わーぷーーー! 合流した。 カノンとシアは傷だらけ。 アサトが代表して持ち歩いている何でも入る小さな袋から傷薬を取り出すと、タレイアが手慣れたように手当てをする。 納得がいかないエリズィム。 「………。」 「なぁにぃ?リズたんも怪我したぁ?」 「なんで、居るんだヨ。」 「仲間なんだから当たり前じゃあん♪」 嘘臭い。 とにかく不愉快だった。 手当てを終え、試作船に乗って雲を突き破る。 すると、先端が見えた。 向こうには不気味な大樹が見える。 枯れ果てた姿のようにも思えた。 最上階に着陸し、外に出る。 「高いな〜。」 「雲が、真っ白な海みたい。」 「これガチで登ってたら色々と手遅れになってたな。で?この何もねー場所のどこに時空の歪みってやつがあんだよ?」 「あなたたちぃ…、本当にタレイアさんがいなきゃ駄目ねぇ。ついてきてよかったわぁ。移送魔法ってのがあるでしょお?この明らかに魔力が不安定な場所で使うとねぇ、暴発してぇ、時空ごと歪んじゃうのぉ。それでユグドラシルの強ぉい魔力を感知するって訳ぇ。」 「移送魔法を使える奴が居ない。」 そもそもの問題だ。 まともに魔法を使えるのはタレイアくらいである。 しかし、彼女はそんな事ができるわけないじゃなぁいと否定した。 ここまで来ておいてまたもや道が消える。 「リズたん。できるはずよぉ。」 「できねーヨ。」 「その本があるからできるのぉ!試しに開いてみてぇ。タレイアお姉様がサポートしてあげるからぁ。」 「……年増。」 「なんですってぇ?!」 「喧嘩するな。早くしてくれ。」 カノンに怒られて渋々協力し合う二人。 エリズィムは腰の本を手に持ち、それをタレイアが操るように力を与えた。 周囲を取り囲む大きな魔法陣が身体を粒子化させていく。 本が宙に浮き、ページが風で勝手にめくれて止まると、ものすごい光を放った刹那、雲海の壁画に試作船だけを残して姿を消したのだった。 目を開けたら翠溢れた森、目の前には大樹が堂々と葉を揺らして立っている。 「まじか?!これ、ユグドラシルだよな?!」 「樹の刻印と溢れる魔力〜、間違いないね〜。」 「大成功ぉー♪でもぉ、何か穏やかじゃなぁい?」 「村に急ごうよ!ペルセウスさんが瀕死なら……村は既に…。」 「急ごう。」 村は…どっちだ? とりあえず道になっている方向に歩いていく。 鳥のさえずり、風で揺れ擦れる羽音、ウサギのような優しい動物。 一体エル・ドランに何が起こったのだろう。 しばらく歩くと、樹の番人がこちらに気付いて槍を向けられた。 「おまえたち、エルネキア族ではないな?どこから入った!」 「俺達はペルセウスに言われてここへ来た。エル・ドランが大変だと聞いたが、一体何があったんだ?」 「大変?何の事だ?」 一同頭上に?を浮かべた。 番人の仲間がやって来て、村へと連れていかれたのだが、何事もなかったかのように穏やかだった。 離れの空き家に収容され、大人しく待機させられる。 「……どういうことだ?」 「ペルセウスが嘘言っていたとは思えないよね〜。」 「ビビるくれー平和。移送魔法失敗で事件が起きる前だったりしてな!w」 そんな力はないと談笑していたのだが、エルネキア族がやってきた時に固まってしまった。 何かの間違いか。 何故目の前にペルセウスが居るのだろう。 「君たちを呼んだ覚えはないよ。それ以前に、この環境で下界からどうやってここに来れたんだ?」 「怪我はどうした?」 「怪我…?」 「負傷していただろ?」 「え?何の事だい?ここ何年も怪我してないよ。」 「……変なことを聞くけど〜、今は何月何日〜?」 「…………――日。」 目を丸くしてしまう。 やはり、過去だ。 ペルセウスが降ってきた日の、1日前。 時空を越える魔法は存在するかもしれないが、そんな事をした覚えは、タレイアにはなかった。 エリズィム…は実質そんなに力は使っていない。 何かがおかしい。 「何が起こったんだ…?」 「じゃあさ、これから何かが起こるって事?」 「信じられないけど〜、そう…なのかな〜。」 「さっきからどうしたんだい?俺が怪我したとか、下界に落ちたとか。」 実は、と一通りを説明した。 流石はペルセウスで、今の自分たちの状況を呑み込んでくれたが、納得はいっていないという顔をする。 でも事実なのだ。 「明日になってみないと分からないわねぇ。」 「死にかけるなんて嫌だなぁ。…そういえば君は、初めましてだね。」 「ハジメマシテ。オレはエリズィムだ。」 「えっと…女の子で……いいのかな?」 「おう。」 「なかなか男前な子だねwエリズィムちゃんはその本、どこで手にいれたんだい?」 「渡された。」 こっそりと耳元で名前を呟いた。 カノンに聞かれない様に。 「下界をさ迷っているんだね…。」 「あの〜、個人的に話したいことが山ほどあるんだけど時間とれないかな〜?」 「大丈夫だよ。ただ…君たちが言っていた事が気になるんだ。」 「俺達が護る。だから解放してくれないか?」 「ありがとう、助かるよ。長には俺から話しておくから。…じゃあ、シア君は俺の家で待ってて。場所覚えてる?」 「覚えてる〜。確か〜、研究所近くだよね〜?」 「そうだよ。じゃあ、お先に。皆には悪いことしたよ。ある程度なら自由にしていいからね。あ、有毒花には気を付けて。」 シアはエリズィムを連れてペルセウスの家に向かった。 他のみんなは自由行動になる。 【前n】/【章n】/【次n】 |