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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story85 遺す者、遺される者



ああ・・・


また1つ


大切なものを


失った。















「おろして・・・マーシャ」


マーシャに抱えられたまま
どれくらい走ったのだろう。


ユリスとラードは遥か向こうまで行ってしまっている。


リオナは体をよじり
無理矢理マーシャの腕から抜け出した。


「こら、リオナ。」


マーシャは脚を止め
振り返る。


「・・大丈夫。自分で走れる。」


「うそつけ。どうせグダグダくだらねぇこと考えてんだろ。"また守れなかった"とか。」


「・・・・。」


確かにそうだ。


そう思ってる。


でも
くだらないとはなんだ。


くだらなくなんかない。


だって
守りたかった・・


大切な・・
仲間だから・・


下にうつむくリオナをみて
マーシャは呆れたようにため息を漏らした。


「まったくお前は。あのなぁ、さっきもベンに言われたろ。どんなことにも犠牲がつきものだ。誰かがやらなきゃならないことだ。」


「・・・でもベンがやる必要はなかった!!!」


リオナは睨むようにマーシャを見る。


別にマーシャが悪いわけじゃない。


だけど
そう簡単に割り切れるマーシャが許せないんだ。


「元々あいつらの目的は俺だった!!だったら俺が行けば・・」
「いい加減にしろ!!!!」


突然の怒鳴り声に
体がひるむ。


久しぶりにマーシャに怒鳴られた。


「お前はどうしていつも自分を犠牲にしたがるんだよ!!!」


マーシャの表情が苦しげで。


そこでようやく気が付いた


辛いのは・・皆同じなんだってことに。


「バカなこと言うんじゃねぇよ!!リオナがランダーとかいうへんちくりんに渡せばすべて丸く納まると思ったか!?ふざけるな!!!」


「・・・マーシャ」


「お前がいなくなったら・・!!俺はどうすればいいんだよ!!リオナはいいかもしんねぇけど・・俺は・・!!!」


言葉を濁す。


マーシャがこんなに血相を変えて怒鳴るのは
本当に珍しい。


バカだ・・・俺


こんなに大切な人が・・・


まだまだいるのに・・


「ごめん・・・マーシャ」


「わかればいい・・・俺も怒鳴って悪かった。」


マーシャがリオナの頭をくしゃくしゃっと撫でる。


恐る恐る上を向けば
またいつもの笑顔があった。


この笑顔が、いつも俺に自信を与えてくれる。


「あ。でもリオナ。お前B.B.をほったらかしにしちゃあいけねぇだろ。」


「・・・あ。」


すっかり忘れていた。


B.B.のやつ、きっと無理矢理追い出したこと、怒ってるんだろうな。


今どこに・・・


《えーい!!》
「・・・うわぁ!!!」


突然後頭部に柔らかい何かが当たった。


手を伸ばし
掴んでみれば
懐かしの黒いウサギ。


「・・・B.B.!!」


《オイラを忘れるなんてひどいよな!!》


「ごめんなB.B.・・・悪気はないんだ。」


《知ってるー。そのかわりオイラにお菓子買ってぇ!!》


「・・・はいはい。」


単純で
わがままで
ウザいけど


少し安心した。


《じゃ〜あ〜ムジカ達の場所まで競争!!!よーいドーンッ!!!》


そう言って勢い良く飛んでいってしまった。


相変わらず考えなしで行動する。


だからトラブルにも巻き込まれるんだよ。


「・・あのバカ。何考えて・・」
「ちょっと待て、リオナ。」


B.B.を追い掛けようとした時、
突然マーシャに腕を捕まれ止められた。


今日は珍しいことだらけだ。


またマーシャが難しい顔をしている。


「・・・どうかした?」


「いや、あのバカウサギがいない時って中々ないから。今、言っちゃおうと思って。」


「・・・何を?」


「えーっとね。リオナを愛してるってこと。」


「・・・・。」


違う。


マーシャが言いたいのは違うことだ。


嘘をついてる顔をしている。


「・・・ホントは?」


ばれちゃった?とマーシャは軽く笑うが
すぐに真剣な表情をした。


体中に緊張が走る。


「B.B.の過去のこと。」


「B.B.の・・・過去?」


意外な話題にクエスチョンマークが浮かぶ。


「そう。悪魔になる前の話。」


B.B.は確か元々は人間の子供だった。


だが人間だった頃のことは本人も忘れたと言っていたが。


「B.B.はムジカと同じ、アルティメイトプロジェクトの被験者だったんだ。しかも初めての。」


「は・・・?」


アルティメイトプロジェクト

対神用に生み出された人工悪魔最終兵器。


「ムジカの母ちゃんがB.B.を悪魔にしたんだ。こんなこと言いたくないが、失敗したらしい。」


「そんな・・・!」


そんなのって


酷すぎる・・・


怒りがこみあげる。


たとえムジカの母親でも・・許せない。


「人間を・・・何だと思ってるんだ!!!」


拳を握り締めるリオナに
マーシャが宥めるようにささやく。


「B.B.の本名はラビン、五歳くらいの男児だ。生まれは不明だがノースアイランドの右端に、B.B.が育った孤児院があるらしい。」


「孤児院・・・?」


「親に捨てられたみたいだな。そこでムジカの母ちゃんのディズ=モーレに拾われたらしい。」


「そんな話・・誰から・・・」


「ナツだよ。キャロル3兄弟の。あいつらもB.B.と似たような境遇でな。」


「そうだったのか?」


これが本当なら・・・
ひどい話だ・・・


ダーク・ホームの最強を誇る者達が
みな
アルティメイトプロジェクトの被害者だなんて・・。


「このこと・・・B.B.には言ってないんだよな?」


「当たり前だ。B.B.自身、忘れたとか言ってるけど、ナツは覚えてたんだ。もしかしたら言いたくなくてわざと忘れたっていってるのかもしれない。」


「そうだよな・・・」


ああやって
いつもバカばっかりやってるけど
本当は色んなもの抱えてるんだ・・。


それは誰にも見られたくない闇を抱えているから。


または
捨て去りたい過去があるから。


どちらにせよ、
傷が癒えてはいないということ・・・


「まぁ、B.B.に伝えるにしろ伝えないにしろ、契約者のお前には言っといた方がいいと思ってな。」


「・・ああ。ありがとう。もうちょっとしたら・・・B.B.と話してみる。」


リオナはため息をつきながら
天上を見つめた。


また1つ
大切ななにかが
消えていく気がした。




















時は少しさかのぼる。


ムジカとシュナは黒の屋敷を出て
赤の屋敷に向かって走っていた。


ムジカは時折空を見上げては、
何かをつぶやいている。


何を言っているかはわからないが、最後には必ずうっすらとだが笑顔が見える。


「変わったね、ムジカ・・」


シュナはムジカの顔を覗き込む。


初めて会った頃は
いつも泣きそうな顔をしていたのに。


リオナがいなきゃ
何もできない弱い女の子だった。


だが今はその面影さえ見えない。


「たくましくなったよ。」


そう言うと
ムジカは目を丸くしてシュナを見た。


そしてだんだんと頬を赤く染め、また前にむきなおす。


「そうかな・・?そしたらリオナのおかげだね。」


ムジカは満面の笑みで再び空を見上げた。


「リオナとね、色んな世界を見てきたよ。世界って広かったな・・。私が今まで見てた世界とは大違いだった。」


その言葉にふと頭に浮かんだムジカの過去。


兄であるビットウィックスに監禁そして虐待されていた。


リオナから話はチラッと聞いたことがあったが、
詳しくは知らない。


だが
ムジカの心には今も深い傷となって残っているはず。


だから好奇心だけでの深入りなんて簡単にしてはならない。


シュナはそう自分に言い聞かせ、
少し下がり気味だった顔を前に向けた。


するとその時
ふとムジカと目が合ってしまった。


というか
ムジカがジッとシュナを見ていた。


「どうかした・・?」


ムジカは不思議そうに首を傾げた。


「い・・いや!!なんでもないよ!!」


必死に笑顔をつくり
走るスピードを上げた。


赤の屋敷が見えてきた。


あと少し・・・


「シキさん・・・」


今・・助けに行きますから・・!!!


だが次の瞬間。


・・・・・ゴォォォォオオ・・・・


低い地鳴りが鳴り響く。


「なんだ・・!?」


まるでなにかが近づくような・・


「・・・!!!!シュナ伏せて!!!」
「!?!?」


ムジカの声とほぼ同時に2人は地面に伏せる。


頭上を何かがものすごいスピードで過ぎていった。


「なんだったんだ・・?」


そっと顔を上げれば
まわりに生えていた木々がすべてキレイさっぱり無くなっている。


一歩遅かったら体が真っ二つになっていた。


そう考えると恐ろしくてたまらない。


「ムジカ・・・大丈・・」


シュナは言い掛けた言葉を飲み込んだ。


ムジカの瞳がいつになく真っ赤に染まっている。


血より濃く
まるで野獣のような鋭さ。


シュナはムジカの視線を追う。


「・・・・・・!!」


その先には・・・・























「さて・・真実を言ってもらおうか。シキ。」


赤の屋敷前


静かに波たつ青い芝生にシキは乱暴に投げ出された。


両手両足を縛られているため
立ち上がれない。


服は乱れ
短く切りそろえられていた髪は
今は少し長くなっている。


「哀れな男だ・・・言えば殺さないでやるのに」


目の前に立つビットウィックスは
呆れたように息をこぼす。


「シキ・・キミがフェイターではないことくらい、わかっている。」


その言葉に
シキは睨みあげるようにビットウィックスを見た。


「・・・じゃあ・・なんで俺を捕えた?」


「キミが何かを企んでいるからだよ。それに、私たちは真犯人を知らない。」


そう言ってビットウィックスはにこりと笑い
シキに近づいた。


そしてシキの顎をつかみ
顔を近付ける。


「一体、誰が真犯人なんだい?そしてキミは何を企んでいる?」


不気味に歪む口元に
シキの体がびくりと反応する。


「・・・・。」


「何を隠している。」


「・・・言ってもムダなんだ。」


するとシキは小さく笑いながら
蔑むように目をあげた。


「どうせ俺は・・・もう死ぬ。」


「何を言う?意味がわからないな。」


この男・・・何を考えている・・・


ビットウィックスは眉を寄せる。


「自殺をするのかキミは?」


「まさか・・・。無駄死にするつもりはない。そうだな・・・」


シキは縛られた両手を前にさしだす。


「手を自由にしてくれたら・・・話してやってもいい。」


「は?ふざけているのか?死刑囚をなぜ逃がすような真似をしなくてはならない。」


「別に足枷を外せとは頼んでない。まぁ知りたくないならそれでいい・・・・」


「・・・!」


悔しそうに唇を噛むビットウィックスに
シキは勝ち誇った顔をした。


仕方なく
ビットウィックスはゆっくりとシキの手枷を外していく。


カシャリと音をたて
手枷が外れる。


シキは軽く手首を解しながら、ありがとうと呟いた。


そしてボロボロになったスーツの胸ポケットから
小さな四角い透明な石を取り出した。


「ビットウィックス・・お前にはコレが何かわかるか?」


「ただの水晶石にしか見えないが?」


「ただの水晶石にこんなに命を懸けたりしない・・・」


バカにするように冷笑するシキ。


こんなシキを見たら
おそらくシュナは目にいっぱい涙を浮かべるだろう。


ビットウィックスは込み上げる怒りを押さえ
怒りを飲み込むように唾も飲み込む。


「では何だと言うんだ?その水晶石のようなちっぽけな物を守るためだけに、キミはフェイターであるという偽りの罪を受け入れたのかい?馬鹿馬鹿しい。理解しがたいよ。」


しかし皮肉混じりの言動に
シキは眉一つ動かさず、
むしろ哀れむような目を向けた。


「守るためだって?違うな・・・全然違う。俺はコレを壊したかったんだ。」


「何だと?」


「これは"ローズ・スピリット"だ・・・」


「ふざけているのか?」


シキの口から飛び出した思いがけない単語に
ビットウィックスは呆れたようにため息を漏らした。


「ローズ・スピリットはそもそも固形物ではない。この地に染み付いた、いわば精神体なのだ。」


「その精神体を俺は長年の研究で固形物にすることに成功したんだ・・信じないなら信じなくていい。」


シキは手を引っこめ
指でローズ・スピリットを包み込んだ。



「俺は今日・・・このローズ・スピリットを破壊するために、命を棄てる。命に変えてでも、破壊してみせる。」


またバカなことを、とビットウィックスは再びため息をつく。


「それはキミにしかできないことなのかい?キミが命を捨ててまでやることなのかい?」


「俺はフェイターとエージェントの子供だ・・・両方の力があるからこそ、破壊できる。俺にしかできない。」


無表情に話すシキに
ビットウィックスは呆れて肩をあげた。


「ならば捕まった時にさっさと死ねばよかったものを。キミが今日まで破壊を試みず、長い間拷問を受けていたことに何かメリットはあったのかい?」


まさかマゾだったのか?

冗談だろと鼻にかけて笑った。


だがシキは一切反応しない。


まったく
面白みのない男だ。


「残念だが、俺はお前の冗談に付き合っているほど気分が良くないんだ。それにメリットならあるさ・・・。」


油断をしていた。


足枷ひとつを完全に信用しきっていた。


シキは両足で思い切り地面を蹴り上げ、
ビットウィックスに飛び掛かった。


地面に倒れこんだビットウィックスに
馬乗りになる。


そしてローズ・スピリットを持っていた右手を
そのままビットウィックスの首に押しあてた。


「・・・何をする!!!キミは頭がおかしくなったのか!?」


「おかしくなんてなってないさ・・。お前も一緒に死んでもらう、それだけの話・・・。」


ビットウィックスは歯を食い縛り
力付くで押し退けようとする。


だが
シキはびくりともしない。


「なぜ私が死ななければならない!!!私はダーク・ホームのマスターだぞ!!!」


「残念だが・・俺はお前をマスターと認めてはいない。」


「・・何だと!」


「前マスターを殺したのはビットウィックス、お前だろう?」


シキの口から出てきた言葉に
ビットウィックスは目を見開く。


「前マスターは自殺だと言われている・・・だが俺はわかってるんだ、お前がマスターの座を奪うために前マスターを殺したと。」


「・・っ・・!!」


「マスターは確かに厳しいお方だった・・。俺の親友のマーシャやリオナたちを容赦なく追い出した。だけどマスターは俺を幾度となく救ってくださったお方なんだ・・・そのお方をお前は簡単に殺したんだ。許せない・・・だから今、俺はお前と、このローズ・スピリットをこの身を撤してでも・・消し去る。」


シキの青い瞳が赤く染まる。


身体中に白と黒の光が集まりだす。


不思議な光景だ。


これこそが
悪魔とフェイターの力か。


ビットウィックスはハッとする。


こんなところで死ぬわけにはいかない。


ビットウィックスはシキを止めるため、
一気に蓄めていた"気"を解き放った。


ビットウィックスの気は地面を震わせ、
かまいたちのように木々を裂いた。


だがシキが止まる様子はない。


くそ・・・・


ここまでか・・・ここまでなのか・・・






ムジカ・・・・










「シキさんッ・・!!!!!!!」


だがその瞬間、
声が聞こえた。


聞きなれない
少年の声が。


しかし
たったその声で
シキの動きが止まった。


首をつかんでいた手の力が一気に緩んだ。


「やめて!!!シキさん!!」


「・・・・シュナ?」


シキは呆然と顔を上げる。


その瞬間
シキの胸にシュナが抱きついてきた。


「やめてシキさん・・!!もうやめて!!」


シュナは涙を堪えながら
必死にしがみつく。


離さないように。


もう二度と
失わないように。


「シュナ・・目を覚ましたのか。」


シキは哀しげに小さく笑う。


内心すごく驚いた。


こんなに早くに目覚めるなんて・・・


手をシュナの頬にあて
優しく撫でる。


少し痩せた気がする。


小さくなった。


そんなシュナが
頬におかれたシキの手をぎゅっと握りしめた。


「なんで1人で抱え込もうとするんですか・・・!!!なんで俺をおいていくんですか!!!」


今までに見たことが無いくらいに必死なシュナに
少しだけ戸惑う。


「俺はシキさんのそばにずっとずっとずっといたいんですよ・・!?!?!」


「・・・・シュナ」


「死なないでください・・!!死なないでくださいよ!!!!!ローズ・スピリットのためだけに死なないでください!!!!」


シュナの大きな瞳から我慢し切れず雫がこぼれ落ちる。


やはりシュナも知っていたのか・・・


シキは指で
こぼれ落ちる雫をすべてすくい上げていく。


「シュナ・・・聞いてくれ、ローズ・スピリットを破壊しなければ神が復活してしまう。世界を破滅の道に引きずり込んでしまう。誰かがやらなきゃいけないことなんだよ・・・」


「そんなこと知らない!!!!世界なんてどうでもいいじゃないですか!!!!!!」


「シュナ・・・!!!」


シュナから飛び出した言葉に
シキは思わず眉を寄せてしまう。


こんなこと
シュナから聞きたくなかった。


彼には
世界を救うことを一番に考えてほしかったから。


それはシュナが光妖大帝国の王として。


何よりも
1人の人間として。


「俺はもう決めたんだ・・・。挫けさせないでくれ・・・」


シキはそっとシュナを体からはがす。


だが
シュナはしぶとくくっついてくる。


こんな細い体のどこにそんな力があるのだろうか。


「放せシュナ・・・!!!」


「イヤです・・!」


なんて頑固な・・・


眉をよせ
口調を荒げる。


「離れろ!!邪魔だ!!!」


「絶対イヤです!!!!!!」


苦しくなる。


体中が。


もう


本当に


「いい加減に・・・」
「シキさんは俺の命なんだ!!!!!!」


「・・・・!」


今までになく大声で叫んだシュナに
シキはビクッと体を震わせる。


シュナは噛み付くように
声を荒げる。


「シキさんはいいかもしれない・・・!!ローズ・スピリットを破壊して死んで・・・・でも残された俺はどうすればいいんですか・・!!!!」


「・・・・」


言葉が


突き刺さる。


「1人にしないでください!!!1人に・・しちゃイヤです!!!!!大好きなシキさんがいない世界なんて・・・!!イヤだ!!!ずっと一緒にいたのに・・・!!イヤ・・・イヤだよ・・・!!」


「・・・シュナ・・・」


こんなにも激しく乱れるシュナに
唖然としてしまう。


こうさせたのは他でもない自分なのに・・。


「・・シキ・・・さん・・お願・・・いです・・・」


わかってる・・・


わかってたんだ・・・


シュナが嫌がることくらい・・。


シュナは優しい子だ・・


優しくて・・・それでいて甘えたがりで・・・
弱虫だ・・・


だけどムダに頑固で・・・
自分の意志は絶対に曲げないくらい意地っ張り。



そんな彼を1人にすることはイヤだった・・・


不安だった・・・


でもそれは
思い違いだったのかもしれない・・・


1人になりたくなかったのは
自分だったんだ。


シュナを手放したくなかったのは
紛れもなく俺だったんだ・・・。


だから


俺から解放するために


シュナを眠らせていたのに・・・・



今更・・・


今更になって


1人残された者の悲しみを知るなんて・・・


「やめてくれ・・・・シュナ・・・」


声が、震える。


「シキ・・・さん?」


不安げに見上げてくるシュナを
シキはぎゅっと抱き寄せた。


「これじゃあ・・・俺は・・・世界を救えないじゃないか・・!!!!」


世界を見捨て・・・


君を選んでしまう・・・


どれだけ愚かな行為だか・・・


キミはわかっているのか・・・


「・・・選んでくださいよ」


シュナの声が
体に振動となって伝わる。


氷の心を
熱い振動が溶かしていく。


「俺を・・・選んで・・・・・シキさん・・・大好きです・・・・・・世界より・・・俺を救ってください・・・」


決意が


一気に崩れさる・・・


「もう・・・1人はイヤです・・・怖いです・・・だから・・・」


気が付けば
シュナをこれ以上なく抱き締めていた。


ああ・・・


なぜ気づかなかったんだ・・・。


大切なものを・・・


また・・・


失うところだった・・・


「・・1人じゃないから・・・シュナ・・・」


世界より


「・・俺がいるから・・・」


君を選んでしまった


俺を許してください


「ぅぅッ・・・ぁぁぁ・・」


泣きじゃくるシュナを優しく抱き締めながら
シキは小さく笑った。









少し離れたところから
ビットウィックスは静かに2人を見つめていた。


まったく・・・騒がしい奴らだ。


呆れたようにため息をもらす。


けれど・・・


2人を見るたび
体の奥がズキっと痛む。


そして必ず
彼女の姿が浮かぶのだ・・・



なぜだ・・・


なぜなんだ・・・


こういう"愛し方"があったとでもいうのか・・・


ビットウィックスの赤い瞳が陰る。


別に後悔しているわけではない。


ただ


ただ


こういう未来もあったかもしれないだけのはなしで・・・


ビットウィックスが思考を巡らせていたその時
誰かの視線を感じた。


ビットウィックスはゆっくりと振りかえる。


「・・・な・・・」


口が閉まらない。


いつから・・・そこにいたのだろうか・・・


「ムジカ・・・」 




2人の歯車が



ゆっくりと





廻りだす。


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あきゅろす。
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