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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story83 光の鉄壁



ダーク・ホーム中に


悲鳴が鳴り響く。


『フェイターが侵入してきたぞぉ・・・!!!!!!』







はじめにその悲鳴を聞いたのはクロード。


リオナとジークとクラッピーたちと
医務室から通気孔を通って二階に出た時だった。


「お・・・お兄ちゃん!」


いきなり足に飛び付いてきたクロードに
リオナは一瞬ビクッとする。


「・・どうした?」


「フェイターが・・・・・侵入したって・・・」


「・・・!?」


リオナたちも耳を澄ませる。


「上から聞こえてくるッチョー!!!」


「・・・ほんとだ。」


まさかベンが手引きしたのだろうか・・。


だったらフェイターの目的はただひとつだ。


「・・・ローズ・スピリットを奪いにきたのか。」


ということは
ダーク・ホーム自体を乗っ取る気だ。


「・・・でもこんな時にくるなんて。」


「こんな時だからだ。」


ジークがため息混じりにつぶやく。


「恐らくすべて仕組まれた罠だ。今のダーク・ホームは一番乱れているからな。まぁ少年がここに来ているとはまさか思ってもいないだろうが。」


すべてがシナリオ通りってわけか・・。


そう考えると
なんだか苛立つ。


「・・・三階に行こう。フェイターを捕らえないと。」


野放しにしておけば
きっと怪我人・・・いや、死人がたくさんでる。


「そうだな、奴らを止めに・・」
「その必要はないッスよ。」
「!?」


突然聞きなれない声が耳に入る。


「・・・誰だ」


辺りを見回して見るが
人影はない。


だが確実に誰かいる。


「こっちッス。」
「・・・なッ!?」


気が付けば
リオナの真後ろに見知らぬ男がいた。


男というより青年だ。


薄い茶色の髪をかきながら
なんとも無表情な顔をしている。


リオナは素早く距離をとる。


気配に気付けないなんて・・・


背中に嫌な汗を感じる。


「キミがリオナくんッスね。」


無表情の青年の口から飛び出した名前に思わず目を見開く。


「・・・な、んで・・俺の名前・・・」


「キミはフェイターの間では有名人ッスから。いやー案外早く見つかってよかったッス。」


「・・フェイター!?」


まさかこいつ・・・!


リオナは目の前の青年を上から下まで見る。


全身白の装束・・・


「・・・あんたまさか」


「あ、自己紹介してなかったッスね。失礼しました。俺、フェイターのビンスっていうッス。以後お見知りおきを。」


決してペースを崩さないビンスに
少し動揺する。


今まで戦ってきた相手は
大体喜怒哀楽がはっきり見えていた。


だから余計やりずらい。


「・・・ここに何の用だ。」


リオナは右手を突き出す。


いつでも攻撃できるように。


「まぁ、そんなに殺気立たないでくださいよ。今日はダーク・ホームを潰そうとはしないッスから。」


「・・・?」


その言葉に
ジークが眉をひそめる。


「ではなぜ、ここへやってきたのだ。」


そう言うと
ビンスはリオナから目を離し、
今度はジークをじーっと見た。


「あなた、人間ッスね。こんな悪魔の住みかに珍しい。そこのお子さま二人も。・・・いや違う。そっちのピエロさんはお人形ッスか。珍しい・・・」
「そうだッチョ〜♪よくわかったッチョ!すごいッチョー!」
「ありがとうッス。」


完全無視をかまされ
苛立つジーク。


けれど
見ただけで人間かどうかを判断してしまうのは
純粋にすごいと思う。


「質問に答えんか!」


「あ、ごめんなさい。で、何でしたっけ?」


「きぃ〜さぁ〜まぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


コノヤロー!と叫びながら飛び掛かろうとする。


それじゃあいかんと
リオナたちはジークを必死に止めた。


「・・ビンスっていったけ。・・・なんでここへやってきたのか聞いたんだよ。」


一旦ジークを落ち着かせ
リオナがかわりに話す。


「ここへ来たのは被験体の回収とローズ・ソウルおよびローズ・スピリットの奪還ッス。」


「・・・被験体?というかやっぱりローズ・スピリットを・・・」


「本当はダーク・ホームも潰すつもりだったんッスけど、今日はやめたんッスよ。ある人物が来ちゃったからッス。」


「・・・?」


ある人物・・・?


俺たち以外にも誰か来てるのか?


一瞬頭をよぎったのは
更夜という名の賢者。


ルナを連れ去った張本人だ。


彼はこういう大きな戦いには必ずやってくると言うが。


けれど相当な気紛れと聞く。


その上
戦いには一切干渉しないという、とんでもなく迷惑な奴。


リオナは少し下を俯きながら考える。


そんな色々悩んでいるリオナを見て
ビンスが初めて笑みを浮かべた。


「考えるのが好きなんッスね。リオナくんは。俺とは正反対。どーりでアシュールさんが気に入るわけだ。」


「・・・は?」


何を意味のわからないことを・・。


「キミッスよ。リオナくん。」


また突然意味のわからないことを言いだした。


なんなんだコイツは・・・


「・・あんた何言って」
「キミがいたから、ダーク・ホームを潰すのをやめたんッス。」


・・・・え?


なんで・・・俺?


ホントに意味がわからない。


「リオナくんは神となる存在ッス。つまり俺たちの未来の上司ッス。上司がいるのにそう簡単にダーク・ホームを攻撃なんかできないッスよ。」


目の前で楽しそうに話すビンスとは逆に
リオナは呆然としていた。


確か・・前にも一度、同じようなことを言われたことがある。



"お前は・・・神となる男だ。"


カイというフェイターに・・・。


トラヴァースとナタリアを殺した・・あの男に。


嫌なことを思い出したせいか、
自然とリオナの表情が険しくなっていく。


「・・・黙れ。俺は神にもお前らの上司にもならない。」


絶対に・・・あり得ない。


「いいッスよ。今はそれでも。」


いつもの無表情に戻ったビンスは軽く言い放つ。


「でもキミは、いつか絶対神の力を求めるッス。」


そう言いながら
ゆっくりと後ろに下がっていく。


気のせいだろうか。


彼の目の色が変わった。


「それにキミが今どう思ってようが関係ないッス。どうせ力ずくでもキミを連れ去るつもりッスから。」


「・・・!?」


するとビンスは大きく両手を広げ
小さく呪文を唱えだした。


"スベテノ物魂ヨ。今ココニ命ズル。我ガ魂ニ共鳴セヨ。"


その瞬間
ビンスの体が光りだした。


それと共に
地面が揺れだす。


激しい揺れにクロードの体が弾かれる。


「うわぁぁぁ・・・」
「クロノスッ!つかまるッチョ!」


今までに体験したことがないくらい揺れが激しい。


一体何が起きているのか。


「少年!アレを見ろ!」


ジークが指を差した天井を見る。


「・・・な!!」


天井や壁にあった金属片がすべてはずれ
なんとビンスの元に集まっていっているではないか。


徐々に壁が崩れていき
すべての金属片がビンスの体中に巻き付いていく。


まるで鎧のように。


「ふぅ。流石に久々だと肩が凝るッス。」


体の右半分以上が鎧と化したビンス。


首をパキパキ鳴らし
ウォーミングアップかのように体を動かしている。


「さて、リオナくん略奪作戦。実行しますか。」


「・・は?」


そう言って
ビンスは右手を上げた。


よく見れば、鎧のような金属の塊は
常に形を変えつつある。


今は右手が巨大な銃と化している。


ビンスはそれをジークに向けた。


「ほう・・ヤル気か小僧。」


ジークの瞳が妖しく光る。


ジークは手からバラのツルをだし
一本の剣に仕立てあげ
同じようにビンスに向けた。


「少年は渡さん。絶対に。なぁ?少年。」


「・・・ジーク」


当たり前だ・・・


俺だって、こんなところでみすみす捕まってたまるか。


「・・B.B.。こい。」
《らじゃーなのだ!》


リオナの中にB.B.が入る。


瞳を赤に染め
ジークの横に立つ。


「リオナくん。やっぱりキミは戦うんッスね。なら仕方ない・・・。」


その瞬間
ビンスの銃口から光の弾丸が飛び出した。


それを引き金に
ジークのツルが勢い良くのびていく。


ビンスに絡みつけ
締め付ける。


その隙にリオナがナイフの形に変えたトランプをすべてビンスに向け
突進させた。


「そう簡単にやられるわけないッス。」


「・・・!!」


ビンスは巻き付くツルを引きちぎり
見事に攻撃をよけた。


「ふぅ。やっぱりさっき食べ過ぎたッスね。少し減量を。」


すると今度は先ほどから一変、
ものすごいスピードでジークに近寄ってきた。


「・・・ジーク!!」


「グァ・・!!!」


一足遅く
ジークは壁に叩きつけられた。


ものすごい力だ。


「この・・・!」


リオナはトランプを剣に変え
ビンスに迫る。


尋常じゃないスピードで移動を繰り返すビンスに、
リオナも負けじとついていく。


「さすがッス。俺のスピードについてこれる人間はなかなかいないッスよ。」


「・・・・・」


「無視ッスか。うぁっ。」


リオナの攻撃が脇を掠める。


そのよろけたすきに
剣を持ちかえ
右手で魔力を打ち込んだ。


魔力は爆発をおこし
ビンスの鎧を吹き飛ばす。


「ちょっと・・・油断しすぎたッスね。」


ビンスは体を起こしながら
初めて表情を歪ませた。


「こんなに魔術を操れて、しかも悪魔の力を最大限に発揮できるのはリオナくんぐらいッスよ。ダーク・ホームにいるのはもったいないッス。どうッス?フェイターになる気はないッスか?キミなら強いしアシュールさんも公認だし。大歓迎ッス。」


「・・・だから、俺はアンタらの仲間にはならないっての!!」


リオナは地面を蹴りあげ
高く飛び上がる。


そのまま勢い良く急降下し
ビンスに剣を突き刺した。


その表情は
怒りに満ちあふれている。


「・・・・ふざけるな・・・・・・・・ふざけるな!!」


声を荒げ
ビンスにのしかかる。


「神だかフェイターだか知らないけど・・・俺は何にもならない!!家族を奪った奴の仲間なんかになるもんか・・・!!!」


「よくそんなこと言えるッスね。」


「・・・なんだと?」


ビンスは腹に剣が刺さりながらも平然と話し続ける。


「記憶がないくせに。」


「・・・・・は?」


「まだ、"ウィキ"を、思い出してないくせに。」


「・・・・!?」


リオナは思わずビンスから手を離す。


なん・・で・・・


「・・・ど・・・して・・ウィキのこと・・・」


「そりゃあ、キミを手に入れるために色々調べさせてもらったッスから。」


そう呟きながら、
ビンスは自分に突き刺さった剣をゆっくり引き抜き
立ち上がった。


「たぶん、今のリオナくんより、俺たちの方がリオナくんの事を知ってるッスよ。」


「・・・・・・っ」


何も言い返せない・・・


だって・・・


ウィキのこと・・・


・・・ほとんど覚えてない


「知りたくはないッスか?本当の記憶を。」


「・・・・?」


リオナはゆっくり顔を上げる。


「教えてあげるッスよ。キミの大事なウィキとの思い出を。だから、俺たちについてくるッス。」


「・・・・何言って」
「こんなところにいたってキミが求めているものは手に入らないッス。」


ビンスがゆっくりと近づいてくる。


「キミが求めているのはなんッスか?」


「・・・・うるさい」


「チカラッスか?友情ッスか?恋人ッスか?」


「黙れ・・・!」


「違うでしょ、リオナくん。」


「・・・・くるな!!!」


「キミはこんな所で呑気に人間関係を確立している場合じゃない。」


頭が・・・クラクラする・・・


息が・・・


「自分の家族を取り戻したくはないッスか?」


ビンスの声が
呪文のように脳を縛り付ける。


「・・ッ・・・ぁ・・・」


「俺たちになら・・・いや、神ならそれができるッス。キミはここにいるべきじゃない。俺たちと共に神の復活を目指すべきなんッス。キミがそちら側にいる理由は本当にくだらない。無駄な人間関係に執着し、命の恩人であるマーシャ=ロゼッティーを裏切れないから。そして何よりも俺たちフェイターを家族の仇だと思い込んでいる。でもそんな俺たちフェイターがキミの家族を救うとすれば?キミは俺たちを恨む理由は無くなり、同時にダーク・ホーム側にいる理由もなくなる。そうッスよね、リオナくん。」


「・・・ち・・・・がう!!!ちがうちがうちがうちがうちがうちがう!!!!!!!!!!!!!!!!」


俺が・・・!


俺がここにいるのは・・・・!


そんな簡単な理由なんかじゃ・・・・!!!


「少年!!!!!!」


その瞬間
耳にジークの鋭い声が入ってきた。

そこでようやく我に返る。


「・・ジー・・ク・・・」


「しっかりせんか少年!!!こんなやつの戯れ言など気にするな!!!」


そう・・・だよ・・・・



そうだ・・・




しっかりしろ・・・


・・・こんな奴に丸め込まれてたまるか・・・


「・・・ありがとう、ジーク。」


リオナは正気を取り戻し
しっかり前を見据える。


そんなリオナを見て
ビンスは少しがっかりしたように肩を落とした。


「あと少しだったんッスけど。おしかったッスね。やっぱり力ずくッスか。」


「・・・そうはさせない。」


リオナはトランプを手に戻し
もう一度剣を作り直す。


「俺には、家族以外にも守りたいものがあるんだ。もう一つの家族を。だから、お前なんかには渡さない。」


今一度
強く睨みあげる。


そんなリオナを見て
ビンスはため息をはきながら肩をあげた。


「やれやれ。その自信はどっからでてくるッスか。こんなに弱点だらけなのに。例えば・・・」


一瞬の動きだった。


ビンスは素早く銃を作り出し
リオナではなく、



クロードに向けた。


「・・・クロード!!!」


まずい・・!!


「さっきからリオナくん、彼の事を庇いすぎなんッスよ。邪魔者はさっさと消えてもらわないと。」


「・・・卑怯だぞ!!!」


子供を巻き込むなんて・・・・!!!



リオナは駆け出す。


「・・・お、おにいちゃん・・・!!!!や・・!!やぁ!!!」


クロードは恐怖に涙を浮かべ
リオナに手を伸ばした。


「・・・お兄ちゃ・・・!」
「クロー・・・!!」


パン・・・!


渇いた音が鳴り響いた。


「・・・!!!!」


リオナは思わず口を押さえる。


クロードが地面に倒れている。


・・・だが


その上にはクラッピーが倒れていた。


「・・・クラッピー!!!!」


クラッピーを抱き起こせば
右胸を押さえ込んでいる。


だが血は出ていない。


「・・・クラッピー!?ここに当たったのか!?」


「うぅ・・・・大丈夫だッチョ・・・。」


ノロリノロリと立ち上がるクラッピーの胸を見れば
やはり血は出てない。


「ボクちんは人形だから・・・大丈夫ッチョ・・・。クロノスは・・・?」


「・・大丈夫。今は気絶してるだけ・・。」


「よかったッチョ・・・クロノスになにかあったら・・・・」


クラッピーはいつになく安心した表情を見せた。


リオナも安心し
安堵のため息をはきだした。


けれど
クラッピーは一瞬にして表情を変え
ビンスを睨みあげた。


珍しく
殺気まで感じられる。


「おい。そこのクズ。」


口調が荒々しい。


「・・クラッピー?」


いつものおどけた感じが全く感じられない。


だから余計に恐怖を感じる。


そんなクラッピーはビンスに向けて指を差した。


「シカトか?テメェのことだ。」


ビンスは悪びれもなく自分を指差す。


「俺ッスか。なんなんスか。」


「よくもクロノスを攻撃したな。ゆるさない。」


するとクラッピーはスタスタと倒れているクロードに近寄っていく。


一体何をするつもりなのか・・・。


「・・おいクラッ」
「リオナは黙ってるッチョ。アイツはボクちんが片付けるッチョ。」


そう言うと
クラッピーはクロードを抱き上げた。


顔を近づけ
小さく呟いた。


「クロノス・・。勝手をお許しください。あなたの力を・・・お貸しください。」


そのままクロードの顔を両手で包み
さらに顔を近付けていく。


まさか・・・


リオナは少し目を細めた。


なぜならクラッピーがクロードにキスをしたから。


クラッピーとクロードの唇が重なる。


だかその瞬間。


「・・・ッ!!!」


クラッピーとクロードが金色に光りだした。


リオナたちも反射で目をおおう。


まるで金色のカーテンに包まれたようだ。


何が起きているんだ・・・?


リオナはそおっと目を開けてみる。


「・・・・誰、だ?」


目の前にクラッピーらしき姿は見えない。


ただ
代わりに違う人物が立っていた。


身長や服装はクラッピーによく似ている。


ただ
髪型とか髪の色がまったく違う。


茶色く、パーマのような髪型。


まるでクロードのようだ。


すると目の前に立っていた人物が
ゆっくりとこちらを振り返った。


「リオナ、これがボクの本当の姿だよ。」


振り返ってきた少年はニコッと笑う。


「・・・クロード?クラッピー?」


どちらにも似ている。


まさか合体したとでもいうのか。


だって2人の姿はどこにもない。


「ボクたちは2人で1つ。それが今のボクなんだ。名はクロノス。」


「・・・クロノス」


時の神・・・クロノス


こいつが・・・その・・・クロノスなのか?


驚きを隠せないまま
目の前にいるクロノスを見つめていると
クロノスはビンスに向き直り
手をかざした。


「君がこれ以上ボクの大切な人たちを傷つけるなら・・・君の時を止めてしまおう。」


ビンスは眉をひそめながら一歩あとずさる。


「まさか、キミ、時天大帝国の生き残りッスか?しかもクロノス・・・」


舌打ちが聞こえる。


ビンスの表情が焦りに満ちあふれている。


彼をそんな表情にするまで追い込むとは
やはりクロノスの力はそれほどまでに恐ろしいものなのか。


確か以前
ルナが言っていた。


時を操る神、クロノスは、
世界の神を越える力を持つ、と。


「クロノスが生きてココにいるなんて・・聞いてないッスよ・・!!!」


ビンスは逃げるように横へ走っていく。


だが
クロノスはゆっくりと手でビンスを追う。


そして
勢い良く金色の光をビンスに当てた。


「・・・!!!」


その瞬間
ビンスの動きがビタッと止まった。


まるで絵のように動かない。


時を止めてしまったのだろう。


それを見て
クロノスは満面の笑みで頷いている。


「これは罰だよ。君が罪から逃げようとしたから・・・」


そう言いうと
クロノスはバタっと地面に倒れこんだ。


そしてまるで砂が崩れるように姿を崩し
クロードとクラッピーが姿を現した。


「クラッピー!クロード!」


リオナは2人の元に駆け寄り
呼吸を確認する。


「よかった・・・生きてる」


それにしても・・・すごい力だ。


まさかあのフェイター1人を軽々捕まえてしまうなんて・・・・


「少・・・年・・、」
「・・!・・・ジーク!!!!!」


するとさっきまで倒れていたジークが
いつのまにかこちらまで歩いてきていた。


しかし足を引きずり
やはり苦しそうだ。


「・・・動いちゃダメだジーク!!」


「これくらい・・・なんともない。」


ジークはツルでベッドのようなものを作り出し
そこへ2人を乗せた。


「少年、アイツも縛るぞ。」


「・・・手伝う。」


リオナとジークは
時を止められてしまったビンスを動かし
しっかりと締めあげた。


「・・・いつ動きだすかな。」


「さぁな。おそらくまだ時の力は不安定だ。きっとそう長くはない。」


「・・・正直驚いた。クロノスの力が・・・あんなに強いなんて・・・」


ジークは小さくうなずく。


「だからクロノスの存在は知られてはいけないのだ。悪用されればフェイターの思いのままだ。今後一切は・・この2人を戦わせるワケにはいかないだろうな。」


「・・・うん。」


リオナは2人の頭をなでる。


まだ子どもなのに・・・こんなにもすごい力をもっているなんて・・・。


「・・・俺だったら、荷が重すぎる。」

「ははは。それは当たり前だ。彼らは王の子だからできることであって・・・・・・」


するとジークの話が途中で途切れる。


「・・・ジーク?」


ジークの目が段々と丸くなっていく。


「おい少年!アイツじゃないのか!?」


「え?」


リオナは無理矢理顔を捕まれ
奥の通路に向けさせられる。


「・・・ッ!!!!」


視界に3つの人影が映る。


1人は全身黒いコートで包まれていてよくわからないが
残りの2人は真っ白い装束をしている。しかもその内の1人は・・・・顔見知り。


「・・・・・ベン!」


胸の奥から、
何かが込み上げてくる。


熱い
何かが。


リオナは立ち上がり
こぶしをにぎる。


「ジーク、クラッピーとクロード見てて・・・。行くぞB.B.!!」
「あっおい!またんか!!!少年たちだけでは・・・・!!!!!」


ジークの声も今は耳に入らない。

今はもう
走るしかないんだ。

















「おーいベン。」


「・・・・・・その呼び方、やめろランダー・・・・・・・。」


「わかったよヒュウ。でもベンって名前もなかなかいいじゃんよ。・・・あ!!!うそうそ!!!だからそんな怒るなよー。」


ベン、もといヒュウは
ランダーと共に研究室の外に出た。


後ろにはこの10年間の"成果"を引きつれて。


「おい被験体一号!!ノロノロ歩いてっとおいてっちまうぞ!」


被験体一号と呼ばれる黒いコートをまとった者が
ひたすら2人についてきている。


『ごめんなさい・・。』


「まったく。お前にはこれから大活躍してもらわにゃいけないんだからな!しっかりしろよー?」


『はい・・・』


出会ってまだ数分しかたたないのにこんなにも仲良くなってしまっているランダーを、
ヒュウは呆れたような、尊敬するような微妙な表情で見つめていた。


「・・・・ところで、アシュール様とビンスは・・・・・?」


「アシュールさんはシキの処刑を見に行った。裏切りのフェイターだからな。最期をちゃんと見ておきたいんだろーよ。ビンスのやつはリオナを捕まえに行った。」


「・・・リオナ!?」


ヒュウの目が丸くなる。


よっぽど衝撃だったのだろう。


「知らなかったのかよ。リオナたち、今ここにいるんだぜ?それでアシュールさんカンカンでさぁ。」


「・・・では・・ローズ・スピリット・・ダーク・ホームの奪還は・・・・」


「中止だとさ。まったく!それもコレもリオナのせいだかんな!捕まえたら何してやろう!」


ヒュウは深いため息をはく。


こんな絶好な機会はないのに。


「・・ついていないな・・」


「だろ!?せっかくダーク・ホーム潰すの楽しみにしてたのによ!!」
『あの・・・』
「なんだよ!」


すると控え目に
被験体一号がランダーの服を引っ張った。


『あれ・・・』


「ぁあ!?はっきり言え!」


『向こうから・・・誰か来ますけど・・・』


被験体一号が指さす方を2人は見る。


確かに1人
誰かがこちらに走ってきている。


だがたかが1人。


たいしたことない。


「んだよー。それくらいのことでいちいち驚くんじゃ」
「・・・・・外に出ろランダー・・・・・・。」「は?」


だがヒュウは
真剣な目をしていて。


「なんでだよ。あんなやつ俺一人でも」


「・・・・リオナだ・・・・」


「は!?」


「・・・あれはリオナだ・・・・リオナがこっちに向かってきている・・・・・」


その言葉でランダーは走ってきている人物をよく見る。


銀色の髪
そして頭からはえた黒ウサギの耳。


「マジだ!!ビンスのやつ何やってんだよ!!!!」


ランダーは舌打ちをしながら地団駄を踏む。


「・・・・とにかくランダーは被験体を連れて早く外へ・・・。・・・被験体がリオナに見られてはいけない・・・・。」


「わーかってますよ。おら!一号!さっさと行くぞ!」


『・・・。はい』


ランダーと被験体一号は
目の前の窓ガラスを破り
外へ飛び出していった。


それを確認し
ヒュウは体を走ってくるリオナに向ける。


「・・・・・リオナ・・・・・。」







君の笑顔は










もう見れないのだろうな。









きっと君は











野獣のような目で











俺を見上げるのだろう。








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あきゅろす。
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