死への恐怖 ヒト気に驚いて飛んでいったミニチュア形態のコタローは、春臣の家の扉を一生懸命引っ張り、中へと侵入した。 物音に反応したマルシャがゆっくりと目を開ける。 今は夜。 隣にはカノンが寝ている。 「…………コタロー?」 何も言わずに本に帰っていった。 眠いのかな? 声に気付いたカノンは目を開けて、マルシャの頬を優しく触る。 「大丈夫か?」 「…ここどこ?」 「日ノ本…。遺跡から出られたんだ。とんでもない事に巻き込まれたが。」 「ふーん。……ふあ〜あぅ。カノン、マルシャ…アリスとお話したよ。」 「アリス?」 「クレフィスの事だよう。アリス考えてくれたよ。けど…ボレアスが邪魔したの。アリスのこと助けたいよう。だって!…っ…う?」 シーっと口に指を当てる。 みんなが起きてしまうから。 カノンはマルシャを外へと連れ出した。 鈴の音に似た虫の声が聞こえたり、ホーホーと不気味な音が響いたり、風が草木を揺らす音がしたりと、涼しげな月夜だ。 少し歩こうかと提案。 「………オマエには、俺の身体の状態がわかるか?」 「……………少しだけ。」 「そうか。」 小刻みに震える指先は、まるで別人のものの様だ。 誰だって怖くなるさ。 「カノン……消えるは、恐い?」 「…どうだろうな。……………俺が死んだら、オマエはどうする?」 「……カノンは消えない。だいじょうぶ。マルシャがなんとかするの。だいじょぶだよ、カノン。」 大きな身体にぎゅっと抱き付く。 風が舞い上がった。 マルシャはいつだってカノンを追い求めて生きているんだよ。 「マルシャ…。」 【だいじょうぶ。】はおまじない。 カノンを助けるには力が足りなすぎる。 ロンモンドギニアスならば不治の病を治せるはずだ。 一刻も早く集めなければ、と星に誓った。 夜が明けるまで二人は外にいた。 早朝からヒトが出歩いている。 作物の収穫など、畑仕事をし始めた。 「あの、うちの野菜食べませんか?」 「うちのもどうぞ!w」 歩く度に収穫したての作物を貰う。 異国系のカノンはたちまち、日ノ本で話題になり、ファンが一気に増加。 手にはいっぱいの野菜を持って、帰宅した。 ニチカが朝食の準備をしていて、イイ香りで目を冷ましたみんなが囲炉裏という火をおこす場所を囲って床に座る。 テーブルの習慣がないらしい。 日ノ本のスローライフもなかなか楽しそうだ。 「ニチカー…マルシャこれやだ。」 「好き嫌い言わないの!」 「ぺっ!ぺっ!」 「きゃあ!マルシャちゃん汚いぃ!」 「だっはっはっはwこいつぁ賑やかだねい。」 「春臣師匠〜、グランゲールからいつも狙われてるの〜?」 「今は脅しの手紙が来るだけだが、いつ攻めてくるかはわからねぇなぁ。近々なこたぁ確かだ。」 「じゃあ〜…俺とアサトはステルメークに帰るよ〜。依頼を残してきてるしね〜。陛下に報告もしなきやいけないしね〜。ニチカに殿下の護衛を任せた〜。」 やることは多いんだ。 朝食を済ませたらすぐに旅立っていく。 ニチカには事前に伝えていた様で、寂しそうな表情だったが怒ってはいなかった。 こっちはこっちのやることをやらなければならない。 「ふあ〜あ。マルシャお散歩する。」 「アタシもぉw一緒に行きましょおw」 「……黙ってここに居るのは退屈だ。何かないのか?」 「俺の仕事、手伝うか?お嬢もついてこいw」 「お嬢じゃないですってば。俺、男です。」 春臣についていく。 村を出て、森に入った。 森の魔物を倒すのが仕事で、身体のなまっていそうなカノンには持ってこいだ。 「…そういえば、俺の剣はどこだ?」 「え?シアさんの銃しか落ちてなかったし。」 「そんな強ぇ敵はいねぇからなんとかなるだろ。」 素手で戦うことは滅多にない。 それぞれ3方向に分かれて魔物を探す。 そうこうしていると、植物系の魔物が現れた。 「…やるしかないか。」 雑魚相手に黙って殺られる訳にはいかないから、疲れる覚悟で力を使う。 集中力を研ぎ澄ませ、一気に方をつけた。 一回光の力を使うと、疲労感が蓄積されていく。 だからこそ集中、集中。 久々に汗をかいて、久々に集中をして、なんだか清々しい気持ちになれた。 「ま、こんぐらいでいいだろう。腹減ってきたなぁ。飯でも食いにいくぞ!」 「タオルどうぞ。…はい、カノンさんも…/////」 「?…あぁ。」 輝いて見える彼の首筋が、異常に美しくて思わず目を背けてしまう。 タレイア、マルシャと合流して食事処に向かい、ご飯に焼いた魚を乗せお茶をかける、お茶漬けというものを初めて食べる。 皆の味覚にはリゾットが染み付いているから、違和感があったが、マルシャはスプーンからこぼしながら一生懸命食べていた。 「おいちーいw」 「あーもー、暴れないで食べなよ。テーブル汚さないの!」 「マルシャ、ここ乗れ。……ほら、口開けろ。」 「あーん…んんーwもっひもひしゅうーw(もっちもちするーw)」 これはお団子。 カノンの膝に乗って1つ目を頬張り、2つ目も頬張り、3つ目も頬張った。 彼のゆびについた甘い密までもペロペロと舐める。 「もっと旨いもん舐めさせてやろうか?」 「舐めるー!」 「後でな。」 「カノンちゃんがシモいわぁ…。溜まってるのねぇ。男の子って面倒ぉー。」 「がっはっはw昼から畑仕事の手伝いすっからよ。いっぱい飯食っとけ。」 これが日ノ本の基本的な1日。 日は登り、沈む。 今は何度目の朝だろうか、ゆっくりな時間を過ごしていた。 【前n】/【章n】/【次n】 |