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【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
story77 仮面の下の真実



人生のうちにこんなに走ったのは初めてかもしれない。


「・・・はぁ・・・はぁ・・・・」


リオナは息を整えながら
スピードがついていた足を止める。


そして目の前にある巨大な門を朝日に目を細めながら見上げた。


その門に書かれている文字は
"FLOWER COUNTY"


「・・・ここ、か」


《リオナ〜大丈夫〜?オイラ風の抵抗受けすぎて耳が曲がっちゃったよ。》


明らかに疲労が溜まっているB.B.の表情はまるで死人のよう。


それもそのはず。


ここへ来るのに船に乗り海を越え、その後三日三晩ほぼ走り続けたのだ。


頭の上にいたB.B.は
振り落とされないよう必死にしがみついていた。


「・・・B.B.は大丈夫か?」


《どうせダメッて言っても走るくせに。》


「・・。」


・・・あとちょっとなんだ・・・だから・・・


リオナは再び走る態勢に入る。


だが走りだそうとしたその瞬間。


「つーかまーえたっと。」


「・・!!!・・・マーシャか。」


マーシャは左手にクロードとクラッピーを抱え、
ゼェゼェ言いながら右手でリオナのフードを掴んでいた。


その顔は痩せ細り
不気味な笑みを浮かべている。


「マーシャか。じゃねぇだろうがリオナ!!何三日間ぶっ通しで走ってんだバカヤロウ!!追い掛ける俺の身にもなれ!!」


マーシャの怒鳴り声に
半分気を失いかけてるクロードとクラッピーがビクンと跳ねた。


「・・・ぇ・・・ごめん。全然気付かなかった。」


だがリオナはあっさりと言いのける。


本当に夢中で気が付かなかったのだ。


しかしその言葉にマーシャはさらに顔を引きつらせる。


それは少し哀しげで。


「あのさぁリオナ。俺の存在ってそんなもん?リオナにとって気付かないくらい俺って薄い存在なわけ?俺必要なかった?追い掛けないほうがよかった?」


久々に見るマーシャの真剣な表情。


だから余計に怖くって。


リオナはハッとして口を開く。


「・・・そう、じゃなくて・・・」


ようやく我を取り戻したように
リオナは動揺の色をみせた。


「・・・心配で・・・・ムジカが心配でいてもたってもいられなかったんだ・・・」


「そうだろうね。」


「・・・・ごめん・・・本当にごめん」


申し訳なさそうにリオナは頭をうなだれる。


「・・・・ったく。」


そんな彼に免じてか
マーシャは呆れたようにため息をついて
リオナの顔を覗き込んで目と目を合わせる。


「・・・マーシャ?」


マーシャはリオナの顔を左に傾けたり右に傾けたりする。


「目が赤い。目の下にクマ。顔青いし熱がある。これ普通の人間だったら全治二週間だ。」


そう言いながら腰から水が入った筒を取出し
リオナの口に無理矢理入れた。


リオナの喉に三日ぶりの水分が流れ込む。


水は渇きを潤し
火照った体を冷ました。


リオナが飲み終えるのを確認し
マーシャは筒を離し袖で口を拭ってやる。


「お前がムジカを心配するのはわかる。ムジカが狙われてるかもしれないと思ったらいてもたってもいられねぇだろ。でもその前にお前の体だって大切だろうが。無理して走って体壊したら、助けられるのも助けられないだろ?なぁ?」


マーシャの言ってることは間違ってない。


だから何も言い返せない。


「・・・うん。」


「それにムジカにはジークがついてんだ。そう簡単にはやられない。」


リオナは小さく頷く。


ジークが弱いとは思わない。


ただ万が一の事が頭をよぎったから・・。


ただただ俯くリオナ。


そんなリオナを見てようやくマーシャが笑顔を見せた。


「その顔を待ってたよ。リーオーナ。」


そう言ってリオナの肩に腕を回す。


「・・・・俺なんかブルー。」


「あはは。でもそんな暇無いんじゃないの?お姫さまはすぐそこだぜ?王子さま。」


「・・・王子さまじゃないし。でも・・・」


リオナは顔を上げてマーシャを見る。


「・・・ここまで来たからには急がないと」


「そーだな。よーし。じゃあもうひとっ走りだ。」


「うん。」


《やっぱりまた走るんだー。》


「・・・しっかりつかまってろよ」


《え・・ちょっ、リオナ待っ・・・ギャァァァァァァァァァ!!!!!!!》


リオナたちはフラワーカウンティーに突入した。


「・・・いい匂い」


リオナは走りながら鼻を掠める花の甘い香りに少し酔い痴れる。


「懐かしいなぁ。最後に来たのは俺がまだ二十代になる前だっけ。」


すぐ横でマーシャは懐かしそうに呟く。


「・・来たことあったんだ?」


「まぁな。いい思い出やら悪い思い出やら。」


「・・・何かヤなことあった?」


「そうだなぁ。ここに来てから嫌なことが続いてな。まぁでもその後リオナに会うことできたからよかったけど。」


マーシャの表情はなんだか複雑そうで。


「・・そっか。でも俺もマーシャに会えてよかったよ。」


だからこれ以上は聞かないことにした。


「あはは。うれしーよリオナ。」


マーシャがニコッと笑うのを見てホッとする。


《なぁなぁ!次道が2つに分かれてる!》


「・・・ホントだ」


足を止めて道を見渡す。


「確かジークはバラの都だって言ってたぞ?」


《じゃあ左だ!》


案内の看板は一切無いが
無くてもわかる。


なぜなら明らかに左の方にバラのアーチが見えるからだ。


「マー兄、僕歩く。」


「よしきた。」


マーシャからクロードが降りると
クロードは誰よりも先を走りだした。


きっとクロードも早くムジカに会いたいのだろう。


「んで、なんでピエロはいつまでも俺にしがみついてんだ。」


「ボクちんへとへとだッチョ。」


「お前も歩け。」


「ギャッ!」


リオナ達はバラのアーチをくぐる。


それは長く続いていて
かなり遠くに出口であろう光が見える。


《リオナ!あっちまで競争しよー!!》


またくだらないゲームを考えたものだ。


が、しかし。


「僕もしたい・・!」


「ボクちんも競争したいッチョ!!」


お子さま達はやる気満々。


だがこれで皆が走ってくれるなら一石二鳥だ。


それはマーシャも同じ考えだったようで。


「じゃぁよぉ、先にジークの家見つけた奴が勝ちな。」


「・・オッケー。」


《それじゃあ行くのだぁぁ!!》


全員が一気に走りだす。


リオナはバラのアーチを抜けると
一旦足を止めた。


「・・・すごい・・キレー」


目の前に広がるバラの美しさに目を輝かせる。


こんないい町があるなんて。


いままで色々な国や町を見てきたが
ここまで綺麗な町は見たことが無い。


すると前にいたクロードが振り返り
心配そうにリオナに近寄ってきた。


「お兄ちゃん?大丈夫?」


「・・・きれいだなって思ってさ。」


「キレーだよね。僕たちの国はこんなにお花は咲いてなかったもん。」


「・・そっか。」


「あのさ、お兄ちゃんの住んでた国ってどんな感じだった?」


「ぇ・・・・」


そこでリオナはふと思う。


自分が住んでいた町は・・


おぼえているようで覚えていない。


参ったな・・・・考えてもみなかった


忘れたことすら忘れていた。



いや・・きっと覚えてるんだけど思い出せないんだ・・


そう信じたい。


でももし・・・もしウィキのこと・・ちゃんと思い出したら・・・


「・・全部・・・思い出せるかな・・。」


「お兄ちゃん?」


「・・・たぶんいい国だったよ。」


リオナは笑顔で返すと
クロードは嬉しそうにかけていった。


《リオナぁ!?リオナがビリになっちゃうぞ!!》


「・・・ああ」


リオナは再び足を動かす。


確かジークはバラ園をやってると言っていた。


ならここから一番広いところは・・・


「・・・あ。」


都の先に広いバラ園が見える。


しかも他のバラ園と比べて広さも明るさも格別だ。


「・・・あそこじゃん」


リオナは何かを確信したように走りだした。


「あ!!リオナが見つけたっぽいッチョ!!」
《なにーッ!?》


他の者達もリオナのあとを追う。


リオナはバラ園を横切り
その奥にある家、というか屋敷までかける。


玄関までくると
この家の所有者である名前が目に入った。


"クラン"
とかかれている。


だがジークの名前はクランじゃない。メイリンのはず。


「・・・違う?」


でも何かを感じる。


ムジカが・・ここにいる。


絶対。


リオナはベルを鳴らさず
いきなりドアノブをとった。


「おーいリオナ!お前人んちに勝手に入るなぁ!」


遠くからはマーシャの声が聞こえてくる。


だがお構いなしに扉を開いた。


ガチャ・・・


「・・・開いた。」


こんな物騒な世の中なのに鍵を締めないなんて。


とか考えてる場合じゃない。


もしかしたらフェイターが押し入ってきてムジカに何か・・・


「・・やばいだろ・・!!」


リオナは焦って中に入る。


人の気配はあまり感じない。


だがリビングの方からかすかにもの音が聞こえてきた。


「・・・向こうか」


リオナはリビング目がけて走る。


胸の鼓動も早まっていく。


そしてリビングへ足を踏み入れた。


「・・・・ムジカ!!!!」


リビングには誰かの後ろ姿が見えた。


ソファーに座る黒髪の青年。


その青年はリオナの声に反応し
バッと振り返った。


「あれ?ジーちゃんもう帰ってき・・・・って。ん?!」


青年はリオナを見て驚きの表情を浮かべる。


「えーっと、あの、君は誰かな?ジーちゃんの知り合い?」


不思議そうに首を傾げる青年。


だがその青年の横で横たわっているものにリオナは目を見開いた。


「・・・ムジカ!?」


黄色の髪に華奢な体。


間違いなくムジカだった。


じゃあ・・・そこにいる奴は・・・!!


リオナは青年を突飛ばし
急いでムジカを抱き起こす。


そしてトランプの切り先を青年に向けた。


青年は訳が分からなさそうな顔つきをしている。


「何すんだいきなり!」


「・・・アンタ、フェイターか!?」


「ふぇいたー?なにそれ?」


ぇ・・・違うのか?


「・・・ムジカに何をした・・!!」


「何もしてないって!ムジカは疲れて寝てただけ・・・って、もしかして君・・・」


青年は勢い良くリオナに近づき
顔をじろじろ見る。


その視線にリオナはビクッとしながらムジカを庇うように抱き寄せて一歩下がる。


「もしかして、噂のリオナ?」


「・・・・!!」


・・・こいつなんで俺の名前・・・


ってか噂ってなんだ?!


形勢逆転
リオナは動揺する。


だがナイスタイミングにマーシャ達がやってきた。


マーシャは真っ先にリオナのもとに来て
思い切り頭を叩いた。


「イッタァァァ・・・・!!!!」


「リオナ!お前人様の家にズカズカ入るんじゃねぇ!!ってムジカ!?」


マーシャも驚きで目を丸くする。


《生きてるのか!?》
「お姉ちゃん!!」


クロードとB.B.がムジカに近づき
体を揺する。


だがその瞬間。
ものすごいスピードで青年がかけてきた。


そしてムジカからクロードとB.B.を離した。


「ダメだよ君たち!!ムジカは疲れて寝てるんだから!!」


《ぁあ!?アンタ誰だよ!!》


「俺は」
「まさかジークの従弟か?」


青年の言葉を遮ったのはマーシャ。


その言葉に青年は頷いた。


その表情は何だか不満げ。


「アンリだ。よろしく。言っとくけど俺はふぁいたーでもふぃるたーでもないから。」


「フェイターな。」


え・・・待てよ。


こいつがジークの従弟?


リオナはアンリをジロジロ見る。


それはアンリをどこかで見たことがある気がするから。


だがリオナの視線に気が付いたアンリは
面倒くさそうにため息をついた。


「リオナ、だっけ?俺をどっかで見たことあるとか思ってない?」


「・・・・ぇ」


「やっぱり・・」


思ってたことを口に出してしまったのかとリオナは焦って口を押さえる。


「あのさ、俺の姉貴、ユリスっていうんだ。たぶんあんたらの仲間。」


「んだと!?」
「・・・!!」
《ぇえ!?》


リオナとマーシャとB.B.は互いに顔を見合わせる。


「こいつがユリスの弟で」
「・・・ジークの従弟」
《ってことはユリスはジークのいとこ!?》


ユリスとジーク・・・確かに似て無くも無い。


だが同じ家系内で悪魔と悪魔狩りがいるなんてなんとも変な話だ。


未だに驚きを隠せない3人に
アンリはいい加減にしてくれとばかりにせきをした。


「とにかく!ムジカは疲れてるからみんな静かにしてくれ!」


「・・・あ、ああ。」


そう言ってアンリはムジカの体を持ち上げようとする。


が、
リオナがすぐに割って入った。


「・・俺が運ぶ。」


睨むようにアンリを見る。


そんなリオナに
アンリは興味深そうに笑顔を見せた。


「へぇ。なんか以外だな。」


「・・・は?」


「イメージしてたのと違うんだよな、リオナ。」


イメージだと・・・?


さらに睨みをきかす。


「もっと明るい奴かと思った。案外クールだな。しかもイケメン!」


なぜか嬉しそうに笑うアンリが
リオナには理解できない。


「・・・あっそ。」


リオナはムジカを持ち上げソファーに寝かせてやる。


「てかよぉ、アンリ。ムジカに何かあったのか?」


マーシャは部屋を見渡しながら尋ねる。


「何か?」


「そう。俺たちムジカからの通信受け取ってよぉ、ムジカに何かあったんじゃねぇかって急いで来たんだぜ?」


「ああ!やっぱり成功してたんだな!」


満面の笑みで喜ぶアンリ。


マーシャは訳が分からなさそうに眉をひそめる。


「実は今、姉貴が家に帰ってきてるんだ。」


「ユリスがか?」


「そう。なんで姉貴がかえってきたのか俺にはよく事情がわからないんだけど・・なんかアンタに急用があるらしくてさ。だからムジカが電波みたいなのずーっと送ってたんだ。」


「そうなのか?で、ユリスとジークは?」


「今3人で買い物行った。」


「3人?」


「ああ。姉貴に付いてきた男がいてさ。」


また男か・・・


「・・・ユリス変わってないな。」


十年の付き合いだが彼女は全然衰えない。


見た目はまぁルナの力だが。


そんな事を思っていたその時だった。


玄関の方から声が聞こえた。


「おーい!アンリ手伝え!」


その声にリオナ達はバッと振り返り
玄関の方をみる。


久々に聞く声に誰よりも早く反応したのはクロードだった。


気付いたときにはクロードは走ってリビングを出ていっていた。


「ジーク!」


クロードの嬉しそうな声が聞こえてくる。
同時にジークの驚きの声も。


「な!?クロード!!?」


わいわいがやがやと声が聞こえ
リオナの顔も思わずほころぶ。


そしてジークはクロードを抱えてリビングに走り込んできた。


「マーシャ!少年!黒ウサ!」


ジークの表情は驚きながらも喜んでいるようにも見えて。


「よっ。久々だな。」


「まったくだ!」


マーシャとジークは嬉しそうに手を取り合う。


「少年も元気にしてたか?」


「・・ああ。色々迷惑かけてごめん。」


「なーに。これくらい大したこと・・・」
「リッチャァァァァァァァァン!!!!!!」


ジークと握力しようとした瞬間。


玄関の方から今度はけたたましい声がリビングに近づいてきていた。


恐らくこの声は・・・


「・・ユリス!」


ユリスはリビングに入ると
リオナにすぐに抱きついた。


「リッチャン元気にしてた!?」


「う・・うん。」


「もぉ〜かわってなーい!よかったぁ!」


リオナがユリスからの締め付けから解放されると
後ろにいたクラッピーがなにかつぶやいた。


「ユリスっていう人もムジカっていう人もかわいいッチョねぇ♪」


「・・・・。」


少し複雑な気持ちになる。


というかクラッピーにもそういう感情があるのか。


リオナは思わずクラッピーを見つめる。


「な・・・なんだッチョ!?」


「・・・・いや。何でもない。」


続々と懐かしもの達が帰ってくる中
最後にやってきた者がいた。


「やっときたかぁ!マーシャ!ガハハハ!!!」


豪快な笑い方に誰もが体を跳ねさせる。


振り返ればいつになく派手な柄シャツに髪をツンツンにたてたラードがいた。


「・・・ラード!?」


《じゃあユリスが連れてきた男って》


「ラードかよ。」


若干期待していたのに。


ユリスがどんな男を連れてきたのか。


まぁなんとなくラードな気もしていたが。


リオナたちに冷めた目で見られたラードは
訝しげな表情を浮かべながら両手に持っていた荷物を置いた。


「とにかく来てくれて助かったぜ!マーシャ!」


「あのよぉ。俺達イマイチ話についていけないんだけど。」


うん、とリオナも頷く。


「そうよね。とりあえず座りましょう?そこのお子さま二人はどうするの?」


ユリスはクロードとクラッピーを指差す。


「・・・2人とも仲間だ。一緒に話聞かせる。いいよな?」


その言葉にクロードとクラッピーは頷いた。


「僕もちゃんと聞く。」


「ボクちんはクロノスについていくッチョ。」


そうしてリオナ達はとりあえずテーブルの椅子に座った。


先ほどまでのなごやかムードから一変して緊張した空気が流れる。


「マーシャたちはビットウィックスがマスターになったことは知ってる?」


「大体のことは聞いてる。」


「実はね、シキがビットウィックスに拘束されたの。」


「・・・・!!!」


マーシャは眉を寄せてユリスを見る。


「どうしてだ?」


「シキがフェイターの差し金だっていうのよ。」


・・・・差し金


リオナはふとコールの言葉を思い出した。


"シキが怪しい"


「・・・でもシキは違うだろ?」


「私たちもそう信じたいわ。とにかく早く真犯人を突き出さないとシキが殺されちゃうわ・・・!」


殺されるなんて・・・・


今更ながらに危機を感じる。


しかしマーシャを見てみれば
何もいわずになぜか目が明後日の方向をむいているし。


《真犯人でしょー?それがわかれば苦労しないってのぉ!》


「ガハハハ!!でもヒントがあんだよなぁ!!ユリス!」


「ええ。シキがマーシャに言えばわかるって。」


そこでようやくマーシャの目に何かが灯った。


「シキが?何て?」


「"鬼は静かに夢を見る"って・・・マーシャに伝えろって・・」


「"鬼は静かに夢を見る"だと?」


マーシャは立ち上がって部屋中を歩きだす。


大体マーシャが何かを考えるときは部屋を歩き回る癖がある。


だからリオナたちはただただ目で彼を追うしかない。


しばらく見ていると
マーシャはゆっくりと足を止めた。


「まじかよ・・・」


小さくつぶやくその表情はあまりいいものとは言えない。


「なにかわかったか!?」


マーシャは険しい表情のまま椅子に座る。


「実はよ、俺とシキで昔からダーク・ホームにいるっていうフェイターを探してたんだ。」


「そうだったの!?」


「ああ。でもあんまり表に出して言えないだろ?だから俺たちは暗号みたいなのを作ったんだ。例えばフェイターを"鬼"とか。」


マーシャがそんな事をしていたなんて
これっぽっちも気が付かなかった。


「・・・じゃあその続きの"静かに夢を見る"っていうのもか?」


だがマーシャは静かに首を振る。


「いや。俺もそう思ったけどそんなワードはないんだ。」


・・・ならどういうことだ?


「なぁ。この物語知ってるか?」


突然何をいいだすのか。


全員マーシャに妙な視線を送る。


「なんて話よ?」


「"終末日記"」


・・・終末日記?


聞いたことがある。


確か昔・・・
マーシャが夜に読んでくれたことがあった。


「・・・主人公の少年がある日突然不思議な力を手に入れて・・はじめは世の中のために使ってたけど、だんだんと自分の欲が先に出て・・・最後には自分の力で身を滅ぼす。」


「そう。リオナのいう通り。」


《でもそれとこれと何の関係があんのさ!?》


「まぁ聞けって。この"終末日記"の最後の一文がこうかかれてるんだ。"少年は静かに夢を見る。幸せな夢と終末の夢を"ってね。」


ますます訳が分からなくなる。


だがその時
ラードがバッと勢いよく立ち上がった。


その表情は真っ青。


「俺・・わかっちゃったかも!!!!!」


全員の視線がラードに集まる。


「確かそのものがたりの主人公の名前が・・・!!!」


そこでようやくリオナも気が付く。


・・・信じられない。


というか・・・信じたくない・・・


「・・・ベン」


まさか・・彼が・・・俺の国を潰した一人だなんて・・・


リオナはショックで茫然とする。


「嘘でしょう!?」
《ぇええ!?!?》


ユリスは動揺しながら立ち上がる。


「ベンよ!?あの物静かなベンがよ!?私ベンのことずっと信頼してた!!だってベンは仲間でしょ!!!ずっと一緒に戦ってきた仲間じゃない!!!!絶対嘘!!!私信じたくない!!!!」


「でもこれが事実なんだ。」


目に涙をためながら首を振るユリス。


今にも部屋をとびだしそうになるのをマーシャが止めた。


そしていつになく厳しい表情をユリスに向けた。


「お前か動揺してどうする。皆ベンを信用してきたさ。でも裏切りが本当なら・・・」


マーシャはナイフを取出し
机に思い切り突き刺した。


そしてその声は怒りに震えていて・・


「ベンを殺すまでだ・・・」


いつになく殺気を感じた。


「祖国を壊された恨みからじゃない。仲間として始末する。」


「マーシャ・・本気なの?」


「俺は本気だ。嫌ならおまえはここに残れ。俺はダーク・ホームに戻る。来たい奴だけくればいい。」


その言葉にリオナは下を向き
目をつむる。


・・・ベンは・・・本当に大切な仲間だった・・・


いつも優しかったから・・・


おれも彼が大好きだった・・・


だから・・・余計に彼が憎い・・・


クロードの国を・・家族を・・・そして俺の大切なものを奪った・・・ベンが憎い・・・


・・・・でも・・・・
恨みなんて・・・・果たしたくない・・・・


だって・・・今でも大切な仲間なんだ・・・・


それに・・・・・"あの日"を・・事件のあったあの日を・・・全く覚えていない自分に・・・そんな権利ない・・・


だから・・・


「・・・俺もいく。マーシャ。」


「いいのか?」


「ただ俺は・・ベンに何もできないかもしれない・・・でもベンに聞きたいことがある。」


なんで俺たちを裏切ったのか。


《ならオイラはリオナに従うまでだもんね。》


そう言ってリオナの頭から顔をのぞかせる。


すると勢いよくラードとユリスも自分の武器を机に置いた。


「天下一のラード様が行かねぇわけねぇだろ!!ガハハハ!!!」


「そうね・・・仲間として・・・最後の戦いをしに行きましょう・・・。」


そんな2人にマーシャはいつもの笑みを見せた。


「安心したぜ。俺一人じゃ不安だった。」


「マーシャを一人で行かせたらダーク・ホームごとつぶされそうでハラハラするぜ!!!」


ラードも笑いながらマーシャにパンチを入れる。


無理して皆が笑ってるのがわかる。
でも・・・そうでもしないと身が持たなくて・・。


「ジークはどうする?」


「私か?」


「ああ。無理にはつれてかないが、出来ればお前の頭が必要なんだ。」


その言葉にジークはため息をはきながら
マーシャに近づき顔を近付ける。


「私がほしいならハッキリ言わんか。」
「あ、やっぱり来なくていいや。」
「冗談だバカもの。まぁ私は貴様に借りがあるからな。断る気はさらさらない。」


いつも思うが、
ジークのサラッとした性格がなんだか羨ましい。


「じゃあさ、ルナの捜索は一旦あと回しだ。明日すぐにダーク・ホームに出発するぞ。」
「ちょっと待って!」


すると突然
ユリスはマーシャの話を遮って声を上げた。


ユリスの表情が一気に暗くなり
その視線がリオナに注がれた。


「実はね・・リッチャン・・・シュナが・・・」


・・・またこの話か・・・


リオナは静かに頷く。


「・・・もう聞いた。」


リオナのあまりにも落ち着いた態度に
ラードとユリスが顔を見合わす。


「そ・・そうだったの。」


気まずい空気が流れる。


そんな空気を打ち破るためにマーシャが口を開こうとした。


だがすぐにリオナ本人が口を開いた。


別にこの空気が嫌だったからじゃない。


ただ・・今まで思ってきたことを話しただけ。


「・・・シュナが死んだって聞いたとき・・・正直辛かった。こんなことになるならさ・・シュナを連れてくればよかったって・・・。」


「リッチャン・・・」


「・・でもおかしいんだ。何度その話を聞いても・・シュナが死んだって聞いても、涙が全然出ないんだ。」


リオナは少し苦しげな表情を浮かべている。


だから余計にユリス達の心を締め付ける。


「でもさ・・・わかったんだ。今気が付いた・・。俺・・・シュナがまだ生きてるって思ってる。」


シュナは死んでなんかいない・・・。


きっと・・・シュナはどこかで生きてる。


それに・・・声を聞いたんだ。


シュナが・・・俺の名前を読んでる声が・・・


「・・・皆はそう思わないかもしれないし・・俺自身現実から逃げてるかもしれないけど・・・俺はシュナが生きてるって・・」
「リオナ。」


するとマーシャがリオナの手をつかみ
顔を向けさせた。


「俺たちも信じてるぜ?なぁ?」


それに合わせてユリスとラードも頷く。


「あったぼーよ!!!」
「シュナみたいなへなちょこは案外長生きするものよ?」


なんだかそれだけであったかくて・・・


「1人で抱え込むな。リオナ。俺たちはここにいる。」


「・・うん。ありがとう。」


「よし。じゃあ出発は明日だ。今日の夜は宴会か?」


マーシャはニヤッと笑いながらジークを見る。


「そんなに材料ないぞ・・・」


「じゃあもう一回買い物行ってみよう。」


「貴様がな。」


笑い声が上がる。


久々の明るい感じ・・・


・・・すごく安心する。


リオナは少し笑顔を浮かべながら
大きく伸びをした。


その時だった。


「あれ・・・?わたし・・・寝てた?」


ソファーの方から声が聞こえてきた。


リオナは体を固まらせる。


そう、ムジカが目を覚ましたのだ。


ムジカは体を起こし
眠そうに辺りを見渡している。


「なんだ・・・起こしてくれてもよかっ・・・、・・・・・!!!!」


ようやく部屋の変化に気が付いたのだろう。


ムジカは驚きで目を丸くしている。


「マーシャ!?クロード!?B.B.!?」


そして最後にリオナと目が合う。


「リ・・・リオナ・・・」


「・・・・。」


リオナも気まずそうに目を逸らす。


一体・・・・どうしたら・・・


「よーしお前ら買い物行くぞー。」


突然マーシャが立ち上がって呼び掛ける。


《そうするのだぁ!!》
「そうね。夜の宴会のために♪」
「ガハハハ!!つまみでも買いに行くかぁ!」


そのままリオナとムジカ以外のもの達が部屋を出ていく。


「・・・・な!!!!」


リオナは冗談じゃないとでも言いたげな顔で立ち上がる。


だがすぐにアンリに止められた。


「・・・ちょっとなにすんだ」


「自信持てリオナ。お前には誰よりも強いものを持ってるんだ。」


「・・・・!!!」


そんな事を言われると思わなかったのか
リオナはアンリを見る。


そんなアンリは笑ってリオナの頭をぽんとたたいた。


その笑顔が今までの不安を吹き飛ばした気がして・・・


「・・・ア・・アンリ!」


リオナは慌てアンリを呼び止める。


「なんだ?」


「・・・さっきは・・・・悪かった。ごめん。」


「はは!気にすんなって!お前も今日から俺の弟みたいなもんだし!」


「・・・アンリ」


アンリは頑張れよとジェスチャーで表しながら
部屋を出ていった。






リビングに取り残された2人に沈黙が続く。


・・・何ていえばいいのか


何も考えずに来てしまったから
今更ながらにわからなくなる。


・・・どーしよ


だがリオナが頭を悩ませていると
ムジカの方から口を開いた。


「元気・・だった?」


リオナはまさかムジカの方から話し掛けてくると思わなかったから
もの凄く驚いた顔をしている。


だって最後に別れたときは
さんざん言い争いをした後だった。


だからなんだか嬉しい・・・けどそれより前に恥ずかしさが増していく。


リオナは顔を赤らめながら小さく頷く。


「・・・元気だったよ。ムジカは?」


「大丈夫・・元気。」


「・・・そうか。」


再び沈黙が訪れる。


リオナがチラッとムジカを見ると
ムジカは困ったように指を動かし俯いていた。


ムジカは困るとすぐに指を動かす癖がある。


そして最後は目が泳いで自分のなかでパニックを起こす。


その光景がなんだか懐かしくて・・・


ひとつひとつの行動が愛しく思える・・・・



だから気が付いたらリオナはムジカに近づいてムジカの手を握っていた。


ムジカはもちろん目を丸くしてリオナを見上げた。


「リ・・オナ?」


「・・・ごめんな・・・ムジカ・・・」


そのまま手を引いてムジカを抱き締める。


小さい体はスッポリおさまった。


「・・・あんなこと言って・・・・・ごめん・・・・1人にして・・・ごめん・・・・」


リオナの腕に力がこもる。


ずっと・・・後悔していたのかもしれない・・・


自分が気付かないほどに・・・


次々に込み上げてくる気持ちを口に出す。


「・・・・怖いんだ」


「・・・?」


「もう・・・・大切な人を失うのが・・・怖かったんだ・・・・これ以上苦しみたくないんだ・・・だからトラヴァースとナタリアを忘れて楽になりたかった・・・弱いんだ・・・俺は・・・・」


現実から逃げたかった・・・


そうすれば楽になれる・・・そう信じてた・・・でも・・・・


なんでか・・・・もっと苦しくなったんだ・・・・


「・・・俺」
「バカだよ・・・私たち」


するとムジカがリオナを体から離した。


そのまま顔をリオナの胸に押しあて
小さく震えていた。


じわりと暖かいものが胸元にしめる気がする。


「・・お互いに・・・自分は弱いって思っててさ・・・本当にバカみたい・・・!」


ムジカの手がリオナの服を強くつかむ。


「弱くて何が悪いの!?強くて何がいいの!?私が欲しいのは・・・リオナからのごめんねでも強いリオナでもないの!!!!!」


声は震え
力が弱まる。


最後に出た言葉は
とても小さく・・・


「そのままのリオナが・・・欲しいよ・・・・・・・・!!!」


「・・・・・・っ」


体中に突き刺さる・・・


「・・・ムジカ」


「寂しいよ・・・!!1人にしないでよ・・・・!!」


「・・・ムジカ・・・」


「リオナが・・・・・大好きなの・・・!!!!」


「・・っ・・」


「私・・・リオナがいなきゃ・・・」


「ムジカ・・・・・・!!」


震えるムジカをギュッと抱き締める。


力強く・・もう離れないように・・


「・・・・ムジカ」


そして静かに泣くムジカの耳に
そっと唇を寄せた。


「俺も・・・ムジカが・・・好きだ・・・」


「・・リ・・・オ・・」


「友達とかそういう感情じゃない。ムジカを・・愛してるんだ・・・。俺はムジカのことを仲間としてじゃない・・・1人の女の子として見てたんだ・・・。」


だから・・・怖かったんだ・・・


失うのが・・・愛するものを・・・失うのが・・・


「・・・愛しくて・・仕方ないんだ・・・。本当は一生誰にも渡したくない・・・。誰にも触れさせたくない。でもそれは俺のわがままだから・・・」


「リオ・・ナ・・・っ」


「それでも俺は・・・ムジカを愛してる・・・」


ムジカの瞳からさらに涙が流れていく。


その暖かい涙がリオナの肩に押しあてられる。


「私・・・・」


「・・・・うん」


「うれ・・し・・・よ・・・・嬉し・・・い・・・」


ムジカは腕をそっとリオナの背中に回す。


「リオナ・・・」


「・・・・なに?」


「私・・・リオナのものになって・・いいの?」


「・・・なってよ・・俺だけのものに・・」


「リオナを・・・私のものにしていいの?」


「・・・うん。」


「私・・・愛し方・・・わからないよ・・?それでもいいの?」


涙顔で不安げに見上げてくる。


その頬をリオナは両手で包む。


「・・・・いいよ。知らなくたって・・・。」


そう言ってムジカの顔を近付ける。


「・・・・一緒に、知っていこ・・・・・・」


唇と唇が重なる。


柔らかくて・・・


溶けそうになる。


「好き・・・リオナ・・・愛してるの・・・」


「・・・・俺も・・・愛してる・・」


まるで甘い感覚に・・溺れるように・・・









リオナがもう一度ムジカに顔を近付けようとした。

その時だった。


ゴソゴソ・・・


リビングの入り口付近から音が聞こえる。


リオナはピタリと体を止め
耳を澄ませた。


「・・・・・。」


「リオナ・・・?」


「・・ちょっと待ってて。」


リオナは立ち上がると手に魔力をためはじめる。


そしてそれを入り口に投げつけた。


「おわっ!!!!!」
「熱いッチョ!!」
「うわぁ押すな押すな!!倒れるっての!!!!」


ギャアアアア!!


という悲鳴が沸き上がると同時に、
マーシャ達がなだれ込んできた。


リオナは呆れたようにため息をついた。


「・・・・盗み見なんて、最悪。」


その表情は恥ずかしさで真っ赤。


だってすべて見られたのだから。


マーシャは苦笑しながら体を起こす。


「あははー。やっぱり心配じゃん?でもハッピーエンドで何より何より。なぁ?」


「ガハハハ!!!あったりめぇだ!!!2人のラブラブっぷりには興奮するぜ!!!ガハハハ!!」


嬉しいやら悲しいやら・・・


それ以上に恥ずかしい。


「じゃあ今日はリッチャンとムジカのおめでとう会とマーシャの"リッチャンから卒業しました"会ね!」


「ホントさみしい。俺リオナのこと本気だったのに。」


「はいはい。さぁバーベキューよ!外に出た出たぁ♪」


騒がしい集団は再び外に出ていった。


「・・・ったく。騒がしいやつら。」


「ねぇリオナ」


「あ、ごめん・・・どうした?」


リオナはムジカに近寄る。


「ありがとう」


するとムジカは笑顔を向けてリオナの手をつかんだ。


「幸せ、だなぁ・・」


「ムジカ・・・」


もう一度ムジカを抱き締める。


「・・なんか恥ずかしくなってきちゃった。」


「あはは!私も!」


「ホントか・・?なんか・・・まーいーや。」


・・・俺も・・・幸せだから


「・・じゃあ・・行こっか?賑やかなパーティーに。」


「いく!」


リオナはそっとムジカの手を握り
二人で部屋を出た。







・・君に愛を注ぐよ・・・


たくさん・・・たくさん・・・


だから君は・・・俺から離れないで・・・


ずっと・・・ずっと・・・


俺のそばにいて・・・


君の苦しみも・・・悲しみも・・・


楽しみも全部・・・


・・・愛してるから



・・・久々に感じるこの幸せの時・・




でも・・・



この時が・・・いつまで続くだろう・・・



幸せの時は



いつもあっという間に無くなってしまう。




わかってる・・・いや・・・わかってた・・・





その時がくることは・・・





だけど今は・・・・ただひたすら・・・





幸せにしがみついていたかったんだ・・・・・・・






第八章 偽りの仮面

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あきゅろす。
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