戦線 今日は久々にみんなで登校した。 車椅子に乗っているのと脇に抱えられているのも一緒だ。 クラス中の視線が刺さる。 「マルシャ、具合悪くなったらすぐに言って。一式持ってきたからさ。」 「はぁーい。」 「あれ〜?エルザが居る〜。」 知らん顔された。 チャイムが鳴ったが先生がなかなか来ない。 だが、生徒は気には止めなかった。 自由にしていたが、教室のドアが開いた瞬間、生徒は凍り付いて静かに席につく。 学園長のアルカディルがやって来たのだ。 「皆さん、おはようございます。今日は実戦に出て頂きます。準備が出来次第、校庭に集まるように。ファノルアカシックには少しお話があります。」 ファノルアカシックは残り、他多数は文句を言いながら出て行った。 ホワイトボードに何やら書き始めたアルカディル。 地図のようなものと作戦らしき文章だ。 カノンは聞いた。 「統合?」 「えぇ。この度、崩壊したアストレイランドに身を置くギルドや民を、ステルメークの住民として受け入れる事になりました。」 「で、大移動に人手が足りねーって訳か。でもこの図…街ごと動かす気なんか?」 「そうです。調べた所、アストレイランドもステルメークの様に船団型になっているのがわかりました。それは軍でニチカの協力のもと、操作します。貴方がたにはエミルの護衛をして頂きます。」 シアとマルシャは足手まといとなるため、軍のバジリスクにて待機となる。 旧アストレイランドまでは一緒に行った。 途中で停止し、兵士や生徒が下ろされ、船団をつなぎ止めてある鎖の警備等を始めた。 街の中に入ったカノン達はギルド拠点に向かう。 エミルは覚えてくれているだろうか。 「カノン殿下!お久しぶりでございます。」 「ウルタス、元気そうだな。俺達はエミルの護衛を頼まれて来た。」 「話は聞いております。どうぞ、中へ。」 「ワタシとアサトは外を見張ってるわぁ。」 あの子が来る。 紅い気配を誰よりも早く察知した。 「【あの子】…来るわよぉ。」 「あの子ってどの子?」 「シー様達を襲った子ぉ。ワタシ達じゃあ多分足止めくらいにしかなれないけどねぇ。」 紅が来た。 同時に遠くで、バジリスクの緊急サイレンが聞こえる。 一気に緊迫した空気になった。 「何弱気になってんだよ。いくぜ、タレイア!」 「援護しまぁす♪」 「邪魔をするな。我が主の為…大人しく死ぬがいい。」 そう。 それは強大な力だった。 紅い子は風の炎を纏い、クナイは熔かされ届かない。 魔法もその風によって無効とされる。 上空から降り注ぐ火の矢が襲い掛かった。 アサトはタレイアを抱き抱えてかわすも、腕を負傷。 「ワタシはいいから!攻撃に集中しなさいよぉ!」 「わーってるよ!」 「しぶとい。褒美に、建物ごと燃やし尽くしてやろう。」 紅い子は手を前に出して広げた。 複雑な魔法陣が一気に組み立てあがり、巨大な灼熱の渦が巻き起こる。 タレイアは杖をクルクルと回して魔法で対抗するも、炎は一気にギルド拠点をも飲み込んでしまう。 火の海になった。 「脆い……。…!!」 後ろを向こうと動くと、手足首に糸のようなものが絡まっている。 その糸は目の前に倒れているアサトが仕掛けたもの。 致命的負傷を受けて倒れる彼の手に、しっかりと握っていた。 「へ…へへw自分の攻撃で、前見えなくなるなんて…アホだな。」 「…消・え・てんw」 タレイアの炎の魔法が糸を伝って紅い子が燃え上がる。 悲惨な悲鳴が聞こえた。 焼き尽くされる声は、いつの間にか高かな笑いへと代わり、糸がブチッと切れる。 「脆い、脆いわw灰になるのは貴様等だ!」 禍禍しい風が集まり身体を包んだ。 それに炎が移り、螺旋を描く龍が如く巻き付く。 合図と共に紅き炎を纏いし風の龍が襲い掛かろうとしたが、アサトは僅かな力を振り絞って、タレイアを抱き護る。 「タレイアを…死なせはしねぇ!」 死ぬ間際は、時間がゆっくりだ。 沢山想いを伝えられる気がしたのだが、言葉にはできなくて、ただただ強く抱きしめた。 そして縋り付いた。 不思議と優しい笑みが浮かぶ。 でも、あの子は許さなかった。 「消えないよ。」 マルシャだ。 コタローに乗ったマルシャは飛び降りて炎の渦に立ち向かう。 光の壁を目の前に創り、そのシールドが炎の軌道を変えた。 高く高く昇天する。 シールドは目眩しとなってその間に紅い子は鎌で襲い掛かっていた。 「マルシャ…死ねぇ!!」 「残念だったな。」 鉄の弾く音が響く。 弾き飛ぶ紅い子と鎌。 ステルメーク軍と殿下が駆け付けた。 「ノエル!二人を保護し、至急軍を撤退させろ!」 「了解しました!二人共、こちらに!」 「貴様等…許さない……許さない!許さない!アストレイランドごと潰してやる。」 「カノン気を付けて!来るよ!」 鉄の音が弾き合う。 マルシャは応援を一生懸命し、危なかしい場面では目を閉じ、戦いを観戦していた。 「オマエ!…戦え馬鹿!」 「だって…怖い!」 「よそ見とは、いい度胸だw」 「ぐっ…!」 炎の球に飛ばされる。 魔法の傷は厄介だ。 腹をえぐるような痛みを受けて、口から血を吐いた。 「カノン!」 「これで……終わりだ。」 この世界を流れる風をすべて身体に集めはじめた。 辺りは黒煙に包まれる。 アストレイランドをも飲み込み、強い風はステルメーク、スタークエイクにまで到達していた。 「……マルシャ、逃げ…ろ。」 「カノンも!逃げようよ!」 「駄目だ。…ステルメークを守る…義務が。」 「カノンだめ!あの力に、ヒトが手を出しちゃいけないよ!」 「うるさい!」 カノンは剣を握り直し、邪悪に立ち向かった。 弱い光だが確実に闇を捕らえた。 心臓を貫き、地に倒れていく子。 「く…く…っくくw…あははははっ!そんなもので我が倒れるとでも?」 暗黒の蔦に絡まるカノン。 先が腕に刺さる。 「…ねぇ。キミはどうしてマルシャ達、傷付ける?」 「主が為、殺す。」 「じゃあ…マルシャも主様の為に……キミを殺しても…いいです?カノン様はマルシャの特別。それを傷付けたキミを、許さない。」 「残念だが、手遅れのようだ。はぁっ!」 邪悪な風はアストレイランドの瓦礫を空に飛ばしていく。 嵐は今まで青空だった天空をも飲み込み、大荒れになった。 地面に堕ちたカノンを抱いて目を瞑るマルシャ。 彼の頬は冷たい。 息もしていない。 マルシャは泣いた。 流した涙は、虹になる。 一滴が、奇跡を起こし、二人は虹色の光に包まれた。 それはとてもとても小さな光だったけど、闇をものともせず、とても眩しい。 二人きりの世界、そう見えた。 「カノン、カノン起きて。」 「…………マルシャ?」 「ごめんなさい。街…壊れた。」 「…大丈夫だ。住人はノエルが避難させただろうし。でももう直…滅ぶんだろうな。」 「まだ。」 「…は?」 「まだだよ。まだみんな諦めてない。ニチカもぴょん吉もアサトもタレイアも…どうにかしようとしてる。カノン…諦めるの?」 「…俺は、無力だ。どう足掻いても…奴を止めることはできない。」 【前n】/【章n】/【次n】 |