聖戦 それから、雷の鳴り響く海域を見つけ、小島を探して着地したのだが、既に何者かに荒らされた形跡があり、きっとロンモンドギニアスはアリスによって封印されたに違いない。 今はラステスを過ぎた山岳の小屋で休憩をしているマルシャとタレイア。 何もしてないのに、なんだか異常に疲れた。 フォビアとタレイアが暖炉で話をして、お子様は眠ってる。 「やられたわぁ。そりゃそうよねぇ。アリスだって人形とはいえ使命は忘れないわよぉ…。やらかしたぁ……。」 『技術の進歩は怖いものだ。ヒトも強くなったな。』 「生きるのに必死だからねぇ。器は変わったけど心が変わらないのはマルシャちゃんだけよぉ。」 『貴様も……!!奴らに気付かれたらしい。囲まれたぞ。』 「……フォビアちゃんはマルシャちゃんを護ってあげてねん。クーちゃんはワタシに力を貸して。」 グランゲールの兵士が扉を壊して侵入した。 同時にフォビアは水を放って屋根に穴を開けて大空に飛び立つ。 旋回しながら様子を伺う。 黒ずくめの集団が囲っていた。 「アリスちゃんじゃないのねぇ。」 「クレフィス様は忌まわしきステルメークへ向かわれた。もうじき到着するであろう。」 「なんですってぇ?!計算がズレたわぁ…マルシャちゃん、こんなの相手にしてる時間がないわよぉ!」 「ぅ?……!」 『起きたか。ステルメークが危機にある。急がねば【奴】を失うことになるやも知れんぞ。』 「ステルメークへは、行かせない。」 こんな雑魚どもは瞬殺してやる。 カノンを狙う者は絶対に許さない。 マルシャはフォビアの本を開き力の解放させ、敵に氷の礫を振り落としてやった。 絶えず降り続ける粒に押し潰されていく兵士と黒ずくめ達。 今度はクリュティの本を開き力を解放させて、その力をタレイアに増幅させると、全てを焼き溶かすマグマを呼び寄せた。 結果は言うまでもない。 そして、急ぎステルメークへ戻る事に。 全速力で向かうと、ファングル手前で物凄い数のグランゲール軍を発見し、何も考えずマルシャは降り立ってしまった。 「ちょっとぉ!こらぁ!」 本当に何も考えず、グランゲール軍の道を阻むマルシャ。 ステルメーク軍もギルドもまだ気が付いていなく、来る気配はない。 ここは荒れ果てた荒野、戦場のための場所ならばどんなに暴れても大丈夫だ。 ずっと向こうの空を見ると、アリスが大きなドラゴンの頭に座りながらこちらを見学しているではないか。 「独りか。…おい、おまえ。奴を殺してしまえ。」 「はい!」 「……フォビア。」 『承知した。』 本を開いて書いてある通りに呪文を唱えると、同調して蒼く光ったフォビアは大きく吼えた。 兵士は腰を抜かしてしまう。 敵の隊長が束でかかれと号令を出すと一斉に捨て身で兵士達が突っ込んでくる。 やっぱりちょっぴり怖くなったマルシャは目を瞑って身を縮込めた。 「わーうーっ。」 『ヒトの分際で、我等ロンモンドギニアスに勝る訳がなかろう!』 水が滝の如く流れ、軍が波に飲まれていく。 今度は紅の本を光らせてクリュティにも力を与えてやる。 『…力の解放、感じる。』 「行くわよぉ!」 クリュティが地面に落ちるように足をつけると、大地が揺れて地面が割れていく。 増幅した力でタレイアは炎の魔法で大暴走。 雑魚は彼女達に任せよう。 ヒトの脆さにため息を吐いたアリスが近付いてきた。 「アリス、帰って。」 「ボレアス様の命により、おまえを消す。」 「…一緒にステルメーク行こ?ステルメーク、淋しくないよ。」 「黙れ、出来損ないが!おまえが居るから…私は……うあァァァ!!」 竜巻のような突風が吹き荒れた。 アリスの暴走が始まる。 巻き上げられそうな身体をフォビアが捕まえて、背中に掴まれと言った。 氷の壁で防ぐ。 しかし、頭上から落雷が発生し、容易く割られてしまう。 相性が悪い。 『貴様、ロンモンドギニアスでありながら歴史の眼に逆らうか。』 『強き者に憑くのが当然だ。』 『配下といい貴様といい、性根の腐った奴等だ。我等が主はマルシャだということ、分からせてやろう!』 マルシャを地上に下ろし、上空で始まった壮大なロンモンドギニアスの戦い。 ヒトや機械の規模を遥かに越える。 降ろされたマルシャは立ち上がった。 力の入らない足の激痛に堪えながら。 自分の書物を開いて、身体に似つかわしくない剣を生成して振り回す。 柄の宝石は蒼色、氷の槍が敵を刺した。 クリュティは下を気遣い、上を気遣い、世話しなく動く。 タレイアの働きで大分兵士が減り始めたその時だった。 グランゲール方面から物凄い音がして見てみると、土埃を挙げて迫ってくる軍勢が来たではないか。 そして上空のフォビアがマルシャ付近の地底に叩き付けられ、風圧で飛んだ。 「あう…フォビア?!フォビア!」 『…ぬぅ。』 『フォビア……並みならぬ力。』 アリスはドラゴンに乗って、追撃の炎の渦をおみまいしてやった。 戦闘向きではないクリュティが炎を飲み込み、身体中を硬直させて岩のごとく踏ん張る。 風をモノともしない。 「ありがとう、クリュティ。」 『当然の事。』 「マルシャちゃーん!わけわかんない物まで出動しちゃってるしもう駄目ぇ、一旦退いてステルメークに知らせにいきましょお!」 「駄目。アリスを止めなきゃ、ステルメークがアストレイランドみたいになっちゃう。」 そんなの駄目。 ここでどうにかしなきゃ。 フォビアに掴まり立ちしてアリスを見た、兵士には目もくれずただアリスを見た。 そして自分の書物を開いて自分自信の力を解放する。 莫大な呪文が描かれた魔法陣がマルシャを囲み、波動がアリスを襲う。 「おもしろい。遊んでやろう。」 お互いの力がぶつかりあう。 光が眩しくて向こう側は見えない。 タレイアはタレイアで兵士の相手を続けた。 もう駄目かもなんて思っちゃう。 「…辛いよぉ……。…!?」 今度は後ろから何か大きな音がする。 もう無理。 それはマルシャも一緒だった。 「あ…うぅ……ぅくっ!」 「ロンモンドギニアスもまとめて死ね。」 精神的にも、肉体的にも、つらくて苦しい。 あぁ、こんな時カノンが居てくれたらよかったのに。 護りたかったけれど護れそうにない。 力が足りなくて、意識が薄れていき、カクンと膝がささえ方を忘れてしまった。 更には魔法陣までもが…。 「愚かな人形だったな。……何!?」 目の前を何かが通過し、落下時、ドーン!と大きな爆発音が鳴り響いた。 あれは! その軍の隠密兵が駆け付ける。 「大丈夫か?おまえ等よく頑張ったな!後は俺等に任しとけ!」 「アサトぉ!遅いわ、よぉ…。」 「泣くんじゃねーよwバジリスクまで行けるか?」 「…ワタシは大丈夫だけどぉ、マルシャちゃんがぁ。」 ロンモンドギニアスにもたれかっている彼は気絶していた。 フォビアも瀕死の身体を起こして主をかばい、クリュティも火を放ち懸命に護りに徹している。 バジリスクからステルメーク軍の兵が続々と降りてきた。 鉄砲隊の最奥にはシアが居る。 兵士に続いて、エミル率いるギルド軍勢がやって来てくれた。 戦場は荒れ狂った。 鳴り響く鉄の音、爆発音。 アサトが倒れたデカブツを護りながら戦っているが、半径が広すぎて難しい。 極めつけは上から風のロンモンドギニアスが狙っている事。 これは受けられそうにない。 「……ぅ?…!…フォビア、クリュティ戻って!」 本に戻した。 危険を察知してプロテクトを展開し、自分を護る。 風のロンモンドギニアスが勢いよく突っ込んできた。 この身体じゃ、勝てない…! … …… ……… …………あれ? 本が、光ってる。 瞑っていた目を薄く開いた。 「無理はするなって言っただろう。」 「…カ、カノン!」 「馬鹿、力を抜くな!」 プロテクトにあやかって力に変え、剣でロンモンドギニアスを弾き返した。 悲鳴をあげて空へと帰る。 一度剣を鞘に返す。 「…コタローを盗られたのか?」 「う、んー…うん。」 「…?…バジリスクに行くぞ。」 「待って…。マルシャ……足…。それに、アリス倒さないと。」 「…。バジリスクへ戻る。アサト、マルシャを連れてきてくれ。」 「了解!」 殿下様はバジリスクの最高席へ戻った。 モニターで軍の動きを監視する。 隣にはマルシャ。 「カノ…「敵戦艦を確認!兵士が混乱しています!」 「一時撤退。アレを使ってみますかねぇ。カノン殿下、許可を。」 「いいだろう。技術の差を見せ付けてやれ。」 「波動弾用意!」 超マイクロ波が化学反応を起こして衝撃で爆発するという恐ろしいキャノンを初披露する。 レーダーで味方が安全領域に入ったのを確認して放った光線は、全領土に鳴り響くように大きな音をたてて爆発した。 軍艦はひとたまりもなかった。 しかし、アリスとロンモンドギニアスは宙を浮く。 「駄目か。」 「やはり、彼女には効果がありませんでしたか。唯一対等に戦えるのはマルシャ、あなただけです。」 「……。」 敵軍は次なる策をぶつけてくる。 アリスの禍々しい風が無数の魔物を呼び寄せている。 アストレイランド跡地で見たような魔物を。 「世界を救えるのは、あなたしかいないと言っても過言ではない。」 「アルカディル、軍とギルドを撤退させろ。ここから先は俺達がやる。いいな?マルシャ。」 カノンの服をぎゅっと握った。 手袋をきつく閉め直し、マルシャを抱いてバジリスクを降りる。 復活したタレイアは、バジリスクの動力となっていたニチカを引っ張り出して来て合流し、外へ出たとき、シアとアサトと合流した。 さぁ行こうと目を合わせると、後ろから声を掛けられる。 まさかの春臣と海璽だった。 ファノルアカシック再結成の時。 ヒトの力を越えた戦いが始まる。 【前n】/【章n】/【次n】 |