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ヒトはヒトとして生きていけ
今日もたくさん歩いた。
野宿。
今日もたくさん歩いた。
野宿。
今日もたくさん歩いた。
野宿。
この行程を何度も繰り返した。
雨の日はさすがに雨宿りをしたけれど。
カノンを送り届けないと。
気持ちがペースをハイにして体調を崩していた。

「見ろ、膜がある。」

「ほんとだ。も少しだね。」

「そうだな。…あれは……迎えだ。」

カノンが通信していたみたいで、みんなが迎えに来てくれた。
膜を挟んで久々に対面する。
帰ってこれたと安堵しているのはカノンだけ。
怯えているのはマルシャだけ。
だけど、この薄くて強い膜をどうやって破ろうか。

「皮一枚程度なのに、何やっても破れねーんだ。」

「……任せて。」

そう言うと彼の手を握った。
すると、不思議なことに。
何の問題もなく通ることが出来たではないか。
やっと、やっと、帰れる。

「お帰りw超泥だらけじゃん。」

「ん…。……本は?マルシャの。」

「ちゃんと預かってるよ〜。」

受け取ると、早速融合の儀式を始めた。
2冊を一気に取り込む。
また本の色が変わり、玉虫色のような輝きを放ち始めた。
これでよし。
さぁ帰ろうと、ステルメーク側を見てみんなは歩き始めたが、マルシャはいっこうに動こうとはせず、地面ばかりを見詰めていた。

「どうした?……!」

カノンに強く、強く、強く強く強く強く強く強く強く、強く抱き着いた。
そして小さな声でお別れを言う。

「いままで、ありがとう。事態は人間に解決出来るような簡単なことじゃない。大樹には近付いちゃだめだよ。約束してね。」

「オマエ、何…―――。」

言わせないよとキスをした。
涙のキス。
切なく離れて、膜の中に戻っていった。
仲間に止められたのは、カノン。

「……いいかい?マルシャは途中で行方を眩ましたんだよ〜。ここへはカノンが独りで来たんだ〜。」

「離せ!」

「カノンさん落ち着いて!こうしなきゃ、マルシャは消されちゃうんだ。アルカディルに、さ。元はと言えば、俺が悪い…。」

今までやらされていた仕事は、街を強化するための大掛かりなプログラム創りだと思っていたものが、カノンの力を最大限に引き出せる、マルシャに変わった新しい身体を開発してきたものだと教えられた頃には、既に完成していたも同然。
即ち、事態は手遅れであった。
何もないことを装って連れて帰れと命令があったが、察知したマルシャが逃げてくれて安心する。

「……悪いのは貴方なのよぉ?」

「何だと?」

「もう歴史を汚すのはやめてくれないかなぁ?…余計なことはしないでぇ、人間は人間同士争ってなさいよぉ。」

「テメー、何言ってんだよ。理解できねー。つーか、本当にタレイアか?」

「ワタシの器はタレイアちゃん。疎い人間さんに教えてあげるぅ。ワタシの魂は【エイレネ】。だからねぇ、イグリッツがどうなったか気になってるわけぇ。実はワタシもコレ通れちゃったりぃ♪ばいばい人間さんw」

行ってしまった。
人間と神。
交わることは許されない。
これからどうなるか分からないのは、ヒトも神も同じこと。

あんな事を言ったけれど…。
マルシャはずっと待ってるよ。
キミが全てを投げ捨てて、ココに来てくれるって信じてる。
待ってるよ、カノン。

それまで、眠ることにした。
【最期の丘 エンダーコルン】で。
この島一帯にプロテクトを張り、【中身】を書物の中へと封印して、抱えたまま深い…深い湖の中に沈んでいった。






サヨウナラ

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あきゅろす。
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