☆繋いだ手と手
外へ向かう途中だった。
カノンの後ろを歩いていたミチルは止まる。
「どうした?」
「あそこに、ニチカさんが居ます。」
「ん?」
塀の上に居た彼は不審に辺りを見回して、向こう側に姿を消した。
ニチカは自分の配下ではない為にどのような状況なのか分からないから見逃す。
姿を見つめていたミチル、何を考えているのかすぐ検討がついた。
「真似するなよ。」
「はい。僕にはあの壁…越えられそうにないです。」
「それもそうだ。行くぞ。」
「待って下さいっ。」
散歩がてら町に来た。
治安を自ら見て歩くのも公務の一つ。
同業者が組合となって活動する組織を【ギルド】というが、ステルメークの自警団ギルドのおかげで大体は守られているが彼らでは取り締まれないものもある。
その例外を排除する面倒が今日の仕事だ。
「カノン、これ…ユタさんですよね?どうして写真があるんです?」
指名手配の文字が読めないミチルにはこの貼紙が意味する事を理解できない。
ユタはギルドに所属している事が発覚。
それも、不正の闇ギルドに。
「……ユタは窃盗や不法侵入などの罪を重ねた。このまま野放しにしておけない。」
「迷子札ですか?」
「…オマエは気にする事ない。行くぞ。」
無知は幸せだ。
時々羨ましく感じる。
しばらく歩くとまたもやミチルが足を止めた。
「カノン。」
「今度は何だ?」
「………何か、音がします。ゴーって。」
「…あぁ、海だろ。」
「うみ?」
「波の音……行ってみるか?」
「はいw」
たまには寄り道も…今日は寄り道ばかりな気がするが、それも悪くない。
音を目指して歩いた。
堤防の階段を上るとだだっ広い青が見える。
ミチルは絶句した。
「………………綺麗…。」
心が落ち着く。
山や草原に包まれたグランゲールでは見たことも聞いたこともない。
「マルシャ、そろそろ…。」
「ぁ…はい。」
「暇な時、一緒に来よう。」
「はいw」
来た道を戻って公務を続けた。
今日は得に異常なし。
後は帰還するだけ。
夕暮れの道は薄暗く物騒だ。
「早く来い。夜になる。」
「さ…先に行ってて平気ですっ。」
疲れて、カノンに追い付くのは難しい。
足が痛い。
ため息をついて戻ってきた彼。
ミチルに手を差し延べた。
「ほら。」
大きな手に引かれて歩く。
不思議な錯覚をしてしまった。
今自分は世界で一番の…そんな感じがする。
「カノン…暖かいですね。」
「あぁ。」
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