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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story81 愛をもう一度





架空の空、架空の大地






これらすべてが架空なら






この戦いも架空であるのか。










マーシャはスピードを落とし
ひたすら攻撃していた手を止める。


少し息が上がっている。


久々の感覚だ。


すると横に
共に戦っていたラードとユリスが現れた。


やはり2人とも息を切らしている。


柄じゃないねぇなどと心なしか思ってしまう。


「くそ・・!!キリがねぇ!!」


「認めたくないけど・・・私たち少し押されてない?認めたくないんだけどね。」


2人の言葉にマーシャも小さく頷く。


さっきから戦っている相手、キャロル3兄弟のハル・ナツ・アキ、
3人ともスピードが尋常じゃない。


今までヤリ合った中でもダントツでトップだろう。


さすがサタンについていただけある。


"人間"じゃない。


・・・・ったく。悔しいもんだぜ。


するとそんなマーシャ達を見下すかのように
キャロルの次男坊のナツの笑い声が響き渡った。


[もうおしまいか!?10年前から何も変わってないな。マーシャ=ロゼッティー!]


「うるせぇ、キャロル。」


10年前
天上界のサタンに仕えるエージェントがいると聞いて
交流試合的なものをやった。


・・・というかやらされた。


それがキャロル3兄弟。


同じ人間で
同じように悪魔と契約している彼らなのに、
どこか人間離れしていた。


ダーク・ホームでは俺たちが一番強いと思い込んでいたから
その敗北が余計に身に染みたのを今でも覚えている。


けれど・・・


「10年前から変わってないだと?聞き捨てならねぇなぁ。」


マーシャはニヒルな笑みを浮かべる。


[ぁあ!?どこが変わったってんだ!!!言ってみろよ?ぇえ!?]


・・・俺は10年前から変わった。


そう・・10年前・・・リオナと出会ったあの日から。


「大切なものができたんだ。」


当たり前のように答えるマーシャに対し
ナツは口をポカンと開ける。


[はぁ?それだけかよ。]


「絶対に守りたい、命に代えても守りたいものができたんだ。」


ニッと笑いながらナイフを鎌に変形させ
ナツに突き付ける。


「俺の愛をなめんなよ。」


[フン!!くだらねぇ!!!]


ナツは全身に闇を纏いながら襲い掛かってくる。


[愛だの友情だの!!そんなもんを抱えたら身を滅ぼすだけだっての!!!!]


あの闇に飲み込まれたらゲームオーバー。


10年前はあれにやられた。


「変わってないのはどっちだよっと。」


マーシャは素早く後退しながら
勢い良く地面を蹴りあげる。


宙を舞いながら体をひねり
ナツの背中に回る。


けれどナツもバッと振り返り
マーシャの鎌を払いのけた。


[へぇ。昔よりは成長したじゃんか!]


「そりゃどうも。」


お互いに打ち合いが続く。


マーシャがチラッと横を見ると
ラードとユリスもハルとアキと互角にヤリ合っていた。


この3兄弟の戦い方は似ている。


相手に隙を見せず
常に闇に俺たちを飲み込もうとする。


だが所詮人間。


隙の1つや2つ、あるはずだ。


しばらくラードとユリスの戦いに目をやっていると
それに気を悪くしたナツが、がむしゃらに飛び込んできた。


[よそ見してんじゃねぇぞ!!!]


「してねぇよ。ナツ。」


すると
さりげなく名前を呼んでみれば
意外な反応が返ってきた。


[なっ・・・勝手に名前呼ぶんじゃねぇ!!!!]


ナツの目が泳ぎ
殺気が乱れた。


・・・今だ。


マーシャは一瞬の隙を見逃さず
ナツの足元をすくった。


ナツはバランスを崩し
地面に思いきり倒れこむ。


そのまま立ち上がろうとしたが
流されるようにマーシャが覆いかぶさってきて、身動きがとれない。


[はなせくそ野郎!!!]


「なに?名前呼ばれただけで隙できちゃうなんて。そんなに俺が恋しかった?」


マーシャは顔を近づけ
指先でナツの唇をなぞる。


ナツの顔は真っ赤になっていき
両手足をじたばたさせた。


[気色悪いんだよテメェ!!!]


「え?さっき俺のリオナにそっちもいけるって言ってなかったか?そっちってどっちよ?」


[うるせぇ!!ボサボサ!俺は美形じゃなきゃ嫌なんだよ!!!!]


「へぇ、そう。でもさ、お前」


さっきから暴れるナツの喉をなで
顎を軽くつかむ。


ナツの動きが一瞬で止まった。


「本当は寂しいんじゃないのか?」


[・・・は?]


「だから、寂しいんじゃないのかって。」


[誰がだよ。]


「ナツが。」


[だから人の名前を勝手に呼ぶな!!!!!]


ナツは手を伸ばしてマーシャを押し退ける。


[俺は寂しくなんかねぇよ!!!んなわけあるか!!!]


喉を押さえながら声を張り上げている。


あーあ。
コイツも素直じゃないねぇ。


わかりやすいったらありゃしない。


「あはは。」


[何笑ってんだテメェ!!!バカにすんのもホドホドにしろよ!?]


そう言い放つと
ナツは闇を大きくし、マーシャに襲い掛かってくる。


だがマーシャは逃げようとしない。


むしろ笑みを浮かべている。


・・・・俺の勝ちだ。


残念だったな・・・


「ナツ。」


[・・・!!!!]


再びナツの動きが止まる。


そう・・・奴の弱点は"名前"だ。


だから何度も名前を呼ぶ。


「ナツ。」


まるで誰かを愛しむように。


[・・・・・やめろ!!!!]


ナツは闇を消し
両手で耳を押さえる。


「ナツ。」


[いや・・・イヤダ・・・やめ・・!!!!!!!!]


首をふりつづけるナツに一歩一歩近づく。


「ナツ・・。」
[ヤメロォォ・・・・!!!!!!!!]


頭を抱え
ナツはマーシャの前で膝をついた。


正直驚いた。


あんなに強気な男がここまで堕ちるとは。


名前を呼んだだけで。


どうしようか・・


いや、もう・・とことん行くしかない。


「おいナツ。」


[来るなぁ・・・・]


声が震えている。


泣いているのか?


マーシャも少し動揺しながらも
ナツに手を伸ばす。


「ナツ・・・来いよ。」


[・・・・!!!!]


勢い良く顔を上げたナツの表情にすごく驚いた。


ナツの顔は涙で濡れ、
まるで獣でも見るように怯えた目をしている。


「ナツ・・大丈夫だから。」


腕を広げれば
ナツはビクビクしながらも近づいてくる。


驚くほど従順なナツを
マーシャは軽く抱き寄せる。


「な・・泣くなよ。悪かった。」


[・・・・ぅッ・・・]


まさかこんな展開になるとは思ってもいなかった。


はっきり言って
この光景は変だ。


敵をなぜ俺が抱き締めにゃならん?


それはハルとアキも同様だったようで。


[なっ・・・ナツ!?]
[・・・・・・!!!]


ハルとアキはラードとユリスへの攻撃をやめ
マーシャの元にいく。


そして今度はマーシャに向けて凶器を突き付けた。


[ナツを離せ!!!]


「え・・ああ。」


2人に囲まれたマーシャは
危険を感じてナツから離れようとした。


だが。


「は・・・離れねぇ。」


[な・・なに!?]


ナツの手がガッチリマーシャの腕をつかんでいる。


ハルはナツに近寄り
体を引っ張って無理やり離そうと試みた。


[ナツ・・!!離れるんだ!!!]


しかしビクともせず
ナツから手を離せばまたマーシャに寄っていく。


すると訳がわからなさそうに
後ろからラードとユリスもやってきた。


「おいマーシャ!?!おま・・・何してんだ!!?」


「まさかアンタ・・・セクハラまがいなことを・・・!!」
「するかバカ!」


マーシャは気まずそうに顔をあげ
ため息を洩らした。


「ただ名前呼んだだけだ。なんか弱点っぽかったから名前連呼したら急に泣きだしてよぉ。ってかいい加減離してくれよ。」


[当分は無理だろう・・・]


ナツの背中を撫でていたハルが
ため息混じりに呟いた。


「どういうことだよ。」


未だに自分の胸で泣き続けるナツを
困ったように見つめる。


戦いの結末がこうなるとは。


実際
殺られると思ってた。


覚悟はできていた。


ただリオナたちが逃げる隙ができればそれだけでいいと思ってた。


なのに。


「正直、引くわ。」


厳しい言葉を浴びせる。


彼らには一目置いていたから。


だがその言葉に反発することなく
ハルは静かに頷いた。


[・・・そう思われても仕方ない。まったく・・・恥ずかしいことだ。]


「なんか・・・キャロルからそんな言葉が出るなんて信じられないわね・」


ユリスも顔に付いた傷を拭いながら
呆れたように呟いた。


ハルもハルで
どうしようもないくらい落ち込んでいる。


[トラウマなんだ・・・・]


「トラウマ?」


ふと飛び出してきた言葉に耳を傾ける。


[名前を呼ばれると・・・特にナツはあの女と一番仲が良かったから・・・・思い出してしまうんだ。あのことを・・・・・]


あの女・・・あのこと・・・・?


一体何があったのか。


すると
今までマーシャに抱きついていたナツが動きだした。


静かにマーシャから離れ
ハルに体を預けた。


[ナツ・・・!!大丈夫か!?]


[ぁぁ・・・大丈夫・・・・。]


ナツは顔を歪めながらも
マーシャを睨みあげるような目をしている。


まだ喧嘩を売る気か?


だがナツの口から飛び出したのは違う言葉だった。


[知りたいか・・・俺達の過去を]


過去・・・・?


「なに。教えてくれんの?」


[教えてやるよ・・・ダーク・ホームの黒歴史をな。]


黒歴史だと?


ダーク・ホームの存在自体黒歴史ではないか。


マーシャの表情に真剣さが戻る。


「そんなもの、あるわけない。」


[大抵の奴がそういうんだよなぁ・・・ダーク・ホームは正統だとかなんとか・・・・だがな・・・]


ナツは口元を引きつらせ低く笑う。


[被害者の俺たちが直で言うんだぜ?]


「被害者?」


一体何の・・・・


ダーク・ホームにこれ以上秘密があっていいのか?


いや・・・よくない・・・


「聞かせてくれよ。」


好奇心とか興味からじゃない。


「黒歴史ってやつを。」


これはダーク・ホームに関わってきた"義務"として。


[・・・いいぜ。この話は約20年前から始まる・・・]








俺たち3人は小さい国で生まれた。


その国の住人たちは昔から文字を自在に操れる能力があったんだ。


けど・・・なんでかわからないけど・・・・俺たち3人にその能力がなかった。


今でも覚えてる。
あの時に言われた親からの言葉・・・・


「不良品」


苦しかった・・・


何より・・・そのまま家を追い出されたことが悔しかった。


ハルは10歳
アキが5歳で俺が8歳だった。


それから俺たちは国をさまよった。


何ヵ月も・・・・


国の奴らは冷たいんだ。


誰も俺たちに見向きしない。


まだ小さかったアキにさえ何もくれなかったんだ。


冬がきたときには
本当に死ぬかと思った。


いや・・・死にたかった・・・


このまま眠って死ねたならどれだけ楽か・・・


だけどそんな時
俺たちの目の前に1人の女が立ち止まったんだ。


金色の綺麗な髪に真っ白い肌


すごく美しい女だった。


その女は雪が降る路地裏に縮こまっていた俺たちに
自分の傘を差しだしてきたんだ。


「寒いでしょう?こんなものでよければ使ってちょうだい?」


ただ呆然と女を見つめていた。


今まで俺たちの前に止まった人間なんて1人もいなかったのに・・・。


「それじゃあね。」


お礼を言う間もなく
女はいなくなってしまった。


変わった人間だ。
こんな俺たちに声をかけるなんて・・・・。


でも・・・・・嬉しかった。


気が付けば・・・涙が溢れてた。


それから俺は
もう一度あの女に会いたいと思った。


ちゃんとお礼がしたい。


そう思ってそれから毎日
俺は町中を捜し回ったんだ。


雪のひどい日もひたすら探した。

だけど・・・その女は見つからなかった。


違う国の者なのかもしれない・・・


また・・奈落の底に落とされた気分だった。


そんな時
アキの体調が一気に悪くなった。


栄養失調が原因だろう。


このままじゃアキが死んでしまう。


それでまた俺は町中を走った。


死に物狂いで・・・助けを求めたんだ。


でもやっぱり、誰も助けてなんてくれない。


俺たちは"人間"として見られない。


この国じゃ浮浪者=非人間だった。


もうダメだ・・・アキを助けられない・・・


そう思った時だった。


「あら・・・あなた、この前の・・・」


目の前にいたのは
綺麗な金色の髪の女・・・


そう・・・あの時の女だった。


俺は初めて奇跡を信じたよ・・。


[妹が・・・大変なんだ・・・]


「どこにいるの?連れてってちょうだい。」


女はためらわず俺についてきた。


それから女はちゃんとアキを見てくれて・・


「軽い栄養失調よ。もう大丈夫。」


アキだけじゃなくて
俺たちにも食料を与えてくれたんだ。


「・・あなたたち、3人で暮らしているの?」


[・・うん。]


「そう・・。こうやって毎日外で寝てるの?」


[・・・うん。]


涙ぐむ俺の頭を
女は優しく撫でてくれた。


久しぶりだった・・・あんな風に優しく撫でられたのは・・・


[・・・ありがとう。]


「なにが?」


[傘、と・・・たべもの・・・]


そう言ったら女はキョトンとした顔して、
最後に笑いだしたんだ。


[ど・・・・どうしたの!?]


「ううん。なんだかおかしくって!」


[俺・・・変なこと言ったかな・・・]


「違うわ。私、あなたにお礼を言われるほどのことしてないと思って。もったいないお言葉だわ。」


こんなにしてもらったのにもったいない言葉だなんて・・・


「私がしたことは当たり前のこと。」


[当たり前・・・?]


でも・・・他の"人間"はそうじゃなかった。


「だから、お礼はなし。ね?」


[うん。わかった。]


「それでね、これは私のワガママなんだけど・・・」


傘も食料ももらった。
もう十分だったのに・・・・
女は言ったんだ。


「私の家に・・こない?」


一瞬何を言われたかわからなかった。


飢えていた俺たちの耳にはこんな贅沢な言葉を受け入れる要領がなかったのかもしれない。


「家って言っても研究所なんだけどね。しかも汚いし大した料理とかできないけれど・・・」


不思議だった。


[なんで・・・・]


「・・・?」


前々から思ってた。


この女は不思議だって。


[なんで・・・そこまでしてくれるの?]


そうやっていつも・・・・当たり前に笑う。


「だって、同じ人間じゃない。」


同じ・・・人間・・・・


そんなこと・・・思ってもみなかった。


「ね。一緒に行きましょう?」


[でも・・・・俺たち・・・・]


まだ会ったばっかなのに・・・


[赤の・・・他人でしょ・・・]


そう、血のつながりもなんもない


ただの、赤の、他人。


でもあの女は、また当たり前に笑うんだ。


「名前は?」


[え・・・?]


「あなたの名前よ。」


[ナツ・・・]


「ナツ・・・いい名前ね。私はディズ。ディズ=モーレ。」


[ディズ・・・]


「そう19歳のピッチピチよ?ほら。これで私たちは見ず知らずの赤の他人じゃないわ。」


そう言って
手を差し伸べてきたんだ。


あの時のことは・・・今でも覚えてる。










「ちょっと待て。」


するとマーシャは真っすぐに手をあげ
ナツの話を遮った。


[ぁあ?]


「ディズ=モーレって、あのディズ=モーレか?」


[他に誰がいるんだよ。]


ディズ=モーレ・・・


彼女はダーク・ホーム研究室の室長であり
ブレーンであり


そして


サタンの妻であり
ムジカとビットウィックスの母・・・・


「変ね・・」


するとユリスが訝しげな表情を浮かべた。


「何が?」


「ムジカのママの・・・ディズ=モーレは・・・こんな言い方したらムジカに悪いかもしれないけど、極度の研究バカだって聞いていたわ。」


「なんだそれ?」


「いつもいつでも研究をしていてね、その為には犠牲を惜しまない魔女だって。だから彼女がアンタ達3人を何も見返りもなく助けたとは思えなくてね。」


確かにディズ=モーレの噂は聞いたことがあった。


実際に会ったことはないが
少しイカれていたとも聞いている。


それは自分の娘であるムジカを対神用の最終兵器に仕立てた時点で証明されてはいたが。


[アンタの言う通りだ・・・。]


ナツは先ほど話していた時の穏やかな表情から一変して
陰りを見せる。


[あの女は・・・・・まるで死神だ]











それから俺たち3人は
ディズと生活を始めた。


と言っても
実際ディズは研究所に入り浸っていて
ひどい時だと月1程度しか会えなかった。


その間俺たちを面倒見てくれたのは召使のおばさん。


人がよくって
とにかく今でも感謝してる。


特にアキとハルは幸せそうだった。


もちろん俺も幸せだったけど・・・・・


・・・それ以上にディズに会えないことが淋しかった。


だから俺はこっそり研究所に遊びに行ったりしてた。


研究所の窓を覗いたら
ディズが俺に気が付いて・・・・必ず笑顔で手を振ってくれる。


その度に俺の名前を呼んでくれたんだ。


「ナツ!」


ディズが俺の名前を呼んでくれるとすごく心が暖かくなった。


何度も何度も呼んで欲しいって思うんだ。


「ナツって、とてもいい名前・・・私、好きよ?」


そう言われる度
胸が焼けるほど苦しくなるんだ。


この想いに子供だった俺はまだ気が付いてなかったけど。


こんな生活を送りながら
10年の月日がだったんだ。


ハルは20歳になってディズの研究所の手伝いを始めた。


アキは15歳だから学校に。


18歳になった俺ももちろん学校に通わせてもらっていた。


俺の毎日の楽しみは
学校帰りに研究所に寄ることだった。


それはもちろんディズに会うため。


その頃にはいい加減気付いてた。
俺がディズに恋してることに。


学校にいる女なんか目に留まらない・・・・彼女しか・・・見えてなかった。


だから今日も彼女に会いに行くんだ。


[あ・・・ディズ!]


ディズが研究所から出てきたから
俺は急いでかけていった。


「ナツ・・・」


だけどその日はなんだかいつもと様子が違った。


いつもの元気さがない。


だけど顔は笑ってる。


「おかえりなさい。今日も楽しかった?」


[んーまぁまぁ、かな・・。やっぱりディズがいなきゃ・・・]


「またそんなこと言って・・・ナツは私をいつも困らせるのね・・・。」


[そんなつもりは・・ないんだけど・・・ただ俺は本当のこと・・]


「ふふふ!ごめんなさい。わかってるわ。ナツは素直な子だものね・・・」


いつもはこんな悲しそうに笑わない・・・


なんだか本当に今日のディズは変だった。


[なぁ・・・何かあった?]


「・・・え?」


[なんか、今日変。]


「・・・・・ナツにはお見通し、か。」


そう言ってディズは小さくため息をついて
研究室の方に目をやった。


その視線を追うと
そこには1人の少年が小さく座っていた。


黒髪のまだ幼い少年。


5、6歳くらいだろうか。


「ねぇ・・・ナツ・・・」


[・・・・?]


「私ね・・・あなた達に隠してること・・・沢山あるの・・・・」


突然何を言いだすのか・・・


「私は・・・最悪な女よ・・・」


それだけ言って
彼女はまた研究所に戻っていった。


あの少年とディズ・・・・


あの時から・・・俺たちの歯車が狂いはじめたんた・・・












[なぁ、マーシャ・・]


「?」


ナツは話を止める。


[その少年・・・誰だと思う?]


「え?その黒髪のか?」


[ああ。]


黒髪のガキなんて会ったことがない。


リオナは銀髪だしそもそも生まれてない。


ビットウィックスは金髪だ。


他に誰が・・・・


[お前がよく知ってる奴だ・・・よーく考えてみろ。]


「俺がよく知ってる・・・だと?」


マーシャは目を閉じて考える。


黒・・・・・黒・・・・黒・・・・


黒?


クロ・・・・


「まさか・・・」


マーシャは目をバッとあける。


「B.B.!?」


[大正解]


そう言えば昔B.B.は言ってた。


B.B.は元は人間の子供だったと・・・


「B.B.はディズに改造されたのか!?」


[改造?ははは!そんな甘っちょろいものじゃない。奴は一度殺されたんだ!!!あの女にな!!]


狂ったように笑うナツをマーシャはにらむ。


「どういうことだよ。」


[アルティメイトプロジェクトだよ。]


「はぁ・・・・!?!」


[だから、ラビンは・・・ああ、今ではB.B.って呼ばれてるんだっけ?奴はアルティメイトプロジェクトの一番最初の被験者なんだよ。]


アルティメイトプロジェクトは
ディズ=モーレが対神用の最終兵器をつくる計画。


実の娘であるムジカがその被験者。


それは失敗したと思われていた。
実際は成功していたが。


けれどまさかあのB.B.がアルティメイトプロジェクトのはじめの被験者だったなんて・・・


[無理やり悪魔にされて、力が制御できなかった挙げ句、黒ウサギに閉じ込められて。たぶん奴は人間の頃の記憶なんて覚えてないんだろうな。まぁあんなメタメタにされたらな。]


皮肉っぽく言い放つナツを
マーシャは思い切り押し倒す。


「テメェばかにしてんのか!?アイツをバカにすんのもいい加減にしろよ!?」


[バカにしてる?まさか。むしろ感謝してるくらいだ。]


「は?」


[あのB.B.がいなきゃ、俺たちがそうなってた・・・]


は・・・?
何言って・・・


[ここまで言えばわかるだろ?]


ナツは目に涙をため
睨みあげた。


[俺たちも、アルティメイトプロジェクトの被験者だ・・・]


まさか・・・アルティメイトプロジェクトの被験者はムジカだけじゃなかったのか?


「どういうことだよ・・・?だってディズはお前たちのこと・・・」


[愛してなんかいなかった。はじめから。・・・はじめからサンプルとしてしか俺たちを見ていなかったんだよ・・・!!]






"ナツ・・・・ごめんなさい・・・"





[朝起きてみればいつのまにか研究所のベットの上・・・身体中縛られて・・・いろんな管が通ってて・・・見上げたらディズが・・・あの女がいて・・・!!なんで気が付かなかったんだ!!!あの女がダーク・ホームの研究者だってことに・・・!!]


ナツは悔しそうに唇を噛み締める。


[悔しかった・・・いや・・・苦しかった・・・・初めて愛した女に・・・裏切られたなんて・・・・]


「そうだったのか・・・。」


マーシャは静かに頭を撫でてやる。


[結局俺たちは失敗作で終わったんだ・・・。力は強いけど・・・神には到底追い付かない。それから俺たちはディズと共にダーク・ホームに足を踏み入れた。戦闘員として・・・・戦い続けた。これがダーク・ホームに隠された歴史だ・・・・]


あまりにも酷い話に
マーシャ達は言葉を失う。


「じゃあなんでだよ。」


[え・・?]


「ディズが憎いんだろ?じゃあなんで息子であるビットウィックスに肩を貸すんだ?」

もし俺がその立場だったら
絶対に殺している。


[それは・・・ビットウィックスが俺たちと同じ想いを抱えているからだ。]


「同じ想いを?」


[ビットウィックスは妹のムジカを愛している。本気でな。だからムジカを実験体にした母親と父親が許せなかったんだ。ビットウィックスは両親を恨んでいる。だから俺たちはビットウィックスと一緒にディズ=モーレを殺した。]


「殺した!?」


[ああ。ディズは行方不明ってことになってるが、俺たちがビットウィックスと共に殺した・・・]


信じられない・・・


ムジカは母親がまだ生きていると信じているのに・・・・


「でもなんでだよ。なんでビットウィックスはムジカを愛しているんだ。散々虐待じみたことやってきたくせに。」


[それはビットウィックスの"愛"だ。まぁお前らにはわからないだろうがな。]


そう言いながら
ナツは立ち上がる。


[俺たちの計画はまだ終わってない・・・ディズを殺しただけじゃ・・・終わらない。すべての元凶である神を滅ぼして・・・そこでやっと俺たちの戦いが終わるんだ・・・!!!これ以上邪魔をするならお前たちも殺してやる!!]


そのままナツは両手に闇をため
再びマーシャに襲い掛かる。


気を抜いていたマーシャは
焦って両手で受けとめる。


だが素手のせいで手が焼けるように痛む。


「・・・・っ!!」


[痛いか!?痛いだろう!こんなの俺たちが受けた仕打ちに比べりゃ屁でもねぇよ!!!!]


そうだろうな・・・・


こいつらが受けた傷は・・・半端ない・・・


もう二度と・・・癒えることはないかもしれない・・・


・・・でもよぉ


「過去は・・・!やり直せるだろ!?」


[!?]


マーシャは苦痛に顔を歪めながら
ナツの手を握りしめる。


「お前、たち、は・・・!!ディズを倒したんだ!!!それだけで、もういいだろ!?」


[・・・お前に何がわかる!!!!]


「そうじゃ、ねぇ・・よ!!!もう!3人で!抱え込むのは!!やめろって!言ってんだぁぁぁぁ!!!!!!」


[!?!?!?]


最後の力を振り絞るように
ナツの体を押し倒す。


ナツは力をなくしたように呆然とただマーシャを見上げた。


[・・・・・]


「もう十分じゃねぇか・・・3人で背負い込むの・・・。」


息を乱すマーシャを
瞬きせずに見つめる。


「本当は・・お前・・・ディズを殺したことを・・・後悔してるだろ。」


[何言って・・・俺は・・・]


「じゃあなんで、泣いてんだよ・・・」


[・・・・!]


気が付けば
ナツの瞳からは涙があふれ出ている。


「もう、やめようや。無理に憎しみを抱くのは・・・」


その言葉に
さらに涙を流しだす。


それは宝石のように
キラキラ光って見える。


ナツは腕で目をおおった。


[・・・・たんだ]


「・・・?」


[言ったんだ・・・ディズが・・・最後に・・・・俺に・・・・]


苦しそうに息を吸いながら
言葉を絞りだす。


[ナツ・・・・愛している・・・って・・・・!!笑ったんだ・・・・]


「・・・」


[もう・・・嫌なんだ・・・憎むのは・・・疲れるんだ・・・背負うのは・・・]


「・・ああ。」


マーシャはナツの頬に手を添える。


「だからもう・・お仕舞いにしよう。」


何もかも


はじめから


もう一度


[でも・・・・俺たちは・・・3人しかいないんだ・・・苦しみを分け合うのは・・・分け合えるのは・・・ハルとアキしか・・・]


「ばかやろう。俺たちがいるだろう・・・?」


[・・・!]


ニッと笑い
涙を拭ってやる。


「俺たちだって神を滅ぼしたい。目的は一緒なんだぜ?それに・・・」


何よりも・・・


「俺たち、同じ人間じゃん?」


[・・・・・!!!!!]


それ以外
理由なんてない。


嘘じゃない。


これも本心。


[でも・・・!!俺たちはお前らを殺せって・・・!]


「それはビットウィックスにとって俺たちが邪魔だったからだろ?でも今はそんなこと言ってる場合じゃないと思うぜ?」


マーシャの表情にいつものいやらしい笑みが戻る。


するとナツの後ろから
ハルが近づいてきた。


どうやら興味があるようだ。


[それは一体、どういうことだ?]


「お前たちが今殺そうとしてる通称フェイターのシキ、あいつはフェイターじゃない。」


その言葉に3人は目を見開いた。


[なに・・!?だが証拠はすべて揃っていた・・!!]


「シキははめられたのさ。真犯人にね。」


[まさか貴様・・・真犯人を・・・]


「知ってる。ベンだ。」


[・・・!?]


「ベンがすべて仕組んでた。はじめからな。」


衝撃の事実にキャロル3兄弟は顔を見合わせる。


[確か初めにシキがフェイターだって告げてきたのは・・・奴だ。]


真剣に悩んでいる3人をマーシャは目を細めて見つめる。


さっきの話を聞いて
今まで彼らを怪物だと思っていた自分がバカらしく思えた。


こうやって

対等に話せているではないか。


[マーシャ]


するとハルがマーシャに近寄ってきた。


[シキ=ワーカーヴァンズがいる場所に案内する。]


「!?」


突然のことで
マーシャは思わずラードとユリスを振りかえる。


「ホントか?」


[ああ・・・だって・・・]


ハルは顔を少し赤らめながら
小さく呟いた。


[俺たちは・・・・仲間・・・なんだろう?]


「あたりめぇだバカヤロウ!」


ラードは勢いよく立ち上がり
マーシャを押し退けてハルの肩に手を回した。


「言わなくてもわかるでしょ?」


ユリスもアキの前にたち
微笑む。


するとアキも赤くなった頬を隠すように下を向いて小さく頷いた。


・・・やっぱり・・・人間じゃん


マーシャは耐え切れず
思わず笑ってしまった。


[何笑ってんだよ!!!!]


「いや。嬉しくて。」


そう言ってナツの肩に腕を回す。


「さぁて、ほんじゃ行きますか。」


[ああ。]


戦いは終わりを告げ


マーシャたちは出口にむかった。


[ま・・・マーシャ]


するとナツがマーシャの服をつかみ止めた。


「ん?」


振り返ればナツは恥ずかしそうに呟いた。


[過去は・・・やり直せるんだろ?]


「そう。やり直せる。オレを信じな。」


[10年前とは違うな。]


「だから言ったろ?俺は変わったって。」


[あっそ。・・・・・だけど・・・・]


ためらうように目を泳がせてから
マーシャの瞳を見る。


[ありがとう・・・]


コイツの口からそんな言葉が出るとは・・・


本当は素直なカワイイ奴。


「礼ならリオナに言ってくれ。」


[は?なんで?]


「リオナが俺を変えたからだよ。」


だよな?


リオナ。


お前は気付いてないだろうけど・・・



リオナが俺を変えたんだ・・・。






すべてをな。

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