人生サーカス 歩いては行かない。 ヘソクリで荷馬車に乗った。 マルシャはシアの匂いを嗅ぎ回ると、やっぱり無差別に手首の匂いが好きらしい。 2人とも香水を付けていたからだ。 手袋の上からクンクンと鼻を鳴らす。 「香水好き〜?」 「………。」 「話せるでしょ〜?」 「……いい匂い。“この時代”のキミも鋭いね。」 「その話、詳しく聞きたいな〜。それよりエルネキア族とマルシャの関係が知りたいかも〜。」 「一瞬だったから記憶が薄いのです。マルシャはエルネキア族の里からグランゲールに落っこちた。」 その時の衝撃でシステムエラーが起きて記憶がふっ飛ぶ。 何度もエラーを繰り返し、いつかステルメークの博士に脳機移植(ブレイントランスポート)をされてデータの組み換えをした時、記憶の制御が壊れて解除された。 それがあの光。 最近言語障害を患ったのは、消し去ったはずのストレスが、より敏感に感じられるようになったのが原因だった。 「なるほどなるほど〜。…マルシャに兄弟は居る〜?」 「…きよだい?」 「兄弟。実はね〜、研究所にエルネキア族の学者が来ててね〜。実験を兼ねてステルメークに協力してくれてるんだけど〜、マルシャを連れて来いってうるさくて〜w」 「……何なの?」 「マルシャにもアネモイの教会を黙らせる為に協力して欲しいんだ〜。その力で…ねw」 「!!」 危険な匂いを察知した。 こんな時に限って、制御不能な動物的感情が抑えきれなくなる。 荷馬車は加速した。 「もっと飛ばさないと逃げられるよ〜wアサト。」 「わーってらぁ!」 運転手だと思っていた男は実はアサトで、荷馬車だと思っていたこれは見立てた龍車だった。 つまりマルシャは騙されたのだ。 シアは香水をちらつかせる。 匂いに当てられて、別人格が引き出され、瓶にじゃれた。 「うー…。」 「あははw可愛いな〜w」 「カノンに知られたら、ぶっ殺されんぞ。」 「マルシャを盾にすれば何とかなるさ〜。」 「盾って…最悪、マルシャが死んじまうかも知んねーんだぜ?」 「“死ぬ”は間違い。“生まれ変わる”だよ〜。」 「何じゃそりゃ。訳わからん。」 シアにだって説明し難い。 この世界には摩訶不思議な事が山ほど存在していて、気付いた者は悩み、気付かない者はそのまま生涯を終える。 どちらが幸せなのかは、わからないが、繊細な生き物にとって、知る事は人生の迷宮へと堕ちるだろう。 【前n】/【章n】/【次n】 |