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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story79 "おかえり"






カラァン・・・・








何か・・・音がする・・・








カラァンカラァン・・・・








この音・・・鐘の音・・・



・・・どこかで聞いたことがある・・・・



どこだったかな・・・



・・・この鐘を聞くたびに・・・胸騒ぎがするよ・・・



・・・カラァン・・・カラァンカラァン・・・・



最後に聞いたのは・・・そう・・・リオナが・・ダーク・ホームからいなくなったあの日・・・



そうだ・・・この鐘は・・・ダーク・ホームの裏にある赤の屋敷の鐘・・・・


警鐘だ・・・



懐かしいな・・・昔シキさんとよく鐘の掃除に行ったっけ・・・


シキさんと・・・


シキさん・・・・


シキ・・さん?


・・・ちょっとまった。


シキさん?


あれ、俺何してたんだっけ・・・


てかここどこ?


真っ暗で何も見えないよ・・・


思いだせ俺・・・


何があったんだ・・・・


何が・・・・



目を覚ませ・・・



・・・・目を覚ませ!!!




「うっぁ・・・・!!!」


突然視界に光が入り
思わずまた目を瞑ってしまう。


今度はゆっくり目蓋をあげてみた。


そして警戒するように辺りを見渡す。


「・・・・?」


古い木造建築の屋敷


窓からは朝日がわずかに入り込んでいる。


耳には聞き覚えのある鐘の音が真上から聞こえてくる。


「ここ・・・・赤の屋敷?」


赤の屋敷は下界に降りることのできた悪魔達の住みか。


でもなんで俺が・・・


確か・・シキさんに研究室にくるようにいわれて・・・それで研究室にいったら・・・・・


俺はハッとして口を押さえた。


思い出した・・・・


・・・シキさんに殴られて・・・その後に何か薬をうたれて・・・そのまま気を失ったんだ・・・



「・・なん・・で・・・」



なんで


あの時




シキさんの顔・・・泣きそうだったの・・・?


"ゴメン"ってずっと・・・謝ってた・・・・


なんで謝るの・・・?


シキさん・・・


謝るのは俺の方でしょ・・・


シキさんの抱えてるものに・・・全然気付かなかった・・・


気付いてあげられなかった・・・・



あの時の・・・シキさんの言葉・・・・・・


"俺はフェイターにも悪魔にもなれない・・・一番の「悪」だ"って・・・



やっと気付いたよ・・・


シキさん・・・ダメだよ1人で抱えちゃ・・・


ダメだよ・・・1人で・・・



シキさんは悪なんかじゃない・・・


だって・・・



だって国を捨ててきた俺を・・・



・・・仲間に入れてくれたでしょ?



カラァン・・・



警鐘がなり終えた。


警鐘がなってたってことは・・・きっと今日・・・なにかあるんだ。


きっと・・・"嫌なこと"が・・・



「行かないと・・・・・」



シキさんを・・・助けないと・・・・



じゃないとシキさんが・・・・


「・・リオナ・・」


今だけ俺に・・・勇気をちょうだい・・・・

















「久々だなぁ。」


《おわー。変わってないね。》


「・・・ああ。」


神の島 ダーク・ホームの外壁の上


扉をくぐってようやくリオナ達はダーク・ホームに到着した。


リオナは懐かしむように目を細める。


だってここは第二の故郷だから。


「・・・ただいま」


だが"おかえり"って言う笑顔は・・・もう見えない。


少し暗い表情のリオナにマーシャは何もいわずに腕を回した。


「お帰り、リオナ。」


「・・ただいま。」


少しだけど胸が暖かくなった気がした。


「すごいッチョー!!!でかいッチョー!!」
「すごいね・・!」


その横ではクラッピーとクロードが目を輝かせながらまわりの風景を眺めていた。


「おいガキども!!あぶねぇだろ!!体引っ込めろ!!」


2人はラードにひかれて勢いよく後ろにさがった。


「それにしても・・想像以上だな。」


ジークは初めて目にするダーク・ホームの大きさに驚きを隠せない。


「そうでしょうジーク?これがアンタの潰したかった悪魔たちの家よ。」


「だからその件はもう終わったと言っておろうが!」


火花を散らすジークとユリスに誰もが関わりたくないオーラをだす。


「・・・本当に帰ってきたんだ。」


リオナはもう一度ダーク・ホームを見下ろす。


ダーク・ホームを出たあの日、
もう二度と戻らないかもしれないと思っていた。


でもこんな形で戻ってくることになるなんて。


リオナは横にいるムジカを見る。


一番ここに戻ってきたくなかったのはムジカだろう。


でもムジカは誰よりも進んでダーク・ホームに戻ってきたのだ。


「・・・お兄様。」


ムジカは眉をよせ
小さく呟く。


そんなムジカの手をリオナがギュッと握りこんだ。


「・・・大丈夫か?」


「うん。もう決めたの・・」


「・・・・?」


「過去にお別れするって・・。」


過去・・・それは兄であるビットウィックスに監禁されてきた日々・・・

父であるサタンに殺されかけたこと・・・


「全部・・・終わらせるの。だから私は・・・お兄様と戦う。」


ムジカは強い眼差しをダーク・ホームに向ける。


「・・・俺たちにならできるよ。」


「リオナ・・・」


2人はもう一度強く手を握り合い
ニッと笑った。


「急がねぇとやばそうだな。」


「・・・ああ。警鐘がなってる。」


警鐘がなっているということは、
今日シキが死刑になる可能性が高い。


「・・急ごう。」


リオナたちは外壁を下った。


長い階段を下れば町が見えてくる。


町を走っていると
ジークが珍しく不安そうに呟いた。


「本当に作戦を考えずにいいのか?」


実はシキを救出するのに
何にも作戦を立てずにきたのだ。


「しょうがねぇよ!!だってダーク・ホームが今どーゆー状況かわかんねぇもんな!」


「まぁそうなんだが・・・」


「まだなんかあんのかよ!?」


ラードの強気姿勢に押されてしまい
ジークは仕方なく口を閉じる。


ユリスの予想では
シキはかつてルナがいたあの部屋に収容されているという。


なぜならルナがくるまではそこは悪人たちの処刑場だったから。


おそらくシキもそこにいるだろう。


だから作戦なんてつくらなかった。


ただそこに向かえば敵も自然と集まるだろうから。


「倒すべき相手はビットウィックスとキャロル3兄弟と・・ベンよ!!特にベンは逃がしちゃダメだから気を付けて!」


「おう。」


「あとリッチャンにひとつ!」


「・・・?」


リオナは首を回し
ユリスを見る。


「リッチャンは無理しちゃダメよ!?左手、無いんだから・・・」


苦しげに言うユリス。


左手のことはユリスたちには黙っておこうと思ったが
あっけなくばれてしまったのだ。


その時ユリスには大号泣されてしまい。


だからもう心配はかけたくない・・・


リオナは小さく笑い
ユリスに向かって親指をたてた。


「・・大丈夫。無理しないから。」


「お願いよ・・!?」


町で遊ぶ子供たちも
鳴り響く警鐘に怯えるように家に帰って行く。


町は不気味に静まり返り
不思議な緊張感が胸を締め付ける。


「リオナ」


「・・・?」


すると横にいたマーシャが小声で囁いた。


「おそらくムジカはビットウィックスをヤルつもりだ。」


「・・殺すってことか?」


ばれないようにチラッとムジカを見てみる。


確かにいつもと違って殺気立ってはいるが。


「・・・まさか。」


「わかんないぜ?ムジカは本気かも。」


そう言われればそんな気がしなくもない。


さっきだって"過去にお別れする"と言っていた。


そう考えるともしかしたらもしかするかもしれない。


「ムジカが本気でビットウィックスを殺そうとすればビットウィックスも黙ってるはずがない。だからリオナ、おまえはベンを追わないで万が一に備えてムジカについてろ。」


「・・わかった。」


本当はベンも追いたい。


でもムジカに何かあったら嫌だから・・・


リオナは思いを押さえて先を急ぐ。





しばらくすると
前方にダーク・ホームの門が見えてきた。


なんとも懐かしい光景である。


だが先頭を走っていたラードが突然足を止めた。


「おいみんな止まれ!!!!」


ラードは全員を止めてその場にしゃがませる。


「ちょっとなによラード?」


「シーッ!!アレ見ろよ!!」


ラードは静かにダーク・ホームの巨大な玄関を指差す。


何を言ってるのかよくわからなかったが
とにかくそっちに視線を向ける。


するとそこには1つの人影があった。


「誰かしら?」


まさか見張り・・・


リオナは目を細めてじっと見る。


だが見張りにしては動きがおかしい。


フラフラしてるような。


「なんか変だッチョ。」


クラッピーはいつの間にか望遠鏡を取り出して不振な人影を見ていた。


というかどこにそんな物が入っていたのだろうか。


「普通だったら見張りはコッチをむいてるはずだッチョ。でもあの人コッチに背中向けてるッチョ。」


「・・ちょっと貸して。」
「ア゙!!!リオナ返すッチョ!!!」


リオナはクラッピーから望遠鏡を奪い
覗く。


「・・・!!!!!」


その瞬間
リオナは衝撃を受けた。


自分と同じくらいの体格


オレンジに近い金色の髪


そして・・いつものように俯く姿勢・・・・



「・・・・・・っ!!!」


「あ!バカ!おいリオナ!?」


リオナはラードの制止も聞かずに地面を蹴り上げ走りだす。


腕を大きく振り
加速する。


・・・・・嘘だろ・・・・・


嘘だ・・・・だって君は・・・


リオナは手を伸ばし
人影の肩をつかみ
こちらを向かせる。


涙がこぼれそうだった。


嬉しさと悲しさで
崩れそうだった。


リオナは勢いよく抱き締めた。


「・・・シュナ!!!!」


死んだはずのシュナ・・・・



勘違いじゃない・・・・



この感触・・・暖かさ・・・



シュナだよ・・・・


「リ・・・リオナ!?!?」


振り返ってきたのはやはりシュナだった。


シュナは驚きで目を丸くしている。


だがそんなことお構いなしに
リオナはシュナを抱き締めた。


「・・・・生きてるじゃんか!!!」


「え?何言ってるのリオナ・・?」


「・・・シュナが死んだって聞いたんだ!!でもシュナは・・」


・・・ここにいる


リオナはシュナの存在を確かめるように身体中を触る。


「くすぐったいってリオナ!!でも何で俺が死んだことに!?」


「それは・・・」
「シュナ!?!?!?」


すると後ろからマーシャ達もやってきて
目を丸くしている。


ラードはシュナの胸ぐらをつかみ
顔をぺちぺち叩きだす。


「なんでお前が生きてるんだよ!?」


「イタイイタイ!!それコッチの質問ですよ!!!」


「お前4、5ヶ月前に死んだことになってんだぞ!?急にいなくなるからよぉ!!!」


「ご・・5ヵ月前!?!?!?」


シュナは両手で口を押さえる。


ショックを受けたのか少し黙り込んだ。


「・・・シュナ?お前今までどこにいたんだ?」


シュナは目を潤ませながらリオナを見る。


「俺・・・さっき赤の屋敷で目を覚ましたんだ。」


「・・・赤の屋敷で?寝てたのか?」


「びっくりだよ・・・5ヶ月間あそこで眠ってたなんて・・・」


リオナは一旦シュナを落ち着かせるために地面に座らせる。


「何か覚えてないか?」


少し興奮気味なシュナの背中を撫でてやると涙をこぼしながら小さく言葉をこぼした。


「シキさんに・・・薬をうたれたんだ・・・」


「・・シキ・・・!?」


なんでシキが・・・・


誰もが訝しげな表情を浮かべる。


だが1人
シュナだけが必死にリオナに訴えかけていた。


「でも違うんだ!!!それは僕を守るためだったんだ・・・!!そうだリオナ!!!」


シュナは濡れた頬を拭い
リオナの手をつかむ。


「シキさんを・・・助けて!!」


「・・・え?」


「シキさんは自分が犠牲になる気なんだ!!!」


「・・・・シキが・・・・・犠牲に?」


どういうことだ・・・・?


「シキさんは・・・・・・フェイターと悪魔の子供なんだ・・・・・」


「・・・!?はぁ!?」


いきなり何をいいだすと思えば・・・


シキがフェイターと悪魔の・・・


「なんだと!?」


だが誰よりも一番反応したのはマーシャだった。


今度はマーシャがシュナに掴み掛かる。


そしてマーシャの中で何かが爆発したかのようにわめきだした。


「それどーゆーことだ!?アイツ俺には東の海岸添いの田舎生まれだって!!!悪魔になったのは両親が農業経営でつまずいてその借金を返すためだって言ってたじゃんか!!!!アレもコレも嘘だったのか!?!?ぇえ!?親友じゃないのか俺は!!!俺はアイツと何度も喧嘩してきたけどなぁ!!それでもアイツを親友だと思ってた!!!俺の片思いだったのか!?なんなんだこの裏切られた感はぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


・・・・・・・・・・。


場の空気が一気に静まり返る。


リオナはビックリして開いた口がふさがらない。


マーシャがここまでまくしたてて話すことがめったにないからだ。


だがマーシャは止まることなく
むしろ加速する。


「おいシュナ!!黙ってねぇで続き!!続き話せ!!!」


「は・・・・はぃぃいぃ!!!!」


マーシャに脅されシュナは肩を震わせる。


「シ・・シキさんがなんでフェイターにならないでダーク・ホームにきたのかはわからないけど・・・シキさんは"ローズ・スピリット"と一緒に死ぬつもりなんです・・・!!!」


「"ローズ・スピリット"だと?」


「・・・なにそれ?」


シュナは暗い顔を上げてゆっくり話す。


「"ローズ・スピリット"っていうのは"真の神の力"っていってね、神の精神のことなんだ。ローズ・ソウルとはまた違う・・・神の心臓みたいなものなんだよ。固形物じゃあない・・。その"ローズ・スピリット"はね・・・神を復活させるには絶対に必要なものなんだ。だからシキさんは自分の命を捨ててでもそれを壊そうとしているんだ・・!!!」 


再び目に涙を沢山溜めて訴えかける。


そんな彼を見ていられず


リオナはシュナを優しく抱き締める。


「・・リオ・・ナ・・・」


「・・泣くの我慢しなくていい」


「ぅぅ・・・!!」


シュナが顔をリオナの胸に押しつける。


恐らくシュナの涙であろう生暖かい何かがリオナの胸に突き刺さった。


「でもよぉ、ローズ・スピリットをどうやって壊す気なんだ?第一それ自体どこにあるかわからねぇだろ。」


「わかります・・・。」


シュナは小さく呟き
マーシャを見上げる。


「"ローズ・スピリット"は・・・ここに・・・ダーク・ホームにあります。」


「嘘だろ!?」


誰もが驚きに目を丸くする。


「"ローズ・スピリット"はこの地に染み付いています・・・。神が住んでいたこの地に・・・」


"神の島"か・・・・


十数年も暮らしてきたが、全然気が付かなかった。


「・・・・でもなんでシュナが・・・」


ここまで知っているんだ・・・?


それはやっぱり・・・


「俺が・・・・光妖大帝国の・・・人間だったからだよ・・・リオナ」


シュナは苦しそうに笑いながらリオナから離れる。


「俺は始めからすべて知っていた・・・・フェイターのことも・・ローズ・ソウルのことも・・・神のことも・・・。俺は知りすぎたんだ。自分でもそう思う・・・・。だから俺はフェイターに命を狙われた。11年前から・・・」


だんだんと口調が荒くなっていく。


それは今まで押さえ込んでいた感情が爆発したかのように。


「・・・あの時素直にフェイターに殺されていたら、死んでたらどんなに楽だったか・・・!!家族を殺され・・・国を奪われ・・・!!何度も・・何度も・・・死にたいと思った・・・!!」


見たこともないシュナの睨みあげるような目にリオナは戸惑う。


「だけど俺にはまだやることがあったんだ・・・。」


「・・・やること?」


そっとシュナに手を伸ばせば
シュナはキュッと掴み返してくる。


「そう・・・。父上に言われていたんだ・・・。もしフェイターが動きだしたらダーク・ホームにいる男に助けを求めろって・・・そして国を救えと言われてた。その男は光妖大帝国の人間だから俺の味方になってくれるはずだって・・・だから・・・ダーク・ホームにきた・・。その男を探しに。でもいなかった。そんな男はどこにも・・・・。」


握る手が強くなる。


「俺は何のためにダーク・ホームに来たんだろう・・・国民を見捨てて・・・自分だけ助かって・・・俺には国も何も救えないのかって・・・絶望に似た感情を覚えたよ。でもね・・・そんな時に俺を救ってくれたのが・・・シキさんだった・・・」


シュナにとってシキは誰よりも大切な存在。


知ってはいたけど・・自分が思っていたよりも、その想いは大きかった。


「シキさんは俺が国を救いたいってことを理解してくれた・・・できるだけ力を尽くすって言ってくれた・・・・。だから俺も今まで頑張ってこれたんだ・・・・。でも・・今ようやく気が付いた・・・。というか今までなんで気が付かなかったんだろう・・・・シキさんが・・・シキさんがずっと俺の探していた人だったんだ・・・・」


静かに泣き出すシュナを
リオナはもう一度抱きしめる。


そうすればシュナも抱きついてきて。


「・・・シュナ」


「リ・・オ゙ナ゙ァ・・・」


「うん・・・・・」


「シキさ・・んを・・・シキさんを・・・・・・助・・・・・・助・・・けて!!お願い・・・・!シキさんを・・・!!」



・・・ダンッ!!!


すると突然
壁を思い切りたたく音が響いた。


リオナたちは体をびくつかせて振り向く。


「グダグダ泣くなっての。」


壁を叩き
容赦ない言葉を言い放ったのはマーシャだった。


マーシャは冷たい視線をシュナに向ける。


「・・・おいマーシャ・・!それ言い過ぎだろ・・・」


「リオナは黙ってな。」


そう言ってマーシャはシュナをリオナから引き剥がし
胸ぐらをつかんで持ち上げた。


そして右手を広げ
シュナの頬を思い切り叩いた。


「な・・・!!・・・マーシャ!!!!」


リオナは急いでマーシャからシュナを離す。


どうしてこんなことをしたのかわからない。


だからリオナはマーシャを思い切り睨みあげた。


「なんで・・・!!そこまですることないだろ!?」


「こんな泣き虫なんて必要ない。」


「でも・・・!!!」
「泣きたいのは皆同じだろうが!!!!!」
「・・・・!!!」


怒鳴るマーシャにリオナは何もいえない。


「泣けばシキが戻ってくるのか!?泣けばリオナが助けてくれるってか!?勘違いしてんじゃねぇぞ!!」


強く言い放つマーシャに
シュナは怯えるように後ずさる。


そこでようやくマーシャも言いすぎたとハッとして、
口調を弱めた。


「あのなぁシュナ、泣きたいのはお前だけじゃない。ここにいる全員が色んなもん背負ってんだよ。」


シュナは目を真っ赤にしてマーシャを見上げる。


「泣いてる暇があんならな、まずは自分の足で立ってどうやったらシキのヤローを助けてやれるかを考えなってんだ。そんなこともしないでリオナに助けてくれってすがるなんてお門違いにも程があるぜ。そうだろ?シュナ。」


「・・・・・・」


シュナは下を向いたまま黙り込む。


「・・・シュナ」


リオナが手を伸ばそうとする。


けれどすぐにシュナ自身によって止められた。


彼は顔の涙を拭い
両手をついてゆっくり立ち上がった。


そしてマーシャの目をしっかり見る。


「マーシャさん・・・」


シュナは深く頭を下げた。


「ありがとうございます・・・!」


その声に揺るぎはない。


「本当に・・・不甲斐ないです」


するとマーシャの表情も一気に明るくなり、
頭を下げているシュナに近づき下から顔をのぞく。


「ほーれ。できるじゃん。見なおしたぜ。なぁ顔あげて?」


「・・・・マーシャさん」


シュナがゆっくり顔をあげると
マーシャは笑顔でさっき叩いたシュナの頬を撫でてやった。


「さっきは叩いて悪かった。まぁアレは俺からの愛情って事で。」


「はい・・・!」


「それにさ、シキを助けたら、皆で思い切り泣けばいいさ。まぁアイツのために泣く奴なんてなかなかいないとは思うが。」


「は・・・・・はい!!」


シュナの顔にも笑顔が戻り
リオナも安心してため息をもらす。


だが気まずい空気から一気に和やかな空気に変わり
マーシャとシュナの間に挟まれていたリオナは、なぜかやりきれない気持ちで一杯になった。


「・・・なんかずるい。」


「は?どうしたリオナ?」


リオナは不満げな顔をマーシャに向ける。


「・・マーシャは俺にこんな熱く言ってくれたことないじゃん。」


確かにリオナに対してはあまり熱くなって何かをしたことがない。


マーシャは困ったように目を泳がせ
どもる。


「え、いや、あの、さ。それは、えっと」
「それはリオナがしっかりしてるからだよ。」


すると横からシュナのナイスフォローが入った。


シュナはさっきよりもすっきりした顔立ちをしている。


「・・俺しっかりしてるか?」


「うん。してるよ。リオナは気付いてないかもしれないけど・・・少なくとも俺はリオナに何回も救われてきたよ?」


「・・・そう・・・なのか?」


よく・・・わからないけど。


まぁいっか。


すると今まで黙っていたラードがイライラしながら割って入ってきた。


「おぉい!!!愛の熱血指導もかまわねぇけどよ!時間を考えろ時間を!!!早くしねぇとシキが処刑されてベンに逃げられるぞ!!?」


「シキさんが処刑!?」


何も聞かされていなかったシュナは
口をあんぐりあけて驚いていた。


「どういうこと!?」


「・・・・簡単に言うと、シキはダーク・ホームに潜むフェイターだって濡れ衣きせられて・・・処刑されそうなんだ。」


「ウソ・・・」


「・・・でも大丈夫だから。真犯人を捕まえて、助けだせばいい。そのために俺たちが来た。」


「でもその真犯人って・・・」


「・・・ベンなんだ。」


「・・・!?」


シュナは呆然とした表情をしている。


はじめは誰でもこの表情になる。


だって今まで信じてきた仲間なのだから。


だがシュナはすぐに険しい目をして力強く口を開いた。


「なら・・・早く行こう!!逃がしちゃ駄目だ・・・!!!」


「・・・ああ」


全員が扉の前に立ち並ぶ。


この扉を開ければもう止まれない。


もう今までの状況には戻れないかもしれない。


だけど考えてる暇はない。


進むしかないんだ・・・


「よっしゃぁぁ!!!行くぞ野郎ども!!!」


ラードを先頭に前に進む。


「リオナ」


だが後ろにいたシュナに呼び止められ
ゆっくり振り向く。


シュナはいつもみたいな優しい笑みをリオナに向けた。


「おかえりなさい!」


「・・・!」


言葉が深く心にしみる。


その言葉をどれだけ待ったか・・・


ただの他愛ないあいさつでも・・・この一言で・・・温かくなるって・・・君は知っていたのかな・・・


リオナも笑顔を浮かべ
はっきりと言葉を発した。


「ただいま。」


2人は力強く頷きあう。


そして扉に向かった。


それぞれの大切なものを守るために。




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あきゅろす。
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