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世界中を歓迎祭
すごいヒトの数だ。
移送装置で各地から訪れ、観光を楽しむ。
ファノルアカシックのホームにいても、笑い声など楽しい音が入ってくる。
今日は少し元気なマルシャは、揺り椅子に座って窓の外を眺めていた。
みんなは役目があるため外出中。
海璽も赤ちゃんを抱いて、出掛けてしまった。
アレスのコンサートは午後からだと聞いていたが、カノンには絶対家から出るなと言い付けられている。
でも、聞きたい。
こっそり向かおうかなと、クセでコタローの名前を呼んでしまった。

「……居ない…。……じゃあ…スキ…ラ。」

『    !』

天井に頭が付くくらいに大きいスキュラは頭を下げてマルシャに、駄目と言う。
わかってる、それでも行きたい。
しばらく争うと具合が悪くなってきて、くたっと椅子に沈み混んだ。

「………お外行き…い。」

『     』

「……。」

ゆらゆらゆらゆら、揺り椅子ゆらゆら。
暇だなぁとゆらゆらしていると、誰かが帰ってきて、マルシャの揺り椅子をゆっくり揺らしてくれた。
気持ちがいい。

「具合は?」

「……カノ…w……全然、だ…じょぶ。」

「そのわりには声が小さい。…って、俺のせいだよな。」

「……そんな…お、そんな顔、しな…でw」

「よし。…行くぞ。」

「……え?…わっ。」

マルシャの身体に合った車椅子を博士から作ってもらっていたらしい。
外出は禁止、そんな事は皆がわかっている。
しかし、カノンは車椅子に彼を乗せてその上に膝掛けを置き、悪いとわかって外に連れ出した。
急がなければライブ準備に間に合わない。
走る。
ヒト混みを掻き分けて走るが、黄色い声援が激しくて逃げるのも大変だけども、なんだか楽しそうだ。
特設ステージの関係者側入り口に入ると、タレイアに遭遇する。

「マルシャちゃんじゃなぁい!」

「おまえは特等席で見るんだろ?こいつも連れて行ってくれないか?どうしても…俺を……時間がない。連れて行ってくれ。頼むな。」

「待ちなさいよぉ!…もぉ!……まぁいいかぁ。アレス様とカノンちゃんのライブ始まっちゃうしぃ、行きましょお♪」

「……ごめ……さい。でも、…カ、カノン…見たいの。」

「無理しないでよねん♪急がなくちゃあ♪」

会場側に急ぐ二人。
ざっと見万単位は軽く超えている客席は熱気が物凄いし、会場の外にもヒトの波が。
特別観覧席の方に回ると、わくわくしていたリオン陛下が居るのが見えたが、そっとしておいて、その下の観覧席に座るタレイア。
マルシャも負けずにわくわくが耐えない。
電気が消えて真っ暗になると一瞬にして静まり返り、バッとライトがステージ上に当たると、激しいリズムが鳴り響いて一斉に沸き上がる客席。
ギターを弾くダブル王子様が、犬猿の仲とは思えないほど笑顔をまいていた。

「素晴らしい!さすが私の息子!アルカディル、録画はしてあるだろうな?」

「ええ。陛下、他国の王や国民が見ておられますので、少し冷静に…。」

「うっ/////」

やっぱりカノンは凄い。
ギターも、歌声も、笑顔も、具合の悪さなんて忘れてしまう。
アレスも負けず劣らず同じようなものを持っている。
もしかしたら、彼は…彼が彼女の……。
ハードロックからバラード、様々な種類を歌ったアレスの曲の中に【A】というタイトルがあったが、あるヒトの為に書いた詩らしい。
それは本人だけが知るエピソード。

「あーん、目眩がしそぉwカノカノはやっぱり王子様なのよねぇ。王子様と一緒に毎日過ごしていたのよねぇw優越感ー♪」

「……。」

「具合悪いぃ?」

「……/////」

「あらあらぁwあの御方の近くに毎日居るくせにぃ、今更照れちゃうぅ?w」

見ていると、身体中が熱くなる。
空気中が震えていて、鳥肌が立つ。
今すぐにでもカノンに触れたい、その気持ちがヒト一倍強いマルシャは、車椅子を立ち上がり、無意識に一歩全身して左手を伸ばした。

気付いて、マルシャに。
いつだって気に掛けているよ。

カノンはギターの手を休め、右手を伸ばした。
声援がこれでもかと響き渡るが、2人だけの世界が見える。
そして今日はもう力尽きてしまったマルシャ。
タレイアに支えられ、気が付いたアルカディルが車椅子に乗せてくれた。
帰ろうと言っても、イヤだの一点張りだった。



無事にライブは終わる。



アンコールにカノンが居ないと思ったら、サングラス、マスクをした彼が特別観覧席に来てすぐマルシャにかけより、車椅子を押して裏口から出る。
余韻が残る黄色い声援を受けながら、急ぎホームへと戻ってソファーに寝かせた。

「無理に連れ出して悪かった。」

「……マルシャ、見に行…つもり…った…。……すごかっ…ですw」

「そうか。」

「……みんなに…笑ってた…カノ…、ちょっと、ヤだ…。」

「あんな作り笑いが好きなのか?オマエには、特別な笑顔を送ってるつもりなんだがな…w」

「……ひう/////」

優しく笑う。
確かに、ライブ中にこんな顔はしなかった。
嬉しくて、気絶しそうだ。
あれ?これは嬉しくてではなく、ただ単に具合が悪いだけ?
遠退く意識の向こうには温かい笑顔があって、見守られながら眠りについたマルシャだった。

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