【完結】 Novel〜Lord's Soul〜
Prologue first
大魔帝国
名前だけ聞けば悪魔か何かの国だと思いがちだが、この国は魔法使いが集まる国。
人々は常に魔法を使い、国民の3分の1は、パフォーマンス集団で、世界を飛び回っているものもいる。
だから人々はこの国を"トリック・ランド"などと呼んだりもした。
そんなトリック・ランドにも冬がやってきた。
雪がひらひらと舞い落ちる11月。
城がある中央都市は、まだ一ヶ月も先のクリスマスを祝い始めている。
街中をライトアップさせ、街中にはサンタの格好をした若い女性達がクリスマスプレゼントに最適と思われる最新の魔法式玩具を宣伝している。
一番の売れ筋はもちろん毎年"箒"だ。
空にはそりに乗ったサンタが空中を優雅に駆けめぐっていて。
そんなサンタを見て、子供たちは夢におぼれる。
しかしヴァンズマン兄弟は遠くの空のサンタを見つめ、夢におぼれるどころかそれを通り越して、醒めた目を向けている。
彼らヴァンズマン兄弟の住む町、"ラグ"は大魔帝国唯一の貧しい町。
町全体が薄暗い感じがし、中央都市の近くにあるせいか更に小汚く見える。
そんな町で生まれ育った、兄リオナ=ヴァンズマンと弟ウィキ=ヴァンズマンは双子の兄弟。今日が六歳の誕生日だ。
2人とも髪は銀色。
目は吸い込まれてしまいそうな漆黒。
見た目では見分けることができないほどそっくりだ。
唯一違うところは口調と性格。
明るくまだ子供らしさが滲み出てるウィキに対して、兄のリオナはどこか冷めた感じで口が悪い。
そんな2人は朝からやることもなく、ただボケェと町の廃棄場に座りながら中央都市の上空に舞う真っ赤なサンタを見つめていた。
「なぁウィキ。あの赤いヤツを撃ち落とすには何の魔法が一番いい?」
「そうだなぁ・・・・僕だったら硬化呪文で地面にたたきつけるかな。リオナは?」
「俺だったら一生降りられなくして自ら下に飛び降りさせるな。」
「ははっ!グロいね!」
見た目と歳に合わない会話を続けるヴァンズマン兄弟。しかし魔法のことに関しては、彼らの右にでるものはなかなかいないと言うほど彼らには才能がある。
しかし彼らは魔法の使い道を多少誤っているため、町の人からはただのイタズラ好きのガキンチョだと思われている。
ふとリオナがサンタを見つめていた目をウィキに向ける。
「なぁこんなのどうだ?」
「?」
「トナカイを暴れさせてサンタを振り落とす。」
ウィキもうれしそうにリオナをみる。
「あっそれいいね。・・・ねぇでもあいつ等全体に魔法防御がかかってるよ?」
「それの解除法は一昨日完成させたばっかだろ?」
「あぁそうだったね。じゃあ僕が魔法防御を。」
「俺がトナカイだ。」
二人同時に手をサンタに向けて掲げる。
ウィキの目がさっきまでの笑顔を忘れさせるほど狂気に満ちあふれ、口で呪文を唱え始める。
リオナは表情一つ変えずに手に紫色の煙のようなものをためはじめる。
サンタが白くひかる。
それを合図にリオナが手にためたものを離した。
が、その瞬間、後ろから何者かの襲撃にあった。
「いっってぇぇ・・・!!」
殴られた頭を抱えながらリオナがしゃがみこむ。
ウィキがびっくりして振り返ると、見覚えのある少女の姿があった。
「あっ!サラ!?・・・!!いった!!」
「いっってぇぇじゃないわよっ!!あんたらまたバカなことして!」
「んだよっ!邪魔すんなっていつもいってんだろ!?付いてくんな!」
「はぁ!?あんたらねぇそれイタズラじゃなくて犯罪よ!?もし私が止めてなかったらサンタは・・・」
「あっ!!そうだサンタ!」
ウィキがサラの話を中断させ、サンタがどうなったかを確かめるため空をみる。
リオナも頭をさすりながら空を見つめる。
幸か不幸かサンタは何事もなかったかのように、先ほどと変わらずに空を駆けていた。
それを見つけてヴァンズマン兄弟は落胆の色を見せ、廃棄の山の上に寝転がる。しかし見上げれば怒りに満ちたサラの顔があった。
サラはヴァンズマン兄弟よりも6つ年上の女の子。
黄色と茶色のまだら髪を二つで結って、赤のチェックのワンピースを着ている。
サラの家は花屋で、彼女とヴァンズマン兄弟は家族ぐるみの昔からの付き合いで、サラにとってヴァンズマン兄弟は弟みたいなものだが、ヴァンズマン兄弟からするとただの邪魔者。
いつか排除してやると心で野心を燃やしていた。
睨みつけるサラの目に耐えきれず、遂にリオナが口を開く。
「・・・わかったよ。悪かった。」
「悪かった。」
ウィキもオウムのようにリオナのあとに続ける。
「・・・・・。反省した?」
「・・・・うん。」
「うん。」
「ならいいよっ。」
先ほどとは打って変わって満面の笑みを浮かべる。
排除してやると心に野心を燃やしていても、結局はサラに妥協してしまう2人。
「そうそう、今日誕生日でしょ?おばさんがお祝いするから夕食までに帰ってきなさいって。」
「・・・お金ないんだから無理しなくていいのに。」
「だよな。」
「まぁそう言わないのっ!子供の誕生日を祝うことは親にとって一番の喜びなんだってママが言ってたよ?」
「・・・一番の幸せかぁ。」
「・・・・。」
二人はサラから目を離し、再び空を見つめる。
するとサラがあることを思い出して2人のボロボロのトレーナーのフードを引っ張って立たせる。
「ねぇ!私についてきて!」
ウィキが頭を傾げる。
「?なんで??」
「なんかいいのくれる?」
「うん!!」
「・・・まじ?」
半信半疑のまま、二人はサラに手を引かれて歩き出した。
雪はさらに強くなる。
いつもの雑草と土が汚く混ざり合っていた道も、真っ白な絨毯をかけられたようにきれいに見える。
リオナとウィキはフードをかぶり、サラは母特性のニット帽をかぶっている。
雪は頭の上で小さな山を作り、布を通り越して冷たさが伝わる。
いつの間にか隣町に突入。
道もきれいにレンガで敷き詰められていた。
三人が住むラグの隣町は中央都市からはやや離れているが、それなりに発展しているせいか、早速クリスマスの準備を始めている。
「ついたっ!!!」
約3時間歩き続け、やっとたどり着いたのが本屋。
「・・・・ここ?」
リオナが怪訝そうな顔をする。
「そう!こ〜こ!」
「へ、へぇ・・・・・。」
いつもは何に関しても興味を示すハズのウィキもさすがにこれには苦笑いをした。
というのは
この本屋は見た目からして高級感漂う建物で、ラグの町に住む人々はとてもじゃないけど入れない。
サラは2人をドラム缶の上に座らせる。
「まぁまぁ、いいから大人しくここで待っててね」
そう言ってサラは本屋の裏に回っていって、何かを探しはじめた。
「ねぇサラは何やってると思う?」
「・・さぁ。もしかして万引きとか。」
「ははっ!まさか!」
ドラム缶の上で待つこと15分、やっとサラが黒くすすだらけになった顔を出した。
両手には大きな本を抱えている。
顔を拭きながらサラは二冊の大きな本をリオナとウィキに手渡した。
その本には『魔道法第21巻 魔術師の魔質(上)(下)』と書かれている。
二人は目を輝かせてサラを見つめる。
「これどうしたんだよっ!?」
「これ欲しかったんだぁ!!」
魔道法シリーズはあまりに高くて、ラグの町の住人には買うことができない代物だ。だから今まで本屋で立ち読みしてその場で覚えるしかなかった。しかし最近では立ち読み禁止の本屋ばかりで見るのも大変だった。
喜びをあらわにする2人に対してサラはニコッと笑っている。
「この前この町に花を売りに来たときにね、この本屋のおじさんがこの本を店の裏に捨ててるのをみたの。こんな本読んでるの二人くらいよ?というか言っとくけどこれ犯罪じゃないからね!」
サラがさっさと元来た道を歩き出す。そしてふっと振り返り少し顔を赤らめながら言った。
「そ・・・それ誕生日プレゼントね!・・・おめでとっ!」
そしてまた黙々と歩き出す。
2人は喜びのあまりボケェと突っ立っていたが、すぐに我に戻り、本を脇に抱えてサラの脇に駆け寄る。
「ありがとな!」
「ありがとう!」
年相応の満面の笑みで二人はサラの手をつかみ走り出す。
やっぱりなんだかんだ言っても2人にとって、サラは多少口うるさいけど優しい姉なのだろう。
夜。
いつもより少しだけ豪華な食事が終わると、リオナとウィキは待ちきれずにサラからもらった本を開く。
「あっそうだ。お父さんお母さんこれみて!」
リオナが両手で本を見せる。
「んぁ!?おぉそれお前らがほしがってたヤツじゃん!どうしたんだ??」
「誰からもらったと思う??」
2人はニヤニヤしながら本を抱える。
「あっ!さてはモナだな!?」
「ぶっぶぅ!!お母さんじゃないよ!」
「私こんな高いの買えないわよ。それにしてもスゴいわね!誰からもらったの?」
「サラだよ!誕生日プレゼントだってさ!」
「だってさ!」
「ほぉ!!サラが!あとでお礼いわなきゃな!でもほんとによかったなぁ!」
そういって二人の頭をクシャっとなでる父ダン=ヴァンズマンと母モナ=ヴァンズマンは現在24歳。
2人は18歳で結婚。
そしてリオナとウィキを生んだ。
現在は八百屋をやっている。
自称『国一番の八百屋』
だが見ての通りビンボーである。
そんなダンとモナの口癖は、
『俺たちの冒険に終わりはない』
しかし二人の息子たちの口癖は、
『俺たちの貧乏に終わりがない』だ。
そんなヴァンズマンファミリーは一度も貧しいことを嫌だと思ったことはない。
基本食事は朝と夜の二食。
主に売れ残りの野菜が中心。
最後に肉を食べたのは一年半前の肉屋の試食。
ふつうの生活を知らないというのもあるけれど、不自由を感じたことはないし、楽しいからいいんじゃないかという結論に達している。
しかしそんなヴァンズマンファミリーの息子たちが"欲"というものを知り、求め、溺れていき、それが運命の螺旋を狂わすなど
まだ誰も知らない。
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