを愛おしく感じてしまう。


そこで私はようやく気がついた。


私はムジカを
愛してしまっていると。


妹ではなく
一人の女として。


気づいたらもう止められない。


いや、
止まらなかった。


そうだ・・・・


ムジカを閉じ込めてしまおう。


ニ度と傷つかないように


鎖につないでしまおう。


そうすれば

ムジカは私にしか

笑わなくなるはず。




“お兄様・・・お外に出たい・・・”


“ダメだよムジカ。外は危ない。”


“いや・・お外に出たい!出たいの!!”


“うるさい!!”


ムジカを容赦なく殴りつける。


そうでもしないと
この想いが収まりそうにない。


“うぅ・・・・お兄様なんか・・・大嫌い・・・!!”


“そう。じゃあ、お仕置きだね。ムジカ・・・”


殴って蹴って


縛り付けて


何度謝ったってやめてあげない。


君が私を愛してくれるまで
やめてあげない。


“ごめ・・・なさ・・・おにいさま・・・!いやぁぁぁぁ!!”


こうしていれば
いつか私だけを見てくれるって信じてた。


けれど彼女は一向にこちらを振り向いてくれない。


まして笑顔なんて見えない。


変わっていくのは
エスカレートしていく暴力と
ムジカの苦痛に歪む表情だけ。


無常にも
時間だけが過ぎていく。


"ムジカ、顔を上げて?"


"・・・・・・"


"ムジカ"


"お母様に・・・会いたい・・・"


声を震わせながら小さくつぶやくムジカに
思わず目を見開いた。


なぜ


なぜ会いたがる?


自分を実験体にしたんだぞ?


"バカなことをいうな。"


"痛い・・・!!ぁあ・・!!"


さて


どうしてくれようか・・・。


・・・そうだ。


母上を殺してしまおう。


そうすれば・・・


ムジカを人間界に逃がすことができるかもしれない。


そして俺も後を追って行けば


2人だけで暮らせる・・・・・











"父上"


"どうした、ビットウィックスよ。"


"先日、ダーク・ホームよりエージェントのキャロル兄弟が天上界へやってきたと聞いたのですが。"


"ああ、あの3兄弟か。青二才の若造どもよ・・・。ビットウィックス、興味があるのか?"


"ええ・・・、少しばかり。まだまだ父上の護衛には力不足のようで・・・訓練が必要なのでは。"


"そうだな。ならばキャロルを当分の間、ビットウィックスに預けよう。頼まれてくれるな?"


"勿論でございます。お任せください。"


キャロル3兄弟

彼らもムジカと同じ
アルティメイト・プロジェクトの被害者。


そして私と同じように
母上のディズ=モーレを恨んでいる。


彼らと手を組めば
私が手を出しにくいダーク・ホームの研究室にいる母上を
彼らなら怪しまれずにすんなり殺すことができる。


彼らに近づかないワケにはいかないんだ。



"君たちかい?キャロル3兄弟は?"


"ぁあ?アンタ誰だよ?"


"今日から君たちの教育係になったビットウィックスだ。"


"ビットウィックス?あんたがサタンの息子の・・・"


"早速だが君たちには任務をだすよ。"


"なんでてめぇが命令すんだよ!!!"


"この女を殺してきなさい。"


"な・・・"


"わかったかい?"


"・・・・・。アンタの親じゃねぇのかよ。"


"これは極秘任務だよ。もし私と組む気があるなら、行っておいで。恨みをはらしに・・・"



意外と簡単に殺せてしまった。


母上を。


悲しみが少しはこみあげると思っていた。


けれど


込み上げてきたのは笑い。


なんと滑稽なんだ。


あんなに恨んだ相手がこんなにもあっさり死んでしまうなんて。


それから母上は行方不明として天上界を騒がせた。


誰も死んだことなど知らない。


父上は母上が逃亡したと思い
お怒りになっている。


そして怒りの矛先はムジカに向いた。


でもこれは予想通り。


こうし向けたのは紛れもなくこの私だ。


作戦がこうもうまくいくとは。


ムジカは父上に天上界から追放された。


理由はディズの血を濃く引き継いでいるというくだらない理由。


"・・お兄様・・"


最後にみたムジカは
ひどく哀れに見えた。


許してくれ・・・ムジカ。


お前を救うにはこうするしかないんだよ?


心配しないで。


すぐに迎えに行くから。







ムジカが人間界に降りてから数ヶ月がたった。


父上に半分殺されかけたムジカだが
どうやら無事にダーク・ホームにいるようだ。


だが
また1人
邪魔な奴ができた。


リオナ=ヴァンズマン


彼がムジカを父上の手から救ってくれたらしい。


そんな彼に
ムジカはまた
笑顔を見せるようになった。


今までになく
幸せそうに笑うムジカが許せなかった。


けれど
不思議と
彼への恨みよりも先に
興味が湧いた。


なぜムジカがあそこまでリオナになついているのか。


知りたくなった。


私は研究員としてダーク・ホームに行く許可をもらい
リオナと手合せをした。


手合せと言っても
作り物の"私"だが。


けれどリオナはすんなりともう1人の私を倒し
ムジカを連れてダーク・ホームから消えた。


少し遊びすぎたかもしれない。


私はムジカを捕まえるべく
まずはダーク・ホームのマスターを殺し
自らがマスターとなった。


何もかもが順調・・・


あとはリオナを殺してでも
ムジカを私の手に・・・


けれど
わからなくなった。


ダーク・ホームのマスターとなってから。


忙しい毎日に飲み込まれ
ムジカより世界を
自分の欲より世界の末を


案じるようになってしまった・・・


なんと・・・愚かなんだ。


私は


君を傷つけることしかできないようだ・・・・




気付いた時にはもう遅い。



手遅れだったんだ


何もかも・・・・・




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