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通じなくって
「…どうした?」

「……。」

「黙っていたらわからない。」

困惑していると、大粒の涙がポロポロ落ちた。
黙りたいのではない。
力の入らない手で、必死にカノンの腕を掴み、まずは涙を堪えた。

「…っ。」

「今日のオマエ、変だ。今朝から一言も……!オマエ…声、出ないのか?!」

大きく頷く。
気付いて貰えた。

「何で早く教えなかった!病院、行くぞ。」

「  !」

「来い!」

嫌だから爪を立てた。
それでもなかなか離さないから、剣を創り威嚇する。

「………シアとニチカに看てもらうか…。」

「……。」

「ん…?嫌なのか?」

「……。」

「わからん…。オマエ、字は…書けないか。………わかった。返事がイエスなら右手を上げろ。いいな?」

右手を大きく上げた。
イエスかノーで答えるしかないと言うことは、質問する方が仕向けなければならない。
大変な苦労になると思う。
でもカノンは嫌な顔一つ見せなかった。

「  。」

「ん?」

「      。」

「そんな顔するな。きっとどうにかなるから。」

もしもだ。
このまま治らないと知っていても、今の言葉で希望を持てたに違いない。
絶対治る、そんな気持ちが溢れた。
声を失った生活は、意外と楽しいかもしれない。
歌を歌っても音が出ないから、下手だとか言われなくて、スッキリした気持ちになる。
慣れは怖い。
3日目4日目には普通になっていた。

「マルシャ、弁当届けに行くんだけど、一緒に行く?」

「あー!ワタシもワタシもw」

右手を高く上げた。
何でも屋化しているファノルアカシックは今、アサト・シア・カノンの3人が民家の屋根を修理しに行っている。
マルシャはニチカの服を引っ張って気付かせ、弁当を指差した。

「食べたい…とか?」

首を横に振る。
口パクと仕草を合わせて話す。

「わかったぁwカノンちゃんに渡したいのよねん?」

「  w」

カノンの分を受け取った。
実は、ニチカの解釈が大当たりで、こっそりボックスを開けて、つまみ食いをしようとする。
みんな言いたいことを理解してくれた。
なのに、あんな事を言ってくれたカノンが一番わかってない。
基本無口な彼とふたりきりになると会話が消える。
ランチボックスを渡すのも、わざと食べかけのサンドイッチを入れたのも、花を咲かせる作戦の内だった。

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