鬱は人格を変えていく 呪いから開放されたマルシャは、まだ本調子には戻らず、ソファー生活が続く。 カノンが居なくてつまらない。 そういえば、光の鳥とは契約を結んで、自ら本に吸い込まれるように入っていった。 「あー…しくじった。ルキアの野郎…。」 「……ルキア?誰?」 「マルシャちゃんにっつーか、カノンに呪いをかけた奴だ。俺のライバルだった奴。いっつも張り合っててよー、小いせー頃はじいさんに二人して術教えてもらってさ。いつの間にか、道を違えちまった。」 「……ふーん。」 日常。 みんなが依頼を消化しに行く。 海璽は陽善を抱いて買い物に行く。 家に独り。 この静けさが最近は好きになってきていて、ヒトの声、生活音がうるさい。 前は好きだったのに。 何を考えているわけでもないマルシャは、今日もソファーの上に体育座りをしていた。 実は、歩けない。 身体を支える力など、とっくの昔になくしていたのだ。 『歴史の眼、水辺へ行きたいのだが。』 「乗せてくれる?」 『承知した。』 本を開いて蒼きロンモンドギニアスのフォビアを召喚すると、窓の外を浮遊する。 乗りたいけれど歩けないことを告げた。 すると、尻尾が彼をすくいあげて背中に乗せられる。 そしてステルメークの結界をモノともせずに大空へと飛び立った。 マルシャの大好きな水辺に着陸する。 草の上に座ったら本から、スキュラ、セイレーン、フェンリルが召喚されて、なんとなく予想がついた。 「みんな、お別れだね。」 フォビアが三体の力を吸収し、より強大な力を得、その力はマルシャの為になる。 解っていても、淋しいよ。 本を開いた。 3つの名前が浮き上がり、名前に吸いとられるように消える。 そして、蒼き聖獣に宿っていく。 ロンモンドギニアスの手下にとっては誇りに思える事なのに、マルシャもわかっていたのに涙が溢れてきた。 『皆、感謝している。歴史の眼よ、我が貴様の足となり、手となろう。』 「聞いて、フォビア。マルシャは…アリスを殺すの。今はまだ力が足りない。」 『承知した。次は、紅きロンモンドギニアスを目指せ。』 「……うーん。帰る。」 背中に乗って街に戻った。 商店街の上空を行くと、人々は驚きの表情を見せている。 家に着いて再びソファーに座って、さっき使った体力を回復させた。 ぬくもりが欲しい。 契約者なのにこの距離、身分の差を遠く遠くに感じる。 「…フォビア、…王様の子供は、偉いの?」 『時に王よりも、権力を持つことがある。』 「マルシャは?」 『我々ロンモンドギニアスの頂点、即ち、統率者。しかし、ヒトの価値観からは除外されている。』 「…………難しい。」 『些細な問題だ。気にすることはない。』 生きるというのは難しい。 考えるというのは面倒。 鬱はそれからしばらく続く事になる。 時が経ったのにも関わらず、カノンの【軟禁生活】は終止符が見当たらなかった。 そしてマルシャは、自力で車椅子に乗れる様になり、リハビリがてらの散歩に出歩くようになる。 【前n】/【章n】/【次n】 |