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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
第三章 story21.5 シキ×リオナ(×マーシャ)
<キミに願いを>
(リオナがダーク・ホームにいたころの
シキとリオナ時々マーシャの話。)









"なぁシキ"


"なんだ?"


"もし願い事がかなうならさ、なにがいいかな。"


"そんな事があるわけないだろ。"


"もしだよ、もーしっ。ったくお前は夢がないなぁ。"


"そ・・そう言うマーシャこそ何がいいんだよ!"


"俺?俺ねぇ。"











「シキさん!!」


「・・・うぁ!!!」


俺は自分のベッドから飛び起きる。


目の前には自分の弟子兼パートナーでもあるシュナが顔をのぞかせていた。


「大丈夫ですか?なんだかうなされてましたよ?」


「そ・・・そうか?」


俺は苦笑しながらため息をつく。


マーシャの夢はタチが悪い。


しつこい上にくだらない。


しかも彼の夢はどちらかというといつも"回想"的なもの。


だから余計に疲れる。


「・・・ってもうこんな時間か!!!」


時刻は現在朝の8時。


8時15分にはマスタールームに行かなければ。


「じゃあ俺はトレーニングルームに行くんでシキさん頑張ってください!」


「ああ・・!!!時間があったら俺も行くから!!!」


そう告げて
シュナはにこやかに出ていった。


・・やばいやばい!!


そんなこんなで俺も急いで着替え
慌ただしく部屋を跳びだしていった。






結局朝からマスターにこっぴどく叱られ
俺はマスタールームの隣にある
自分専用のいわゆる"秘書室"で1人落ち込んでいた。


今まで寝坊などしたこと無かったのに。
と何度も悔いる。


頭を机につけ
とことん沈んでいた。


だが
その時。


「・・シキいる?」


部屋に1人の少年が入ってきた。


彼の名はリオナ=ヴァンズマン。


見た目はクールだが中身は案外オチャメ。


顔は俺よりはいいほうだから
ダーク・ホーム内での"いい男"格付けは去年一位だった。


うらやましいことこの上ない。


しかも奇人変人のマーシャの心も完全に奪ってしまっている。


別にこれに関しては羨ましいともなんとも思わないが
人と深く関わることを嫌がるあのマーシャが、どうして彼にそこまで惹かれているのか。


それが不思議でしかたない。


そんな彼、リオナは俺を見ては
なにやら心配そうな顔つきをしてきた。


「・・何かあった?」


「い、いや!大したことはない!!」


「・・・ふぅん。あっそ。」


「・・・・・。」


もうちょっと突っ込んで聞いてくれてもいいのに。


何に関しても興味を抱かないというこんな性格になってしまったのは
おそらく彼の傍にいるあの変人のせいだろう。


「ところでリオナはどうしたんだ?」


俺は笑顔を作りながらリオナに尋ねる。


「・・避難。」


ただ一言。


だがそれだけで状況はわかる。


「ったく・・またマーシャとB.B.が暴れてんのか。」


「大正解。だからしばらくここにいさせてよ・・。」


リオナは俺が返事をする前に
すでにちゃっかり本を持ってソファーに寝転んでいた。


「はぁ・・・仕方ないなぁ。」


リオナは度々この部屋にやってくる。


その時は決まって何かから逃げる時だ。


例えば今日みたいにマーシャとB.B.のくだらないケンカとか
これは季節限定だが
バレンタインやクリスマス、誕生日の時のメイドたちからの愛の告白の嵐だとか。


先日は"なんとなく"という理由からだったが。


実際リオナは部屋では静かにしているから俺自身も別に嫌じゃない。


彼がここにきてやることは
大体寝るかボケェとするか。


だが今日は本を持参してるようだ。


「へぇ、リオナも本を読むんだな。」


「え・・ああこれ?読まないよ。」


え・・・じゃあなんで持ってきたんだ?


「枕にすんの。」


ああ、なるほど。


思わず頷いてしまう。


「ってか仕事しなければぁ!!!」


今思い出した。
納得している場合ではない!


今日は山ほど報告書があるんだ・・・


俺は肩を落としながら
目の前に積まれた書類に手を伸ばす。


でもこの量はおかしいだろ。


大体いつも皆が任務から帰ってきてすぐに報告書を出してくれないからこうなるんだ。


でもこっちにだって手はある。


こういう遅れて出すヤツには
"ペナルティースタンプ"を押している。


スタンプを押して沢山たまった順にランキングにしていくのだ。


そして一年間でワースト3に入る者には
毎年恒例の"メイドの休日"というメイドたち全員が休む日に
全力で働いてもらおうという特別企画だ。


ついでに去年のワースト1は・・・マーシャとリオナ。


もちろんその前の年も前の前の年も
マーシャとリオナだ。


彼らはダーク・ホームにいるよりも任務に出ている方が多いというほどの任務好きで、
だからその分報告書の量も半端ないのだが、彼らは一度も期間内に出したことはない。


そして今年も彼らで間違いないと
ダーク・ホームのエージェント達は噂している。


まったく・・・いつになったらまともにだしてくれるのやら。


張本人が目の前にいるが
あんなに気持ち良さそうに寝ているのを見ると
言うに言えない。


スー・・・・スー・・・・


気がつけば静かな寝息が聞こえてくる。


俺は休憩がてら
リオナに布団をかけてやろうとソファーに近づく。


リオナは枕にすると言っていた本を
結局抱き枕にしてしまっている。


恐らくいつもB.B.を抱き締めたまま寝ているんだろうな。



気づいたら俺の顔はゆるんでて
自分でもビックリ。


しかもなんとなくリオナがかわいいと思ってしまった。


今までよくマーシャが
"リオナの寝顔はムラムラする"
とか
"襲いたくなる"
とか変態発言をしては俺はよくヤツを罵倒した。


だけど・・・・・・・


今ならわからなくも・・・ない。


たしかにリオナのあの真っ白な肌に静かな寝息、
聞いているだけで・・・


って俺は変態かぁ!!!!!!!!


いけない!!しっかりしろ!!俺!!


きっと疲れてるんだ。


ああそうだ。


自分は決して変態なんかじゃ・・・


「・・ん・・・・・シキ・・?」


「うぁっ!!リ・・リオナ起きてたのか!?」


「・・・んーん。今、起きた。」


リオナは目を擦りながら
部屋をゆっくり見回している。


そして俺の机の上の報告書に目を止めた。


「あー・・・・・、あれか。わずらわしいもの。」


リオナは明らかにいやそうな顔をしている。


わずらわしいって・・・


「ゴホン。リオナ、お前まだ出してないだろう?そのわずらわしい報告書を。」


「・・・・そうだっけ?」


「3つたまってます。」


「・・・はは。きっと気のせいだ。うん。」


リオナは薄ら笑いを浮かべながら視線をそらした。


このはぐらかし方・・・


また一段とマーシャに似てきた。


「とにかく、今年もメイドがやりたいなら話は別だが・・やりたくないならちゃんと出しなさい。」


「・・はいはい。」


「はいは一回!!」


「はい・・。」


本当に彼はマーシャに似てきた。


それを言えば絶対にいやな顔をする。


"あんなやつと一緒にするな"と。


だから時々不安になる。


リオナはマーシャの事を嫌いなのかと。


「なぁ・・リオナ。」


「・・?」


「リオナは・・・マーシャがスキか?」


「・・・は?」


突然何を言いだすんだみたいな顔をしている。


だがすぐに頭を悩ますように目をつむった。


「・・・・うーん。別に嫌いじゃない。」


「え。スキじゃないのか?」


「うん。だってあんなやる気なしの変態なんて誰も好きにならないよ。」


まぁ・・・・・たしかに。


でもリオナがこうハッキリ言うとは・・・。


少しショック。


「・・・でもきっと・・俺はマーシャが大好きだと思うな。」


「!!!」


俺は思わず目を見開く。


「好きじゃなくて大好きだ・・。マーシャはさ、よく変態発言とかするけどさ、なんだかんだそれはマーシャなりの愛情表現なんだよね・・。なんかそれ考えるとさ・・・俺って愛されてるなぁ・・・なんて。あっ・・・もちろん変な意味でじゃなくて・・・何ていうかな・・。仲間としてじゃなくて・・・兄弟としてみたいな?」


まさかリオナがこんな考えを持ってたなんて・・・


少し泣けてくる。


「それにマーシャといるとトラブルばっかだけど・・なんか楽しいんだよね。あー・・・なんか恥ずかしくなってきた。」


リオナは少し頬を赤くしながら
本で顔を隠す。


でも・・・なんだか安心した。


「そうか、ならよかったよ。」


俺も自然と笑みがこぼれた。


「あっ・・・なぁシキ?」


すると今度はリオナが俺に尋ねてきた。


「なんだ?」


「あのさ、もし願い事がかなうなら・・どうする?」


正直ビックリした。


これは夢の続きかと。


だから俺はこう答える。


「そんなことある分けないだろう。」


「・・・ふぅん。」


「・・・・・・・。」


彼はこれ以上何も言わない。


だけどその何か言いたげな視線はなんだよ!


その蔑む目はなに!?


「リオナ・・・ハッキリ言ってくれ。」


その方が楽だからさ。


するとリオナはソファーから起き上がり
ハッキリ言い放った。


「シキって夢ないよな・・・。」


「・・・・・・。」


マーシャとまったく同じことを言われるなんて。


俺ってやっぱり夢ないのかな!?


「・・そういうリオナはどうなんだよ。」


「うーん・・・わかんない。」


わかんないのかよ。


「・・・だって現実にはそんなことないもんね。」


「結局リオナも夢ないじゃないか。」


「・・・・でも"もし"だったらあるよ?」


「なに?」


「・・・言わない。だって生々しいもん。」


生々しいって・・・・


まぁ言いたいことはわからなくもないが。


「・・・なぁマーシャはなんなのかな?」


「え・・・?」


突然何を言いだすのかと
俺はリオナを見た。


彼は悩むように眉を止せ
グチをこぼすようにつぶやく。


「・・俺が昨日マーシャに聞いたの。マーシャの願い事は何かって。そしたら"秘密"とか言いやがってさぁ・・・・すごく気になる。」


そうか?
俺はそんなことより夢見る貴様らの頭が気になる。


「まぁ・・・アレだよ。リオナに言ってもわからないかもしれないっていう、ね。」


「あっ・・・シキは知ってるんだ。」


「・・・え。」


「なぁ教えてよ。マーシャ何て言ってた?世界征服?それともコックさん?まさかオムライス?」


「い、いや・・・どれも違っ・・・」
「おーい。リオナぁいるかぁ?」


俺が否定をしようとした瞬間、
話題の張本人がやってきた。


マーシャはリオナを見るなり
普段はくすんでいる目を輝かせてリオナに飛び付いた。


「リオナやっぱりここにいたぁ。もう、勝手にどっかいっちゃうんだからぁ。」


「・・・離れろ。そしてその口調やめろ。」


リオナは嫌そうにマーシャを剥がしていく。


そんな顔しながらも内心嬉しいくせにさ。


「・・・ケンカはすんだ?」


「ああ。俺の圧勝。B.B.のやつバカだからなぁ。」


「・・・あんまB.B.をからかうなって。アイツ案外デリケートなんだから。」


リオナは呆れたようにつぶやくと
突然俺の存在を思い出したかのように振り返ってきた。


「あ、シキ・・。ありがとう。もう帰る。」


「そうしてくれ・・・。俺も仕事が山積みだ。」


「へぇ。シキ何してんの?すげぇ山だな。・・・ってあーあ。見なきゃよかった。嫌なこと思い出しちゃった。」


マーシャはリオナに巻き付きながら
報告書をみていやな顔をした。


そうだ。これを期にちゃんと報告書をだしなさい。


なんて言っても無駄だから言わないが。


「あっ。リオナ。明日から任務行くぞぉ。」


「・・・マジ!やった。」


やったじゃないだろう・・・。


まったく・・・また報告書がたまるだろうが。


俺は呆れてため息を吐きながら
デスクに戻る。


「任務に行くのもかまわないが・・・・・・・・体には気を付けろよ。」


これが俺からの精一杯の応援。


何だかんだ俺はこいつらの脳天気な性格が大好きらしい。


「ほら、リオナもマーシャも帰れ。」


「はいはい。リオナくん帰ろー。」


マーシャはリオナの腕をひっぱりながら部屋をでていく。


「あ・・・・シキ?」


するとリオナが歩みとめ
顔を俺に向けた。


「どうした?」


「・・俺決めた。」


「何を?」


「・・願い事だよ。」


リオナはニコッと笑って呟いた。


「"今"を続けたい。」


そう言って部屋を出ていった。




部屋は再び静けさを取り戻し
俺は1人椅子の上で彼らが出ていった扉を見つめる。


「今を続けたい・・・・・か。ははは・・」


思わず笑いがこぼれる。



だって君は・・・





あの時の彼と同じことを言っているから・・














"なぁシキ"


"なんだ?"


"もし願い事がかなうならさ、なにがいいかな。"


"そんな事があるわけないだろ。"


"もしだよ、もーしっ。ったくお前は夢がないなぁ。"


"そ・・そう言うマーシャこそ何がいいんだよ!"


"俺?俺ねぇ。あっ、リオナには言うなよ?"


"・・・・なんで。"


"リオナはそうは思わないかもしれないからぁ。"


"わかったから。早く言えよ。"


"おれねぇ、ずっとこのままでいたい。"











願い事、か。





まぁもし・・・本当にもし叶うなら・・・





俺は願うよ。





キミの願いが叶うように。



END

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あきゅろす。
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