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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story82 予感





ああ



一度でもいいから・・・・



・・・すごいラッキーな1日がほしい。













ジークの予想通り、
一階には多くのエージェントたちが待ち構えていた。


『リオナ=ヴァンズマンだ・・・!!捕えろ!!!!』


エレベーターが開いたとたん、これだ。


本当についていない。


しかも周りをぐるりと囲まれてしまった。


・・・・・どうする・・・・


この人数なら俺だけでも・・・・・


リオナは懐からそっとトランプをとりだす。


「皆・・・俺が動いた瞬間全員左に走れ・・・。俺が道を開く。あとはシュナが先頭で医務室まで行って。俺もすぐ行く。」


全員コクンと頷く。


「・・よし。行くぞB.B.。」


《あいあーい!》


リオナの中にB.B.が入った瞬間、
リオナは手の中にあったトランプを勢いよく飛ばした。


トランプはエージェントたちを切り裂き
次々に倒していく。


その隙を見計らって、シュナたちは走りだした。


シュナたちはリオナが開けた道をうまくすりぬけていく。


《順調順調!イェーイ!》


「・・・調子にのるなよ。」


シュナたちの姿が見えなくなるのを確認すると
リオナはトランプを手元に戻し
トランプで渦を描きだす。


そのスピードはだんだんと速くなり
巨大な竜巻になった。


竜巻はエージェントたちを吸い上げていき
一気にかたをつけだした。


《イケイケ〜!!ヒャッホー!!》


「・・・・こらB.B.。力、加減してくれ。俺が追い付かない」


久々の戦闘に興奮しているのか、B.B.の力が大きくなっていくのがわかる。


・・・ったく。


『おい!!!こっちだ・・・!!』


ほぼ倒し終わったかと思ったら、後ろから再びエージェントたちがやってきた。


しかもさっきの倍。


「・・キリがない。」


《オイラにまかせて!!!一気にぶっとば》
「ダメだ。お前さ、気づいてないかもしれないけど・・・・結構力出しすぎてて俺が追い付かない。」


《エ゙ッ!!気が付かなかった!!》


「まぁ、いいけど・・・後のために力、とっとけ。」


そう言ってリオナは勢いよく地面を蹴りあげ、中央の銅像の上に立つ。


下を見下ろせばエージェントたちがウジャウジャいる。


《リオナ?何するの?》


「・・・お昼寝タイム、だよ。」


《は?》


リオナは両手を真上にあげる。


口で何かを呟きながら両手を広げ、その上に真紫の魔力をためはじめる。


それはだんだんと大きさを増し
一階の天井をおおいつくした。


それを下から見つめるエージェントたちからは不安げな声が聞こえてくる。


『ぜ・・全員防衛にはいれ!!』


『それにしてもあれは・・・!?』


『なんかヤバそう・・・!!!』


そんな恐怖に怯える声に
リオナはクスクス笑う。


《うわっ!リオナ悪趣味!!てかなんだよこれ!!》


「さぁ・・・?何だろうね。」


その瞬間、
リオナは勢いよく手を振り下げた。


巨大な紫の魔力玉はエージェントたちを次々に飲み込んでいく。


《えー!?何したの!?ねぇ何したの!?》


「いいから。見てなって。」


紫の魔力玉が煙のように充満しきり
今度はだんだんと引いていく。


するとそこに現われたのは真っ赤になったエージェントたちだった


しかしビクとも動かない。


まるで像になったみたいだ。


B.B.はリオナから飛び出し
動かなくなったエージェントたちに近づき、
ジッと見つめる。


《どーなっちゃったの!?死んじゃったの!?殺しちゃったの!?》


「まさか。殺してないよ。」


リオナは下に降り
スタスタ歩いていく。


「魔法大全-禁書-第六章呪術28番"赤像術"だよ。」


《せきぞーじゅつ?》


「そっ。しばらくの間、人間を赤い像にしてしまうんだ。赤いのは自分の血、つまり全身の血を抜いて体を固めてしまうんだ。」


《え!?それ大丈夫なのかよ!?しかも禁書なんでしょ!》


「大丈夫大丈夫。時間がたてば自然に血は体内に戻っていくから。それに禁書っていっても・・・・まぁあんまり使うなってことだ。」


《そんなんでいーのー?偉大な魔法使いになってやるって言ってたじゃんか。》


「一言もいってないし。・・・ほらおいてくぞ?」


《まって!》


リオナの頭にB.B.がしがみつく。


「・・・・・お前、手・・キレイだよな?」


《当たり前!!オイラをなめんなぁ!!!》


「はいはい。」


リオナも急いで医務室に向かう。


道の途中途中にエージェントたちが倒れている。


「・・・・光痕か。」


恐らくシュナだ。


無事に辿り着いてるみたいだ。


医務室の前に着くと
周りを見渡し
誰もいないことを確かめる。


「・・・入ろう。」


そぉっと扉を開ける。


鼻先を医務室独特の匂いがかすめる。


懐かしい。


「久しぶりだな、リオナ。」


すると前方から低音の声が聞こえた。


リオナは笑みを浮かべる。


「・・・デヴィス!!」


目の前に現われたのはデヴィスだった。


くせっ毛の黒髪にだらしがない不精髭。


紛れもなくデヴィスだ。


「元気にしてたか?」


「・・・ん。まぁまぁ。」


「それより一発、いいか?」


「・・・は?」


言ってる意味がわからず、
ポカンと口をあけていると
デヴィスが近寄ってきた。


「・・・な、なに?」


するとデヴィスは真剣な顔になり
思いきり手を振り上げた。


パンッ・・・!!!!!


乾いた音が医務室に鳴り響く。


「・・・っ・・・!?」


突然のことで
リオナ自身何をされたか理解ができなかった。


だが痛みが頬を駆け巡った時
ようやくデヴィスに叩かれたことがわかった。


「・・・デ、デヴィス?」


デヴィスは頬をさするリオナの顎を掴んだ。


「何か、言うことがあるだろうが。」


「ぁ・・・・ごめんなさい・・・」


「なにが。」


「ぇ・・・・・・勝手にダーク・ホームを出ていった・・・」


デヴィスがマーシャに見えてくる・・・・


するとデヴィスは大きくため息を吐き出した。


「はぁ・・・・わかってるんだな。お前さぁ、俺がどれだけ心配したかわかるか・・・?」


いつになく真剣な表情に
リオナは息を呑む。


「発作が起きたばっかだったってのに・・・薬も持たずにダーク・ホームを出ていきやがって。バカヤロウ・・・」


「・・ごめん・・・デヴィ・・」


言い終わる前に
リオナはデヴィスに抱き締められた。


ギュッと。


まるで家族の帰りを喜ぶように。


「・・小さい頃は・・・マーシャ無しじゃ生きられないお坊ちゃんだったのに・・・いつの間にこんなになっちまったのかな。」


成長した息子を誉め讃えるように。


「よく帰ってきたな・・・・。リオナ・・・・・お帰り」


顔を上げれば
いつものデヴィスの笑顔が見えた。


「うん・・・ただいま」


やっぱりデヴィスは仲間・・・・


いや・・・・


家族なんだ・・・


俺の・・・もう1つの・・・・


ダーク・ホームの家族なんだ


「B.B.もお帰り。元気にしてたか?」


《おーう!!ぴんぴんだぜーぃ!!!》


興奮気味のバカウサギはさておき。


「あ!!デヴィス・・・・シュナたちは!!!」


そういえば先ほどから姿が見えない。


まさか辿り着いていないんじゃ・・・・


「焦るな・・・。奥にいる。エージェントにばれたら大変どころじゃないからな。それに話はきいた。シキを助けに来たんだろ?あとベンを・・・」


デヴィスは言葉を濁す。


そんな彼にリオナは小さく頷いた。


とにかく・・皆無事でよかった。


リオナはホッとして
デヴィスのあとに続く。


奥の部屋に行くと
そこにはちゃんと皆いた。


ムジカが勢いよく立ち上がり
リオナに抱きつく。


「よ・・・ょかった・・・・!心配した・・・!!」


「ごめん・・・大丈夫だよ。」


2人は顔を赤くして
そっと離れる。


人前だということをすっかり忘れていた。


そんな二人を見て
デヴィスは顎髭を撫でながらにやついた。


「ほぉ〜・・。晴れてめでたしめでたしってか。」


《オイラのリオナ取られたのだー!!!》



「そんなこと言ったら俺のリオナだって・・・・」


なぜだか落ち込むシュナにリオナは苦笑を浮かべた。


「ところで。」


すると医務室のデヴィスの椅子に偉そうに座っていたジークが口を開いた。


「Dr.デヴィスと言ったかな?君に聞きたいことがある。」


なぜか上目線のジークに
デヴィスは訝しげにリオナの方を見る。


「おいおい・・・・なんなんだよコイツは?偉そうな口調におまけに俺の椅子まで奪いやがって・・・」


「・・・ごめん。彼はこういう気質なんだ・・・生まれつき(たぶん)。」


リオナはデヴィスを怒らせないように
フォローを入れながら対応する。


「で?聞きたいことは?」


「ビットウィックスとシキとやらの居場所を知りたい。あとベンという男も。」


「ストレートに聞くなぁ・・・。アンタ嫌いじゃないな。」


デヴィスは一旦部屋の外に出て
誰もいないことを確かめる。


そして戻ってきて
小声で呟いた。


「・・・実は俺にもその情報がないんだ。ただな・・・」


デヴィスはリオナ達の前を横切り
さらに奥の部屋に行ってしまう。


何か取りに行ったのだろうか・・・・・


だが取りに行ったのは予想外の物・・・・いや・・・・・"人"だった。


「・・・な!!!」


リオナは思わずポカンと口を開ける。


「・・・・コロナ!?」


「やっほー・・・リオナくん」


なんだかいつもと様子が違う。


いつもだったら飛び付いてくるのに。


それに足を引きずっているように見える。


「・・・お前、足どうしたんだよ?」


その言葉に
コロナは目に涙をため
なぜかその場で泣き出した。


「な・・・!どうしたんだよ・・・」


コロナらしくない。


彼女は絶対泣かないのに・・・。


「何が・・・あったんだ?」


宥めるように尋ねる。


「・・ベン・・・様に・・・!!あのベン様にやられたの・・・・・!!うぁぁぁぁん!!」


コロナはすごい勢いで泣き出す。


「ベン様・・・フェイターなのよ・・・!!!もうすぐフェイターがダーク・ホームを潰しにくるのよ・・・!!!うぁぁぁぁん!!!」


「・・・・!」


フェイターたちがやってくる・・・


わざとこの時を狙ったのか・・・


この事態を利用して・・・・ダーク・ホームを・・・ローズ・スピリットをのっとる気だ・・・


クソ・・・・!!!!!!


「・・・コロナ!」


「は・・・はい!!」


リオナはコロナの肩をつかみ
目を合わせる。


「ベンとシキの居場所はわかるか!?」


「ベン様はわからないけど・・・シキ様はおそらく赤の屋敷よ・・・!!そこにはきっとビットウィックス様もいらっしゃる・・・・!さっきベン様がフェイターに言ってたわ!」


・・・・・赤の屋敷か


赤の屋敷はダーク・ホーム本部であるこの黒の屋敷の裏の森を抜けた場所。


だがフェイターがくるというに黒の屋敷を軽々しく離れたくない・・・・


それにベンを逃がす訳には・・・・


「ねぇリオナ」


するとムジカが顔をあげ
リオナを見る。


「二手に分かれよ・・?」


「・・・・!」


確かに二手に分かれるのは悪くはない。


でも戦力をここで分散させてしまったら
ただでさえ小さい戦力なのに
全滅しかねない。


こういう時・・・ふと思ってしまう。


マーシャがいたらと。


きっとマーシャならうまく二手に分けるんだろうな・・・・


俺・・・情けない。


「リオナ・・・」


するとシュナが横にやってきて
リオナの肩に手をおいた。


「・・・リオナ、そんなに悩まないで。きっとなんとかなる。二手に分かれるのが・・・今は最善策だよ。」


「・・そう、だよな。」


リオナは周りを見渡す。


どう分けようか・・・。


ムジカはなにがなんでもビットウィックスの元に行くだろう・・・


だとしたら
俺は絶対ムジカに付いていかなきゃならない。


彼女の監視をしなければ・・・


けれどシュナもシキを助けに行きたいだろう。


だからと言ってダーク・ホームに関して無知のジークとクロードとクラッピーをベン探しに繰り出させるわけにはいかない。


あー・・・どうしよう。


「リオナはベンを止めに行って。」


「・・・あー・・うん・・・て・・・・え!?」



あれ・・・?今・・・なんて・・・・


「ムジカ・・・今なんて言った?」


「だから・・・・リオナはベンの元に行ってって。」


突然の発言にリオナは戸惑う。


やっぱり・・・・


聞き間違いじゃなかった・・・


リオナは小さく首を振る。


「はぁ・・・・。ダメだよムジカ・・。俺はムジカに・・」


「私は大丈夫。だってお兄様だよ?お兄様は絶対に私を殺さない・・・。」


ムジカの表情が険しくなる。


確かに
話を聞いているかぎり
ビットウィックスはムジカを殺す気はないようだが・・・


「だから、絶対大丈夫。ね?たぶんマーシャに私から離れるなとか言われてると思うけど・・・本当に大丈夫だよ。」


「・・・・」


マーシャが言ってたの・・・知ってたんだ・・・


リオナはムジカの目を見つめる。


真っ赤に輝く瞳には
かつてないほどに自信がみなぎっている。


・・この子は・・・いつからこんな顔をするようになったんだろう・・・


いつも泣いたり不安そうな顔したり・・・


脆い君しか見ていなかった・・・・


ムジカ・・・君は変わったのか・・・


強くなったのか・・・?


それとも・・・・これが本当の姿なのか?


なんだか・・・・


「・・・寂しいな」


「え・・・?」


「ううん・・・なんでもない。」


リオナは苦笑しながら小さくため息をついた。


「・・・わかった。俺はベンを探しにいく。シュナがムジカと一緒にビットウィックスの元に行ってくれ。ジークとクロードとクラッピーは俺と一緒に。」


《えー!!!それでいいのかよっ!!!》


「・・・ああ。」


本当はムジカが心配でたまらない・・・


でも・・・・


・・・ベンに会いたい気持ちもある。


やっぱり・・・ウソはつけないな。


「リオナ・・・」


するとムジカがリオナの手を取り
キュッと握った。


「ありがとう。」


「・・・うん。」


はぁ・・・俺って甘いかな。


そんなことを考えていたら
もう一度ムジカが口を開いた。


「あと・・・行く前に、1つ・・・聞いてもらいたいことがあるの。」


「・・・?」


ムジカの握る手が強くなる。


なんだか・・・いやな感じがする・・・


「あのねリオナ・・・私、リオナから色々なものをもらったよ」


何の話をしだすかと思えば。


「何言って・・・・・・そんなこと、あとででいいだろ?」


「・・・ううん。今、言っておきたいの。」


「・・・・・」


何だか聞きたくない・・・


けれどもムジカの言葉がすんなり耳に入ってきた。


「リオナが私を助けてくれたあの日から、たくさんのことを知れたの。空の色とか、大地に広がる草木とか、人の優しさとか、世界の広さとか。何よりも・・・人生の喜びを教わった。」


・・・・・なんで・・・


今・・・そんなこと聞きたくない・・・・


やめてくれ・・・


「だから私ね、今すごく幸せなの。本当はあの日に尽きていたはずの命なのに・・・こんなに生きられて・・・リオナに愛されて・・・・私幸せだよ。」


そんな笑顔・・・見たくない・・・・。


「リオナ・・・」


だって・・・


「・・・うん」


まるで・・・


「ありがとう。」


キミが遠くに行ってしまうみたいだ・・・・



リオナはムジカをそっと抱き寄せる。


「・・・・何言ってんだよ。誉めても何もでないからな。」


「うん。わかってる。」


「・・・・バカ。それいうなら全部終わってからにして。」


「・・・今言いたかったの。」


「バカ・・・」


・・・離したく・・・・・・・なくなるだろ・・・・


リオナは小さくため息をはきだし
ムジカから離れた。


時間だ。


「・・・赤の屋敷に向かうならここの窓から行って。」


「わかった。」


そう言ってムジカとシュナは窓の前に行った。


「・・シュナ、頼んだ。」


「うん・・。」


2人は窓から外にでる。


リオナは2人が走って行くのをただじっと見つめた。


「・・・・・ぁ」


思わず手を伸ばしてしまう。


なぜだろうか・・・


なんでこんなに・・・不安、なんだ?


「お兄ちゃん・・・大丈夫?」


あまりにもボケっとしすぎ
クロードが心配そうに見上げている。


「・・・悪い悪い。大丈夫だよ。」


ニコッと笑って頭を撫でてやる。


そんなリオナを
コロナもただ見つめていて、

さらにそんな彼女をデヴィスが珍しそうに見ていた。


「ほぉ、泣き叫ばないんだな。」


「は?なによ。」


「いや、ムジカとリオナが抱き合ってても騒がないんだなぁ〜って思ってな。」


その言葉にコロナは顔をしかめるが
すぐにため息をつきながら首を振った。


「だって、完全2人の世界だったし。それに・・・」


「それに?」


「・・・・・なんでもないわよ!!!」


コロナはバシッとデヴィスの背中をたたく。


だって・・・


リオナ君


幸せそうだから・・・・


なんて、言いたくないもん。


「・・・じゃあ、俺たちも行こう。」


リオナは窓から離れ
医務室の出口に向かう。


「・・たぶんフェイターはじきに黒の屋敷にやってくるはずだ。そこにはたぶんベンも・・・。」


ベン・・・・・・・


リオナは拳を握り締める。


「リオナ。」


「・・・?」


するとデヴィスが近寄り
リオナの手に何かを渡した。


何を渡されたのかと
リオナはそっと手を開いた。


「・・・飴?」


渡されたのは小さな飴玉。


「懐かしくないか?リオナが緊張してるとき、いつもやったろ?」


そういえばそんなこともあった。


小さい頃
どうやって緊張をほぐせばいいかわからず
よくデヴィスから飴をもらっていた。


リオナは微笑みながら
飴を口に含む。


「ありがとう。」


「気をつけて。幸運を祈ってる。」


リオナはデヴィスに笑顔を見せる。


「・・・行ってくる。」


もう一度・・・


また皆で・・・


・・・笑いあうために。
























ダーク・ホーム


城下町


雲行きが怪しい空の下
家々の屋根の上に3つの影。


「うわー。雨、降りそおッスね。」


「おいビンス!!!肉ばっか食ってねぇで少しは偵察したらどうだ!!!」


「そんなに怒んないでくださいよランダー。カリカリしても仕方ないッス。」


そう言って肉を食べ続けるビンスに呆れてものも言えない。


その横では堂々と寝転がっているアシュールがいた。


さっきから目をつむっている。


こんなところでよく寝られるなと感心。


大体彼は何を考えているか分からない。


さっきだって
黒の屋敷に侵入しようとしたら
「ちょっと待って。少し休もう。」
などといって今にいたる。


本当に・・・何を考えてるんだか。


「変ッスね。」


「お前に言われたくねぇよ!!」


「そうじゃなくてッスね。騒がしくないッスか???」


「は?」


ビンスは持っていた肉を黒の屋敷にむけた。


「死刑執行にしては、騒がしすぎッス。」


そういえば
さっきから悲鳴やら叫び声が聞こえてくる。


確か死刑が行われるのは赤の屋敷。


なぜ黒の屋敷が?


「偵察、行くッス。」
「今更かよッ!」
「その必要はないよ。ビンス。」
「あ・・・アシュールさん!?!?」


すると今の今まで眠っていたアシュールが
ガバッと立ち上がった。


片手で顔を覆っている。


怒っているのか?


表情が読めないから怖い。


「アシュール・・・・さん?」


「・・・クスクス」


「・・・!?!?」


突然笑いだす彼にランダーは怯えながらあとずさる。


アシュールの瞳の瞳孔は完全に開ききり
口元は今までになく引きつっている。


「・・・・リオナ」


・・またリオナか?


そんなに奴に会いたいのか?


「・・・リオナが来てる。」


「はぁ・・!?」


予想外の展開に驚きを隠せない。


「それ、マジッスカ?」


さすがのビンスも食べる手を止めた。


「さっきから変な気がしてたんだ。どうやらリオナがシキを助けにきたみたいだね。誰に聞いたかしらないけど。」


「じゃあヒュウの正体も!?」


「多分ね。」


ニッコリ笑うアシュールが不気味で。


これ以上怒らせないようにしなければ。


「ランダーには悪いけど、作戦変更させてもらうよ。」


「全然!大丈夫ですよ!!!」


・・・本当は暴れたくて仕方ねぇケド。


ランダーは喉元まで出かけた欲望を飲み込む。


「ダーク・ホーム奪還は今日はやめた。その代わりに・・・」


アシュールの表情が一気に明るくなる。


「リオナを奪おう。」


・・・ほらな。


だってこの人がこんな楽しそうな顔するのは
大体リオナが関わっている。


俺たちにはそんな顔一切しないのに。


うらやましいったらありゃしない。


「だからこうしよう。俺は赤の屋敷にむかうからランダーはヒュウを迎えに行って、被験体を連れてきて。ビンスはリオナを。手荒には扱わないでね。」


「はッ!!」
「了解ッス。」


「・・・クスクス。大人しくしていれば今回は見逃してあげたのに。リオナ・・・」


アシュールはすたすたと歩みを進め
黒の屋敷を見上げる。


「クスクス・・・・・お仕置きだよ。」


さぁ・・・奏でよう


破滅へのレクイエムを


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