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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story84 永遠の唄



"ねぇ、ベン"


"・・・・リオナか・・・どうした・・・・?"


"ベンはさ、何でダーク・ホームに入ったの?"


"・・・・俺か・・・・?"


"そう。マーシャも、ラードも、ユリスも、みんなして「正義のため」とかいうんだよ。なんか嘘っぽいんだよね。"


"・・・ははは。そうだな。嘘はいけないよな・・・・。"


"でしょー?でもね、ベンなら本当のこと、教えてくれそうだなぁって。ね、ベン。"


"・・・・そうともかぎらんぞ・・・?"


"でも、ベンは教えてくれるでしょ?"


"・・・・うーん、俺は・・・・・"















「・・・ベン。」


リオナは逃げずに待ち構えているベンの元に走っていく。


少し距離をとって立ち止まった。


ベンはいつもと変わらず無表情。


唯一違うのは
白い装束を身につけていることくらい。


そんな彼を目の当たりにしても、やはり裏切り者だなんて信じられない。


いや・・・信じたくない。


「・・・久しぶりだなリオナ・・・。」


ベンはゆっくり手を挙げ
左右に振る。


こういうところ、
全然変わってない。


「・・・元気にしていたか・・・・?」


だから、ますます、信じたくなくなるんだ。


「・・・まぁ。」


「・・・一年半の長旅はどうだった・・・・?・・・・収穫はあったか・・・?」


「・・・色々あったよ。嬉しいことと辛いことが半々くらい。いや・・・辛いことの方が多かったかな。」


苦笑を浮かべてからハッとした。


俺、なに呑気に話してんだよ。


完全に相手にペースを持っていかれている。


「・・・・だが・・・またここでリオナに会えて良かった・・・・・」


相手ペースに飲まれる前に
リオナは真顔をつくる。


「・・・俺はこんな再会、したくなかった。」


リオナはさらにベンに近づき
胸ぐらを掴む。


自分より確実に背の高いベンを
力の限り持ち上げた。


「・・・全部、嘘だったのか。」


「・・・・・」


「・・・・今まで俺たちと過ごした時間は!!全部・・偽りだったのか・・!!?」


リオナの表情が一気に歪む。


わかっていた。
いくら表情を歪めても
ベンの表情は変わることはない。


どんな言葉を吐き出したって・・・"ベン"はもう戻ってこない。


拳が震える。


けれど震えるは止まることはない。


怒りからか悲しみからか・・
それすらわからない。


「・・・・そんなことはない・・・・。・・・リオナたちと過ごした時間は・・・すべて今に繋がっている・・・。ムダではなかった・・・。」


「・・・アンタは俺たちを利用してたってのか!!!俺たちを一度も仲間だと思ったことはなかったのか・・・!?」


声が反響する。


無言の時がたんたんと進んでいく。


ジッとベンの瞳を見つめていても
ピクリとも動くことはない。


「・・・思っていなかった、と言えば・・?」


小さく呟いたベンを
リオナは思い切り押し倒した。


そして右手で拳をつくり
おもい切り振り上げる。


だが


「・・・・ッ・・」
《リオナ!?》


リオナは拳をベンの顔の前でピタリと止めてしまう。


歯を食い縛り
何かを堪えている。


「・・・なぜ、殴らない・・・・」


「・・・・・」


ベンは上に乗ったままのリオナの頬に手をおく。


「・・・本当は・・殴りたいくらい俺が憎いんだろう・・・?」


だがリオナは力を押さえ込むように
ベンの胸に拳をおいた。


「B.B.・・・俺から離れて・・・・」
《は!?なんで!?なんでなんでなんでぇ!?》


突然の拍子抜けするリオナの言葉にB.B.は不満な声をもらす。


《だっ・・・今抜けたらリオナ!!!》


今B.B.がリオナから出てしまえば、
それは敵にたいして完全に試合放棄を表してしまう。


それでもいいというのか。


「いいから。」


だが
リオナは有無を言わせない。


自分の頭からはえでているB.B.の耳をつかみ、無理矢理引き抜いた。


そんなリオナを見て
ベンは初めて顔をしかめた。


「・・・リオナ・・・一体何を考えて・・」
「まだわかんないの・・!?」


リオナは顔を上げ
ベンの目を見つめる。


「俺はアンタを攻撃しない・・!」


「・・・・・?」


「ベンは確かに俺やマーシャやシュナの家族を奪った・・・・でも・・・アンタは俺の中じゃ今でも仲間なんだ!!」


ベンの胸ぐらを引っ張り
体を起こす。


「俺はベンと戦いたくない・・・!!!連れ戻したいんだ・・・あんな奴らから・・・!!」


本当は一発殴ってやりたい・・・


どうしてあんなことをしたのかって・・・ちゃんと聞きたい・・・


でも・・


そんなことより・・・今は


本当の"ベン"を取り戻したいんだ・・・・


「だから今すぐ・・・!!」
「・・・勘違いするな・・・・」


すると耳元で低い声が響き渡る。


聞き覚えのないくらい低い声で。


その瞬間
ベンはリオナの首を片手でつかみ
そのまま体を宙に持ち上げた。


形勢逆転とはこのことだろう。


気管が締まり
苦しげに身を捩る。


「・・ぁッ・・!!」


「・・・俺はお前らに何の感情も持っていない・・・。・・・いつどこでのたれ死のうか関係ない・・。・・・それは俺がフェイターであるからだ・・・。」


ギリギリと首を握り締める力が強くなる。


《リオナぁぁぁぁ!》


危機を察し
B.B.がリオナの中に入ろうとする。


だが
リオナは自らの手でB.B.の体を払いのけた。


《バカなにやって・・!!》
「ぅ・・・ッるさい!!!!」


そう呟き
痛みに悶えるが
決して抵抗しようとしない。


そんなリオナにベンは冷笑を向け
壁に思い切り叩きつけた。


「・・・がッ・・・は・・・・!!!!」


体中に痛みが駆け巡り
リオナは片膝をつけて顔を下げる。


息だけが虚しく上がる。


「・・・・何がしたいんだリオナ・・・・」


「ぁッ・・・・・!」


顎を捕まれ
無理矢理上を向かされる。


酸素がうまく取り入れられず
視界がぼやける。


「・・・ベ・・ン・・・」


・・・今彼は・・・どんな顔をしているのだろう・・・


ジッとみてみれば・・・少し・・・眉を寄せてる・・・


・・・やっぱりそうじゃん・・・・・


「俺は・・・信じ、てるよ・・」


「・・・何を言ってる・・・・」


「ベンは・・・やっぱりベンのままだよ・・・」


「・・・・・戯言を言うな・・・・」


「戯れ言なんかじゃない・・・。ベンはまだフェイターになりきれてない。」


「・・・・なんだと・・・?」


ベンはリオナの顎をつかむ手に力をこめる。


「もし本当にフェイターなら、こんなに力を抜いたりしない。」


「・・・・だまれ・・・・」


「きっとベンはまだ・・・」
「だまれ!!!!」


声を張り上げ
息を荒げる。


瞳は瞳孔が開き、怒りに満ちあふれている。


ベンはリオナの髪を掴み上げ
顔を近付けた。


「・・・うぬぼれるのもいい加減にしろ・・・!!!お前に攻撃できないのはまだ仲間だと思ってるからだとでもいうのか!?・・・ふざけるな・・・・!!」


そのままリオナを逆側の壁に投げつける。


「ぐぁ・・・・・・・!!!!」


「・・・お前を殺せないのはアシュール様からの命令だ・・・。・・・リオナが神となる存在でなければこんな回りくどいことはしない・・・。・・・もしお前がマーシャだったら痛みを感じる間も与えずに殺している・・・・。」


「・・っ・・・嘘だ」


「・・・俺はフェイターだ・・・・神のご遺志に逆らうものがあれば・・・すべてを抹消する・・・。」


「・・・・・!」


たんたんと述べる様に
リオナは手を握り締める。


爪が食い込み
血が滲む。


「そうじゃないだろ・・!ベン・・・!!」


痛む喉をさすり
ベンを睨みあげる。


「・・・何が神の遺志だ!!!!何がフェイターだ!!!世界を壊して・・人の人生奪っといて・・!!!」


・・神の創造する世界なんて・・・・


「くだらない幻想にしがみつくなよ!!!!!!!!!!」


ぶち壊してやる・・・


二度とそんな世界は


つくらせない・・・


しかしその瞬間
地鳴りのような響きが体全体を襲う。


「・・・お前に何がわかる・・・!!!!!」


再び声を張り上げるベン。


だが、先ほどとはなにか違う。


殺気のような
鋭い気を肌に感じる。


「・・・神を冒涜するならリオナでもゆるさんぞ・・・」


喉元に爪をたてられる。


真っ赤な血が
一筋の線となり流れ落ちていく。


初めて感じるベンへの恐怖に、
リオナは唾をごくりと飲み込んだ。


「なんで・・・・そこまで神にこだわるんだ・・・?」


神は世界を破滅に導いたのに・・・


「俺たちは・・神に絶滅されかけたんだぞ?なのにどうして・・・」


「・・・・・・・・・」


ベンはリオナの目を見て
なぜか深いため息をついた。


そのまま首もとにあてていた手も引っ込める。


リオナはベンの手にこびりついた自身の血を
ぼんやりと見つめていた。


「・・・・・おれたちフェイターが人間だと・・・?・・・・愚かな人間と一緒にするな・・・。」


「・・・・?」


まるで人間では無いような口振りに
思わず眉をひそめる。


そんなリオナを見てか
ベンはさらに呆れたようにため息をついた。


「・・・本当に無知なのだな・・・・ならば教えてやろう・・・・我々フェイターの歴史を・・・・」


そう言うと
ベンはリオナの頭を掴んだ。


一瞬リオナは身を退こうとするが
すぐに動きを止める。


・・・逃げちゃダメだ。


ここで逃げたらベンを連れ戻せない。


リオナは唇を噛みしめ
ゆっくりと目蓋を閉じた。


真上からはベンの低い声が聞こえてくる。


なにか呪文を唱えているのか・・・


そんなことを考えていたら
目の前が急に明るくなった。


目蓋を閉じているはずなのに
まるで外にいるような感覚を覚える。


《リオナぁぁぁぁ!!》


B.B.が必死に呼び掛ける。


だが
リオナは全く動こうとしない。


それに苛立ち
何を思ったのか勢いよくその場を飛び立っていった。


それをベンはただ横目で見ただけで
追おうとはしなかった。


「・・・契約者を残して逃げ去るとは呆れたものだ・・・なぁリオナ・・・」


「・・・・。B.B.はそんな奴じゃない。アイツは天上界一の悪魔だ。早くしてくれ・・」


リオナは眉を寄せ
ギュッと目蓋に力を入れる。


「・・わかった・・・」


するとその瞬間
一気に目の前が開けた。


恐らく幻覚だろう。


まるで自分が空を飛んでいるかのように
どこかの国を上から見下ろしている。


周りが海に囲まれているから
きっと島国だろう。


でも、どこか懐かしい。


「・・・見覚えがあるだろう・・・?」


上から降り注ぐ声にリオナは小さく頷く。


「・・・・ここは今でいうダーク・ホーム、神の島だ・・・・」


「ここが神の島・・・?」


「・・・・約一万年前のな・・・」


目の前にある神の島を唖然と見つめる。


一万年前の神の島は
今のダーク・ホームと比べられないくらい発展しているように思える。


巨大な都市が広がり
真っ白い建物が連なっている。


人々も真っ白い服で統一され
まるで・・・・


「まさか・・・」


リオナはハッとし
息を呑む。


「・・・ここはまだ神が存在していた頃の神の島、神真帝国・・・・そしてフェイターの祖国だ・・・」


「フェイターの・・?」


ちょっと待て・・・


フェイターは光妖大帝国の人間ではないのか?


光妖大帝国の王族派を打ち破る反政府組織ではなかったのか。


「・・・我らフェイターは神真大帝国の住人・・・神の政治の手助けをしていた・・・。・・・それはそれは平和な国で、他の五大帝国よりも発展していた・・・だが・・・・」


ベンのくぐもった声と同時に
目の前の光景が変わった。

真っ白い光景から一転、
目の前が真っ赤に染まった。


熱い・・・


・・・人々の悲鳴が耳に張りつく。


「・・・苦しいだろうリオナ・・・・?」


「・・・・ッ」


「・・・これは神が五大帝国に封印されたときのものだ・・・国は焼き払われ・・・国民も虐殺された・・・。・・・すべてが終わり・・・すべてが始まった日だ・・・・」


神が封印されたときにこんなに犠牲が出ていたなんて・・・


「・・・その後生き残った神真大帝国の国民は、皆光妖大帝国に拘束された・・・。・・・事実上奴隷として光妖大帝国に住まわされたんだ・・・。・・・奴らはひどい・・・老若男女かまわず乱暴に扱い・・・女はみな光妖大帝国の人間との子供を無理やり孕まされた・・・・。」


「神の血を・・・・絶とうとしたのか。」


「・・そうだ・・。・・今では純血者はただ2人しかいない・・・1人は神の実子・・ルナ=ローズ・・・・そして残りの1人が・・・」


リオナはゆっくり目蓋をあげる。


ベンを見上げ
耳をそばたてる。


「・・・・我らがフェイターの王・・・・アシュール様だ・・・・」


「アシュール・・・」


ここ最近よく聞く名前だ。


関わるな
気を付けろ


その名前を聞くたびに
もう一人の自分に言われている気がする。


「・・・アシュール様は唯一の純血・・・そんな彼が何十年も前、ようやく立ち上がったんだ・・・神を復活させ、我々神真大帝国を侮辱した人間を滅ぼそうと・・・・。それがフェイターだ・・・。」


「・・・・!」


「・・・アシュール様はルナ=ローズと手を組み、ローズ・ソウルの回収を試みた・・・。・・・その後ルナ=ローズに裏切られたが・・・。・・・そんな時、俺に任された仕事がルナの奪還、ダーク・ホームにあるローズ・スピリットの調査、光妖大帝国王族であるシュナの抹殺・・・そしてフェイターの裏切り者のシキの始末だ・・・。」


「シキは・・・・フェイターなのか?」


「・・・・シキはフェイターとダーク・ホームのエージェントとの子供だった・・・。・・奴はフェイターにはならず、悪魔と手を組んだんだ・・・ただそれだけの話・・・。・・やつは始めから気付いていた・・・私がフェイターだと・・・まぁこの勝負は俺の勝利でおわりだがな・・・。」


リオナは額に手をあて
目蓋を閉じる。


なんとも言えない隠された歴史。


自分が知らなかった真実。


今まで一方的に神を悪く思っていたのが間違いだったのか・・・。


俺たち人間が本当はいけなかったんではないか・・・。


迷いがリオナを襲う。


「・・どう思った・・リオナ・・・?」


「正直・・・わからない。」


昔から何度も考えたことがある。


どちらが正しくて
どちらが間違っているのか。


神が間違っていて
悪魔が正しいのか。


でも昔
マーシャが言っていた。


"世界なんて間違いだらけだ。どっちが正しくて、どっちが間違いだなんて決められない。そいつが間違いだと思うことは間違いだし、正しいと思うことは正しいんだ。歴史なんてその繰り返し。だから争いが起きる。それが大きいものだったり小さいものだったり。でもな、それは価値観の問題なんだ。わかるかリオナ?まだお前には難しいかもしれないけど、正しいか間違ってるかは結局個人の価値観なんだよ。だから争いは絶えない。人間が"人間"であるかぎり。でも裏を返せばある意味、争いは絶えてはいけないんだ。まぁ大きい争いはあってはいけないが。もし争いが絶えたとき、それは人間が価値観をなくしたとき、人間が"人間"ではなくなった時だ。"


あの時はまだ幼かったから
意味がよくわからなかった。


でも・・・今ならわかる。


どちらが間違っていてどちらが正しいのか。


その考え方自体が間違ってるんだ・・・。


そういうことだよな・・・マーシャ。


「なぁベン・・・。」


「・・・・」


リオナは目を開け
ベンを見上げる。


「確かに人間は・・・アンタたちフェイターや神に酷いことをしたかもしれない・・・。でもな、そうなったのは神が世界を滅ぼそうとしたからだろ?恩を返さない人間が恨めしかったからだろ?もしかしたら人間は感謝の心を忘れていたのかもしれない。でもさ、神なら・・世界を納める神なら・・・そんなものいらないだろ?それだけのせいで世界を滅ぼされたら、人間だって黙って見てるわけにはいかない。」


結局やりすぎには変わりないけど・・・・


「とにかくさ・・・人間も間違ってたしアンタたちも間違ってた。それをお互いに攻め合ったってきりがない。だってお互いに自分たちが正しいと思ってるんだから・・」


チラッとベンを見る。


正直
怒ると思った。


こんな話をして。


しかしベンは怒る素振りを見せず、むしろ困ったようにリオナを見ていた。


・・ああ・・やっぱり。


「・・・こんなに、面とむかって言われるのは初めてだ・・・。」


「え・・?」


「・・・まさかこんな風に・・・宥められるとは思わなかった・・・」


ベンは苦笑を浮かべる。


今までベンの笑顔なんてなかなか拝めなかった。


そのせいか
思わず見入ってしまう。


「・・だからといって・・俺の意志は曲がらない・・。それは自分が正しいと思っているから・・・・そうだろう・・・リオナ・・・?」


「そ、そうだけど・・・」


逆手にとられてしまった・・・。


リオナはムッとして
なにがなんでも食いかかる。


「俺がいいたいのはそう言うことじゃない・・・!!人間もフェイターも間違っているんだ・・・だからもうやめよう・・!!神の復活なんて・・・!なぁベン・・・!」


「・・・・・・・」


ベンは眉をひそめる。


「神を復活させてどうするんだ・・・!?人間を滅ぼして自分たちだけの世界を作り上げるのか・・!?・・・そんなの虚しいだけだろ!!!」


「・・・・・!」



「ベンも迷ってたはずだ!俺みたいに・・!ベンはダーク・ホームにきてからわからなくなったんだろ!?どちらが正しいか・・・」


「・・違う・・・!!」


「じゃあなんで十何年もたった今・・・・シキが殺されようとしてるんだ!!!!しかも他人の手で!!!アンタの手で殺す機会なんていくらでもあったのに・・!!!それに・・・!!ベンがフェイターだって知ってユリス・・・ずっと泣いてた・・・!」


「・・・っ・・!」


ベンの顔に動揺が滲み出る。


両手で頭を掴み
ゆっくり首を横に振っている。


「アンタにはアンタのために涙を流してくれる仲間がいるんだ!!!感情を押し殺すなよ・・・!!!そうやっていつも無関心な顔して・・ホントはそんなことないくせに!!!仲間を・・俺たちを守ってくれてたくせに!!!ベン!!!」


「違う!!!俺はヒュウだ!!!!!」


「そんなやつ知らない!!アンタははじめから今までベンだ!!!!」


「ちが・・俺は・・!!!!」


「ベン!!」


「ヤメロォォォォォ!!!」




















・・・人間が憎かった・・


先祖に辱めを与えた人間が・・・・・


本当に・・・本当に・・・憎かった


人間なんてみんな滅べばいい。


己の醜さにひれ伏され
苦しみ悶えて死にしがみつけばいい。


そう思っていた。


だから


アシュール様から任務を任された時
とても名誉だと思えた・・。


"行っておいで・・ヒュウ。自信を持って。君にこの任務を任せるのは、一番信頼しているからだよ。"


俺の憎悪は誰よりも大きい。



アシュール様からの言葉を胸に
俺の復讐が始まった。


どんな人間にも無関心無感情を徹した・・・・


愚かな人間なんかと一緒になりたくない。


"おーい!!てめぇが俺と同室なんだろ!?っておい!!!ラード様を無視するったぁいい度胸じゃねーか!!!!"


でも・・・


"やだー!久々のイ・ケ・メ・ン♪ねぇ私ユリス!!気軽によんでよね。"


どいつもこいつもうるさい奴ばっかで・・・


"ぁあ?誰だっけアンタ?あーベンって言ったっけ。俺マーシャっていう名前だけどまぁ忘れていいから。うん。気が向いたら覚えといて。"


どうにもこうにも・・・わからなくなっていったんだ・・・



"あッ・・・ベン!!ちょっと待て!!お前もまだ報告書だしてないだろう?まーったく・・・マスターに怒られるのは俺なんだからな!!"



平凡な毎日に溺れて
わからなくなったんだ・・・


ベンなのかヒュウなのか・・・・


俺は一体どっちなんだ・・・


そんな時
リオナが現れたんだ


"おーいベン。ちょっとこいよ。さっきも見せたけどーこいつ今日から俺の恋人だからーあはは。っておいリオナ隠れるなって!"


"・・・・。恋人じゃないもん・・・。"


"リオナくんは照れ屋なんだから。ほら挨拶。"


"よろしくお願いします・・!"


はじめはただの子供かと思っていた・・・・


だが
リオナが大魔帝国の生き残りで
ローズ・ソウルを持っていたとは・・・。


本当に、驚いた。


それから俺の任務が一つ増えた。


それはリオナを守ること。


はじめは納得がいかなかった。


なぜこんな殺し損ねたガキを世話しなきゃいけないのか。




だが俺はアシュールさまの意のままに
リオナを見守った。


でも・・・



彼に触れるたびに
何かが痛んだんだ。


真っすぐな意志。


仲間を信じる心。


何よりも
弱い自分を他人の前では絶対にださない。


甘えない。


その強さが・・・うらやましかった。


だが
逆に心配だった・・。


そういう人間はふとした瞬間に崩れてしまう。


人間はもろい。


それはリオナも変わらない。


だからいつからか・・・



俺は任務ではなく
一人の人間として


"ヒュウ"ではなく
"ベン"として


リオナを守りたいと

仲間たちを守りたいと思うようになってしまった・・・


愚かだ・・


愚かだとはわかっている・・・。


だが


もう


"ベン"という人間から抜け出せなくなってしまったんだ・・・・・










「ベン・・!!!!」


「・・・・・!」


気が付いたら自分は膝をついていた。


リオナが肩を揺すり
何度も俺の名前を呼んでいた。


「大丈夫かベン・・・!?」


「・・・おれ・・は・・」


ベンはうつむき
拳を握る。


「・・・お前たちに・・・・何もやってやれない・・・・。」


「え・・・?」


「・・・俺はもらってばかりだ・・・何も与えることができない・・・」


「何言ってんだよ・・・。ベンは・・・」


するとリオナが言葉を途中で切ってしまう。


リオナは視線をベンから離し
ベンの肩ごしから先を見ていた。


そしてなぜか口元に笑みが浮かべた。


「あのさベン・・・貰ってばっかなのは俺たちの方だよ。」


「・・・・・?」


そう言うと
リオナは顎でベンの後ろを示した。


ベンはゆっくり振りかえる。


「・・っ・・」


表情が歪む。


なぜ・・・なんで・・・


向こうからラード・ユリス・マーシャが全速力で走ってきている。


B.B.が呼んできたのだ。


かすかに
何か叫んでるのが聞こえる。


「こんのバカベン!!!!一発殴らせろぉぉぉ!!!!!」


「ベン!!私ベンを愛してる!!!だから帰ってきて!!!」


「え。そうだったの?初耳〜。おーいベン。悪ふざけはやめろー。リオナに手ぇだしたらマジで殴る。」



みんなの声が聞こえる。


「・・・やめ・・てくれ・・」


気持ちが揺らぐから・・・


やめ・・・


「アンタは何もわかってない。皆アンタが必要なんだ。だって考えてみろよ・・・あんな破天荒な3人組をどうやってまとめるんだよ。俺には無理だ。」


「・・・・・」


マーシャ達が走って近づいてくる。


俺はもう・・・それを見てるしかなかった・・・。


ラードが1人飛び出してきて
ベンの頬を思い切り殴った。


「っ!!!」


痛みが体を駆け巡る。


嫌な痛みじゃない。


生きてる

ベンとして"まだ生きてる"
という感覚を与えてくれる。


ただその瞬間に
熱い何かがこみあげてきただけ。


「目ぇ覚めたかベン!!!!」


「しっかりしなさいよベン!」


「なに泣いてんだよ。らしくねぇ。」


目の前に立ちはだかる3人を
涙が視界を遮る。


「・・・ラード・・・ユリス・・・マーシャ・・・」


止まらない・・・・もう・・・・とめられない


「・・・俺・・は・・・・・」


謝らなくてはならないことが
たくさんあるんだ・・・・


まだまだ・・・話したいことが・・・たくさんあるんだ・・・


でも・・・そんなこと


許されるのか・・・?


この俺が・・・・


"ヒュウ"を捨てて
"ベン"として生きてもいいのか・・・?


「・・ダメだ・・・俺はおまえらの所にはもう・・・・」
「バカ言ってんじゃねぇよ。」


マーシャがベンの前に行き
胸ぐらを掴んで引き寄せた。


「ハッキリ言う。過去のお前なんてどーでもいい。問題は今のお前だ。」


「・・・マーシャ・・・・」


「これからお前がどっちの道に進もうがお前の勝手だ。スキにすればいい。もし、お前が"ベン"として生きるなら俺たちは受け入れる。今までのことは水に流してやる。だがな、"ヒュウ"として生きるんなら、容赦はしない。今すぐ殺して大冥界に送り込んでやる。」


マーシャがニッと笑う。


まだ・・・俺は許されるのか・・・



なら・・・
まだ・・・俺は・・・・


「・・・・おま・・えらの・・・・・・・」


声が震える。


熱い雫が
頬を伝う。


「・・・おまえらの・・・横にいたい・・・・!!!」


おまえらの横で・・・笑いたい


永遠の幸せなんていらない。


ただ
そばにいれたら・・・


「・・謝ってすむなんて思ってない・・・でも・・俺は・・」
「もういいから。」


言葉を遮るように
マーシャにギュッと抱き締められる。


温かいぬくもりが体中を吹き抜ける。


「許すっていってんだ。次謝ったらキレるからな。」


「・・マーシャ・・・」


「まーったくよぉ!!!心配かけやがって!!!次心配かけたらぶっ殺す!!」


「そうよベン!もう驚かせないでね!私・・・わたし本気で心配したんだからぁぁ!!!うあぁぁぁん!!!」


「・・・ラード・・・ユリス・・・・」


3人が体に巻き付いてくる。


苦しい・・・だけど、嬉しい。


視線を前にやれば
リオナと目が合って・・・


リオナは照れ臭そうに下を向いてしまった。


「・・・リオナ・・・ありがとう・・」


「お、俺は別に・・・何もしてないよ。うん。」


そういいながら
リオナは口元を手で押さえている。


照れ隠しか・・・。


「・・・とにかく・・・シキを助けに行こう・・・」


「そうだな。誰かさんのせいで死にかけてるし。」


「・・・・・・・。」


「嘘だってぇ〜。痛ッ!」


リオナがマーシャの頭をバシリと叩く。


そしてせきを一つし
話を戻した。


「・・ここは二階なんだよな。
赤の屋敷に行くにはここから飛び降りるのもアリだけど。」


・・だが・・・


もしかしたらこの下には・・



「・・・この窓の下にはランダー
がいるかもしれない・・・・。」


「ランダーって誰だよ!俺の名前にそっくりじゃんかッ!!!」


「全然似てないじゃない。かすっても一文字。」


なぜか怒るラードに全員あきれ顔になる。


「・・・ランダーはフェイターの1人だ・・奴は強い・・」


「それだけは避けたいわね。」


あとはビンスがどこに行ったか・・・だがフェイターに見つからないにはやはり一階から行くべきか・・・


そんなことを考えていたら
突然窓が爆発した。


爆風が立ち込め
全員目をつむる。


その瞬間
嫌な予感がした・・・


心臓が跳ね上がるとはこの事だろうか。


「ようようよう。ヒュウ。いや、もうベンになったんだっけ?」


目の前に現われたのは
赤髪を爆風になびかせている男・・・・


「・・・ランダー・・・!!」


その瞬間
ランダーのとてつもない殺気に全員の顔が凍り付く。


1人をのぞいてだが。


「へぇ、あんたがランダーか。あはは、ホントにラードそっくり。」


マーシャのたんたんとした態度に一同唖然とする。


それはランダーも同じで。


「あんたがマーシャ=ロゼッティか?生で見るとただのアホだな。」


「失礼な奴。フェイターかと思って身構えてたらただのバカのそっくりさんか。」


バカとは何だとラードが怒るがリオナがとめる。


だが言われたランダーはもっと機嫌が悪そうで。


「口をつつしめよマーシャ=ロゼッティ・・・カードだかリードだかどこのバカだか知らねぇがそんなやつと一緒にすんなよ。」


俺はラードだ!と騒ぎ立てるバカをリオナが再び止める。


とにかく・・

コイツに気付かれたのは間違いない。


ベンは平静を保ち
ランダーに向き合う。


「・・・・なぜここに・・・・?・・被験体はどうした・・」


「1人でアシュールさんのとこ歩いて行ったぜぇ?利口なこった。ギャハハ!!!ああ、そうだそれより・・・」


ランダーは含み笑いをしながらベンから視線を外し
リオナに目を向けた。


「はじめまして、リオナさま。なんだかビンスが捕獲失敗したみたいだから代わりに来てやったぜ?っつーか可愛い顔してんなぁー?」


ランダーがリオナに近づき手を伸ばそうとした。


だがすぐにマーシャがそれを阻む。


「どいつもこいつもリオナリオナって。リオナは俺のものだっての。」


「てめぇのものだと?戯言を。リオナはアシュールさんのものだ。」


「はぁ?お前目ぇ悪いの?どう見たってリオナは俺のもんだろ。相思相愛。両思いなの。わかる?おバカさん。」


「てめぇ!!!!!!」


戦いを始めようとする2人だが
ベンがマーシャを引き止める。


マーシャはやりきれない顔つきでベンを見る。


「なんで止める?」


「・・・・アイツは簡単な奴じゃない・・・・」


「そんなことやってみなきゃわかんねぇだろ。」


「・・・わかるさ・・・・。」


「は?」


ベンはマーシャの腕を掴む手に力をこめる。


「・・・・時天大帝国の壊滅・・・・あれはランダーの力だ・・・・」


「!?」


マーシャの表情が一気に変わった。


目を見開き
いやな汗をかいている。


「そいつは、やべぇな。」


そう呟きながら一歩後ずさる。


「・・・そう・・奴は強い・・」


だからこそ・・・


逃げなければ・・・


いや


・・・・逃がさなければ


「・・マーシャ・・」


「?」


「・・・リオナを連れて・・・ラードたちと一緒に逃げろ・・・」


その言葉に
マーシャはただただベンを見た。


マーシャの顔から汗が流れ落ちる。


恐らく焦りを感じているはず。
だが
こんな時でも彼は笑う。


「と、いうと?」


「・・・やつの狙いはリオナだ・・・。・・・とにかくリオナを渡しちゃいけない・・・。・・・ここは俺が食い止めるから・・・」


そう言うとすぐに反応したのはリオナだった。


リオナはハッとして
ベンの腕をつかんだ。


「・・ベンも一緒に逃げよう!!!」


やっぱり、リオナはそう言う。


そう言われるのが・・少し怖かったんだ。


「・・・聞けリオナ・・・」


ベンはため息を吐きながら
小さく笑った。


「・・俺はアイツの弱点を知っている・・・」


「だったらみんなで・・」


「・・・リオナ・・・お前も戦士なら少しは覚悟しろ・・・犠牲を受け入れるんだ・・・じゃないとこれ以上は強くなれない・・・」


「・・・・・」


リオナの表情が曇る。


誰かがハッキリ言わなければ
リオナは弱くなる。


これはマーシャの仕事だろう?
と少し困った目をマーシャに向ける。


「・・とにかく・・・早く逃げ」
「ゴチャゴチャうっせぇなぁ!全員まとめてあの世行きだから安心しな!!!!」


ランダーが力をためはじめた。


辺り一帯が
殺気に満ちあふれる。


「・・・逃げろ・・・!・・ラード・・・!ユリスを守れ・・・・!!!」


「お、おれ!?!?」


「・・・・そうだ・・・!・・早く・・・!!」


そうせかすと
ラードは頭をかきむしり
うめき声を上げた。


「あーもー!!!ユリス!!つかまれ!!しっかり俺に守られな!!!!」


「それは私のセリフよ!!ベン!!ずぇ〜ッたい生きて帰ってきなさいよ!?もし帰ってこなかったら私ラードのものになっちゃうからね!!!」


そう言うと
ラードはユリスを抱えて走り去っていった。


一方
ランダーを見やればだんだんと力が増していくのがわかる。


時間がない・・・


「・・・マーシャも走れ・・・!!!」


マーシャの胸に手をおく。


そして渾身の力を込めて突き放した。


リオナを抱き込んでいたマーシャはよろめきながら
一度振りかえる。


「ベン!」


眉を寄せ
何か言いたげな表情。


だが
最後はいつもの笑顔を見せた。


「ベンは、ベンだからな。」


それだけ呟いて
かけていった。


リオナの、「待って」という声がだんだん遠ざかっていく。


「・・・またな・・・リオナ・・・」


強くなれよ・・・


そして世界を・・


変えてくれ。


「・・さて・・・・」


ベンはランダーに向き直る。


「なんだなんだぁ?あんなことしてこの俺から逃げられるとでも思ったか?ギャハハハ!!自惚れるのもいい加減にしろよヒュウ!?」


「・・・それはこっちの台詞だ・・・それに・・・」


ベンの体が突然白く光りだす。


うめき声をあげながら体がどんどん獣のようになっていく。


その光景に
ランダーは息を呑んだ。


「まさかヒュウ・・・お前、死ぬ気か!?その技使えば絶対に」
「・・何度も言わせるな・・俺はベンだ・・・死ぬ気でお前を止める・・・」


そう、仲間のために。


俺が生きてきた
ダーク・ホームのために。


「おいヒュウ!!!やめろ!!!やめ・・・がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!」


ランダーの体が遠くへ吹き飛んだ。


恐らく、無事ではない。


ベンはその光景を意識が途切れる直前まで
しっかりと見つめた。


安心したのか
はぁっとため息をこぼした。


「・・・ようや・・く・・・終わっ・・・」


力なく
体が倒れた。










目が・・あかない。





きっともう・・・・
二度と開かないのだろう。





でも





後悔はしていない。







だって
最後に幸せを感じられたから・・・






唄が
聞こえる。





優しい
唄が・・・・








光と影の間から








きっと俺はこれから






永遠の夢を見るのだろう。








夢で君たちと
永遠に愛を歌い続けるのだろう。






それは






それは最高で最後の夢物語。







俺は静かに夢を見る。

果てしない自由を求めて

永遠の旅へ



出発する。

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