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後ろの正面だぁれ
アサトの姿が見えて、ヤバいとカノンは通りを出た。
自分を探していたようで、何事もなく帰る。
依頼の打ち合わせをした。
今日はもう行けない。
だから何もなかったように過ごし、寝た。

「……ちゃん!」

「…。」

「カノンちゃん!」

「…………ん?」

「「ん」じゃない!昨日タレイアさんのプリン食ったっしょお!?」

「…あ?………あぁ。」

「プリンちゃんに書いてたじゃんかぁ!楽しみにしてたんだからぁ!」

「悪かったって…。…………雨?」

「雨よ。この雨だから依頼中止だってさぁ。」

窓から見える土砂降りの雨。
思い浮かぶのはアイツの姿だった。
こんな気分にさせたのはメアエリス以来だ。
どうも気になる。
出掛ける支度をした。

「カノンちゃん?…どっか行くのぉ?」

「まぁな。」

「んふふwプリンー♪後ねぇ、ニッカちゃんから買い出しメモあるよw」

「……わかったよ。」

傘を持って出掛ける。
この大降りで水没する区域もあるが、珍しい事ではない為に各家や施設は対策されてあるからいい。
生身のヒトなら非常に危険だ。
黒ずくめの居た場所は安全区域、しかし、昨日「移動しないのか」と聞いたばかり。
鵜呑みにされていないことを願う。
が、願いは通じなかった。
黒ずくめがいない。

「…マズった。」

「こん、にちわ。…今日、散歩…日和だね。」

「!?…散歩?馬鹿か。」




「い…やあ゛ぁぁぁぁぁ!!」



肩に手を掛けただけだ。
黒ずくめは絶叫して座り込み、身体を震わせる。

「…?」

「ごめんなさい!せーし…零してごめんなさい!全部飲むからっ、おちんちん綺麗、するから…許して!」

この子がどんな事をしてきたのか、検討がついてしまった。
そうか、売淫から逃げて来たのか。
手錠の意味がわかった。

「…。」

「……あ、お兄ちゃん。今日お腹いっぱい。」

水の敷かれた地面を這って所定の位置に戻った。
しかし、すぐ立ち上がってフラフラと歩き出す。
今更だが、傘をさして着いていく。

「…そっちは危ない。」

「へぇ。」

「…。」

坂の下の水没地域に建つ家は半分が水に沈んでいた。
川も決壊しているが綺麗な湖のよう。
晴れた時には空が写りとても幻想的な街になる。
黒ずくめは座ってそれを掬った。
カノンも水を見る。
水面鏡の波紋に、黒ずくめの素顔が写った。
買ったモノも傘も落とす。

「メアエリス!」

抱き締めた。
ジャラ…と手錠の音がする。

「パン屋今日いらない。」

彼にカノンの心音はどう聞こえているのだろう。
一音も聴こえていない。

「……帰ろう、メアエリス。」

黒い布を取ると、やはりメアエリスであった。
冷酷な瞳、薄汚い洋服、不健康な顔色、首の傷と袖に滲む血、その姿は惨い。
カノンは自らの足を濡らして、目と目を合わせた。

「何か?」

「メア。」

「…やっ!汚らわしい!」

パチンとカノンの頬を叩いたメアエリス。
今の気分は女王様だ。

「…っ……暖かい場所へ帰ろう、メア。」

無理矢理背負ったが途中大人しくなり、女王様モードが解除される。
マンションに連れ帰るまで大人しく背中にくっついていた。
カードキーで扉を開けると、タレイアがプリンを催促しに近付く。

「カノンちゃん、待ってたよぉ♪……!!」

「詳しい話は……後だ。二人にも、適当に話しておいてくれ。」

「り…りょおかぁい……。」

お風呂場へ向かった。

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