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レシピの定番
マンションから一番近い公園。
青年が一人、無心でひたすら剣を振っていた。
カノンが、自分の求める強さを得るが故に。
メアエリスはそんなカノンをこっそり追い掛けて見守っていた。
ベンチに座って話し掛けたが、返事を返して貰えなく、そもそも気付いているかすらわからない。
椅子に足を乗せたり、横になったり、落ち着きなく待っていたら、彼はようやく剣を下ろして鞘に綴じた。

「………ん?居たのか。」

「おはよー、カノン。あのね、海璽がおべんと作ってくれたの。ボールだよ。」

「ボール?」

「ほら、ご飯のボール。」

俗に言うおにぎり。
日ノ本の朝食は大抵おにぎりらしい。
カノンはどちらかと言えばパン派だが、朝食は取らない主義。

「俺のも食っていいよ。」

「いいの?」

「あぁ。」

「えへwいただきまーす。」

それを幸せそうに二つ頬張る。
メアエリスは嬉しそうだった。
こんなに単純な彼を、自分自身で喜ばせる事さえできない。

「………。」

「どしたの?…おにぎり食べたいの?美味しいよ?」

少しからかってやろうと思った。
カノンは隣に座って、手を伸ばす。

「それより、俺を食いたいと思わないのか?おにぎりなんかよりずっと……「おーw」

ガブッ!
本気で指に噛り付いた。
ジンジンと痛く、動かすほど痛くて動けない。

「口…開けろ!」

「?……カノンしょっぱい。」

「痛い…。何考えてんだ……。」

「カノンは食べられるヒトだと思ったの…。」

「意味が違うんだよ…。食べられるのはオマエの方。」

「僕…?……痛っ!」

今度は自分の指を噛じってる。正真正銘のアホだと思った。

「真に受けるなって。……よく【男娼】が務まったな。」

「なぁにソレ?」

メアエリスは指先に付いたコメ粒を、疚しい角度で咥わえた。
もちろん仕草については無意識だ。
彼はなすがままだから向いているのかも。
そこで疑問が浮かび上がるのだが。

「何故俺には懐いてくれない…。」

「懐くって?おにぎり?」

「食い物にしか興味持たないのか?」

「そんなことないもん。カノンにも興味あるよ。」

「…オマエ/////とんでもない告白だな。」

「そんな…/////」

「………。」

「………。」

新鮮な空気。
彼はともかく、カノンまで。
今日は降るはずのない雪が降るのではないか。

「……帰るか。」

「うん…。」

嬉しくて。
恋しくて。
それがたまに切なくて。

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あきゅろす。
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