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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story80 暗躍




ダーク・ホーム


一階ロビー


「コロナー!!急いで!!!」


「はぁい。」


ダーク・ホームのメイドであるコロナは眠そうな目を擦りながら
他のメイド達と共に整列する。


これは毎朝恒例のメイドたちの朝会だ。


朝の6:00から始まり
そのままダーク・ホーム内の清掃にはいる。


こんな退屈な集まりなどやりたくない。


そう思うコロナだが口には出さない。


そんなことを言ったら即メイドから戦闘員であるエージェントに回されるからだ。


エージェントをやるくらいならメイドの方がまし。


だって命の保証もある。


自分の命を捨ててでも世界を守る義理もない。


そう考えると
エージェントたちはすごいと思う。


どうして命を張ってまでこんな世界を守ろうとするのか。


わからない。


「くだらないわ。」


捨てるようにコロナはつぶやく。


『コロナ!?何がくだらないですって!?』


すると地獄耳のメイド長が目を吊り上げながらコロナに近づいてきた。


「なんでもないでぇす。」


『まったくあなたって人は!しっかり話を聞きなさい!!大切な話をしているのですよ!?』


「はぁい。」


大体いつも大切な話と言っているが、実際大切な話など一度もなかった。


だから朝会の話なんてこれっぽっちも聞いてない。


だいたいは大好きなリオナとの妄想を繰り広げていつも終わる。


というか本当に毎日がつまらない。


特に最愛のリオナがいない今、楽しみなどない。


しいていうなら他人の不幸を喜ぶことくらい。


なにか楽しいことはないだろうか。


刺激のある何か。



『では解散!!』


メイド長の号令でメイドたちは一気にバラけてそれぞれの持ち場に移動する。


コロナの作業先は食堂前の廊下。


皆はいいなぁと言うが
食堂前なんて朝のお腹が空いてる時間はただの拷問だ。


「今日も平凡な一日が始まるみたいね。」


コロナは十八番の不満をもらし
持ち場にむかおうとした。


『ちょっとコロナ!?どこ行くの!?』


すると後ろからメイド仲間のグラに呼び止められた。


コロナは訝しげな表情を浮かべながらゆっくり振り返る。


「なにが?私食堂前担当なんだけど。」


『ちょっとアンタ聞いてなかったの!?今日は全員部屋で待機よ!?』


「は?」


あり得ない。


よくメイド長は言うじゃない
"休む暇があるなら働け"と。


「なんで?」


『なんでって・・・アンタ本当に何も聞いてなかったのね。』


グラはコロナの腕を引きながら部屋への道を歩いていく。


『・・あのね、今日シキ様が処刑されるらしいわ。』


グラから飛び出してきた言葉にコロナは一瞬足を止める。



すぐにグラに引かれて再び歩きだす。


「嘘はやめてよ。」


『嘘じゃないわよ!』


「だってあの人第一使用人だったじゃない。まぁ少し前までの話だけど。」


『・・私にもよくわからないからあんまり聞かないで。とにかく部屋に早く戻らないと・・!!メイド長に減点されるわ!!』


あのシキ様が処刑・・ねぇ。


「ちょっとグラ、アンタ嘘ヘタ。」


『な・・・!!まだ言ってるの!?』


「当たり前じゃない。シキ様が処刑されるわけないわ。シキ様はダーク・ホームに一番尽くしていらっしゃる方よ?」


『でもさっきメイド長が・・・!!』



カラァン・・・カランカラァン・・・



突然
耳に鐘の音が鳴り響くのが聞こえてきた。


コロナとグラは顔を見合わせる。


「これ・・・赤の屋敷の鐘よね?」


赤の屋敷の鐘は何かがある時に鳴らされるもの。


「まさか・・・さっきの話ホントなの?」


『だからさっきから言ってるじゃない!!わかったなら早く部屋に戻るわよ!?』


再びグラに手を掴まれる。


だがしかし
コロナはグラの手を払いのけた。


『ちょっ・・・コロナ!?』


「あっ。私ちょっと忘れ物してきちゃった。だからグラ先に帰ってて?」


『えっ!ちょっと待ってコロナ!?私知らないからね!?』


コロナは手を振りながら一階ロビーに戻る。


もちろん忘れ物なんて嘘だ。


ただこのまま部屋に戻ってはいけない気がしたのだ。


カラァン・・・カンラカラァン・・・


鳴り響く鐘の音に耳を傾ける。


最後に聞いたのはリオナくんがいなくなったあの日。


リオナくんがダーク・ホームを裏切ったと聞かされたあの日。


もちろんそんなこと少しも信じてないが。


大体ここ近年のダーク・ホームは何か様子がおかしい。


あの悪魔の娘のムジカがきてからずっと。


新しくマスターになったやつのあの作り笑いも気になる。


しかもあのシキ様が死刑だなんて。


何かがおかしい。


コロナは一階ロビーにたどり着く。


今日は全員部屋に待機なのか
いつも賑わう一階は
不気味に静まり返っている。


だがその時
奥から誰かがやってくる音が聞こえてきた。


コロナはすばやく身を隠し
物陰から覗く。


ロビーにやってきたのは元スペシャルマスターのベン。


なにやら誰かと話しているようだ。


だがそこにはベン以外に人はいない。


・・・電話?


コロナはそっと聞き耳を立てる。


「・・・・・はい。すべて順調に進んでおります。」


物静かであまり口を開かないイメージがある彼が
珍しく口数が多い。


「・・・・・・・シキは赤の屋敷で処刑される予定です。ダーク・ホームに侵入するならその時でしょう。」


コロナは一旦体を引っ込める。


・・・どういうこと?


侵入って・・・・・


頭の中がごちゃごちゃする。


すると
ふと辺りが突然静まり返る。


電話が終わったのかな?


コロナは小さく腰をあげた。


その時だった。


突然目の前が暗やみに包まれた。


口も何かにふさがれ
呼吸もままならない。


苦しい・・・・


「・・・・・盗み聞きとは・・・悪趣味だな。」


最後になんとか聞き取れた言葉。


そしてそのまま・・・・



・・・・闇に堕ちる
















「よーし!あけるぞ!」


ラードの掛け声と同時に
ダーク・ホームの扉が開く。


その光景をリオナは緊張した面持ちで見つめていた。


久々に見る第二の我が家に懐かしい想いでいっぱいになる。


「リオナ・・?」


すると横にいたムジカが顔をのぞかせてきた。


恐らく足を止めていたことに心配したのだろう。


「・・・・大丈夫。心配しないで。」


小さく微笑むと
ムジカは安堵のため息を吐いてリオナの腕をひいた。


「びっくりした・・リオナ、体調悪いのかと思った。」


少し頬を赤らめながら呟く。


「ははっ!ちょっと懐かしがってただけ。久々だからさ。」


「そうだよね。」


二人は最後にダーク・ホームに入り
扉をゆっくりしめる。


ダーク・ホーム内はおかしいほど静まり返っていて。


予定では誰かしらに気付かれてあわてて元・ルナの部屋である処刑場に向かうはずだったのだが。


このままなら気付かれずに上に上がれそうだ。


「ラッキー。どうやら全員部屋で待機のようだな。全く甘ちゃんだぜ。敵の侵入を考えていないとはな。」


マーシャが吐き捨てるように言う。


だがこのままバレないなら楽勝だ。


というかこんなに楽に侵入できていいのだろうか?


罠ではないだろうか。


リオナの頭に心配がよぎる。


「だーいじょーぶだよ。」


するとそれを察したかのようにマーシャがリオナの首に巻き付いてきた。


「でも・・」


「どうせここで考えてたって本当の答えは見つからないさ。だったら当たって砕けろ方針だ。」


マーシャの口が不気味に引きつる。


この時のマーシャは大抵興奮状態の時だ。


誰彼かまわず道をさえぎるものは全員叩きのめすタイプ。


それを止めるのはもちろんリオナ。


リオナは大惨事にならないことを心で祈った。


とにかくマーシャが被害者を出さないためにも
この誰もいないチャンスを生かしたい。


だからリオナ達は急いでエレベーターに駆け込む。


全員乗り込み
扉を閉める。


確かルナの部屋に行くには
暗証番号があった。


それは10ケタ以上あるはず。


「何番だ?!」


ラードがでたらめに押しまくっている。


ルナがいなくなった部屋には
あれから誰も行かなくなったようだ。


そのせいで記憶がぼやけて。


さすがにリオナも一年もはなれていれば覚えていない。


唯一のたのみはシュナとラードとユリスなのだが。


ユリスが気まずそうにシュナを横目でみた。


「・・ねぇシュナ。何か覚えてないわよね?」


「は・・はい。一年も使われていなかったので・・・」


望みが消えた。


このままではシキを助けになんかいけない。


一体どうすれば・・・


「おい、どけ。」


すると後ろからマーシャの声が聞こえた。


マーシャは前に進み出てボタンの前に立つ。


だがその表情はなんだか不機嫌そう・・。


リオナは思わずマーシャの手をつかむ。


「・・マーシャ?」


「リオナ、さっき言ったろぉ?"案ずるより産むが易し"ってね。」


マーシャの指が軽やかに動く。


まるでリズムを刻むように。


その瞬間



ガコン・・・



音を立てて
エレベーターが急上昇しはじめた。


だれもが唖然としてマーシャを見る。


「・・・マ、マーシャ?」


「ああ?動いたなぁ。よかったよかった。大体なんでずっといる奴らがわかんねぇんだよ。」


何もいえない3人。


「情けないねぇ。」


そうつぶやきながら何事もなかったかのようにリオナの横に戻った。


だがラードが勢い良くマーシャの横に行き
ニヤニヤしながら呟いた。


「マーシャがわかるのは当たり前だろ!?バハハハ!!!!!」


「ぁあ?なんだと?」


「だってマーシャは毎日ルナの所に通ってたもんなぁ!!!バハハハ!!」


「なっ!!!」


再び全員の視線がマーシャに注がれる。


本人は顔を真っ赤にさせている。


「な・・・毎日行く分けないだろ!!!」


「毎日じゃなくても結構行ってたじゃねぇか!!」


「誰があんな女のとこなんか!」


「照れんなっての!!皆知ってんだぜ!?なぁリオナ!」


マーシャは頬を赤らめたままリオナをバッと見る。


その目は"嘘だろ!?"と言っている。


だが残念ながら嘘ではなかった。


何度か目にしているのだ。


マーシャがこそこそしながらルナの部屋に向かうところを。


だからリオナはマーシャに苦笑をむけた。


「マーシャ・・ごめん。見てた。」


マーシャはさらに恥ずかしくなり
両手で顔を覆ってしまった。


「言っとくがなぁ!俺はただルナに頼まれた物を届けてただけだからな!」


なんだかマーシャが可哀想になってきた・・・


でもマーシャは優しい。


ルナのことを嫌いだとか言いながら
なんかんだ一番ルナの心配をしていた。


リオナはなだめるようにマーシャの肩をさすりながらクスクス笑った。


「さぁ着いたわよ。」


気が付けばエレベーターは止まっていて
静かに扉が開いた。


目の前にある部屋の扉の前に全員たつ。


ラードが小声でいう。


「お前ら全員武器を構えろ。中に入ったらその状況に応じた行動をしろ。」


全員コクンと頷く。


「じゃあ1、2の3で開けるからな・・・・行くぞ・・1、2の3!!!!」


ラードの掛け声と共に扉が開かれた。


リオナは素早く周囲を確認する。


しかし


そこには誰も見当たらない。


あるのは作られた空と大地だけ。


かつては花や木々や鳥たちがここにいたが、
今やただの荒れ地。


ルナがいなくなったからこんなことになったのだろうか。


呆気にとられ
一旦武器をおろす。


「・・・どういうことだ?」


それ以前にシキもビットウィックスも誰もいない。


たとえ時間が違うにしても
用意も何もされていないのはおかしくはないか。


《あーあ。失敗じゃーん。》


「チックショー!!!なんもねぇじゃんかよ!!!!!場所間違えた系じゃん!!!」


ラードとB.B.が地団駄を踏んでいる。


後ろにいたユリスもため息をついていた。


「ホント何も無いわね。はぁ〜、私のせいにしないでちょうだいね。」


「ふん。貴様がココだと言ったから私たちもついてきたんだろうが。」


「なによジーク。アンタ私に悪態つく気?」


ジークとユリスがまた睨み合っている。


それは置いといて。


リオナは再びまわりを見渡す。


・・・嫌な予感がする


さっきから感じるピリピリした不穏な空気。


「リオナも感じるか?」


すると横にいたマーシャが前を向いたまま話し掛けてくる。


「マーシャも?何かいやな予感がするんだ・・・」


「わかる。殺気立ってるっつーかなんつーか。」


これは気のせいではない。


確実に誰かがこの部屋にいる。


「・・・誰だ?」


リオナは神経を尖らせる。


目を瞑り
感覚の一切を閉ざす。


その瞬間
一気に殺気が体を駆け巡った。


そして気が付けば同時に声を張り上げた。


「全員伏せろ・・!!!!!!!!」


「!?」


リオナの言葉に戸惑いを感じる暇もなく
全員地に伏せる。


そしてほぼ同時に頭上を何かものすごい勢いで切り裂かれた。


草木が騒つく。


「・・・っ!!!誰だ・・・!!」


[さすがは魔族の生き残りだな。まぁたまたま生き残っただけだがな!]


頭上から声が降り注ぐ。


そして黒い影が目の前を横切り
部屋の中央で止まった。


草が舞い散る中
そこには白髪の男が2人と女が1人たっていた。


白髪だがまだ年は若い。


よく見れば3人とも顔が似ている。


すると
さっきから下品な笑い声をあげている男がリオナに近づいてきた。


リオナは一歩後退る。


「・・・なんだよ」


男は顔をニヤつかせ
リオナの顔を覗き込んだ。


[へぇ。聞いてたより超カワいい顔してる。俺好みなんだけど。]


「・・・・は?」


突然なにを言いだすのかと
リオナは眉を寄せながらさらに一歩さがる。


だがそれを止めるかのように
男がリオナの顎に手を掛けた。


[なぁお前俺のセフレになれよ。俺そっちもイケっからさ。そしたら見逃してやっても]
[やめないかナツ!]


すると
リオナが手をあげる前に
後ろからもう1人の男がやってきて、ナツの耳を引っ張ってリオナから離した。


リオナは呆然とする。


いきなり現れて突然セクハラ発言をされ・・・
顔が青くなる。


「てめぇら俺のリオナにセフレ宣言とはいい度胸してんじゃねぇか。」


すると目をギラつかせたマーシャがリオナを庇うように前に出た。


「・・・ってか俺マーシャのじゃないし。」


そしたら今度はムジカが出てきて。


「そ・・そうだよ・・・リオナは皆のだよっ・・!!!」


いや・・・できれば「私のもの」ってハッキリ言ってもらいたかった・・・。


リオナは複雑な想いを一旦飲み込み
もう一度白髪の3人を見る。


[弟が失礼なことをした。リオナくん。]


「・・・アンタら誰?」


[私たちはキャロルという。私がハル、こいつがナツ、少し静かだがこの子が妹のアキだ。よろしく。]


キャロル・・・ああ・・
これが噂のキャロル3兄弟・・


現スペシャルマスターの極悪ヤローだってラードが言ってたっけ・・・


リオナは急いで武器を構えなおす。


すると後ろからラードとユリスが出てきた。


2人ともいつになく殺気立っている。


「一体何の用かしら?」


[はっ、久々だな。また色っぽくなりやがっ]
[ナツ!!]
[はいはい。黙りゃいんでしょ黙りゃ〜]


不貞腐れたように頬を膨らます。


[失礼・・・私たちはあなた方の始末をしにきた。まんまと罠にはまってもらえるなんて信じられない。]


「んだと!?はじめから知ってやがったのか!?」


[まさか。念を入れたまでだ。]


皮肉っぽく笑うハルに腹が立つ。


・・・バカにしやがって。


[さぁ悪あがきはもうやめなさい。おとなしく降参するなら楽に逝かせてやろう。]


そういってハルは自身の悪魔を引き出し
両手に黒々しい気をためはじめる。


[さぁ・・どうする?]


それはどんどん巨大化していく。


・・・どうするべきか・・・


こんなところでみすみすやられるわけにはいかない。


でも反抗すればこのままやられる可能性だって・・・・・


リオナは頭の中で最悪の事態を想像してしまう。


だがその時
マーシャが小声で何かを呟いた。


「・・・マーシャ?」


「いいかリオナ。ここは俺とラードとユリスで足止めする。そのスキにリオナたちは下に行け。そのまま医務室に向かって一旦身を隠せ。たぶんDr.デヴィスが力になってくれるはずだ。」


突然何をいいだすのかとリオナは目を丸くする。


「な・・・でもマーシャたちは・・・・!!」


だってキャロル3兄弟は強いはず。


これじゃあ囮に出すようなものだ。


「・・・やっぱり危な」
「ぁあ?俺たちをなめてもらっちゃあ困るぜ。なぁラード?」


「おうよ!俺様があんなやぼちゃんに負けるわけないっての!!」


「そうよリッチャン。私たちも後からちゃんと行くから先に行ってて?ね?」


3人に言われたら本当に大丈夫な気がしてしまう。


それにもう迷っている暇はない。


リオナは不安を飲み込み
小さく頷く。


「・・・絶対、追い付けよ。」


その言葉に3人がニッと笑った。


逃げるタイミングはマーシャたちがキャロル3兄弟に飛び掛かった瞬間だろう。


・・・失敗は許されないんだ。


リオナはゴクリと唾を飲む。


[んで?どうするんだよ?大人しく死んでくれるのか?]


ナツの笑い声が響き渡る。


だがそんなことも気に止めず
マーシャがニヤッと口元を引きつらせた。


「んなわけあるかってんだ。ここまできて大人しく捕まる奴なんていねーだろふつー。」


相手をバカにするような言い方に
さすがのナツも顔を引きつらせる。


[・・・んだとテメェ!!!!一回負けたくせに生意気言ってんじゃねぇぞ!!!!]


「お前こそ、下品なことばっか言ってないでたまにはまともなこと言ってみたらどうだ。ぇえ?」


ナツは怒りで体を震わせながら
マーシャを睨む。


[キレた!こいつら全員ぶっ殺す!!!!メタメタのドロドロにしてやっからなぁぁぁぁ!!!!!!]


そう言ってマーシャに向かって走りだす。


マーシャは舌で唇を舐め、悪魔を引き出し瞳を真っ赤に染めた。


「リオナ。またあとで。」


ニッと笑ってマーシャの姿が見えなくなった。


リオナは頷き
後ろにいるムジカたちに急いで告げる。


「・・・みんな下に!」


その言葉にシュナが目を丸くする。


「マーシャさん達を置いていくのか!?」


「いいから早く!!」


リオナはシュナの手を握りながら外へ逃げる。


しかしそれにハルが気が付いたようで。


黒い玉を投げ付けてきた。


[逃がすものか・・・!]


・・・まずい!


リオナはシュナ達を扉の外へ押し出し
庇うように立ちふさがる。


痛みを覚悟して目を瞑った。


「・・・・っ!・・・・・・?」


爆音が鳴り響いた。


けれど痛みは一向におとずれない。


リオナはゆっくり目を明けてみた。


「・・ラード?」


リオナとハルの間に立ったラードは
拳銃をハルに向けて構えていた。


銃口からは煙が上がっている。


「・・・助かったラード。」


ラードはニッと笑って顎で扉をさした。


「いいから早よ行け。」


「・・・ああ。」


リオナは扉をでて
ジークが開けていたエレベーターに急いで飛び乗った。


エレベーターの扉が閉まるのを確認すると
思わずホッとして床に座り込んだ。


「リオナ大丈夫だったか!?」


シュナが心配そうに覗き込んできた。


「なんとか・・・ね。」


それより、これからどうすればいいか。


今ここに残ったのは
ムジカ、B.B.、シュナ、ジーク、クロードとクラッピー。


このメンバーで果たしてビットウィックスからシキを助けだすかとはできるのだろうか。


それにベンも捕まえなければならないのに。


・・・難しいだろうな。


クロードとクラッピーにはあまり戦ってほしくない。


というかまだ幼い者たちを巻き込みたくない。


それに"時の力"がばれてしまったら何をされるかわからない・・


やはりマーシャが言ったように
一旦医務室に向かうべきか・・・。


そこでマーシャたちを待って・・・


・・・・・・?・・・・待つ?


何言ってるんだ俺は・・・・


マーシャたちが必ず無事とは限らないだろ・・・・


マーシャたちはそう簡単に死にはしない。でもケガするかもしれない。


・・・・甘えるな。


・・・甘えるんじゃない・・・・・・リオナ。


自分で考えて動け。


「おい少年。」


するとジークが訝しげな表情でこっちを見ていた。


「下に行ってどうする?もしかしたらすでに待ち伏せされているかもしれんだろう。」


確かにそうだ。


先を読まれている可能性はかなり高い。


現に今もそうだったではないか。


けれどそれを恐れて行かないわけにもいかない。


「・・それでも下に行く。一階の医務室に仲間がいるんだ。そこで一旦作戦を練り直そう。」


「だが少年。その医務室にいるという仲間が今でも"仲間"だという保証は?」


「・・・・っ」


ジークのするどい指摘にたじろぐ。


Dr.デヴィスは小さい頃からずっと世話になっている。


特に時々おきている発作に関しては
マーシャの次に理解がある。


けれど"仲間"としてはどうだろう。


彼はあくまでダーク・ホーム側の人間。


仲間でない俺に手を貸すとは考えにくい。


「・・・そうだよな。」


久しぶり落ち込んだ。


自分の考えの浅はかさに嫌気がさす。


小さくため息を吐くと
頭の上にB.B.が飛んできた。


《でもオイラはリオナの考えいいと思う。》


まさかの賛成意見にリオナは顔を上げた。


「・・・B.B.」


《だってデヴィスは良い奴だよ。オイラね、リオナの前の契約者に虐められてた時にデヴィスに助けてもらったのだ。だからデヴィスはまた助けてくれるよ!》


なんだかうれしくて
リオナは小さく笑ってB.B.の頭を撫でた。


そうだよ・・・デヴィスは仲間だ・・・


少なくても俺はそう思ってる。


それだけで十分じゃないか。


するとさっきまで批判していたジークが
小さく肩を上げた。


「悪かった。少年。少しきつく言った。」


ジークは腕を組み直し
口元に苦笑を浮かべた。


「・・・いいよ。ジークの意見もわかる。でも今は・・・やっぱりデヴィスの元にいく。」


「わかった。道案内は頼むぞ。」


「・・ああ。そうだクロードとクラッピー・・・」


床に座っていたクロードとクラッピーがリオナに顔を向ける。


「なんだッチョ?」


「・・・2人は俺たちの後ろに隠れてついてこい。」


「ええー!?」


クラッピーは不満そうに立ち上がり
リオナに顔を近付ける。


「クロノスはまだしもボクちんは戦うッチョー!!」


「・・・だってお前はクロードの力がなきゃ戦えないんだろ?」


「そ・・そりゃそうだけど・・・でもボクちんだって頑張ればクロノスを守る程度には戦えるッチョ!!」


「・・・だったら戦わなくていいから命懸けでクロードを守れ。」


「ひどいッチョ!!!リオナひどいッチョ!!!!!」


「・・・・は?」


突然涙目になって舌を出すクラッピーにリオナは戸惑う。


「リオナのバカッチョー!!!」


「・・・・・な、なんで!?!俺はお前を思って・・・!!!なぁシュナ!?」


「え・・・!えっと・・・・」


突然話を振られて戸惑うシュナ。


本当は「そうだよ」って即答してもらいたかったのだが。


「・・・もういいよ。なんとでも言え。とにかく手出しはするなよ。」


「バカバカバーカ!リオナのバーカ!」


・・・くそガキ。


大して年の差のない相手に向かって蔑みの目を向ける。



「・・全く。」


リオナは額を押さえてため息をもらす。


とにかく無事にたどり着けばいいが・・・・


そんなことを考えていたら
エレベーターが目的地の一階に止まった。


全員が息を呑む。


・・・負けない。


「・・・行くぞ。」


俺たちは・・・俺たちならできる。


自信を抱き
今、扉が開く。


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