紅き砂塵を纏うクリュティ 朝日が昇ってきた。 フォビアの背中に乗せてもらい、少々過酷ではあるが紅き砂塵を纏うロンモンドギニアスに会うため、まずは日ノ本へ向かう。 普通ならば門前払いされるのだが、恩義は忘れておらず通してもらえた。 途中、春臣の家に向かってみたが姿がない為、真っ直ぐ神殿に行く。 「おう、朝っぱらから元気なお嬢達だな。」 「居ないと思ったら番人さんやってたのねぇ。李狐っちに用があるのぉ。通してくれないかしらぁ?」 「李狐様から話しは聞いている。通っていいが、俺と一戦交えてからだなぁ。」 「無理無理無理ぃ!」 「だろうよwほら、通りな。」 強張った無表情のマルシャは、そのまま春臣を見つめて横切った。 神殿の奥に行くと李狐が座って待っている。 茅の前には海璽も居た。 『待っておったぞ。』 「あらぁ、ありがとぉw率直に言うわぁ。ロンモンドギニアスに会うためにぃ、あなたの力を貸して頂戴なぁ。」 『協力すると約束した身じゃ。海璽、此方へ。』 「?…はい。」 『今日からお主が日ノ本の長となる。』 「え?!私には、その様な力など…。それに異端の存在でもあります。」 『日ノ本がお主の力で護られていることくらい、民は知っておる。お主が相応しいと言っておったのは民じゃぞ?反論する者はおるまい。居たとしても、春臣がなんとかしてくれよう、のう?春臣。』 「うむ。」 「ハル、知っていたのですね?!」 「まぁ…なぁw」 『歴史の眼よ、妾の力、受けとるがよい。』 書物を受け取った。 紅い魔法陣が描かれ、吸い込まれていく。 自分が持っていたもう1つの書物に仮住まいしていたキュクロプスも移動していった。 どうやら、水と氷、火と土がそれぞれ一緒になっているらしい。 そしてもう1つ持っている書物は、グランゲールにいた頃から持っていたもので、マルシャが知恵を得るための本。 役割があるらしい。 「……終わったよ。」 「じゃあ灼熱大地に向かいましょうかぁ。」 「もう行っちまうのか?」 「そうよぉ。イフリアヘルを動き回るなら夜か朝方じゃなきゃあ。心配しなくてもぉ、行き詰まったらここに来るわよぉ♪宿無しなんだからねぇwさぁ、フォビアちゃん出発ぅ!」 『まったく、荒い奴だ。』 翼を広げ、結界をモノともせずに飛び立った。 とりあえずエルネキア族の遺跡へと向かう。 可笑しな事に、焚き火が燃え尽きた跡があるではないか。 先程まで何者かが居た様子。 ただの旅人だといいのだが…。 オアシスに出ると、幸い二つの太陽は半分ずつしか見えていなかった。 水をたくさん持ち、大地を歩く。 一向に見当たらない廃れた遺跡。 そろそろ太陽が昇ってしまう。 ペースも考えずに、マルシャは水を一口、また一口と飲む。 「駄目よぉ!…1本飲んじゃったのねぇ。」 「まだあるよ?」 「大事に飲まなきゃ帰りの水がなくなっちゃうわぁ…。今どの辺りかしらぁ……。」 行けども行けども歪んだ砂だらけ。 暑すぎて狂いそう。 目の前には蜃気楼か…巨大なサソリが見え……サソリがこちらに気が付いた。 「来る。」 「えぇー?きゃあ!!」 「あうっ。」 とがった尻尾が地面に刺さった風圧で軽く飛んだ2人。 次を狙いにやって来る。 「ちょっとちょっとちょっとぉ!…っ。」 「…キュクロプス。」 静かに名前を囁くと、紅き魔法陣から召喚され、土壁が彼女を護った。 目眩ましがチャンスの合図、タレイアはバトンを回して大魔法を全開で放つ。 敵に降り注ぐ焔の槍が何本も突き刺してバラバラになるサソリ。 「ふぅー…。ありがとぉ、マルシャちゃん♪」 「できた…。」 「死ぬかと思ったぁ…。大丈夫ぅ?立てるぅ?」 「……うん。あっ!」 「ん?きゃあぁ!!?」 スドーンという大きな音と大量の砂と一緒に地底へと流される。 この時は本当に死んだのではないかと思った。 なぜなら、眼を開けると木々から日差しが漏れていて、穏やかな風が頬をかするから。 草のいい香り。 マルシャは寸前でキュクロプスを召喚して護ってもらった。 だから2人は助かったのである。 身体を起こして隣に倒れているタレイアの肩を軽く揺すった。 「…起きて。」 「んんー…。あれぇ?生きてるぅ?」 「うん。」 「ここはぁ…?……この香りぃ…オリーブぅ?この木ってぇ…まさかここって【オリーブの木陰】ぇ?!」 【オリーブの木陰】 イフリアヘルを抜けた先のリゾート地を更に山を抜けた先にある場所。 等間隔に並べられた自然の樹木に生っているこの実がオリーブといって、薬に使われている稀少種である。 「おりーぶ?」 「これ売ったらすごい量のお金が手に入るわよぉw持って帰りましょお♪」 『これ、タレイア。欲張りは良くない。』 「ちょっとだけよぉ♪」 『ヒト助けになるのは間違いないけど…。』 「タレイア、タレイア。」 「なぁにぃ?」 「ロンモンドギニアス居たよ。」 振り返ると大きな九尾の狐。 ぶわっと目の回りが熱くなったタレイアはロンモンドギニアスに抱きついた。 「羽生ぅー!」 『タレイア、会いたかったwでもまたサヨナラね。クリュティ様、この子がエイレネよ。』 『強い心。変わらぬ心。……羽生、李狐、キュクロプス、我が身に還れ。そして、歴史の眼の力となる。』 フォビアが三体と融合したように、紅き砂塵を纏った尾長龍系ロンモンドギニアス、クリュティは力を吸収していく。 そして、李狐にもらった書物に新たに名前が刻まれた。 なかなか絡みにくいクリュティはフォビアとはあまり仲が良くないらしく、会話はない。 マルシャは少しだけ心配した。 「仲良く…。」 『クリュティ、暑苦しいぞ。』 『仕方あるまい…。』 「仲良く……仲良く。」 ロンモンドギニアスにも相性や性格がある。 取り持つのは大変そうだ。 「案外簡単だったわねぇ♪さぁ、帰りましょお♪」 「…どこに?」 『次は紫電走る旋風の嵐。奴の手下はは手強いぞ。』 『紫電走る旋風の嵐…か。』 「紫電走る旋風の嵐ねぇ…。とりあえず1度ステルメークのギルド街に戻りましょおかぁ。あそこなら情報が集まるかもしれないしぃ。」 「うん。クリュティ、乗せて?」 『御意…。』 暑い土地はクリュティなら簡単に一っ飛びで越えられた。 それから小雨がちらついたから、フォビアに切り替えてギルド街へ降りた2人だった。 【前n】/【章n】/【次n】 |